7/23 今年の米の放射性セシウムによる汚染具合を予想する!後編
お待たせしました。「7/20 今年の米の放射性セシウムによる汚染具合を予想する!前編」の続きです。
ここでは、今年の小麦のデータを使って小麦の移行係数を算出し、これまでの小麦とコメのデータを解析することから今年の小麦のデータを参考にして今年のコメのデータを予想できるのではないか?という考え方をとっています。前編では、小麦の移行係数を出して、過去40年間のデータの解析をした日本語の文献を詳細に解析しました。
後編では、いよいよ今年のコメのデータを予想するのですが、その前に再度農水省から4月に出された稲の移行係数が0.1ということについておさらいするところから始めたいと思います。
(1)稲の移行係数はどうして0.1と定めたのか?
まず、稲の移行係数がどうして0.1に決められたのか?ということです。これについては、残念ながらどのように決めたのかの概略だけは農水省のHPにあるのですが、詳細については公開されていません。その当時はあまり気にしていなかったのですが、このデータベースが公開されていて、比較的簡単に使えることがわかったので、それも利用しながら再度米の移行係数について考えてみました。また、核実験時代やチェルノブイリの時の米や麦の汚染データの長期的なまとめの日本語の論文も再度読み直してみました。
まず、農水省のHP(4/8)を読み直してみます。
『1.使用データの選択
独立行政法人農業環境技術研究所が、1959年から2001年まで、全国17ヶ所の水田の土壌及び収穫された米の放射性セシウムを分析した結果(計564データポイント)を用いた。
2.データの解析
(1) 土壌の種類によって放射性セシウムの米への移行に差がないことを確認
(2) 玄米を日常的に摂食する者のことを考え、玄米中の放射性セシウムを土壌中のものと比較。各データポイントにおける玄米中及び土壌中の放射性セシウム量の比(移行係数)を算出。
(3) 算出した移行係数の分布をモデル化
(4) 消費者に安全な米を供給する観点から、同モデルを用いて、水田の土壌から玄米への放射性セシウムの移行の指標案を決定
(5) 指標案について、外部の専門家の意見を聴取
独立行政法人放射線医学総合研究所特別上席研究員 内田滋夫氏
学習院大学理学部化学科教授 村松康行氏
財団法人環境科学技術研究所 環境動態研究部長 久松俊一氏
独立行政法人農業環境技術研究所 理事長宮下清貴氏(他2名)
(6) (5)に示した外部の専門家が指標案に同意』
1.のデータは、個別のデータは公開されていませんが、各年の平均値は公開されて、グラフに書けるようになっています。完全にフォローすることは無理ですが、大体の数値は追えるはずですので、確認してみたいと思います。というのも、「7/3 土壌中の放射能はどれだけ植物に移行するのか?」で文献を読んだ際にもコメの移行係数は出てきていますが、もっと低い数値で、0.1という高い数値は見たことがなかったからです。
次に、2.のデータの解析で、重要な点が二つあります。
・土壌の種類による移行係数の差がないというのは大事な情報です。もし差があると、土地によって土壌の種類を考えないといけないので、非常に複雑になってしまうのです。
・移行係数は、土壌中の放射性セシウムと玄米中の放射性セシウムを比較したものであるということ。多くの人が食べるのは白米ですが、玄米>白米なのです。通常、白米は玄米の数値の1/2~1/10です。
そこで、先ほどのデータベースから年ごとの土壌のセシウムのデータと、玄米のセシウムのデータから移行係数を算出してプロットしてみました。下のグラフで、左側はmBq/kgの単位であることと対数表示であることに注意してください。移行係数だけは右側の目盛りです。なお、データは全国平均のものを使用しています。見にくくなるので標準偏差は出していません。

土壌中の放射性セシウムは、地上核実験が盛んに行われていた1960年代が最高で42Bq/kg、それ以後徐々に低下して2000年頃で10Bq/kg程度です。一方で、玄米の放射性セシウムは、1963年に最高で11Bq/kgですが、その後は急速に低下し、1980年代には0.1Bq/kg以下、そして2000年には0.04Bq/kgにまで低下しています。
その結果、移行係数は1960年代前半は0.1~0.2でしたが、その後は急速に低下し、1980年代以降は0.01を切っています。農水省はこの元になる個々のデータから計算して、モデルを作ったということなのですが、0.1に設定した根拠はよくわかりません。地上核実験の多かった時代に合わせたのでしょうか?このあたりの詳細もぜひ示して欲しいです。安全策をとって高めに設定しておくということは悪いことではないので、もしそうならばそういうコメントをつけていただければいいと思います。単に「モデルを用いて」では不透明でわかりません。そのモデルも公開するべきです。
とにかくこのグラフからわかることは、
・3.11の前は、土壌の放射性セシウムは10Bq/kg程度であったこと(それくらいはあっても当然なこと)。
(おまけとして、2009年の各都道府県の土壌のデータも示します。)
・地上核実験が完全に廃止されて以降は、玄米への移行係数は0.01程度であること。
です。参考までに、過去の地上核実験の回数を農環研の論文から示します。ちなみに、ここにはCsの年間降下量(単位が不明ですが)も記載してありますので参考にできます。

(2)前編のおさらい:これまでのデータの解析
前回の「7/20 今年の米の放射性セシウムによる汚染具合を予想する!前編」で書いたことを簡単にまとめてから続きに入りたいと思います。
・今回の作業の最終的な目標は、今年のコメの放射性セシウムの汚染がどれくらいになるのかを予想したいということです。
・そのためには、すでに今年の小麦のデータが出てきているので、それをうまく利用できないか?と考えました。
・小麦とコメの放射性セシウムについては、過去40年近くの計測データがあるので、それを利用することができるのではないかと考えました。
・つまり、小麦とコメの放射性セシウムのデータについての関係を見いだせれば(例えばコメは常に小麦の1/2である)、今年の小麦のデータを元にコメのデータを予想することは可能だろうという考え方です。

そして、今年の放射能の放出のされ方が、1986年のチェルノブイリ事故の時と似ていることに気がつきました。
・1986年には、4月26日に事故があり、5月以降に日本に放射性セシウムが降下してきたこと。8月頃にはほとんど収束していた(3-6月の1%以下)こと。
・2011年は、3/15、3/20(?)に大きな放出があって放射性セシウムが降下したこと。7月になってからも10億ベクレル/時の放出はあるものの、当初から比べればほとんどないというレベルになっていること。
・大きな降下物のあった時期が一月ほどずれているものの、どちらの年も小麦は生育期であり、コメは生育に関係ない時期であること。
・従って、1986年の玄麦の放射性セシウムの濃度が異常に高い現象は、2011年の今年にも当てはまる可能性が高いこと。
前回、小麦の移行係数として、48件の単純平均で0.062と算出しました。しかしこれは、土壌のBq/kgを測定したわけではなく環境放射線データから近似的に変換式を使って出したものです。そういう意味では、この数字の絶対値については数倍の誤差があることは私も承知しています。しかし、小麦の測定値はBq/kgとして測定されています。これは正しい数値として利用できます。
1986年のCs-137のデータは、二つの要素の合計だと考える必要があります。つまり、直接汚染(降下物が葉等に付着して取り込まれた)と、間接汚染(土壌からの吸い上げた分:本来の移行係数)の合計です。
前後の年では、直接汚染はほとんどないため、間接汚染だけを反映しており、玄米/玄麦=3-5ですが、1986年は、小麦の直接汚染が非常に大きいため、小麦では間接汚染(土壌からの吸収分)はほとんど反映されていません。その結果として、玄米/玄麦=0.02となっています。実測値としては、玄米のデータは1985年から1987年までほとんど変化していないことに注目する必要があります。玄麦だけが1986年に100倍以上増えているのです。これは生育時期に降下物があったかどうかの差によるものです。

文献的には、コメも出穂時期に降下物があると放射性セシウムの濃度が大きく上がるという報告があるので、8月頃に新たに降下物が大量にあれば、今年のコメもそれを取り込むと思います。
(3)過去の玄米/玄麦の傾向と今年の玄麦のデータから今年のコメ(玄米)のデータを予想する
さて、今年のコメのデータを予想してみましょう。直接汚染と間接汚染に分けて考えます。
直接汚染(降下物を直接取り込んだ分)については、1986年はたまたま小麦の出穂時期に近かったために特に玄麦のデータが高めに出たので玄米/玄麦=0.02になった可能性があります。今年は大量降下が出穂の時期よりも一月以上早いので、「前編」でも紹介したグラフを見て長岡の1.4Bq/kgに相当すると仮定すれば、上の図と合わせて考えて今年は玄米/玄麦=0.1程度になると予想されます。

一方、間接汚染(土壌からの吸い上げ)に関しては、地上核実験のなくなった1980年代以降は、玄米/玄麦=3-5でした。

あとは、今年の直接汚染と間接汚染の比率がわかれば出せると思います。それは、下の図に書いてあります。この図では、玄米のデータの代わりに白米のデータを用いていますが、玄米でもほぼ同様の傾向になるはずです。

ここでチェックしておきたいのは、直接汚染の比率が、1986年の玄麦および1960年代前半の玄麦と玄米では90%以上と高く、ほとんどが直接汚染で説明ができるということです。(となると、この時期は土壌からの移行係数という言葉は正確ではないと思います。)
こうやってデータを見てくると、1986年の場合、あるいは1960年代前半の場合でも、直接汚染による降下物の影響がほとんどであるということがわかりました。今年は1986年のケースに近いと考えているのですが、1960年代前半のケースに近いと考えても、直接汚染がほとんどと考えて問題なさそうです。
だとすれば、今年の玄米/玄麦の比率は、直接汚染で計算しても問題ないということになります。先ほどのように、1986年よりも玄麦の直接汚染による取り込み方がかなり低めだったと考えて、玄米/玄麦=0.1とします。
今年は玄麦48検体の放射性セシウムのデータは平均で33Bq/kg、半分の25サンプルが20-60Bq/kgの範囲に入っています(計算に使った数値は「前編」で示しました)。60Bq/kg以下のサンプルは43検体で約90%です。今後は降下物がほとんどないと仮定すれば、今年の玄米の放射性セシウムは、平均で33×0.1=3.3Bq/kgとなり、90%以上のサンプルが6Bq/kgとなります。Cs-134+Cs-137で6Bq/kgは、検出できるかどうかギリギリの数値です。
従って今年のコメでは玄米の放射性セシウムのデータはほとんどが不検出になるであろうというのが私の推論です。
移行係数としては予想は出すのはふさわしくないのですが、敢えて出すとすれば、玄麦で0.062、玄米でその1/10として0.0062、白米でその1/3として0.002でしょうか。これならば過去の文献ともそれほど変わりません。日本土壌肥料学会でも、「土から白米への移行係数は0.00021~0.012と報告されています」と言っていますので特に問題ない値だと思います。
でも、それならばなぜ農水省は移行係数0.1という高い数値を出したのでしょうか?詳細が明らかになっていませんので想像するしかありませんが、玄米の移行係数はかなり保守的に(高めに)設定された可能性が高いです。1960年から2000年までの移行係数を出してみると、1960年代前半は玄米の移行係数が0.1を越えています。従って、1960年代前半の状況を元に設定された可能性があります。
今回は1986年をモデルに取りましたが、念のため、1960年代前半、特に放射性セシウムの濃度が高い1963年と1964年をモデルにしても考えてみておきましょう。土壌のCs-137の量は、水田が約40Bq/kg、畑が約30Bq/kgと水田の方が1.3倍程度高いです。一方、玄米と玄麦のCs-137の濃度は、1963年、1964年とも玄米/玄麦=0.25程度です(1963年:11Bq/kg/43Bq/kg。1964年:5Bq/kg/17Bq/kg)。
つまり移行係数を玄米と玄麦で比較すると、玄米/玄麦=0.2という比率が出てきます。先ほどの計算では玄米/玄麦=0.1としましたので、玄米の放射性セシウムのデータは2倍くらいになる可能性はあります。だとすると玄米の放射性セシウムのデータは平均で6.6Bq/kg。検出される玄米のサンプルが少し増える可能性はあります。
私の推論では、たとえば水田の土壌の放射性セシウムが1000Bq/kgの土地では、玄米の移行係数を0.0062として、玄米の放射性セシウムとして6.2Bq/kg。福島県でも郡山市や伊達市のように3000Bq/kg程度の土地では、18Bq/kg。飯舘村では30000Bq/kgとして、180Bq/kg。ただ、この数値予想には上下にそれぞれ2-3倍程度の誤差はあると思います。なお、白米はその半分以下です。
土壌の汚染具合から考えて、茨城県のお米はおそらくほとんどが不検出になるだろうというのが私の予想です。今、稲わらで大騒ぎしているのにどうしてこんなに低いの?と疑問を持つ方も多いかもしれません。私も、麦がどうしてこんなにセシウムが検出されるの?という疑問から始まって調べていったところ行き着いた結果がこれです。お茶や麦、ベリーのように多くのサンプルでセシウムが検出されているのは、直接降下物を取り込んだからだと思っています。コメは地上からの降下物の影響はほとんどないはずですので、実はそれほど高く出ないだろうというのが私の結論です。批判は覚悟の上で敢えて私の考えをここに書かせてもらいました。
なお、稲のなかでも、わらの部分と米ぬかの部分、白米の部分の比率は、かなり偏っていますので、これについては別の記事で詳しくご紹介します。ここではこの図のみお示しします。米全体の中で白米に行く放射性セシウムは10%もあるかどうかです(報告によって数値は異なります)。

まとめです。
前提条件
・今年の小麦の放射性セシウムのデータは正しい数値(平均的な数値)である。
・今年は7月から9月には放射性物質の降下はほとんどない。
事実
・今年の玄麦の放射性セシウムのデータは、48件の平均で33Bq/kgである。
推論
・過去の玄米と玄麦のデータから、放射性セシウムのデータについては玄米/玄麦の比率を予想することができる。
・地上への降下物が全くない年では、玄米/玄麦=3~5であるが、降下物が大量にある年では玄米/玄麦=0.02~0.2である。
・今年のパターンは、1986年のチェルノブイリ事故の年に似ているので、玄米/玄麦=0.1程度と考えられる。
結論
以上のことから、今年の玄米の放射性セシウムのデータは平均で3.3Bq/kgと予想できる。ただし、上下に2-3倍のフレがあることは充分に想定される。
まちがいなどありましたら、遠慮なくご指摘下さい。まだいくつか疑問な点がありますので、そのあたりをあとで補足として、稲わらの話とともに別の記事に書こうと思っています。
7/30追記:今、コメに関する意識調査をやっています。ぜひご協力をお願いします。
「7/29 米のセシウム汚染がどこまでなら食べますか?意識調査のアンケートにご協力ください」
アンケートはこちら→ http://www.dounano.net/answer/vTYGm4689.html
8/17追記:補足の記事が「8/7 小麦の放射性セシウムデータのまとめと米データの最新の予想」にありますのでご参照下さい。
まず、稲の移行係数がどうして0.1に決められたのか?ということです。これについては、残念ながらどのように決めたのかの概略だけは農水省のHPにあるのですが、詳細については公開されていません。その当時はあまり気にしていなかったのですが、このデータベースが公開されていて、比較的簡単に使えることがわかったので、それも利用しながら再度米の移行係数について考えてみました。また、核実験時代やチェルノブイリの時の米や麦の汚染データの長期的なまとめの日本語の論文も再度読み直してみました。
まず、農水省のHP(4/8)を読み直してみます。
『1.使用データの選択
独立行政法人農業環境技術研究所が、1959年から2001年まで、全国17ヶ所の水田の土壌及び収穫された米の放射性セシウムを分析した結果(計564データポイント)を用いた。
2.データの解析
(1) 土壌の種類によって放射性セシウムの米への移行に差がないことを確認
(2) 玄米を日常的に摂食する者のことを考え、玄米中の放射性セシウムを土壌中のものと比較。各データポイントにおける玄米中及び土壌中の放射性セシウム量の比(移行係数)を算出。
(3) 算出した移行係数の分布をモデル化
(4) 消費者に安全な米を供給する観点から、同モデルを用いて、水田の土壌から玄米への放射性セシウムの移行の指標案を決定
(5) 指標案について、外部の専門家の意見を聴取
独立行政法人放射線医学総合研究所特別上席研究員 内田滋夫氏
学習院大学理学部化学科教授 村松康行氏
財団法人環境科学技術研究所 環境動態研究部長 久松俊一氏
独立行政法人農業環境技術研究所 理事長宮下清貴氏(他2名)
(6) (5)に示した外部の専門家が指標案に同意』
1.のデータは、個別のデータは公開されていませんが、各年の平均値は公開されて、グラフに書けるようになっています。完全にフォローすることは無理ですが、大体の数値は追えるはずですので、確認してみたいと思います。というのも、「7/3 土壌中の放射能はどれだけ植物に移行するのか?」で文献を読んだ際にもコメの移行係数は出てきていますが、もっと低い数値で、0.1という高い数値は見たことがなかったからです。
次に、2.のデータの解析で、重要な点が二つあります。
・土壌の種類による移行係数の差がないというのは大事な情報です。もし差があると、土地によって土壌の種類を考えないといけないので、非常に複雑になってしまうのです。
・移行係数は、土壌中の放射性セシウムと玄米中の放射性セシウムを比較したものであるということ。多くの人が食べるのは白米ですが、玄米>白米なのです。通常、白米は玄米の数値の1/2~1/10です。
そこで、先ほどのデータベースから年ごとの土壌のセシウムのデータと、玄米のセシウムのデータから移行係数を算出してプロットしてみました。下のグラフで、左側はmBq/kgの単位であることと対数表示であることに注意してください。移行係数だけは右側の目盛りです。なお、データは全国平均のものを使用しています。見にくくなるので標準偏差は出していません。

土壌中の放射性セシウムは、地上核実験が盛んに行われていた1960年代が最高で42Bq/kg、それ以後徐々に低下して2000年頃で10Bq/kg程度です。一方で、玄米の放射性セシウムは、1963年に最高で11Bq/kgですが、その後は急速に低下し、1980年代には0.1Bq/kg以下、そして2000年には0.04Bq/kgにまで低下しています。
その結果、移行係数は1960年代前半は0.1~0.2でしたが、その後は急速に低下し、1980年代以降は0.01を切っています。農水省はこの元になる個々のデータから計算して、モデルを作ったということなのですが、0.1に設定した根拠はよくわかりません。地上核実験の多かった時代に合わせたのでしょうか?このあたりの詳細もぜひ示して欲しいです。安全策をとって高めに設定しておくということは悪いことではないので、もしそうならばそういうコメントをつけていただければいいと思います。単に「モデルを用いて」では不透明でわかりません。そのモデルも公開するべきです。
とにかくこのグラフからわかることは、
・3.11の前は、土壌の放射性セシウムは10Bq/kg程度であったこと(それくらいはあっても当然なこと)。
(おまけとして、2009年の各都道府県の土壌のデータも示します。)
・地上核実験が完全に廃止されて以降は、玄米への移行係数は0.01程度であること。
です。参考までに、過去の地上核実験の回数を農環研の論文から示します。ちなみに、ここにはCsの年間降下量(単位が不明ですが)も記載してありますので参考にできます。

(2)前編のおさらい:これまでのデータの解析
前回の「7/20 今年の米の放射性セシウムによる汚染具合を予想する!前編」で書いたことを簡単にまとめてから続きに入りたいと思います。
・今回の作業の最終的な目標は、今年のコメの放射性セシウムの汚染がどれくらいになるのかを予想したいということです。
・そのためには、すでに今年の小麦のデータが出てきているので、それをうまく利用できないか?と考えました。
・小麦とコメの放射性セシウムについては、過去40年近くの計測データがあるので、それを利用することができるのではないかと考えました。
・つまり、小麦とコメの放射性セシウムのデータについての関係を見いだせれば(例えばコメは常に小麦の1/2である)、今年の小麦のデータを元にコメのデータを予想することは可能だろうという考え方です。

そして、今年の放射能の放出のされ方が、1986年のチェルノブイリ事故の時と似ていることに気がつきました。
・1986年には、4月26日に事故があり、5月以降に日本に放射性セシウムが降下してきたこと。8月頃にはほとんど収束していた(3-6月の1%以下)こと。
・2011年は、3/15、3/20(?)に大きな放出があって放射性セシウムが降下したこと。7月になってからも10億ベクレル/時の放出はあるものの、当初から比べればほとんどないというレベルになっていること。
・大きな降下物のあった時期が一月ほどずれているものの、どちらの年も小麦は生育期であり、コメは生育に関係ない時期であること。
・従って、1986年の玄麦の放射性セシウムの濃度が異常に高い現象は、2011年の今年にも当てはまる可能性が高いこと。
前回、小麦の移行係数として、48件の単純平均で0.062と算出しました。しかしこれは、土壌のBq/kgを測定したわけではなく環境放射線データから近似的に変換式を使って出したものです。そういう意味では、この数字の絶対値については数倍の誤差があることは私も承知しています。しかし、小麦の測定値はBq/kgとして測定されています。これは正しい数値として利用できます。
1986年のCs-137のデータは、二つの要素の合計だと考える必要があります。つまり、直接汚染(降下物が葉等に付着して取り込まれた)と、間接汚染(土壌からの吸い上げた分:本来の移行係数)の合計です。
前後の年では、直接汚染はほとんどないため、間接汚染だけを反映しており、玄米/玄麦=3-5ですが、1986年は、小麦の直接汚染が非常に大きいため、小麦では間接汚染(土壌からの吸収分)はほとんど反映されていません。その結果として、玄米/玄麦=0.02となっています。実測値としては、玄米のデータは1985年から1987年までほとんど変化していないことに注目する必要があります。玄麦だけが1986年に100倍以上増えているのです。これは生育時期に降下物があったかどうかの差によるものです。

文献的には、コメも出穂時期に降下物があると放射性セシウムの濃度が大きく上がるという報告があるので、8月頃に新たに降下物が大量にあれば、今年のコメもそれを取り込むと思います。
(3)過去の玄米/玄麦の傾向と今年の玄麦のデータから今年のコメ(玄米)のデータを予想する
さて、今年のコメのデータを予想してみましょう。直接汚染と間接汚染に分けて考えます。
直接汚染(降下物を直接取り込んだ分)については、1986年はたまたま小麦の出穂時期に近かったために特に玄麦のデータが高めに出たので玄米/玄麦=0.02になった可能性があります。今年は大量降下が出穂の時期よりも一月以上早いので、「前編」でも紹介したグラフを見て長岡の1.4Bq/kgに相当すると仮定すれば、上の図と合わせて考えて今年は玄米/玄麦=0.1程度になると予想されます。

一方、間接汚染(土壌からの吸い上げ)に関しては、地上核実験のなくなった1980年代以降は、玄米/玄麦=3-5でした。

あとは、今年の直接汚染と間接汚染の比率がわかれば出せると思います。それは、下の図に書いてあります。この図では、玄米のデータの代わりに白米のデータを用いていますが、玄米でもほぼ同様の傾向になるはずです。

ここでチェックしておきたいのは、直接汚染の比率が、1986年の玄麦および1960年代前半の玄麦と玄米では90%以上と高く、ほとんどが直接汚染で説明ができるということです。(となると、この時期は土壌からの移行係数という言葉は正確ではないと思います。)
こうやってデータを見てくると、1986年の場合、あるいは1960年代前半の場合でも、直接汚染による降下物の影響がほとんどであるということがわかりました。今年は1986年のケースに近いと考えているのですが、1960年代前半のケースに近いと考えても、直接汚染がほとんどと考えて問題なさそうです。
だとすれば、今年の玄米/玄麦の比率は、直接汚染で計算しても問題ないということになります。先ほどのように、1986年よりも玄麦の直接汚染による取り込み方がかなり低めだったと考えて、玄米/玄麦=0.1とします。
今年は玄麦48検体の放射性セシウムのデータは平均で33Bq/kg、半分の25サンプルが20-60Bq/kgの範囲に入っています(計算に使った数値は「前編」で示しました)。60Bq/kg以下のサンプルは43検体で約90%です。今後は降下物がほとんどないと仮定すれば、今年の玄米の放射性セシウムは、平均で33×0.1=3.3Bq/kgとなり、90%以上のサンプルが6Bq/kgとなります。Cs-134+Cs-137で6Bq/kgは、検出できるかどうかギリギリの数値です。
従って今年のコメでは玄米の放射性セシウムのデータはほとんどが不検出になるであろうというのが私の推論です。
移行係数としては予想は出すのはふさわしくないのですが、敢えて出すとすれば、玄麦で0.062、玄米でその1/10として0.0062、白米でその1/3として0.002でしょうか。これならば過去の文献ともそれほど変わりません。日本土壌肥料学会でも、「土から白米への移行係数は0.00021~0.012と報告されています」と言っていますので特に問題ない値だと思います。
でも、それならばなぜ農水省は移行係数0.1という高い数値を出したのでしょうか?詳細が明らかになっていませんので想像するしかありませんが、玄米の移行係数はかなり保守的に(高めに)設定された可能性が高いです。1960年から2000年までの移行係数を出してみると、1960年代前半は玄米の移行係数が0.1を越えています。従って、1960年代前半の状況を元に設定された可能性があります。
今回は1986年をモデルに取りましたが、念のため、1960年代前半、特に放射性セシウムの濃度が高い1963年と1964年をモデルにしても考えてみておきましょう。土壌のCs-137の量は、水田が約40Bq/kg、畑が約30Bq/kgと水田の方が1.3倍程度高いです。一方、玄米と玄麦のCs-137の濃度は、1963年、1964年とも玄米/玄麦=0.25程度です(1963年:11Bq/kg/43Bq/kg。1964年:5Bq/kg/17Bq/kg)。
つまり移行係数を玄米と玄麦で比較すると、玄米/玄麦=0.2という比率が出てきます。先ほどの計算では玄米/玄麦=0.1としましたので、玄米の放射性セシウムのデータは2倍くらいになる可能性はあります。だとすると玄米の放射性セシウムのデータは平均で6.6Bq/kg。検出される玄米のサンプルが少し増える可能性はあります。
私の推論では、たとえば水田の土壌の放射性セシウムが1000Bq/kgの土地では、玄米の移行係数を0.0062として、玄米の放射性セシウムとして6.2Bq/kg。福島県でも郡山市や伊達市のように3000Bq/kg程度の土地では、18Bq/kg。飯舘村では30000Bq/kgとして、180Bq/kg。ただ、この数値予想には上下にそれぞれ2-3倍程度の誤差はあると思います。なお、白米はその半分以下です。
土壌の汚染具合から考えて、茨城県のお米はおそらくほとんどが不検出になるだろうというのが私の予想です。今、稲わらで大騒ぎしているのにどうしてこんなに低いの?と疑問を持つ方も多いかもしれません。私も、麦がどうしてこんなにセシウムが検出されるの?という疑問から始まって調べていったところ行き着いた結果がこれです。お茶や麦、ベリーのように多くのサンプルでセシウムが検出されているのは、直接降下物を取り込んだからだと思っています。コメは地上からの降下物の影響はほとんどないはずですので、実はそれほど高く出ないだろうというのが私の結論です。批判は覚悟の上で敢えて私の考えをここに書かせてもらいました。
なお、稲のなかでも、わらの部分と米ぬかの部分、白米の部分の比率は、かなり偏っていますので、これについては別の記事で詳しくご紹介します。ここではこの図のみお示しします。米全体の中で白米に行く放射性セシウムは10%もあるかどうかです(報告によって数値は異なります)。

まとめです。
前提条件
・今年の小麦の放射性セシウムのデータは正しい数値(平均的な数値)である。
・今年は7月から9月には放射性物質の降下はほとんどない。
事実
・今年の玄麦の放射性セシウムのデータは、48件の平均で33Bq/kgである。
推論
・過去の玄米と玄麦のデータから、放射性セシウムのデータについては玄米/玄麦の比率を予想することができる。
・地上への降下物が全くない年では、玄米/玄麦=3~5であるが、降下物が大量にある年では玄米/玄麦=0.02~0.2である。
・今年のパターンは、1986年のチェルノブイリ事故の年に似ているので、玄米/玄麦=0.1程度と考えられる。
結論
以上のことから、今年の玄米の放射性セシウムのデータは平均で3.3Bq/kgと予想できる。ただし、上下に2-3倍のフレがあることは充分に想定される。
まちがいなどありましたら、遠慮なくご指摘下さい。まだいくつか疑問な点がありますので、そのあたりをあとで補足として、稲わらの話とともに別の記事に書こうと思っています。
7/30追記:今、コメに関する意識調査をやっています。ぜひご協力をお願いします。
「7/29 米のセシウム汚染がどこまでなら食べますか?意識調査のアンケートにご協力ください」
アンケートはこちら→ http://www.dounano.net/answer/vTYGm4689.html
8/17追記:補足の記事が「8/7 小麦の放射性セシウムデータのまとめと米データの最新の予想」にありますのでご参照下さい。
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- 7/24 今年の米の放射性セシウムによる汚染具合を予想する!補足1 (2011/07/24)
- 7/23 今年の米の放射性セシウムによる汚染具合を予想する!後編 (2011/07/23)
- 7/20 今年の米の放射性セシウムによる汚染具合を予想する!前編 (2011/07/21)


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