8/19 大麦の放射性セシウムとビールとの関係に関する推定
大麦には、主にビールに用いられる二条大麦と麦茶などに用いられる六条大麦があります。今年の原発事故によっていろいろは野菜が放射性セシウムで汚染されました。私はいろいろな野菜類の汚染状況をチェックしてきましたが、大麦、小麦の特徴は、量的には多くないけれどもほとんどの検体で検出されるということです。
では、この二条大麦でビールを造ったらどうなるのか?
たとえば、ひたちなか市の二条大麦は250-460Bq/kgの放射性セシウムを含みます。この大麦でビールを造ったらどうなるのか?という素朴な疑問がツイッター上でありました。
http://twitter.com/#!/katukawa/status/104388190772793344
簡単な試算をしてみました。情報量が少ないので、間違っている可能性もあります。おかしかったらご指摘下さい。すぐに修正します。この記事をきっかけに、ビール会社が原料に用いている大麦の放射性セシウム量と、そこからビールを造ったらどれだけの放射性セシウムがビールに混入するのか、情報公開してくれるとありがたいです。
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では、この二条大麦でビールを造ったらどうなるのか?
たとえば、ひたちなか市の二条大麦は250-460Bq/kgの放射性セシウムを含みます。この大麦でビールを造ったらどうなるのか?という素朴な疑問がツイッター上でありました。
http://twitter.com/#!/katukawa/status/104388190772793344
簡単な試算をしてみました。情報量が少ないので、間違っている可能性もあります。おかしかったらご指摘下さい。すぐに修正します。この記事をきっかけに、ビール会社が原料に用いている大麦の放射性セシウム量と、そこからビールを造ったらどれだけの放射性セシウムがビールに混入するのか、情報公開してくれるとありがたいです。
そもそものきっかけ
実は、このことについては私自身も同じ疑問を感じていました。それは、このグラフを見た時からです。これは、放射線科学センターの「暮らしの中の放射線」の中の1ページです。

1960年代には、地上核実験によって放射性セシウムなどが結構降り注いでいたことは今ではご存じの方も多いと思います。この図は、今年の米の放射性セシウム量を予想するための資料として利用していたのですが、そこに何気なく書いてあった日本産ビール1L中のCs-137の量が、実は白米と同じくらいのレベルで、1964年には3.5Bq/kg=3.5Bq/L(ビールの比重を1として)あったということがデータとして示されていたのです。
そして、今年の小麦、大麦の放射性セシウムのデータを見ていくと、「不検出」というデータは少なく、少ないながらも検出されているケースが多いことに気がつきました。ですので、「7/24 今年の米の放射性セシウムによる汚染具合を予想する!補足1」においても大麦とビールの関係は気になる、と書いておきました。
今回同じように二条大麦とビールの関係を指摘する方が出てきたので、情報量が少ないながらもわかった範囲で記載します。本来ならばビール会社のHPに情報が公開されるべきと思うのですが、ビールに使用する水は大丈夫とは書いてありますが、使用する大麦について今のところは記載がありません。この記事をきっかけにして、今年の日本産大麦を用いてビールを作っているのか、もし作ったらどれくらいビール中に放射性セシウムが来るのかを明らかにして欲しいです。
大麦に関する情報
まず、基本的なデータです。農水省のHPには、大麦の生産について基本的な統計があります。
まず、大麦の基本的な分類です。

次に、国産大麦の全体的な使用料に占める割合です。上のグラフにあった1964年、つまり昭和40年頃は国産が3/4ちかくあったのに、5年前の2006年にはわずか7%となっていることがわかります。これは、麦芽輸入の自由化、内外価格差の拡大などによるものだそうです。

二条大麦の生産は、地域別に見ると1位が佐賀県、2位が栃木県です。

その栃木県の二条大麦は、「2006年のビール4社と、国内すべてのビール麦産地との契約数量は約8万6000トン(うち約4割が本県産)です。実際に売り渡された量では、本県産は全国の半数を超えています。ビール醸造には高い品質の麦芽が要求されます。全国契約数量の割合を大幅に超える割合で売り渡されていることは、県産ビール麦の品質の良さの証しでもあります。」ということだと4年前のJAのある記事(Googleのキャッシュです)には書いてありました。
では、栃木の二条大麦は今年どうなのでしょうか?栃木県の発表しているデータ(8/15)を元に二条大麦だけをまとめると下記のようになります。たくさんの検体を測定しているのに、詳細を出してくれないので正確に計算できませんが、多検体を測定している場合は、中央値(NDを0としてND~84ならば0と84の中間で42とする)を求めました。すると栃木県全域の二条大麦の放射性セシウムは約32Bq/kgです。当初はもう少し高い50Bq/kgだったのですが、NDの地区が出てきたので低めになりました。

9地区中7地区で検出されていることに注目です。あと、佐野市のデータが出れば全地区のデータが出そろうことになります。
大麦からビールへの移行率は?
さて、基本的なデータが出そろったところで、大麦からビールにどれくらい抽出されるのかの概算をしてみましょう。ビール会社のHPをいろいろと見たのですが、そのようなデータは載っていませんでした。
キリンビール:原料の調達について言及あるがそれだけ。
アサヒビール:「安全性の確認を徹底しています」のみ
サッポロビール:確認しているといいつつ公開せず
サントリービール:水しかチェックせず
ですが、論文には大麦からビールへの移行についてチェルノブイリの時のデータを調べた人がいます。要約の日本語が農水省の食品総合研究所のHPにあります(文献リストの21番目)。そこから若干修正して引用します。回収率として約35%がビール中に回収されたとあります。
大麦からビールへのセシウム137の移行
『チェルノブイリ事故の結果、セシウム137で汚染された大麦からビールが醸造されてきている。醸造のすべての工程および製造プロセスのすべての副産物について、セシウム137の放射能を測定した。その結果、大麦のセシウム137の約35%がビール中に回収された。加工品と生原料との濃度比として定義される加工処理率(processing factor)は、麦芽が0.61、大麦胚芽3.3、ビール粕0.1、ビール0.11となった、としている。』
そこで、ビール1Lを作るのに必要な大麦(麦芽)の量を知りたいと思って調べました。すると、個人でビールを造った方?のサイトに下記の記述がありました(真ん中あたり)。
『・ビール造り
ビール1リットルあたりの必要原料は麦芽(大麦であれ他の麦であれ)120-200g、ホップ1.5g-2.0g(乾燥毬花16-20個)、消毒・洗浄用の水10リットル。』
大麦(麦芽)200gからビール1Lができるということです。商業生産では多少比率が違うと思いますが、それほど多くは違わないでしょう。
大麦と麦芽はほぼ等量と考えると、大麦のセシウムが100%ビールに移行したとしても、200g→1L=1kgになるので1/5にセシウム濃度は低下します。
抽出率は約35%という論文がありますので、1/5×0.35=0.07ということで大麦の濃度の7%という換算ができます。先ほどの論文では、加工処理率という言葉の定義が不明なのですが、大麦の放射性セシウム濃度を1とした時にビールのセシウム濃度がが0.11という理解をすれば、それほど違っていないと思います。わかりにくいと思う方は、お茶の時に同様の計算をしていますので、「6/13 静岡県HPでのお茶の放射性セシウムの表記について補足」をご覧下さい。(お茶の場合でも、抽出率は約50%ですが、体積として43倍に希釈されるので、製茶の1/85という濃度になります。ビールは大麦→ビールで体積として約5-6倍の希釈ということです。)
ですから、460Bq/kgの大麦からビールを造ったら?という問いに対しては、大麦の0.07~0.11程度になると考えておけばいいと思います。(必要なデータが細かくは公開されていないので、2倍程度のずれはあるかもしれません。)
低めの数値で0.07として、
460Bq/kg×0.07=32.2Bq/kg=32.2Bq/L
という推定ができます。
ビールを造る国産二条大麦である、栃木県産の大麦は、平均で約32Bq/kgでしたから、同様の計算をすると、
32Bq/kg×0.07=2.24Bq/kg=2.24Bq/L
となります。つまり、今年の栃木県の大麦(平均32Bq/kg)を用いてビールを作った場合、2Bq/kg程度の放射性セシウムが入っている可能性があるということです。
おそらくこの数値ならば、検出感度をよほど高くしないと「不検出」とされてしまうでしょう。そういう意味では、飲用茶中のわずか4Bq/Lの放射性セシウムをしっかりと検出してそれを公表した静岡県の姿勢はいいと思います。お米の放射性物質でも、静岡県は2Bq/kgまで検出していて好感が持てます。
なお、最後にこの仮定(大麦の7-11%の濃度でビールに放射性セシウムが出る)が大きくずれていないかどうかの検算をしておきます。
今年のデータを見ていても、どこの県でも小麦と大麦はほぼ同じレベルの数値なので、1960年代もそうだったと仮定すると、小麦で1963年に約43Bq/kgとなっていますので、1963年には大麦も40Bq/kg近くあったと考えられます。その7-11%とすればビール中に3-4Bq/L=3-4Bq/kg検出されてもおかしくありません。最初のグラフにあった数値と大きなずれはありません。
従って、この仮定は2-3倍高めに見積もっている可能性はあるものの、10倍以上高いことはないと思います。この数値をどう取るかは読んだ方の判断にお任せします。実際には、これくらい(2.24Bq/kg)の数値の食べ物は、牛肉を初めとして現在はいくらでも出回っていると思います。
実は、このことについては私自身も同じ疑問を感じていました。それは、このグラフを見た時からです。これは、放射線科学センターの「暮らしの中の放射線」の中の1ページです。

1960年代には、地上核実験によって放射性セシウムなどが結構降り注いでいたことは今ではご存じの方も多いと思います。この図は、今年の米の放射性セシウム量を予想するための資料として利用していたのですが、そこに何気なく書いてあった日本産ビール1L中のCs-137の量が、実は白米と同じくらいのレベルで、1964年には3.5Bq/kg=3.5Bq/L(ビールの比重を1として)あったということがデータとして示されていたのです。
そして、今年の小麦、大麦の放射性セシウムのデータを見ていくと、「不検出」というデータは少なく、少ないながらも検出されているケースが多いことに気がつきました。ですので、「7/24 今年の米の放射性セシウムによる汚染具合を予想する!補足1」においても大麦とビールの関係は気になる、と書いておきました。
今回同じように二条大麦とビールの関係を指摘する方が出てきたので、情報量が少ないながらもわかった範囲で記載します。本来ならばビール会社のHPに情報が公開されるべきと思うのですが、ビールに使用する水は大丈夫とは書いてありますが、使用する大麦について今のところは記載がありません。この記事をきっかけにして、今年の日本産大麦を用いてビールを作っているのか、もし作ったらどれくらいビール中に放射性セシウムが来るのかを明らかにして欲しいです。
大麦に関する情報
まず、基本的なデータです。農水省のHPには、大麦の生産について基本的な統計があります。
まず、大麦の基本的な分類です。

次に、国産大麦の全体的な使用料に占める割合です。上のグラフにあった1964年、つまり昭和40年頃は国産が3/4ちかくあったのに、5年前の2006年にはわずか7%となっていることがわかります。これは、麦芽輸入の自由化、内外価格差の拡大などによるものだそうです。

二条大麦の生産は、地域別に見ると1位が佐賀県、2位が栃木県です。

その栃木県の二条大麦は、「2006年のビール4社と、国内すべてのビール麦産地との契約数量は約8万6000トン(うち約4割が本県産)です。実際に売り渡された量では、本県産は全国の半数を超えています。ビール醸造には高い品質の麦芽が要求されます。全国契約数量の割合を大幅に超える割合で売り渡されていることは、県産ビール麦の品質の良さの証しでもあります。」ということだと4年前のJAのある記事(Googleのキャッシュです)には書いてありました。
では、栃木の二条大麦は今年どうなのでしょうか?栃木県の発表しているデータ(8/15)を元に二条大麦だけをまとめると下記のようになります。たくさんの検体を測定しているのに、詳細を出してくれないので正確に計算できませんが、多検体を測定している場合は、中央値(NDを0としてND~84ならば0と84の中間で42とする)を求めました。すると栃木県全域の二条大麦の放射性セシウムは約32Bq/kgです。当初はもう少し高い50Bq/kgだったのですが、NDの地区が出てきたので低めになりました。

9地区中7地区で検出されていることに注目です。あと、佐野市のデータが出れば全地区のデータが出そろうことになります。
大麦からビールへの移行率は?
さて、基本的なデータが出そろったところで、大麦からビールにどれくらい抽出されるのかの概算をしてみましょう。ビール会社のHPをいろいろと見たのですが、そのようなデータは載っていませんでした。
キリンビール:原料の調達について言及あるがそれだけ。
アサヒビール:「安全性の確認を徹底しています」のみ
サッポロビール:確認しているといいつつ公開せず
サントリービール:水しかチェックせず
ですが、論文には大麦からビールへの移行についてチェルノブイリの時のデータを調べた人がいます。要約の日本語が農水省の食品総合研究所のHPにあります(文献リストの21番目)。そこから若干修正して引用します。回収率として約35%がビール中に回収されたとあります。
大麦からビールへのセシウム137の移行
『チェルノブイリ事故の結果、セシウム137で汚染された大麦からビールが醸造されてきている。醸造のすべての工程および製造プロセスのすべての副産物について、セシウム137の放射能を測定した。その結果、大麦のセシウム137の約35%がビール中に回収された。加工品と生原料との濃度比として定義される加工処理率(processing factor)は、麦芽が0.61、大麦胚芽3.3、ビール粕0.1、ビール0.11となった、としている。』
そこで、ビール1Lを作るのに必要な大麦(麦芽)の量を知りたいと思って調べました。すると、個人でビールを造った方?のサイトに下記の記述がありました(真ん中あたり)。
『・ビール造り
ビール1リットルあたりの必要原料は麦芽(大麦であれ他の麦であれ)120-200g、ホップ1.5g-2.0g(乾燥毬花16-20個)、消毒・洗浄用の水10リットル。』
大麦(麦芽)200gからビール1Lができるということです。商業生産では多少比率が違うと思いますが、それほど多くは違わないでしょう。
大麦と麦芽はほぼ等量と考えると、大麦のセシウムが100%ビールに移行したとしても、200g→1L=1kgになるので1/5にセシウム濃度は低下します。
抽出率は約35%という論文がありますので、1/5×0.35=0.07ということで大麦の濃度の7%という換算ができます。先ほどの論文では、加工処理率という言葉の定義が不明なのですが、大麦の放射性セシウム濃度を1とした時にビールのセシウム濃度がが0.11という理解をすれば、それほど違っていないと思います。わかりにくいと思う方は、お茶の時に同様の計算をしていますので、「6/13 静岡県HPでのお茶の放射性セシウムの表記について補足」をご覧下さい。(お茶の場合でも、抽出率は約50%ですが、体積として43倍に希釈されるので、製茶の1/85という濃度になります。ビールは大麦→ビールで体積として約5-6倍の希釈ということです。)
ですから、460Bq/kgの大麦からビールを造ったら?という問いに対しては、大麦の0.07~0.11程度になると考えておけばいいと思います。(必要なデータが細かくは公開されていないので、2倍程度のずれはあるかもしれません。)
低めの数値で0.07として、
460Bq/kg×0.07=32.2Bq/kg=32.2Bq/L
という推定ができます。
ビールを造る国産二条大麦である、栃木県産の大麦は、平均で約32Bq/kgでしたから、同様の計算をすると、
32Bq/kg×0.07=2.24Bq/kg=2.24Bq/L
となります。つまり、今年の栃木県の大麦(平均32Bq/kg)を用いてビールを作った場合、2Bq/kg程度の放射性セシウムが入っている可能性があるということです。
おそらくこの数値ならば、検出感度をよほど高くしないと「不検出」とされてしまうでしょう。そういう意味では、飲用茶中のわずか4Bq/Lの放射性セシウムをしっかりと検出してそれを公表した静岡県の姿勢はいいと思います。お米の放射性物質でも、静岡県は2Bq/kgまで検出していて好感が持てます。
なお、最後にこの仮定(大麦の7-11%の濃度でビールに放射性セシウムが出る)が大きくずれていないかどうかの検算をしておきます。
今年のデータを見ていても、どこの県でも小麦と大麦はほぼ同じレベルの数値なので、1960年代もそうだったと仮定すると、小麦で1963年に約43Bq/kgとなっていますので、1963年には大麦も40Bq/kg近くあったと考えられます。その7-11%とすればビール中に3-4Bq/L=3-4Bq/kg検出されてもおかしくありません。最初のグラフにあった数値と大きなずれはありません。
従って、この仮定は2-3倍高めに見積もっている可能性はあるものの、10倍以上高いことはないと思います。この数値をどう取るかは読んだ方の判断にお任せします。実際には、これくらい(2.24Bq/kg)の数値の食べ物は、牛肉を初めとして現在はいくらでも出回っていると思います。
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