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9月に導入予定の多核種除去設備とはどんなもので何が出来るのか?

 
今回は、現在の汚染水循環処理システムの改良版として検討され、設置準備が進んでいる多核種除去システムについて紹介します。それによって何ができるのか、また課題は何があるのか、今後の見通しについても言及したいと思います。

1.多核種除去設備とは

放射能汚染水循環処理システムの現状はどうなっているのか?」でお示ししたように、汚染水循環処理システムは主にセシウムの除去を行うためのシステムでした。そしてセシウムの除去ということだけが目的であれば、はっきり言ってその効果はありました。放射性セシウムの総量は昨年6月から96%以上も減少してるのです。減った分はどこへ行ったかというと、廃スラッジや使用済みベッセルに集められているのです。

しかし、汚染水循環処理システムで処理した後の濃縮塩水というのは、放射性セシウムはほとんどなくなっていますが、例えばストロンチウム(Sr)はほとんど除去されていません。そのため、昨年の12月以降何回か汚染水循環システムからの水漏れが起こっていますが、そこで漏れ出した水には放射性ストロンチウムがまだ大量に含まれていることがわかっています。

そして、この濃縮塩水(私はこれはまだ放射能汚染水に分類すべきと考えています)は、循環処理システムの稼働以来着実に増え続け、現在では約13万トンにも上るのです。現在、この濃縮塩水の保管場所をいかにして確保するかということで、タンクの増設を何度も行っていますが、いずれ保管場所がなくなって限界が来ることは見えています。そうなる前に、もっと根本的な対策を打つ必要があります。

このような背景を元に、多核種を同時に処理(除去)できるシステムの開発が進められてきています。それが多核種除去設備です。(「(トリチウムは除く)」という記載にご注目ください。)
6/2-図4

政府・東京電力中長期対策会議第4回運営会議(3/28)の資料から必要な資料(リンクは経産省の資料)を引用します。

まず、下の図が現在の汚染水循環処理システムを模式的に示したものです。現在のシステムでは、まず油分を分離した後、セシウム除去装置(サリーやキュリオン)を通します。この水には、昨年の3月頃は海水の注水を行っていましたし、津波による水も含まれていたために塩分が多く含まれているので、逆浸透膜(RO膜)の淡水化装置を用いて塩分を除去します。そして塩分を除いた淡水は再度注水するためにバッファタンクに貯められ、炉心に注水されていきます。これにより、炉心に注水するための水は新たに外部から加えることなく循環させることができるようになったのです。

一方、RO膜を通らずに塩分が多く含まれるようになった濃縮塩水(緑色)は、蒸発濃縮装置でさらに水分を除き、残った濃縮廃液とに分けます。蒸発させた水分は淡水としてこれも再循環させて注水に利用します。

緑色の濃縮塩水や濃縮廃液は、元の汚染水と比べるとセシウムはほとんど含んでいませんが、Srなどはほとんど除去されずに元の汚染水と同程度の濃度で含まれています。それを処理するのが多核種除去設備の役割なのです。多核種除去設備によって、最低でもいわゆる告示濃度以下になるようにまでほとんどの各種を除去することが目的です。

5/29-多核種1


2.多核種除去設備の性能

そこで現在検討されているのがALPSと呼ばれる装置です。これは前処理設備と吸着塔に分かれます。前処理設備では鉄共沈処理を行い、α核種とCo-60やMn-54などを除去します。続いて炭酸塩共沈処理設備によって次のステップで用いる吸着塔において吸着を阻害するMgやCaイオンを除去します。その後、吸着塔において、除去する放射性物質の性質に応じた吸着剤を用いて種々の核種を除去するシステムです。

5/29-多核種2

このALPSの性能を検査するため、逆浸透膜濃縮水(濃縮塩水)と逆浸透膜入口水を用いて試験を行いました。その結果、除去対象として着目した62核種全てにおいて、告示濃度限度以下まで除去できることを確認したということです。

さらに、γ核種(45核種)は、検出限界値(ND)未満にまで除去できることを確認しました。ついでβ核種は、8核種のうち5核種までが検出限界値(ND)未満にまで除去できることを確認しました。しかし、Sr-89、Sr-90、Y-90については、かなり除去されて告示濃度以下にはなっているものの、検出されている事がわかりました。α核種(9核種)については、全α濃度として検出限界値(ND)未満となり、充分に低い値となったということです。

5/29-多核種3

具体的には、62核種とは、この下の表にあるように核分裂生成物(FP核種:fission products)である46核種、Puのように原子炉の運転により生成した超ウラン核種(10核種)、原子炉プラントを構成している機器、装置、配管などの構成材料の腐蝕によって生成された物質が放射化してできたFe、Co、Mnなどの腐蝕生成核種(CP核種:corrosion products)6核種を選択しています。これは、各核種の汚染水の中の推定濃度を算出して、告示濃度限度に対して1/100を超える核種について選択したものです。ですから、現在はほとんど検出されないI-131などは入っていません。

5/29-多核種5

以下に、この3/28の会議で示された62核種と全α核種、全β核種の全ての結果を示します。逆浸透膜入口水と、逆浸透膜濃縮水について実験をしています。

この実験結果を見る際に注意が必要なのは、通常ならば多核種除去設備処理前と処理後では、同じ検出限界値で測定するはずなのですが、この実験では、多核種除去設備処理前の検出限界が異常に高い値となっています。そのため、NDと書いてあってもこれは処理後の検出限界値で測定すれば検出されていると考えられます。

例えば1番のRb-86、これは告示濃度限度が300Bq/Lですが、処理前の測定では逆浸透膜入口水も逆浸透膜濃縮水もNDとなっていますが、よく見ると検出限界値が告示濃度を10倍以上高い数値で測定しています。これははっきり言って意味がありません。処理後の測定では検出限界値を1.5Bq/Lで測定できているのですから、同じ感度で測定するべきです。少なくとも告示濃度限度以下でなければ意味がありません。


ただし、多核種除去設備を通した後では検出限界値未満であったということは間違いではないと思います。

5/29-多核種6

また、Sr-89、Sr-90、Y-90は検出限界値未満に出来なかった核種としてあげられていますが、Sr-89とSr-90はこれまでにも一度だけ測定されています。昨年11/18に発表されているのですが、その際は逆浸透膜入口水=淡水化装置入口水(6番:Sr-90が29,000,000Bq/L)、逆浸透膜濃縮水=蒸発濃縮装置入口水(8番:Sr-90が76,000,000Bq/L)であり、逆浸透膜濃縮水の方が3倍近く濃くなっていました。この時は、逆浸透膜装置を通すために濃縮されるという理解だったのですが、今回の上の表の数値を見ると、逆浸透膜濃縮水の方が1/7程度に低くなっています。Sr-90についてはそれほど大きく濃度が変わっていないはずですので、この濃度比の違いも気になるところです。

逆浸透膜でSrが淡水の方に行ってしまったのでしょうか?上の表の逆浸透膜入口水(右側)で1.2×10^8Bq/LのSr-90が逆浸透膜を通して水分が除かれた後で逆浸透膜濃縮水(左側)が1.6×10^7Bq/Lに減っているとすると、Sr-90が逆浸透膜を通って淡水の方に行ってしまった可能性があります。

このように、処理後はNDだな、という結果だけをザッと見てしまうと気にならないのですが、細かくチェックしていくと疑問点が幾つも出てくる結果となっています。

5/29-多核種7

この下の表に出てくるCs-134とC-137は、これまでも発表されているデータとほぼ同じレベルです。セシウム除去装置によってかなり除去されていますが、元の濃度があまりにも高いために、Cs-137で4000~6000Bq/Lも残っています。それが多核種除去設備を通すことによって、Cs-137で0.3Bq/L以下と現在の海水なみの濃度にまで下げることが出来ています。

5/29-多核種8
5/29-多核種9
5/29-多核種10

α核種については、全α核種の濃度でそれぞれの核種の告示濃度と比較していますが、多核種除去設備を通した後は、十分低い濃度にまで下がっているようです。おそらく、一つ一つの各種を正確に測定するのが大変なのでまとめて測定したのでしょう。一方、全β核種というものについても告示濃度限度はないようです。これは、この資料にも記載がありましたが、全β核種の中には天然由来のK-40が含まれているため、告示濃度というものはないためと考えられます。ここで出ている多核種除去設備を通した後の68Bq/Lというのも、K-40を含んだ値で、K-40がかなりを占めると考えられます。

5/29-多核種11

なお、ここでは一切記載がありませんでしたが、H-3(トリチウム)については、昨年11/18の資料でも、その後の資料でも4,000,000Bq/L程度含まれているようです。H-3の告示濃度限度は60,000Bq/Lで、多核種除去設備を通す前は告示濃度を大幅に超えているのですが、これについてはなぜか言及がありませんでした。おそらくH-3については除去できないので、今後の検討課題なのでしょう。


3.多核種除去設備の設置計画と課題

この多核種除去設備は、下の図の位置に設置する予定(資料の25枚目)だそうです。蒸発濃縮装置が置いてあるエリアの近くです。

5/29-多核種12

この話は、5/12に公表された「東京電力株式会社福島第一原子力発電所における信頼性向上対策に係る実施計画」の5-9ページ以降にも記載されています。政府も認めた計画として動き出したわけです。

計画では、9月にこのシステムを導入するということです。5/28に発表された計画でも、6月中旬までに性能に関する試験を終え、6月下旬から設置工事に入って8月末までには設置完了という工程表を出しています。ただ、詳細はまだ計画・調整中なので、多少ずれ込む可能性はあります。

6/2-図1
(クリックで別画面に拡大)

おそらく東京電力は告示で指定されているどの核種についても告示濃度限度以下になったことを示してから、可能ならばその水を海洋に廃棄するということを考えていたと思います。(漁協などがどう反応するかということは法律とはまた別の問題です。)

この告示濃度について、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規制の規定に基づく線量限度を定める告示」の別表第二というものがインターネット上にはないようです。本文だけは載っているのですが、この大成出版のサイトには別表はありません。しかし、すでにこの事を調べてくれた人がいて、「海水中の放射能の基準値はどこに書かれているか」というサイトには文科省の「試験研究の用に供する原子炉等の設置、運転等に関する規則等の規定に基づき、線量限度等を定める告示」がI-131やCs-137の告示濃度と同じであるため、おそらくこれが炉規則別表第二と同じだろうということを教えてくれています。この表の第6欄を見るそうです。

それによると、H-3(トリチウム)の濃度は60000Bq/L(60Bq/cm3)と記載されています。
6/2-図2

なぜこういう数値が定められているかというと、昨年10月の統合本部記者会見(54ページ)に説明がありました。「この水を普通に1年間飲んだ場合の被ばく線量が1mSv ということ」がその根拠だそうです。ちなみに、この時の記者会見では、園田政務官が5,6号機の処理水を飲んだときに、トリチウムが入っていたとか以内ということが話題になっていました。その時の水には2600Bq/LのH-3が入っていたそうです。WHOの飲水でのH-3の基準が10000Bq/L(リンク先は英語)ですので、それ以下だということです。リンクを貼ったカナダの資料では、日本での飲水のトリチウムについての基準はないようです。

6/2-図3

多核種除去設備を用いても、H-3(トリチウム)についてはあまり効果がないとすると、告示濃度60,000Bq/Lの50倍程度は残るため、このままでは法的にも海洋に廃棄はできないと思います。データが開示されていないためにトリチウムについて多核種除去設備でどれくらいの効果があるかもわかりません。
※トリチウムを含む廃液の海洋への放出時の規制値について、おそらく60,000Bq/Lで正しいと思いますが、正確な情報をお持ちの方がいたら教えてください。

では、当初の目的であった濃縮塩水などの保管場所に困っているということの根本的な解決にはこの多核種除去設備はならないのでしょうか?これについては、東京電力はこれまでの記者会見などでは今のところ貯めておく予定という回答をしているようです。
2012/2/27・18:00開始 東京電力による「原発」に関する記者会見」togetter
(トリチウムは取らないのか)東電「500t/dでの処理ではトリチウムは除去難しい タンクに一緒に保管となる」

2012/5/12・18:00開始 東京電力による「原発」に関する記者会見」togetter
ニコニコ動画 ちょうど1時間あたりの所で、NDだったら告示濃度限度以下になるというやり取りがあります。トリチウムの話を突っ込んで欲しいのに。

多核種除去設備では液量が減るわけではないので、保管場所という意味では次の手を打たないといけないと思います。それが何なのかは、私にはわかりません。ただ、記者会見でも言っていますが、今のように時々漏洩事故が起こるリスクがあるため、そうなったとしても海洋への放射性物質の漏洩の可能性を減らすという効果はあります。

こうしてみてくると、多核種除去設備も汚染水減少の決定打とはならず、地下水バイパスやサブドレンの浄化などによる地下水水位の低下を行いつつ、技術開発を早期に行って建屋間の漏れた場所をふさいで全長4kmのループを小さくしていくという方法に期待するしか根本的な解決手段はなさそうです。


4.まとめ

1.Srなどの62核種を告示濃度限度以下にできる多核種除去設備の設置方針が決まり、9月稼働を目指して準備が進められている。

2.この多核種除去設備の性能は、実験室レベルでは確認されたが、日量500トンものスケールで同じ性能が出せるのかどうかは未知数の部分もある。

3.一番問題なのがH-3(トリチウム)で、現在は告示濃度の60000Bq/Lの50倍程度の濃度のH-3が存在している。多核種除去設備でどこまで下げられるのか、データは一切開示されていない。

4.多核種除去設備の導入後、62核種の濃度が試験結果と同レベルにまで下がったとしてもH-3が除去できなければ海洋放出は法的にも出来ない可能性が高い。(漁協などとの話し合いとは別の次元の話)

5.多核種除去設備によって、これまでも何度もくり返されてきた漏洩事故が今後起こった際に海洋への漏出のリスクを下げることは出来る。


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