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6/4 ファイトレメディエーション(Phytoremediation)って何?Csをなくせるの?

 
先週の5/28、福島県飯舘村では農地土壌除染技術開発の第一回会合が行われました。鹿野農水大臣も出席し、会合の後にヒマワリなどの種をまくというパフォーマンスも行いました。

河北新報のサイトより
http://www.kahoku.co.jp/news/2011/05/20110529t63013.htm

これは何のために行っているかというと、福島第一原発事故で広範囲に土壌が放射能で汚染されたため、汚染された土壌から特に半減期が長くて問題となるセシウム(Cs-137)を除去することができるかどうかの実験として行ったものです。8月までに一定の結論を出すそうです。

農水省のサイトの説明
http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/110527_1.htm

そこで植えられたのはヒマワリとアマランサスという植物でした。なぜヒマワリなのか?他にも菜種(アブラナ)がいいというウワサもきいたことがあるでしょう。でも、その根拠はどこに?どれだけ確かなの?ということを疑問に持つ方も多いと思います。

この「土壌放射能と植物」シリーズでは、そのウワサの真相を解説するとともに、その元になっている考え方全体についても説明していきたいと思います。さらに、土壌中の放射性物質の植物への移行という観点で農水省が同じく先週の5/27に発表した移行係数の話についても説明します。そして、現時点でわかっている情報を私なりの解釈を加えてまとめてお伝えしたいと思います。

今回はその第一回目です。

1.このシリーズの位置づけ

まず、今回の「土壌放射能と植物」シリーズの位置づけを説明しておきます。

6/2 まとめ6:このブログの全体像の整理と今後の構想について」でも若干説明しましたが、これまではいろいろな内部被ばくの要因になりうるものの実態について追いかけてきました。ほうれん草、水道水、魚介類、最近ではお茶です。そして実際にその結果として起こった内部被ばくとして、母乳の汚染の問題も取り上げて考えてきました。

これからもいろいろな情報が出てくると思いますので、それはそれでチェックしていくとして、いつまでも新しい汚染のニュースを追いかけて、「どうしよう」と気に病んでいても仕方ありません。これからの日本で生活していくのであれば、私たちが食べるものの中にある程度の放射能汚染があることは織り込んで暮らしていかないといけないのです。もちろん、食物からの内部被ばくを避けられるならば避けるに越したことははありませんが、知らない間に放射性物質は私たちが食べる食べ物の中に入ってきている可能性もあります。

内部被ばくで何が怖いかというと、なんといっても将来的な発ガンです。しかし、ガンについては最近特に研究が進んできていて、新たな治療薬もできてきていますし、何よりもガン発生のメカニズムがわかってきたことにより、発ガンを防ぐための方法も少しずつわかってきつつあります。その中でも、生活習慣、特に食生活が発ガン予防のために重要であることは一般的にいわれています
ガン予防の12か条
http://www.fpcr.or.jp/pdf/12kajou.pdf

幸いなことに、仮に多くの内部被ばくをしてしまっても、いきなりガンになるわけではなく、10年とか20年という期間があります。それまでの間に、できるだけガンにならないような工夫をしていくこともする時間的な余裕はあると私は考えています。特にキーポイントになるのは野菜の摂取です。先にあげた12か条でも『野菜・果物を1日400g(たとえば野菜を小鉢で5皿、果物1皿くらい)はとりましょう。』というのがあります。ところが今回は、この野菜が放射性物質で汚染されている可能性があります。そのあたりをどう考えていけばいいのかについても私なりの考えで解説したいと思います。その中で、やはり内部被ばくは何mSvまで大丈夫か、という話題は避けて通るわけにはいきませんので、これについても私なりにまとめようと思っています。

そのためには、どの野菜にはどれくらい土壌から放射性物質が移行する可能性があるのか、といった情報も確認しておく必要があります。従って、今回の「土壌放射能と植物」シリーズは、私が今後のキーワードとして挙げようと現時点で考えている「将来的な発ガン予防」のスタート地点であるというように理解していただければと思います。ちょっと遠大な構想ですが、時間をかけながら書いていきたいと思います。その合間には、日々の放射性物質の検出の話題など、今までの速報的な話も交えて行く予定です。また、今後の原発事故の展開によっては、全体構想も途中で変更になるかもしれません。その点はご了承ください。


2.ファイトレメディエーションとは

それでは、今回のタイトルでもある、ファイトレメディエーション(Phytoremediation)について説明しておきます。ファイト(Phyto)というのは、「植物」を意味するギリシャ語で、それに治療とか修復という意味を持つremediationというラテン語(remedium)由来の言葉を結びつけた言葉です。簡単にいうと、植物が根から水分や養分を吸収する能力を利用して、土壌などから有害な物質を取り除く方法のことです。

一方で、微生物を用いて同様に有害物質を除去しようという考え方もあり、それはバイオレメディエーション(Bioremediation)と呼ばれています。このシリーズの中で、こちらについても少し触れてみたいと思います。

ファイトレメディエーションといっても、実はその中にもいろいろな分類があるのですが、それを細かく説明してもみなさんあまり興味がないでしょうから省略します。この技術は、欧米では一部実用化されていますが、まだ研究段階にある技術という位置づけと思っていただいた方がよさそうです。ただ、環境問題が注目されていることもあり、期待されている技術の一つでもあります。

一例を挙げれば、1960年代に富山県神通川でイタイイタイ病というカドミウム(Cd)で引き起こされる公害がありましたよね。あの後、Cdで汚染された土壌の浄化というのが大きな課題になりました。現在は、汚染土壌の浄化方法として掘削搬出・洗浄除去などの物理化学的方法が多く用いられています。しかしながら、コストの問題などいくつも課題があり、植物を用いたファイトレメディエーションに期待が寄せられています。

ちょうど今の原発事故処理問題でいうと、放射性セシウムで汚染された校庭の土をどう処理するか?という問題にあたると思います。表土を削るとか、50cmくらいの深さの土と入れ替えるとかいった方法を採ろうとしていますよね。それ以外の方法として、もし実用価値があるならばファイトレメディエーションを用いようというのが今回の農水省の試みです。

さきほど省略した、ファイトレメディエーションの分類について日本語でわかりやすく説明した資料をご紹介します。興味のある方はぜひ読んでみてください。実はこの資料にはこの後の話のヒントも入っていますので、読まなくてもちらっと見てもらった方がいいと思います。

寒地土木研究所(札幌市)のサイト(pdf)
http://www.ceri.go.jp/contents/news/images/geppouNo646_2007.3_p42-44_re20110323-2.pdf


3.ヒマワリ説の出所は?

上のリンク先資料を見ていただければわかるように、この資料はこの原発事故の後かなり引用されたようです。そして、その引用のされ方が妙な誤解を生んだようで、そのために文章を修正し、今では修正版が掲載されています。
お詫びと修正の記事が寒地土木研究所のサイトにも出ています。
http://www.ceri.go.jp/contents/news/20110322.html

現在の内容(上のリンク参照)
『・・・放射性物質を吸収する能力も研究されている例があり、それによるヒマワリの根を用いた水耕栽培試験によりセシウム、ストロンチウムを蓄積することが判明した内容である』

ところが、以前の修正前の内容では、
『・・・放射性物質を吸収する能力も研究されており、チェルノブイリ原子力発電所爆発事故の検討例は注目されている。成果の概要はヒマワリがセシウム137を根に、ストロンチウム90を花に蓄積することが判明し、危険性が失われるまで30年以上かかる放射性物質を20日間で95%以上も除去できる能力を有する結果が得られている 』と書いてあったそうです。

参考にしたブログ
http://hikaritokage.ti-da.net/e3294442.html

おそらく、放射性物質を「除去できる」という表現が、95%以上という成績と合わさってとんでもない誤解を生んでいったものだと思われます。

基本的な物理化学の知識をしっかりと持っている人は、放射性物質を除去するといっても、土壌中から除去するだけで、植物の根や茎、葉に吸収するだけ(土壌から植物に移動するだけ)だということは常識としてわかります。ですが、これがブログやtwitterなどで転載されていくうちに一人歩きして、いつの間にか放射性セシウムを「消滅させてしまう」あるいは別の物質に「変換してしまう」という意味にとられていったものと予想できます

そうすると、「ヒマワリがセシウムを95%も消滅させた実験がある」ようなツイートが生まれるのでしょう。今回参照したブログは4月下旬のもので、おそらくそれ以前に出回っていたようですので、1-2ヶ月前からこの文献が間違って理解されて引用されるケースがあったものと予想できます。


実はこの資料以外にもヒマワリ説の根拠はありました。大元の出所は同じなのですが、それを紹介したのは日本テレビ系の「特命リサーチ200X」というTV番組です。この番組を見て「1995年に米ラトガーズ大学のスラビック・デュシェンコフ博士ら旧ソ連出身の植物学者達が、チェルノブイリ原発から1キロ離れた池で20種類の植物を栽培し、ヒマワリがセシウム137を根に、ストロンチウム90を花に蓄積することをつきとめた、という研究報告がある」という説がネットで話題になり、その根拠を日本語の資料で探したところ、上記の寒地土木研究所の報告に行き着いた、というのが真相なのだと思います。これは3月下旬から4月下旬にかけての一月くらいの間にあった話のようです。

参考にしたブログ
http://slashdot.jp/~masakun/journal/527624

では、この大元の記事の信憑性はどこまであるのか?ということが次の疑問となってきます。それについては、次の記事で紹介したいと思います。

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3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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