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11/3 HeLa細胞の提供者、ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生

 
今日は文化の日なので、原発や地震の事ではない話を書こうと思います。(といいつつ、最後に読み直してみたらラジウム、放射線、ガン細胞、と出てきて、全く無関係ではなかったことに気がつきました・・・)

最近、図書館で見つけて読んだ本で、タイトルを見た瞬間に「これは読まないといけない」と思った本が、「不死細胞ヒーラ」ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生(リンク先はamazon)という本でした。

HeLa(ヒーラ)細胞というのは、細胞を使った生物系の実験をやったことがある人ならばまず間違いなくその名前を知っている細胞です。ヒトのガン細胞で、子宮頚部から取られた細胞であること、HeLaのHeとLaは人の名前から取ったことは私も知っていました。ただし、その時はHelen Laneという名前だと何かに書いてあったので、そうだと思いこんでいました。

「HeLa」細胞のことを「Hela」細胞と書く人がいると、「このHeLaという名前はね、人の名前から取ってきたものだから、Laは大文字で書かないといけないんだよ。」と知ったかぶりをして教えたものでした。でも、この本を読んで、実は何も知らなかったのだということを思い知らされることになりました。

まず、HeLaはHenrietta Lacks(ヘンリエッタ・ラックス)という黒人の31才の女性です。頭文字の二文字ずつをとって「HeLa」となったのです。

この細胞が樹立されたのは1951年のことです。今からちょうど60年前の2月。お腹にしこりがあるからとアメリカのジョンズ・ホプキンス大学病院にやってきたヘンリエッタ・ラックスの子宮から病理検査のために取られた細胞から樹立されたのです。当のヘンリエッタ・ラックスは、放射線治療(ラジウムの詰まった管を患部にいれて、ガン細胞を殺す方法)を受けたものの、この年の10月4日に子宮癌で亡くなってしまいます。

1951年といえば、まだアメリカで公民権も確立されていない頃です。黒人だったヘンリエッタ・ラックスは、黒人用の病棟で入院し、検査や治療を受けました。そういう時代ですから、当然のことながら、いまでいうインフォームド・コンセントなどあるはずもなく、ヘンリエッタもその家族も彼女の細胞が研究室で生き続けているということなどずっと知らなかったのです。このことはヘンリエッタが死んで何年も経ってから波紋を呼ぶことになります。

さて、HeLa細胞を知っているけれどもその由来を知らなかった人には今までの記述は「へぇー」というものだったと思いますが、全く知らない人には何のことだかわからないでしょう。ですから、少し解説します。

今年のノーベル医学生理学賞の候補の予想に京大の山中先生が名前が挙がっていました。山中先生が発見したiPS細胞というものは、名前くらいは聞いたことがあると思いますが、あれもヒトの細胞を培養してそこから器官を再生させる研究を行っています。その研究がうまくいけば、難病の人でも、自分の細胞からiPS細胞を作り、組織を再生させて病気を治すことができるのではないか、と期待されているのです。ただ、そこに行くまでにはまだ年単位でかかりそうです。

iPS細胞の詳細にここでは立ち入りませんが、あの研究も、HeLa細胞のような細胞培養ができるようになったから始めて可能になったことなのです。細胞培養の技術無しにiPS細胞はできませんでした。HeLa細胞は、初めて人の培養細胞として長期間の培養に成功した細胞なのです。

人間には全部で60兆個の細胞があるといわれています。人の組織の一部を取ってきて、細胞を薬剤でバラバラにして、細胞用の栄養液に浸して37℃で培養しておきます。いい条件で細胞を飼ってやると、細胞はある程度まで増えます。ただ、正常な細胞はある一定の回数しか分裂できないので、あまり増えません。

ところが、ガン細胞は違います。ウイルス感染や化学物質や放射能、老化などが原因で、細胞の増殖をコントロールしている遺伝子がおかしくなっているため、増殖に歯止めがきかずにいつまでも分裂を続けるのです。そういう意味でガン細胞はほぼ無限に増えることができるのです。

1951年当時、鶏の細胞などの培養はすでに成功していましたが、まだヒトの細胞培養の技術というのは確立されていませんでした。実験室内に無菌状態をつくるのも大変な状態で、ジョンズ・ホプキンス大学のジョージ・ガイの研究室では、たまたま助手のマーガレットが手術室の看護師だったために無菌状態を作ることができたのです。それ以外の研究室で細胞培養がうまくいかなかった原因の多くは無菌状態を維持できずに、バクテリアなどがコンタミしてしまったからです。

マーガレットという助手によって無菌状態を維持することができた偶然もあるのですが、ヘンリエッタ・ラックスの子宮頚部から取られた細胞は、ジョージ・ガイの研究室ですくすくと増えていきました。一晩で倍に。二日で4倍に。これが初めてヒトの不死化細胞の増殖に成功した瞬間だったのです。

その後、このHeLa細胞はポリオウイルスのワクチンを作ることにも大きく貢献しました。そのほかにも、癌遺伝子の研究や、ウイルスの研究にも広く使われてきました。HeLa細胞は、ヒトパピローマウイルス(HPV)という子宮頚癌の原因ウイルスに感染して、そのウイルス遺伝子がHeLa細胞の中に組み込まれてしまっていたのだということも後の研究でわかってきました。

また、HeLa細胞が非常に増殖能が強いことから、他の多くの細胞が培養できるようになった後でもHeLa細胞がその細胞にコンタミ(混ざって)してしまい、いつの間にか増殖の速いHeLa細胞に置き換わってしまっていた、ということも1976年には起きました。例えばそれまで肺の細胞だ、と信じていた研究が全てムダになってしまった、というようなこともありました。この事の詳細はここに載っています。興味のある方はどうぞ。


生物の実験をやっている人間にとっては、こういう部分が結構「なるほど」と思う部分なのですが、おそらく普通の人はこの辺はさらっと読み飛ばすことでしょう。でも、この本は、いろんな視点から読めると思います。

この本は、著者のレベッカ・スクルート(Rebecca skloot)がHeLa細胞に興味を持ち、ヘンリエッタ・ラックスの娘のデボラにコンタクトすることに成功し、HeLa細胞を残したヘンリエッタ・ラックスに焦点を当てて書いた本です。決してHeLa細胞について書いた本ではありません。

もしヘンリエッタ・ラックスやその家族が自分の細胞から行われた研究やその成果としての事業から少しでも対価をもらっていたらどうなったか?きっとかなり経済的には楽になっていたでしょう。そういうところから著者のレベッカ・スクルートが始めたヘンリエッタ・ラックス・ファウンデーションについても言及しておくべきと思います。

他にもインフォームド・コンセントとは?といった話もありますし、何よりも一人の黒人女性とその家族の話としても書かれていますので、分厚い本ですが、時間のある人にはお勧めです。特に細胞生物学をやっている人はチャンスがあれば流し読みでもいいので読んでみるべきと思いました。自分の使っている細胞の元がこんな人だったのだ、と知ると、顕微鏡で覗いた時に抱く感情が変わってくるかもしれません。

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これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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