原発事故時にどれだけの放射性物質が汚染水になったのか?に関する論文の紹介
「日本原子力学会和文論文誌」の最新号には、「福島第一原子力発電所の滞留水への放射性核種放出」という日本語の論文が載っていました。今月(2月)に発表されたばかりの論文です。
福島第一原発事故が生じた際、そもそも各炉心中にはどれだけの放射性核種があったのかということを計算してくれています。1号機と2号機では汚染水に流れ出した放射性物質の量が大きく違う、といった結果も載っています。その簡単な紹介です。
著者は、日本原子力開発機構(JAEA)の西原さん他です。なお、この論文は、昨年6月3日までの情報に基づいていると言うことです。

この論文では、まず炉心の放射性核種インベントリ、つまり事故発生時の3/11に1号機から3号機までの炉心にどれだけの放射性物質が存在したのか、を評価しています。これは、各号機の運転実績などを計算すればだいたい計算できるそうです。ここでは載せませんが、1号機から3号機までいつメンテナンスに入って何本の核燃料を交換したか、ということも記載されています。興味のある方は最初に紹介した論文のpdfへのリンクをお読み下さい。
難しい計算は私たちにはあまり関係ないので省略して、計算した結果を紹介します。

1F1とは"1F"が”福島第一原発”ですから1F1で福島第一原発1号機という意味です。同様に、1F2は2号機、1F3は3号機のことを意味します。よく目にするCs137で比較すると、2.0~2.6E+17 Bqと1号機から3号機までであまり変わりないことがわかります。
このE+17とは、念のために説明すると、2E+3といえば、2のあとにゼロが3つつく数、すなわち2000を意味します。E+17ですから、ゼロが17個つく数です。1E+12Bq=1兆Bq=1テラベクレルというのを覚えておくと、少しはわかりやすいかもしれません。この場合は200000万テラベクレル、または20京ベクレルです。
I131で比較しても2倍程度の差はありますが、ほぼ同じです。事故当時、1号機から3号機までに入っていた放射性物質の量にはあまり変わりがないということです。
続いて、汚染水(滞留水)中の放射性物質の量を、東京電力が発表しているデータからまとめてくれています。

ここで、Tbというのはタービン建屋、Rというのは原子炉建屋、Trというのはトレンチ、Wというのは集中廃棄物処理建屋のことを指します。といってもあまりピンと来る人は少ないかもしれません。いずれこのあたりも含めて図で説明したものを作る計画ですので、その際にこの資料も利用させてもらう予定です。
ここでは、事故直後の3/11のデータに補正しています。また、検出されていない核種についても、Cs137濃度を基準として、タービン建屋の測定で補完しているそうです。補完したデータは網掛けになっています。
本文中のコメントから引用します。
『1号機においては,3月26日にタービン建屋で1E+5 Bq/ml程度のCs137が測定されているが,5月27日に原子炉建屋でその30倍の濃度が測定されている。したがって全体として増加傾向にある可能性がある。2号機においては,一貫して2-3E+6 Bq/ml程度のCs137濃度が測定されている。3号機では,4月22日に1桁の上昇がみられ,増加傾向にある。4号機においても4月21日の測定で2桁の上昇がみられるが,これは3号機からの流入によるものと考えられる。』
3月から4月にかけては、原子炉からタービン建屋へと放射性物質がどんどん流れ出していった頃でしょうから、この上昇というのはその通りだと思います。
ちなみに、それぞれの体積は下記のテーブルにあるとおりです。後で汚染水に流れ出した放射性物質の量を計算する際に体積が必要になります。

さて、事故当時の放射性物質の量と、それぞれの滞留水中の放射性物質の量がわかると、どれくらいの割合で汚染水中に放出されたのかが予想できます。それを行ってくれたのが次の表です。

この計算結果からわかることは、2号機の流出率が一番高く、3号機、1号機の順であることです。TOTALというのは1-3号機まで合わせて全体で何%かということです。また、TMIというのはアメリカのスリーマイル島の事故の時のデータと比較しています。
今まで何号機の損傷が一番ひどいと言われていたのか、記憶が確かではないのですが、この数値を見ると、1号機の放射性物質はまだ格納容器の中に多く残っている、あるいは原発敷地の外部に飛んで行ってしまったということです。外壁が吹っ飛んでしまったことを考えればきっと後者でしょうね。2号機は外壁が唯一残っていますから、一番滞留水への移行率が高いのでしょうか?
ここについては、本文中の結論部分から引用しておきます。
『・ ヨウ素およびトリチウムの放出率はセシウムと同程度か,それよりも数倍大きい。
・ バリウムおよびストロンチウムの放出率はセシウムよりも1号機では3~4桁小さく、2,3号機では1~2桁小さい。
・ モリブデンの放出率はセシウムより2桁小さく、アンチモンは3桁小さい。
・ トリチウム,ヨウ素,セシウムについて,1号機では7%程度,2号機では35~60%程度,3号機では20~70%程度の放出率と見積もられる。
・ 2号機とTMI-2事故と比較して、トリチウム、ヨウ素、セシウム、ストロンチウムの放出率は類似である。
上述のように評価されたが,滞留水の試料採取の頻度は乏しく,滞留水中のインベントリ評価の精度は十分ではな
い。本評価で用いた滞留水量の評価日は5月31日であるが,多くの採取日は3月下旬~4月下旬であり,この間の放射能濃度変化は不明である。また,5 月31日以降の追加放出がある可能性もあり,これらが本評価の不確定要因である。』
たぶんこれまでにも、1号機から3号機までの放射性物質がどれくらい放出されたかを見積もったデータはあるのだと思います。ただ、汚染水の量や放射性物質の量を含めてまとめてくれたものは初めて見たような気がしたので、ご紹介しました。
また、汚染水中の放射性物質の量についても、サリーなどの汚染水循環処理システムの運用により、現在では少し濃度が下がってきているというデータが出ています。今回はその詳細はご紹介できませんが、いずれまとめたいと思います。

この論文では、まず炉心の放射性核種インベントリ、つまり事故発生時の3/11に1号機から3号機までの炉心にどれだけの放射性物質が存在したのか、を評価しています。これは、各号機の運転実績などを計算すればだいたい計算できるそうです。ここでは載せませんが、1号機から3号機までいつメンテナンスに入って何本の核燃料を交換したか、ということも記載されています。興味のある方は最初に紹介した論文のpdfへのリンクをお読み下さい。
難しい計算は私たちにはあまり関係ないので省略して、計算した結果を紹介します。

1F1とは"1F"が”福島第一原発”ですから1F1で福島第一原発1号機という意味です。同様に、1F2は2号機、1F3は3号機のことを意味します。よく目にするCs137で比較すると、2.0~2.6E+17 Bqと1号機から3号機までであまり変わりないことがわかります。
このE+17とは、念のために説明すると、2E+3といえば、2のあとにゼロが3つつく数、すなわち2000を意味します。E+17ですから、ゼロが17個つく数です。1E+12Bq=1兆Bq=1テラベクレルというのを覚えておくと、少しはわかりやすいかもしれません。この場合は200000万テラベクレル、または20京ベクレルです。
I131で比較しても2倍程度の差はありますが、ほぼ同じです。事故当時、1号機から3号機までに入っていた放射性物質の量にはあまり変わりがないということです。
続いて、汚染水(滞留水)中の放射性物質の量を、東京電力が発表しているデータからまとめてくれています。

ここで、Tbというのはタービン建屋、Rというのは原子炉建屋、Trというのはトレンチ、Wというのは集中廃棄物処理建屋のことを指します。といってもあまりピンと来る人は少ないかもしれません。いずれこのあたりも含めて図で説明したものを作る計画ですので、その際にこの資料も利用させてもらう予定です。
ここでは、事故直後の3/11のデータに補正しています。また、検出されていない核種についても、Cs137濃度を基準として、タービン建屋の測定で補完しているそうです。補完したデータは網掛けになっています。
本文中のコメントから引用します。
『1号機においては,3月26日にタービン建屋で1E+5 Bq/ml程度のCs137が測定されているが,5月27日に原子炉建屋でその30倍の濃度が測定されている。したがって全体として増加傾向にある可能性がある。2号機においては,一貫して2-3E+6 Bq/ml程度のCs137濃度が測定されている。3号機では,4月22日に1桁の上昇がみられ,増加傾向にある。4号機においても4月21日の測定で2桁の上昇がみられるが,これは3号機からの流入によるものと考えられる。』
3月から4月にかけては、原子炉からタービン建屋へと放射性物質がどんどん流れ出していった頃でしょうから、この上昇というのはその通りだと思います。
ちなみに、それぞれの体積は下記のテーブルにあるとおりです。後で汚染水に流れ出した放射性物質の量を計算する際に体積が必要になります。

さて、事故当時の放射性物質の量と、それぞれの滞留水中の放射性物質の量がわかると、どれくらいの割合で汚染水中に放出されたのかが予想できます。それを行ってくれたのが次の表です。

この計算結果からわかることは、2号機の流出率が一番高く、3号機、1号機の順であることです。TOTALというのは1-3号機まで合わせて全体で何%かということです。また、TMIというのはアメリカのスリーマイル島の事故の時のデータと比較しています。
今まで何号機の損傷が一番ひどいと言われていたのか、記憶が確かではないのですが、この数値を見ると、1号機の放射性物質はまだ格納容器の中に多く残っている、あるいは原発敷地の外部に飛んで行ってしまったということです。外壁が吹っ飛んでしまったことを考えればきっと後者でしょうね。2号機は外壁が唯一残っていますから、一番滞留水への移行率が高いのでしょうか?
ここについては、本文中の結論部分から引用しておきます。
『・ ヨウ素およびトリチウムの放出率はセシウムと同程度か,それよりも数倍大きい。
・ バリウムおよびストロンチウムの放出率はセシウムよりも1号機では3~4桁小さく、2,3号機では1~2桁小さい。
・ モリブデンの放出率はセシウムより2桁小さく、アンチモンは3桁小さい。
・ トリチウム,ヨウ素,セシウムについて,1号機では7%程度,2号機では35~60%程度,3号機では20~70%程度の放出率と見積もられる。
・ 2号機とTMI-2事故と比較して、トリチウム、ヨウ素、セシウム、ストロンチウムの放出率は類似である。
上述のように評価されたが,滞留水の試料採取の頻度は乏しく,滞留水中のインベントリ評価の精度は十分ではな
い。本評価で用いた滞留水量の評価日は5月31日であるが,多くの採取日は3月下旬~4月下旬であり,この間の放射能濃度変化は不明である。また,5 月31日以降の追加放出がある可能性もあり,これらが本評価の不確定要因である。』
たぶんこれまでにも、1号機から3号機までの放射性物質がどれくらい放出されたかを見積もったデータはあるのだと思います。ただ、汚染水の量や放射性物質の量を含めてまとめてくれたものは初めて見たような気がしたので、ご紹介しました。
また、汚染水中の放射性物質の量についても、サリーなどの汚染水循環処理システムの運用により、現在では少し濃度が下がってきているというデータが出ています。今回はその詳細はご紹介できませんが、いずれまとめたいと思います。
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