福島第一原発直下を流れる地下水の水位と流速はどうなっているのか?
これまで「福島第一原発2号機の謎に迫る」シリーズにおいて、福島第一原発の中で汚染水がどのような動きをしてきたのかをいろいろな角度から検証してきています。ですが、地下水というものについてはこれまでほとんどご紹介してきませんでした。
今回は、まず最近発表されたデータを元に、福島第一原発付近の地下水の流れがどうなっているのかを見てみたいと思います。それから、具体的にどれくらいの流量があるのかを、これまで発表されたデータからひもといていきます。おそらく他の人にはできないであろう、この二つのデータを組み合わせるとこういうことがわかるのか!というような解析をお見せしたいと思います。
1.遮水壁と地下水水位
今年の4/23に行われた政府・東京電力中長期対策会議(第5回)(リンクは経産省)では多くの話題が出たようですが、「地下水バイパスによる1~4号機建屋内への地下水流入量低減方策について」という資料があります。この資料は、これまでの遮水壁に関する資料を補完するだけでなく、新しい情報を教えてくれる貴重なものでした。
遮水壁という言葉をいきなり使ってしまいましたが、これは、福島第一原発の地下水に汚染水が混入して「地下水による海洋汚染拡大防止」のため、根本的な対策として計画されているものです。昨年の8/31の東京電力のプレスリリースにおいて基本設計について紹介がありました。
遮水壁としては、海側に設置する海側遮水壁と陸側に設置する陸側遮水壁の二つが考えられます。8/31に紹介されたのは海側の遮水壁の設計についてです。下の図のように、1-4号機のスクリーンと放水口の外側に遮水壁を設けます。

(東京電力HP「海側遮水壁の基本設計について」より)
立体的に見ると、下の断面図のように、福島第一原発の地下にある2番目の難透水層(地下20m前後)にまで遮水壁を打ち込む事が計画には記載されています。この図で地下水ドレンとあるのは、遮水壁で地下水を遮断してしまうと、地下水の行き場所がなくなるので、これを地下水ドレンで組み上げるためです。

また、福島第一原発の近くの水理地質構造モデルという図面もあり、これを見ると福島第一原発のところだけ大きく削ってあることがわかります。実はこのあたりは標高35m近くの切り立った崖でした。それを原発を作るためにわざわざ20m以上もがけを削って低くしたのです。この削り方をもう少し少なくして高いところに設置していれば、今回のような津波による被害は免れることができたのです。建設当時の話は、『黎明―福島原子力発電所建設記録 調査篇―』 (企画:東京電力、製作:日映科学映画製作所、1967年、26分)にありますので、興味のある方はご覧下さい。

少し脱線しましたが、断面図を見ると、原発直下の地層は、砂岩でできた透水層、泥岩でできた難透水層、透水層、難透水層という繰り返しでできていることがわかります。遮水壁とは、上にあった図の地下水ドレンの断面図からもわかるように、二つの難透水層に挟まれた透水層を通る地下水の流れを遮断することが主な目的のようです。と私は当初思っていたのですが、実は一番上の透水層の地下水の流れを遮断することも重要だということがこのあとわかります。

この設計で大丈夫かどうか、流跡線解析というものを行い、下図のように地下水ドレンと遮水壁を配置したら、解析結果では「遮水壁の内側から海洋へ流出することはないことを確認した」と記載されています。ここで見えている青い線は、建屋の四隅にあった粒子がどのように移動するかをシミュレーションしたもので、実際の地下水の流れもこれに似たような流れになることが予想されます。

このあと2ヶ月後の10/26、「海側遮水壁の工事着手および陸側遮水壁の検討結果について」というプレスリリースがなされました。この時は、海側遮水壁の完成形のイメージ図が下の図のように公開されました。

断面図を見ると、8月の時のイメージとほとんど変わっていないことがわかります。

さらにこの図は、今年の4/24のプレスリリースによってより正確なものが発表されています。遮水壁の設置にあたっては、公有水面埋立免許が必要であるので福島県に申請していたが、その免許が交付されたので遮水壁の工事を4/25から開始するというプレスリリースでした。

なお、この10月の発表は、海側遮水壁に加えて陸側遮水壁も設置するかどうかを検討した結果、陸側遮水壁は設置しないという結論に達したということがその趣旨でした。
なぜかというと、まず、陸側遮水壁だけでは海への地下水の流出を止められないこと。そして海側遮水壁を設置して地下水ドレンで管理することによって、建屋周りの地下水が海洋へ流出することを防止できるものと考えていること。さらに海側遮水壁+陸側遮水壁にすると、現在の地下水の水位が1-2m低下する可能性があり、汚染水が地下水に流れ込むリスクが高くなるからこの方法はとれないということが紹介されています。
一方で、現在問題となっている『建屋内への地下水の流入抑制に関しては、陸側遮水壁では建屋内滞留水の水位に応じて建屋周りの地下水位を管理することは困難であることから、建屋周りのサブドレンにより建屋周りの地下水位を管理することについて別途検討することとしています。』としています。
陸側遮水壁については、メリット・デメリットを検討した結果、別の方法で代用することで足りるのではないか?というのがこの時点での検討結果でした。陸側遮水壁についてはこの結論以上の紹介はせずにとどめます。
一つだけこの時の資料を紹介しておきます。原発の地下水の流れとその水位を示したものです。これは海側遮水壁を設置した時の予想図になっていますので、現状よりも海に近い側でやや低めになっていますが、地下水の流れが山側から海側に向かっているということをはっきりと示しているデータです。あとで紹介しますが、ここで10cm/dayという矢印があることに注目しておいてください。これは矢印の大きさが流速10cm/日であることを示しています。

さて、やっと4/23の資料に行き着くことができました。
ここでは、陸側遮水壁を検討した時に挙げられていたように、建屋周辺(主に山側)の地下水位を低下させ、建屋への地下水流入量を抑制するために地下水バイパスを山側に設置するという計画案です。
ここに書いてある資料は非常にわかりやすいものでしたから引用します。

現状では、
・地下水は主に透水層を山側から海側に向かって流れている。
・海に向かう過程で地下水の一部が建屋内に流入している。→建屋内滞留水の増加
・建屋内への地下水流入量抑制のため、サブドレン復旧中。
それを今回の提案では、
・山側から流れてきた地下水を、建屋の上流で揚水し、地下水の流路を変更する。(地下水バイパス)
・地下水バイパスにより建屋周辺(主に山側)の地下水位を低下させ、建屋内への流入量を抑制する。
・引き続き、サブドレン復旧を継続する。
という考え方です。
この提案が成立するには下の図の3条件を満たす必要があるのですが、今回の設計ではそれを満たすという解析結果が出ているということでした。
下の図でぜひ覚えておいていただきたいのが、O.P.(O.P.=Onahama peil 小名浜港工事基準面)という数字です。これは小名浜港の水位を基準にしてどれだけの高さになるかという数値で、海抜とほぼ一致するものです。(ちなみに、東京港ではT.P.という基準を用います。小名浜港のO.P.とT.P.の数値は同じではありません。O.P.±0.0m = 東京湾平均海面(T.P.)-0.727m)福島第一原発付近では、平均水位はO.P.0mではなく、O.P.+0.828mだそうです。この話は「福島原発の汚染水をよく知るため、O.P.とサブドレンを理解しましょう」でも詳しくご紹介しました。
その基準で、沿岸のスクリーンなどがある場所はO.P.+4m、タービン建屋や原子炉建屋があるところはO.P.+10m、そして揚水井を掘ろうとしているところはO.P.+35m、つまり元々のがけを一切削っていない部分です。

今回の揚水井14本を設置することにより、現状では下の図のような水位で地下水が流れているのが

この下の図のように原子炉建屋の山側(西側)の地下水水位が3-6m低下する事が期待できるということでした。赤い点が揚水井の場所を示します。1日に1000トン!の揚水をする予定です。これでもまだ水位がさがる程度で枯れることはないのですから、いかにこの原発付近の地下水が豊富であるかということがわかりますよね。

この揚水井の設置により、地下水水位が低下すると、滞留水(放射能汚染水)の水位を今よりも下げることができます。現在は放射能汚染水の水位は約O.P.+3mにして管理しています。現在でも毎日200-500トンの地下水が建屋の地下に流入しているのですが、汚染水の水位をこれよりも下げると、地下水が流入する量がさらに増えてしまいます。また、あまり水位を上げると汚染水が地下水に流れ出してしまいます。
この矛盾を解消しつつ汚染水の量を減らすためには、地下水の水位を下げて、それよりも汚染水の水位を下げるという方法をとるしかないのです。今回発表されたのは、そのための方策です。
2.スクリーン近くの地下水の流速を示すデータ
現時点で私が一番知りたい情報は、この地下水の流速です。地下水の流速の目安は、透水係数という数字で表されるそうです。cm/secとか、m/dayという単位で表されます(伊藤教授の土質力学講座より)。そして、砂岩層については、透水係数で10^(-2)~10^(-4)cm/s程度というデータがあるようです。結構幅があるため、この数字はこのままでは使えません。10^(-4)cm/sとすると、本当はこれに動水勾配とかをかけないといけないのですが、動水勾配というのがややこしいので仮にそういう係数が1と仮定すると、0.0001cm/secということですから、0.0001×60×60×24=8.64cm/dayで、1日あたり8.64cmとなります。このスピードで1年間動くとすると、8.64×365/100=31.5m/年で、1年に31mしか移動しないということになります。
一方で、もし10^(-2)cm/sもあると、1日あたり8.64mも移動することになります。タービン建屋から海までは大ざっぱに100m前後です。0.0001cm/secとすると、3年程度、0.01ccm/secとすると12日程度で海に到着することになります。
2013年10月追記:動水勾配は1にしてはいけない(もっと小さい)ので、この計算はおかしいですが、その後の東京電力の公表でも移動距離1日10cmという数字が出ていますので、結果的にはこの試算の範囲内に入っています。いずれこのあたりについてはいろいろ情報がわかってきましたので、新たに書く予定です。
参考資料:
伊藤教授の土質力学講座
飲用水の自然環境と放射能汚染 産総研 丸井さん
福島県の地下水環境 産総研 地下水研究グループ(2011年4月)など
10月の時点の東京電力の資料に矢印があり、10cm/dayの長さが記載されています。それを見ると、原発付近ではほぼ10cm/day前後の流速という計算になっています。その速さならば、3m/月、36m/年です。先ほどは仮に動水勾配を1とするということで計算してしまいましたが、1日8.64cmというのは上にあった東京電力の矢印による10cm/dayというのとほぼ合っていますので、この数値が一つの目安になりそうです。
タービン建屋から海までは約100mありますので、3年ある、だからそれまでに遮水壁を作ればいい、というのが恐らく東京電力の回答なのでしょうが、サブドレンの水位データや海水のデータを見ていると、本当にそんなに遅いの?という疑問が出てきます。(でも、今回は海水データの詳細にはふれません。次回以降に回すつもりです。)
そこでスクリーン近くの地下水の流れの速さを示す資料がないかいろいろと探しました。残念ながら、上に挙げた10cm/日という資料しかないかと思ってあきらめかけた時、別の視点からの検証でふと読んだ報告書の中に求めていた答えを見つけました!
地下水の流れる早さを知るというために、少し話はそれますが、今年3/30に東京電力が出したトレンチに関する報告書を見てみましょう。
この報告書は、昨年12/18にトレンチに高濃度の汚染水がたまっていることが初めて発見されたのを機会に、すべてのトレンチを調査するようにという保安院の指示が出て行った調査についての報告書でした。私はこの報告を毎日のようにチェックして追いかけていましたから、「福島原発トレンチの水(汚染水、地下水、津波の残りなど)発見情報のまとめ(2/15最終版)」あとからいろいろなところでトレンチにたまり水が発見されたことはよく知っています。
ただし、その多くは津波の水が残っていたり、雨水がたまったもので、放射性物質の濃度も10000Bq/L以下のものでした。しかし、2号機と3号機のポンプ室の手前にある「ポンプ室循環水ポンプ吐出弁ピット」にたまっていた水は1/19に発表されましたが、2号機のピットでCs-137が9.1×10^6Bq/L、3号機のピットでCs-137が4.8×10^5Bq/Lと、非常に高い放射能濃度でした。

この二つのピットに関しては、場所から言っても昨年の3~4月と5月に高濃度汚染水が海洋に漏出した時のトレンチのすぐ近くであり、高濃度汚染水が一部漏れだした疑いがありました。結局東京電力の調査によると、トレンチにたまっていた高濃度汚染水に雨水がたまって、もともと配管のためにあった貫通部(穴)から隣接するポンプ吐出弁ピットに雨水で希釈された汚染水が流れ込んでたまったものだということのようです。この推論はおそらく正しいと思います。
そして、3/30の報告書によると、この汚染水を除くためにタービン建屋に移送することにしたそうです。しかし、タービン建屋に移送を始めたところ、ピットの水位が元に戻ってしまったということです。
2号機の吐出弁ピットについては、2/20から移送を開始し、2/22に移送を完了しました。それにより、吐出弁ピットの水位がO.P.2500程度からO.P.0前後にまで低下しました。しかしその後3/12までほぼ毎日一直線に水位が上昇し、3/12には水位がO.P.2500に戻ってしまいました。その後は若干増えましたが、増減を繰り返していて、O.P.2600程度で落ち着いています。

3号機の吐出弁ピットについては、2/27から移送を開始し、3/1に移送を完了しました。しかしながら、こちらは移送をしてO.P.3000程度からO.P.2700程度にいったんは水位が下がるものの、翌日にはまた同じ水位に戻ってしまっています。3/1に移送をやめて、その後は3/20までほぼ同じ水位を保っていました。

移送の前後で放射能濃度や塩分濃度を測定していたので、その解析を行ったところ、2号機の吐出弁ピットについては下の図のように移送前後でCs-137の濃度は約0.2倍、塩分濃度は0.1倍に下がりました。

従って、上の図に示したように、移送した後に地下水が流入して薄くなったと考えることができます。

3号機の吐出弁ピットについても同様な解析を行ったところ、下の図のように移送前後でCs-137の濃度は約0.5倍、塩分濃度は0.6倍に下がりました。

こちらも同様に、上の図に示したように、移送した後に地下水が流入して薄くなったと考えることができます。

これらのことから、東京電力は2号機、3号機ともに地下水がポンプ吐出弁ピットに流入しているという結論を出しています。塩分濃度から海水ではないことはわかりますし、特に3号機などは、移送しても翌日には水位が戻ることが数回繰り返されていますので、雨水ということではないことはその日の降水量をいちいち確認しなくともわかります。地下水がポンプ室循環水ポンプ吐出弁ピットに流入していたということはまず間違いありません。
でも、こんな高いところまで地下水が流れてくるの?という疑問もあるでしょう。それについては、下の図を見てください。この図は、先ほどご紹介した、東京電力が地下水の解析を行った際の水位の図を改変したものです。左側は、赤枠部分を拡大したものです。幸いなことに、詳細な平面図が等高線に重ねて書いてありましたから、そこから判断すればこの吐出弁ピット当たりの地下水の水位はO.P.2500~O.P.3000あたりのどこかにあるということがおわかりになるでしょう。このピット付近の地面はO.P.4000です。O.P.2500といえば地表から下に1.5mのところということになります。

上の断面図を見ても、カラーの等高線とほぼ合致していることがわかると思います。
では、ここに流入して来ていた地下水の流れの速度を計算してみましょう。そのためには今まで省略してきたこのピットの構造を確認する必要があります。2号機と3号機のピットはほぼ同じ構造なので、2号機で代表させて説明します。
2号機の吐出弁ピットは、昨年4月に漏出が発覚したスクリーンのすぐ近くにあります。

断面図で示すと下のような感じです。30mというのは以前スクリーンの長さを図面上で測った時に35mだったのでそこから計算し、B-B断面の5.3mというのは、500m3の水が深さ3.1mで横30mの立方体にたまっているとして計算した奥行きです。とすると、このピットの底面積は30m×5.3m=160m2になります。先ほどのグラフでみると、一日に約0.15m~0.2m水位が上昇していますから、24~32m3=24~32トンの水が流れ込んでいたことになります。計算しやすいように30トン/日としましょう。

30トン/日の流量で上の図のA-A断面図を、下の図のように、横30m、高さ3.1m(2.5m-(-0.6m))の断面積に地下水が流れ込んでいたという仮定をした場合(一番流速が遅くなる仮定)でも、30m3÷(30m×3.1m)=約30cmという計算になりました。つまり、最低でもこの吐出弁ピット付近の地下水の流速は30cm/日です。下の図で青い部分は地下水だとイメージしてください。
この図で地下水が地震で出来たと思われる小さなひび割れなどを通して赤枠内のどこかから徐々に吐出弁ピットの中に流入していったと考えられます。
今回は30m×高さ3.1mで計算しましたが、ひび割れの位置によっては、水は下から上にはいけませんので、例えばO.P.2000よりも上部にしか水の通路がなかったとすると、横30m×高さ0.5m(2.5m-2.0m)=15m2の断面積となり、1日あたり30トンの水がピット内に流入するにはなんと2m/日の移動速度がないといけない計算になります。

また、上の計算は流路を仮定せずに地下水が等しく流れているという仮定でした。実際にはおそらく昨年10月に行われた流跡線解析(下の図)にあるように、40年もの長い間に、自然と水が集中して流れる流路が何本もできていると思います。となると、下の図のように4本くらいのメインの流路があるとすると、その断面積は、高さが同じ3.3mとしても横幅はどう見積もっても30mもありません。おそらくこの図の流路だけだとすると、1/5以下、すると流速は5倍以上で1.5m/日となります。
(このあたりの考え方は、地下水に詳しい方がいたら、間違っていないかどうかぜひ教えてください。)

3号機のピットの方も同様の計算を行うと、ピットの底面積は30m×6m=180m2。グラフから読み取ると1日に0.25~0.3mの水位の上昇があったので約50トン/日の流量です。すると、横30m×高さ3.3mの断面積として、流速は最低でも約50cm/日。
こうやって見てきたように、実際のデータから考えると、2号機や3号機のスクリーン付近の地下水の流速は最低でも30-50cm/日。ピットのひび割れの位置によってはもっと速くなります。さらに、集中して流れる流路ができていたとすると1.5m/日あるいはそれ以上の可能性もあるのです。なお、この数字はいわゆる透水係数とは違う可能性がありますが、実測値からはじき出した、断面積あたり単位時間あたりの流量ということになります。
3.スクリーン付近の汚染水の挙動を予測
となると、昨年3/27頃から漏れ出していた高濃度汚染水は、地下水と合流して海に流れていった可能性はないのか?という疑問が当然のことながら浮かび上がってきます。
現在わかっていることは、2号機のタービン建屋→海水配管トレンチ→立て坑→別のトレンチと通っていく中で、地震によって、つなぎ目などに損傷ができてしまって、そこから高濃度汚染水が漏れ出しただろうということです。
また、コンタンさんに教えていただいたのですが、こういうトレンチのようなコンクリートの構造物は、ほとんど全てが下に砕石層を敷いて、構造物の支持層にするのだそうです。そして、砕石層というのは砂利など粒子が大きなものですから、透水係数は非常に高く、水が流れるルートになりやすいのです。
ということは、トレンチのほとんど全て(ただし直接岩盤の上に作っている「岩着」のケースは除く)は、その下に砕石層があるということになります。その砕石層のO.P.がどれくらいかというのは、2号機のスクリーン近くではわかっています。また、今回確認した今年3月のトレンチに関する報告書から、2号機スクリーンポンプ室手前のポンプ吐出弁ピット付近では、地下水の水位がO.P.2500程度であることもわかっています。
となると、この二つの情報を組み合わせると、以下のようなイメージが出来ます。これは政府事故調の中間報告書資料V-10を加工して、トレンチの水たまりに関する報告書の図と合わせて書き、地下水がこのあたりまで来ているだろうという予想を書き加えてみたものです。
ポンプ吐出弁ピットのところで地下水の水位はO.P.2500~2600はあるのですから、下の図で左から右(西から東)に向いた電源ケーブルトレンチの下の砕石層(O.P.2500よりも下)には、地下水に浸っていてもおかしくないことになります。

どうでしょうか。もし東京電力がいうような、下の図(昨年4/5の東京電力のHPにあった図を一部改変)にあるようなイメージで漏れていたとしたら、漏れた砕石層には地下水が来ており、一部は地下水に混ざって海へ流出していったというストーリーは充分に有り得ます。

今回はここまでですが、今日お示ししたデータから、以下のことがわかると思います。
1.福島第一原発の地下水の水位はだいたい把握されており、建屋付近の地下水水位はサブドレンの水位でわかるため、汚染水が地下水へ流出することを防ぐために汚染水の水位の管理を行っている。
2.地下水の水位はスクリーン近くでO.P.2500(2号機)~O.P.3000(3号機)あり、スクリーン付近を走っている電源ケーブルトレンチの下にある砕石層(水が流れやすい:O.P.2500以下)は、地下水に浸っている可能性が高い。
3.地下水の流速は、10cm/日というのが東京電力の示しているデータだが、3月に出されたトレンチの報告書に記載のデータを詳細に検討すると、コンクリートのひび割れなど流れこめる場所があればそこから最低でも30-50cm/日の速度で流入しうることがわかった。
次回以降に、スクリーン海水のデータなどを元に、本当に地下水から海への流出はなかったのか?ということを検証してみたいと思います。
ご意見などあれば、是非ともコメント欄や、Togetterのまとめhttp://togetter.com/li/302436にお願いします。
続く 目次へ
(いずれここにはリンクをつけます)
今年の4/23に行われた政府・東京電力中長期対策会議(第5回)(リンクは経産省)では多くの話題が出たようですが、「地下水バイパスによる1~4号機建屋内への地下水流入量低減方策について」という資料があります。この資料は、これまでの遮水壁に関する資料を補完するだけでなく、新しい情報を教えてくれる貴重なものでした。
遮水壁という言葉をいきなり使ってしまいましたが、これは、福島第一原発の地下水に汚染水が混入して「地下水による海洋汚染拡大防止」のため、根本的な対策として計画されているものです。昨年の8/31の東京電力のプレスリリースにおいて基本設計について紹介がありました。
遮水壁としては、海側に設置する海側遮水壁と陸側に設置する陸側遮水壁の二つが考えられます。8/31に紹介されたのは海側の遮水壁の設計についてです。下の図のように、1-4号機のスクリーンと放水口の外側に遮水壁を設けます。

(東京電力HP「海側遮水壁の基本設計について」より)
立体的に見ると、下の断面図のように、福島第一原発の地下にある2番目の難透水層(地下20m前後)にまで遮水壁を打ち込む事が計画には記載されています。この図で地下水ドレンとあるのは、遮水壁で地下水を遮断してしまうと、地下水の行き場所がなくなるので、これを地下水ドレンで組み上げるためです。

また、福島第一原発の近くの水理地質構造モデルという図面もあり、これを見ると福島第一原発のところだけ大きく削ってあることがわかります。実はこのあたりは標高35m近くの切り立った崖でした。それを原発を作るためにわざわざ20m以上もがけを削って低くしたのです。この削り方をもう少し少なくして高いところに設置していれば、今回のような津波による被害は免れることができたのです。建設当時の話は、『黎明―福島原子力発電所建設記録 調査篇―』 (企画:東京電力、製作:日映科学映画製作所、1967年、26分)にありますので、興味のある方はご覧下さい。

少し脱線しましたが、断面図を見ると、原発直下の地層は、砂岩でできた透水層、泥岩でできた難透水層、透水層、難透水層という繰り返しでできていることがわかります。遮水壁とは、上にあった図の地下水ドレンの断面図からもわかるように、二つの難透水層に挟まれた透水層を通る地下水の流れを遮断することが主な目的のようです。と私は当初思っていたのですが、実は一番上の透水層の地下水の流れを遮断することも重要だということがこのあとわかります。

この設計で大丈夫かどうか、流跡線解析というものを行い、下図のように地下水ドレンと遮水壁を配置したら、解析結果では「遮水壁の内側から海洋へ流出することはないことを確認した」と記載されています。ここで見えている青い線は、建屋の四隅にあった粒子がどのように移動するかをシミュレーションしたもので、実際の地下水の流れもこれに似たような流れになることが予想されます。

このあと2ヶ月後の10/26、「海側遮水壁の工事着手および陸側遮水壁の検討結果について」というプレスリリースがなされました。この時は、海側遮水壁の完成形のイメージ図が下の図のように公開されました。

断面図を見ると、8月の時のイメージとほとんど変わっていないことがわかります。

さらにこの図は、今年の4/24のプレスリリースによってより正確なものが発表されています。遮水壁の設置にあたっては、公有水面埋立免許が必要であるので福島県に申請していたが、その免許が交付されたので遮水壁の工事を4/25から開始するというプレスリリースでした。

なお、この10月の発表は、海側遮水壁に加えて陸側遮水壁も設置するかどうかを検討した結果、陸側遮水壁は設置しないという結論に達したということがその趣旨でした。
なぜかというと、まず、陸側遮水壁だけでは海への地下水の流出を止められないこと。そして海側遮水壁を設置して地下水ドレンで管理することによって、建屋周りの地下水が海洋へ流出することを防止できるものと考えていること。さらに海側遮水壁+陸側遮水壁にすると、現在の地下水の水位が1-2m低下する可能性があり、汚染水が地下水に流れ込むリスクが高くなるからこの方法はとれないということが紹介されています。
一方で、現在問題となっている『建屋内への地下水の流入抑制に関しては、陸側遮水壁では建屋内滞留水の水位に応じて建屋周りの地下水位を管理することは困難であることから、建屋周りのサブドレンにより建屋周りの地下水位を管理することについて別途検討することとしています。』としています。
陸側遮水壁については、メリット・デメリットを検討した結果、別の方法で代用することで足りるのではないか?というのがこの時点での検討結果でした。陸側遮水壁についてはこの結論以上の紹介はせずにとどめます。
一つだけこの時の資料を紹介しておきます。原発の地下水の流れとその水位を示したものです。これは海側遮水壁を設置した時の予想図になっていますので、現状よりも海に近い側でやや低めになっていますが、地下水の流れが山側から海側に向かっているということをはっきりと示しているデータです。あとで紹介しますが、ここで10cm/dayという矢印があることに注目しておいてください。これは矢印の大きさが流速10cm/日であることを示しています。

さて、やっと4/23の資料に行き着くことができました。
ここでは、陸側遮水壁を検討した時に挙げられていたように、建屋周辺(主に山側)の地下水位を低下させ、建屋への地下水流入量を抑制するために地下水バイパスを山側に設置するという計画案です。
ここに書いてある資料は非常にわかりやすいものでしたから引用します。

現状では、
・地下水は主に透水層を山側から海側に向かって流れている。
・海に向かう過程で地下水の一部が建屋内に流入している。→建屋内滞留水の増加
・建屋内への地下水流入量抑制のため、サブドレン復旧中。
それを今回の提案では、
・山側から流れてきた地下水を、建屋の上流で揚水し、地下水の流路を変更する。(地下水バイパス)
・地下水バイパスにより建屋周辺(主に山側)の地下水位を低下させ、建屋内への流入量を抑制する。
・引き続き、サブドレン復旧を継続する。
という考え方です。
この提案が成立するには下の図の3条件を満たす必要があるのですが、今回の設計ではそれを満たすという解析結果が出ているということでした。
下の図でぜひ覚えておいていただきたいのが、O.P.(O.P.=Onahama peil 小名浜港工事基準面)という数字です。これは小名浜港の水位を基準にしてどれだけの高さになるかという数値で、海抜とほぼ一致するものです。(ちなみに、東京港ではT.P.という基準を用います。小名浜港のO.P.とT.P.の数値は同じではありません。O.P.±0.0m = 東京湾平均海面(T.P.)-0.727m)福島第一原発付近では、平均水位はO.P.0mではなく、O.P.+0.828mだそうです。この話は「福島原発の汚染水をよく知るため、O.P.とサブドレンを理解しましょう」でも詳しくご紹介しました。
その基準で、沿岸のスクリーンなどがある場所はO.P.+4m、タービン建屋や原子炉建屋があるところはO.P.+10m、そして揚水井を掘ろうとしているところはO.P.+35m、つまり元々のがけを一切削っていない部分です。

今回の揚水井14本を設置することにより、現状では下の図のような水位で地下水が流れているのが

この下の図のように原子炉建屋の山側(西側)の地下水水位が3-6m低下する事が期待できるということでした。赤い点が揚水井の場所を示します。1日に1000トン!の揚水をする予定です。これでもまだ水位がさがる程度で枯れることはないのですから、いかにこの原発付近の地下水が豊富であるかということがわかりますよね。

この揚水井の設置により、地下水水位が低下すると、滞留水(放射能汚染水)の水位を今よりも下げることができます。現在は放射能汚染水の水位は約O.P.+3mにして管理しています。現在でも毎日200-500トンの地下水が建屋の地下に流入しているのですが、汚染水の水位をこれよりも下げると、地下水が流入する量がさらに増えてしまいます。また、あまり水位を上げると汚染水が地下水に流れ出してしまいます。
この矛盾を解消しつつ汚染水の量を減らすためには、地下水の水位を下げて、それよりも汚染水の水位を下げるという方法をとるしかないのです。今回発表されたのは、そのための方策です。
2.スクリーン近くの地下水の流速を示すデータ
現時点で私が一番知りたい情報は、この地下水の流速です。地下水の流速の目安は、透水係数という数字で表されるそうです。cm/secとか、m/dayという単位で表されます(伊藤教授の土質力学講座より)。そして、砂岩層については、透水係数で10^(-2)~10^(-4)cm/s程度というデータがあるようです。結構幅があるため、この数字はこのままでは使えません。10^(-4)cm/sとすると、本当はこれに動水勾配とかをかけないといけないのですが、動水勾配というのがややこしいので仮にそういう係数が1と仮定すると、0.0001cm/secということですから、0.0001×60×60×24=8.64cm/dayで、1日あたり8.64cmとなります。このスピードで1年間動くとすると、8.64×365/100=31.5m/年で、1年に31mしか移動しないということになります。
一方で、もし10^(-2)cm/sもあると、1日あたり8.64mも移動することになります。タービン建屋から海までは大ざっぱに100m前後です。0.0001cm/secとすると、3年程度、0.01ccm/secとすると12日程度で海に到着することになります。
2013年10月追記:動水勾配は1にしてはいけない(もっと小さい)ので、この計算はおかしいですが、その後の東京電力の公表でも移動距離1日10cmという数字が出ていますので、結果的にはこの試算の範囲内に入っています。いずれこのあたりについてはいろいろ情報がわかってきましたので、新たに書く予定です。
参考資料:
伊藤教授の土質力学講座
飲用水の自然環境と放射能汚染 産総研 丸井さん
福島県の地下水環境 産総研 地下水研究グループ(2011年4月)など
10月の時点の東京電力の資料に矢印があり、10cm/dayの長さが記載されています。それを見ると、原発付近ではほぼ10cm/day前後の流速という計算になっています。その速さならば、3m/月、36m/年です。先ほどは仮に動水勾配を1とするということで計算してしまいましたが、1日8.64cmというのは上にあった東京電力の矢印による10cm/dayというのとほぼ合っていますので、この数値が一つの目安になりそうです。
タービン建屋から海までは約100mありますので、3年ある、だからそれまでに遮水壁を作ればいい、というのが恐らく東京電力の回答なのでしょうが、サブドレンの水位データや海水のデータを見ていると、本当にそんなに遅いの?という疑問が出てきます。(でも、今回は海水データの詳細にはふれません。次回以降に回すつもりです。)
そこでスクリーン近くの地下水の流れの速さを示す資料がないかいろいろと探しました。残念ながら、上に挙げた10cm/日という資料しかないかと思ってあきらめかけた時、別の視点からの検証でふと読んだ報告書の中に求めていた答えを見つけました!
地下水の流れる早さを知るというために、少し話はそれますが、今年3/30に東京電力が出したトレンチに関する報告書を見てみましょう。
この報告書は、昨年12/18にトレンチに高濃度の汚染水がたまっていることが初めて発見されたのを機会に、すべてのトレンチを調査するようにという保安院の指示が出て行った調査についての報告書でした。私はこの報告を毎日のようにチェックして追いかけていましたから、「福島原発トレンチの水(汚染水、地下水、津波の残りなど)発見情報のまとめ(2/15最終版)」あとからいろいろなところでトレンチにたまり水が発見されたことはよく知っています。
ただし、その多くは津波の水が残っていたり、雨水がたまったもので、放射性物質の濃度も10000Bq/L以下のものでした。しかし、2号機と3号機のポンプ室の手前にある「ポンプ室循環水ポンプ吐出弁ピット」にたまっていた水は1/19に発表されましたが、2号機のピットでCs-137が9.1×10^6Bq/L、3号機のピットでCs-137が4.8×10^5Bq/Lと、非常に高い放射能濃度でした。

この二つのピットに関しては、場所から言っても昨年の3~4月と5月に高濃度汚染水が海洋に漏出した時のトレンチのすぐ近くであり、高濃度汚染水が一部漏れだした疑いがありました。結局東京電力の調査によると、トレンチにたまっていた高濃度汚染水に雨水がたまって、もともと配管のためにあった貫通部(穴)から隣接するポンプ吐出弁ピットに雨水で希釈された汚染水が流れ込んでたまったものだということのようです。この推論はおそらく正しいと思います。
そして、3/30の報告書によると、この汚染水を除くためにタービン建屋に移送することにしたそうです。しかし、タービン建屋に移送を始めたところ、ピットの水位が元に戻ってしまったということです。
2号機の吐出弁ピットについては、2/20から移送を開始し、2/22に移送を完了しました。それにより、吐出弁ピットの水位がO.P.2500程度からO.P.0前後にまで低下しました。しかしその後3/12までほぼ毎日一直線に水位が上昇し、3/12には水位がO.P.2500に戻ってしまいました。その後は若干増えましたが、増減を繰り返していて、O.P.2600程度で落ち着いています。

3号機の吐出弁ピットについては、2/27から移送を開始し、3/1に移送を完了しました。しかしながら、こちらは移送をしてO.P.3000程度からO.P.2700程度にいったんは水位が下がるものの、翌日にはまた同じ水位に戻ってしまっています。3/1に移送をやめて、その後は3/20までほぼ同じ水位を保っていました。

移送の前後で放射能濃度や塩分濃度を測定していたので、その解析を行ったところ、2号機の吐出弁ピットについては下の図のように移送前後でCs-137の濃度は約0.2倍、塩分濃度は0.1倍に下がりました。

従って、上の図に示したように、移送した後に地下水が流入して薄くなったと考えることができます。

3号機の吐出弁ピットについても同様な解析を行ったところ、下の図のように移送前後でCs-137の濃度は約0.5倍、塩分濃度は0.6倍に下がりました。

こちらも同様に、上の図に示したように、移送した後に地下水が流入して薄くなったと考えることができます。

これらのことから、東京電力は2号機、3号機ともに地下水がポンプ吐出弁ピットに流入しているという結論を出しています。塩分濃度から海水ではないことはわかりますし、特に3号機などは、移送しても翌日には水位が戻ることが数回繰り返されていますので、雨水ということではないことはその日の降水量をいちいち確認しなくともわかります。地下水がポンプ室循環水ポンプ吐出弁ピットに流入していたということはまず間違いありません。
でも、こんな高いところまで地下水が流れてくるの?という疑問もあるでしょう。それについては、下の図を見てください。この図は、先ほどご紹介した、東京電力が地下水の解析を行った際の水位の図を改変したものです。左側は、赤枠部分を拡大したものです。幸いなことに、詳細な平面図が等高線に重ねて書いてありましたから、そこから判断すればこの吐出弁ピット当たりの地下水の水位はO.P.2500~O.P.3000あたりのどこかにあるということがおわかりになるでしょう。このピット付近の地面はO.P.4000です。O.P.2500といえば地表から下に1.5mのところということになります。

上の断面図を見ても、カラーの等高線とほぼ合致していることがわかると思います。
では、ここに流入して来ていた地下水の流れの速度を計算してみましょう。そのためには今まで省略してきたこのピットの構造を確認する必要があります。2号機と3号機のピットはほぼ同じ構造なので、2号機で代表させて説明します。
2号機の吐出弁ピットは、昨年4月に漏出が発覚したスクリーンのすぐ近くにあります。

断面図で示すと下のような感じです。30mというのは以前スクリーンの長さを図面上で測った時に35mだったのでそこから計算し、B-B断面の5.3mというのは、500m3の水が深さ3.1mで横30mの立方体にたまっているとして計算した奥行きです。とすると、このピットの底面積は30m×5.3m=160m2になります。先ほどのグラフでみると、一日に約0.15m~0.2m水位が上昇していますから、24~32m3=24~32トンの水が流れ込んでいたことになります。計算しやすいように30トン/日としましょう。

30トン/日の流量で上の図のA-A断面図を、下の図のように、横30m、高さ3.1m(2.5m-(-0.6m))の断面積に地下水が流れ込んでいたという仮定をした場合(一番流速が遅くなる仮定)でも、30m3÷(30m×3.1m)=約30cmという計算になりました。つまり、最低でもこの吐出弁ピット付近の地下水の流速は30cm/日です。下の図で青い部分は地下水だとイメージしてください。
この図で地下水が地震で出来たと思われる小さなひび割れなどを通して赤枠内のどこかから徐々に吐出弁ピットの中に流入していったと考えられます。
今回は30m×高さ3.1mで計算しましたが、ひび割れの位置によっては、水は下から上にはいけませんので、例えばO.P.2000よりも上部にしか水の通路がなかったとすると、横30m×高さ0.5m(2.5m-2.0m)=15m2の断面積となり、1日あたり30トンの水がピット内に流入するにはなんと2m/日の移動速度がないといけない計算になります。

また、上の計算は流路を仮定せずに地下水が等しく流れているという仮定でした。実際にはおそらく昨年10月に行われた流跡線解析(下の図)にあるように、40年もの長い間に、自然と水が集中して流れる流路が何本もできていると思います。となると、下の図のように4本くらいのメインの流路があるとすると、その断面積は、高さが同じ3.3mとしても横幅はどう見積もっても30mもありません。おそらくこの図の流路だけだとすると、1/5以下、すると流速は5倍以上で1.5m/日となります。
(このあたりの考え方は、地下水に詳しい方がいたら、間違っていないかどうかぜひ教えてください。)

3号機のピットの方も同様の計算を行うと、ピットの底面積は30m×6m=180m2。グラフから読み取ると1日に0.25~0.3mの水位の上昇があったので約50トン/日の流量です。すると、横30m×高さ3.3mの断面積として、流速は最低でも約50cm/日。
こうやって見てきたように、実際のデータから考えると、2号機や3号機のスクリーン付近の地下水の流速は最低でも30-50cm/日。ピットのひび割れの位置によってはもっと速くなります。さらに、集中して流れる流路ができていたとすると1.5m/日あるいはそれ以上の可能性もあるのです。なお、この数字はいわゆる透水係数とは違う可能性がありますが、実測値からはじき出した、断面積あたり単位時間あたりの流量ということになります。
3.スクリーン付近の汚染水の挙動を予測
となると、昨年3/27頃から漏れ出していた高濃度汚染水は、地下水と合流して海に流れていった可能性はないのか?という疑問が当然のことながら浮かび上がってきます。
現在わかっていることは、2号機のタービン建屋→海水配管トレンチ→立て坑→別のトレンチと通っていく中で、地震によって、つなぎ目などに損傷ができてしまって、そこから高濃度汚染水が漏れ出しただろうということです。
また、コンタンさんに教えていただいたのですが、こういうトレンチのようなコンクリートの構造物は、ほとんど全てが下に砕石層を敷いて、構造物の支持層にするのだそうです。そして、砕石層というのは砂利など粒子が大きなものですから、透水係数は非常に高く、水が流れるルートになりやすいのです。
ということは、トレンチのほとんど全て(ただし直接岩盤の上に作っている「岩着」のケースは除く)は、その下に砕石層があるということになります。その砕石層のO.P.がどれくらいかというのは、2号機のスクリーン近くではわかっています。また、今回確認した今年3月のトレンチに関する報告書から、2号機スクリーンポンプ室手前のポンプ吐出弁ピット付近では、地下水の水位がO.P.2500程度であることもわかっています。
となると、この二つの情報を組み合わせると、以下のようなイメージが出来ます。これは政府事故調の中間報告書資料V-10を加工して、トレンチの水たまりに関する報告書の図と合わせて書き、地下水がこのあたりまで来ているだろうという予想を書き加えてみたものです。
ポンプ吐出弁ピットのところで地下水の水位はO.P.2500~2600はあるのですから、下の図で左から右(西から東)に向いた電源ケーブルトレンチの下の砕石層(O.P.2500よりも下)には、地下水に浸っていてもおかしくないことになります。

どうでしょうか。もし東京電力がいうような、下の図(昨年4/5の東京電力のHPにあった図を一部改変)にあるようなイメージで漏れていたとしたら、漏れた砕石層には地下水が来ており、一部は地下水に混ざって海へ流出していったというストーリーは充分に有り得ます。

今回はここまでですが、今日お示ししたデータから、以下のことがわかると思います。
1.福島第一原発の地下水の水位はだいたい把握されており、建屋付近の地下水水位はサブドレンの水位でわかるため、汚染水が地下水へ流出することを防ぐために汚染水の水位の管理を行っている。
2.地下水の水位はスクリーン近くでO.P.2500(2号機)~O.P.3000(3号機)あり、スクリーン付近を走っている電源ケーブルトレンチの下にある砕石層(水が流れやすい:O.P.2500以下)は、地下水に浸っている可能性が高い。
3.地下水の流速は、10cm/日というのが東京電力の示しているデータだが、3月に出されたトレンチの報告書に記載のデータを詳細に検討すると、コンクリートのひび割れなど流れこめる場所があればそこから最低でも30-50cm/日の速度で流入しうることがわかった。
次回以降に、スクリーン海水のデータなどを元に、本当に地下水から海への流出はなかったのか?ということを検証してみたいと思います。
ご意見などあれば、是非ともコメント欄や、Togetterのまとめhttp://togetter.com/li/302436にお願いします。
続く 目次へ
(いずれここにはリンクをつけます)
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