福島原発の汚染水をよく知るため、O.P.とサブドレンを理解しましょう
今回の話は、前回の「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(1)シミュレーションからの推定」の直接の続きではありません。ですが、これから昨年4月に発覚した2号機からの海洋漏洩事故について解説をするにあたり、基本的な用語や位置関係を理解しておいてもらわないとその先の説明ができないため、ここで用語集的な位置づけとしてまとめます。すでに知っていることが多い人もいると思いますが、復習の意味もこめて読んでいただきたいと思います。
原子炉建屋、格納容器、タービン建屋、トレンチ、サブドレンなどという用語が今後頻発しますが、そのたびに詳細に解説するつもりはありません。今回で基本的なことはまとめて解説してしまいます。
また、今後放射能汚染水の話を理解する上で重要な、標高を表すO.P.と、サブドレンについて少し詳しく解説します。このことを理解していないと、地下水の話とかも理解できないので、前半は流し読みしてもかまわないので、後半のO.P.の話とサブドレンの話はぜひ読んで欲しいと思います。
1.福島第一原発の施設を理解しましょう。(1)
放射能汚染水の全体像を理解するためには、原発の施設を理解しないといけません。東京電力の発表する資料は、専門家を相手にしているかのような資料が多く、意味不明の単語が乱発していました。たとえば、T/B、S/Cといった略号や、トレンチやらサブドレン、ピット、スクリーンといったカタカナです。解説がついているのでわかる用語もありますが、解説がないために非常に理解に苦労する用語が多かったのが現実です。
東京電力は昨年の6月始めに原子力保安院に汚染水の管理について報告書の提出を命じられたため、提出された保安院向けの報告書を丹念に読みこんでいくことで、私は初めて全体像を理解することができるようになった気がしています。(昨年6/18の記者会見配付資料では、初めて用語集が配布されました。。)
また、最近ではやっと東京電力もHPに「福島第一原子力発電所 この一年の振り返り」といったサイトも作成し、情報公開に努めるようになりました。
さて、まずはこの図をご覧ください。福島第一原発の敷地の全体像です。ここでは、MPというモニタリングポストは気にしないことにします。北側に5号機と6号機、南側に1-4号機が並んでいるのがわかると思います。それぞれに、複数の建物があるのがわかると思います。北側の5号機、6号機に関しては、海洋汚染とはあまり関係がないので、今後は省略されることが多いですが、1-4号機の北側にあるということを覚えておいてください。(ついでに言うと、1-4号機は大熊町、5-6号機は双葉町にあります。)
なお、今後は北が上になっている図はあまり使うことはありません。東を上にして、海が上に書かれているような図が多くなる予定です。

次に、多くのかたはもうご存じと思いますが、原子力発電の原理を確認しましょう。下の図は東京電力のHPから引用したものですが、非常にわかりやすい図です。火力発電ではボイラーで蒸気を発生させますが、原子力発電では、核反応で蒸気を発生させます。そして、蒸気を発生させた後はその蒸気のエネルギーでタービンを回し(動力エネルギー)、回したタービンから発電機を通じて発電(電気エネルギー)を行うという部分の原理は火力発電と変わりありません。原子力発電は高級な湯沸かし器だというような表現を聞いたことがあると思いますが、まさにその通りです。

(東京電力HPより)
では、核反応を行う部分(原子炉)と、発生した蒸気からタービンを回して電気エネルギーを取り出す部分(タービン建屋)があることはわかりましたが、なぜ原発は海の近くにあるのでしょうか?それには、先ほどよりももう少し細かい説明が必要です。東京電力のHPの説明を流用します。
原発にもいくつかの型があります。現在主流なのは軽水炉と呼ばれるもので、原子炉の中で燃料のウランを核分裂させ、その時発生する熱によって水を蒸気に変るものです。なかでも、東京電力が用いているのは、原子炉で直接蒸気を発生させる沸騰水型原子炉(BWR)と呼ばれるものです。
BWRでは、原子炉圧力容器の中では蒸気の温度は280度ほどの高温になり、70~80気圧という高い圧力が発生します。この高温高圧の蒸気で直接タービンを回し、同じ軸に取り付けられた発電機を回して電気を起こします。蒸気は「復水器」で海水によって冷やされると水に戻り、再び原子炉へ送られます。(蒸気と海水は別々の管路を通っていますので、直接触れたり混ざることはありません。)
つまり、高温高圧の蒸気を使って発電するが、発電後の蒸気は水に戻す必要があるのです。そのために蒸気を冷やす必要があり、大量の海水を用いています(実は、原子炉で発生した熱エネルギーのうち、発電に使われるのは1/3だけで、残りの2/3のエネルギーは海水を温めて戻すことに使われているのです。そのため、環境団体などが原発は周囲の海を暖めている、と主張していますが、電力会社側はそうではない、と主張してきました。)。
蒸気を冷やすために用いられるものがあれば何でもいいのですが、一番比熱が高くて効率がいいのが水なので、日本では原発は海の近くに建てられています。(ちなみに、フランスでも海または川の近くに原発は建てられています。)
そのため、「取水口」、「放水口」という名前が出てきますが、これはこの海水を取り入れる場所、あるいは暖まった海水を放出する場所ということなのです。
福島第一原発での「取水口」、「放水口」がどこにあるかを下の図に示します(5,6号の取水口と放水口は省略しました)。取水口には、この図ではわかりませんが、海水に含まれるクラゲや海藻を取り除くスクリーンや、冷却用の海水をくみ上げるためのポンプがあります。
なお、原発事故後に海水の定期的なサンプリング地点となった「5-6号放水口北」と「1-4号南放水口」の場所も参考として示しておきます。

建物でいうと、原子炉の入っている建物が「原子炉建屋」です。この中には、「原子炉圧力容器」があり、その外側に「格納容器」が入っています。そして原子炉で発生した高温高圧の蒸気が隣接して建てられている「タービン建屋」に行ってタービンを回します。その蒸気は「復水器」で冷やされて水に戻り、また原子炉内に送られるのです。
ここまでの説明で、「原子炉建屋」「タービン建屋」があり、それらは蒸気や水を通す配管でつながっていること、また「タービン建屋」から海に通じる配管があることはおわかりだと思います。(ただし、海への汚染水の流出はこの経路で行ったわけではありません)ニュースでタービン建屋という言葉はよく聞いていると思いますが、こういうものだったのです。ここまで出た用語はここでしっかりと理解しておいてください。

(東京電力HPより)
2.福島第一原発の施設を理解しましょう。(2)
さきほど、原子炉建屋(Reactor Building: R/B)、タービン建屋(Turbine Building: T/B)という言葉の意味と、そこに何があるのかを解説しました。しかし、実はそれだけでは原子力発電所はできません。
下の図には、1号機から4号機までの平面図が記載されています。ここには、例えば「#1 T/B」と書いてあります。これは1号機のタービン建屋という意味です。すでに説明した原子炉建屋(R/B)、タービン建屋(T/B)以外に廃棄物処理建屋(Radioactive Waste disposal Building: RW/B)やコントロール建屋(Control building: C/B)、サービス建屋(Service building: S/B)があります。
廃棄物処理建屋は、原発関係の業務で出てきた作業服などの放射性廃棄物を燃やすなど処理してその体積を圧縮するための設備です。コントロール建屋とは、発電所の運転制御を行う中央制御室などのある建屋です。サービス建屋とは、放射線管理や作業員出入り管理を行う建屋です。
今後必要なので名前だけでも覚えておいていただきたいのは、廃棄物処理建屋(RW/B)とコントロール建屋(C/B)です。特に廃棄物処理建屋は、1号機から4号機にもありますが、下の図では4号機の右側に放射性廃棄物集中処理施設というのがありますので、それとは区別が必要です。放射性廃棄物集中処理施設には、事故後に放射能汚染水の処理をするためのキュリオンとかサリーなどの設備が設置されました。

(東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 中間報告書第2章 資料II-3より)
下の図は、福島第一原発2号機の現在の原子炉建屋の内部を示したものです。原子炉には、核燃料が入っている圧力容器(Reactor Pressure Vessel: RPV)と、その外側に格納容器(Primary Containment Vessel: PCV)があります。格納容器は、もし圧力容器が破壊されても放射性物質を閉じ込める(Containment)するための設備です。
福島第一原発で用いられているマーク1型の原発では、格納容器の下側にドーナツ型をした圧力抑制室またはサプレッションチャンバー(Suppression Chamber: S/C)と呼ばれる設備があって、この中には常に冷却水が入っています。(2号機では通常運転時には3000トンもの水が入っていたそうです。)
この下の図はいずれどこかで使用しますので、詳細についてはそこで説明する予定ですが、ここでは圧力容器(RPV)、格納容器(PCV)、圧力抑制室(S/C)という言葉とその簡単な意味、そして圧力抑制室とタービン建屋の位置関係について理解しておいてください。後で原子炉建屋からタービン建屋への放射能汚染水の移動の話が出てきますが、それは圧力抑制室からタービン建屋に通じる貫通部を通じて起こったと考えられています。

3.福島第一原発の施設を理解しましょう。(3)
続いて、トレンチとサブドレンについてです。
トレンチとは、塹壕とか試掘抗という意味ですが、原発においては、冷却用の海水をポンプでくみ上げてそれをタービン建屋に通すための海水配管トレンチや、電源ケーブルを通すための電源ケーブルトレンチなど、各種のトンネルを意味します。
多くのトレンチは、人が中を通ってメンテナンスができるようになっていて、その長さは数10m、深さも10m以上のものもあります。昨年の3月には、2号機タービン建屋からトレンチに高濃度汚染水(滞留水)が流れだし、それがさらには海洋に漏洩して大きな問題となりました。下の断面図で、紫色の部分が汚染水が流出したところで、2号機タービン建屋と海の間にあるトレンチに放射能汚染水が流れ出したことを示しています。

ここでは、トレンチとは人が通れる大きさのトンネルであってその中をケーブルや配管が通っているということ、福島第一原発には数え切れないくらい多くのトレンチがあること、そのトンネルに通じる立て坑があるということを理解しておけば十分です。
また、せっかくトレンチの深さの話が出てきたので、今後重要になるO.P.という数値もここで紹介しておきます。
下の図でぜひ覚えておいていただきたいのが、O.P.(O.P.=Onahama peil 小名浜港工事基準面)という高さの表し方です。これは小名浜港の水位を基準にしてどれだけの高さになるかという数値で、海抜とほぼ一致するものです。(ちなみに、東京港ではT.P.という基準を用います。小名浜港のO.P.とT.P.の数値は同じではありませんO.P.±0.0m = 東京湾平均海面(T.P.)-0.727m)。福島第一原発付近では、平均水位はO.P.0mではなく、O.P.+0.828mだそうです。

その基準で、沿岸のスクリーンなどがある場所はO.P.+4m、タービン建屋や原子炉建屋があるところはO.P.+10m、そして元々のがけを一切削っていない部分はO.P.+35mです。
このO.P.という高さの表し方は、今後重要な考え方になりますので、必ず理解しておいてください。
次にサブドレンです。サブドレンとは政府事故調の報告書第5章の脚注(328ページ)によると、「サブドレンとは、建屋の地下階が地下水から受ける浮力の低減及び建屋への地下水の浸水防止のため、地下水位を下げることを目的として建屋の周囲に多数設置された竪穴である(資料Ⅴ-7 参照)。サブドレンは、地下水が流入しやすい構造になっており、サブドレン内の水は、中に設置されたポンプにより海洋へ排水することができる。」と記載されています。
サブドレンとは、つまり福島第一原発の地下を大量に流れている地下水をくみ出すための立て坑で、くみ出すためのポンプが設置されているものです。具体的には下の図のようなものです。

(政府事故調の報告書 資料V-7より)
福島第一原発には、このようなサブドレンが1-2号機のまわりに27個、3-4号機のまわりに30個もあります。


(政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第5回会合)より)
この中で、代表的なサブドレンについては毎日放射能濃度が測定されています。
4.サブドレンの持っている役割
少し脱線しますが、ここでなぜこのようなサブドレンが必要なのか解説します。たぶん上の説明だけではサブドレンの意味は理解できないと思うからです。最近、わかりやすい説明をしてくれている本を見つけましたので、それを引用しながら説明していきます。
実はサブドレンがないと、福島第一原発は建屋の中に地下水がドンドン浸水してくる可能性があるし、水の浮力で浮き上がってしまう可能性すらあるのです。ということは、サブドレンというものも実は福島第一原発の維持に必須のものだったのです。ところがサブドレンは震災後は機能していません。その結果何が起こったのか?地下水の建屋の中への侵入です。
同様のことが東京駅でもありました。東京駅の総武線地下ホームは、地下30mにあります。地下駅建設開始時(1968年)の地下水位は地下35mでしたが、その後にできた都条例によって地下水くみ上げが制限されると地下水位がどんどん上がり、2000年には地下水位が地下15mにまであがり、地下4階は完全にまわりを地下水に囲まれた状態になりました。
下の図で、青いところが地下水の水位を示し、GLというところが地上を示します。総武・横須賀線の地下ホームのある地下4階よりも地下水の水位の方が高いことがわかると思います。そしてあらゆるところから地下水が漏れ出し、1日4000-5000トンもの水が流入する事態となりました。このことは江口工さんの著書「地下水放射能汚染と地震」に書いてあります。この著書からわかりやすい図の説明を一部改変して引用します。

上の図にあるように、総武・横須賀線の地下駅は完全に水没した状態になっています。これ以上水位が上がると地下構造物全体が浮き上がる可能性が出てきたため、1999年から東京駅ではアンカーリング施工という方法で構造物が浮き上がらないような工事を行いました。地中に約130本のグラウンドアンカー(錨)を打ち込み、これ以上浮き上がらないようにする工事だそうです。アンカー1本で最大約100トンの力に対抗できる設計だったそうです。
それと同時に、地下水を総武線のトンネルを中を通して大井町駅近くにある立会川に大量に地下水を放出するようにしました。毎日数千トンの水が立会川に流れ込むようになった事で立会川の水質は大幅に改善し、放水前はBODが13mg/Lもあったのが2mg/Lに減少し、ボラの群れが戻ってくるという現象も副産物としてありました。前年多摩川に出現したアゴヒゲアザラシ「タマちゃん」をもじった「ボラちゃん」騒動としてご記憶の方も多いでしょう。
一方、このような地下水の浸水対策を行わなかった駅ではどうなったのでしょうか?「地下水との闘い - 総武・東京トンネル(30)」によると、武蔵野線新小平駅では1991年10月に『台風により大幅に上昇した地下水により新小平駅を構成するU字溝状の構造物が浮き上がり、線路・ホームが最大で1.3m隆起したうえ流入した地下水により線路が完全に水没し、武蔵野線は2ヶ月間不通となった。コンクリートの構造物が浮き上がることなどにわかに信じがたいことだが、このような事例が実際に存在』しているのです。
このあたりの経緯は写真入りで「地下水との闘い - 総武・東京トンネル(30)」に紹介されていますので興味のある方は是非お読みください。
地下水対策がいかに重要かということを、東京駅と新小平駅の例で示しましたが、同様のことが福島第一原発においても起こりうるということを理解しておく必要があります。そして、小平駅のような事態になることを防ぐためにサブドレンというものが何十本も原発のまわりに設置され、地下水をくみ上げて海に流してきたのです。
しかし、震災後はポンプが使えなくなり、地下水の水位が上がり、地震でひびが入った建屋の地下から水が浸入してきた、という事態が起こっています。このために、多くの労力をはらって放射能汚染水の対策をしないといけなくなり、当初の予定では1年で完了する予定だった汚染水の処理も年単位で行わないといけない事態になったのです。このあたりは別途詳細に解説する予定です。
今回は、今後よく使う用語について、基本的な意味と、福島第一原発における位置関係などの基本的な情報を解説しました。特にO.P.とサブドレンについては、地下水との関係を理解する上で重要なので、ここで詳しく解説しました。今後このシリーズを読んでいてわからなくなったら、リンクをつけておきますのでここに戻ってきてください。
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放射能汚染水の全体像を理解するためには、原発の施設を理解しないといけません。東京電力の発表する資料は、専門家を相手にしているかのような資料が多く、意味不明の単語が乱発していました。たとえば、T/B、S/Cといった略号や、トレンチやらサブドレン、ピット、スクリーンといったカタカナです。解説がついているのでわかる用語もありますが、解説がないために非常に理解に苦労する用語が多かったのが現実です。
東京電力は昨年の6月始めに原子力保安院に汚染水の管理について報告書の提出を命じられたため、提出された保安院向けの報告書を丹念に読みこんでいくことで、私は初めて全体像を理解することができるようになった気がしています。(昨年6/18の記者会見配付資料では、初めて用語集が配布されました。。)
また、最近ではやっと東京電力もHPに「福島第一原子力発電所 この一年の振り返り」といったサイトも作成し、情報公開に努めるようになりました。
さて、まずはこの図をご覧ください。福島第一原発の敷地の全体像です。ここでは、MPというモニタリングポストは気にしないことにします。北側に5号機と6号機、南側に1-4号機が並んでいるのがわかると思います。それぞれに、複数の建物があるのがわかると思います。北側の5号機、6号機に関しては、海洋汚染とはあまり関係がないので、今後は省略されることが多いですが、1-4号機の北側にあるということを覚えておいてください。(ついでに言うと、1-4号機は大熊町、5-6号機は双葉町にあります。)
なお、今後は北が上になっている図はあまり使うことはありません。東を上にして、海が上に書かれているような図が多くなる予定です。

次に、多くのかたはもうご存じと思いますが、原子力発電の原理を確認しましょう。下の図は東京電力のHPから引用したものですが、非常にわかりやすい図です。火力発電ではボイラーで蒸気を発生させますが、原子力発電では、核反応で蒸気を発生させます。そして、蒸気を発生させた後はその蒸気のエネルギーでタービンを回し(動力エネルギー)、回したタービンから発電機を通じて発電(電気エネルギー)を行うという部分の原理は火力発電と変わりありません。原子力発電は高級な湯沸かし器だというような表現を聞いたことがあると思いますが、まさにその通りです。

(東京電力HPより)
では、核反応を行う部分(原子炉)と、発生した蒸気からタービンを回して電気エネルギーを取り出す部分(タービン建屋)があることはわかりましたが、なぜ原発は海の近くにあるのでしょうか?それには、先ほどよりももう少し細かい説明が必要です。東京電力のHPの説明を流用します。
原発にもいくつかの型があります。現在主流なのは軽水炉と呼ばれるもので、原子炉の中で燃料のウランを核分裂させ、その時発生する熱によって水を蒸気に変るものです。なかでも、東京電力が用いているのは、原子炉で直接蒸気を発生させる沸騰水型原子炉(BWR)と呼ばれるものです。
BWRでは、原子炉圧力容器の中では蒸気の温度は280度ほどの高温になり、70~80気圧という高い圧力が発生します。この高温高圧の蒸気で直接タービンを回し、同じ軸に取り付けられた発電機を回して電気を起こします。蒸気は「復水器」で海水によって冷やされると水に戻り、再び原子炉へ送られます。(蒸気と海水は別々の管路を通っていますので、直接触れたり混ざることはありません。)
つまり、高温高圧の蒸気を使って発電するが、発電後の蒸気は水に戻す必要があるのです。そのために蒸気を冷やす必要があり、大量の海水を用いています(実は、原子炉で発生した熱エネルギーのうち、発電に使われるのは1/3だけで、残りの2/3のエネルギーは海水を温めて戻すことに使われているのです。そのため、環境団体などが原発は周囲の海を暖めている、と主張していますが、電力会社側はそうではない、と主張してきました。)。
蒸気を冷やすために用いられるものがあれば何でもいいのですが、一番比熱が高くて効率がいいのが水なので、日本では原発は海の近くに建てられています。(ちなみに、フランスでも海または川の近くに原発は建てられています。)
そのため、「取水口」、「放水口」という名前が出てきますが、これはこの海水を取り入れる場所、あるいは暖まった海水を放出する場所ということなのです。
福島第一原発での「取水口」、「放水口」がどこにあるかを下の図に示します(5,6号の取水口と放水口は省略しました)。取水口には、この図ではわかりませんが、海水に含まれるクラゲや海藻を取り除くスクリーンや、冷却用の海水をくみ上げるためのポンプがあります。
なお、原発事故後に海水の定期的なサンプリング地点となった「5-6号放水口北」と「1-4号南放水口」の場所も参考として示しておきます。

建物でいうと、原子炉の入っている建物が「原子炉建屋」です。この中には、「原子炉圧力容器」があり、その外側に「格納容器」が入っています。そして原子炉で発生した高温高圧の蒸気が隣接して建てられている「タービン建屋」に行ってタービンを回します。その蒸気は「復水器」で冷やされて水に戻り、また原子炉内に送られるのです。
ここまでの説明で、「原子炉建屋」「タービン建屋」があり、それらは蒸気や水を通す配管でつながっていること、また「タービン建屋」から海に通じる配管があることはおわかりだと思います。(ただし、海への汚染水の流出はこの経路で行ったわけではありません)ニュースでタービン建屋という言葉はよく聞いていると思いますが、こういうものだったのです。ここまで出た用語はここでしっかりと理解しておいてください。

(東京電力HPより)
2.福島第一原発の施設を理解しましょう。(2)
さきほど、原子炉建屋(Reactor Building: R/B)、タービン建屋(Turbine Building: T/B)という言葉の意味と、そこに何があるのかを解説しました。しかし、実はそれだけでは原子力発電所はできません。
下の図には、1号機から4号機までの平面図が記載されています。ここには、例えば「#1 T/B」と書いてあります。これは1号機のタービン建屋という意味です。すでに説明した原子炉建屋(R/B)、タービン建屋(T/B)以外に廃棄物処理建屋(Radioactive Waste disposal Building: RW/B)やコントロール建屋(Control building: C/B)、サービス建屋(Service building: S/B)があります。
廃棄物処理建屋は、原発関係の業務で出てきた作業服などの放射性廃棄物を燃やすなど処理してその体積を圧縮するための設備です。コントロール建屋とは、発電所の運転制御を行う中央制御室などのある建屋です。サービス建屋とは、放射線管理や作業員出入り管理を行う建屋です。
今後必要なので名前だけでも覚えておいていただきたいのは、廃棄物処理建屋(RW/B)とコントロール建屋(C/B)です。特に廃棄物処理建屋は、1号機から4号機にもありますが、下の図では4号機の右側に放射性廃棄物集中処理施設というのがありますので、それとは区別が必要です。放射性廃棄物集中処理施設には、事故後に放射能汚染水の処理をするためのキュリオンとかサリーなどの設備が設置されました。

(東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 中間報告書第2章 資料II-3より)
下の図は、福島第一原発2号機の現在の原子炉建屋の内部を示したものです。原子炉には、核燃料が入っている圧力容器(Reactor Pressure Vessel: RPV)と、その外側に格納容器(Primary Containment Vessel: PCV)があります。格納容器は、もし圧力容器が破壊されても放射性物質を閉じ込める(Containment)するための設備です。
福島第一原発で用いられているマーク1型の原発では、格納容器の下側にドーナツ型をした圧力抑制室またはサプレッションチャンバー(Suppression Chamber: S/C)と呼ばれる設備があって、この中には常に冷却水が入っています。(2号機では通常運転時には3000トンもの水が入っていたそうです。)
この下の図はいずれどこかで使用しますので、詳細についてはそこで説明する予定ですが、ここでは圧力容器(RPV)、格納容器(PCV)、圧力抑制室(S/C)という言葉とその簡単な意味、そして圧力抑制室とタービン建屋の位置関係について理解しておいてください。後で原子炉建屋からタービン建屋への放射能汚染水の移動の話が出てきますが、それは圧力抑制室からタービン建屋に通じる貫通部を通じて起こったと考えられています。

3.福島第一原発の施設を理解しましょう。(3)
続いて、トレンチとサブドレンについてです。
トレンチとは、塹壕とか試掘抗という意味ですが、原発においては、冷却用の海水をポンプでくみ上げてそれをタービン建屋に通すための海水配管トレンチや、電源ケーブルを通すための電源ケーブルトレンチなど、各種のトンネルを意味します。
多くのトレンチは、人が中を通ってメンテナンスができるようになっていて、その長さは数10m、深さも10m以上のものもあります。昨年の3月には、2号機タービン建屋からトレンチに高濃度汚染水(滞留水)が流れだし、それがさらには海洋に漏洩して大きな問題となりました。下の断面図で、紫色の部分が汚染水が流出したところで、2号機タービン建屋と海の間にあるトレンチに放射能汚染水が流れ出したことを示しています。

ここでは、トレンチとは人が通れる大きさのトンネルであってその中をケーブルや配管が通っているということ、福島第一原発には数え切れないくらい多くのトレンチがあること、そのトンネルに通じる立て坑があるということを理解しておけば十分です。
また、せっかくトレンチの深さの話が出てきたので、今後重要になるO.P.という数値もここで紹介しておきます。
下の図でぜひ覚えておいていただきたいのが、O.P.(O.P.=Onahama peil 小名浜港工事基準面)という高さの表し方です。これは小名浜港の水位を基準にしてどれだけの高さになるかという数値で、海抜とほぼ一致するものです。(ちなみに、東京港ではT.P.という基準を用います。小名浜港のO.P.とT.P.の数値は同じではありませんO.P.±0.0m = 東京湾平均海面(T.P.)-0.727m)。福島第一原発付近では、平均水位はO.P.0mではなく、O.P.+0.828mだそうです。

その基準で、沿岸のスクリーンなどがある場所はO.P.+4m、タービン建屋や原子炉建屋があるところはO.P.+10m、そして元々のがけを一切削っていない部分はO.P.+35mです。
このO.P.という高さの表し方は、今後重要な考え方になりますので、必ず理解しておいてください。
次にサブドレンです。サブドレンとは政府事故調の報告書第5章の脚注(328ページ)によると、「サブドレンとは、建屋の地下階が地下水から受ける浮力の低減及び建屋への地下水の浸水防止のため、地下水位を下げることを目的として建屋の周囲に多数設置された竪穴である(資料Ⅴ-7 参照)。サブドレンは、地下水が流入しやすい構造になっており、サブドレン内の水は、中に設置されたポンプにより海洋へ排水することができる。」と記載されています。
サブドレンとは、つまり福島第一原発の地下を大量に流れている地下水をくみ出すための立て坑で、くみ出すためのポンプが設置されているものです。具体的には下の図のようなものです。

(政府事故調の報告書 資料V-7より)
福島第一原発には、このようなサブドレンが1-2号機のまわりに27個、3-4号機のまわりに30個もあります。


(政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第5回会合)より)
この中で、代表的なサブドレンについては毎日放射能濃度が測定されています。
4.サブドレンの持っている役割
少し脱線しますが、ここでなぜこのようなサブドレンが必要なのか解説します。たぶん上の説明だけではサブドレンの意味は理解できないと思うからです。最近、わかりやすい説明をしてくれている本を見つけましたので、それを引用しながら説明していきます。
実はサブドレンがないと、福島第一原発は建屋の中に地下水がドンドン浸水してくる可能性があるし、水の浮力で浮き上がってしまう可能性すらあるのです。ということは、サブドレンというものも実は福島第一原発の維持に必須のものだったのです。ところがサブドレンは震災後は機能していません。その結果何が起こったのか?地下水の建屋の中への侵入です。
同様のことが東京駅でもありました。東京駅の総武線地下ホームは、地下30mにあります。地下駅建設開始時(1968年)の地下水位は地下35mでしたが、その後にできた都条例によって地下水くみ上げが制限されると地下水位がどんどん上がり、2000年には地下水位が地下15mにまであがり、地下4階は完全にまわりを地下水に囲まれた状態になりました。
下の図で、青いところが地下水の水位を示し、GLというところが地上を示します。総武・横須賀線の地下ホームのある地下4階よりも地下水の水位の方が高いことがわかると思います。そしてあらゆるところから地下水が漏れ出し、1日4000-5000トンもの水が流入する事態となりました。このことは江口工さんの著書「地下水放射能汚染と地震」に書いてあります。この著書からわかりやすい図の説明を一部改変して引用します。

上の図にあるように、総武・横須賀線の地下駅は完全に水没した状態になっています。これ以上水位が上がると地下構造物全体が浮き上がる可能性が出てきたため、1999年から東京駅ではアンカーリング施工という方法で構造物が浮き上がらないような工事を行いました。地中に約130本のグラウンドアンカー(錨)を打ち込み、これ以上浮き上がらないようにする工事だそうです。アンカー1本で最大約100トンの力に対抗できる設計だったそうです。
それと同時に、地下水を総武線のトンネルを中を通して大井町駅近くにある立会川に大量に地下水を放出するようにしました。毎日数千トンの水が立会川に流れ込むようになった事で立会川の水質は大幅に改善し、放水前はBODが13mg/Lもあったのが2mg/Lに減少し、ボラの群れが戻ってくるという現象も副産物としてありました。前年多摩川に出現したアゴヒゲアザラシ「タマちゃん」をもじった「ボラちゃん」騒動としてご記憶の方も多いでしょう。
一方、このような地下水の浸水対策を行わなかった駅ではどうなったのでしょうか?「地下水との闘い - 総武・東京トンネル(30)」によると、武蔵野線新小平駅では1991年10月に『台風により大幅に上昇した地下水により新小平駅を構成するU字溝状の構造物が浮き上がり、線路・ホームが最大で1.3m隆起したうえ流入した地下水により線路が完全に水没し、武蔵野線は2ヶ月間不通となった。コンクリートの構造物が浮き上がることなどにわかに信じがたいことだが、このような事例が実際に存在』しているのです。
このあたりの経緯は写真入りで「地下水との闘い - 総武・東京トンネル(30)」に紹介されていますので興味のある方は是非お読みください。
地下水対策がいかに重要かということを、東京駅と新小平駅の例で示しましたが、同様のことが福島第一原発においても起こりうるということを理解しておく必要があります。そして、小平駅のような事態になることを防ぐためにサブドレンというものが何十本も原発のまわりに設置され、地下水をくみ上げて海に流してきたのです。
しかし、震災後はポンプが使えなくなり、地下水の水位が上がり、地震でひびが入った建屋の地下から水が浸入してきた、という事態が起こっています。このために、多くの労力をはらって放射能汚染水の対策をしないといけなくなり、当初の予定では1年で完了する予定だった汚染水の処理も年単位で行わないといけない事態になったのです。このあたりは別途詳細に解説する予定です。
今回は、今後よく使う用語について、基本的な意味と、福島第一原発における位置関係などの基本的な情報を解説しました。特にO.P.とサブドレンについては、地下水との関係を理解する上で重要なので、ここで詳しく解説しました。今後このシリーズを読んでいてわからなくなったら、リンクをつけておきますのでここに戻ってきてください。
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