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11/13 微生物による放射性セシウム9割除去のニュース 今回は本物!

 
11/11の毎日JPには、「セシウム:微生物が9割除去 乾燥、焼却で容量1/75 広島の教授ら泥中実験」という記事が載っていました。

この手の話で実は裏付けがなかったという話は今までにもいろいろとありますが、今回の話は私は本物だと思っています。ただし、「除去」という言葉の意味ははっきりさせておく必要があると思います。あくまで放射性セシウムがヘドロから微生物に吸着されただけであり、放射性セシウムが消失するわけではありません。

ついでに、これまでいわれてきた微生物と放射性物質の「除去」「消失」の関係について、少し取り上げます。いろいろな話があるので、可能ならばシリーズ化したいと思います。

1.佐々木教授の研究とは

さて、この広島国際学院大のニュース、詳細な情報は大学のHPなどでのアナウンスはないようなので、各紙のWebの情報しかありません。概略は下記のようになります。

『・微生物を使って泥の中の放射性セシウムを回収する方法を開発した。
・9月に福島市内で採取したヘドロでの実験では、セシウムを約90%除染することに成功した。

その詳細は、
・バイオ技術を活用した放射性物質の除去を研究している佐々木教授と、広島市の水道関連資材販売会社「大田鋼管」が9月、福島市内の公立学校のプールからヘドロを採取し現地で実験した。細菌90gをアルギン酸などに混ぜた粒状物質をビー玉大にし、濃縮したヘドロ50Lに投入。3日間の放射線量を計測した。
・その結果、実験開始前に毎時12.04-14.54μSv/hの放射線量は2.6-4.1μSv/hまで減少した。実験中、プール周辺では福島第1原発事故の影響で1.2μSv/h放射線量が測定されていたが、差し引くと最大89.4%除去できていた。
・細菌を混ぜた粒状物質は、乾燥して焼却すると容量は75分の1、重さは100分の1に減る。セシウムは温度640度でガス化し拡散するが、500度以下なら拡散しない。』

最初に報道したのは中国新聞広島メディアセンターのようです。10/26の朝刊に掲載とあります。

福島のプールのヘドロを用いて実際に実験したのは9月ですので、10月に取材があってもおかしくありません。この記事か、あるいは別の情報から東京のマスディアが取り上げたのが11/11だったということだと思います。

情報をもっと入手するために広島国際学院大学のHPを見ると、工学部にバイオ・リサイクル専攻というのがあります。バイオリサイクル学科の主任教授である佐々木健教授(62)の仕事です(もっと若く見えますよね)。佐々木教授は、水博士として著名だそうで、NHK「ためしてガッテン」でミネラルウォーターをテーマとした放送の際、水博士として登場したそうです。確かに過去の業績を見ると、環境や水質に関する研究が多数あります。「光合成微生物によるバイオリメディエーション」というのもテーマにありました。

佐々木教授の研究は、この原発事故の前から始まっています。昨年7/20にはすでに中国新聞広島メディアセンターのサイトにインドの大学と連携して「微生物を使い放射性物質を回収する技術研究で、インドのラベンシャウ大と教育研究協定を結ぶ。ウランなどの鉱山がある現地で、土壌や河川の放射能汚染を効率的に除去できる技術の確立を目指す。」ということが報道されています。

ブログなどの記述を見ると、この研究は一時ストップしていましたが、東日本大震災と福島原発事故を受けて再開したそうです。広島国際学院大学の工学部ブログに載っていた記事から引用すると、「イスカンダル・プロジェクト」という名前が付いているようです(ヤマトを知らない若い人はひょっとしてこの意味をわからないのだろうか?)。

2.少し専門的な情報

では、この「イスカンダル・プロジェクト」ではどのようなことが行われてどのような結果が出たのでしょうか?新聞などの情報ではおそらく詳細がわからなくて欲求不満になる方もいるかと思います。これまでの佐々木教授の研究発表内容から予想されることを記載していきます。おそらくほぼ同じ事を行っているはずです。

まず、使われているのはロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)と呼ばれる光合成細菌です。ネットで佐々木教授の名前で検索すると、「ロドバクター・スフェロイド」と記載されていることが多いと思いますが、学名から言って「ロドバクター・スフェロイデス」と訳す方が正しいと思います。

この細菌は、いわゆる光合成細菌と呼ばれる菌に属し、CO2を固定する能力を持ちます。また、硝酸還元能も持ち、硝酸イオン (NO3-) を、亜硝酸イオン (NO2-) を介して、窒素ガス (N2) に還元する「脱窒」という事を行う能力も持っています。

佐々木教授のグループでは、古くからロドバクター・スフェロイデスを用いた研究を行っており、例えば10年前の2001年には、ロドバクター・スフェロイデスS株を用いて、鯉の養殖場における水槽水のCOD(化学的酸素要求量)を下げる研究(リンク先は日本語です!)を行っています。その際に、このロドバクターを固定化するための条件をいくつか検討しており、今回報道されたセラミックを用いた固定化法も用いています。

また、2003年には、ロドバクター・スフェロイデスがカドミウムイオンを吸着する能力があるという研究(リンク先は英語)も行っています。

これらのことから、ロドバクター・スフェロイデスは、菌体表面に生産する高分子物質(extracellular polymeric substances,EPS)によりカドミウム(Cd)やクロム(Cr)およびヒ素(As)などを吸着でき,環境水中から取り除くことができるという性質を持っているようです。

そして、佐々木教授のグループでは、この菌を固定化する方法として回収型の多孔質のセラミックを開発しました。ここに菌を固定化します。固定化の際には減圧下でアルギン酸ナトリウムという物質を用いて固定化する方法を用いています。

11/13固定化
(生物工学 第89巻 p111より)

なぜ「回収型」かというと、上の図にあるように、セラミックの中には5%の鉄が含まれているため、電磁石を用いて回収することが可能なのです。佐々木教授が書いた今年の「生物工学」という学会誌に書いた日本語の解説をご紹介しておきます。

この方法であれば、水や、ヘドロのように攪拌が可能なものであれば、ロドバクターを固定化したセラミックを放り込んでおいて、数日かけて陽イオン(セシウムなど)を吸着させて、後日セラミックを回収するということが簡単にできるというわけです。

ただし、中国新聞広島メディアセンター掲載の写真を見ると直径2cmの粒状にして網の中に入れているので、今回の回収方法は若干異なるようです。
11/13光合成細菌
(中国新聞広島メディアセンターの10/26の記事より引用)

佐々木教授は、これまではロドバクター・スフェロイデスを用いて環境中のカドミウムやクロムなどの有害な陽イオンの除去について研究してきましたが、今回の原発事故において放射性セシウムが問題となったため、同じ陽イオンであるセシウムならな同様に吸着できるはず、ということで実験を行い、確認したということです。さらに今回、福島市内のプールから採取したヘドロにおいてもその効果を確認できたということです。

今後、土壌でも実験する予定ということです。土壌の場合はどうやって回収するのか、そのアイデアにも注目です。

実際にどんなように実験しているかをニコニコ動画にアップしていた人がいたので、リンクを貼っておきます。これを見たらもっとイメージがわくと思います。海外で放送された番組に字幕が付いています。



3.佐々木教授の研究についてのまとめ

ここで少し今回のニュースについてまとめておきます。

1.広島国際学院大学の佐々木教授の研究は、10年以上前から光合成細菌のロドバクター・スフェロイデスについて行われてきた研究の一環であり、信頼できるものである。

2.ロドバクター・スフェロイデスという細菌は、菌体表面に陽イオンを吸着しやすい物質をたくさん出すため、カドミウムやクロムなどの金属を吸着できることが数年前に確認されている。

3.福島市内のプールのヘドロを用いて実際に実験を行い、3日間で90%の放射線量の減少を確認した。これはプールのヘドロから主に放射性セシウムを吸着したものである。ヘドロからはセシウムを「除去」しているが、よく誤解する人がいるような放射性物質を消滅させるものではない。あくまで細菌の表面に効率的に吸着させただけである。

4.佐々木教授の手法では、細菌をセラミックに固定化し、電磁石を用いて(あるいは網の中に入れて)回収できるようにしているため、使用した細菌を環境中に放出することなく、細菌と吸着させた放射性セシウムを確実に回収して廃棄できる。


実は4.が一番重要なポイントで、環境中に微生物をばらまいてセシウムを吸着させても、どうやって回収するんだよ?という疑問に答えるものです。佐々木教授の方法を使って実際に除染ができるようになるといいですね。

4.その他の微生物を用いた除染関係の話

そのほかにも、微生物を用いた話がこれまでにもいくつかあったのですが、そのほとんどがいわゆる眉唾ものです。こういうものがあるために、佐々木教授の研究のようにしっかりしたものまでがまたか?という疑惑の目で見られてしまう可能性があるのは残念なことです。

今回は詳しく取り上げませんが、項目だけ並べておきます。

1.EM菌 有用微生物群(ゆうようびせいぶつぐん、EM、Effective Microorganisms)のことです。1982年に琉球大学農学部教授比嘉照夫が、農業分野での土壌改良用として開発した微生物資材の名称だそうです。ネットではよく出てきますが、EM菌で放射能を消失させるというような話が書いてあれば、まず間違っていると思った方がいいです。

2.㈱高嶋開発工学総合研究所 ここのHPに記載してあることは、比較実験がなかったりして??という内容が多いです。

3.金沢大学 田崎名誉教授 「8/3 ネットは大騒ぎ!放射性物質を取り込む糸状菌と土壌の放射線量低下の関係は?」でも取り上げましたが、その後にそれを実証するデータは結局発表されていないようです。togetterを読む限り、新聞記者がいい加減に書いたのではなく、どうも田崎名誉教授の間違った思いこみであるようです。誤解のないように付け加えておきますが、これは決して田崎名誉教授のこれまでの研究成果全てを否定するものではありません。次回は田崎名誉教授の原発関連の実験の話を書こうと思います。
11/14追記 今、田崎先生の過去の論文を調べていますが、誤解があった可能性があるので、この3.はいずれ削除するかもしれません。


また、微生物の中には放射能に対する耐性が非常に強い驚異的な能力を持ったものもあります。これらについてもいずれ取り上げてみたいと思います。

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コメント

なるほど

ご紹介のありました文献を拝読しました。
たぶん、その中で試している固定方法のひとつと同様でしょうから、アルギン酸と言っても、カルシウムで中和・安定化しているものと思われます。
そうしますと、希薄なセシウムのようなアルカリ金属イオンとは、ほとんどイオン交換しませんから、直接の作用は十分に小さいのでしょう。
新聞記事に書かれているアルギン酸のことを食品添加物などに使われるアルギン酸ナトリウムだと解釈すると、水溶性ですから、本当のアルギン酸なのだろうと思いこんでいました。
新聞記事が言葉足らずだったことと、最近、怪しげな対策が目に付くこともあり、私が早とちりしていたようです。
それと同じ新聞記事を読んでも、こんな無茶な解釈をする人もいます。
http://www.minusionwater.com/hikarigouseikin.htm

Re: 少し気になりますのが

mimonさん

コメントありがとうございます。

もちろん、多少は作用があるかもしれません。ただ、佐々木教授のラボの実験では、これまでにも固定化材料を変えたり固定化方法を変えたりして実験してきています。なので、今回初めてアルギン酸をトライしてみたということではないようです。当然、菌なしのコントロールもどこかで実験していると思います。

本文中にもリンクをつけましたが、日本語なので下記を読んでみたらいかがですか?
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jswe/24/1/64/_pdf/-char/ja/

Re:EM菌

> EM菌について、放射能除去というよりは免疫力低下を抑えるのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

EM菌については、私も詳細を勉強していないので、これから勉強して、いずれまとめて書かせていただきます。それをお読み下さい。

少し気になりますのが

毎日.jpの記事に載っている、「アルギン酸」です。
菌を固定するのに糊のような使いかたをしているのでしょうが、
アルギン酸はカルボン酸の一種ですから、陽イオン交換能があります。
菌の働きだけとは、言いきれないと感じています。

No title

EM菌について、放射能除去というよりは免疫力低下を抑えるのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

No title

貴重な記事です。
有難う御座いました。
マニラで、河川浄化をやっております。四苦八苦です。
引き続きよろしくお願い致します。

No title

とても気になる話題を取り上げてくださり、ありがとうございます。
私としては、微生物が放射性物質を食べてくれるといったイメージがあります。
となると、EM菌も同じように効果があるのでは?と思ってしまうのです。
ただ、研究が未熟で説得力がないんですよね。
もったいない気がします。

プロフィール

TSOKDBA

Author:TSOKDBA
twitterは@tsokdbaです。
3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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