東京電力の1/31の報告書(12/4のSr海洋流出事故)と海水のSr情報
1/31、東京電力は保安院に対して二つの報告書を報告し、それをHPでも発表しました。(本当は先週のうちに書き上げるつもりでしたが、福島県のコメのまとめが出てきてしまったので、後回しになってしまいました。)
「福島第一原子力発電所における淡水化装置(蒸発濃縮装置)からの放射性物質を含む水の漏えい事象に関する指示文書等に対する経済産業省原子力安全・保安院への報告について」
この中で、12/12の蒸発濃縮装置からの漏洩事故については、12/4の蒸発濃縮装置と同じ「蒸発濃縮装置」だったことと、海洋へのもれがなかったために私もブログではほとんど取り上げませんでした。今回の報告書は「福島第一原子力発電所における蒸発濃縮装置からの放射性物質を含む水の漏えいに対する対策の実施報告について」というもので、原因もサンプリング用につけたホースを結局使わなかったが、そのままホースをつけたままにしておいた。その際に、サンプリング用の弁が微開になっていたのでそこからもれたというものでした。ここでは省略します。
今回は、もう一つの12/4におきたSrを大量に含む汚染水150Lの海洋への流出事故に関する報告書についてです。
「福島第一原子力発電所における蒸発濃縮装置からの放射性物質を含む水の漏えいを踏まえた対応について」
1.今回の漏洩事故の原因
まず、なぜこの報告書が1/31にでたのかというと、保安院の指示が「下記の措置を講じるとともに、その結果について、平成24 年1月31日までに報告すること。」という指示だったからです。

従って、現段階ではまだ中途半場であるにもかかわらず、東京電力としては報告しないわけにはいかないというものでした。
なぜ漏洩したのか、という原因についてですが、なんと、蒸発濃縮装置の運転手順書の不備による運転の誤りによるものであったという極めてお粗末な原因でした。
この蒸発濃縮装置は12月に運転を開始したわけですから、アレバやキュリオンだけでとりあえず動かした6月とは異なり、充分に手順書なども検討した上で設置する時間的な余裕があったわけです。それなのに事故が起こってから初めて手順書の不備に気がつくというのは、どういうチェック体制になっているのでしょうか?
原因としてウオーターハンマー現象(水撃作用)というものが説明されていました。これについては私はよく理解できていないのですが、ウイキペディアにも載っているくらいなので、それなりに有名な現象なのでしょう。だとすれば、工学の専門家がいればその可能性について普通は気がつくはずです。

にもかかわらず、こんなことを平然とやってのける企業ですから、原子炉の運転手順書だって同じように「運転手順書の不備で放射能を含む水が漏れました」、などということだって充分にあり得ます。そう考えると非常にこわいですよね。
東京電力は今後は同じ間違いはやらないと思いますが、大事なことは、このような企業体質がある以上は、また違うところで違うタイプのミス、しかも非常に単純なミスをやりかねないということなのです。
同様に、津波に対して対応しなかったから今回の事故になったけど、今後は津波対策で防波堤を高くするから大丈夫です、と東京電力はいうでしょう。確かに津波に対しては今後は大丈夫かもしれませんが、別の観点できっと同じようなミス(想定できたのに対応しない)をやっている可能性があります。例えば地震対策で何か抜けていたとします。すると仮にまた事故が起こっても同じ事をいうはずです。今回はこういうミスがあったけど、今後はもうしっかりと対応策をとったからこの次は大丈夫です、と。
ここは、今回の失敗原因の報告書から読み取るべきポイントの一つと思います。
2.海洋へ流出したSrのモニタリング結果
さて、この報告書には、まだ中間段階ながら、Srや全β核種のモニタリング結果がいくつか掲載されています。そのほとんどは「1/17 12/4流出の汚染水ストロンチウム濃度やっと発表 Sr-90が1億1000万Bq/L!」で紹介していますが、今回の報告書の後の2/2に発表されたデータなどもありますので、それを含めて再度ご紹介します。
まずは海へ流出した地点に一番近い、1-4号南放水口の地点のデータです。今回の報告書で東京電力をほめることができる点は、過去の10月や11月の測定データと比較している点です。
セシウムについては12/5を除いてはほとんど変化がありませんので、Sr-90と全βのデータを見ていきます。

(クリックで別画面に拡大)
報告書本文からの引用です。
「12 月4 日に蒸発濃縮装置から漏えいし,海域に流出した放射性物質は,排水路及び海域で希釈拡散が進んだものの,翌朝南放水口付近で実施したモニタリングにおいて全β放射能及びストロンチウムの海水中放射能濃度を上昇させた。その後,南放水口の全β放射能濃度は,12 月5 日朝の780Bq/Lから,12 月10 日には32Bq/L,12 月17 日には28Bq/L と,漏えい後数日のうちに急速に濃度が低下し,12 月24 日には35Bq/L とほぼ横這いであった。ストロンチウムも,12 月10 日には同様に濃度が低下した。」
これは「1/17 12/4流出の汚染水ストロンチウム濃度やっと発表 Sr-90が1億1000万Bq/L!」でも書いたことですが、漏洩事故の前の10月、11月はND(検出限界の約20Bq/L未満)だった全β核種が12/5に780にまで上昇し、そのあと12/10に32にまで低下していますが、その後12/17と12/24では28、35とほとんど変わっていない(東京電力がいうように「ほぼ横這いであった」)のですから、当然のことながらβ核種であるSr-89やSr-90も「ほぼ横這い」と考えられます。しかしながら、12/17と12/24のSr-90について測定していません。測定に時間がかかるので大変なのは理解できますが、この全βの結果をみたら、まだ漏洩事故の影響は「収束していない」と考えてこの地点での測定をするべきです。
下の図は、12/10時点でのSrとCsのデータを測定地点にプロットしたものです(東京電力作成)。

次に、上の図でいうと緑色の地点の10月から12月までのデータの比較です。
5-6号放水口北は、全βがNDから25Bq/Lになっているのでやはり若干の影響がありますが、10月、11月のデータが高い数値なので、Sr-90の増加としては微妙な違いしかわかりません。

沖合15kmでは、Sr-90が検出されていますが、この数値では、今回の事故の影響があるとは言い切れません。

では、これまでのデータは主に12/10時点のサンプリング結果に基づく解析でしたが、2/2には、12/19のサンプリング結果が出ていますので、それを比べてみましょう。まずは報告書にあった12/10のサンプルのデータです。

(クリックで別画面に拡大)
次に、2/2に発表された、同じ地点の12/19のデータです。

(クリックで別画面に拡大)
12/10に採取した海水のデータと12/19のデータを比較すると、Sr-90のデータでは、請戸川沖合3km(2番)は0.077→0.048に低下していますが、1F(福島第一)3km(3番)では0.13→0.13で変わらず、ただし全βはND→33Bq/Lに上昇です。そして、2F(福島第二)3km(4番)では0.13→0.50と上昇、1F8km(5番)でも0.038→0.083と上昇しています。また、全ベータも請戸川以外ではNDだったものが33-45Bq/L検出されています。

これらのことを合わせると、追加調査4地点のうち、北にある請戸川3kmをのぞき、汚染がひどくなっているという傾向が見られます。そしてその傾向は、簡単にモニタリングできる全β核種のデータである程度予想ができるのです。
最後に、東京電力の今後の計画(すでに測定中のものも含む)を載せておきます。
まずは全ベータの測定を行う地点を下の地図の1番、2番、3番、12番の4地点増やします。そのデータを見て、Srの分析はどこを行うかを決めるということです。


報告書本文には下記のような記載があります。
「影響評価としては,漏えいした放射性物質の拡散の状況を把握し,それを踏まえて影響範囲及び放射性物質濃度を設定して被ばく評価を行う。ただし,10km 圏内で追加した4地点については今回が初めての測定であり,漏えいによる影響を把握するため,念のため追加で12 月19 日に採取した海水のストロンチウム濃度を分析中である。
また,12 月10 日には既に海域のストロンチウム濃度は低濃度となっているが,12 月4 日の漏えい直後の拡散の状況を把握するため,発電所南北の沿岸域で採取した海水の再分析を実施することとした(表14-4,図14-2)。これらの結果を踏まえて,暫定評価を見直す計画である。なお,ストロンチウムは分析に時間がかかることから,報告を3月末とした。」
「追加で12 月19 日に採取した海水のストロンチウム濃度を分析中である。」の結果は、さきほどご紹介した2/2発表のデータの事を指しています。この結果を受けて、常識的に考えればさらに追加でその後もこの地点の調査も行うはずです。12/31の追加分析の目的が「影響収束の確認」というのは判断が早すぎると思います。ただし、東京電力のやることなのでどういう判断をしているのかはわかりません。今後に要注目と思います。
3月末までにデータをまとめて報告し直す、ということはかまわないのですが、下に記載してあるd)の部分がなぜ3月なのか?分析センターのキャパの問題なのでしょうか?サンプルはもうあるはずなので、3月といわずにさっさとやって欲しいと思います。どうせ結果が出るまでに一月かかるのですから。

3月に報告書が出たら、またこのブログでも取り上げる予定です。
まず、なぜこの報告書が1/31にでたのかというと、保安院の指示が「下記の措置を講じるとともに、その結果について、平成24 年1月31日までに報告すること。」という指示だったからです。

従って、現段階ではまだ中途半場であるにもかかわらず、東京電力としては報告しないわけにはいかないというものでした。
なぜ漏洩したのか、という原因についてですが、なんと、蒸発濃縮装置の運転手順書の不備による運転の誤りによるものであったという極めてお粗末な原因でした。
この蒸発濃縮装置は12月に運転を開始したわけですから、アレバやキュリオンだけでとりあえず動かした6月とは異なり、充分に手順書なども検討した上で設置する時間的な余裕があったわけです。それなのに事故が起こってから初めて手順書の不備に気がつくというのは、どういうチェック体制になっているのでしょうか?
原因としてウオーターハンマー現象(水撃作用)というものが説明されていました。これについては私はよく理解できていないのですが、ウイキペディアにも載っているくらいなので、それなりに有名な現象なのでしょう。だとすれば、工学の専門家がいればその可能性について普通は気がつくはずです。

にもかかわらず、こんなことを平然とやってのける企業ですから、原子炉の運転手順書だって同じように「運転手順書の不備で放射能を含む水が漏れました」、などということだって充分にあり得ます。そう考えると非常にこわいですよね。
東京電力は今後は同じ間違いはやらないと思いますが、大事なことは、このような企業体質がある以上は、また違うところで違うタイプのミス、しかも非常に単純なミスをやりかねないということなのです。
同様に、津波に対して対応しなかったから今回の事故になったけど、今後は津波対策で防波堤を高くするから大丈夫です、と東京電力はいうでしょう。確かに津波に対しては今後は大丈夫かもしれませんが、別の観点できっと同じようなミス(想定できたのに対応しない)をやっている可能性があります。例えば地震対策で何か抜けていたとします。すると仮にまた事故が起こっても同じ事をいうはずです。今回はこういうミスがあったけど、今後はもうしっかりと対応策をとったからこの次は大丈夫です、と。
ここは、今回の失敗原因の報告書から読み取るべきポイントの一つと思います。
2.海洋へ流出したSrのモニタリング結果
さて、この報告書には、まだ中間段階ながら、Srや全β核種のモニタリング結果がいくつか掲載されています。そのほとんどは「1/17 12/4流出の汚染水ストロンチウム濃度やっと発表 Sr-90が1億1000万Bq/L!」で紹介していますが、今回の報告書の後の2/2に発表されたデータなどもありますので、それを含めて再度ご紹介します。
まずは海へ流出した地点に一番近い、1-4号南放水口の地点のデータです。今回の報告書で東京電力をほめることができる点は、過去の10月や11月の測定データと比較している点です。
セシウムについては12/5を除いてはほとんど変化がありませんので、Sr-90と全βのデータを見ていきます。

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報告書本文からの引用です。
「12 月4 日に蒸発濃縮装置から漏えいし,海域に流出した放射性物質は,排水路及び海域で希釈拡散が進んだものの,翌朝南放水口付近で実施したモニタリングにおいて全β放射能及びストロンチウムの海水中放射能濃度を上昇させた。その後,南放水口の全β放射能濃度は,12 月5 日朝の780Bq/Lから,12 月10 日には32Bq/L,12 月17 日には28Bq/L と,漏えい後数日のうちに急速に濃度が低下し,12 月24 日には35Bq/L とほぼ横這いであった。ストロンチウムも,12 月10 日には同様に濃度が低下した。」
これは「1/17 12/4流出の汚染水ストロンチウム濃度やっと発表 Sr-90が1億1000万Bq/L!」でも書いたことですが、漏洩事故の前の10月、11月はND(検出限界の約20Bq/L未満)だった全β核種が12/5に780にまで上昇し、そのあと12/10に32にまで低下していますが、その後12/17と12/24では28、35とほとんど変わっていない(東京電力がいうように「ほぼ横這いであった」)のですから、当然のことながらβ核種であるSr-89やSr-90も「ほぼ横這い」と考えられます。しかしながら、12/17と12/24のSr-90について測定していません。測定に時間がかかるので大変なのは理解できますが、この全βの結果をみたら、まだ漏洩事故の影響は「収束していない」と考えてこの地点での測定をするべきです。
下の図は、12/10時点でのSrとCsのデータを測定地点にプロットしたものです(東京電力作成)。

次に、上の図でいうと緑色の地点の10月から12月までのデータの比較です。
5-6号放水口北は、全βがNDから25Bq/Lになっているのでやはり若干の影響がありますが、10月、11月のデータが高い数値なので、Sr-90の増加としては微妙な違いしかわかりません。

沖合15kmでは、Sr-90が検出されていますが、この数値では、今回の事故の影響があるとは言い切れません。

では、これまでのデータは主に12/10時点のサンプリング結果に基づく解析でしたが、2/2には、12/19のサンプリング結果が出ていますので、それを比べてみましょう。まずは報告書にあった12/10のサンプルのデータです。

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次に、2/2に発表された、同じ地点の12/19のデータです。

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12/10に採取した海水のデータと12/19のデータを比較すると、Sr-90のデータでは、請戸川沖合3km(2番)は0.077→0.048に低下していますが、1F(福島第一)3km(3番)では0.13→0.13で変わらず、ただし全βはND→33Bq/Lに上昇です。そして、2F(福島第二)3km(4番)では0.13→0.50と上昇、1F8km(5番)でも0.038→0.083と上昇しています。また、全ベータも請戸川以外ではNDだったものが33-45Bq/L検出されています。

これらのことを合わせると、追加調査4地点のうち、北にある請戸川3kmをのぞき、汚染がひどくなっているという傾向が見られます。そしてその傾向は、簡単にモニタリングできる全β核種のデータである程度予想ができるのです。
最後に、東京電力の今後の計画(すでに測定中のものも含む)を載せておきます。
まずは全ベータの測定を行う地点を下の地図の1番、2番、3番、12番の4地点増やします。そのデータを見て、Srの分析はどこを行うかを決めるということです。


報告書本文には下記のような記載があります。
「影響評価としては,漏えいした放射性物質の拡散の状況を把握し,それを踏まえて影響範囲及び放射性物質濃度を設定して被ばく評価を行う。ただし,10km 圏内で追加した4地点については今回が初めての測定であり,漏えいによる影響を把握するため,念のため追加で12 月19 日に採取した海水のストロンチウム濃度を分析中である。
また,12 月10 日には既に海域のストロンチウム濃度は低濃度となっているが,12 月4 日の漏えい直後の拡散の状況を把握するため,発電所南北の沿岸域で採取した海水の再分析を実施することとした(表14-4,図14-2)。これらの結果を踏まえて,暫定評価を見直す計画である。なお,ストロンチウムは分析に時間がかかることから,報告を3月末とした。」
「追加で12 月19 日に採取した海水のストロンチウム濃度を分析中である。」の結果は、さきほどご紹介した2/2発表のデータの事を指しています。この結果を受けて、常識的に考えればさらに追加でその後もこの地点の調査も行うはずです。12/31の追加分析の目的が「影響収束の確認」というのは判断が早すぎると思います。ただし、東京電力のやることなのでどういう判断をしているのかはわかりません。今後に要注目と思います。
3月末までにデータをまとめて報告し直す、ということはかまわないのですが、下に記載してあるd)の部分がなぜ3月なのか?分析センターのキャパの問題なのでしょうか?サンプルはもうあるはずなので、3月といわずにさっさとやって欲しいと思います。どうせ結果が出るまでに一月かかるのですから。

3月に報告書が出たら、またこのブログでも取り上げる予定です。
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