8/15 東大と福島県の共同研究の解説(1)土壌セシウムのデータ
東京大学農学部は、福島県農業総合センターと共同していくつかの論文を速報として「ラジオアイソトープ」誌に発表しました。そして、日本アイソトープ協会は、掲載されたいくつかの論文を一般公開してくれました。
昨日のニュースにも紹介されていたのですが、ニュースの文字で読んでもよくわからないでしょうから、公開された論文をつかって、福島でどのようなことが起こっているのかを解説します。
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昨日のニュースにも紹介されていたのですが、ニュースの文字で読んでもよくわからないでしょうから、公開された論文をつかって、福島でどのようなことが起こっているのかを解説します。
土壌中のセシウムの挙動に関する論文が二つありますので、ここではその説明をします。
一本目は「福島県の水田および畑作土壌からの137Cs、134Csならびに131Iの溶出実験」です。著者は、野川憲夫、橋本 健、田野井慶太朗、中西友子、二瓶直登、小野勇治(敬称略)です。

この論文(速報)は、上の要旨に書いてあるように、4月に福島県の土壌(水田および畑)を採取し、放射性セシウムと放射性ヨウ素を抽出してその効率を調べたというものです。

上に図がありますので、それを見ていただければわかると思います。左がグラフ、右側がその数値です。土壌に水を加えて水中に溶け出してくる放射性セシウムや放射性ヨウ素を定量するという方法で、2回目、3回目は、1回目で水に溶け出さなかった土壌に再度水を加えて同じ事を行います。
この論文でわかったことは、以下のことです(一部結果の図を省略したものもあります)。
・4月20日に採取した土壌にはI-131、Cs-134、Cs-137が含まれていた。
・放射性セシウム、放射性ヨウ素ともに、水を用いて土壌から溶出できる量は土壌にある放射性物質の約20%しかなかった。
・2回目、3回目と抽出を繰り返しても抽出率はあがらなかった。つまり、1回目で溶け出す分は全て溶け出してしまった。
・水田土壌については、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム、肥料、消石灰、あるいはセメントを加えて放置してから同じ事を行ったが、水で抽出した場合とほぼ同じ結果であった。
続いて2本目です。
「福島県の水田土壌における放射性セシウムの深度別濃度と移流速度」、著者は塩沢 昌、田野井慶太朗、根本圭介、吉田修一郎、西田和弘、橋本 健、桜井健太、中西友子、二瓶直登、小野勇治(敬称略)です。

これは、NHKのニュースでもやっていたので見た方もいると思います。5/24に福島県の耕起していない水田の深さ15cmまでの表土を分割してサンプリングし、放射性セシウムの分布を求めたものです。ここには詳細は書いていないので下の図から読み取ると、0-1cm、1-3cm、3-5cm、5-7cm、7-10cm、10-15cmの6層に分けたということです。
そうすると、その6層での具体的な数値は出ていないのですが、0-3cm、すなわち0-1cmと1-3cmの二つの層の合計で約88%を占めていました。また、0-5cm、すなわち0-1cmと1-3cmと3-5cmの3つの層で、全体の約96%を占めていました。

上のグラフと下のグラフから読み取ると、大ざっぱに以下の数値であったと思います。上の約88%というのと微妙に計算が合わないので、正確な数値ではないということはご了解下さい。
0-1cm:約34000Bq/kg
1-3cm:約9000Bq/kg
3-5cm:約3000Bq/kg
5-7cm:約1000Bq/kg
7-10cm:約300Bq/kg
10-15cm:約200Bq/kg

また、ここではグラフに出ていませんが、15-20cmの層にもごく一部放射性セシウムが測定されていたということです。
その他、要旨にしか書いていないことを含めてまとめると、以下のようになります。
・放射性セシウムの88%が0-3cmに、96%が0-5cmにあることが福島の水田(耕起していない)の実験で明らかになった。
・濃度分布から計算すると、5/24までの約70日間で平均移動距離は約1.7cmであった。
・雨量から蒸発散量を引いて体積含水率で割ると水の移動距離は約20cmと推定されるので、セシウムは水の約1/10の移流速度であった。この移流速度は文献値の100-1000倍高い数値であった。
・今回の実験に使った田んぼとは別に耕起した田んぼで放射性セシウムを測定すると、表層の高濃度の放射性セシウムが0-15cmの作土層内で混合されて平均値(約4000Bq/kg)となっていた。
ニュースでは、この二つの論文の結果をまとめて一部を報道していると思います。
二つ目の論文は非常に重要な事実を教えてくれています。それは、耕起していない田んぼでは、表面1cmの放射性セシウムは約34000Bq/kgであり、表層5cm以内に96%の放射性セシウムがとどまっているが、耕起してしまうと、作土層全体(深さ0-15cm)に平均値約4000Bq/kgとして放射性セシウムが広まってしまうということです。
土壌の放射性セシウムを測定する際、深さ5cmにするという方式と深さ15cmにするという方式があり、あまり深く取ると低めに出るという議論がありました。私もあまり深くまで取るのは意図的に低く見せようとしているのではないか?と思っていました。でも、耕起してしまえば深さ15cmの作土層全体に平均化されてしまうという事実を見れば、深さ15cmまで取るという方法が実は耕起後の田んぼの実態を反映していたのだということに気がつきました。
これはおそらく全ての田んぼについて同じ事が言えると思います。今年耕起しなかった田んぼでは、表層の土を除いてしまえれば来年はほとんど汚染されていない土になりますが、今年耕起してしまった田んぼでは、作土層全体に平均的に放射性セシウムが分布してしまっています。従って、来年以降も放射性セシウムは土壌に残り続けます。今年の今までのデータを見る限り、おそらく土壌からコメへの移行係数は0.01以下です。今年の結果で放射性セシウムがほとんど検出されなければ、来年はそれ以下でしょう。ただ、汚染された土壌で取れたコメということで、消費者が買ってくれるかどうかは別問題と思います。
移流速度については、予想外に速かったということでしたが、これについてはコメントできません。放射性セシウムが地下水に流れ出して、それが飲料水などに混入する危険性を心配している人がいますので、そこは今後ぜひ調べて欲しいと思います。ただ、今のデータでは、2ヶ月で約1.7cmの移行ということなので、これが正しければかなり時間がかかるとは思います。この論文はあくまで4月とか5月の段階のデータですので、経時的に同様の実験を行って、1年くらい経つとどうなるか、ということはおそらく継続して実験してくれていることと思います。
一本目は「福島県の水田および畑作土壌からの137Cs、134Csならびに131Iの溶出実験」です。著者は、野川憲夫、橋本 健、田野井慶太朗、中西友子、二瓶直登、小野勇治(敬称略)です。

この論文(速報)は、上の要旨に書いてあるように、4月に福島県の土壌(水田および畑)を採取し、放射性セシウムと放射性ヨウ素を抽出してその効率を調べたというものです。

上に図がありますので、それを見ていただければわかると思います。左がグラフ、右側がその数値です。土壌に水を加えて水中に溶け出してくる放射性セシウムや放射性ヨウ素を定量するという方法で、2回目、3回目は、1回目で水に溶け出さなかった土壌に再度水を加えて同じ事を行います。
この論文でわかったことは、以下のことです(一部結果の図を省略したものもあります)。
・4月20日に採取した土壌にはI-131、Cs-134、Cs-137が含まれていた。
・放射性セシウム、放射性ヨウ素ともに、水を用いて土壌から溶出できる量は土壌にある放射性物質の約20%しかなかった。
・2回目、3回目と抽出を繰り返しても抽出率はあがらなかった。つまり、1回目で溶け出す分は全て溶け出してしまった。
・水田土壌については、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム、肥料、消石灰、あるいはセメントを加えて放置してから同じ事を行ったが、水で抽出した場合とほぼ同じ結果であった。
続いて2本目です。
「福島県の水田土壌における放射性セシウムの深度別濃度と移流速度」、著者は塩沢 昌、田野井慶太朗、根本圭介、吉田修一郎、西田和弘、橋本 健、桜井健太、中西友子、二瓶直登、小野勇治(敬称略)です。

これは、NHKのニュースでもやっていたので見た方もいると思います。5/24に福島県の耕起していない水田の深さ15cmまでの表土を分割してサンプリングし、放射性セシウムの分布を求めたものです。ここには詳細は書いていないので下の図から読み取ると、0-1cm、1-3cm、3-5cm、5-7cm、7-10cm、10-15cmの6層に分けたということです。
そうすると、その6層での具体的な数値は出ていないのですが、0-3cm、すなわち0-1cmと1-3cmの二つの層の合計で約88%を占めていました。また、0-5cm、すなわち0-1cmと1-3cmと3-5cmの3つの層で、全体の約96%を占めていました。

上のグラフと下のグラフから読み取ると、大ざっぱに以下の数値であったと思います。上の約88%というのと微妙に計算が合わないので、正確な数値ではないということはご了解下さい。
0-1cm:約34000Bq/kg
1-3cm:約9000Bq/kg
3-5cm:約3000Bq/kg
5-7cm:約1000Bq/kg
7-10cm:約300Bq/kg
10-15cm:約200Bq/kg

また、ここではグラフに出ていませんが、15-20cmの層にもごく一部放射性セシウムが測定されていたということです。
その他、要旨にしか書いていないことを含めてまとめると、以下のようになります。
・放射性セシウムの88%が0-3cmに、96%が0-5cmにあることが福島の水田(耕起していない)の実験で明らかになった。
・濃度分布から計算すると、5/24までの約70日間で平均移動距離は約1.7cmであった。
・雨量から蒸発散量を引いて体積含水率で割ると水の移動距離は約20cmと推定されるので、セシウムは水の約1/10の移流速度であった。この移流速度は文献値の100-1000倍高い数値であった。
・今回の実験に使った田んぼとは別に耕起した田んぼで放射性セシウムを測定すると、表層の高濃度の放射性セシウムが0-15cmの作土層内で混合されて平均値(約4000Bq/kg)となっていた。
ニュースでは、この二つの論文の結果をまとめて一部を報道していると思います。
二つ目の論文は非常に重要な事実を教えてくれています。それは、耕起していない田んぼでは、表面1cmの放射性セシウムは約34000Bq/kgであり、表層5cm以内に96%の放射性セシウムがとどまっているが、耕起してしまうと、作土層全体(深さ0-15cm)に平均値約4000Bq/kgとして放射性セシウムが広まってしまうということです。
土壌の放射性セシウムを測定する際、深さ5cmにするという方式と深さ15cmにするという方式があり、あまり深く取ると低めに出るという議論がありました。私もあまり深くまで取るのは意図的に低く見せようとしているのではないか?と思っていました。でも、耕起してしまえば深さ15cmの作土層全体に平均化されてしまうという事実を見れば、深さ15cmまで取るという方法が実は耕起後の田んぼの実態を反映していたのだということに気がつきました。
これはおそらく全ての田んぼについて同じ事が言えると思います。今年耕起しなかった田んぼでは、表層の土を除いてしまえれば来年はほとんど汚染されていない土になりますが、今年耕起してしまった田んぼでは、作土層全体に平均的に放射性セシウムが分布してしまっています。従って、来年以降も放射性セシウムは土壌に残り続けます。今年の今までのデータを見る限り、おそらく土壌からコメへの移行係数は0.01以下です。今年の結果で放射性セシウムがほとんど検出されなければ、来年はそれ以下でしょう。ただ、汚染された土壌で取れたコメということで、消費者が買ってくれるかどうかは別問題と思います。
移流速度については、予想外に速かったということでしたが、これについてはコメントできません。放射性セシウムが地下水に流れ出して、それが飲料水などに混入する危険性を心配している人がいますので、そこは今後ぜひ調べて欲しいと思います。ただ、今のデータでは、2ヶ月で約1.7cmの移行ということなので、これが正しければかなり時間がかかるとは思います。この論文はあくまで4月とか5月の段階のデータですので、経時的に同様の実験を行って、1年くらい経つとどうなるか、ということはおそらく継続して実験してくれていることと思います。
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