9/1 環境研が発表した放射性物質のシミュレーション:22%が陸地に沈着
少し遅くなりましたが、8/25に、独立行政法人国立環境研究所は、「東京電力福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の大気中での挙動に関するシミュレーションの結果について 」という発表を行いました。
これはあくまでシミュレーションの結果なので、実測値とは違いますが、シミュレーション結果の一部と実測値を比べると、概ね合致しているところが多いので、それなりに信頼できるシミュレーションだと思います。
簡単に解説します。
環境研では、『大気中での移流・拡散・沈着過程のシミュレーション(大気輸送沈着シミュレーション)を実施しました。その結果、放射性物質の影響は福島県以外に、宮城県や山形県、岩手県、関東1都6県、静岡県、山梨県、長野県、新潟県など広域に及んでいることが明らかになりました。』
つまり、このシミュレーションには4月に海洋に流出した汚染物質の話は入っていないということです。
『シミュレーションには、米国環境保護庁で開発された三次元化学輸送モデル(CMAQ)を改良して利用し、図1の領域(水平分解能6km)(下に示しました)において放射性物質の放出・移流・拡散・乾性沈着・湿性沈着の過程を計算した。』
モデルに関しては複雑なので私も理解できていません。詳細は省略します。

また、どのような形状で飛んでいったかということは重要な要素なのですが、『本研究ではヨウ素131はガス態と粒子態の割合が8:2で、セシウム137は全て粒子態と仮定した。』その理由として、『主にガス態で存在するヨウ素131は、大気から地表面へ直接沈着する乾性沈着が主要であるのに対して、粒子態として存在するセシウム137は雨や雲へ取り込まれた後の湿性沈着が支配的と推計された。』ということです。
湿性沈着というのは、ガスや粒子が雨や雪に取りこまれて地面や海面に降下することで、これに対して乾性沈着とは、大気中のガスや粒子が、拡散や重力、化学的な力などによって地面や海面に降下することをいうそうです。ですから、主にガス態で存在するI-131は、大気から地表面へ直接沈着する乾性沈着が主要であるのに対して、粒子態として存在するCs-137は雨や雲へ取り込まれた後の湿性沈着が多い、という話は合っていると思います。
このモデルにおいて計算された沈着量と文部科学省による定時降下物の観測データとの比較結果が示されています。Wetというのは湿性沈着です。Totalというのは、乾性沈着と湿性沈着を足した合計の総沈着量のことです。

青字の総沈着量と観測値を比べると、まあまあ合っている結果だと思います。
では、このシミュレーションで何が一番重要な結果かというと、次の点です。
『福島第一原発で放出されたヨウ素131の13%、セシウム137の22%が日本の陸地に沈着して、残りは海洋に沈着するか、モデル計算領域外に輸送されると推計されました。』
これは、もう少し詳しく見ると、次の表に書いてあります。これは、先ほどの記者発表用の資料ではなく、投稿した論文(英語)の表から取ってきています。日本語訳はつけてあります(図をクリックで拡大できます)。

この表で黄色くマーカーをつけたところ、つまり上の計算に出てきたCs-137の22%、I-131の13%が日本の陸地に沈着したということになります。ここでは、原子力安全委員会で報告された、I-131で15万テラベクレル(1.5×10^17 Bq)、Cs-137で12000テラベクレル(1.2×10^16 Bq)という数値を元にしています。つまりこの試算によれば、12000テラベクレルの22%ですから2640テラベクレル=2640兆Bq(2.64×10^15 Bq)が陸地に沈着したという計算です。なお、保安院は後に見積もりの数値を2倍近くに訂正していますので、2倍近い可能性もあります。
では、あとはどこへ行ったのか?もうほとんど減衰してなくなってしまったI-131は無視して、Cs-137に絞ります。海洋に約10%行った計算になっているほか、移流という項目で、東に46%行っていることになっています。つまり、福島第一原発の東ですからこれも海ですよね。海と行っても、このシミュレーションでは上の地図のように東経144度まではカバーしていますから、それよりも東ということです。太平洋を渡っていくのかもしれません。最後の移流のところを一般公開用の資料では削除したのは、陸地に沈着した22%の倍に当たる、50%近くが太平洋に行ってしまった可能性があることを伏せたいのでしょうか?
なお、詳細を知りたい方は、下記の資料も読んでみてください。
福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の大気輸送沈着シミュレーション
(注意:この↑ファイルは、アニメーションGIFが6個も埋め込まれていて非常に重いです。)
民主党原発事故影響対策PTでの説明(日本語)
投稿した論文(英語)
ここまではシミュレーションの解説です。ここからは私の独自の考えを述べていきます。
今回は、二つだけこの数字の持つ意味を紹介します。
まず最初にもふれましたが、地上に放出された中で海に降り注いだ量と、4月に海洋に流出した分の比率についてです。
地上に放出された分の中で海洋に約10%ということですので、12000テラベクレルの10%ですから陸地1200テラベクレルが海洋に行ったということになります。
一方、4月に海に流出した分は、「6/19 福島原発の放射能汚染水の全容を紹介します!その2詳細編」を見ていただければわかるのですが、520トンで4700テラベクレルです。(ちなみに、5月の3号機からの流出は250トンで20テラベクレルですが、ほとんど無視できます。)
ということは、地上に放出された中で海洋に行った放射性セシウムは、1200テラベクレルで、4月に2号機から流出した4700テラベクレルの1/4しかないということになります。
また陸地に沈着した放射性セシウムが22%で2640テラベクレルとすると、2号機から流出した量の半分にしかならないということです。海洋に流出した量の多さがわかると思います。
もう一つは、今後陸地で循環する放射性セシウムの量のことです。
陸地に沈着というのは、土壌に沈着とは違います。もちろん、この中でも土壌中に沈着して循環しなくなるものもあると思うのですが、コンクリート面に沈着したり、地表にあるうちに雨で流されたものは環境中で循環します。そして、「8/18 福島原発から大量にまき散らされたセシウムなどの再循環の現況と課題」で書いたように、多くは、埋め立てるなりして完全に循環しない形にしない限り、今後も環境中を何十年も循環するのです。
今、除染という話が出ていますが、これは多くの場合、「除染」ではなく放射性物質の「移動」です。これに関してはいずれ改めて書こうと思っていますが、循環する放射性セシウムが、どれくらいの量になるのか、イメージを持つために一つ簡単な計算をしてみましょう。
2640テラベクレルのうち、多くは土壌に吸収されるとして、2割が循環するとします。そうすると約500テラベクレル。これがどれだけの量かということを今下水処理場や焼却場で問題となっている汚泥に換算します。
どうしてこういう換算をするかというと、単に表土をはぎ取るようないわゆる「除染」は体積ばかり増えて効率が悪く、効率のいいセシウムの収集方法は浄水場、下水処理場から出る汚泥や焼却場から出る灰なので、ここでセシウムを全部トラップしようとするとどれくらいの量になるかということをイメージするためです。
放射性セシウムの濃度が10万Bq/kgの汚泥があったとすると、500テラベクレルとは、500兆Bqのことですから、500兆÷10万=50億kg=500万トンです。実際にはそんなに濃い汚泥はまだほとんどないので、埋め立てできないギリギリくらいの8000Bq/kgだとすると、500兆÷8000=625億kg=6250万トンです。
「8/18 福島原発から大量にまき散らされたセシウムなどの再循環の現況と課題」で書いたように、現在、問題になっているのは浄水発生土で約9万トンですから、その約700倍です。実際には、山林などで処理のしようがない放射性セシウムがかなりあるでしょうからさらにそれを差し引いたとして、都市部で循環する放射性セシウムは現在問題になっている量の100倍の単位であるということを認識しておく必要があります。ここでは細かい計算は間違っていても、オーダーが合っていればかまわないという考えで、いくつかの仮定を置いて非常に荒い計算をしています。
現在問題になっている100倍の量のセシウム廃棄物(数千万トン)をどうやって処理するのかを考えておかないと、本当の「除染」はできないのです。
つまり、このシミュレーションには4月に海洋に流出した汚染物質の話は入っていないということです。
『シミュレーションには、米国環境保護庁で開発された三次元化学輸送モデル(CMAQ)を改良して利用し、図1の領域(水平分解能6km)(下に示しました)において放射性物質の放出・移流・拡散・乾性沈着・湿性沈着の過程を計算した。』
モデルに関しては複雑なので私も理解できていません。詳細は省略します。

また、どのような形状で飛んでいったかということは重要な要素なのですが、『本研究ではヨウ素131はガス態と粒子態の割合が8:2で、セシウム137は全て粒子態と仮定した。』その理由として、『主にガス態で存在するヨウ素131は、大気から地表面へ直接沈着する乾性沈着が主要であるのに対して、粒子態として存在するセシウム137は雨や雲へ取り込まれた後の湿性沈着が支配的と推計された。』ということです。
湿性沈着というのは、ガスや粒子が雨や雪に取りこまれて地面や海面に降下することで、これに対して乾性沈着とは、大気中のガスや粒子が、拡散や重力、化学的な力などによって地面や海面に降下することをいうそうです。ですから、主にガス態で存在するI-131は、大気から地表面へ直接沈着する乾性沈着が主要であるのに対して、粒子態として存在するCs-137は雨や雲へ取り込まれた後の湿性沈着が多い、という話は合っていると思います。
このモデルにおいて計算された沈着量と文部科学省による定時降下物の観測データとの比較結果が示されています。Wetというのは湿性沈着です。Totalというのは、乾性沈着と湿性沈着を足した合計の総沈着量のことです。

青字の総沈着量と観測値を比べると、まあまあ合っている結果だと思います。
では、このシミュレーションで何が一番重要な結果かというと、次の点です。
『福島第一原発で放出されたヨウ素131の13%、セシウム137の22%が日本の陸地に沈着して、残りは海洋に沈着するか、モデル計算領域外に輸送されると推計されました。』
これは、もう少し詳しく見ると、次の表に書いてあります。これは、先ほどの記者発表用の資料ではなく、投稿した論文(英語)の表から取ってきています。日本語訳はつけてあります(図をクリックで拡大できます)。

この表で黄色くマーカーをつけたところ、つまり上の計算に出てきたCs-137の22%、I-131の13%が日本の陸地に沈着したということになります。ここでは、原子力安全委員会で報告された、I-131で15万テラベクレル(1.5×10^17 Bq)、Cs-137で12000テラベクレル(1.2×10^16 Bq)という数値を元にしています。つまりこの試算によれば、12000テラベクレルの22%ですから2640テラベクレル=2640兆Bq(2.64×10^15 Bq)が陸地に沈着したという計算です。なお、保安院は後に見積もりの数値を2倍近くに訂正していますので、2倍近い可能性もあります。
では、あとはどこへ行ったのか?もうほとんど減衰してなくなってしまったI-131は無視して、Cs-137に絞ります。海洋に約10%行った計算になっているほか、移流という項目で、東に46%行っていることになっています。つまり、福島第一原発の東ですからこれも海ですよね。海と行っても、このシミュレーションでは上の地図のように東経144度まではカバーしていますから、それよりも東ということです。太平洋を渡っていくのかもしれません。最後の移流のところを一般公開用の資料では削除したのは、陸地に沈着した22%の倍に当たる、50%近くが太平洋に行ってしまった可能性があることを伏せたいのでしょうか?
なお、詳細を知りたい方は、下記の資料も読んでみてください。
福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の大気輸送沈着シミュレーション
(注意:この↑ファイルは、アニメーションGIFが6個も埋め込まれていて非常に重いです。)
民主党原発事故影響対策PTでの説明(日本語)
投稿した論文(英語)
ここまではシミュレーションの解説です。ここからは私の独自の考えを述べていきます。
今回は、二つだけこの数字の持つ意味を紹介します。
まず最初にもふれましたが、地上に放出された中で海に降り注いだ量と、4月に海洋に流出した分の比率についてです。
地上に放出された分の中で海洋に約10%ということですので、12000テラベクレルの10%ですから陸地1200テラベクレルが海洋に行ったということになります。
一方、4月に海に流出した分は、「6/19 福島原発の放射能汚染水の全容を紹介します!その2詳細編」を見ていただければわかるのですが、520トンで4700テラベクレルです。(ちなみに、5月の3号機からの流出は250トンで20テラベクレルですが、ほとんど無視できます。)
ということは、地上に放出された中で海洋に行った放射性セシウムは、1200テラベクレルで、4月に2号機から流出した4700テラベクレルの1/4しかないということになります。
また陸地に沈着した放射性セシウムが22%で2640テラベクレルとすると、2号機から流出した量の半分にしかならないということです。海洋に流出した量の多さがわかると思います。
もう一つは、今後陸地で循環する放射性セシウムの量のことです。
陸地に沈着というのは、土壌に沈着とは違います。もちろん、この中でも土壌中に沈着して循環しなくなるものもあると思うのですが、コンクリート面に沈着したり、地表にあるうちに雨で流されたものは環境中で循環します。そして、「8/18 福島原発から大量にまき散らされたセシウムなどの再循環の現況と課題」で書いたように、多くは、埋め立てるなりして完全に循環しない形にしない限り、今後も環境中を何十年も循環するのです。
今、除染という話が出ていますが、これは多くの場合、「除染」ではなく放射性物質の「移動」です。これに関してはいずれ改めて書こうと思っていますが、循環する放射性セシウムが、どれくらいの量になるのか、イメージを持つために一つ簡単な計算をしてみましょう。
2640テラベクレルのうち、多くは土壌に吸収されるとして、2割が循環するとします。そうすると約500テラベクレル。これがどれだけの量かということを今下水処理場や焼却場で問題となっている汚泥に換算します。
どうしてこういう換算をするかというと、単に表土をはぎ取るようないわゆる「除染」は体積ばかり増えて効率が悪く、効率のいいセシウムの収集方法は浄水場、下水処理場から出る汚泥や焼却場から出る灰なので、ここでセシウムを全部トラップしようとするとどれくらいの量になるかということをイメージするためです。
放射性セシウムの濃度が10万Bq/kgの汚泥があったとすると、500テラベクレルとは、500兆Bqのことですから、500兆÷10万=50億kg=500万トンです。実際にはそんなに濃い汚泥はまだほとんどないので、埋め立てできないギリギリくらいの8000Bq/kgだとすると、500兆÷8000=625億kg=6250万トンです。
「8/18 福島原発から大量にまき散らされたセシウムなどの再循環の現況と課題」で書いたように、現在、問題になっているのは浄水発生土で約9万トンですから、その約700倍です。実際には、山林などで処理のしようがない放射性セシウムがかなりあるでしょうからさらにそれを差し引いたとして、都市部で循環する放射性セシウムは現在問題になっている量の100倍の単位であるということを認識しておく必要があります。ここでは細かい計算は間違っていても、オーダーが合っていればかまわないという考えで、いくつかの仮定を置いて非常に荒い計算をしています。
現在問題になっている100倍の量のセシウム廃棄物(数千万トン)をどうやって処理するのかを考えておかないと、本当の「除染」はできないのです。
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