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サイフォンの原理を理解すれば放射能汚染水の管理は理解できる!

 
前回の「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(1)シミュレーションからの推定」では、シミュレーションの結果、3/26から2号機の漏洩が始まっていたという説を紹介しました。このシミュレーションでは、実際の海水の放射能データを用いているものの、では本当に3/26から海への漏洩が始まっていたと言えるのかどうかについては、もう少しデータに基づいた検証が必要です。

そのためには、もう少しタービン建屋やトレンチの水位について理解する必要があります。今回は「サイフォンの原理」をキーワードにして、昨年3月下旬から4月にかけて起こったことをかいつまんで説明しながら、いかに放射能汚染水の管理に水位管理の概念が重要なのかを理解していただきたいと思います。いきなりデータを用いて詳細に説明しても間違いなく消化不良を起こすと思いますので、少しずつ解説していく予定です。

なお、原子炉建屋とかタービン建屋とかトレンチといった用語がわからない方は一度「福島原発の汚染水をよく知るため、O.P.とサブドレンを理解しましょう」を読んでみてください。


今回の話、それから今後の放射能汚染水の管理の話を理解するためには、みなさんがおそらく小学校の時に遊んだであろうある簡単な原理を理解しておく必要があります。それは、サイフォンの原理です。水遊びする時とかに、(無意識のうちに)この原理を利用してホースで水を移動させた経験のある方もいるのではないでしょうか?この原理についてはここでは特に解説しません。

4/23-1

福島第一原発における放射能汚染水の場合は、厳密にいうとサイフォンの原理とは違うかもしれないのですが、流路をすき間なく水で満たしておけば、その流路でつながれた二つの液面は同じになる、という簡単な法則は、みなさん実体験として理解できると思います。

実は、放射能汚染水も上の図とほぼ同じような図式で書くことができます。違うのは、容器が何千トンも入るとてつもなく大きな容器であるということと、複数がつながっているということです。

4/23-2

原子炉建屋とタービン建屋はどこかでつながっています。そしてトレンチはタービン建屋からつながっています。だとすると、基本的にはこの3つの水位は上の右図のように同じになるはずです。このことを理解しておいた上で、1年前の3月24日に戻ってみましょう。

1.タービン建屋の溜まり水の発見(昨年3/24)

昨年の3/24、3号機のタービン建屋で作業していた作業員が、水たまりの中を通って作業したところ、180mSvもの被曝をしたというニュース(リンクはasahi.com)はみなさんご記憶にあるでしょう。この時は作業員の被曝線量が話題になっていて、誰も溜まり水の深さには気をつけていなかったと思います。ですが今回は、このニュースの中で被曝線量ではなく溜まり水の水位について注目します。これは3号機の話ですが、この時の記録として残っているのは、

・3/24には約15cmの溜まり水がたまっていた。
・前日作業した時にはそのような溜まり水はなかった。
・3/24には水面の線量は400mSv/hに達していた。

というものです。

この時の3号機タービン建屋の地下の状況については東京電力が5/30に溜まり水マップを出してくれていますので、参考までにお示ししておきます。
4/23-3

場所によって水位が違いますね。被曝した作業員は深さ15cmの水に入ったということだったので、この情報から、私は3号機タービン建屋の水位として、
3/23 O.P.1900(3号機タービン建屋地下のO.P.は1900=1.9m)
3/24 O.P.2050

と読み取りました。この頃のタービン建屋の水位データは発表されていないので、こういう情報から読み取っていくしかないのです。


なお、この時の放射性物質の濃度は、東京電力が4/20に発表した資料によると、

3号機タービン建屋地下(3/24)
I-131 :1.2×10^6Bq/cm3=1.2×10^9Bq/L
Cs-134:1.8×10^5Bq/cm3=1.8×10^8Bq/L
Cs-137:1.8×10^5Bq/cm3=1.8×10^8Bq/L
(注:10^6=1,000,000(=10の6乗))

です。ついでに同じ資料から、3日後に発見された2号機のタービン建屋の溜まり水のデータを抜き出すと、

2号機タービン建屋地下(3/26)
I-131 :1.3×10^7Bq/cm3=1.3×10^10Bq/L
Cs-134:2.3×10^6Bq/cm3=2.3×10^9Bq/L
Cs-137:2.3×10^6Bq/cm3=2.3×10^9Bq/L

2号機タービン建屋地下(3/27)
I-131 :1.3×10^7Bq/cm3=1.3×10^10Bq/L
Cs-134:3.1×10^6Bq/cm3=3.1×10^9Bq/L
Cs-137:3.0×10^6Bq/cm3=3.0×10^9Bq/L

また、1号機のタービン建屋の溜まり水のデータは、

1号機タービン建屋地下(3/24)
I-131 :2.1×10^5Bq/cm3=2.1×10^8Bq/L
Cs-134:1.6×10^5Bq/cm3=1.6×10^8Bq/L
Cs-137:1.8×10^5Bq/cm3=1.8×10^8Bq/L

でした。2号機のみ、タービン建屋の溜まり水について3/24のデータがないのは、その時に水がたまっていなかったのか、あるいは入れなかったのか、どちらかかはわかりません。ですが、数字を見ていただければわかるように、2号機は1号機や3号機よりも約10倍高い濃度の放射性物質がタービン建屋に漏れ出してきており、今になってみれば当然のことなのですが、この濃度はどう考えても原子炉建屋から放射性物質を含む水が漏れ出してきたのだろうというのが(格納容器が健全であるという主張が公然とされていた)当時から言われていたことでした。その頃はみんなマイクロシーベルト/時(μSv/h)という単位にやっと慣れてきたころですでしたので、表面線量は1000mSv/hを超えるという事で大騒ぎになった(リンクはasahi.com)のを覚えています。

若干話がそれましたが、今の話で重要なポイントは下記のことです。

・燃料棒が発する崩壊熱を押さえるため、原子炉圧力容器に注水し続けていた水が、穴のあいた圧力容器、さらに格納容器から漏れ出して原子炉建屋にあふれ出し、さらにそれがなんらかの流路を通って、3/24には3号機(と1号機)、そして時期は不明だが2号機の各タービン建屋の地下にあふれ出してきた。

3号機の場合は3/24にタービン建屋にあふれてきたことがわかっています。2号機も同じ頃かやや遅れて(遅くとも3/27)だということが予想できます。

今日の話のキーワードはサイフォンの原理なのですが、実はこの話は、このデータだけでは原子炉建屋とタービン建屋の間にサイフォンの原理が働いているかどうかはわかりません。放射能汚染水は原子炉建屋とタービン建屋をつなぐ配管を伝わって漏れてきていると予想できますが、その配管の高さが下図の左のように高ければサイフォンの原理は働きませんし、右のように低ければサイフォンの原理が働いて二つの建屋の水位は同じになります。

5/3-1

私はこの昨年3/24の溜まり水の話を読み直した時、「その当時の毎日の注水量を調べて、原子炉建屋、タービン建屋の面積がわかったらいつごろ原子炉建屋からタービン建屋に汚染水があふれてきたのかだいたい計算できるのではないか?」という仮説を立てました。

しかし、これを行うのは実は非常に大変でした。原子炉建屋の面積、地上からの高さ、どことつながっているか、などを勘案し、シミュレーションしながら発表されているデータと矛盾がないかを確認していく作業をしなければならないのです。結局、原子炉建屋とタービン建屋のつながっている場所の高さがわからないため、断念しましたが、この発想をきっかけにして、注水量からトレンチの高さを推定するということは大ざっぱにシミュレーションできるようにはなりました。ここではシミュレーションの話は後回しにして、3/28に発表された、トレンチからの汚染水発見の話に移りたいと思います。注水量と水位データを用いた検証は恐らく次回以降になると思います。

この3号機のたまり水発見の話は、たまり水の話というのは床から何cmというデータをO.P.での水位に変換して考えて、建屋間の水位の差をサイフォンの原理を頭に入れて考えることが必要だという例として挙げさせてもらいました。

2.2号機のトレンチから高濃度汚染水発見!(昨年3/27)

3/28の東京電力の記者会見では、トレンチに降りるための立て坑に水がたまっている事を発見したと発表(リンクは時事ドットコム:わかりやすい図あり)しました。この時は1号機から3号機の立て坑についての発表で、4号機については立て坑には障害物があってアクセスできない状態でした。トレンチの立て坑というのは下の図のようなイメージをしてもらえばいいと思います。

5/5-3

そして、立て坑の上からそれぞれ10cm、1m、1.5mにまで水がたまっている事が発表されました。

1号機 上から10cm(O.P.3900mm)
2号機 上から1m(O.P.3000mm)
3号機 上から1.5m(O.P.2500mm)
(O.P.とは海抜と似たような高さの表し方で、小名浜の基準面からの高さを表す。)

実は上のO.P.の数字は東京電力が発表した数字ではありません。トレンチにある立て坑にたまった水の水位については、このあと毎日にように発表されていきますが、当初は上から何cmという言い方でした。しかし、これではO.P.に換算できません。その後の東京電力の発表において、上からという書き方は全てO.P.4000(=4m)からみて何cm下にあるのかという数字であることが判明したため、O.P.に換算したものです。一例として、昨年4/25の記者会見配付資料を示します。
5/5-4

3/28に発表された数値は、以下のようなものでした。黄色く塗った部分は私が付け加えたもので、発表された数値ではありません。
5/3-2

この頃は、立て坑というのがどこにあるのかすら発表されていませんでした。幸いなことに、タービン建屋からの距離と、海までの距離が発表されていますので、それから推測してこの立て坑だろうということが予想されます(立て坑も、1号機から3号機まではそれぞれ4個程度の立て坑があります)。1号機と2号機の立て坑の位置を下図に赤丸で示します。

5/3-3
政府事故調の中間報告書第5章資料V-8より

政府事故調の中間報告書に記載されているトレンチ下部のO.P.と、この日に発表された深さから計算すると、立て坑の水位をO.P.で記載すると1号機O.P.3200、2号機O.P.3640、3号機O.P.8270となりましたが、少なくとも3号機の数字は高すぎるのでおかしいとその時点で思いました。どれかの情報が間違っているのだと思います。最終的には、上面のO.P.がO.P.4000であるというその後の発表データを基準にするのが後日のデータとも一番整合性がとれるとわかりましたので、そのデータ(1号機O.P.3900、2号機O.P.3000、3号機O.P.2500)にする事にしました。

なお、1号機については、上面から10cmしかないので、水が海にあふれ出さないように土嚢を積むなどの措置をとったということでした。

また、2号機は水面付近で1000mSv/hを超える線量が観測されたということで、後に4/20に発表された3/30のデータでは、

1号機トレンチ(3/29)I-131:5.4E+00 Cs-134:7.0E-01 Cs-137:7.9E-01
2号機トレンチ(3/30)I-131:6.9E+06 Cs-134:2.0E+06 Cs-137:2.0E+06
3号機トレンチ(3/30)I-131:2.0E+02 Cs-134:2.0E+01 Cs-137:2.1E+01
(単位Bq/cm3、6.9E+06=6.9×10^6=6,900,000を意味する。

と、2号機のトレンチだけはタービン建屋地下の溜まり水とほぼ同じ濃度の高濃度汚染水が検出されていることがわかります。つまり2号機では、3/27の時点でタービン建屋とトレンチは完全に地下でつながっており、タービン建屋地下で検出された高濃度汚染水がトレンチにまでやってきていたということです。

一方、1号機と3号機のトレンチについては、2号機と比べるとかなり濃度が薄いことから、少なくともこの時点ではタービン建屋地下とトレンチはつながっていなかったということがわかります。

つながっているかどうかはデータで簡単に検証できます。例えば、1号機のトレンチの水はタービン建屋の地下とはつながっていませんでした。保安院が昨年3/31に発表した資料(8ページ)には、こんな記述があります。

1号機立坑内の溜留水を仮設ポンプにて集中環境施設プロセス主建屋の貯槽に移送し、立坑内の水位が上端から約-0.14mから約-1.14mに減少(31日9:20~11:25)
4/23-4

ポンプで水を汲み出して、2時間半で水位が1mもさがったということは、この立て坑(トレンチ)の水は、独立しているということです。放射性物質の濃度からいって、ここにたまっていた水は恐らく津波によって浸水した時の水だと思われます。

もう一つ付け加えておくと、1号機のトレンチ(海水配管トレンチ)は2号機や3号機とは異なり、タービン建屋との接続部分がO.P.+10.2mと非常に高いところにあり、タービン建屋から簡単には水が流出できない構造になっていました(東京電力の報告書(6/2))。

それに対して、タービン建屋の地下とつながっている2号機はどうだったのか?ちょっと時系列が前後してしまいますが、4月に2号機の立て坑からタービン建て屋内にある復水器に高濃度汚染水を移送した時の記録です。昨年の4/16のasahi.comの記事には以下のように記載があります。

『2号機の坑道には高濃度の汚染水が推計6千トンたまっている。このうち660トンが12日から13日にかけて、タービン建屋の復水器に移された。

 移す前に坑道から地上に通じるたて坑の入り口からの水位は上から91センチのところにあった。水位は坑道の汚染水をくみ上げている最中に、いったん99センチまで8センチ下がったが、くみ上げを止めると上昇を始め、16日午前7時には88.5センチになってしまった。当初より汚染水が増えたことになる。

 一方、2号機のタービン建屋地下にも推計2万トンの汚染水がある。この水位はたて坑の水位の上昇に連動するように、5センチ下がった。坑道の水とタービン建屋の水はつながっていることが証明された形だ。』
(※この記事に記載されている話は、2回ほど後で詳細に取り上げる予定です。)

660トンの汚染水を抜いたら、立て坑の水位は-91cmから-99cmに8cm下がった。
→ということは、660÷8=82.5トン=82.5m3が1cmの水位に相当する。
→8250m3で1mの水位→約8250m2の面積の大きな容器に水がたまっている。

ということが、サイフォンの原理を頭に入れてこの記事を読んでいれば予想ができます。

下の図で、原子炉建屋、タービン建屋、トレンチ立て坑の面積の和が8250m2であればぴったり計算が合うことになります。

4/23-5

では、東京電力が昨年6/3に発表した報告書から、これらの建屋の面積を探してきましょう。

4/23-6

上に書いてあるように、1号機、2号機は合わせて約7989m2で受けていると書いてありますので、約8000m2ということで計算はほぼぴったり合いました。実は、2号機と1号機はつながっていて、1号機の原子炉建屋に注水された水も1号機の廃棄物処理建屋を通じて最終的には2号機のタービン建屋とつながっているようなのです。平面図と、断面図のイメージが報告書に載っています。ここでは1、2号機のみ示します。

4/23-7

上の図に記載のO.P.は各建屋の床面の高さを示したものです。矢印は水の流れを示します。

4/23-8

ここに記載の水位は昨年の5/31現在のものです(東京電力報告書 6/3)。

この報告書によると、1号機のタービン建屋はほぼ独立しているようです。また、1号機、2号機の原子炉建屋は、2号機のタービン建屋よりも昨年5/31の時点では水位が高かったそうです。1号機のタービン建屋が独立しているとすると、2号機のタービン建屋地下の放射能濃度よりも10倍低くても納得はいきます。

一方、もし独立しているならば、1号機のタービン建屋にどうして10^5Bq/cm3を超える放射能汚染水がたまったのか?という疑問は残ります。ここでは示しませんが、水位データも1号機のタービン建屋については矛盾する点が多く、謎が多いのです。

それから、2号機では原子炉建屋の方がタービン建屋よりも水位が高く、一方向の移動ということは、原子炉建屋からタービン建屋への通路が高い位置にあって、ここにはサイフォンの原理は使われていないで一方通行であるということを示しています(下図左)。つまり、水の通路が完全に密閉されているわけではないということです。通路が低くて完全に密閉されていればサイフォンの原理に従って下図の右側の図のように同じ水位になるはずですから。

先ほどは原子炉建屋とタービン建屋はつながっていると書きましたが、実際のデータを細かく確認すると、このようなこともわかってきます。また、こんなちょっとした情報からも、建屋内の配管情報に精通していれば、原子炉建て屋内のどこにタービン建屋に通じている通路があるのかを推定することが出来ると思います。

4/23-9

だんだん話がややこしくなってきましたね。一度整理しましょう。

1.原子炉冷却のために原子炉圧力容器に注水した水は、2号機では原子炉建屋→タービン建屋→トレンチと流れ出してきている。

2.1号機と2号機では、廃棄物処理建屋を通じて汚染水がつながっている。ただし、1号機タービン建屋は水の行き来がない。また、2号機原子炉建屋からタービン建屋への水の移動は1方向の可能性が高い。

3.3/27時点で、2号機のトレンチ立て坑にたまっている水は高濃度汚染水である。一方、1号機のトレンチ立て坑にたまっている水は放射能濃度が低く、津波による水の可能性が高い。

つまり、この時点で一番水位が高かったのは1号機のトレンチ立て坑でしたが、一番緊急を要するのは2号機のトレンチ立て坑だったわけです。そして、今後検証していきますが、この時点ですでに見えないところから汚染水が海に流出していた可能性が高いのです。


3.高濃度汚染水の玉突き移送と「低レベル」汚染水の海洋放出

昨年の3/28には、2号機のタービン建屋にたまっていた汚染水の濃度がCs-137でも10^6Bq/cm3以上あることが明らかになりました。そうなると、このままでは建屋に入って復旧作業を行うことができません。そこで、いかにこのたまった高濃度汚染水を移送するか?ということが重要な課題となってきました。

このあたりの経緯については、政府事故調の中間報告書第5章(327ページ以降)に詳しいので、興味のある方はぜひそちらを見て欲しいと思います。以下、サイフォンの原理からは少し離れますが、昨年3月下旬がどういう状態だったのかを理解するためには必要なので、中間報告書からの内容要約も加えながら以下にまとめてご紹介していきます。

ご記憶の方も多いと思いますが、昨年4/4には、東京電力は原子力保安院の許可を得て、2号機の海洋漏洩事故とは別に、意図的に「低レベル」汚染水を海洋に放出しました。近隣諸国への事前通告がなかったことが問題とされましたが、なぜこのような放出を行わないといけなかったのか、その話もここでは記載します。そうでないと、当時の切迫した現場の状況が理解できないからです。

まずは6号機の地下の状況からです。

昨年3/19、東京電力は6号機地下2階の電気品室(MC室)に浸水があることを発見しました。その後3/21には電気品室に隣接する放射性廃棄物処理建屋(RW/B)の地下2階に1.6mの深さで水がたまっている事を確認します。RW/Bから電気品室に水が漏れ出してきたと判断したため、東京電力は3/23、保安院に海洋へ放出したいと伝えます。ところが放射性核種分析の結果、下の表のように法定(実用炉告示)の濃度以上であることが判明しました。具体的には、6号機RW/BのI-131の濃度が4.9Bq/cm3=4900Bq/Lと、規制値の濃度限度40Bq/Lを上回っていましたので、この放出はすぐにはできませんでした。

4/30-a1
中間報告書第5章 表V-2より

また、6号機RW/Bの塩分濃度が6000ppm=0.6%と通常の海水の塩分の3.5%に近い(淡水の塩分は500ppm未満)ことから、RW/Bの水は津波でたまった水が主成分で、これにサブドレンから地下水が入り込んで水が増えたと東京電力は考えました。

ここでサブドレンという用語が出てきました。サブドレンの意味やその役割については「福島原発の汚染水をよく知るため、O.P.とサブドレンを理解しましょう」にくわしく解説したので、そちらをご参照ください。

福島第一原発の近くには大量の地下水が流れていて、それをくみ上げるための設備がサブドレンです。しかし、震災後は電源喪失によってサブドレンのポンプは止まっていました。そのため、サブドレンの地下水の水位が上昇していたのです。そしてサブドレンから建屋の中に水が入ってきたために6号機RW/BのI-131の濃度が法定の濃度を超えてしまったと考えられました。

さらに4/3には6号機で別の場所からも浸水があり、これを放置しておくと、せっかく機能を維持している6号機の機能を維持できなくなる可能性が高いと福島第一原発の吉田所長は判断し、その対策を至急取るように要請しました。

さて、このように6号機の地下でも、高濃度汚染水は存在しないものの地下水の浸入によって新たな危険がせまっていたという状況を頭に入れた上で、1-3号機の話に戻ります。

政府と東京電力の原子力対策統合本部は、統合本部の中に4つのチームを設け、その中の一つが「放射性滞留水の回収・処理チーム」(以下「水処理チーム」)でした。水処理チームは、タービン建屋の地下にたまった高濃度汚染水が環境中に流出するのを防ぐため、当初は集中廃棄物処理施設(集中RW/B)の地下を貯蔵スペースとする予定でした。集中廃棄物処理施設とは、1-4号機にそれぞれ設置されている廃棄物処理建屋とは別に、4号機の南(下の図では右)に設置されている放射性廃棄物を処理するための施設です。特に、現在再利用されているのは下の図で黄色く塗った、「主プロセス建屋」と「雑固体廃棄物減容処理建屋」(または「高温焼却炉処理建屋」)です。ここで貯蔵スペースとして検討されたのは主プロセス建屋の方です。こちらは約16,000トンの貯蔵容量があると期待されていました。

4/30-a3

しかし、主プロセス建屋(集中RW/B)の地下には津波でたまった海水が滞留していました。この海水を海に放出しようとして、その放射能濃度を測定すると、下の表のように法定濃度を超える放射能が検出されたため、海洋への放出はできなくなりました。

4/30-a4

そこで、東京電力はこの主プロセス建屋地下の水を4/2の14:36から4号機T/B建屋地下に移送し始めました。また、主プロセス建屋の地下が空くまでの間は、それぞれのタービン建屋地下にたまっていた高濃度汚染水はタービン建屋にある復水器に入れることにしました。しかし復水器の容量は約3000トンしかない上に、2号機と3号機の復水器はほぼ満杯でした。そこで、復水器の中の水を復水貯蔵タンクに移動させ、復水器にタービン建屋の汚染水を入れるというような玉突きの水の移動が行われていました。

そんな中、主プロセス建屋の地下から4号機T/B建屋地下への移送が始まる直前の4/2に、2号機スクリーンからの汚染水の漏洩が見つかったのです。

この高濃度汚染水の漏洩事故は統合本部の雰囲気を少し変えたようです。それまでは主プロセス建屋の地下や5,6号機のサブドレンの「低レベル」の汚染水を海に放出するなど絶対にだめだ、という意見が強かったのですが、この事故があってからは、『緊急避難措置として、やむを得ず低レベル水の放出を検討せざるを得ないかもしれないが、国民が納得する説明が必要である。』とトーンが変わってきたということです(中間報告書第5章333ページ)。

そこにさらに意外な事実が判明します。


主プロセス建屋を空にして貯蔵スペースを作るため、4/2に主プロセス建屋の地下から4号機T/B地下に低レベル汚染水を移送し始めたところ、4号機のタービン建屋地下の水位だけでなく、3号機のT/B地下、また3号機のトレンチの水位が上昇し始めたのです。これは、3号機と4号機の建屋間が地下でつながっていること、そして3号機T/B地下と3号機トレンチとがつながっていることを示しています。この時点では、3号機トレンチの放射能濃度はそれほど高くなかったはずですが、このままでは3号機からも2号機と同様に海洋への漏洩事故が起こる可能性があります。

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中間報告書資料V-17より

そこで主プロセス建屋の地下から4号機T/B地下への移送は4/4に中止されました。その後は上のグラフのように、3号機T/B及びトレンチの水位上昇は止まり、3号機T/Bと4号機T/Bが地下でつながっていることは実証されました。

しかしながら、これによって高濃度汚染水の貯蔵スペースとして予定していた主プロセス建屋にあった「低レベル」の汚染水の行き先がなくなってしまいました。さらには先ほど述べた、6号機の新たな浸水から6号機地下の電気設備を守るため、低レベルの汚染水を海洋に放出しないとさらに海洋汚染が広がる可能性がある、という状態になってしまいました。

そこで、4/4、統合本部会議において、吉田所長が早急に対応を決定してもらいたいと述べました(なお、この頃は米軍のパージ船もメガフロートもまだ遠いところにあり、とてもすぐには使用できる状況ではなかったそうです)。

これを受けて、『統合本部会議終了後の同日10 時頃から、東京電力本店において、保安院、安全委員会及び東京電力の職員は、集中RW/B の水及び5 号機及び6 号機のサブドレン水を海洋へ放出するために必要な手続上の事務作業を開始した。
具体的には、東京電力から経済産業省(保安院)への報告書、経済産業省(保安院)からの助言依頼に対する安全委員会の助言、東京電力の報告書に対する保安院の評価書等の作成作業が進められた。これらの作業は、東京電力本店内の同じ部屋の中で行われ、作成中の案は随時その部屋内で共有・修正された。』ということです。
中間報告省第5章334ページ)

これって東京電力と保安院と原子力安全委員会の完全な談合ですよね。統合本部で意志決定を素早く行うのはいいですが、この3者だけで完結してしまい、近隣諸外国や漁協などへの報告を全くしていなかったということがその後にも尾を引く問題となりました。

結局、4/4の16時に東京電力は記者会見し、主プロセス建屋の地下と5号機と6号機のサブドレンの水約10000トンを海に放出する予定であると発表しました。原子力保安院はわずか25分後の16:25分に海洋放出を認める記者会見を発表しました。そしてその日の19:03から集中RW/Bの水が、21時から5,6号機のサブドレンの水が海洋に放出され始めました。4/10には放出は全て完了しました。

ちなみに、海洋放出が始まった4/4の夜に行われた東京電力の記者会見(まとめのtogetter参照)では、フリーの木野さんと日隅さんを筆頭にかなり厳しい追及がなされましたが、東京電力はのらりくらりと回答するのみでした。

4.今日のまとめ

今まで読んできて、福島第一原発事故の現場は、常に水との戦いであったということを改めて認識した方も多かったのではないでしょうか?原子炉への注水に始まり、タービン建屋地下の溜まり水の処理、トレンチの汚染水の処理、行き場のない汚染水をどこに持っていっていいかわからず、結局は海に放出せざるを得なかった経緯など。

1年以上経った今も放射能汚染水の処理に追われている原因の一つは、とにかく原子炉への注水が最優先だ、として、ひたすら原子炉に注水することにだけ注意を払い、注水した水がその後どうなるのかに注意を払っていた関係者がほとんどいなかったことにあります。

当時は注水作業の対応に追われていた、というのは事実ですが、もっと情報を共有・公開し、より全体的な視点で物事を把握できるような人を配置できるようにしなかったことが一番の問題です。そのために、次から次へと予想外の事実が出てきてその対応に追われ、全てにおいて後手に回ってしまいました。

さて、感想はこのへんにして、今日のまとめです。

1.昨年3月のニュースを見直す際には、原発の設備の位置関係(特に高さ)とサイフォンの原理を頭に入れて、同時期にどこの水位がどうなっているかをチェックしながら読んでいく必要がある。

2.1,2号機の建屋間とトレンチ、3,4号機の建屋間とトレンチはそれぞれが地下でつながっており(一部例外あり)、それが2度にわたる海洋への漏洩事故につながった。

3.福島第一原発事故とは、ひと言でいうと、水との戦いであった。



こうやって昨年の3月末から4月にかけての福島第一原発事故の状況を理解してくると、より詳細な情報を知りたくなるものです。そこで次回には、いよいよ昨年4月初めの2号機の漏洩事故を振り返っていきたいと思います。

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twitterは@tsokdbaです。
3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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