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7/7 ドイツの大腸菌による食中毒はエジプトのマメ科植物の種が原因?(1)

 
7/5、ヨーロッパ(EU)の欧州食品安全庁(EFSA)(注:リンク先は英語です)は、ドイツやフランスなどで感染が拡大している腸管出血性大腸菌「O104」の感染源について、エジプト産の「コロハ(フェヌグリーク)」というマメ科植物の種子の可能性が最も高いとの見解をまとめました。これを受け、執行機関である欧州委員会は同種子を回収・処分するとともに、エジプト産の種子、果物、胞子の輸入を一時的に(10月まで)禁止すると発表しました。

しかし、エジプトの輸出した企業は、「輸出先はドイツやフランスではなくオランダ」と説明しているらしいですし、イギリスやドイツでそのエジプトからの種を検査しても菌を検出できなかったという報告があるそうです。

従って、エジプトから輸入した種子が原因であるとまだ確定できたわけではなく、場合によってはエジプトとEUの間の政治問題に発展するかもしれません。

日本でも、原発事故に紛れてそれほど長い間追求されずに済みましたが、「焼肉酒家えびす」においてユッケという牛の生肉を提供したことにより、4月に腸管出血性大腸菌のO117による食中毒で4人が死亡し、17人が入院するという事件があったばかりです。これに関しても厚労省が昨日(7/6)、生食用牛レバーは生で食べないように都道府県などに通知しました。

腸管出血性大腸菌といえば、以前から「O157」が有名でしたが、ここに来て急にO117だのO104だのが出てきていったい何?という方も多いでしょう。今のところ、O104は日本には上陸していないようですが、O157は例年どこかで発生しますので、何回かに分けて大腸菌による食中毒の話を取り上げようと思います。

今後は、原発事故以外の話も少しずつ取り上げていこうと思います。スタンスは今までと変わりません。題材についてリクエストがあればコメントなどにお願いします。私の守備範囲ならば取り上げてみたいと思います。

これまで腸管出血性大腸菌といえばO157しか聞いたことがない人がほとんどでしょう。私もそれ以外の数字はあまり聞いたことがありませんでした。

O157の食中毒はかなり有名なのでご存じの方も多いと思います。厚労省の統計(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/jokyo/xls/o157.xls:Excelがダウンロードされます)によると、毎年20件近くのO157による食中毒が起き、数百人が被害にあっています。幸いなことに8年前から死者は出ていません。これは、O157に対する啓蒙活動が進んだからだと思われます。

基本的には腸管出血性大腸菌は 75℃で1分間以上の加熱で死滅するので、肉を調理する時には中心部まで加熱するということが対策として徹底されてきたからでしょう。みなさんもご注意下さい。

(1) O157ってどうしてこんな名前なの?

さて、O157の「O(オー)」って何?というところから始めましょう。ゼロ157ではありません。厚労省のHPにはO157についてQ&Aがありますので、それを読んでいただければいいのですが、もう少し補足しながら説明します。

O157の「O」はO抗原のことです。O抗原といってもわからないでしょうけど、これは細胞壁にあるLPSという多糖類(お砂糖の仲間)のことです。157は1番から順に番号をつけていったため、O抗原として157番目に発見されたのでO157になったということです。ついでにいうと、鞭毛(べんもう)由来のH抗原というものもあり、大腸菌で重篤な症状を引き起こすものは、O157:H7というタイプのものが多いです。鞭毛って何?と思うでしょうから、三重県の保健事務所のHPにあった大腸菌の写真を引用します。下の方にある俵みたいなのが大腸菌です。そして、そこから出ている長い毛が鞭毛です。

7/7鞭毛の図

O抗原とH抗原の由来については興味のある方はこちらを見て(ちょっと専門的です)ください。

まあ、言ってみれば、インフルエンザウイルスの型を表すのに、H1N1だのH5N1だのとニュースでいっているのと全く同じ事です。記号と数字で分類しているだけです。

なんでそんな分類をするのでしょうか?

「大腸菌」という名前からわかるように、私たちの腸には大腸菌を始め、いろいろな菌がいます(乳酸菌とかビフィズス菌とか名前を聞いたことがあるでしょう)。自分の大腸に菌がいない人などいないのです。

そして、大腸菌といってもたくさんの種類があり、実は病原性のないものが多いのです(大腸菌の中でも特に病原性もなく安全な株の一部は、今は遺伝子工学の道具に欠かせなくなっています)。しかし、病原性のある大腸菌は、しっかりと把握しておく必要があります。食中毒が起こった時に、複数の被害者から菌を分離できたとして、それが同じ種類なのか、違う種類なのかを分類・同定できないと困るからです。

今ではPCRなどを用いて簡単に遺伝子解析ができるため、このような分類方法はなくてもいいのですが、昔は遺伝子を解析することなどできませんでした。そのために、大腸菌のもっている抗原(タンパク質や多糖類)の種類によって分類するという手法が使われました。

抗原抗体反応というものを聞いたことがあると思います。人間や動物の体内には、病原体に対抗する手段として抗体を作り出す能力があります。抗原と抗体はカギとカギ穴のような関係で、その抗原にぴったり合ったものでないと効果がありません。

初めてその病原体に感染した時には体内には抗体は存在しないのですが、人間の体内には原理的にはあらゆる抗原に対する抗体を作る能力があります。そして病原体が増えている間にその病原体がもっている抗原に対する抗体を作れるようになり、記憶しておきます。すると、同じ病原体が二度目に感染した際には、その抗体によってその病原体を排除できるというものです。この抗体を作る免疫細胞をB細胞というのですが、ここではこれ以上は触れません。

人や動物の血液、特にその中でも血清と呼ばれる部分には抗体が含まれていますので、昔は血清(抗体を含む)と病原体を混ぜると抗原抗体反応で凝集が起こるかどうか、ということで病原体の抗原タイプを比較していました。大腸菌A株に対する抗体を含む血清とA株を混ぜると抗原抗体反応で凝集します。同じ血清と大腸菌B株を混ぜても抗原抗体反応が起こるならば、B株はA株と血清学的には同じタイプに分類できるということです。

そうやって分類していった中で、実はその血清は何に対する抗体かということを調べて、細胞壁にあるO抗原と呼ばれる抗原(LPSと呼ばれる多糖類)のタイプで病原性のあるなしをチェックできるということが長い研究の中でわかってきたのです。そして、O157以外にも、O26、O111、O128およびO145といった腸管出血性大腸菌が日本では知られています。

(わかりやすく説明するため、若干不正確な表現になっている部分もありますがご了承下さい。)

(2) O157の食中毒予防策

これは、厚労省のHP食品安全委員会のHPにもありますが、統計的にみて夏になると食中毒が増えてくるので、ポイントを掲載しておきます。特に75℃、1分以上の加熱というのがポイントのようです。

O157に限ったことではないのですが、食中毒予防の三原則は、食中毒菌を「付けない、増やさない、殺す」です。

「6つのポイント」はこの三原則から成っています。

ポイント 1 食品の購入:新鮮なもの、消費期限を確認して購入するなど
ポイント 2 家庭での保存:持ち帰ったらすぐに冷凍庫や冷蔵庫に保存するなど
ポイント 3 下準備:手を洗う、きれいな調理器具を使うなど
ポイント 4 調理:手を洗う、充分に加熱する(75℃、1分以上)など
ポイント 5 食事:手を洗う、室温に長く放置しないなど
ポイント 6 残った食品:きれいな器具容器で保存する、再加熱するなど


「付けない」はポイント1、3、4、5、6
「増やさない」はポイント2、5、6
「殺す」はポイント4、6
に該当すると思います。

大腸菌は、20℃以上ならば約15分~20分に1回分裂して2倍に増えます。20分として1時間で3回分裂しますので、2×2×2=8倍になります。3時間では8×8×8=512倍です。朝から夕方まで(9時間)室温に出しっぱなしにすると、なんと約1億3400倍にもなります。室温で長時間放置しておくことの危険性がおわかりいただけるかと思います


ちなみに、日本で問題となった「焼肉酒家えびす」のユッケでは、ポイント3が結果的に守られなかったようです。「えびす」に肉を納入した東京の業者が、生食用と知りながら、加熱用の肉と同じ作業場で加工し、まな板や包丁を使い回していたということなのです。生食なので、加熱はしません。ですから、それまでの過程で菌が混入しないように注意することが必要だったのですが、それを守らなかった業者はいったいどういう感覚なのでしょうか?

タイトルに使ったドイツのO104による食中毒は、もう少し情報を収集してから続編として書きたいと思います。また、もし皆さんからのコメントがあればそれに対しても補足しようと思います。twitterでご連絡いただいてもかまいません。感想でもなんでもお待ちしています。

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3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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