11/23 東大農学部の報告会2:土壌中での放射性セシウムの挙動
「11/20 東大農学部主催の放射能の農畜水産物等への影響の研究報告会」でご紹介できなかった「放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会」の話の中で、放射性セシウムの土壌への吸着が進行している話です。
11/19、東大安田講堂で行われた「放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会」に参加しました。前回はコメの放射能汚染の話に絞って書きました。
今回はそこでは紹介できなかった、土壌中での放射性セシウムの挙動の話を紹介したいと思います。
環境工学専攻の塩沢教授は、「土壌中の放射性セシウムの挙動」という話をしてくれました。話の中身はリンク先の要旨にかなり記載してあるのですが、私が聞いた内容の中で、重要なポイントをいくつかご紹介します。
まず、6月時点の土壌中のセシウムの垂直分布については、8月に「ラジオアイソトープ」誌に掲載され、「8/15 東大と福島県の共同研究の解説(1)土壌セシウムのデータ」でもご紹介しました。ニュースでも紹介されたので多くの方がご存じだと思いますが、放射性セシウムは土壌表面から3cmまでの間に90%がとどまっていたというものです。(下図は5月下旬のデータ)

この時に同時にわかったのは、セシウムの垂直方向への移動速度は、実験室での結果から予想すると水が移動するスピードの1/1000~1/10000でしたが、実際には水の移動速度の1/10と非常に速いということでした。
今回は、10月時点での垂直分布(下の図)が発表されました。それによると、5月下旬の放射性セシウムの分布(上の図)とほとんど変わっていないことが見てわかると思います。なお、データは同じ場所の土ではありませんのでパターンだけを比較してください。

その結果、6月から10月までの約3ヶ月の移動速度を計算すると、水分子の移動速度の1/200であったということです。6月までの3ヶ月では水分子の移動速度の1/10だったのが、その後の3ヶ月では1/200と、移動速度が大きく低下しているということがわかりました。このことから、吸着が数ヶ月の時間をかけて進行している、と塩沢教授は説明していました。
下の図は、塩沢教授が示してくれたスライドをメモしたので、若干違っているかもしれませんが、土壌中のセシウムの状態には3つあることを示しています。

植物が吸収しやすい水溶性セシウムは、土壌中の粘土質や、落葉層(リター層)などの有機物へ吸着します。これは、一般的な陽イオンの固定による吸着です。この吸着は速いスピードで起こりますが、例えば落葉に吸着した放射性セシウムは、落葉が微生物で分解されるとまた水溶性セシウムとして放出されます。だから、水溶性セシウムと弱い吸着の間は一方的な移動ではなく、逆方向への移動もある平衡状態にあります。
しかし、土壌中に吸着されたセシウムの中で、一部の粘土鉱物(2:1型層状ケイ酸塩)では、下の図のようにセシウムがぴったりとはまって固定されてしまうそうです(土壌肥料学会のHPより)。

この先は土壌肥料学会のHPから説明しますが、2:1型というのは、上の図にあるように、2枚のケイ素(Si)のシートの間に1枚のアルミニウム(Al)のシートが挟まれている形の層がいくつも積み重なっている粘土鉱物を言うようです。この粘土鉱物では、1層の中でマイナスの荷電を持っているため、カリウム(K+)、アンモニア(NH4+)、セシウム(Cs+)などの陽イオンが層と層の間に入りやすいのです。
通常は、量的に多いK+がここに入っていますが、結合力はK+<NH4+<<Cs+の順に大きくなるため、Cs+がここに入ってくるとK+に置き換わります。そうすると簡単にはこのCs+を追い出すことはできなくなるのです。ただし、土壌肥料学会のHPに書いてあるように、K+やNH4+を大量に肥料として加えると、Cs+に置き換わることができるそうです。
この、特定の粘土鉱物による強い固定が現在進行中であり、その結果として垂直方向へのセシウムの移動も遅くなってきていることが示されています。従って、今後は植物が吸収できる形のセシウムは徐々に減っていくだろうということが塩沢教授の話でした。
塩沢教授のもう一つの話は、山からの放射性セシウムの流出はどれくらいあるのか?という話でした。これについては川の水のデータを元に、南相馬市の高倉ダム付近でのデータが紹介されました。10/9サンプリングの川の水では、高倉ダムの上流では放射性セシウムは0.8Bq/kg(溶存態)、高倉ダムの下流では1.2Bq/kg(溶存態)でした。
仮に1Bq/kgの用水が水田に流れ込んだとすると、水田一作あたりの用水量は500-2000mmですので、2000mmとすると、流入量は2000Bq/m2になるそうです。作土平均に直すと(160で割っていると思います)13Bq/kgになります。この量は、南相馬市のもともとある土壌の放射性セシウムの1/100以下であるため、川の水からの汚染というのはそれほど多くないということでした。
水田一作あたりの用水量というのはよくわからなかったのですが、計算の仕方を見ると、利用する水の量を降水量のように高さで表しているのだと思います。一回の作付けで、水田に流れ込む水の量をトータルで計算すると、1m2あたり2000mm、つまり2mの高さなので、水にしたら2m3=2トン分、その水の中に1Bq/kgの放射性セシウムがあるとすると2000Bq/m2になるという計算だと思います。
それから、山からの放射性セシウムの流出量を塩沢教授が計算したところ、存在量の1/1000以下であるという結果になったそうです。今後はさらに低下するだろうということでした(このあたりはもし資料が公開されたら詳細がわかるかもしれません)。
今回はそこでは紹介できなかった、土壌中での放射性セシウムの挙動の話を紹介したいと思います。
環境工学専攻の塩沢教授は、「土壌中の放射性セシウムの挙動」という話をしてくれました。話の中身はリンク先の要旨にかなり記載してあるのですが、私が聞いた内容の中で、重要なポイントをいくつかご紹介します。
まず、6月時点の土壌中のセシウムの垂直分布については、8月に「ラジオアイソトープ」誌に掲載され、「8/15 東大と福島県の共同研究の解説(1)土壌セシウムのデータ」でもご紹介しました。ニュースでも紹介されたので多くの方がご存じだと思いますが、放射性セシウムは土壌表面から3cmまでの間に90%がとどまっていたというものです。(下図は5月下旬のデータ)

この時に同時にわかったのは、セシウムの垂直方向への移動速度は、実験室での結果から予想すると水が移動するスピードの1/1000~1/10000でしたが、実際には水の移動速度の1/10と非常に速いということでした。
今回は、10月時点での垂直分布(下の図)が発表されました。それによると、5月下旬の放射性セシウムの分布(上の図)とほとんど変わっていないことが見てわかると思います。なお、データは同じ場所の土ではありませんのでパターンだけを比較してください。

その結果、6月から10月までの約3ヶ月の移動速度を計算すると、水分子の移動速度の1/200であったということです。6月までの3ヶ月では水分子の移動速度の1/10だったのが、その後の3ヶ月では1/200と、移動速度が大きく低下しているということがわかりました。このことから、吸着が数ヶ月の時間をかけて進行している、と塩沢教授は説明していました。
下の図は、塩沢教授が示してくれたスライドをメモしたので、若干違っているかもしれませんが、土壌中のセシウムの状態には3つあることを示しています。

植物が吸収しやすい水溶性セシウムは、土壌中の粘土質や、落葉層(リター層)などの有機物へ吸着します。これは、一般的な陽イオンの固定による吸着です。この吸着は速いスピードで起こりますが、例えば落葉に吸着した放射性セシウムは、落葉が微生物で分解されるとまた水溶性セシウムとして放出されます。だから、水溶性セシウムと弱い吸着の間は一方的な移動ではなく、逆方向への移動もある平衡状態にあります。
しかし、土壌中に吸着されたセシウムの中で、一部の粘土鉱物(2:1型層状ケイ酸塩)では、下の図のようにセシウムがぴったりとはまって固定されてしまうそうです(土壌肥料学会のHPより)。

この先は土壌肥料学会のHPから説明しますが、2:1型というのは、上の図にあるように、2枚のケイ素(Si)のシートの間に1枚のアルミニウム(Al)のシートが挟まれている形の層がいくつも積み重なっている粘土鉱物を言うようです。この粘土鉱物では、1層の中でマイナスの荷電を持っているため、カリウム(K+)、アンモニア(NH4+)、セシウム(Cs+)などの陽イオンが層と層の間に入りやすいのです。
通常は、量的に多いK+がここに入っていますが、結合力はK+<NH4+<<Cs+の順に大きくなるため、Cs+がここに入ってくるとK+に置き換わります。そうすると簡単にはこのCs+を追い出すことはできなくなるのです。ただし、土壌肥料学会のHPに書いてあるように、K+やNH4+を大量に肥料として加えると、Cs+に置き換わることができるそうです。
この、特定の粘土鉱物による強い固定が現在進行中であり、その結果として垂直方向へのセシウムの移動も遅くなってきていることが示されています。従って、今後は植物が吸収できる形のセシウムは徐々に減っていくだろうということが塩沢教授の話でした。
塩沢教授のもう一つの話は、山からの放射性セシウムの流出はどれくらいあるのか?という話でした。これについては川の水のデータを元に、南相馬市の高倉ダム付近でのデータが紹介されました。10/9サンプリングの川の水では、高倉ダムの上流では放射性セシウムは0.8Bq/kg(溶存態)、高倉ダムの下流では1.2Bq/kg(溶存態)でした。
仮に1Bq/kgの用水が水田に流れ込んだとすると、水田一作あたりの用水量は500-2000mmですので、2000mmとすると、流入量は2000Bq/m2になるそうです。作土平均に直すと(160で割っていると思います)13Bq/kgになります。この量は、南相馬市のもともとある土壌の放射性セシウムの1/100以下であるため、川の水からの汚染というのはそれほど多くないということでした。
水田一作あたりの用水量というのはよくわからなかったのですが、計算の仕方を見ると、利用する水の量を降水量のように高さで表しているのだと思います。一回の作付けで、水田に流れ込む水の量をトータルで計算すると、1m2あたり2000mm、つまり2mの高さなので、水にしたら2m3=2トン分、その水の中に1Bq/kgの放射性セシウムがあるとすると2000Bq/m2になるという計算だと思います。
それから、山からの放射性セシウムの流出量を塩沢教授が計算したところ、存在量の1/1000以下であるという結果になったそうです。今後はさらに低下するだろうということでした(このあたりはもし資料が公開されたら詳細がわかるかもしれません)。
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