スクリーン海水のデータの変化は何を我々に語りかけているのか?
この「福島第一原発2号機の謎に迫る」シリーズもほぼ終わりに近づこうとしています。ですが、先週の東京電力の記者会見は、これまで見逃していたデータに気がつかせてくれました。そこで今回は予定を変更して、これまでのスクリーン海水のデータをまとめてみたいと思います。
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先週9日の東京電力の記者会見は、津波来襲時の写真が公開されてその説明があったためにチェックしてみたのですが、他にもいろんなトピックスがあることがわかりました。東京電力のサイトの動画は1週間で消されてしまうので、見たい方はUSTREAMの動画をご覧下さい。
その中のUST動画でいうと37分50秒あたりからですが、毎日新聞の記者がスクリーン海水のシルトフェンス内側のデータが上がっていることについて質問をしています。結局この時のやり取りとしては、確かに数値が上がっているが、これは高濃度汚染水が流出したことを示すものではない、という結論で終わってしまっています。
高濃度汚染水が昨年4月や5月のように流出したら、3号シルトフェンス内側のデータが7/9発表のデータのように980Bq/Lで収まるわけはありません。過去の例を見てもCs-137で1,000,000Bq/L程度の汚染が起こる可能性が高いです。
そのような大規模な海洋漏洩があればすぐにわかることなので私は問題とはしていませんが、またシルトフェンス内の放射性セシウムの濃度が上がってきたという情報に興味をそそられて、久し振りにスクリーン海水のデータをまとめ直してみました。
1.スクリーン海水のデータの推移
スクリーン海水のデータについては、「沿岸の放射能データが示している地下水から海へ流出した証拠」において昨年の上がり下がりについて考察しました。その際、昨年5月以降海水の放射能の下がり方が少なくなったのはサブドレンから海へ漏れ出している可能性があったのではないのか?ということを考察としてご紹介しました。この時は、今年のデータについては一切ご紹介していません。
また、そもそもスクリーンって何?というようなお話は、「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(2)細かく検証してみましょう Aバージョン」に書いています。詳細はそちらを見ていただきたいと思います。
ただ、これからの話において理解できないと困る基本的な情報については、繰り返しになりますが簡単に説明します。まずはスクリーンの場所です。下の図では、昨年4月に発見された2号機の漏洩か所を記載しています。毎日の放射能測定ポイントである「5,6号放水口北」と「1-4号南放水口」も同時に示してあります。

昨年4月の2号機の漏洩事故の後で、シルトフェンスというものがスクリーン出口と、取水口の出口の南北に設置されました。このシルトフェンスの存在により、内側のセシウムが簡単にはシルトフェンスの外側には拡散していかないということがその後のデータで確認されています。例えば昨年5月の「5/16 3号機からの海への汚染水流出はいまのところ止まっているようだ」をお読みください。
この下の図は、東京電力のHPから取ってきた図に一部私が追記したものなのですが、いつの時点の資料なのかはもう今となってはわかりません。ただ、ここに記載してある「観測点」は東京電力が記載したものなので、正しいはずです。

1-4号機にはそれぞれシルトフェンスがあり、基本的にシルトフェンス内側>シルトフェンス外側というデータになっています。そうでない場合は、隣のスクリーンからの汚染が外側に到達した場合だと思います(昨年5月の「5/16 3号機からの海への汚染水流出はいまのところ止まっているようだ」参照)。
スクリーン海水のデータとしては、I-131やCs-134もありますが、I-131は昨年6月以降はほぼ検出限界以下ですし、Cs-134はCs-137のデータで代用できますので、一番半減期の長いCs-137のデータを見ていきます。また、月に一度くらいSrのデータも発表されていて、ここにも不思議な点がいくつかあるのですが、今回はこのデータについては触れません。興味のある方はコンタンさんのまとめたtogetterをごらん下さい(知らない間にコメントがいくつかついていました)。
さて、これからシルトフェンス内側のデータを見ていきます。これまでにも述べたように、シルトフェンス外側のデータは、シルトフェンスによって変動が希釈されているのであまり意味がありません。また、1号機スクリーンのシルトフェンス内側のデータは、これまでのデータをチェックしたところあまり大きな変動がないため、一部を除いて解析から除外します。
まずは全体像をつかむため、1-4号のシルトフェンス内側のCs-137のデータをプロットしたグラフを示します。ご注意いただきたいのは、縦軸は左側の対数軸です。また、青い線で近くの浪江町の降水量の推移も同時に(右側の縦軸)示しています。昨年5/22からのデータにしているのは、それより以前のデータを入れると濃度が高すぎるため、グラフが見にくくなるためです。昨年5月までのデータについては、「沿岸の放射能データが示している地下水から海へ流出した証拠」でもお示ししましたのでそれをご覧下さい。

(クリックで別画面に拡大)
線がたくさんあって見にくいですね。毎日のデータを1年分以上まとめると、意外に上がり下がりがあるのです。これでも対数軸にしているので動きが少なく見えています。
全体的な印象として、昨年5月から今年の7月まで、なだらかに下がってきている(縦軸は対数であることに注意!)ことがわかると思います。でも、よく見ると、ここ1-2ヶ月は下がり方がゆるくなっている、或いは上昇に転じているように見えませんか?
毎日の変動が思ったよりも大きいので、トレンドを知るべく、5日平均を取ってみました。ここでは例えば3号機のシルトフェンス内側のデータで、今年の7/11を含めて過去5日間のデータが7/7-7/11の順に870、980、890、750、570だったとしたら、その平均812Bq/Lを7/11のデータとしてプロットするという意味です。これは、株式における移動平均と同じ考え方です。
次のグラフでは1号機を除いて、2-4号機スクリーンのシルトフェンス内側のデータを示しています。実線が5日平均、それぞれの点が実際の日々のデータを示しています。

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先ほどよりは傾向がわかりやすくなったのではないでしょうか?つまり、下記の3点が挙げられると思います。
(1)昨年5-9月頃(降水量の大きなピークがある9/21の台風15号)までは上がり下がりが比較的激しい時期が続きますが、徐々に下がってきています。
(2)その後昨年10月-今年の4月頃までは比較的落ち着いてゆっくりと下がっています。
(3)ところが今年の5月頃からはどちらかというと上昇傾向に転じています。
では、個別に見ていきましょう。先ほどの5日平均だけでなく、25日平均をつけてみました。25日平均の方が日々のドカスカに影響されにくいので、より全体的な傾向がわかります。まずは4号機です。今年の3月から6月までは100Bq/Lを切ったほぼ一定のレベルで推移しているように見えたのですが、6月後半から上昇傾向に入っています。

(クリックで別画面に拡大)
次は3号機です。3月に少し高くなった後は、上がり下がりが激しくなってきて、6月末から上昇傾向にあるようにも見えますが、現時点では判断できません。ただ、2号機や4号機と比べると、2号機や4号機は4月5月と下がっていたのに、3号機は下がらなかったということは間違いありません。

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最後に2号機です。これが一番はっきりと傾向がわかります。25日平均のグラフを見れば、5月後半に上昇傾向に転じたことがわかると思います。

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長々と細かいデータの紹介をしましたが、ここでいいたいことは一つです。
スクリーン海水のデータ(シルトフェンスの内側)を見ると、1年近くかけてゆっくりと下がってきたが、今年の6月前後からその低下スピードが落ち、場所によっては上昇傾向にある。今後さらに上昇する可能性もある。従って、今後もこのデータの変動には注意が必要である。
2.何がスクリーン付近の海で起こっているのか?
これまでに示したのは東京電力が発表しているスクリーン海水の観測結果(事実)です。データはウソをつきませんから、上で述べた現象には間違いはありません。
今回、解析に用いたデータは下記のExcelに公開しますので、興味のある方は自分でいろいろと解析してみてください。今回は浪江町の降水量と、新しく小名浜港の潮位データつきです。潮位との関連性は私には見いだせませんでしたが参考までにつけています。
screen-water2.xlsx
ただ、現象は間違いないのですが、なぜこのような事が起こっているのか?ということは、結果の考察になり、いろいろな解釈が可能だと思います。
(1) 降水量の影響
原発付近の浪江町の降水量のグラフをつけていますが、台風や梅雨の長雨で大量の雨が降ることによって、地下水(サブドレン)の水位が上昇することは昨年度のデータからわかっています。水位が上昇することにより、海へ流れ込む地下水の流量も増えるはずです。また、それまでトレンチやタービン建屋などから漏れ出ていた放射能汚染水が地下水と合流し、海(スクリーン海水付近)に流出したという可能性が一つあげられると思います。
5/3の大量の雨の後で、それまで下降してきていたスクリーン海水のCs-137濃度が上昇傾向に転じているのは、大量の雨によって地下水が増えて、それまでどこかにたまっていた放射能汚染水と合流した、というようなイメージを私は持っています。昨年の9/21の台風の時の大雨のあとも日々の変動パターンが大きく変わっているため、大雨が降ると地下水の状態が変化するということは確かだと思います。ただし、これはあくまで一つの可能性であり、検証することは難しいと思います。
(2) 海流や潮の干満の影響
東京電力は、記者会見では日々の変動の理由を「潮の満ち引きなど」「海底土の巻き上げ」などという説明をしてきました。9日の記者会見では「サンプリングボトルの沈め方」まで変動の理由に持ち出してきました。日々の変動については確かにそういう影響も一部にあるでしょうが、今回のような長期的なトレンドの変化をこれらの説明でする事はまず不可能だと思います。
ただ、この港湾内で海流がどれくらい影響するのか、ということについては、誰か専門家にシミュレーションをして欲しいな、と思っています。毎日の潮の満ち引きで、どれくらい影響を受けるのかはわかっていません。3号機のデータなどを見ればわかると思いますが、過去にも1週間くらい上がっては下がるというような挙動をくり返しています。しかしこの周期に何か意味があるのか、わかりません。念のため、小名浜港の潮位は全て調べて見ましたが、大潮や小潮との関連は見られませんでした。
(3) 1年4ヶ月で地下水はどれくらい移動する?
「沿岸の放射能データが示している地下水から海へ流出した証拠」において、私は昨年5月のスクリーン海水のデータは、サブドレンで観測された組成のものと同じ汚染水が海に流れ出していると考えないとI-131/Cs-137比を説明できないと書きました。しかし、そうだとすると、100m以上もの距離を数日で移動していることになり、そのような移動が本当に可能なのかどうかはわかりません。
一方で、「福島第一原発直下を流れる地下水の水位と流速はどうなっているのか?」を書いた時にどこかで見つけたのですが、東京電力は何かの資料で福島第一原発付近の地下水の流速は実測値で年間50m前後と記載しています。昨年3月から今年の7月までにすでに1年4ヶ月が経過しています。1年に50mとしても、1年4ヶ月では約70m移動します。だとすれば、昨年3月に大騒ぎになった、トレンチの立坑付近から漏れ出した高濃度汚染水が地下水と混ざって徐々に移動しているとすれば、その汚染水はそろそろ海に到達してもおかしくない頃です。
そう考えれば、今回観測された上昇傾向というのは、(今後一時的に下がる日もあるでしょうが)中期的な傾向として今後しばらく継続する可能性もあるのではないかと考えています。2号機スクリーンのシルトフェンス内側のデータのように、中期的なトレンドとして上昇傾向に転じたデータも存在するため、上昇傾向が降雨による一過性のものなのか、しばらく続くものなのかについては継続的にウオッチしていく必要があります。
3.現在の対策は?
東京電力も、なかなか減らないスクリーン海水の放射能に対して何もしないで手をこまねいているわけではありません。3月から5月には港湾内の被覆工事がありました。5月には1-4号側はほぼ完了したようです。これは、港湾内の海底土がひどく汚染されているため、それが巻き上げられたり外の海に流出することを防ぐために行われたものです。しかし、シルトフェンス内のデータを見ている限り、この被覆工事の影響というのはあまりなかったように思います。2号スクリーンなどは、3-5月は被覆工事の際の影響で多少高くなっていた可能性もありますが、はっきりとはわかりません。
また、今年の4月下旬からは遮水壁の工事が始まりました。遮水壁についても「福島第一原発直下を流れる地下水の水位と流速はどうなっているのか?」で取り上げました。この工事が進めば、スクリーン海水に地下水から汚染水が漏れ出してきても、その先は遮水壁でかなり防御できるものと思います。完成するまでの間(確か計画では2年後くらいだったと思います)は、スクリーン海水のデータに監視が必要です。
4.最後に
今回、それから「沿岸の放射能データが示している地下水から海へ流出した証拠」において、グラフでお示ししたように、スクリーン海水のデータは、非常に不思議な挙動をしています。
福島第一原発事故においては、高い放射能のために現場検証もできないまま、復旧作業が少しずつ行われ、1年4ヶ月が経過した現在では、事故当時の貴重な証拠も次々となくなっていっています。2号機や3号機からの海洋漏洩事故についても同様です。原発の地下を掘ってみることが出来ない以上、私たちが手にできる資料は、東京電力が公開してくれる各種のデータのみなのです。
(人間が意図的にデータを改竄しない限り)自然はウソをつきません。これらのデータは我々にきっと何かを語りかけているのです。スクリーン海水のデータの不思議な変動は、きっと私たちに福島第一原発の地下で何が起こっているのかを示してくれているはずです。
そう思って私は自分で出来る範囲でいろいろと調べて来ましたが、ここから先はやはり専門家の助けが必要です。興味を持った方、特に地下水の動きなどに詳しい方はこの先を調査していただければと思います。
また、東京電力にお願いしたいことは、昨年末のステップ2完了宣言のドサクサに紛れて公表をやめてしまったサブドレンの水位の発表を、ぜひまた復活させて欲しいと思います。下のようなデータが毎月1回公表されていて、非常に貴重なデータだったのですが、今年になってから発表されなくなってしまいました。
(もしどこかで現在も公開されていることをご存じの方がいたらご一報ください。)
(記者会見配付資料に毎月一度程度公表されていました。)
12/22 集中廃棄物処理施設 サブドレンピット水位測定結果(11月分)(22.3KB)

もし記者会見に出ている方がいたら、なぜこのデータの公表をやめたのか質問して、再度公表してもらえるようにお願いしてください。東京電力は建屋の汚染水が外に漏れ出していないことを確認するため、必ずサブドレンの水位を測定しているはずなのです。これまで公表していたのに、いきなりやめる理由はないはずです。
最後はちょっとお願いモードになってしまいましたが、手間暇をかけて入力、整理したExcelデータを公開しているのも、一人でも多くの人に興味を持ってもらってこの謎解きに協力してもらえれば、という思いがあるからなのです。
情報やコメント等ある方は、ぜひこのブログのコメントでもtogetterのまとめ(http://togetter.com/li/302436)でもいいので書き込んでください。よろしくお願いします。
その中のUST動画でいうと37分50秒あたりからですが、毎日新聞の記者がスクリーン海水のシルトフェンス内側のデータが上がっていることについて質問をしています。結局この時のやり取りとしては、確かに数値が上がっているが、これは高濃度汚染水が流出したことを示すものではない、という結論で終わってしまっています。
高濃度汚染水が昨年4月や5月のように流出したら、3号シルトフェンス内側のデータが7/9発表のデータのように980Bq/Lで収まるわけはありません。過去の例を見てもCs-137で1,000,000Bq/L程度の汚染が起こる可能性が高いです。
そのような大規模な海洋漏洩があればすぐにわかることなので私は問題とはしていませんが、またシルトフェンス内の放射性セシウムの濃度が上がってきたという情報に興味をそそられて、久し振りにスクリーン海水のデータをまとめ直してみました。
1.スクリーン海水のデータの推移
スクリーン海水のデータについては、「沿岸の放射能データが示している地下水から海へ流出した証拠」において昨年の上がり下がりについて考察しました。その際、昨年5月以降海水の放射能の下がり方が少なくなったのはサブドレンから海へ漏れ出している可能性があったのではないのか?ということを考察としてご紹介しました。この時は、今年のデータについては一切ご紹介していません。
また、そもそもスクリーンって何?というようなお話は、「2号機からの海洋漏洩はいつ始まったのか?(2)細かく検証してみましょう Aバージョン」に書いています。詳細はそちらを見ていただきたいと思います。
ただ、これからの話において理解できないと困る基本的な情報については、繰り返しになりますが簡単に説明します。まずはスクリーンの場所です。下の図では、昨年4月に発見された2号機の漏洩か所を記載しています。毎日の放射能測定ポイントである「5,6号放水口北」と「1-4号南放水口」も同時に示してあります。

昨年4月の2号機の漏洩事故の後で、シルトフェンスというものがスクリーン出口と、取水口の出口の南北に設置されました。このシルトフェンスの存在により、内側のセシウムが簡単にはシルトフェンスの外側には拡散していかないということがその後のデータで確認されています。例えば昨年5月の「5/16 3号機からの海への汚染水流出はいまのところ止まっているようだ」をお読みください。
この下の図は、東京電力のHPから取ってきた図に一部私が追記したものなのですが、いつの時点の資料なのかはもう今となってはわかりません。ただ、ここに記載してある「観測点」は東京電力が記載したものなので、正しいはずです。

1-4号機にはそれぞれシルトフェンスがあり、基本的にシルトフェンス内側>シルトフェンス外側というデータになっています。そうでない場合は、隣のスクリーンからの汚染が外側に到達した場合だと思います(昨年5月の「5/16 3号機からの海への汚染水流出はいまのところ止まっているようだ」参照)。
スクリーン海水のデータとしては、I-131やCs-134もありますが、I-131は昨年6月以降はほぼ検出限界以下ですし、Cs-134はCs-137のデータで代用できますので、一番半減期の長いCs-137のデータを見ていきます。また、月に一度くらいSrのデータも発表されていて、ここにも不思議な点がいくつかあるのですが、今回はこのデータについては触れません。興味のある方はコンタンさんのまとめたtogetterをごらん下さい(知らない間にコメントがいくつかついていました)。
さて、これからシルトフェンス内側のデータを見ていきます。これまでにも述べたように、シルトフェンス外側のデータは、シルトフェンスによって変動が希釈されているのであまり意味がありません。また、1号機スクリーンのシルトフェンス内側のデータは、これまでのデータをチェックしたところあまり大きな変動がないため、一部を除いて解析から除外します。
まずは全体像をつかむため、1-4号のシルトフェンス内側のCs-137のデータをプロットしたグラフを示します。ご注意いただきたいのは、縦軸は左側の対数軸です。また、青い線で近くの浪江町の降水量の推移も同時に(右側の縦軸)示しています。昨年5/22からのデータにしているのは、それより以前のデータを入れると濃度が高すぎるため、グラフが見にくくなるためです。昨年5月までのデータについては、「沿岸の放射能データが示している地下水から海へ流出した証拠」でもお示ししましたのでそれをご覧下さい。

(クリックで別画面に拡大)
線がたくさんあって見にくいですね。毎日のデータを1年分以上まとめると、意外に上がり下がりがあるのです。これでも対数軸にしているので動きが少なく見えています。
全体的な印象として、昨年5月から今年の7月まで、なだらかに下がってきている(縦軸は対数であることに注意!)ことがわかると思います。でも、よく見ると、ここ1-2ヶ月は下がり方がゆるくなっている、或いは上昇に転じているように見えませんか?
毎日の変動が思ったよりも大きいので、トレンドを知るべく、5日平均を取ってみました。ここでは例えば3号機のシルトフェンス内側のデータで、今年の7/11を含めて過去5日間のデータが7/7-7/11の順に870、980、890、750、570だったとしたら、その平均812Bq/Lを7/11のデータとしてプロットするという意味です。これは、株式における移動平均と同じ考え方です。
次のグラフでは1号機を除いて、2-4号機スクリーンのシルトフェンス内側のデータを示しています。実線が5日平均、それぞれの点が実際の日々のデータを示しています。

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先ほどよりは傾向がわかりやすくなったのではないでしょうか?つまり、下記の3点が挙げられると思います。
(1)昨年5-9月頃(降水量の大きなピークがある9/21の台風15号)までは上がり下がりが比較的激しい時期が続きますが、徐々に下がってきています。
(2)その後昨年10月-今年の4月頃までは比較的落ち着いてゆっくりと下がっています。
(3)ところが今年の5月頃からはどちらかというと上昇傾向に転じています。
では、個別に見ていきましょう。先ほどの5日平均だけでなく、25日平均をつけてみました。25日平均の方が日々のドカスカに影響されにくいので、より全体的な傾向がわかります。まずは4号機です。今年の3月から6月までは100Bq/Lを切ったほぼ一定のレベルで推移しているように見えたのですが、6月後半から上昇傾向に入っています。

(クリックで別画面に拡大)
次は3号機です。3月に少し高くなった後は、上がり下がりが激しくなってきて、6月末から上昇傾向にあるようにも見えますが、現時点では判断できません。ただ、2号機や4号機と比べると、2号機や4号機は4月5月と下がっていたのに、3号機は下がらなかったということは間違いありません。

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最後に2号機です。これが一番はっきりと傾向がわかります。25日平均のグラフを見れば、5月後半に上昇傾向に転じたことがわかると思います。

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長々と細かいデータの紹介をしましたが、ここでいいたいことは一つです。
スクリーン海水のデータ(シルトフェンスの内側)を見ると、1年近くかけてゆっくりと下がってきたが、今年の6月前後からその低下スピードが落ち、場所によっては上昇傾向にある。今後さらに上昇する可能性もある。従って、今後もこのデータの変動には注意が必要である。
2.何がスクリーン付近の海で起こっているのか?
これまでに示したのは東京電力が発表しているスクリーン海水の観測結果(事実)です。データはウソをつきませんから、上で述べた現象には間違いはありません。
今回、解析に用いたデータは下記のExcelに公開しますので、興味のある方は自分でいろいろと解析してみてください。今回は浪江町の降水量と、新しく小名浜港の潮位データつきです。潮位との関連性は私には見いだせませんでしたが参考までにつけています。
screen-water2.xlsx
ただ、現象は間違いないのですが、なぜこのような事が起こっているのか?ということは、結果の考察になり、いろいろな解釈が可能だと思います。
(1) 降水量の影響
原発付近の浪江町の降水量のグラフをつけていますが、台風や梅雨の長雨で大量の雨が降ることによって、地下水(サブドレン)の水位が上昇することは昨年度のデータからわかっています。水位が上昇することにより、海へ流れ込む地下水の流量も増えるはずです。また、それまでトレンチやタービン建屋などから漏れ出ていた放射能汚染水が地下水と合流し、海(スクリーン海水付近)に流出したという可能性が一つあげられると思います。
5/3の大量の雨の後で、それまで下降してきていたスクリーン海水のCs-137濃度が上昇傾向に転じているのは、大量の雨によって地下水が増えて、それまでどこかにたまっていた放射能汚染水と合流した、というようなイメージを私は持っています。昨年の9/21の台風の時の大雨のあとも日々の変動パターンが大きく変わっているため、大雨が降ると地下水の状態が変化するということは確かだと思います。ただし、これはあくまで一つの可能性であり、検証することは難しいと思います。
(2) 海流や潮の干満の影響
東京電力は、記者会見では日々の変動の理由を「潮の満ち引きなど」「海底土の巻き上げ」などという説明をしてきました。9日の記者会見では「サンプリングボトルの沈め方」まで変動の理由に持ち出してきました。日々の変動については確かにそういう影響も一部にあるでしょうが、今回のような長期的なトレンドの変化をこれらの説明でする事はまず不可能だと思います。
ただ、この港湾内で海流がどれくらい影響するのか、ということについては、誰か専門家にシミュレーションをして欲しいな、と思っています。毎日の潮の満ち引きで、どれくらい影響を受けるのかはわかっていません。3号機のデータなどを見ればわかると思いますが、過去にも1週間くらい上がっては下がるというような挙動をくり返しています。しかしこの周期に何か意味があるのか、わかりません。念のため、小名浜港の潮位は全て調べて見ましたが、大潮や小潮との関連は見られませんでした。
(3) 1年4ヶ月で地下水はどれくらい移動する?
「沿岸の放射能データが示している地下水から海へ流出した証拠」において、私は昨年5月のスクリーン海水のデータは、サブドレンで観測された組成のものと同じ汚染水が海に流れ出していると考えないとI-131/Cs-137比を説明できないと書きました。しかし、そうだとすると、100m以上もの距離を数日で移動していることになり、そのような移動が本当に可能なのかどうかはわかりません。
一方で、「福島第一原発直下を流れる地下水の水位と流速はどうなっているのか?」を書いた時にどこかで見つけたのですが、東京電力は何かの資料で福島第一原発付近の地下水の流速は実測値で年間50m前後と記載しています。昨年3月から今年の7月までにすでに1年4ヶ月が経過しています。1年に50mとしても、1年4ヶ月では約70m移動します。だとすれば、昨年3月に大騒ぎになった、トレンチの立坑付近から漏れ出した高濃度汚染水が地下水と混ざって徐々に移動しているとすれば、その汚染水はそろそろ海に到達してもおかしくない頃です。
そう考えれば、今回観測された上昇傾向というのは、(今後一時的に下がる日もあるでしょうが)中期的な傾向として今後しばらく継続する可能性もあるのではないかと考えています。2号機スクリーンのシルトフェンス内側のデータのように、中期的なトレンドとして上昇傾向に転じたデータも存在するため、上昇傾向が降雨による一過性のものなのか、しばらく続くものなのかについては継続的にウオッチしていく必要があります。
3.現在の対策は?
東京電力も、なかなか減らないスクリーン海水の放射能に対して何もしないで手をこまねいているわけではありません。3月から5月には港湾内の被覆工事がありました。5月には1-4号側はほぼ完了したようです。これは、港湾内の海底土がひどく汚染されているため、それが巻き上げられたり外の海に流出することを防ぐために行われたものです。しかし、シルトフェンス内のデータを見ている限り、この被覆工事の影響というのはあまりなかったように思います。2号スクリーンなどは、3-5月は被覆工事の際の影響で多少高くなっていた可能性もありますが、はっきりとはわかりません。
また、今年の4月下旬からは遮水壁の工事が始まりました。遮水壁についても「福島第一原発直下を流れる地下水の水位と流速はどうなっているのか?」で取り上げました。この工事が進めば、スクリーン海水に地下水から汚染水が漏れ出してきても、その先は遮水壁でかなり防御できるものと思います。完成するまでの間(確か計画では2年後くらいだったと思います)は、スクリーン海水のデータに監視が必要です。
4.最後に
今回、それから「沿岸の放射能データが示している地下水から海へ流出した証拠」において、グラフでお示ししたように、スクリーン海水のデータは、非常に不思議な挙動をしています。
福島第一原発事故においては、高い放射能のために現場検証もできないまま、復旧作業が少しずつ行われ、1年4ヶ月が経過した現在では、事故当時の貴重な証拠も次々となくなっていっています。2号機や3号機からの海洋漏洩事故についても同様です。原発の地下を掘ってみることが出来ない以上、私たちが手にできる資料は、東京電力が公開してくれる各種のデータのみなのです。
(人間が意図的にデータを改竄しない限り)自然はウソをつきません。これらのデータは我々にきっと何かを語りかけているのです。スクリーン海水のデータの不思議な変動は、きっと私たちに福島第一原発の地下で何が起こっているのかを示してくれているはずです。
そう思って私は自分で出来る範囲でいろいろと調べて来ましたが、ここから先はやはり専門家の助けが必要です。興味を持った方、特に地下水の動きなどに詳しい方はこの先を調査していただければと思います。
また、東京電力にお願いしたいことは、昨年末のステップ2完了宣言のドサクサに紛れて公表をやめてしまったサブドレンの水位の発表を、ぜひまた復活させて欲しいと思います。下のようなデータが毎月1回公表されていて、非常に貴重なデータだったのですが、今年になってから発表されなくなってしまいました。
(もしどこかで現在も公開されていることをご存じの方がいたらご一報ください。)
(記者会見配付資料に毎月一度程度公表されていました。)
12/22 集中廃棄物処理施設 サブドレンピット水位測定結果(11月分)(22.3KB)

もし記者会見に出ている方がいたら、なぜこのデータの公表をやめたのか質問して、再度公表してもらえるようにお願いしてください。東京電力は建屋の汚染水が外に漏れ出していないことを確認するため、必ずサブドレンの水位を測定しているはずなのです。これまで公表していたのに、いきなりやめる理由はないはずです。
最後はちょっとお願いモードになってしまいましたが、手間暇をかけて入力、整理したExcelデータを公開しているのも、一人でも多くの人に興味を持ってもらってこの謎解きに協力してもらえれば、という思いがあるからなのです。
情報やコメント等ある方は、ぜひこのブログのコメントでもtogetterのまとめ(http://togetter.com/li/302436)でもいいので書き込んでください。よろしくお願いします。
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