昨年3/27のトレンチなどの水位検証により判明した衝撃の事実!
さて、今回はいよいよタービン建屋やトレンチの水位データのまとめをしていきます。その結果、少なくとも3/27以降は放射能汚染水が外に漏れ出していたということが水位データから確かめられました。最後までじっくりとお読みください。
前回の「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(2)細かく検証してみましょう」では今後確認してみたいこととして以下の3点をあげました。
(1)2号機のトレンチあるいはタービン建屋の昨年3/26頃からの水位はどうなっていたのか?O.P.(2.5m~)3mに達して、ピットA付近まで汚染水が達することが可能になったのはいつ頃なのか?
(2)昨年3月下旬の原子炉反応容器への注水量から考えて、タービン建屋やトレンチの水位は妥当なのか?どこかへ消えてしまった計算になる水は存在しないのか?
(3)スクリーン付近の地下水の水位はどのくらいの高さなのか?トレンチの外側に漏れ出した汚染水が地下水に流れ出した可能性はないのか?
そのうち(1)と(2)について、今回は検証します。
まずはいつものように全体像を把握するところから始めたいと思います。
1.水、特に放射能汚染水の出入りを考えましょう
今回は、放射能汚染水の量、特に昨年の3月~4月にかけての量がどれくらいだったのか、考えてみたいと思います。いろいろと細かい数字の計算もありますので、面倒な部分は読み飛ばしていただいてかまいません。
まずはおさらいです。昨年の3/11の時点で、福島第一原発の1号機から3号機の原子炉の中にあった放射性物質の量は、下の図にあるように、I-131で6300PBq、Cs-134で680PBq、Cs-137で700PBqでした(Pはペタで1000兆だとこのシリーズ初回の「福島第一原発事故で海洋に流出した放射性セシウム量は全体のわずか2%?」で説明しましたよね)。以下では、その中でも放射性セシウム(Cs-134とCs-137)について考えていきます。

それが、東日本大震災によって、電源喪失が起こり、原子炉を冷却することができなくなりました。そのために1号機、3号機などの水素爆発による大気への放射性物質の放出、そして2号機、3号機からの海洋への直接漏洩事故が起こりました。大気へ放出された放射性物質も、その後陸地に沈着したものと、海洋に沈着したものの2種類があります。
それ以外にも考えられることとしては、地下への漏出があります。これについてはほとんどわかっていませんが、今回、そして次回以降に、わかる範囲でこの可能性についても検証しようと思います。

ここまで、3/11後にどういう事があったかを放射性物質の出入りという視点で簡単にまとめました。このようなまとめは「福島第一原発事故で海洋に流出した放射性セシウム量は全体のわずか2%?」で詳細に行っています。
次に、福島第一原発にあった水、特に放射能汚染水の動きについてまとめてみたいと思います。
そもそも地震の前に原発にあった水は、圧力容器内にあった冷却水、それから格納容器の圧力抑制室(S/C)にあった水が主なものです。タービン建屋にあった復水器の水は、復水器が壊れていなければ(壊れていたという話は聞かないので)ここでは計算から除外します。(復水器の水は途中で移送していますが、4/2までは、1号機2号機については一切移動していないことも確認済です。)
それに追加するべき水及び出て行った水としてどんなものがありうるか、という視点で考えてみます。そうすると、加わった水は
(1)まず3/11の津波です。これは実際にはどれくらいの量が建屋の中に浸透したのかはわかりませんが、東京電力の主張ではそのためにディーゼル発電機が浸水して使えなくなったということですから、間違いなく全てのタービン建屋の地下に浸水したはずです。
(2)次に3/12以降懸命になって行った原子炉への注水及び使用済み燃料プールへの注水です。この注水量は公開されていますから計算できます。
(3)続いて雨水です。2号機を除いては水素爆発で原子炉建屋の屋根が吹っ飛んでしまいましたから、雨が降るとそれは全て原子炉建屋にたまってしまいます。
(4)最後に地下水の流入です。これについては現段階では可能性ということで挙げておきます。
一方、出ていった水は
(1)注水の中で、崩壊熱による蒸発分。これは、当初は燃料棒が非常に熱かったため、水を注水しても相当の量が蒸発してしまったと考えられます。原子炉建屋の屋根が残っている2号機以外では、水蒸気は建屋の外に出て行った可能性があります。
(2)5月までで大きな海洋漏洩事故が2回ありました。4月初めに発覚した2号機からの漏洩事故と、5/11の3号機の漏洩事故です。これに関しては大体の量はわかります。
(3)それから、現段階では可能性ということで挙げておきますが、地下水への流出です。
以上をまとめたのが下の図になります。だいたい5月くらいまではこの出入りで説明できるはずです。

6月末に放射能汚染水循環処理システムが導入されてからは、少し状況が変わってきています。下の図のように循環システムが導入され、その設置場所として集中放射能廃棄物処理施設(集中RW/B)と呼ばれる施設が利用されています。2号機、3号機のタービン建屋あるいはトレンチからの高濃度汚染水は集中RW/Bに移送され、そこで汚染水循環処理装置で処理されていきました。
この循環処理システムの稼働によって、放射能(といっても現状では主にセシウムですが)を除去した水を炉心冷却水として再循環させることができるようになり、新たにこの循環システムの系外から注入用の水を追加する必要は現在ではなくなっています。

そうすると、本来ならばいずれ処理した水が減っていく予定だったのですが、そうはなりませんでした。一番の誤算は地下水の大量の流入です。当初の予想以上に地下水が建屋地下に流入して、この循環処理システムで用いている水は6月末に12万トンだったのに、今年の4月にはなんと23万トン(この計算にはSrを大量に含んでいる濃縮塩水を含んでいます)にも達しています。平均して一月に1万トンも増加している計算になります。
2番目の理由は、東京電力がいつ頃から状況を把握していたのかわからないのですが、実は現在のシステムではγ核種(主にCs)は効率的に除去できるのですが、β核種(Srなど)はほとんど除去できないのです。そのため、セシウムを除去した汚染水も、高濃度のSrを含んだ状態であり、このままでは廃棄することができず、タンクに貯めていくしかない状態です。昨年12月以降に何回か起こった循環処理システムからの海洋漏洩事故では、Csはほとんど除去された水でしたが、Srは大量に(1×10^5Bq/cm3のオーダーで)含まれていました。
この状態を解決するため、東京電力は現在多核種処理システムの導入を検討しています。これについてはいずれどこかで紹介する予定です。
ここまでが放射能汚染水の出入りという視点からみたまとめになります。
2.昨年3/27の状態を再構成します
それでは、昨年3月末の放射能汚染水の量がいったいどれだけだったのか、データを元に確認してみたいと思います。本当はシミュレーションで出てきた3/26のデータが欲しかったのですが、その日の情報はありませんので、昨年3/27の時点の情報を計算してみます。特に、2号機に関する情報が欲しいので、1、2号機のデータを中心に集めました。
計算するために、これまで東京電力が発表してきた各種水位のデータを集められた範囲で全部集めて表にしました。しかし、昨年3月下旬というと、実はまだ体系だったデータの発表というのはほとんどありません。従って、頼りになるのは毎日行われていた記者会見での情報です。
記者会見配付資料も、昨年の4月25日以降はHPに公表されるようになりましたが、それまでの資料は公表されていないものもいくつもあります。また、口頭で読み上げられただけの数値もあります。これらをtogetterのまとめを検索しては必要に応じてニコニコ動画で実際の会見映像を確認するという作業を行っていきました。
そうして集めたデータが、ここに載せたExcelです。従って、ここには各種の情報源からの情報が混在しています。ほとんどのデータには情報源をセルのコメントとしてつけたつもりですが、つけ忘れのものもかなりあると思います。不明な点があれば遠慮なくお問い合わせいただければと思います。
suii_data1.xlsx
ここに記載されているデータ:
「建屋水位」シート:原子炉建屋、タービン建屋、トレンチ立て坑、サブドレンの水位(O.P.表記)
「トレンチ0328」シート:昨年3/28に発表された、トレンチ立て坑に関する情報
「注水量」シート:原子炉及び使用済み燃料プールへの注水量一覧
「水位と液量_0531まで」:昨年5/31時点のデータとして東京電力が6/3の報告書で発表したもの
「水位と液量_シミュレーション」:2号機の建屋の水位から溜まり水の量をシミュレーションするためのシート
「水位と液量_シミュレーション」シートの概略です。これは、東京電力が昨年6/3に発表した「6/3 福島第一原子力発電所における高濃度の放射性物質を含む水の保管・処理に関する計画について(PDF 303KB)」という報告書に各建屋の面積や昨年5/31現在の汚染水の体積が記載してあります。この情報をもとに再構成して、どの建屋には何cmたまっていたら何m3の水があるかを計算することができるようにしたものです。5/31のデータで東京電力の発表データを合うかどうかは確認済です。
これらのシートの情報を用いて、昨年3/27の1、2号機の状態を再構成していきます。ここからはかなり細かいデータになるので、面倒な方は読み飛ばしていただいてかまいません。
まず、わかっている情報です。「トレンチ0328」シートに表の下のコメント書いてあるように、1号機のタービン建屋はO.P.3900です。2号機のタービン建屋はO.P.3000です。特に2号機のO.P.3000という水位は、その後の水位と合わせても矛盾ありませんのでこの数字で問題ないはずです。
すると、これまでの情報から、2号機タービン建屋=2号機廃棄物処理建屋=2号機原子炉建屋=1号機廃棄物処理建屋と考えていいので、これらの水位はO.P.3000とします。1号機原子炉建屋はこれらの水位よりも高めなので、明確な根拠はありませんが、+800mmとしてO.P.3800としました。
すると、水位シミュレーションシートにこの数値を代入すると、1、2号機合計で19939トンという数値が得られました。1号機のタービン建屋は独立した動きをしていると思われるのでここでは無視します。また、1号機のトレンチも他とつながっていないので除外します。これに2号機のトレンチの水量として昨年3/28に発表された6000トンを加えると約25900トンという数値が得られました。もちろん、あくまで概算です。では、これまでわかっている情報で25900トンという量が可能なのか、次に確認してみたいと思います。

3.11以前から原子炉の中にあった水として、1、2号機を合わせると、圧力容器の中にある水としておよそ3200トン(これは圧力容器の体積をそのまま概算したものなので実際はこれより少ないはずです)、圧力抑制室(S/C)で約4700トンあったと予想されます(政府事故調の報告書第2章資料によると1号機1750トン、2号機2980トンのようです)。合計で約8000トンです。その他、1号機ICなどの水は今回省略しました。もし大量の水を計算し忘れているということにお気づきの方がいたら教えてください。概算なのでそれほど問題ないと思っています。
次に注水量です。前日の3/26までの注水量は、注水量シートから11068トンと計算されました。この時に注意が必要なのは、単純注水量の合計を使うのか、1号機で崩壊熱によって水蒸気として蒸発した分をどれだけ差し引くのか、という問題です。ここでは、昨年の「4/19 福島原発で注ぎ込まれた冷却水はどこへ行ったのか?その2」に記載してあった、注水量の約半分が崩壊熱で使われるという原子力学会の現状推定による計算を用いました。なお、2号機については、建屋が残っているため、蒸発した水が再凝縮して結果的に汚染水になると考えました。従って、1号機の注水量のうち半分が炉心に注水されてそれが汚染水になり、2号機の注水量は全量が汚染水になったという仮定です。この合計を以下では「有効注水量」として計算しています。この有効注水量をどれくらいと見積もるか、つまり蒸発した量をどれくらいに見積もるかによって、このあとの計算にも影響が出ますので、ここは注意が必要です。
なお、この時点では1、2号機への使用済み燃料プールの放水はほとんど無視できる量でした。

すると、26000トンの内訳は、約8000トンがもともとあった水、11000トンが注水による水で、残りは7000トンです。これを、津波の水と地下水とで補わないといけないことになります。
3.11の地震によってタービン建屋などにひび割れができて、そこに地下水が流入しているのですから、おそらく当時も地下水の流入が相当量あったと思います。現状でも1日200トンから500トンと言われていて、タービン建屋内の汚染水の水位が低かった昨年3月当時は、水位差がかなりあり、大量に地下水が入ってきた可能性はあります。特に昨年3/11には、津波によって大量の雨が降ったのと同じ状況になっていましたから、地下水の水位も高くなっていたので水位差が高く、地下水が流入しやすかったことが予想できます。
そうすると、地下水が3000-4000トン、津波の水が3000-4000トンという大ざっぱな割り振りができます。1日200トンの地下水が入ってきたとしても、2号機タービン建屋の面積は約5000m2ですから、1日200トンで単純に計算して4cmの水位上昇です。すでに津波で水が入っていたら、その水がすこしずつ増えていても気がつかなかった可能性が高いと思います。
また、津波の水についても、1号機のタービン建屋地下にあったD/G(ディーゼル発電機)は1Aが1m水没、1Bが1.5m水没、2号機の2Aのあった地下は1.3m水没といった情報が政府事故調の報告書第2章29ページに記載してあります。従って、2号機タービン建屋5000m2に約1mの深さまで浸水したとすれば5000トンにもなります。実際は全て水浸しになったわけではないでしょうから半分としても3000-4000トンというのは充分にあり得る話です。しかし、その水がずっと残っていたのか、いったんは津波の引き波で引いていった後に地下水が入ったのか、そのあたりについては想像の域を出ません。
ここでは、全部で約26000トンという数字が明らかにおかしな数字ではなく、充分にあり得るということを確認できれば詳細はわからなくてもいいと思います。

ここまで、昨年3/27の状況を再構成するべく、データに矛盾がないかどうか確認してきました。地下水や津波の量に不明な部分もありますが、昨年3/27の水位からすると2号機トレンチまで含めて約26000トンがあったという計算になります。ただしこの計算には、1号機のトレンチと1号機のタービン建屋の水は入っていません。1号機のトレンチはおそらく津波の水なので無視してかまわないのですが、1号機のタービン建屋は本当に独立しているのか、疑問点もあります。しかし、データがないので、ここでは東京電力が報告しているように独立していて他の建屋と連動していないとしておきます。
3.昨年3/27~4月中旬の状態を再現!
それでは、2号機のトレンチ立て坑の水位データ、および注水量を見ながらどんなことがわかるのかを見ていきましょう。
「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(2)細かく検証してみましょう」に詳細は書きましたが、昨年の4/6に水ガラスの注入をしてスクリーン海水からの漏れを止めることができました。止める前の予想として東京電力は記者会見において、止水後の水位の動きには二つの可能性があると述べていました。一つは、水の出口を止めることによってトレンチやタービン建屋の水位が上がる可能性、もう一つは水ガラス処理をした砕石層以外の別の場所にしみ出していく可能性です。
4/6にとまった後にどうなったのかというと、どうも前者のトレンチの水位が上がるという方向に行ったようです。下のグラフをご覧下さい。

4/7以降は水位がどんどん上がっているのが一目瞭然です。棒グラフでその日の有効注水量(1号機の注水量の半分+2号機注水量)を記載しているように、1、2号機の有効注水量=汚染水増加につながる量は4月になってからはほぼ240トン程度で安定しています。従って、一定のペースで増加していくのが当然と思われます。4/6~4/11の水位の増加量を見ると5日間でO.P.2960mmからO.P.3090mmと13cmの上昇をしています。一日平均2.6cm。1、2号機の建屋の面積合計は約8000トンですので、8000×0.026=204トンと、有効注水量の平均約240トンにほぼ近い数値となります。ですから、私の仮定もそんなに外れていないということだと思います。
4/12 19:35から4/13 11:00までと4/13の15:02~17:04まで、2号機のトレンチ立て坑から2号機復水器に汚染水を約660トン移送しました(東京電力発表データ)。
その結果、水位は8cm低下しました。グラフには毎朝のデータしか記載していないので4cmほどの低下にしか見えませんが、4/13の午後7時の記者会見では、はっきりと8cmの低下があったと言っています(この水位の説明は4/16 12:17のasahi.comにもあります)。
これは「サイフォンの原理を理解すれば放射能汚染水の管理は理解できる!」でも紹介した話なのですが、660トンで8cmの低下というのは、1、2号機の床面積合計が約8000トンということとほぼぴったり合う数値です。
しかし、その後復水器への移送を止めたため、再び水位は上昇します。4/14~4/19の5日間でO.P.3065mmからO.P.3200mmと135mmの上昇です。5日間で135mmですから1日で2.7cm。4/6~4/11とほぼ同じです。この時の注水量もほとんど変化していませんので、4/7以降の水位の動きは注水量ですべて説明できることになります。1日30トン前後の微妙なズレは、有効注水量の算出時の誤差の可能性がありますので、ここでは気にしないことにします。
4/20に水位がさがっているのは、4/19から2号機トレンチの水を集中RW/B(主プロセス建屋)に移送を始めたからです。この日以降は集中RW/Bへの移送が始まったため、2号機で有効注水量とトレンチ水位の関係を明確に見ることができるのは4/19までなのです。ですから、このグラフは非常に貴重なものです。
さて、ここからが重要です。上のグラフにおいて、4/7以降の水位の動きは全て注水量で説明できることを確認しました。であれば、3/27~4/7も同じ事が言えるはずです。この期間に水位の変化がない(上がっていない)ということは、注水された水は原子炉建屋、タービン建屋、2号機のトレンチ以外のどこかに漏れだしていたということをデータが証明しているのです。当然のことながら、この期間は別の場所への移送についてはないことを確認しています。
なお、3/27の水位がO.P.3000で、3/29以降の水位がO.P.2960となっていますが、おそらく3/27の測定は初めての測定であったため、5cm(ひょっとしたら10cm)刻みで測定したものと思われます。1号機(上から10cm)、3号機(上から1.5m)という測定結果ですから、3/29以降のように1cm単位での測定ではないと思います。従って、3/27から3/29にかけて水位が4cmさがったというよりも、ここは水位が変わらなかったという理解をするべきと思います。
では、もう少し詳しく見ていきましょう。
4/1~4/6に関しては、東京電力が海に漏れた量を発表していますので、まずその期間について考えます。4/1~4/5の5日間の有効注水量が1397トン。実際に海に漏れた量は東京電力の計算では520トン。注水量の4割近くがトレンチを通ってスクリーン近くのピットにまで達していました。
3/27~4/1までの注水量を計算すると、1586トンです。同じ比率とすると634トンになります。少なくともこれだけの汚染水が3/27以降はスクリーン近くのピット付近にまで来て、あふれ出てきたということをデータは強く示唆しています。1,800,000Bq/cm3の汚染水ですので、634トンとして計算すると約1.14PBq。東京電力が発表した4/1~4/6までの0.94PBqと合わせると約2.1PBqということになります。
この数値は、実は「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(1)シミュレーションからの推定」でご紹介した3/26~4/6までで2.6PBqという数字とあまり変わらない数字なのです。全く別の視点から検証しても、3月下旬から最低でも2.1PBqは漏れていたはずだ、というデータが出てきたことは、このシミュレーション結果により説得力を与えるものと私は考えています。
具体的にどうやって海に漏れたのか?これについては推測でしかありません。しかし、「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(2)細かく検証してみましょう Aバージョン」に詳細に記載したように、おそらくは3.11の地震によって、下の図のように電源ケーブルトレンチの途中でひび割れ(あるいは接合部のズレ)で穴が開いていました。これは東京電力が発表している事です。
※この図が本当に正しいかどうかについては疑問があることを「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(2)細かく検証してみましょう Bバージョン」で示しましたが、真実はわかりませんので、ここでは東京電力の発表通りと考えておきます。

それにより、原子炉建屋→タービン建屋→海水配管トレンチ(緑色)と伝わってきた高濃度汚染水は、さらに黄色の電源ケーブルトレンチを通り、そこにできた穴から下にある砕石層を通じて流出します。そして電源ケーブルピットの先端付近(ピットA)のコンクリートにできたひび割れ、もしくは最初から開いていた穴を通じてスクリーンに流れ出していったと予想されます。前回も示したように、このピット付近には南北に大きな亀裂ができているのが地上の写真(下の図)からも明らかですから、かなり大きな力がかかっていた事は間違いありません。

あとは亀裂がスクリーン側に貫通した位置が、高いか低いかだけの問題だと思います。東京電力の説明図や政府事故調の中間報告書によれば、4/2に発見された亀裂の位置はだいたいO.P.1700前後。そして報告書によれば高さは75cmということなので水面は約O.P.950前後という計算です。実は福島原発付近の海面はO.P.±0ではなく、O.P.+800前後だという事がWikipediaにありますから、海面はO.P.950でもおかしくありません。
もしスクリーン側に貫通した亀裂が、この水面よりも下にあったとすれば、当初はそちらから少しずつ海に漏れ出していった。そしてだんだんと水量が増えていった。ただし、これはあくまで単なる推測です。ただ、電源ケーブルトレンチにできたひび割れ(もしくは接合部のズレ)の水位が4/2のO.P.2960以下であることは確認できていますので、3/27以降であればトレンチの水位はO.P.2960に達しています。ということは3/27以降はいつでもこの通路を通って水が海に流出していても全く問題はないことは確かです。
ついでにシミュレーションで出てきた3/26は?という疑問にも答えておきましょう。上のグラフを再度見て欲しいのですが、実は3/25~3/27というのはそれ以降よりも有効注水量が2倍近く多いのです。2号機については3/26に海水から淡水へ注水を切り替えているので、その関係があるのかもしれません。25日と26日の有効注水量は合計で1100トン。4/7以降のペースで計算すると、2日間で10.2cmの水位上昇があってもおかしくないのです。ですから、この急激に水位が上昇した25日~27日のどこかであふれ出した可能性は充分にあると私は思います。
また、3/27の水位O.P.3000を私は目盛りの刻み方が大きかったからだと書きましたが、これがもし1cm刻みで計測していたとしたら別の解釈も成り立ちます。3/27まで水位が上昇し、そこであふれ出した。そのために3/29以降は水位がさがってO.P.2960になったという考え方です。
4.まとめ 残りの水はどこへ行った?
本日のはじめに、以下の二つを検証すると書きました。
(1)2号機のトレンチあるいはタービン建屋の昨年3/26頃からの水位はどうなっていたのか?O.P.(2.5m~)3mに達して、ピットA付近まで汚染水が達することが可能になったのはいつ頃なのか?
(2)昨年3月下旬の原子炉反応容器への注水量から考えて、タービン建屋やトレンチの水位は妥当なのか?どこかへ消えてしまった計算になる水は存在しないのか?
これまでの検証結果から、(1)については、注水量と水位のグラフから少なくとも3/27にはタービン建屋やトレンチなどの閉鎖空間から外に汚染水が漏れ出していたということを明確に示すことができました。その時期が3/26(あるいは3/25)からかどうかはわかりませんが、3/25から3/27には注水量が非常に多く、水位の上昇も大きかったために、このあたりで限界の水位に達して、漏れ出した可能性は高いと思います。
それがすぐに海に流出したかどうかについては確証は持てませんが、あの海に近い場所で漏れだしたということは、遅かれ早かれ海へ漏れ出した事はまず間違いないと個人的には思っています。昨年4/6に流出を止めた結果、トレンチの水位が上がっていったということは、あの付近には他の流出経路はなかったことを示しています。他にも経路ができていれば、止水後はその経路を伝わって水が流れたいったはずだからです。
(2)については、先ほどはさらりと有効注水量の約4割がトレンチに行ったと書きました。では残りの6割はどうしたのでしょうか?一つの可能性が地下水に流出した可能性です。海洋への漏洩が明らかになっている4/1から4/6について、イメージを書いてみました。

実はここについてはまだ解明できていない点なのです。これについては地下水に関する情報が必要ですが、情報が少なく、わからない点が多いのです。
また、地下水に関してはこれまで説明してきませんでしたので、次回以降に地下水の水位の話をしたいと思います。ただ、不明な6割の話は除いても、4割だけで考えても間違いなく3/27以降は汚染水が系の外に漏れ出しており、最終的には海に流出した可能性が高いと思います。
今回はここまでにします。ご意見などあれば、是非ともコメント欄や、Togetterのまとめhttp://togetter.com/li/302436にお願いします。
続く 目次へ
今回は、放射能汚染水の量、特に昨年の3月~4月にかけての量がどれくらいだったのか、考えてみたいと思います。いろいろと細かい数字の計算もありますので、面倒な部分は読み飛ばしていただいてかまいません。
まずはおさらいです。昨年の3/11の時点で、福島第一原発の1号機から3号機の原子炉の中にあった放射性物質の量は、下の図にあるように、I-131で6300PBq、Cs-134で680PBq、Cs-137で700PBqでした(Pはペタで1000兆だとこのシリーズ初回の「福島第一原発事故で海洋に流出した放射性セシウム量は全体のわずか2%?」で説明しましたよね)。以下では、その中でも放射性セシウム(Cs-134とCs-137)について考えていきます。

それが、東日本大震災によって、電源喪失が起こり、原子炉を冷却することができなくなりました。そのために1号機、3号機などの水素爆発による大気への放射性物質の放出、そして2号機、3号機からの海洋への直接漏洩事故が起こりました。大気へ放出された放射性物質も、その後陸地に沈着したものと、海洋に沈着したものの2種類があります。
それ以外にも考えられることとしては、地下への漏出があります。これについてはほとんどわかっていませんが、今回、そして次回以降に、わかる範囲でこの可能性についても検証しようと思います。

ここまで、3/11後にどういう事があったかを放射性物質の出入りという視点で簡単にまとめました。このようなまとめは「福島第一原発事故で海洋に流出した放射性セシウム量は全体のわずか2%?」で詳細に行っています。
次に、福島第一原発にあった水、特に放射能汚染水の動きについてまとめてみたいと思います。
そもそも地震の前に原発にあった水は、圧力容器内にあった冷却水、それから格納容器の圧力抑制室(S/C)にあった水が主なものです。タービン建屋にあった復水器の水は、復水器が壊れていなければ(壊れていたという話は聞かないので)ここでは計算から除外します。(復水器の水は途中で移送していますが、4/2までは、1号機2号機については一切移動していないことも確認済です。)
それに追加するべき水及び出て行った水としてどんなものがありうるか、という視点で考えてみます。そうすると、加わった水は
(1)まず3/11の津波です。これは実際にはどれくらいの量が建屋の中に浸透したのかはわかりませんが、東京電力の主張ではそのためにディーゼル発電機が浸水して使えなくなったということですから、間違いなく全てのタービン建屋の地下に浸水したはずです。
(2)次に3/12以降懸命になって行った原子炉への注水及び使用済み燃料プールへの注水です。この注水量は公開されていますから計算できます。
(3)続いて雨水です。2号機を除いては水素爆発で原子炉建屋の屋根が吹っ飛んでしまいましたから、雨が降るとそれは全て原子炉建屋にたまってしまいます。
(4)最後に地下水の流入です。これについては現段階では可能性ということで挙げておきます。
一方、出ていった水は
(1)注水の中で、崩壊熱による蒸発分。これは、当初は燃料棒が非常に熱かったため、水を注水しても相当の量が蒸発してしまったと考えられます。原子炉建屋の屋根が残っている2号機以外では、水蒸気は建屋の外に出て行った可能性があります。
(2)5月までで大きな海洋漏洩事故が2回ありました。4月初めに発覚した2号機からの漏洩事故と、5/11の3号機の漏洩事故です。これに関しては大体の量はわかります。
(3)それから、現段階では可能性ということで挙げておきますが、地下水への流出です。
以上をまとめたのが下の図になります。だいたい5月くらいまではこの出入りで説明できるはずです。

6月末に放射能汚染水循環処理システムが導入されてからは、少し状況が変わってきています。下の図のように循環システムが導入され、その設置場所として集中放射能廃棄物処理施設(集中RW/B)と呼ばれる施設が利用されています。2号機、3号機のタービン建屋あるいはトレンチからの高濃度汚染水は集中RW/Bに移送され、そこで汚染水循環処理装置で処理されていきました。
この循環処理システムの稼働によって、放射能(といっても現状では主にセシウムですが)を除去した水を炉心冷却水として再循環させることができるようになり、新たにこの循環システムの系外から注入用の水を追加する必要は現在ではなくなっています。

そうすると、本来ならばいずれ処理した水が減っていく予定だったのですが、そうはなりませんでした。一番の誤算は地下水の大量の流入です。当初の予想以上に地下水が建屋地下に流入して、この循環処理システムで用いている水は6月末に12万トンだったのに、今年の4月にはなんと23万トン(この計算にはSrを大量に含んでいる濃縮塩水を含んでいます)にも達しています。平均して一月に1万トンも増加している計算になります。
2番目の理由は、東京電力がいつ頃から状況を把握していたのかわからないのですが、実は現在のシステムではγ核種(主にCs)は効率的に除去できるのですが、β核種(Srなど)はほとんど除去できないのです。そのため、セシウムを除去した汚染水も、高濃度のSrを含んだ状態であり、このままでは廃棄することができず、タンクに貯めていくしかない状態です。昨年12月以降に何回か起こった循環処理システムからの海洋漏洩事故では、Csはほとんど除去された水でしたが、Srは大量に(1×10^5Bq/cm3のオーダーで)含まれていました。
この状態を解決するため、東京電力は現在多核種処理システムの導入を検討しています。これについてはいずれどこかで紹介する予定です。
ここまでが放射能汚染水の出入りという視点からみたまとめになります。
2.昨年3/27の状態を再構成します
それでは、昨年3月末の放射能汚染水の量がいったいどれだけだったのか、データを元に確認してみたいと思います。本当はシミュレーションで出てきた3/26のデータが欲しかったのですが、その日の情報はありませんので、昨年3/27の時点の情報を計算してみます。特に、2号機に関する情報が欲しいので、1、2号機のデータを中心に集めました。
計算するために、これまで東京電力が発表してきた各種水位のデータを集められた範囲で全部集めて表にしました。しかし、昨年3月下旬というと、実はまだ体系だったデータの発表というのはほとんどありません。従って、頼りになるのは毎日行われていた記者会見での情報です。
記者会見配付資料も、昨年の4月25日以降はHPに公表されるようになりましたが、それまでの資料は公表されていないものもいくつもあります。また、口頭で読み上げられただけの数値もあります。これらをtogetterのまとめを検索しては必要に応じてニコニコ動画で実際の会見映像を確認するという作業を行っていきました。
そうして集めたデータが、ここに載せたExcelです。従って、ここには各種の情報源からの情報が混在しています。ほとんどのデータには情報源をセルのコメントとしてつけたつもりですが、つけ忘れのものもかなりあると思います。不明な点があれば遠慮なくお問い合わせいただければと思います。
suii_data1.xlsx
ここに記載されているデータ:
「建屋水位」シート:原子炉建屋、タービン建屋、トレンチ立て坑、サブドレンの水位(O.P.表記)
「トレンチ0328」シート:昨年3/28に発表された、トレンチ立て坑に関する情報
「注水量」シート:原子炉及び使用済み燃料プールへの注水量一覧
「水位と液量_0531まで」:昨年5/31時点のデータとして東京電力が6/3の報告書で発表したもの
「水位と液量_シミュレーション」:2号機の建屋の水位から溜まり水の量をシミュレーションするためのシート
「水位と液量_シミュレーション」シートの概略です。これは、東京電力が昨年6/3に発表した「6/3 福島第一原子力発電所における高濃度の放射性物質を含む水の保管・処理に関する計画について(PDF 303KB)」という報告書に各建屋の面積や昨年5/31現在の汚染水の体積が記載してあります。この情報をもとに再構成して、どの建屋には何cmたまっていたら何m3の水があるかを計算することができるようにしたものです。5/31のデータで東京電力の発表データを合うかどうかは確認済です。
これらのシートの情報を用いて、昨年3/27の1、2号機の状態を再構成していきます。ここからはかなり細かいデータになるので、面倒な方は読み飛ばしていただいてかまいません。
まず、わかっている情報です。「トレンチ0328」シートに表の下のコメント書いてあるように、1号機のタービン建屋はO.P.3900です。2号機のタービン建屋はO.P.3000です。特に2号機のO.P.3000という水位は、その後の水位と合わせても矛盾ありませんのでこの数字で問題ないはずです。
すると、これまでの情報から、2号機タービン建屋=2号機廃棄物処理建屋=2号機原子炉建屋=1号機廃棄物処理建屋と考えていいので、これらの水位はO.P.3000とします。1号機原子炉建屋はこれらの水位よりも高めなので、明確な根拠はありませんが、+800mmとしてO.P.3800としました。
すると、水位シミュレーションシートにこの数値を代入すると、1、2号機合計で19939トンという数値が得られました。1号機のタービン建屋は独立した動きをしていると思われるのでここでは無視します。また、1号機のトレンチも他とつながっていないので除外します。これに2号機のトレンチの水量として昨年3/28に発表された6000トンを加えると約25900トンという数値が得られました。もちろん、あくまで概算です。では、これまでわかっている情報で25900トンという量が可能なのか、次に確認してみたいと思います。

3.11以前から原子炉の中にあった水として、1、2号機を合わせると、圧力容器の中にある水としておよそ3200トン(これは圧力容器の体積をそのまま概算したものなので実際はこれより少ないはずです)、圧力抑制室(S/C)で約4700トンあったと予想されます(政府事故調の報告書第2章資料によると1号機1750トン、2号機2980トンのようです)。合計で約8000トンです。その他、1号機ICなどの水は今回省略しました。もし大量の水を計算し忘れているということにお気づきの方がいたら教えてください。概算なのでそれほど問題ないと思っています。
次に注水量です。前日の3/26までの注水量は、注水量シートから11068トンと計算されました。この時に注意が必要なのは、単純注水量の合計を使うのか、1号機で崩壊熱によって水蒸気として蒸発した分をどれだけ差し引くのか、という問題です。ここでは、昨年の「4/19 福島原発で注ぎ込まれた冷却水はどこへ行ったのか?その2」に記載してあった、注水量の約半分が崩壊熱で使われるという原子力学会の現状推定による計算を用いました。なお、2号機については、建屋が残っているため、蒸発した水が再凝縮して結果的に汚染水になると考えました。従って、1号機の注水量のうち半分が炉心に注水されてそれが汚染水になり、2号機の注水量は全量が汚染水になったという仮定です。この合計を以下では「有効注水量」として計算しています。この有効注水量をどれくらいと見積もるか、つまり蒸発した量をどれくらいに見積もるかによって、このあとの計算にも影響が出ますので、ここは注意が必要です。
なお、この時点では1、2号機への使用済み燃料プールの放水はほとんど無視できる量でした。

すると、26000トンの内訳は、約8000トンがもともとあった水、11000トンが注水による水で、残りは7000トンです。これを、津波の水と地下水とで補わないといけないことになります。
3.11の地震によってタービン建屋などにひび割れができて、そこに地下水が流入しているのですから、おそらく当時も地下水の流入が相当量あったと思います。現状でも1日200トンから500トンと言われていて、タービン建屋内の汚染水の水位が低かった昨年3月当時は、水位差がかなりあり、大量に地下水が入ってきた可能性はあります。特に昨年3/11には、津波によって大量の雨が降ったのと同じ状況になっていましたから、地下水の水位も高くなっていたので水位差が高く、地下水が流入しやすかったことが予想できます。
そうすると、地下水が3000-4000トン、津波の水が3000-4000トンという大ざっぱな割り振りができます。1日200トンの地下水が入ってきたとしても、2号機タービン建屋の面積は約5000m2ですから、1日200トンで単純に計算して4cmの水位上昇です。すでに津波で水が入っていたら、その水がすこしずつ増えていても気がつかなかった可能性が高いと思います。
また、津波の水についても、1号機のタービン建屋地下にあったD/G(ディーゼル発電機)は1Aが1m水没、1Bが1.5m水没、2号機の2Aのあった地下は1.3m水没といった情報が政府事故調の報告書第2章29ページに記載してあります。従って、2号機タービン建屋5000m2に約1mの深さまで浸水したとすれば5000トンにもなります。実際は全て水浸しになったわけではないでしょうから半分としても3000-4000トンというのは充分にあり得る話です。しかし、その水がずっと残っていたのか、いったんは津波の引き波で引いていった後に地下水が入ったのか、そのあたりについては想像の域を出ません。
ここでは、全部で約26000トンという数字が明らかにおかしな数字ではなく、充分にあり得るということを確認できれば詳細はわからなくてもいいと思います。

ここまで、昨年3/27の状況を再構成するべく、データに矛盾がないかどうか確認してきました。地下水や津波の量に不明な部分もありますが、昨年3/27の水位からすると2号機トレンチまで含めて約26000トンがあったという計算になります。ただしこの計算には、1号機のトレンチと1号機のタービン建屋の水は入っていません。1号機のトレンチはおそらく津波の水なので無視してかまわないのですが、1号機のタービン建屋は本当に独立しているのか、疑問点もあります。しかし、データがないので、ここでは東京電力が報告しているように独立していて他の建屋と連動していないとしておきます。
3.昨年3/27~4月中旬の状態を再現!
それでは、2号機のトレンチ立て坑の水位データ、および注水量を見ながらどんなことがわかるのかを見ていきましょう。
「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(2)細かく検証してみましょう」に詳細は書きましたが、昨年の4/6に水ガラスの注入をしてスクリーン海水からの漏れを止めることができました。止める前の予想として東京電力は記者会見において、止水後の水位の動きには二つの可能性があると述べていました。一つは、水の出口を止めることによってトレンチやタービン建屋の水位が上がる可能性、もう一つは水ガラス処理をした砕石層以外の別の場所にしみ出していく可能性です。
4/6にとまった後にどうなったのかというと、どうも前者のトレンチの水位が上がるという方向に行ったようです。下のグラフをご覧下さい。

4/7以降は水位がどんどん上がっているのが一目瞭然です。棒グラフでその日の有効注水量(1号機の注水量の半分+2号機注水量)を記載しているように、1、2号機の有効注水量=汚染水増加につながる量は4月になってからはほぼ240トン程度で安定しています。従って、一定のペースで増加していくのが当然と思われます。4/6~4/11の水位の増加量を見ると5日間でO.P.2960mmからO.P.3090mmと13cmの上昇をしています。一日平均2.6cm。1、2号機の建屋の面積合計は約8000トンですので、8000×0.026=204トンと、有効注水量の平均約240トンにほぼ近い数値となります。ですから、私の仮定もそんなに外れていないということだと思います。
4/12 19:35から4/13 11:00までと4/13の15:02~17:04まで、2号機のトレンチ立て坑から2号機復水器に汚染水を約660トン移送しました(東京電力発表データ)。
その結果、水位は8cm低下しました。グラフには毎朝のデータしか記載していないので4cmほどの低下にしか見えませんが、4/13の午後7時の記者会見では、はっきりと8cmの低下があったと言っています(この水位の説明は4/16 12:17のasahi.comにもあります)。
これは「サイフォンの原理を理解すれば放射能汚染水の管理は理解できる!」でも紹介した話なのですが、660トンで8cmの低下というのは、1、2号機の床面積合計が約8000トンということとほぼぴったり合う数値です。
しかし、その後復水器への移送を止めたため、再び水位は上昇します。4/14~4/19の5日間でO.P.3065mmからO.P.3200mmと135mmの上昇です。5日間で135mmですから1日で2.7cm。4/6~4/11とほぼ同じです。この時の注水量もほとんど変化していませんので、4/7以降の水位の動きは注水量ですべて説明できることになります。1日30トン前後の微妙なズレは、有効注水量の算出時の誤差の可能性がありますので、ここでは気にしないことにします。
4/20に水位がさがっているのは、4/19から2号機トレンチの水を集中RW/B(主プロセス建屋)に移送を始めたからです。この日以降は集中RW/Bへの移送が始まったため、2号機で有効注水量とトレンチ水位の関係を明確に見ることができるのは4/19までなのです。ですから、このグラフは非常に貴重なものです。
さて、ここからが重要です。上のグラフにおいて、4/7以降の水位の動きは全て注水量で説明できることを確認しました。であれば、3/27~4/7も同じ事が言えるはずです。この期間に水位の変化がない(上がっていない)ということは、注水された水は原子炉建屋、タービン建屋、2号機のトレンチ以外のどこかに漏れだしていたということをデータが証明しているのです。当然のことながら、この期間は別の場所への移送についてはないことを確認しています。
なお、3/27の水位がO.P.3000で、3/29以降の水位がO.P.2960となっていますが、おそらく3/27の測定は初めての測定であったため、5cm(ひょっとしたら10cm)刻みで測定したものと思われます。1号機(上から10cm)、3号機(上から1.5m)という測定結果ですから、3/29以降のように1cm単位での測定ではないと思います。従って、3/27から3/29にかけて水位が4cmさがったというよりも、ここは水位が変わらなかったという理解をするべきと思います。
では、もう少し詳しく見ていきましょう。
4/1~4/6に関しては、東京電力が海に漏れた量を発表していますので、まずその期間について考えます。4/1~4/5の5日間の有効注水量が1397トン。実際に海に漏れた量は東京電力の計算では520トン。注水量の4割近くがトレンチを通ってスクリーン近くのピットにまで達していました。
3/27~4/1までの注水量を計算すると、1586トンです。同じ比率とすると634トンになります。少なくともこれだけの汚染水が3/27以降はスクリーン近くのピット付近にまで来て、あふれ出てきたということをデータは強く示唆しています。1,800,000Bq/cm3の汚染水ですので、634トンとして計算すると約1.14PBq。東京電力が発表した4/1~4/6までの0.94PBqと合わせると約2.1PBqということになります。
この数値は、実は「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(1)シミュレーションからの推定」でご紹介した3/26~4/6までで2.6PBqという数字とあまり変わらない数字なのです。全く別の視点から検証しても、3月下旬から最低でも2.1PBqは漏れていたはずだ、というデータが出てきたことは、このシミュレーション結果により説得力を与えるものと私は考えています。
具体的にどうやって海に漏れたのか?これについては推測でしかありません。しかし、「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(2)細かく検証してみましょう Aバージョン」に詳細に記載したように、おそらくは3.11の地震によって、下の図のように電源ケーブルトレンチの途中でひび割れ(あるいは接合部のズレ)で穴が開いていました。これは東京電力が発表している事です。
※この図が本当に正しいかどうかについては疑問があることを「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(2)細かく検証してみましょう Bバージョン」で示しましたが、真実はわかりませんので、ここでは東京電力の発表通りと考えておきます。

それにより、原子炉建屋→タービン建屋→海水配管トレンチ(緑色)と伝わってきた高濃度汚染水は、さらに黄色の電源ケーブルトレンチを通り、そこにできた穴から下にある砕石層を通じて流出します。そして電源ケーブルピットの先端付近(ピットA)のコンクリートにできたひび割れ、もしくは最初から開いていた穴を通じてスクリーンに流れ出していったと予想されます。前回も示したように、このピット付近には南北に大きな亀裂ができているのが地上の写真(下の図)からも明らかですから、かなり大きな力がかかっていた事は間違いありません。

あとは亀裂がスクリーン側に貫通した位置が、高いか低いかだけの問題だと思います。東京電力の説明図や政府事故調の中間報告書によれば、4/2に発見された亀裂の位置はだいたいO.P.1700前後。そして報告書によれば高さは75cmということなので水面は約O.P.950前後という計算です。実は福島原発付近の海面はO.P.±0ではなく、O.P.+800前後だという事がWikipediaにありますから、海面はO.P.950でもおかしくありません。
もしスクリーン側に貫通した亀裂が、この水面よりも下にあったとすれば、当初はそちらから少しずつ海に漏れ出していった。そしてだんだんと水量が増えていった。ただし、これはあくまで単なる推測です。ただ、電源ケーブルトレンチにできたひび割れ(もしくは接合部のズレ)の水位が4/2のO.P.2960以下であることは確認できていますので、3/27以降であればトレンチの水位はO.P.2960に達しています。ということは3/27以降はいつでもこの通路を通って水が海に流出していても全く問題はないことは確かです。
ついでにシミュレーションで出てきた3/26は?という疑問にも答えておきましょう。上のグラフを再度見て欲しいのですが、実は3/25~3/27というのはそれ以降よりも有効注水量が2倍近く多いのです。2号機については3/26に海水から淡水へ注水を切り替えているので、その関係があるのかもしれません。25日と26日の有効注水量は合計で1100トン。4/7以降のペースで計算すると、2日間で10.2cmの水位上昇があってもおかしくないのです。ですから、この急激に水位が上昇した25日~27日のどこかであふれ出した可能性は充分にあると私は思います。
また、3/27の水位O.P.3000を私は目盛りの刻み方が大きかったからだと書きましたが、これがもし1cm刻みで計測していたとしたら別の解釈も成り立ちます。3/27まで水位が上昇し、そこであふれ出した。そのために3/29以降は水位がさがってO.P.2960になったという考え方です。
4.まとめ 残りの水はどこへ行った?
本日のはじめに、以下の二つを検証すると書きました。
(1)2号機のトレンチあるいはタービン建屋の昨年3/26頃からの水位はどうなっていたのか?O.P.(2.5m~)3mに達して、ピットA付近まで汚染水が達することが可能になったのはいつ頃なのか?
(2)昨年3月下旬の原子炉反応容器への注水量から考えて、タービン建屋やトレンチの水位は妥当なのか?どこかへ消えてしまった計算になる水は存在しないのか?
これまでの検証結果から、(1)については、注水量と水位のグラフから少なくとも3/27にはタービン建屋やトレンチなどの閉鎖空間から外に汚染水が漏れ出していたということを明確に示すことができました。その時期が3/26(あるいは3/25)からかどうかはわかりませんが、3/25から3/27には注水量が非常に多く、水位の上昇も大きかったために、このあたりで限界の水位に達して、漏れ出した可能性は高いと思います。
それがすぐに海に流出したかどうかについては確証は持てませんが、あの海に近い場所で漏れだしたということは、遅かれ早かれ海へ漏れ出した事はまず間違いないと個人的には思っています。昨年4/6に流出を止めた結果、トレンチの水位が上がっていったということは、あの付近には他の流出経路はなかったことを示しています。他にも経路ができていれば、止水後はその経路を伝わって水が流れたいったはずだからです。
(2)については、先ほどはさらりと有効注水量の約4割がトレンチに行ったと書きました。では残りの6割はどうしたのでしょうか?一つの可能性が地下水に流出した可能性です。海洋への漏洩が明らかになっている4/1から4/6について、イメージを書いてみました。

実はここについてはまだ解明できていない点なのです。これについては地下水に関する情報が必要ですが、情報が少なく、わからない点が多いのです。
また、地下水に関してはこれまで説明してきませんでしたので、次回以降に地下水の水位の話をしたいと思います。ただ、不明な6割の話は除いても、4割だけで考えても間違いなく3/27以降は汚染水が系の外に漏れ出しており、最終的には海に流出した可能性が高いと思います。
今回はここまでにします。ご意見などあれば、是非ともコメント欄や、Togetterのまとめhttp://togetter.com/li/302436にお願いします。
続く 目次へ
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