国会事故調の報告書では津波前の地震で電源喪失があった可能性に初めて言及!
本日(7/5)、国会事故調は報告書を衆参両院議長に提出しました。その内容は国会事故調のHPから読むことが出来ます。
事前の委員会の議論から受けた印象とは異なり、東電や規制当局、当時の官邸を厳しく断罪する内容になっており、非常に興味のある中身になっています。私もまだ一部を読んだだけですが、ぜひ多くの方に読んでもらいたい内容です。
『今回の事故は「自然災害」ではなく明らかに「人災」である。』とか「規制の虜」とかいろんな切り口があり、非常に多くの観点から読むことが出来ると思いますが、今回私が一番興味を持って読んでいる(まだ途中なので)のは、津波以前の地震で配管などに小さな破損があった可能性があり、地震によって電源が損失した可能性について言及している点です。
これまで東京電力は、(恐らく訴訟対策として)絶対に譲れない一線として、原発事故は津波による電源喪失によって起こったのだという主張を一貫して行ってきましたが、それを覆す可能性のある非常にインパクトの高い内容です。
まず、さきほど国会事故調のHPに言及しましたが、報告書はスライドシェアからも読むことが出来ます。これを書いている現在(5日22時)、スライドシェアでないページはつながりませんでしたが、いつの間にかつながるようになりました。でも、いまだにつながらないページもあるようです。
ダイジェスト版 (0.8MB) pdfで見られます。
要約版 (1.6MB)
本編 (12MB) pdfで見られます。
参考資料 (5.8MB)
会議録 (38MB)
さて、読んでいない方のために津波ではなく地震によってすでに電源喪失が起こっていた可能性について、国会事故調の報告書(本文)からポイントだけかいつまんで解説します。詳細についてはぜひご自分でお読みください。
報告書本文の内容を適宜改変して記載しています。該当するページを記載していますので、ご確認下さい。
2.2.2 地震動に起因する重要機器の破損の可能性(本文215ページ~)
5)通常の地震応答解析は、事故原因分析には使えない(本文224ページ~)
福島第一原発1-6号機は、いわゆる「新指針」(2006年に出された耐震設計審査指針)に対するチェックが行われていませんでした。一方で、東北地方太平洋沖地震による原子炉建屋基礎版上の最大加速度は、新指針に基づく基準地震動Ssに対する最大応答加速度とほぼ同程度でした。
東電は、津波は水素爆発の影響を受けていない5号機を代表機として選び、基準地震動Ssに対する地震応答改正機を行い、目視検査の結果損傷がないことを確認したと報告書で記載しています。しかし、代表機の5号機に問題がなかったからといって、5号機よりも5-7年も古い1-3号機も問題はなかったとするわけにはいきません。
216ページ
原子炉に無数に張り巡らされている配管について、地震により冷却材喪失事故(Loss Of Coolant Accident :LOCA)が起きた可能性は充分にあります。大口径の配管が完全細断すれば大破口LOCAになります。1-3号機ではそれはなかったということはデータからわかりますが、破損が微小貫通亀裂程度の小破口LOCA(SB-LOCA)の場合は、水位や炉圧の変化からはわからないのです。
223ページ
特に、漏洩面積が0.3cm2と非常に小さいSB-LOCAのケースでも、1秒間あたりの冷却剤喪失量は約2000ccになることが解析からわかっています。1時間で7.2トン、10時間では72トンであり、10時間以内に燃料損傷が起きても不思議ではない大量冷却材喪失です。
224ページ~225ページ
運転員の聞き取り調査から判断すると、1号機でSB-LOCAが起きていた可能性が一番高いのは1号機です。「尋常ではない音」「ゴーッという音」が15時少し前に聞こえていたということを複数の運転員が証言しているそうです。その時はIC(非常用復水器)が作動したのだろうと運転員は判断したようですが、ICのタンクの水はその時点ではせいぜい70度であり、蒸気が出る温度ではありませんでした。とすると、IC由来ではない可能性が極めて高いということになります。
各種解析と運転員への聞き取りから、1号機では小破口LOCA(冷却水喪失事故)が起こっていた可能性があることに言及しています。
2.2.3 津波襲来と全交流電源喪失の関係について
2)従前の報告書の津波到達時刻の基本的誤りと実測データ(226ページ~)
3.11において、津波は2回福島第一原発にやってきました。これまで発表されている報告書(政府事故調を含む)に記載されている内容からは、その第1波が来たのが15時27分頃、第2波が来たのが15時35分頃でした。この時刻は東電の報告にしたがったものです。
そして、国会事故調のヒアリングによって、1号機A系の電源喪失は15時35分か36分と考えられるそうです(参考資料64~65ページの脚注)。東電の主張通りに津波の第2波が来たのが15時35分ならば津波で電源喪失した、ということが成立しますが、実は津波の第2波が来たのは15時37分頃だということが写真を用いた解析でわかっているのです。(参考資料67ページ~)
まず第一に、東京電力が主張して政府事故調にも記載されている第1波、第2波が来た時刻は、福島第一原発沖合1.5kmに設置された波高計での記録であり、福島第一原発に津波が到達した時刻ではあり得ないということがはっきりと示されました。これまでそういう指摘を(ひょっとしたら誰かがブログなどで個人的に言っていたかもしれませんが)聞いたことがなかったので、驚きでした。
また、この図からもわかるように、第1波はそれほど高いものではなく(波高4m)、O.P.10mにある建屋に到達することは出来なかった可能性が高いということです。ほとんどの建屋は第2波によって浸水したのです。

次に、実際に原発にまで津波が到達した時刻を、東電が提供した写真などを用いて解析し、波高計に到達した時刻から二分ほど経過した15時37分頃だと割り出しています。
(下の図で、デジカメexifの時計は数分進んでいるそうです。上の写真と下の写真で2分近く差があることにご注目。)


ということから、
『当委員会のヒアリングで15時35分か36分停止と認められる1号機A系の電源喪失の原因は津波ではないと考えられる。15時37分停止の1号機B系及び2号機A系、15時38分停止の3号機A系及びB系も、電源喪失が津波によるといえるかは疑問がある。非常用電源機器の詳細検査未了の段階で、津波がなければSBOに至らなかったとの見解に基づいて行動することは慎むべきである。』(本文227ページより)
という、これまでの調査報告書では指摘されなかった(検証するべきであったのにまともに検証してこなかった)、本当に津波によって電源喪失が起こったのかどうかという検証を詳細に行い、そうではない可能性が非常に高いと結論づけています。
個人的な感想ですが、これを読んで非常に胸のすく思いでした。緻密な検証によって東電の主張を覆す、まさに専門家の事故調査委員会にやって欲しかったことです。私が2号機の海洋漏洩事故において、東電が主張するようなルートでのトレンチのつながりはあり得ない、ということを示したように(詳細は「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(2)細かく検証してみましょう Bバージョン」参照)、詳細な解析から東電の主張をひっくり返すようなデータを見つけてくれたことは、これぞプロの仕事、と思いました。
国会事故調の6月に行われた「論点整理」においては、今回のような話はほとんど出てこなかったのであまり期待していなかったのですが、ここまで踏み込んでまとめてくれたことには感謝したいと思います。
今回は発表から時間もなく、ごく一部しか紹介していませんが、他にもいろんなポイントがあります。また報告書を読んでみて重要なポイントがあればご紹介したいと思います。
本当は、「失敗学」の畑村委員長のいる政府事故調にそれを期待していたのですが、残念ながらそれはなりませんでした。政府事故調の中間報告書は、政府や東電にかなり遠慮していたといわれます。まだ最終報告書が出ていないので、国会事故調の報告書に負けないしっかりとした報告をして欲しいと思います。
(本日の内容は、報告書を詳細に読む時間がないままに書いているため、間違いがあれば後日訂正する可能性もあります。ご了承下さい。)
ダイジェスト版 (0.8MB) pdfで見られます。
要約版 (1.6MB)
本編 (12MB) pdfで見られます。
参考資料 (5.8MB)
会議録 (38MB)
さて、読んでいない方のために津波ではなく地震によってすでに電源喪失が起こっていた可能性について、国会事故調の報告書(本文)からポイントだけかいつまんで解説します。詳細についてはぜひご自分でお読みください。
報告書本文の内容を適宜改変して記載しています。該当するページを記載していますので、ご確認下さい。
2.2.2 地震動に起因する重要機器の破損の可能性(本文215ページ~)
5)通常の地震応答解析は、事故原因分析には使えない(本文224ページ~)
福島第一原発1-6号機は、いわゆる「新指針」(2006年に出された耐震設計審査指針)に対するチェックが行われていませんでした。一方で、東北地方太平洋沖地震による原子炉建屋基礎版上の最大加速度は、新指針に基づく基準地震動Ssに対する最大応答加速度とほぼ同程度でした。
東電は、津波は水素爆発の影響を受けていない5号機を代表機として選び、基準地震動Ssに対する地震応答改正機を行い、目視検査の結果損傷がないことを確認したと報告書で記載しています。しかし、代表機の5号機に問題がなかったからといって、5号機よりも5-7年も古い1-3号機も問題はなかったとするわけにはいきません。
216ページ
原子炉に無数に張り巡らされている配管について、地震により冷却材喪失事故(Loss Of Coolant Accident :LOCA)が起きた可能性は充分にあります。大口径の配管が完全細断すれば大破口LOCAになります。1-3号機ではそれはなかったということはデータからわかりますが、破損が微小貫通亀裂程度の小破口LOCA(SB-LOCA)の場合は、水位や炉圧の変化からはわからないのです。
223ページ
特に、漏洩面積が0.3cm2と非常に小さいSB-LOCAのケースでも、1秒間あたりの冷却剤喪失量は約2000ccになることが解析からわかっています。1時間で7.2トン、10時間では72トンであり、10時間以内に燃料損傷が起きても不思議ではない大量冷却材喪失です。
224ページ~225ページ
運転員の聞き取り調査から判断すると、1号機でSB-LOCAが起きていた可能性が一番高いのは1号機です。「尋常ではない音」「ゴーッという音」が15時少し前に聞こえていたということを複数の運転員が証言しているそうです。その時はIC(非常用復水器)が作動したのだろうと運転員は判断したようですが、ICのタンクの水はその時点ではせいぜい70度であり、蒸気が出る温度ではありませんでした。とすると、IC由来ではない可能性が極めて高いということになります。
各種解析と運転員への聞き取りから、1号機では小破口LOCA(冷却水喪失事故)が起こっていた可能性があることに言及しています。
2.2.3 津波襲来と全交流電源喪失の関係について
2)従前の報告書の津波到達時刻の基本的誤りと実測データ(226ページ~)
3.11において、津波は2回福島第一原発にやってきました。これまで発表されている報告書(政府事故調を含む)に記載されている内容からは、その第1波が来たのが15時27分頃、第2波が来たのが15時35分頃でした。この時刻は東電の報告にしたがったものです。
そして、国会事故調のヒアリングによって、1号機A系の電源喪失は15時35分か36分と考えられるそうです(参考資料64~65ページの脚注)。東電の主張通りに津波の第2波が来たのが15時35分ならば津波で電源喪失した、ということが成立しますが、実は津波の第2波が来たのは15時37分頃だということが写真を用いた解析でわかっているのです。(参考資料67ページ~)
まず第一に、東京電力が主張して政府事故調にも記載されている第1波、第2波が来た時刻は、福島第一原発沖合1.5kmに設置された波高計での記録であり、福島第一原発に津波が到達した時刻ではあり得ないということがはっきりと示されました。これまでそういう指摘を(ひょっとしたら誰かがブログなどで個人的に言っていたかもしれませんが)聞いたことがなかったので、驚きでした。
また、この図からもわかるように、第1波はそれほど高いものではなく(波高4m)、O.P.10mにある建屋に到達することは出来なかった可能性が高いということです。ほとんどの建屋は第2波によって浸水したのです。

次に、実際に原発にまで津波が到達した時刻を、東電が提供した写真などを用いて解析し、波高計に到達した時刻から二分ほど経過した15時37分頃だと割り出しています。
(下の図で、デジカメexifの時計は数分進んでいるそうです。上の写真と下の写真で2分近く差があることにご注目。)


ということから、
『当委員会のヒアリングで15時35分か36分停止と認められる1号機A系の電源喪失の原因は津波ではないと考えられる。15時37分停止の1号機B系及び2号機A系、15時38分停止の3号機A系及びB系も、電源喪失が津波によるといえるかは疑問がある。非常用電源機器の詳細検査未了の段階で、津波がなければSBOに至らなかったとの見解に基づいて行動することは慎むべきである。』(本文227ページより)
という、これまでの調査報告書では指摘されなかった(検証するべきであったのにまともに検証してこなかった)、本当に津波によって電源喪失が起こったのかどうかという検証を詳細に行い、そうではない可能性が非常に高いと結論づけています。
個人的な感想ですが、これを読んで非常に胸のすく思いでした。緻密な検証によって東電の主張を覆す、まさに専門家の事故調査委員会にやって欲しかったことです。私が2号機の海洋漏洩事故において、東電が主張するようなルートでのトレンチのつながりはあり得ない、ということを示したように(詳細は「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(2)細かく検証してみましょう Bバージョン」参照)、詳細な解析から東電の主張をひっくり返すようなデータを見つけてくれたことは、これぞプロの仕事、と思いました。
国会事故調の6月に行われた「論点整理」においては、今回のような話はほとんど出てこなかったのであまり期待していなかったのですが、ここまで踏み込んでまとめてくれたことには感謝したいと思います。
今回は発表から時間もなく、ごく一部しか紹介していませんが、他にもいろんなポイントがあります。また報告書を読んでみて重要なポイントがあればご紹介したいと思います。
本当は、「失敗学」の畑村委員長のいる政府事故調にそれを期待していたのですが、残念ながらそれはなりませんでした。政府事故調の中間報告書は、政府や東電にかなり遠慮していたといわれます。まだ最終報告書が出ていないので、国会事故調の報告書に負けないしっかりとした報告をして欲しいと思います。
(本日の内容は、報告書を詳細に読む時間がないままに書いているため、間違いがあれば後日訂正する可能性もあります。ご了承下さい。)
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