海底土のモニタリング体制のまとめと海底土汚染の現状
今回は、前回の第4章 「福島第一原発近辺の海洋モニタリング体制はどう変わってきたか」に続いて現在の海洋汚染の状況を見ていきます。今回は特に海底土に焦点を当てて現状を解説したいと思います。
海底土については、これまでも何度も「川と海底土の汚染」シリーズで取り上げてきました。
主に東京電力の海底土のデータと、文科省の海底土のデータをそれぞれ時系列を追って解析して、こんな事が言えるのではないか?ということを提示してきました。
今回は「福島第一原発近辺の海洋モニタリング体制はどう変わってきたか」で紹介したモニタリング体制の中で、海底土の測定がどうなっていたのかをまず紹介し、その後に海底土の汚染の現状についてまとめたいと思います。
1.海底土のモニタリング体制
海底土のモニタリングは、前回の「福島第一原発近辺の海洋モニタリング体制はどう変わってきたか」でも一部取り上げましたが、事故前の原発付近の海域モニタリングの中で行われていました。Cs-137の測定しかありませんが、最大でも約7Bq/kg(乾土)しかありませんでした。この数値が事故前から存在するバックグラウンドの値になりますので頭に入れておいてください。

昨年の福島原発事故の後で初めて海底土の測定が行われたのは、東京電力の小高沖合3kmと岩沢海岸沖合3kmで、昨年4/29(発表は5/3)のことでした。その後、6/2(発表は6/3)、6/28(発表は6/29)に同じ場所で海底土の採取が行われました。6/2と6/28の海底土については、Sr(6/25発表)とPu(6/23発表)(6/2の海底土)、U(7/7発表)(6/28の海底土)の測定も行われています。
その後、海水のサンプリング地点が29地点になり(最終的には25地点に)、その25地点全てについて、昨年の8月以来毎月1回海底土のサンプリングが行われるようになり、その体制は今年の3月まで続きました。4月からはまた新しい体制で測定地点も増やしてモニタリングが行われています。
昨年度の東京電力の海底土測定においての一番の問題点は、通常はBq/kg乾土で測定を行うのですが、東京電力はBq/kg湿土で行っていたのです。そのために、他の機関の発表したデータと比較するのが難しくなっていました。この問題点については、コンタンさんが「質問する記者団」の佐藤さんを通じて質問してもらい、現在は設備的に難しいが、いずれ乾土での測定が出来るように対応したいという回答を昨年末に得ています。
6/22には、4月分の測定について乾土での測定に換算したデータを発表してくれました。今後は乾土でのデータも出てきて文科省や福島県のデータとも合わせることが出来ると思います。詳細は「東京電力は初めて海底土のデータを乾土に換算した測定結果を発表!」をお読みください。
海底土については、文科省と福島県も海水のサンプリングのついでに海底土のサンプリングも行っていました。文科省は昨年5月の「海域モニタリングの広域化」以来6回(12地点)、10月の「今後の海域モニタリングの進め方」が発表されてからは4回(30地点)で海底土のモニタリングを行いました。今年度になってからは新しい体制でモニタリングを行っています。6/15に一部発表がありましたが、まだ全体のデータは出てきていません。
福島県は、昨年5月に9地点の測定を行い、その時は次は9月と宣言していましたが、測定地点を徐々に増やして、9月以降は23地点で毎月サンプリングを行いました。今年の4月以降は南相馬市といわき市に6地点増やした29地点という新しい体制でモニタリングを行っています。今年度の一回目の発表は6/5にありました。
福島県の海底土の測定方法では、例えば四倉沖の海底土を沿岸からの距離を0.5km、1km、1.7km、3.7km、6.5km、10km、13.6km、20.2kmといった具合に何地点もでデータを取って毎月測定してくれている点が大きな特徴です。これによって、海底土が時間の経過と共にどう移動するのかという傾向をつかむことが出来ます。

なお、このブログで用いている昨年度の海底土のデータは、全て以下のExcelに記載してありますので、ご自由にお使いください。ただし、もし数値に転記間違いがあっても責任は負いません。
marine_soil_2011.xlsx
2.海底土の汚染の現況
海底土の汚染状況が地上の土壌の汚染と大きく異なることは、海底土の汚染は海流などの影響を受けて常に変化するということです。陸上の土壌は、基本的に降下した放射性セシウムは、雨が降った時に流されて移動するか、植物などに吸収されて減少する以外は、土壌中の粘土鉱物に吸着されてしまうので海底土と比べると大きな変化はありません。(もちろん、降雨による移動は絶対量としてはそれなりにあるため、それが今後河口から海への流入として問題になるといわれています。)
一方、海底土の場合は、同じ地点のデータを毎月見ていても、上がったり下がったりという変化が多いです。そのため、陸上とは異なり、一度汚染地図を作成したら終わりというものではありません。また、川から流入してくる放射性セシウムもあるため、河口付近では雨が降ったら上昇する傾向もあります。そういう意味では、今後は川からの流入もチェックしていく必要があるのです。
ここでは、昨年度測定された海底土データについて、全体的な傾向を見てみたいと思います。
まずは東京電力の発表している海底土のデータです。8月から2月までの分ですが、アニメーションGIFで表示してみました。「東京電力の海底土1月分データのまとめ-沿岸の海底土変動の理由-」や「東京電力の海底土2月分データのまとめ」でもすでにご紹介していますが、もう一度ご紹介したいと思います。
私なりに、海底土のデータをどのように表示したらその変動がわかりやすいかをブログ読者の方にアンケートを実施したりして意見を聞き、一番わかりやすいという意見が多かった方法を採用しています。繰り返し表示されますので、じっくりとご覧いただければと思います。
東京電力が昨年度後半に毎月測定していた25地点の海底土のデータを、縦棒のグラフにして3次元で表示しています。濃いものは赤い色になるように色分けをしています。ただし、上限値を超えると表示されないので、ここでは5000Bq/kg以上のデータは5000Bq/kgにして表示しています。

以下は「東京電力の海底土1月分データのまとめ-沿岸の海底土変動の理由-」の記述をそのまま利用。
1/15のNHKスペシャルを見た方(見逃した方はこれをご覧下さい「1/15 NHKスペシャル 知られざる放射能汚染~海からの緊急報告~を見て」)は、海のホットスポットとかいう言葉に見覚えがあると思います。海底土の汚染は、陸上の汚染とは異なり、海流によって移動するのが特徴です。それが上のアニメーションGIFでも明らかになっています。
同じくNHKスペシャルを見た人は、沿岸流という言葉を聞いたことがあると思います。川から流れてきた水は、海水との密度差と地球の回転の効果から、北半球では右側、この場合では南側に流れる性質があるそうです。

(1/15 NHKスペシャルより)
上の図では、相馬市よりも南のシミュレーション例しか出ていませんが、このような河口からの流れがあるとするならば、例えば一番北の測定地点である東京電力22番(現在のT-22)の地点。これは相馬市沖合3kmの地点ですが、すぐ北の宮城県側には阿武隈川の河口があります。上の図と同様にイメージすれば、下の図のように赤字で示す流れがあって、阿武隈川から流出してきた土砂に含まれるセシウムが、22番の海底に堆積するというのは容易に想像がつくと思います。

それでは、相馬沖合3kmの海底土のセシウム量(Cs-134+Cs-137)が増えた10/11と12/13の前には何があったか調べてみましょう。
阿武隈川からのセシウムの流出については、「12/1 阿武隈川で1日525億ベクレルが河口から海へのニュース(11/25)の発表及び報道について」でも一部取り上げましたが、1日525億Bqというのがニュースになっていましたからご存じの方も多いと思います。
通常、阿武隈川の河川の水にはほとんどセシウムは含まれていません。大雨が降って川の水が濁った時に運ばれる泥の中にセシウムは大量に含まれているのです。では、阿武隈川の下流付近である、宮城県亘理町の気象データ(10日=旬ごと)を拾ってきて、22番の相馬沖合3kmのデータと見比べてみましょう。

おわかりでしょう。9/21には台風15号で大雨で206.5mmの雨が降りました。また、一日あたりの雨量で見ると(リンク参照のこと)、12/3にも1日に30mmの雨が降っています。12月分の上昇が12/3の雨だけで説明できるかどうかは確かではありませんが、9月の台風15号以降、1日の雨量が30mmにも達したのは10/5-6と12/3だけです。10/5-6の雨の影響も10/11の前ですからその影響は10/11に出ていると考えると、大雨が降った数日後には、相馬沖合3kmの海底土のセシウム量が上昇している可能性が高いということが読み取れます。その後下がってしまうのは、海流でさらに南に移動して拡散してしまうからでしょう。
この関係は、もう少しデータを集めて検証する必要がありますが、沿岸流によって南側に海底土が流れて行きやすいとすると、福島第一原発の北側の海で時々異常にセシウム濃度が高くなる理由を説明するためには、現段階では一番有力な説明であると考えられます。
こうやって詳細に解析していくと、少しずつ海底土のデータも読み解いていくことができるのですね。今回は一番変動の激しい一例しか調べていませんが、以前から指摘があったように、沖合3km付近の海底土のセシウム濃度が高くなる理由は、付近の川からのセシウム流出ということで説明できる可能性が高くなってきました。
ここまでが「東京電力の海底土1月分データのまとめ-沿岸の海底土変動の理由-」の記述からの引用。
次に、福島県の海底土の測定についてです。これまで私は、東京電力や文科省の海底土の測定結果については何度かまとめてきましたが、福島県の海底土についてはこれまでまとめてきませんでした(ただし、昨年末に「12/28 海底土のデータ(福島県)のリンク一覧」というリンク集は作成しています)。従って、このブログでは今回が初めてのまとめになります。
福島県の測定の特徴は、先ほども書いたように、ある沿岸地点の沖合の海底土を、複数の場所で距離を変えて測定してくれていることです。これにより、1ヶ所しか測定していなければ見逃すような海底土の汚染もとらえられる可能性があります。
また、福島県のHPの通常の結果のページには出ていないのですが、福島県水産試験場のHPには、昨年8月と今年2月に追加で測定したデータも発表されています。
水産試験場のHPに以下のようなまとめの表がありました。四倉沖では、0.5kmから20.2kmまでの8ヶ所においてほぼ毎月サンプリングが行われていました。その結果が下の表です。放射性セシウムの合計値を、500Bq/kg、1000Bq/kg、5000Bq/kgで色分けしてくれています(今年4月の13.6kmの所だけ色分けがおかしいです)。汚染されている海域がだんだんと沖合に移動しているのがこの定点観測によってわかると思います。

(福島県水産試験場HPより:なお、7月中旬と8月のデータはこの水産試験場HPにしか存在しません。)
このような四倉沖(北緯37度より少し北)以外の海底土の汚染の変動がわかるように、福島県のデータをアニメーションGIFにしてみました。水産試験場HPにしか出てこない地点のデータ(8月と2月のみ)も加えてあります。従って、8月と2月はふだんよりも測定地点数が大幅に増加しています。また、5000Bq/kgを超えた場合は、上限の5000Bq/kgとして表示しています。そのため、四倉沖の9/12の8189Bq/kgや相馬市磯部沖の11/9の5970Bq/kgは5000Bq/kgの高さでの表示になっています。ご了承ください。

こうやってアニメーションGIFで見ると、昨年5月の原発南側の海底土は結構高かったということがわかります。東京電力の海底土は、7-8月になるまでは小高沖合3kmと岩沢海岸沖合3kmという2ヶ所でしか測定されていないため、先ほどの東京電力の海底土データのアニメーションGIFからは除外されています。また、文科省の海底土の測定地点は、20km~30km程度沖合でしか測定していません。そういう意味では、福島県が5月から海底土のデータを測定してくれていたことは非常に意味があるのです。
さて、このように東京電力、福島県のデータを個別に見てくると、全てのデータを合わせたらどうなるか?ということが知りたくなると思います。それを行ってくれているのが福島県水産試験場HPです。このpdfファイルには、文科省、福島県(以上は乾土での測定)、東京電力(湿土での測定)を全て並べて記載してくれています。以前(「東京電力の海底土の汚染データのアップデート」参照)は3者のデータを全て一緒に扱っていましたが、現在は東京電力のデータのみ色を変えて、湿土での測定であることを示してくれています。

しかし、私はこの表現方法も含めてブログ読者にアンケートをとりましたが、立体図にして棒グラフに示す方法が一番わかりやすい、との結果となったため、上で示したような表現方法をとってきています。そこで、この水産試験場HPにあるのと元のデータは同じだと思いますが、これを私なりに表示してみたいと思います。
東京電力の海底土のデータは湿土で表示しているため、単純な比較は出来ないのですが、6月に公開されたデータでは、東京電力は乾土率を求めており約76%でした。従って、当初予想していたように2倍ずれるということもなく、東京電力の海底土のデータに約1.3をかければ乾土でのデータになる事がわかりました。そこで、そのことだけを意識しておけば、並べて表示しても大きな問題はないだろうと考えて、東京電力の発表した数値をそのまま文科省や福島県のデータと並べて表示してあります。
なお、文科省の海底土の測定が昨年後半は2ヶ月に一度しかため、測定地点の数が多い時は汚染がひどいように見えてしまいますが、そうではありませんので、そのつもりでご覧下さい。また、先ほどと同様、5000Bq/kgを超える場合は5000Bq/kgに変更して表示しています。また、福島第一原発からの同心円は、他のアニメーションGIFでは20kmと30kmなのですが、ミスでこの図では約40kmと60kmになってしまっています。ご注意下さい。

いかがでしょうか。海底土のデータをこうやって全て並べてみると、かえってわかりにくいかもしれませんね。全てのデータが毎月測定されているわけではないので、測定データが多い月は汚染がひどいように見えてしまいます。
ですが、くり返して何度も見ていただければわかると思いますが、
(1)基本的に昨年5月が一番汚染がひどかったこと(昨年5月は原発付近のデータはないことに注意)
(2)原発の北側よりも南側の方が汚染がひどいこと
(3)台風などで大雨の降った後には河川からの流入と思われる汚染が沿岸で増えること
は読み取れると思います。昨年5月から比較すると、今年の2月は、原発付近を除けばほとんどが1000Bq/kg以下に下がってきていますが、今後も河川からの流入で場所によっては一時的に上がる可能性があります。
しかし、河川から流入したセシウムが魚介類に影響を及ぼすものなのかどうかについてはまだわかっていません。福島県沖だけでなく東京湾も含めて、粘土鉱物に吸着した形のセシウムが台風などで河川から流されてきているだけであれば、そのセシウムは魚介類に対してあまり影響を及ぼさない可能性があります。これについては魚介類への影響の所で取り上げたいと思います。
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主に東京電力の海底土のデータと、文科省の海底土のデータをそれぞれ時系列を追って解析して、こんな事が言えるのではないか?ということを提示してきました。
今回は「福島第一原発近辺の海洋モニタリング体制はどう変わってきたか」で紹介したモニタリング体制の中で、海底土の測定がどうなっていたのかをまず紹介し、その後に海底土の汚染の現状についてまとめたいと思います。
1.海底土のモニタリング体制
海底土のモニタリングは、前回の「福島第一原発近辺の海洋モニタリング体制はどう変わってきたか」でも一部取り上げましたが、事故前の原発付近の海域モニタリングの中で行われていました。Cs-137の測定しかありませんが、最大でも約7Bq/kg(乾土)しかありませんでした。この数値が事故前から存在するバックグラウンドの値になりますので頭に入れておいてください。

昨年の福島原発事故の後で初めて海底土の測定が行われたのは、東京電力の小高沖合3kmと岩沢海岸沖合3kmで、昨年4/29(発表は5/3)のことでした。その後、6/2(発表は6/3)、6/28(発表は6/29)に同じ場所で海底土の採取が行われました。6/2と6/28の海底土については、Sr(6/25発表)とPu(6/23発表)(6/2の海底土)、U(7/7発表)(6/28の海底土)の測定も行われています。
その後、海水のサンプリング地点が29地点になり(最終的には25地点に)、その25地点全てについて、昨年の8月以来毎月1回海底土のサンプリングが行われるようになり、その体制は今年の3月まで続きました。4月からはまた新しい体制で測定地点も増やしてモニタリングが行われています。
昨年度の東京電力の海底土測定においての一番の問題点は、通常はBq/kg乾土で測定を行うのですが、東京電力はBq/kg湿土で行っていたのです。そのために、他の機関の発表したデータと比較するのが難しくなっていました。この問題点については、コンタンさんが「質問する記者団」の佐藤さんを通じて質問してもらい、現在は設備的に難しいが、いずれ乾土での測定が出来るように対応したいという回答を昨年末に得ています。
6/22には、4月分の測定について乾土での測定に換算したデータを発表してくれました。今後は乾土でのデータも出てきて文科省や福島県のデータとも合わせることが出来ると思います。詳細は「東京電力は初めて海底土のデータを乾土に換算した測定結果を発表!」をお読みください。
海底土については、文科省と福島県も海水のサンプリングのついでに海底土のサンプリングも行っていました。文科省は昨年5月の「海域モニタリングの広域化」以来6回(12地点)、10月の「今後の海域モニタリングの進め方」が発表されてからは4回(30地点)で海底土のモニタリングを行いました。今年度になってからは新しい体制でモニタリングを行っています。6/15に一部発表がありましたが、まだ全体のデータは出てきていません。
福島県は、昨年5月に9地点の測定を行い、その時は次は9月と宣言していましたが、測定地点を徐々に増やして、9月以降は23地点で毎月サンプリングを行いました。今年の4月以降は南相馬市といわき市に6地点増やした29地点という新しい体制でモニタリングを行っています。今年度の一回目の発表は6/5にありました。
福島県の海底土の測定方法では、例えば四倉沖の海底土を沿岸からの距離を0.5km、1km、1.7km、3.7km、6.5km、10km、13.6km、20.2kmといった具合に何地点もでデータを取って毎月測定してくれている点が大きな特徴です。これによって、海底土が時間の経過と共にどう移動するのかという傾向をつかむことが出来ます。

なお、このブログで用いている昨年度の海底土のデータは、全て以下のExcelに記載してありますので、ご自由にお使いください。ただし、もし数値に転記間違いがあっても責任は負いません。
marine_soil_2011.xlsx
2.海底土の汚染の現況
海底土の汚染状況が地上の土壌の汚染と大きく異なることは、海底土の汚染は海流などの影響を受けて常に変化するということです。陸上の土壌は、基本的に降下した放射性セシウムは、雨が降った時に流されて移動するか、植物などに吸収されて減少する以外は、土壌中の粘土鉱物に吸着されてしまうので海底土と比べると大きな変化はありません。(もちろん、降雨による移動は絶対量としてはそれなりにあるため、それが今後河口から海への流入として問題になるといわれています。)
一方、海底土の場合は、同じ地点のデータを毎月見ていても、上がったり下がったりという変化が多いです。そのため、陸上とは異なり、一度汚染地図を作成したら終わりというものではありません。また、川から流入してくる放射性セシウムもあるため、河口付近では雨が降ったら上昇する傾向もあります。そういう意味では、今後は川からの流入もチェックしていく必要があるのです。
ここでは、昨年度測定された海底土データについて、全体的な傾向を見てみたいと思います。
まずは東京電力の発表している海底土のデータです。8月から2月までの分ですが、アニメーションGIFで表示してみました。「東京電力の海底土1月分データのまとめ-沿岸の海底土変動の理由-」や「東京電力の海底土2月分データのまとめ」でもすでにご紹介していますが、もう一度ご紹介したいと思います。
私なりに、海底土のデータをどのように表示したらその変動がわかりやすいかをブログ読者の方にアンケートを実施したりして意見を聞き、一番わかりやすいという意見が多かった方法を採用しています。繰り返し表示されますので、じっくりとご覧いただければと思います。
東京電力が昨年度後半に毎月測定していた25地点の海底土のデータを、縦棒のグラフにして3次元で表示しています。濃いものは赤い色になるように色分けをしています。ただし、上限値を超えると表示されないので、ここでは5000Bq/kg以上のデータは5000Bq/kgにして表示しています。

以下は「東京電力の海底土1月分データのまとめ-沿岸の海底土変動の理由-」の記述をそのまま利用。
1/15のNHKスペシャルを見た方(見逃した方はこれをご覧下さい「1/15 NHKスペシャル 知られざる放射能汚染~海からの緊急報告~を見て」)は、海のホットスポットとかいう言葉に見覚えがあると思います。海底土の汚染は、陸上の汚染とは異なり、海流によって移動するのが特徴です。それが上のアニメーションGIFでも明らかになっています。
同じくNHKスペシャルを見た人は、沿岸流という言葉を聞いたことがあると思います。川から流れてきた水は、海水との密度差と地球の回転の効果から、北半球では右側、この場合では南側に流れる性質があるそうです。

(1/15 NHKスペシャルより)
上の図では、相馬市よりも南のシミュレーション例しか出ていませんが、このような河口からの流れがあるとするならば、例えば一番北の測定地点である東京電力22番(現在のT-22)の地点。これは相馬市沖合3kmの地点ですが、すぐ北の宮城県側には阿武隈川の河口があります。上の図と同様にイメージすれば、下の図のように赤字で示す流れがあって、阿武隈川から流出してきた土砂に含まれるセシウムが、22番の海底に堆積するというのは容易に想像がつくと思います。

それでは、相馬沖合3kmの海底土のセシウム量(Cs-134+Cs-137)が増えた10/11と12/13の前には何があったか調べてみましょう。
阿武隈川からのセシウムの流出については、「12/1 阿武隈川で1日525億ベクレルが河口から海へのニュース(11/25)の発表及び報道について」でも一部取り上げましたが、1日525億Bqというのがニュースになっていましたからご存じの方も多いと思います。
通常、阿武隈川の河川の水にはほとんどセシウムは含まれていません。大雨が降って川の水が濁った時に運ばれる泥の中にセシウムは大量に含まれているのです。では、阿武隈川の下流付近である、宮城県亘理町の気象データ(10日=旬ごと)を拾ってきて、22番の相馬沖合3kmのデータと見比べてみましょう。

おわかりでしょう。9/21には台風15号で大雨で206.5mmの雨が降りました。また、一日あたりの雨量で見ると(リンク参照のこと)、12/3にも1日に30mmの雨が降っています。12月分の上昇が12/3の雨だけで説明できるかどうかは確かではありませんが、9月の台風15号以降、1日の雨量が30mmにも達したのは10/5-6と12/3だけです。10/5-6の雨の影響も10/11の前ですからその影響は10/11に出ていると考えると、大雨が降った数日後には、相馬沖合3kmの海底土のセシウム量が上昇している可能性が高いということが読み取れます。その後下がってしまうのは、海流でさらに南に移動して拡散してしまうからでしょう。
この関係は、もう少しデータを集めて検証する必要がありますが、沿岸流によって南側に海底土が流れて行きやすいとすると、福島第一原発の北側の海で時々異常にセシウム濃度が高くなる理由を説明するためには、現段階では一番有力な説明であると考えられます。
こうやって詳細に解析していくと、少しずつ海底土のデータも読み解いていくことができるのですね。今回は一番変動の激しい一例しか調べていませんが、以前から指摘があったように、沖合3km付近の海底土のセシウム濃度が高くなる理由は、付近の川からのセシウム流出ということで説明できる可能性が高くなってきました。
ここまでが「東京電力の海底土1月分データのまとめ-沿岸の海底土変動の理由-」の記述からの引用。
次に、福島県の海底土の測定についてです。これまで私は、東京電力や文科省の海底土の測定結果については何度かまとめてきましたが、福島県の海底土についてはこれまでまとめてきませんでした(ただし、昨年末に「12/28 海底土のデータ(福島県)のリンク一覧」というリンク集は作成しています)。従って、このブログでは今回が初めてのまとめになります。
福島県の測定の特徴は、先ほども書いたように、ある沿岸地点の沖合の海底土を、複数の場所で距離を変えて測定してくれていることです。これにより、1ヶ所しか測定していなければ見逃すような海底土の汚染もとらえられる可能性があります。
また、福島県のHPの通常の結果のページには出ていないのですが、福島県水産試験場のHPには、昨年8月と今年2月に追加で測定したデータも発表されています。
水産試験場のHPに以下のようなまとめの表がありました。四倉沖では、0.5kmから20.2kmまでの8ヶ所においてほぼ毎月サンプリングが行われていました。その結果が下の表です。放射性セシウムの合計値を、500Bq/kg、1000Bq/kg、5000Bq/kgで色分けしてくれています(今年4月の13.6kmの所だけ色分けがおかしいです)。汚染されている海域がだんだんと沖合に移動しているのがこの定点観測によってわかると思います。

(福島県水産試験場HPより:なお、7月中旬と8月のデータはこの水産試験場HPにしか存在しません。)
このような四倉沖(北緯37度より少し北)以外の海底土の汚染の変動がわかるように、福島県のデータをアニメーションGIFにしてみました。水産試験場HPにしか出てこない地点のデータ(8月と2月のみ)も加えてあります。従って、8月と2月はふだんよりも測定地点数が大幅に増加しています。また、5000Bq/kgを超えた場合は、上限の5000Bq/kgとして表示しています。そのため、四倉沖の9/12の8189Bq/kgや相馬市磯部沖の11/9の5970Bq/kgは5000Bq/kgの高さでの表示になっています。ご了承ください。

こうやってアニメーションGIFで見ると、昨年5月の原発南側の海底土は結構高かったということがわかります。東京電力の海底土は、7-8月になるまでは小高沖合3kmと岩沢海岸沖合3kmという2ヶ所でしか測定されていないため、先ほどの東京電力の海底土データのアニメーションGIFからは除外されています。また、文科省の海底土の測定地点は、20km~30km程度沖合でしか測定していません。そういう意味では、福島県が5月から海底土のデータを測定してくれていたことは非常に意味があるのです。
さて、このように東京電力、福島県のデータを個別に見てくると、全てのデータを合わせたらどうなるか?ということが知りたくなると思います。それを行ってくれているのが福島県水産試験場HPです。このpdfファイルには、文科省、福島県(以上は乾土での測定)、東京電力(湿土での測定)を全て並べて記載してくれています。以前(「東京電力の海底土の汚染データのアップデート」参照)は3者のデータを全て一緒に扱っていましたが、現在は東京電力のデータのみ色を変えて、湿土での測定であることを示してくれています。

しかし、私はこの表現方法も含めてブログ読者にアンケートをとりましたが、立体図にして棒グラフに示す方法が一番わかりやすい、との結果となったため、上で示したような表現方法をとってきています。そこで、この水産試験場HPにあるのと元のデータは同じだと思いますが、これを私なりに表示してみたいと思います。
東京電力の海底土のデータは湿土で表示しているため、単純な比較は出来ないのですが、6月に公開されたデータでは、東京電力は乾土率を求めており約76%でした。従って、当初予想していたように2倍ずれるということもなく、東京電力の海底土のデータに約1.3をかければ乾土でのデータになる事がわかりました。そこで、そのことだけを意識しておけば、並べて表示しても大きな問題はないだろうと考えて、東京電力の発表した数値をそのまま文科省や福島県のデータと並べて表示してあります。
なお、文科省の海底土の測定が昨年後半は2ヶ月に一度しかため、測定地点の数が多い時は汚染がひどいように見えてしまいますが、そうではありませんので、そのつもりでご覧下さい。また、先ほどと同様、5000Bq/kgを超える場合は5000Bq/kgに変更して表示しています。また、福島第一原発からの同心円は、他のアニメーションGIFでは20kmと30kmなのですが、ミスでこの図では約40kmと60kmになってしまっています。ご注意下さい。

いかがでしょうか。海底土のデータをこうやって全て並べてみると、かえってわかりにくいかもしれませんね。全てのデータが毎月測定されているわけではないので、測定データが多い月は汚染がひどいように見えてしまいます。
ですが、くり返して何度も見ていただければわかると思いますが、
(1)基本的に昨年5月が一番汚染がひどかったこと(昨年5月は原発付近のデータはないことに注意)
(2)原発の北側よりも南側の方が汚染がひどいこと
(3)台風などで大雨の降った後には河川からの流入と思われる汚染が沿岸で増えること
は読み取れると思います。昨年5月から比較すると、今年の2月は、原発付近を除けばほとんどが1000Bq/kg以下に下がってきていますが、今後も河川からの流入で場所によっては一時的に上がる可能性があります。
しかし、河川から流入したセシウムが魚介類に影響を及ぼすものなのかどうかについてはまだわかっていません。福島県沖だけでなく東京湾も含めて、粘土鉱物に吸着した形のセシウムが台風などで河川から流されてきているだけであれば、そのセシウムは魚介類に対してあまり影響を及ぼさない可能性があります。これについては魚介類への影響の所で取り上げたいと思います。
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