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福島第一原発近辺の海洋モニタリング体制はどう変わってきたか

 
前回までの第一部(第1章から第3章まで)は、福島第一原発で昨年の海洋汚染がどのように起こっていったのかを詳細に見てきました。今回からは第2部として、現在の汚染状況がどうなっているのかを見ていこうと思います。

参考:「福島第一原発2号機の謎に迫る(仮題) 目次

まず最初に今回は、海洋モニタリング体制の変遷についてです。この1年、モニタリング体制は目まぐるしく変化してきました。もうおそらく、どうしてこのように変わってきたのか、またその変遷の経緯や意味を説明できる人はほとんどいなくなっていると思います。ここでしっかりまとめておけば、数年後に誰かが興味を持って調べようと思った時でも対応できると思い、今回のまとめを作成しました。

今回はモニタリング体制がいつどのように変わったのかをまとめて、その結果は別にまとめることにします。ただし、ポイントになるデータへのリンクはつけています。

海洋モニタリング体制がどのように変わっていったのかはこれまでにも「文科省の発表している海洋モニタリング 2月までの結果のまとめ」や「「文科省の発表している海洋モニタリング 2月までの結果のまとめ」の補足1」などでまとめましたが、文科省などのモニタリング結果のURLが変わってしまったりしたためにデータへのリンク集は再度作り直します。ここでは、どうしてこういう観測をしていたの?という疑問にも答えられるような形にしたいと思います。

1.福島原発事故以前の海洋モニタリング体制

原子力発電所や核燃料サイクル施設を運用するにあたって、環境への影響を評価するために、これまで毎年原子力発電所周辺海域の放射能調査が行われていました。海生研のHPには、平成22年度の「海洋環境放射能総合評価事業 海洋放射能調査結果」という資料が載っています。これは海洋生物環境研究所(海生研)が文科省から調査を委託されて行ったものです。これは基本的に全ての原子力関係の施設に対して行っているものです。
6/15-モニタリング5

その中には当然福島第一原発と福島第二原発に対する海域も含まれています。この資料には、その観測地点の図(20ページ)が載っています。第1海域というのは福島第一原発のモニタリングのための海域という意味です。

6/15-モニタリング1

ちなみに、その時の海水のデータ(81ページ)は、Cs-137で約1.3mBq/L=0.0013Bq/L、Sr-90で約1.2mBq/L=0.0012Bq/Lでした。福島第一原発の海域4地点のデータを示します。福島第二原発の4地点もほぼ同じ値です(省略)。
6/15-モニタリング3

同じ資料の141ページには過去25年くらいの推移が示されています。単位がmBq/L=0.001Bq/Lであることに注意してください。昨年の測定では単位はBq/Lでしたから、非常に精密な測定を行っていたことがわかります。S61=1986年は、チェルノブイリ原発事故の影響でCs-137のみ高くなっていますが、翌年には前年並みに戻っています。
6/15-モニタリング4

この資料には、海底土や海洋生物のデータも記載されていますので、興味のある方はぜひじっくりとお読みください。

このように、1960年代から1970年代の核実験の影響で、半減期の長いCs-137とSr-90については原発事故前でも、精密な測定を行えば検出できる(1mBq/L)程度の放射性物質が海水中に含まれていました。多くの皆さんがご存じとは思いますが、決してゼロではなかったということは知っておく必要があります。

2.原発事故後の海洋モニタリングの始まり

福島第一原発事故後の海洋モニタリングは、昨年の3月下旬から始まりました。放射性物質が大気中に巻散らかされたことが確実になった昨年の3/20以降、海は汚染されていないのかチェックすべき、という声があがってきました。

それを受けて、東京電力は昨年3/21からモニタリングを開始しました。また、文科省も3/22に発表された海域モニタリング計画に基づき、モニタリングを3/23から開始しました。

この時(3/21~3/25)に観測された海水の汚染は、「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(1)シミュレーションからの推定」でも書いたように、大気中に放出された放射性物質が海洋に落ちて沈着したものだと考えられています。2号機からの海洋漏洩による汚染が始まったのは、昨年の3/26以降とされており、それはシミュレーション結果でも示されていますし、「昨年3/27のトレンチなどの水位検証により判明した衝撃の事実!」で示したようにトレンチ水位など各種データの詳細な検証によってもそれは確認されています。

この頃に行われていたモニタリングは下図のようなポイントで行われていました。東京電力は4ヶ所を毎日1回もしくは2回、文科省は8ヶ所を最初の3日間のみ毎日、それ以降は一日おきに奇数番号と偶数番号を交互に測定していました。

6/11-1

上の図は、文科省の資料に東京電力の測定地点(4ヶ所)を書き入れたものですが、この図をよく見ると測点1とか測点2という文字が入って○がいくつかあります。これは、上で紹介したこれまでの福島第一原発及び福島第二原発に対する観測地点(それぞれ4地点)の位置と今回文科省が決めたモニタリング地点がわかるように記載されているのです。

実際、昨年3/22の「海域モニタリング行動計画」でも測定場所について以下のような記載があります。

『 ○測定場所:従来、実施していた海洋環境放射能総合評価事業と同様の海域で海水を採取。沿岸約30kmの水域(空間線量率の測定を実施し、乗員の安全を確保できる距離とする。)。約10kmごとに海水の採取を8カ所で行い、過去の調査との比較を行う。』

つまり、文科省はこれまでも放射性物質の調査を行ってきてデータを取っている場所と比較をすることができるようにするためにこの場所を選択したということなのです。その意味では、上の図で文科省の2番と5番は過去の観測地点とほぼ同じなので、直接の比較がしやすい場所です。


昨年4月2日に2号スクリーン海水からの大量の汚染水漏れが発覚します。また、「低レベル」の汚染水を意図的に海に放出するということも東京電力は4/4~4/10に行いました。そのため、海洋に対する影響調査のため、沖合にモニタリングポイントを設置することを保安院から求められました。

そのため、4/6に沖合15kmに6ヶ所のモニタリングポイントが設置されたのです。これによって、東京電力の海洋モニタリングポイントは10ヶ所になりました。なお、この時に文科省が設置していたモニタリングポイントは沖合30kmとさらに沖合でした。おそらく、文科省が沖合30kmの調査をすでに行っているので、その中間地点ということで15kmという設定をしたものと考えられます。

6/11-2

文科省の方も、3/28のサンプリングから南側に2ヶ所増やして10ヶ所にしましたが、同時に測定頻度を1日おきにしてしまいました。4/5の「海域におけるモニタリングの強化について」において北側にも2ヶ所増やしました。この時の目的の一つは、

『 沿岸流の影響が大きい地点の情報を入手するため、サンプリング・ポイントを2点追加する。(別紙の点Aと点B)』

ということで、これまで北側の影響をチェックする地点がなかったのを新たに設定したことがポイントです。おそらく3/29に南側の地点を増やしたのも同じ理由だと思います。

一方で、この時の発表では測定頻度を落とすことが明確にされました。

『4月は、奇数日にサンプリングを行い、偶数日にサンプルの分析とデータの公表を行う。
サンプリングは、次の2系統を交互に実施する。

1)測点A→海域1測点1→同測点3→海域2測点1→同測点3→同測点5
2)測点B→海域1測点2→同測点4→海域2測点2→同測点4→同測点6』
ということで、一つの地点のデータはなんと4日に一度しか出ないという事になったのです。

また、同じ地点の表層(海面下1~2メートル程度)と下層(海底上約10メートル)の2ヶ所を測定するということは行うようになりました。しかし、この頃の検出限界値は約10Bq/Lでしたから、4月下旬にはほとんどの地点で検出限界値未満(ND)のオンパレードになってしまっています。

6/11-3

再び東京電力ですが、4/15に保安院から厳重注意の指示文書を受け、これまでの10ヶ所にさらに6ヶ所を追加した16ヶ所で4/17からサンプリングを行うようになりました。

この時のモニタリングポイントの全体像を示したものが文科省のHP(昨年4/22)にありますのでそれを掲載します。赤い線上にある点が文科省の測定地点、その内側の黒丸やピンクの丸が東京電力の測定地点です。

6/11-4

この時は全部で28ヶ所でした。東京電力の測定は基本的に毎日行われましたが、文科省のポイントでは4日に一度しか測定されませんでした。私は、これらのデータの発表を見て汚染がどちらに広がっているのかを毎日チェックしていましたから、「どうしてこの地点のデータが今回ないの?」と非常に残念な思いをしたことが何度もあったことははっきりと記憶しています。

せっかくこれだけの観測地点を設定したのに、文科省の調査が4日に一度しか観測されない非常に粗い網であったことは、(予算や人員の問題もあったのかもしれませんが)汚染がどうやって広がっていったかを正確に把握するためことの妨げになったと思います。これらの地点で毎日測定が行われていれば、各種のシミュレーションの結果ももっと精度が上がったと思います。実際、昨年4月から5月にかけて、汚染された海水が南から広がっていったとするシミュレーションや北側に広がっていったとするシミュレーションが混在しており、これら12地点で4月初めから毎日測定が行われていればその答えもはっきり出せたはずと私は思います。


昨年4/25、「「環境モニタリング強化計画」を受けた海域モニタリングの強化について」が発表されました。これは、昨年4/22に決まった「環境モニタリング強化計画」を受けてのものですが、後でも述べるように暫定的なものでした。

この発表により、福島県沿岸は文科省の追加分4地点と、東京電力の追加分2地点で合計6地点増えて34地点になりました。なお、東京電力はこの2地点追加で4/26から全部で18ヶ所、4/30からさらに3ヶ所追加して21ヶ所でサンプリングを行っています。

6/11-5

さらに不思議なことに、茨城県の沖合のモニタリングが発表されました。これについてはわずか2回(4/255/5)測定が行われただけで、連休明けに発表された次の「海域モニタリングの広域化」によって消えゆく運命でした。

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しかし、この発表には実は政治的な意味がありました。昨年5/1に「5/1 海洋放射能汚染で魚を食べても大丈夫か?その38」で書いた事なのですが、グリーンピースが海洋調査を日本政府に申請したのです。その時の調査計画が下の図です。これを見て、グリーンピースに調査をさせたくなかった日本政府としては、すでに同様な調査を日本政府も行っているとしてアリバイ作りをするために急遽発表した茨城県沖の調査なのです。

6/11-7

ですから、グリーンピースに調査をさせないというその目的が達せられた時にはこのモニタリング地点は不要になったのです。連休明けに新たな体制を発表することは決まっていましたが、それまでに緊急に対応する必要があって連休前に慌てて発表したものと思われます。そうでないと、いくら「環境モニタリング強化計画」を受けてといっても、4/25に発表した体制から僅か11日後(連休を入れればもっと少ない)の5/6に新しい体制を発表するという理由がわかりませんから。おそらく今となっては、こんな事はその当時からチェックしていた人にしかわからないトリビアでしょうね。

6/18追記:海洋モニタリング関係者から下記のコメントをいただいています。

『海域モニタリングの関係者です。永久に勘違いが残るのもどうかと思うのでコメントします。茨城県沖合が、二回しかなかったのは、海保が二回は協力してくれましが、被災地のほうの業務が忙しくてそれ以上は無理だったからです。グリーンピースはまったく関係ありません。このブログを見て、初めてグリーンピースがそういう計画だったのを知りました。』

ということなので、グリーンピースは関係ないということらしいです。訂正します。

ただ、広報の仕方として問題があると思うのは、2回だけで終わってしまったものは非常に不自然なので、「以後は○○のために中止」とHPに書いておくべきだと思いました。上記の事情ならば仕方がないと誰もが認識してくれるでしょうから、事情を知らない人のために書いておくべきだと思います。


3.海域モニタリングの広域化

こうして、東京電力と文科省は、ある程度棲み分けをしながら測定を続けていきました。しかしながら、私はその当時からさんざんこのブログで主張していたのですが、当時の検出限界値はCs-137で9~10Bq/Lと高く、4月末にはすでにほとんどの沖合の地点で検出限界値未満になってしまっていました。

一方で、4月末には福島県だけでなく北茨城市沖でもコウナゴから1374Bq/kgの放射性セシウムが検出されるなど、魚介類への汚染も実際のものとなってきていました。海水から魚介類への濃縮係数を考えると、もっと感度を高くして検出限界値を下げる必要がありました。しかしながら、測定時間の手間の問題からか、文科省の腰は非常に重く、検出限界値を下げて測定を開始したのは昨年10月に「今後の海域モニタリングの進め方」が出てからでした。はっきり言って遅すぎました。検出限界値を下げていれば確実に測定できていた貴重な5月、6月頃のデータが、NDの山を築いてしまってムダに終わるというリソースの無駄遣いを行ってしまいました。

とはいえ、5/6に発表された「海域モニタリングの広域化について」では、水産庁も含めて分担を決め、沿岸だけでなく沖合のサンプリングも行い、その後の10月の「今後の海域モニタリングの進め方」につながる基礎的なデータを取ったとも言えるかもしれません。

どんなことが行われたのか、その当時に書いた「5/7 海洋汚染に対するモニタリング強化!その1」から一部改変して記載します。

期間:2011年5月中旬~7月
海水の調査範囲:宮城県沖~茨城県沖
海水の採取:48ポイント→105ポイントへ
海底土の採取も15ヶ所程度で行いました。
魚介類のサンプリングも水産庁が基本方針を定め、関係都県に指示しています。

具体的には、それぞれが役割と目的を分けて、下記の5つの調査を行いました。

1.文部科学省「海洋環境放射能総合評価事業」海生研調査(5月中旬~7月)
2.独立行政法人海洋研究開発機構による海域モニタリング(5月中旬~7月)
3.水産庁の協力による調査((1)5月中・下旬/(2)5月下旬~6月下旬)
4.水産庁による水産物モニタリングの拡大(5 月~)
5.東京電力(株)による海域モニタリング(5月中旬~7月)

調査の全体像としては、このようになります。海水で105ポイントですから、かなり多いですよね。
6/11-8

5.東京電力(株)による海域モニタリング(5月中旬~7月)

まず、東京電力のサンプリングがどうなったかを見てみます。
東京電力が行ったことは、その当時の採水ポイント21ヶ所と2回だけ結果が発表された茨城県沿岸の5ヶ所、さらにこれまで文科省が発表していた沖合30kmの一部について、1.の海生研のポイントとダブらない程度に行うことになりました。何ヶ所かについては、海底土の採取も行いました。

東京電力のHPに昨年5/27に発表された資料を見ると、沖合は25ヶ所、沿岸4ヶ所で合計29ヶ所になりました。実際には昨年6/3の発表から29ヶ所の場所が示されています

6/11-12

この東京電力の29地点体制は昨年7/11にまとめがありますのでこれを見るとよくわかると思います。赤字でM10などと書いてあるのは、文科省が4月まで行っていた観測地点を引き継いだものです。
6/11-13

なお、上の方で昨年4/22の文科省HPに出てきたまとめの図と比較してもらえばわかるのですが、この東京電力のモニタリング地点の番号の振り方と、文科省の番号の振り方はマッチしていません。
9/17 東京電力が対象地点を増やした9月の海底土測定結果まとめ」で対照表を作成しているように、微妙にずれています。

また、9/1には29ヶ所のうち、4ヶ所の海水のモニタリングを中止すると発表しています。これは、文科省のモニタリング地点とダブるためだという説明でした。


1.文部科学省「海洋環境放射能総合評価事業」海生研調査

北は宮城県沖から南は銚子沖まで12の緯度において、東西に3-4ポイントについて採水、及び採土を行いました。採水は表層、中層、下層について行うので、かなりデータが得られそうでした。しかし、残念ながら、月に2回、全部で6回しかないのと、検出限界値の問題で、海水についてはあまり参考になるデータはありませんでした。

6/11-9

2.独立行政法人海洋研究開発機構による海域モニタリング
3.水産庁の協力による調査

これらは、1.の海生研の調査よりもさらに広域の海域で行いました。主な目的は文科省が発表した海洋汚染のシミュレーション結果が実際とどれだけ合っているかを調べることのようです。調査は2.が月に2回、3.が1回もしくは2回のみです。

独立行政法人海洋研究開発機構による海域モニタリング
6/11-10

水産庁の協力による調査

6/11-11

4.水産庁による水産物モニタリングの拡大

ここでは魚介類の調査については昨年5月の「5/7 海洋汚染に対するモニタリング強化!その2」に記載してあるため、ここでは省略します。


4.検出限界値を下げての観測が始まる!

10/20の「今後の海域モニタリングの進め方」は非常に意味のあるものでした。詳細は昨年10月に「10/21「今後の海域モニタリングの進め方」(魚も含む)が発表されました」に書きましたのでそちらをご覧下さい。

これまでCs-137で約9Bq/Lだった検出限界値を大幅に下げ、約1Bq/L程度(外洋では0.001Bq/L程度)の検出限界値で検出できるようになったのです。その結果、6月から9月頃は不検出(ND)とされていた海水のモニタリング結果が、検出限界値が下がったおかげで再び検出できるようになったのです。ただ、最初に書いたように、原発事故前には0.0011Bq/Lといった低い濃度のCs-137を検出できるほどの精密測定を行っていましたので、やっとそのレベルの測定に戻したということだと思います。

ここでは、その時に発表された全体像のみ示します。

6/15-モニタリング8

6/15-モニタリング9.


これらの観測結果については、「文科省の発表している海洋モニタリング 2月までの結果のまとめ」にまとめたのですが、今年の4月に文科省がデータを全部別のサーバーに移行させてその際にURLを変更してしまったので、多くはリンク切れになってしまいました。

そこで、それまでのデータと合わせて新しいデータへのリンクを「3.海水のデータ」に記載する予定です(現在はまだ完成していません)。


5.福島県(+環境省)の観測データ

福島県は、環境放射線モニタリングの一環として、港湾・海面漁場の調査を行ってきました。昨年6/3に第一回の結果(海水36ヶ所、海底土9ヶ所)を発表してから、月に1-2回のペースで結果を発表してきています。現在でも、「公共用水域、港湾・海面漁場モニタリング結果情報」というページに定期的に結果が発表されています。

対象としていたのは、南相馬市以北の港湾及びその付近の海域と、いわき市の港湾及びその付近の海域です。原発から半径30km以内の所は対象外となっていました。

6/15-モニタリング6
6/15-モニタリング7

こちらのモニタリングは、最初から検出感度が2Bq/L程度と低い検出限界値を達成しています。そのため、東京電力や文科省の海水のデータでNDが続いている6月頃でもしっかりと数字が出ていました。

ぜひあの頃から文科省や東京電力も1Bq/Lを測定できるような感度で測定して欲しかったと思います。


6.そして今年度の新しい体制へ

文科省のHPには3/30に「平成24 年度海域モニタリングの進め方」が発表されています。これについては、4/8に書いた「文科省が発表した本年度の海域モニタリングの考え方」に詳細はありますので、興味のある方はご覧下さい。

今回は主に海水のモニタリングについてのまとめですので、そこだけを抜き出して再度示します。

海水については、
『新たな発電所からの放射性物質の漏えい監視を目的とした頻度の高いモニタリングと、科学的に長期影響を見ることを目的とし、海域に応じた検出下限値を下げたモニタリングを実施する。前者は東京電力において規制当局と調整を行うこととし、後者については、河川を通じた海への流入、拡散シミュレーションの結果を踏まえ、また、逆にシミュレーションへの利用等も想定し採水時期・測点・採水深度、頻度等を決定する。』
として、シミュレーションに利用できるように採水場所や時期を考えるとしたところが新たに加わった変更点です。

具体的には、下記の5分類にわけてモニタリングをすることになっています。

(1)近傍海域:東電第一原子力発電所近傍で監視が必要な海域
(2)沿岸海域:青森県(一部)・岩手県から宮城県、福島県、茨城県の海岸線から概ね30km以内の海域(河口域を含む)
(3)沖合海域:海岸線から概ね30~90km の海域
(4)外洋海域:海岸線から概ね90~280km 及び280km 以遠の海域
(5)東京湾:河川からの放射性物質の流入・蓄積が特に懸念される閉鎖性海域である東京湾

東京湾を追加したことが大きな変更点です。

発表された図面をご紹介します。

まずは近傍海域、沿岸海域、沖合海域のモニタリングポイントです。近傍海域についてはこの次に詳細な拡大図があります。

6/15-モニタリング10

次に、主に東京電力が担当する近傍海域と、福島県、環境省が担当する福島県の沿岸海域のモニタリングポイントです。

6/15-モニタリング11

そして、新たに追加された東京湾のモニタリングポイントです。採水と、海底土のモニタリングを行います。こちらについてはまだ担当や場所を調整中のところがあるようです。すでに一度5月に結果が発表されています。

6/15-モニタリング12

最後に、外洋海域です。こちらは、気象庁や水産庁が担当です。

6/15-モニタリング13


7.まとめと現況

福島原発事故以前はどういう体制で、事故後にどうやってモニタリング体制が拡大したかということについて全体像がわかるようにまとめてきました。これ以外にも、自治体レベルで定期的に測定している所もありますが、それらについては割愛させていただきます。

現在、文科省のモニタリング結果は「放射線モニタリング情報」サイトの「海域モニタリング」ページにまとめられています。そこには、東京電力が毎日発表しているデータも一日から二日遅れで掲載されています。

今年の6月15日現在のデータで見ると、福島第一原発の港湾内、具体的にいうとスクリーン海水はまだ10~50Bq/L程度のCs-137が検出されていますが、昨年3月からの観測地点であるT-1地点(5-6号放水口北)やT-2地点(1-4号南放水口)では、今月に入って検出限界値(Cs-137で約1.6Bq/L)未満になりました。従って、これよりも遠い沖合の海水データでは、1Bq/Lの検出限界値ではNDになっています。実際、福島県が6/5に発表した(港湾・海面漁場)調査結果でも、初めて全ての観測地点でND(検出限界値:Cs-137で約1Bq/L)になりました。

沖合の海水データでは、検出限界値を原発事故以前に近いレベルまで下げたため、0.01Bq/L以下のCs-137でも検出されています。原発事故前の0.0011Bq/Lになるにはまだ何年も時間がかかると思いますが、海水中の放射性物質については実質的に汚染は収束に向かっていると言っていいと思います。

一方、海底土についてはまだ完全に収束したとは言えません。特にこれからは、陸に降り注いだ放射性セシウムが雨に流されて川から河口へと移動してきます。今年度に東京湾のモニタリングが追加されたのもそのためなのです。

今回は海洋モニタリング体制の変遷、特に海水のデータについて見てきました。次回は海底土に焦点を当ててまとめたいと思います。魚介類への影響についてはその後の第三部にまとめる予定です。


次の「海底土のモニタリング体制のまとめと海底土の汚染の現状」へ

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まとめtyaiました【福島第一原発近辺の海洋モニタリング体制はどう変わってきたか】

 前回までの第一部(第1章から第3章まで)は、福島第一原発で昨年の海洋汚染がどのように起こっていったのかを詳細に見てきました。今回からは第2部として、現在の汚染状

コメント

Re: 茨城県沖合

関係者さん

貴重なコメントありがとうございました。全く知りませんでした。私は昨年5月のグリーンピースの記者会見を生で見ていたのでその印象が強く植え込まれていたようです。訂正しますね。

でも、なぜ2回で終わったのか?その理由はHPに記載して記録に残しておくべきだと思いました。正当な理由ならば誰もが納得するはずです。

茨城県沖合

海域モニタリングの関係者です。永久に勘違いが残るのもどうかと思うのでコメントします。茨城県沖合が、二回しかなかったのは、海保が二回は協力してくれましが、被災地のほうの業務が忙しくてそれ以上は無理だったからです。グリーンピースはまったく関係ありません。このブログを見て、初めてグリーンピースがそういう計画だったのを知りました。

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3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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