民間事故調の報告書をめぐる騒ぎを通じて考えたWeb時代の情報発信の対価
3/4に「民間事故調査委員会の報告書はなぜ有料?」を書いたところ、早野先生からコメントをもらい、それをきっかけに多くの人に読んでもらったようです。ワーキンググループの秋山さんからもツイッターでコメントをいただき、いろいろわかったことがあります。
明日(3/11)になれば書籍「福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書」が発売されるようですが、現時点(10日)では一般の人には入手できないという状況は変わりません。長かったタイムラグの最後の日ということで、少し考えたことを書きます。
1.民間事故調の報告書について
まず最初に誤解のないようにはっきりさせておきたいのですが、私は民間事故調の報告書の中身については期待しています。ワーキンググループの秋山さん(Twitter:@nobu_akiyama)や、鈴木さん(Twitter:@KS_1013)が非常に一生懸命やってくれたのは彼らのネットでの発言を見てもわかります。鈴木さんのブログ(3/7)の「私にとっての民間事故調」も読みました。これまでの経緯を詳細に記載してくれていて、本業を抱えながら非常によく頑張ってくれたということがわかります。そういう意味で、ワーキンググループの人たちの活動には経緯を表したいと思います。
ただ、現時点ではマスメディアでつまみ食いして報道された内容しかわからない(3.11以降のマスメディアの報道がいかに歪められたものが多かったかについては、説明の必要がないと思います)ことと、インタビューを受けた当事者の内閣広報室審議官の下村健一さんが「ぞっとした」の意味を完全に取り違えて報道されている、というコメントなどもあるため、読んでみないことには判断できない、というところでしょう。少なくともマスメディアの報道内容はそのまま受け取るのは危険だと思います。
2.民間事故調は誰に対して報告書を書いたのか?
「福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書」は、報告書である以上、誰かに対して何かを報告するものです。その報告する対象は誰なのでしょうか?
通常、このようなプロジェクトでは、最初にゴールが設定されます。プロジェクトの目的は何で、どういう事を調査し、それを最終的にどう公表するのか、全て決めているはずです。
当然ながら、報告書の主たる読者も誰なのか、設定しているはずです。というのは、学術的な報告書ならば難しい専門用語を使用してもいいでしょうが、一般国民を読者と想定するならば、平易な日本語を使用する必要があるからです。
この民間事故調が報告書の読者を誰に設定していたのか、日本再建イニシアチブのHPから推測してみました。
「踊る小児科医のblog」というブログ(福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)調査・検証報告書の配布資料を読む)に2月段階での日本再建イニシアチブのHPの記載が書かれていました(現在はすでにHP上の文章は変更されており、この文章は残っていません)。
『記者会見後、多くの方々から、報告書の入手方法についてお問い合わせを頂戴しております。当プロジェクトにご関心をお寄せ頂き、本当にありがとうございます。
当財団は非営利で運営しておりますことから、今回の報告書は非売品として限定部数作成致しました。会見後に在庫が払底している状態です。皆さまからリクエストを頂戴しておりますところ、すぐに報告書をお手元にお届けすることができず誠に申し訳ございません。
「国民の視点からの検証」という報告書の性質上、広く皆さまにお読み頂きたく思っておりますので、なるべくお求めやすい価格での出版や、ウェブでの公開など、様々な方法を現在検討中です。追って、本ウェブサイトで詳しい情報をご案内致します。』
なお、現在は、下記のように書かれています。
『記者会見後、多くの方々から入手方法についてお問い合わせをいただきました。当初は、非売品として部数を限定して作成しておりましたが、できるだけ多くの方に読んでいただけるよう株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワンから書籍・電子書籍として実費にて緊急出版させていただくことにいたしました。
なお、出版社のご協力により、書籍については本来印税に当たる定価の10%が、電子書籍については売上から販売店手数料・カード決済会社手数料を除いた全額が、国際シンポジウムの開催や外国語での報告書出版ほか、福島原発事故の調査・検証結果を日本と世界の未来のために生かす活動に使われます。』
文中の赤字は私が赤字に変えています。ここに報告書の読者をどう考えていたかが明確に現れていると考えられるからです。
まず事実として、2月28日の記者会見の段階では、非売品として限定部数を作成していたということです。またこの財団は非営利ですから、金儲けをしようという主旨ではないということを明確にしています。
ここで読み取れることは、広く一般国民を報告書の読者の対象とは考えていなかったということです。非売品で限定部数しか作成しないということは多くの人に読んでもらおうという意志がなかったことを示しています。もし、初めから多くの人に読んでもらいたいと考えていたならば、非売品で金儲けをしようとしていないのですから、書籍で大量に配布というのは無理がありますので、最初からWeb上でpdfを無料公開すればいいだけの話です。
記者会見後に野田総理に手渡したというのですから、総理に報告するのが目的だったのでしょうか?そんなことはないと思いたいです。
3.書籍としての販売とWebの無料配布は両立するのか?
ワーキンググループの秋山さんや鈴木さんのネットでの発言には、後世に残すために書籍で出版することが必要だと言っています。私はこれは正しいと思います。
「それに、僕らは今回の報告書を後世の評価にゆだねたいと考えた。」「後世の評価に委ねるためには、後世に残る形で報告書を残しておきたいと思う。であるならば、紙媒体のほうがいいのではないだろうか。」(以上秋山さんのツイート)
「また、PDFではなく、書籍の形態で残すというのも意味があると考えている。書籍であれば、図書館にも入り、永続的に保存されることが確実となるが、この財団が今後どうなるかは私にはわからず、永続的にサーバを管理する、PDFを公開しつづけられるかどうかがわからないからである。」(以上鈴木さんのブログ)
書籍として作成し、図書館などで保存してもらうことは後世に残したいという意味ではいいことだと思います。しかし、今の時代に紙の書籍のみの出版というのは時代遅れです。出版業界の事情を全く知らないので書くのですが、書籍では有料で販売することと、Webで無料で公開することは両立しうると思います。実際にこれまででもWebで読めば無料だけどそれを書籍として販売してきた例はいくつもあります。
現時点では、すでに出版社と契約を結んでしまったようなので、今からこのような形態を求めるのは難しいと思いますが、最初からWebでは無料公開という方針を決めていれば、このような問題はクリアする事も可能だったのではないかと思います。
『【報告書の公表について】
報告書が2月28日に公表された段階では、私の知る限り、公表の方法についての最終的な判断はなされていなかった。その前から市販するということは交渉していたようであるが、条件が合わず、交渉は成立しなかったらしい。ただ、報告書に対する関心が非常に強く、私も2月28日の記者会見の場に顔を出したが、予想をはるかに上回る関心が寄せられていることに驚いた。』(鈴木さんのブログより)
結局、このプロジェクトでは、報告書をどうやって公表するか、という重要なポイントを決めずにプロジェクトをスタートさせ、最後の記者会見にまで臨んでしまったようなのです。これは、プロジェクトを運営する人たち(ワーキンググループではなく)の大きな判断ミスではないかと思います。その結果、反響の大きさを見て慌てて緊急出版する事となり、マスメディアの正しいかどうかわからない報道だけが一人歩きする期間を12日も作ることとなったのだと思います。
私は、もしこの報告書が最初から有料で出版することが決まっていて、記者会見の当日か翌日には発売されていたならば、なんの違和感も持たなかったと思います。前回の記事では「なぜ有料?」というタイトルで書いたため、私が無料にこだわっているように受け取られているかもしれませんが、今回のこの無意味な12日間のタイムラグというのがなければ、有料で販売されていても(多少ひっかかったものの)素直に受け入れていたと思います。いろいろ自己分析すると、やはりこの12日間の空白に一番こだわりがあると感じました(その理由は後述します)。
記者会見時には方針が決まっていなかったのならば、反響の大きさを見た時に、非営利なのですからとりあえず間を空けずにHPでpdfを無料で公開し、後日書籍として出版して保存できるようにするということでも良かったと思います。問い合わせが多かったならばすぐに誰もが読めるようにするということを考えるべきだったと思います。
おそらくこの財団を作った理事長が元朝日新聞の主筆ということですから、マスメディアの旧来の発想から抜け出すことができず、現在のWebの時代に全く対応できていないということなのでしょう。マスコミ報道に対して多くの人が大きな不信感を持っているという感覚すら持っていないのではないでしょうか?
今さら言っても仕方がないことですが、民間事故調に限らず、今後の同様な報告書の発表の際にはぜひ今回のような失敗(内容ではなく、公表の方法での失敗)はくり返さないで欲しいと思います。
4.将来的な情報発信のあり方とその対価
私は、3.11直後の原発をめぐる情報の混乱から、この1年「情報発信のあり方」については課題意識を持って臨んできました。このブログでも、具体的な事例を用いて情報発信のあり方についてはしつこく追求してきたと思います。
私自身が3.11後の情報の混乱から特に強く感じたこと、今考えていることとして3つあります。3つめは今年になってある本(後述)を読んで加わったものです。
1.マスメディアの報道は第一報としてどんなニュースがあるのかを知るためにはいいが、正確な情報と思ってはいけない。気になった情報は必ず大元の発信源にあたる必要がある。(この考え方から、私のブログでは元になった情報源に対して必ずリンクをつけて読んだ人が検証できるようにしています。)
2.大元の発信源(自治体や大学など)に求めたいことは、記者会見を行ったら全て良しとしないで欲しい。必ず自らのHPなどでも記者に説明したのと同等以上の情報を公開して欲しいし、それはネット時代の義務でもある。またそのタイミングも、記者会見と同時とは言わないまでもせめて当日中にHPにも公開して欲しい。
これは私が今回の12日のタイムラグに反感を持つ大きな理由です。これまでにもネットのニュースで気になる情報を見つけて情報元のサイトのHPに詳細情報を探しに行っても発表されておらず、イライラしたことが何度もあります。
3.価値のある情報には気軽に対価を支払えるようなインフラを整備して欲しい。
3.については、今回の騒ぎの後で1月に読んだ津田大介さんの「情報の呼吸法」を再度読み直しました。非常に示唆的な事を書いてくれていますので以下に引用します。
『送金のプラットフォームで社会は変わる
情報化社会の未来像を描くとき、最前面にやってくるのはマネタイズです。ソーシャルメディアは社会には完全に欠かせないインフラになっているでしょうが、そこに送金機能が付加されることで世界は劇的に変わると思います。
フェイスブックの「いいね!」を押すだけでは現実の世界はほとんど変わりません。しかしそのとなりに「10円送金」のボタンが付いていたらどうなるでしょうか。面白いことをしようとしている人、困っている人を助けようとしている人、社会を変えようと行動している人に資金が移動して、社会変革の実現速度が加速していくと思います。
つまり、多くの人を動かす力を持っているソーシャルメディアが、人々の善意をマネタイズする送金のプラットフォームになり、社会を変えるためのエンジンになるということです。実際ツイッター社はマイクロペイメント(小額決済)の会社を買収しています。いずれ、ソーシャルメディア上でのコミュニケーションにペイパルのような個人間送金の機能を付けることを狙っているのだと思います。
日本でもようやく新寄付税制法案が国会で可決され(2011年6月)、寄付そのものに対するインセンティブが働きやすくなりました。これからは寄付やNPOの活動も盛り上がると思います。ツイッターやフェイスブックでの情報発信をきっかけにして活動が知れわたり、NPOの人が「これからこういう活動をします」と宣言して、リンクをはって募金をお願いする。ソーシャルメディアとマネタイズを組み合わせることにより、社会貢献活動の敷居はどんどん低くなるでしょう。』(「情報の呼吸法」より)
なぜこのようなことを書くかというと、今回の民間事故調だって、書籍は有料で販売するにしても、pdfは無料で配布し、内容がいいと思った人は財団への寄付ができるようにしておけばいいのに、と思ったからです。マネタイズの仕組みは今は揃っていませんが、財団であればそこへの寄付は比較的容易だと思います。
折しも、3.11以来多くの有用な情報提供を無償で行ってきてくれて、給食の放射能測定やWBC(フォールボディカウンター)の正しい測定方法の普及に活躍してくれている東大理学部の早野教授に対しても東京大学基金を通じて寄付をできるようになったという話がありました。結構反響があるようですが、早野先生のこれまでの活動を見ていれば当然のことと思います。

これも東大に寄付を受け付ける仕組みがあったからそれを利用して可能になったことですが、一般にはそのようなインフラはまだありません。「情報の呼吸法」にあったようなマネタイズの仕組みが早く整備されるといいと思っています。クリックするだけで10円とか100円とかを気軽に寄付できるような仕組みがあれば、やりたいことがあるけれども資金を集めるのが難しくてできない、という人たちももっと気軽に社会貢献ができるような社会になっていくと思います。
かなりとりとめのない文章になりましたが、最後にこの民間事故調の報告書の入手先です。
書籍(明日3/11からです)
株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン
amazon
電子書籍
hontoでは3/12から発売です。
それ以外の電子書籍サイトでは、いくつか探しましたが、10日の時点では情報がありませんでした。こういう情報も日本再建イニシアチブのHPに載せて欲しいところですが、ディスカヴァー・トゥエンティワンとの契約上難しいでしょうね。でもディスカヴァー・トゥエンティワンには電子書籍の販売の情報が10日時点ではありません。hontoのサイトのように「近日発売」でボタンを灰色にしておけばいいことなのですが。
まず最初に誤解のないようにはっきりさせておきたいのですが、私は民間事故調の報告書の中身については期待しています。ワーキンググループの秋山さん(Twitter:@nobu_akiyama)や、鈴木さん(Twitter:@KS_1013)が非常に一生懸命やってくれたのは彼らのネットでの発言を見てもわかります。鈴木さんのブログ(3/7)の「私にとっての民間事故調」も読みました。これまでの経緯を詳細に記載してくれていて、本業を抱えながら非常によく頑張ってくれたということがわかります。そういう意味で、ワーキンググループの人たちの活動には経緯を表したいと思います。
ただ、現時点ではマスメディアでつまみ食いして報道された内容しかわからない(3.11以降のマスメディアの報道がいかに歪められたものが多かったかについては、説明の必要がないと思います)ことと、インタビューを受けた当事者の内閣広報室審議官の下村健一さんが「ぞっとした」の意味を完全に取り違えて報道されている、というコメントなどもあるため、読んでみないことには判断できない、というところでしょう。少なくともマスメディアの報道内容はそのまま受け取るのは危険だと思います。
2.民間事故調は誰に対して報告書を書いたのか?
「福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書」は、報告書である以上、誰かに対して何かを報告するものです。その報告する対象は誰なのでしょうか?
通常、このようなプロジェクトでは、最初にゴールが設定されます。プロジェクトの目的は何で、どういう事を調査し、それを最終的にどう公表するのか、全て決めているはずです。
当然ながら、報告書の主たる読者も誰なのか、設定しているはずです。というのは、学術的な報告書ならば難しい専門用語を使用してもいいでしょうが、一般国民を読者と想定するならば、平易な日本語を使用する必要があるからです。
この民間事故調が報告書の読者を誰に設定していたのか、日本再建イニシアチブのHPから推測してみました。
「踊る小児科医のblog」というブログ(福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)調査・検証報告書の配布資料を読む)に2月段階での日本再建イニシアチブのHPの記載が書かれていました(現在はすでにHP上の文章は変更されており、この文章は残っていません)。
『記者会見後、多くの方々から、報告書の入手方法についてお問い合わせを頂戴しております。当プロジェクトにご関心をお寄せ頂き、本当にありがとうございます。
当財団は非営利で運営しておりますことから、今回の報告書は非売品として限定部数作成致しました。会見後に在庫が払底している状態です。皆さまからリクエストを頂戴しておりますところ、すぐに報告書をお手元にお届けすることができず誠に申し訳ございません。
「国民の視点からの検証」という報告書の性質上、広く皆さまにお読み頂きたく思っておりますので、なるべくお求めやすい価格での出版や、ウェブでの公開など、様々な方法を現在検討中です。追って、本ウェブサイトで詳しい情報をご案内致します。』
なお、現在は、下記のように書かれています。
『記者会見後、多くの方々から入手方法についてお問い合わせをいただきました。当初は、非売品として部数を限定して作成しておりましたが、できるだけ多くの方に読んでいただけるよう株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワンから書籍・電子書籍として実費にて緊急出版させていただくことにいたしました。
なお、出版社のご協力により、書籍については本来印税に当たる定価の10%が、電子書籍については売上から販売店手数料・カード決済会社手数料を除いた全額が、国際シンポジウムの開催や外国語での報告書出版ほか、福島原発事故の調査・検証結果を日本と世界の未来のために生かす活動に使われます。』
文中の赤字は私が赤字に変えています。ここに報告書の読者をどう考えていたかが明確に現れていると考えられるからです。
まず事実として、2月28日の記者会見の段階では、非売品として限定部数を作成していたということです。またこの財団は非営利ですから、金儲けをしようという主旨ではないということを明確にしています。
ここで読み取れることは、広く一般国民を報告書の読者の対象とは考えていなかったということです。非売品で限定部数しか作成しないということは多くの人に読んでもらおうという意志がなかったことを示しています。もし、初めから多くの人に読んでもらいたいと考えていたならば、非売品で金儲けをしようとしていないのですから、書籍で大量に配布というのは無理がありますので、最初からWeb上でpdfを無料公開すればいいだけの話です。
記者会見後に野田総理に手渡したというのですから、総理に報告するのが目的だったのでしょうか?そんなことはないと思いたいです。
3.書籍としての販売とWebの無料配布は両立するのか?
ワーキンググループの秋山さんや鈴木さんのネットでの発言には、後世に残すために書籍で出版することが必要だと言っています。私はこれは正しいと思います。
「それに、僕らは今回の報告書を後世の評価にゆだねたいと考えた。」「後世の評価に委ねるためには、後世に残る形で報告書を残しておきたいと思う。であるならば、紙媒体のほうがいいのではないだろうか。」(以上秋山さんのツイート)
「また、PDFではなく、書籍の形態で残すというのも意味があると考えている。書籍であれば、図書館にも入り、永続的に保存されることが確実となるが、この財団が今後どうなるかは私にはわからず、永続的にサーバを管理する、PDFを公開しつづけられるかどうかがわからないからである。」(以上鈴木さんのブログ)
書籍として作成し、図書館などで保存してもらうことは後世に残したいという意味ではいいことだと思います。しかし、今の時代に紙の書籍のみの出版というのは時代遅れです。出版業界の事情を全く知らないので書くのですが、書籍では有料で販売することと、Webで無料で公開することは両立しうると思います。実際にこれまででもWebで読めば無料だけどそれを書籍として販売してきた例はいくつもあります。
現時点では、すでに出版社と契約を結んでしまったようなので、今からこのような形態を求めるのは難しいと思いますが、最初からWebでは無料公開という方針を決めていれば、このような問題はクリアする事も可能だったのではないかと思います。
『【報告書の公表について】
報告書が2月28日に公表された段階では、私の知る限り、公表の方法についての最終的な判断はなされていなかった。その前から市販するということは交渉していたようであるが、条件が合わず、交渉は成立しなかったらしい。ただ、報告書に対する関心が非常に強く、私も2月28日の記者会見の場に顔を出したが、予想をはるかに上回る関心が寄せられていることに驚いた。』(鈴木さんのブログより)
結局、このプロジェクトでは、報告書をどうやって公表するか、という重要なポイントを決めずにプロジェクトをスタートさせ、最後の記者会見にまで臨んでしまったようなのです。これは、プロジェクトを運営する人たち(ワーキンググループではなく)の大きな判断ミスではないかと思います。その結果、反響の大きさを見て慌てて緊急出版する事となり、マスメディアの正しいかどうかわからない報道だけが一人歩きする期間を12日も作ることとなったのだと思います。
私は、もしこの報告書が最初から有料で出版することが決まっていて、記者会見の当日か翌日には発売されていたならば、なんの違和感も持たなかったと思います。前回の記事では「なぜ有料?」というタイトルで書いたため、私が無料にこだわっているように受け取られているかもしれませんが、今回のこの無意味な12日間のタイムラグというのがなければ、有料で販売されていても(多少ひっかかったものの)素直に受け入れていたと思います。いろいろ自己分析すると、やはりこの12日間の空白に一番こだわりがあると感じました(その理由は後述します)。
記者会見時には方針が決まっていなかったのならば、反響の大きさを見た時に、非営利なのですからとりあえず間を空けずにHPでpdfを無料で公開し、後日書籍として出版して保存できるようにするということでも良かったと思います。問い合わせが多かったならばすぐに誰もが読めるようにするということを考えるべきだったと思います。
おそらくこの財団を作った理事長が元朝日新聞の主筆ということですから、マスメディアの旧来の発想から抜け出すことができず、現在のWebの時代に全く対応できていないということなのでしょう。マスコミ報道に対して多くの人が大きな不信感を持っているという感覚すら持っていないのではないでしょうか?
今さら言っても仕方がないことですが、民間事故調に限らず、今後の同様な報告書の発表の際にはぜひ今回のような失敗(内容ではなく、公表の方法での失敗)はくり返さないで欲しいと思います。
4.将来的な情報発信のあり方とその対価
私は、3.11直後の原発をめぐる情報の混乱から、この1年「情報発信のあり方」については課題意識を持って臨んできました。このブログでも、具体的な事例を用いて情報発信のあり方についてはしつこく追求してきたと思います。
私自身が3.11後の情報の混乱から特に強く感じたこと、今考えていることとして3つあります。3つめは今年になってある本(後述)を読んで加わったものです。
1.マスメディアの報道は第一報としてどんなニュースがあるのかを知るためにはいいが、正確な情報と思ってはいけない。気になった情報は必ず大元の発信源にあたる必要がある。(この考え方から、私のブログでは元になった情報源に対して必ずリンクをつけて読んだ人が検証できるようにしています。)
2.大元の発信源(自治体や大学など)に求めたいことは、記者会見を行ったら全て良しとしないで欲しい。必ず自らのHPなどでも記者に説明したのと同等以上の情報を公開して欲しいし、それはネット時代の義務でもある。またそのタイミングも、記者会見と同時とは言わないまでもせめて当日中にHPにも公開して欲しい。
これは私が今回の12日のタイムラグに反感を持つ大きな理由です。これまでにもネットのニュースで気になる情報を見つけて情報元のサイトのHPに詳細情報を探しに行っても発表されておらず、イライラしたことが何度もあります。
3.価値のある情報には気軽に対価を支払えるようなインフラを整備して欲しい。
3.については、今回の騒ぎの後で1月に読んだ津田大介さんの「情報の呼吸法」を再度読み直しました。非常に示唆的な事を書いてくれていますので以下に引用します。
『送金のプラットフォームで社会は変わる
情報化社会の未来像を描くとき、最前面にやってくるのはマネタイズです。ソーシャルメディアは社会には完全に欠かせないインフラになっているでしょうが、そこに送金機能が付加されることで世界は劇的に変わると思います。
フェイスブックの「いいね!」を押すだけでは現実の世界はほとんど変わりません。しかしそのとなりに「10円送金」のボタンが付いていたらどうなるでしょうか。面白いことをしようとしている人、困っている人を助けようとしている人、社会を変えようと行動している人に資金が移動して、社会変革の実現速度が加速していくと思います。
つまり、多くの人を動かす力を持っているソーシャルメディアが、人々の善意をマネタイズする送金のプラットフォームになり、社会を変えるためのエンジンになるということです。実際ツイッター社はマイクロペイメント(小額決済)の会社を買収しています。いずれ、ソーシャルメディア上でのコミュニケーションにペイパルのような個人間送金の機能を付けることを狙っているのだと思います。
日本でもようやく新寄付税制法案が国会で可決され(2011年6月)、寄付そのものに対するインセンティブが働きやすくなりました。これからは寄付やNPOの活動も盛り上がると思います。ツイッターやフェイスブックでの情報発信をきっかけにして活動が知れわたり、NPOの人が「これからこういう活動をします」と宣言して、リンクをはって募金をお願いする。ソーシャルメディアとマネタイズを組み合わせることにより、社会貢献活動の敷居はどんどん低くなるでしょう。』(「情報の呼吸法」より)
なぜこのようなことを書くかというと、今回の民間事故調だって、書籍は有料で販売するにしても、pdfは無料で配布し、内容がいいと思った人は財団への寄付ができるようにしておけばいいのに、と思ったからです。マネタイズの仕組みは今は揃っていませんが、財団であればそこへの寄付は比較的容易だと思います。
折しも、3.11以来多くの有用な情報提供を無償で行ってきてくれて、給食の放射能測定やWBC(フォールボディカウンター)の正しい測定方法の普及に活躍してくれている東大理学部の早野教授に対しても東京大学基金を通じて寄付をできるようになったという話がありました。結構反響があるようですが、早野先生のこれまでの活動を見ていれば当然のことと思います。

これも東大に寄付を受け付ける仕組みがあったからそれを利用して可能になったことですが、一般にはそのようなインフラはまだありません。「情報の呼吸法」にあったようなマネタイズの仕組みが早く整備されるといいと思っています。クリックするだけで10円とか100円とかを気軽に寄付できるような仕組みがあれば、やりたいことがあるけれども資金を集めるのが難しくてできない、という人たちももっと気軽に社会貢献ができるような社会になっていくと思います。
かなりとりとめのない文章になりましたが、最後にこの民間事故調の報告書の入手先です。
書籍(明日3/11からです)
株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン
amazon
電子書籍
hontoでは3/12から発売です。
それ以外の電子書籍サイトでは、いくつか探しましたが、10日の時点では情報がありませんでした。こういう情報も日本再建イニシアチブのHPに載せて欲しいところですが、ディスカヴァー・トゥエンティワンとの契約上難しいでしょうね。でもディスカヴァー・トゥエンティワンには電子書籍の販売の情報が10日時点ではありません。hontoのサイトのように「近日発売」でボタンを灰色にしておけばいいことなのですが。
- 関連記事
-
- 民間事故調の報告書を読んで-もう少し体裁を整えてから出版した方がよかったのでは? (2012/03/18)
- 民間事故調の報告書をめぐる騒ぎを通じて考えたWeb時代の情報発信の対価 (2012/03/10)
- 民間事故調査委員会の報告書はなぜ有料? (2012/03/04)


↑日本ブログ村ランキングに参加しました。よかったらクリックお願いします。