9/3 防災の日特集を見て考えたこと-東京に3mの津波が来たら地下鉄に要注意-
9/1は防災の日ということで、NHKスペシャル 「巨大津波が都市を襲う~東海 東南海 南海地震」という特集番組が組まれていました。その中で、東海・東南海・南海地震の3連動型の地震が起きたときに津波はどうなるのか?というシミュレーションがありました。
高知県には最大20mもの津波が来るかもしれない、という予想や、名古屋港は壊滅するかもしれないという予想を見て、これは日本経済に与える打撃が壊滅的であるということは何となくイメージできました。
でも、関東に住む私が個人的に知りたかったのは、東京には津波はどれくらい来るのか?ということなのです。上の番組でも、東大地震研究所の古村孝志教授のシミュレーションで大阪湾にも大きな津波が押し寄せることは言及されていましたが、東京湾については何もふれていませんでした。仕方ないので、自分でわかる範囲で調べてみることにしました。
実は、この疑問は私の中では「意外に知らない「津波」の正体~夏休みに学び直すには最適な入門書」という日経BPのサイトを見たときから始まっていたのです。
このコラムで紹介されている、河田惠昭さんの書いた「津波災害」(岩波新書)は、書店にも平積みで置いてあることが多く、3.11の後に発行された本の一つかな、と思ってしまいます。でも、その発行日付を見てびっくり!2010年12月17日に第1刷が発行されています。
「津波災害」のまえがきにはこんなことが書いてあります。当然、2010年12月時点での記載です。
『・・・・近年の津波被害では、住民の避難率が大変低いことはすでに問題になっていた。しかも、年々これが低くなっているのである。
「こんなことではとんでもないことになる」というのが長年、津波防災・減災を研究してきた私の正直な感想であり、一気に危機感を募らせてしまった。沿岸の住民がすぐに避難しなければ、近い将来確実に起こると予想されている、東海・東南海・南海地震津波や三陸津波の来襲に際して、万を超える犠牲者が発生しかねない、という心配である。・・・』
この本を多くの人が3.11の前に読んでいたら、と思いますよね。実際に、アマゾンのカスタマーレビューを読むと、こんな印象的な書評もありました。これを書いた方は仙台市に住む人です。
『本書が刊行されたのは震災の三ヶ月前。忙しくて後で読もうと思って積んでおいた。3月11日の大震災の後、電気が復旧して津波の大惨事を初めて知った。ぐしゃぐしゃになった部屋から何とか引っ張り出してこの本を夜通し読んだ。親戚が津波で行方不明になってたので(後で亡くなったことが確認された)悔しくて泣きながら読んだ。本書は完璧とは言えないかもしれないけど間違いなく良い内容だった。読み終わった後この本を壁に投げつけた。叩きつけた。こんな事初めてだった。なんでこの本を読んでなかったんだろうと思いながら。』
この本を買って読んでみると、津波の原理のような部分は専門的でよくわからない記述もあるのですが、普段からどう備えていて、どう行動するべきかという、誰にでもできるし誰もが行わなければいけない実践科学的なことも書いてあります。山岳地帯に住む人は別として、沿岸に住む多くの日本人にとって津波は無関係ではありませんので、是非読んでみることをおすすめします。
さて、前置きがかなり長くなりました。「津波災害」でも、著者の河田惠昭さんは内閣府の「大規模水害対策に関する専門調査会」において専門調査会の副座長をしていた経験もあり、東京における津波被害の可能性についても充分にシミュレーションできるということで、第4章で詳しく記載されています。ただ、私の知りたかった情報(東京のどこまでが浸水するのか)はあまり詳しく記載がありません。そこで調べてみると、東京湾の津波の話は、東日本大震災の直後にいろいろな人が疑問に思ったようで、ブログなどでもまとめてくれている人がいました。なのでそれをトレースしていけばいいので比較的楽にわかりました
アット東京 自然災害(津波)

このサイトでは、津波がどういうものか説明して、上の図のように東京湾のように間口が狭い湾内では、比較的津波は高くならずにすむ、ということが書いてあります。中央防災会議「首都直下地震対策専門委員会」が2004年11月17日に発表した内容によると、東京湾内で最高の津波の高さとなるのは、東京湾内直下型の地震で、その津波の高さは50cm未満と想定しています、との記載です。
でも、50cmというのは事実に反します。2004年時点の想定では、東日本大震災のような地震・津波は想定できなかったので仕方ないでしょうが、過去の事例くらいは確認しないといけません。二つの例を挙げておきます。
まず、記録として、1703年の元禄地震の際、品川でも2mの津波が来ていたという記録があります(元禄地震津波)。このサイトでは信用できないという人には、こちらの記事の方がいいかもしれません(日経新聞2011年5月2日)。ただ、元禄地震は2000年に一度程度の割合で起こるものなので、300年前に起こっているから当分起こらないだろうということになっているようです。
次に、3月の東日本大震災の時に、東京湾にも1.5mの津波が来ていたそうです。
日刊ゲンダイ(2011年6月2日)より
『東日本大震災では、震源から400キロ以上も離れた東京湾で1.5メートルの津波を観測。もちろん東京都の想定(1.2メートル)を超える大きさだ。なぜ起きたのか。千葉大学の山崎文雄教授(都市基盤工学)はこう言う。
「東京湾は湾口が狭いため、外で起きた津波が入りにくいのですが、今回の津波は、房総半島を回り込んで東京湾に入ったと考えられます。今後、関東地震で東京湾の入り口で大きい地震が起きた場合、数メートルの津波が来ることは想定しておいたほうがいいでしょう」』
日刊ゲンダイということで多少差し引いて読むとしても、こちらの東京新聞の記事にははっきりと木更津で2mと記載されています東京新聞(2011年4月8日)。東日本大震災において、木更津では2mの津波がありました。東京湾では最大級だっただろうということです。おそらく気象庁かどこかに正式な記録があるのでしょうが、ちょっと探せませんでした。
50cmということはないとすると、最大でどれくらいの津波が来る可能性があるのか?先ほどの中央防災会議のサイトにはいろいろな資料があります。また、地震による津波災害の歴史を見ても、いろいろと過去のデータを知ることができます。
こうやって、記録の残っている限りのデータを見てみると、やはり、東京の津波は、せいぜい2mくらいの可能性が高い(東京湾といっても千葉や神奈川の方はもう少し高い)というのがこれまでの資料から言えることです。でも、東日本大震災でわかったように、過去数百年の記録だけを元に考えるのではなくもう少し大きな津波が来るとして、3mとしましょう。「津波災害」にも東京湾に3mの高潮が来たときの氾濫図が記載されていますので、河田惠昭さんもこれくらいを想定しているのだと思います。するとどうなるのか?
実は、一番怖いのは地下鉄及び地下街なのです。以下の話はあくまで防潮堤などが地震で被害を受けて機能しなくて浸水が起こった場合にどういうことが想定されるか?という話です。3mの津波でこれが起こるかどうかはわかりません。
「津波災害」の著者の河田惠昭さんは、内閣府の「大規模水害対策に関する専門調査会」において専門調査会の副座長をしていたと書きましたが、「大規模水害対策に関する専門調査会」では、津波ではないですが、台風などで荒川の堤防が決壊したらどうなるか、というシミュレーションをしています。百聞は一見にしかず、このシミュレーション(34ページ以降)を見てください。このシミュレーションは200年に一度の洪水で荒川の堤防が決壊したという想定で作っていますが、津波でも一度浸水が起これば同じようなものだと思うので紹介します。いくつか想定がありますが、ここでは足立区の右岸12.5km(北千住の付近)で決壊が起こったという想定です。
左側は現状(2010年)、右側は対策を取った場合です。


赤いラインが地下鉄の浸水状況の予測なのですが、わずか72時間で、北千住の付近で決壊した堤防は地下鉄千代田線を通って東京のほとんどの地下鉄に広がってしまいます。東京は、地下鉄の駅付近は地下街が発達していますので、これらを通じての被害も広がります。こうなったら、当分地下鉄は使えないですよね。
このシミュレーションは台風をイメージした洪水予測ですが、台風の場合は、準備ができるので対応が取れると思います。でも、もし地震で停電になり、どこかもろくなった防波堤から津波が押し寄せてきたら、台風の時とは異なり、このような地下鉄対策は取れないでしょう。
そうすると、出発点はどこになるかわかりませんが、これと似たようなことが起こる可能性があります。3mもの津波が東京に押し寄せてきて、どこかの堤防から浸水して、という仮定を置いているので、それが起こる可能性がどれくらいなのかはわかりません。ただ、東京で暮らしている人にとっては、いざ津波を伴うような大地震が起きたら、地下鉄・地下街からは逃げ出すべし、ということは頭の片隅に入れておく必要があります。
「津波災害」には、東京の地下鉄に10カ所水門が設けてあるということなので、実際はそれで遮断するのかもしれません。また、上の図の右側のように対策を取れば、かなり被害を減らせるという提言がなされていますので、実行してくれていることを願うのみです。
私は東京についてしか見ませんでしたが、東海・東南海・南海地震が連動した場合、大阪も津波が来るかもといわれています。最初に紹介したNHKの番組でも大阪湾へ津波が押し寄せるというシミュレーション結果が出ていました。実際、過去にも来ていた形跡があるようです。上記にあげた資料は、関東以外のデータが載っているものも多いですし、ここに出てきたキーワードを用いて検索すれば大阪についても調べることは簡単にできると思います。おそらく大阪も一度浸水すれば、地下鉄、地下街がやられることは想像に難くありません。関西の方は是非一度調べてみてください。
このコラムで紹介されている、河田惠昭さんの書いた「津波災害」(岩波新書)は、書店にも平積みで置いてあることが多く、3.11の後に発行された本の一つかな、と思ってしまいます。でも、その発行日付を見てびっくり!2010年12月17日に第1刷が発行されています。
「津波災害」のまえがきにはこんなことが書いてあります。当然、2010年12月時点での記載です。
『・・・・近年の津波被害では、住民の避難率が大変低いことはすでに問題になっていた。しかも、年々これが低くなっているのである。
「こんなことではとんでもないことになる」というのが長年、津波防災・減災を研究してきた私の正直な感想であり、一気に危機感を募らせてしまった。沿岸の住民がすぐに避難しなければ、近い将来確実に起こると予想されている、東海・東南海・南海地震津波や三陸津波の来襲に際して、万を超える犠牲者が発生しかねない、という心配である。・・・』
この本を多くの人が3.11の前に読んでいたら、と思いますよね。実際に、アマゾンのカスタマーレビューを読むと、こんな印象的な書評もありました。これを書いた方は仙台市に住む人です。
『本書が刊行されたのは震災の三ヶ月前。忙しくて後で読もうと思って積んでおいた。3月11日の大震災の後、電気が復旧して津波の大惨事を初めて知った。ぐしゃぐしゃになった部屋から何とか引っ張り出してこの本を夜通し読んだ。親戚が津波で行方不明になってたので(後で亡くなったことが確認された)悔しくて泣きながら読んだ。本書は完璧とは言えないかもしれないけど間違いなく良い内容だった。読み終わった後この本を壁に投げつけた。叩きつけた。こんな事初めてだった。なんでこの本を読んでなかったんだろうと思いながら。』
この本を買って読んでみると、津波の原理のような部分は専門的でよくわからない記述もあるのですが、普段からどう備えていて、どう行動するべきかという、誰にでもできるし誰もが行わなければいけない実践科学的なことも書いてあります。山岳地帯に住む人は別として、沿岸に住む多くの日本人にとって津波は無関係ではありませんので、是非読んでみることをおすすめします。
さて、前置きがかなり長くなりました。「津波災害」でも、著者の河田惠昭さんは内閣府の「大規模水害対策に関する専門調査会」において専門調査会の副座長をしていた経験もあり、東京における津波被害の可能性についても充分にシミュレーションできるということで、第4章で詳しく記載されています。ただ、私の知りたかった情報(東京のどこまでが浸水するのか)はあまり詳しく記載がありません。そこで調べてみると、東京湾の津波の話は、東日本大震災の直後にいろいろな人が疑問に思ったようで、ブログなどでもまとめてくれている人がいました。なのでそれをトレースしていけばいいので比較的楽にわかりました
アット東京 自然災害(津波)

このサイトでは、津波がどういうものか説明して、上の図のように東京湾のように間口が狭い湾内では、比較的津波は高くならずにすむ、ということが書いてあります。中央防災会議「首都直下地震対策専門委員会」が2004年11月17日に発表した内容によると、東京湾内で最高の津波の高さとなるのは、東京湾内直下型の地震で、その津波の高さは50cm未満と想定しています、との記載です。
でも、50cmというのは事実に反します。2004年時点の想定では、東日本大震災のような地震・津波は想定できなかったので仕方ないでしょうが、過去の事例くらいは確認しないといけません。二つの例を挙げておきます。
まず、記録として、1703年の元禄地震の際、品川でも2mの津波が来ていたという記録があります(元禄地震津波)。このサイトでは信用できないという人には、こちらの記事の方がいいかもしれません(日経新聞2011年5月2日)。ただ、元禄地震は2000年に一度程度の割合で起こるものなので、300年前に起こっているから当分起こらないだろうということになっているようです。
次に、3月の東日本大震災の時に、東京湾にも1.5mの津波が来ていたそうです。
日刊ゲンダイ(2011年6月2日)より
『東日本大震災では、震源から400キロ以上も離れた東京湾で1.5メートルの津波を観測。もちろん東京都の想定(1.2メートル)を超える大きさだ。なぜ起きたのか。千葉大学の山崎文雄教授(都市基盤工学)はこう言う。
「東京湾は湾口が狭いため、外で起きた津波が入りにくいのですが、今回の津波は、房総半島を回り込んで東京湾に入ったと考えられます。今後、関東地震で東京湾の入り口で大きい地震が起きた場合、数メートルの津波が来ることは想定しておいたほうがいいでしょう」』
日刊ゲンダイということで多少差し引いて読むとしても、こちらの東京新聞の記事にははっきりと木更津で2mと記載されています東京新聞(2011年4月8日)。東日本大震災において、木更津では2mの津波がありました。東京湾では最大級だっただろうということです。おそらく気象庁かどこかに正式な記録があるのでしょうが、ちょっと探せませんでした。
50cmということはないとすると、最大でどれくらいの津波が来る可能性があるのか?先ほどの中央防災会議のサイトにはいろいろな資料があります。また、地震による津波災害の歴史を見ても、いろいろと過去のデータを知ることができます。
こうやって、記録の残っている限りのデータを見てみると、やはり、東京の津波は、せいぜい2mくらいの可能性が高い(東京湾といっても千葉や神奈川の方はもう少し高い)というのがこれまでの資料から言えることです。でも、東日本大震災でわかったように、過去数百年の記録だけを元に考えるのではなくもう少し大きな津波が来るとして、3mとしましょう。「津波災害」にも東京湾に3mの高潮が来たときの氾濫図が記載されていますので、河田惠昭さんもこれくらいを想定しているのだと思います。するとどうなるのか?
実は、一番怖いのは地下鉄及び地下街なのです。以下の話はあくまで防潮堤などが地震で被害を受けて機能しなくて浸水が起こった場合にどういうことが想定されるか?という話です。3mの津波でこれが起こるかどうかはわかりません。
「津波災害」の著者の河田惠昭さんは、内閣府の「大規模水害対策に関する専門調査会」において専門調査会の副座長をしていたと書きましたが、「大規模水害対策に関する専門調査会」では、津波ではないですが、台風などで荒川の堤防が決壊したらどうなるか、というシミュレーションをしています。百聞は一見にしかず、このシミュレーション(34ページ以降)を見てください。このシミュレーションは200年に一度の洪水で荒川の堤防が決壊したという想定で作っていますが、津波でも一度浸水が起これば同じようなものだと思うので紹介します。いくつか想定がありますが、ここでは足立区の右岸12.5km(北千住の付近)で決壊が起こったという想定です。
左側は現状(2010年)、右側は対策を取った場合です。


赤いラインが地下鉄の浸水状況の予測なのですが、わずか72時間で、北千住の付近で決壊した堤防は地下鉄千代田線を通って東京のほとんどの地下鉄に広がってしまいます。東京は、地下鉄の駅付近は地下街が発達していますので、これらを通じての被害も広がります。こうなったら、当分地下鉄は使えないですよね。
このシミュレーションは台風をイメージした洪水予測ですが、台風の場合は、準備ができるので対応が取れると思います。でも、もし地震で停電になり、どこかもろくなった防波堤から津波が押し寄せてきたら、台風の時とは異なり、このような地下鉄対策は取れないでしょう。
そうすると、出発点はどこになるかわかりませんが、これと似たようなことが起こる可能性があります。3mもの津波が東京に押し寄せてきて、どこかの堤防から浸水して、という仮定を置いているので、それが起こる可能性がどれくらいなのかはわかりません。ただ、東京で暮らしている人にとっては、いざ津波を伴うような大地震が起きたら、地下鉄・地下街からは逃げ出すべし、ということは頭の片隅に入れておく必要があります。
「津波災害」には、東京の地下鉄に10カ所水門が設けてあるということなので、実際はそれで遮断するのかもしれません。また、上の図の右側のように対策を取れば、かなり被害を減らせるという提言がなされていますので、実行してくれていることを願うのみです。
私は東京についてしか見ませんでしたが、東海・東南海・南海地震が連動した場合、大阪も津波が来るかもといわれています。最初に紹介したNHKの番組でも大阪湾へ津波が押し寄せるというシミュレーション結果が出ていました。実際、過去にも来ていた形跡があるようです。上記にあげた資料は、関東以外のデータが載っているものも多いですし、ここに出てきたキーワードを用いて検索すれば大阪についても調べることは簡単にできると思います。おそらく大阪も一度浸水すれば、地下鉄、地下街がやられることは想像に難くありません。関西の方は是非一度調べてみてください。
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