クローズアップ現代で紹介された、里山でのセシウム汚染のメカニズム
本日(6/20)放送されたクローズアップ現代で「“里山”汚染メカニズムを解明せよ~福島農業・2年目の模索~」という内容が放送されました。この話題、6/7の予定が急遽延期、6/19に放送予定だったのですが台風で延期、2回も流れて今日は3度目の正直でやっと放映されました。
30分の番組の話に昨年までの情報などを交えて簡単にご紹介します。
この番組では主に昨年暫定規制値を超える放射性セシウムが検出された二本松市の里山で作ったコメについて、何故このような事が起こったのかその原因を調べている研究者達の姿を紹介していました。
1.昨年のコメの放射性セシウム
この番組の内容の紹介の前に少しだけ昨年の福島県のコメ作りについて復習しておきます。
昨年のコメに関していうと、作付け前に移行係数を0.1とするという事が決められ、その結果放射性セシウム濃度が5000Bq/kgを超える土壌では作付け制限が行われました。結果的に警戒区域や計画的避難区域などだけが作付け制限になりました。
この頃の知見としては、土壌からの移行係数が重要であるということで、0.1という数値は過去のデータの最高値にある安全係数をかけて決めたということらしいです。このあたりの経緯と昨年の結果については、昨年12月に「12/30 二本松市旧小浜町のコメ500Bq/kg(予備調査)の調査結果報告」にまとめていますので、詳しいことを知りたい方や、忘れてしまったので思い出したい方はぜひ見てください。
実を言うと、私も去年のことは忘れてしまっていたのでこれを書く前に読み返して思い出したのです。しっかりまとめてあって助かりました(笑)。
しかしながら、収穫が始まり、順調に検査が進んでいるかと思われた時に、予備調査で二本松市から500Bq/kgという放射性セシウムが検出され、大騒ぎとなりました。その後伊達市や福島市で500Bq/kgを大きく超えるコメが検出されました。このあたりの経緯は昨年末に「12/31 福島県の緊急調査の途中経過とその後の情報のまとめ」にまとめましたので、是非こちらもお読みください。
原因はいろいろ考えられましたが、単に土壌の放射性セシウム濃度だけではないということがわかってきました。福島県は緊急に全農家の分の調査を行いました。その結果は「福島県は米の緊急調査結果のとりまとめ(2/3)を発表!」にまとめましたので、ここでは詳細は書きません。
結論として、土壌の放射性セシウム濃度というのは原因の一つであるが、それだけでは説明できないケースも結構あり、土壌中のカリウムの濃度が原因の一つとして上げられていましたが、いわゆる里山の田んぼについては、それ以外にも原因があるのではないか、ということがいわれていました。
今回の番組では、東大農学部の塩沢教授と根本教授の研究を紹介していました。この二人の研究成果については、「放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会 (2011年11月19日開催 )」や「第二回放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会(2012年2月18日開催)」に動画つきで掲載されていますので、興味のある方は是非ご覧下さい。なお、この報告会は第三回も5月に行われています。
また、第一回の報告会については、私も参加して「11/20 東大農学部主催の放射能の農畜水産物等への影響の研究報告会」と「11/23 東大農学部の報告会2:土壌中での放射性セシウムの挙動」にまとめてありますので、ぜひ読んでいただければと思います。
2.番組のポイント
以下、番組の構成に従ってポイントを解説します。
塩沢教授は土壌以外の要因ということでまず用水に注目しました。しかし、用水には1Bq/L以下の放射性セシウムしか検出されず、水が原因ということは考えにくいということがわかりました。
一方、根本教授の研究から、里山のイネの放射性物質の濃度を詳細に調べたところ、夏(7-8月)に出た茎や葉、穂の方が春先のものより3倍近く濃いセシウムに汚染されていたことが実験結果からわかりました。この話は昨年11月の第一回の報告会でも話がありました(上述の解説ブログ参照)。
この事実を元に、塩沢教授が高い汚染が出た田んぼの土壌を良く観察すると、落ち葉や雑草が多いということがわかりました。里山の田んぼでは、3月に降り注いだセシウムは多くが粘土に吸着し、それはあまり根から吸収されませんでした。一方、一部は落ち葉や雑草に吸着し、水田の中に残っていましたが、それが夏になって温度が高くなって急に有機物の分解が進み、セシウムが放出されてそれがイネに吸収されたのではないか、ということです。
この条件を再現するために塩沢教授は実験を行いました。昼は30度、夜は25度という温度設定が出来る実験室の中で、セシウムを落ち葉に吸着させた場合と土壌に吸着させた場合とを比較すると、落ち葉に吸着させた場合は2349(単位は不明)、土壌に吸着させた場合は1173と落ち葉に吸着させた場合は約2倍イネに吸収されました。
この事から、里山のコメで高かった放射性セシウム落ち葉についた放射性セシウムが原因であった可能性が高いことがわかりました。スタジオに登場した福島大学の小山准教授は、「水でなくて落ち葉だということで、対処のしようがあるということは朗報である。しかし、里山での稲作というのは千差万別なので、個別の対応が必要である。」ということを述べていました。
里山で自然を活かした農業をしてきた農家が、それがあだになって今回セシウムの汚染にあったということのようです。
今年は、昨年高いセシウムが検出されたコメで再度米を作る実験を行って、2年目はどうなるのかを確認する実験も行うようです。多くの研究者が協力して、早く原因を解明してその対策をうてるようにしてもらえるといいと思います。
他にも、二本松市の農家と協力している研究者達の試みが紹介されていました。上記の研究では用水からの汚染は関係ない可能性が高いということになりましたが、大雨が降って水が濁っている時にはその濁った水の中にセシウムが入っている可能性が高いです。そこでその水を直接田んぼに引くのではなく、上流にため池をつくってそこに籾殻の袋を入れてセシウムを吸着させてから田んぼに流そう、という試みがされているようです。
番組ではこのアイデアがどこから来たのか紹介がありませんでした。実際にいろいろと話し合いながら出てきたアイデアかもしれませんが、実はこの籾殻を用いた河川水等のセシウム除去実験というのは別の所で実証済です。最後にこの話をご紹介します。
3.おまけ:籾殻を用いた用水の除染と田崎名誉教授
平成23年度の福島県除染技術実証事業は結果が出ています。今年の4月に結果が報告された、その実証事業の一つに「モミガラ等を用いた河川水等の除染方法」(48ページ)というのがあります。

この実証事業は庄建技術株式会社というところが行いましたが、この実験には金沢大学の田崎名誉教授が関与(たぶん指導されたと思います)しています。(田崎先生については「11/24 微生物とセシウム:田崎名誉教授の研究の結果は?いつまでたっても見えてこない真相に迫る」を参照。)

詳細は説明しませんが、籾殻という非常に安価で、農家ならば簡単に手に入るものを用いて、用水からのセシウムの除去率が93%という高い成績を残しました。ですから、恐らく二本松市で同様のことを行ってもかなりの効果があると思います。(この結果を知った上でトライしているのかもしれません。)

田崎名誉教授は、昨年末にある方を介してコンタクトを取ることが出来ました。その中で教えていただいた実験がこの実験で、福島県のために非常に一生懸命努力されている事がわかりました。本来ならばもっと早くこの話を書こうと思っていたのですが、今日たまたま籾殻による用水からのセシウム吸着の試みの話がありましたので、ここで紹介させてもらいました(ちなみに、地球科学は結局リジェクトされたそうです)。
なお、庄建技術という会社は、「EMの宣伝に利用されている福島県農林水産部のレポートは結論の書き方を工夫したら良かったのに」で出てきた灰を用いた実験を提案したところのようです。(この実験に田崎先生が関与していたかどうかは私は聞いていないのでわかりません。)
※最後は番組と直接関係ない話を入れてしまったので混乱させてしまったかもしれません。この話は今日のクローズアップ現代には出てきませんでした(出てきたのは籾殻を用いた用水のセシウム除去の話だけです)。
1.昨年のコメの放射性セシウム
この番組の内容の紹介の前に少しだけ昨年の福島県のコメ作りについて復習しておきます。
昨年のコメに関していうと、作付け前に移行係数を0.1とするという事が決められ、その結果放射性セシウム濃度が5000Bq/kgを超える土壌では作付け制限が行われました。結果的に警戒区域や計画的避難区域などだけが作付け制限になりました。
この頃の知見としては、土壌からの移行係数が重要であるということで、0.1という数値は過去のデータの最高値にある安全係数をかけて決めたということらしいです。このあたりの経緯と昨年の結果については、昨年12月に「12/30 二本松市旧小浜町のコメ500Bq/kg(予備調査)の調査結果報告」にまとめていますので、詳しいことを知りたい方や、忘れてしまったので思い出したい方はぜひ見てください。
実を言うと、私も去年のことは忘れてしまっていたのでこれを書く前に読み返して思い出したのです。しっかりまとめてあって助かりました(笑)。
しかしながら、収穫が始まり、順調に検査が進んでいるかと思われた時に、予備調査で二本松市から500Bq/kgという放射性セシウムが検出され、大騒ぎとなりました。その後伊達市や福島市で500Bq/kgを大きく超えるコメが検出されました。このあたりの経緯は昨年末に「12/31 福島県の緊急調査の途中経過とその後の情報のまとめ」にまとめましたので、是非こちらもお読みください。
原因はいろいろ考えられましたが、単に土壌の放射性セシウム濃度だけではないということがわかってきました。福島県は緊急に全農家の分の調査を行いました。その結果は「福島県は米の緊急調査結果のとりまとめ(2/3)を発表!」にまとめましたので、ここでは詳細は書きません。
結論として、土壌の放射性セシウム濃度というのは原因の一つであるが、それだけでは説明できないケースも結構あり、土壌中のカリウムの濃度が原因の一つとして上げられていましたが、いわゆる里山の田んぼについては、それ以外にも原因があるのではないか、ということがいわれていました。
今回の番組では、東大農学部の塩沢教授と根本教授の研究を紹介していました。この二人の研究成果については、「放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会 (2011年11月19日開催 )」や「第二回放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会(2012年2月18日開催)」に動画つきで掲載されていますので、興味のある方は是非ご覧下さい。なお、この報告会は第三回も5月に行われています。
また、第一回の報告会については、私も参加して「11/20 東大農学部主催の放射能の農畜水産物等への影響の研究報告会」と「11/23 東大農学部の報告会2:土壌中での放射性セシウムの挙動」にまとめてありますので、ぜひ読んでいただければと思います。
2.番組のポイント
以下、番組の構成に従ってポイントを解説します。
塩沢教授は土壌以外の要因ということでまず用水に注目しました。しかし、用水には1Bq/L以下の放射性セシウムしか検出されず、水が原因ということは考えにくいということがわかりました。
一方、根本教授の研究から、里山のイネの放射性物質の濃度を詳細に調べたところ、夏(7-8月)に出た茎や葉、穂の方が春先のものより3倍近く濃いセシウムに汚染されていたことが実験結果からわかりました。この話は昨年11月の第一回の報告会でも話がありました(上述の解説ブログ参照)。
この事実を元に、塩沢教授が高い汚染が出た田んぼの土壌を良く観察すると、落ち葉や雑草が多いということがわかりました。里山の田んぼでは、3月に降り注いだセシウムは多くが粘土に吸着し、それはあまり根から吸収されませんでした。一方、一部は落ち葉や雑草に吸着し、水田の中に残っていましたが、それが夏になって温度が高くなって急に有機物の分解が進み、セシウムが放出されてそれがイネに吸収されたのではないか、ということです。
この条件を再現するために塩沢教授は実験を行いました。昼は30度、夜は25度という温度設定が出来る実験室の中で、セシウムを落ち葉に吸着させた場合と土壌に吸着させた場合とを比較すると、落ち葉に吸着させた場合は2349(単位は不明)、土壌に吸着させた場合は1173と落ち葉に吸着させた場合は約2倍イネに吸収されました。
この事から、里山のコメで高かった放射性セシウム落ち葉についた放射性セシウムが原因であった可能性が高いことがわかりました。スタジオに登場した福島大学の小山准教授は、「水でなくて落ち葉だということで、対処のしようがあるということは朗報である。しかし、里山での稲作というのは千差万別なので、個別の対応が必要である。」ということを述べていました。
里山で自然を活かした農業をしてきた農家が、それがあだになって今回セシウムの汚染にあったということのようです。
今年は、昨年高いセシウムが検出されたコメで再度米を作る実験を行って、2年目はどうなるのかを確認する実験も行うようです。多くの研究者が協力して、早く原因を解明してその対策をうてるようにしてもらえるといいと思います。
他にも、二本松市の農家と協力している研究者達の試みが紹介されていました。上記の研究では用水からの汚染は関係ない可能性が高いということになりましたが、大雨が降って水が濁っている時にはその濁った水の中にセシウムが入っている可能性が高いです。そこでその水を直接田んぼに引くのではなく、上流にため池をつくってそこに籾殻の袋を入れてセシウムを吸着させてから田んぼに流そう、という試みがされているようです。
番組ではこのアイデアがどこから来たのか紹介がありませんでした。実際にいろいろと話し合いながら出てきたアイデアかもしれませんが、実はこの籾殻を用いた河川水等のセシウム除去実験というのは別の所で実証済です。最後にこの話をご紹介します。
3.おまけ:籾殻を用いた用水の除染と田崎名誉教授
平成23年度の福島県除染技術実証事業は結果が出ています。今年の4月に結果が報告された、その実証事業の一つに「モミガラ等を用いた河川水等の除染方法」(48ページ)というのがあります。

この実証事業は庄建技術株式会社というところが行いましたが、この実験には金沢大学の田崎名誉教授が関与(たぶん指導されたと思います)しています。(田崎先生については「11/24 微生物とセシウム:田崎名誉教授の研究の結果は?いつまでたっても見えてこない真相に迫る」を参照。)

詳細は説明しませんが、籾殻という非常に安価で、農家ならば簡単に手に入るものを用いて、用水からのセシウムの除去率が93%という高い成績を残しました。ですから、恐らく二本松市で同様のことを行ってもかなりの効果があると思います。(この結果を知った上でトライしているのかもしれません。)

田崎名誉教授は、昨年末にある方を介してコンタクトを取ることが出来ました。その中で教えていただいた実験がこの実験で、福島県のために非常に一生懸命努力されている事がわかりました。本来ならばもっと早くこの話を書こうと思っていたのですが、今日たまたま籾殻による用水からのセシウム吸着の試みの話がありましたので、ここで紹介させてもらいました(ちなみに、地球科学は結局リジェクトされたそうです)。
なお、庄建技術という会社は、「EMの宣伝に利用されている福島県農林水産部のレポートは結論の書き方を工夫したら良かったのに」で出てきた灰を用いた実験を提案したところのようです。(この実験に田崎先生が関与していたかどうかは私は聞いていないのでわかりません。)
※最後は番組と直接関係ない話を入れてしまったので混乱させてしまったかもしれません。この話は今日のクローズアップ現代には出てきませんでした(出てきたのは籾殻を用いた用水のセシウム除去の話だけです)。
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