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海洋放射能総合評価事業の資料より(2)魚介類(特にイカ・タコ)とAg-110m 

 
※この記事は、本来8月中に公開する予定だったのですが、うっかり公開するのを忘れていたものです。昨日(12/8)の東大農学部の講演会で森先生のAg-110mの講演を聴いて思い出しました。2012年8月時点の情報をもとに記載したもので、9月以降の新情報もあるかもしれませんがここでは付け加えていません。ご了承下さい。

8/3に行われた「海洋環境放射能調査検討会(第2回)」の配布資料から、平成23年度の「海洋環境放射能総合評価事業 海洋放射能調査結果」という資料を見つけました。これは、原発及び核燃料施設の近くの海域に対する影響を毎年調べている事業で、過去20年分以上の定点観測の蓄積がある貴重な資料です。

これを見ていると、過去のデータとの比較から昨年の原発事故による海洋汚染が日本全国でどのように影響しているのかを見ることが出来る事がわかりました。中にはよく見ないと見落とすような面白い知見もあり、この「福島第一原発2号機の謎に迫る(仮題)」シリーズに入れるべきと考え、追加することにしました。

今回は、前回の「海洋放射能総合評価事業の資料より(1)海水と海底土 汚染水は海流により茨城県沖で下層に沈んだ?」での海水と海底土に続いて魚介類のデータを見ていきます。その中でも特に気になったAg-110mについてです。

海洋環境放射能調査検討会(第2回) 配付資料」には、全部で200ページ近いデータが7つのファイルに分かれて掲載されています。

前回の海水、海底土のところで説明しましたが、この調査は国内にある原発及び核燃料施設についてその付近の海洋の調査を毎年行い、これらの施設からの環境中への影響がないかどうかを調べているものです。詳細は「海洋放射能総合評価事業の資料より(1)海水と海底土 汚染水は海流により茨城県沖で下層に沈んだ?」参照のこと。

ここではまず、「資料2_平成23年度海洋放射能総合評価事業海洋放射能調査結果(案)4/7 (PDF:1183KB)」から過去5年間のデータと平成23年度を比較したまとめの表を示します。原子力発電所海域と核燃料施設海域は別に集計されています。

魚介類では、核燃料施設海域では、Sr-90とPu-239+240の核種の測定が行われていますが、原子力発電所海域ではこの両者は測定されていないことにご注意下さい。なお、海水は発電所海域でもSr-90の測定を行っています。

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この上の表を眺めていただければわかるように、過去5年間のデータと比べて昨年度は大きな特徴があります。それは過去5年間では全てND(検出限界値未満)だったCs-134やAg-110mが魚介類から検出されていることです。Cs-134は、半減期が2年と短いため、これが検出されたことで福島原発事故由来であることの証明とされるような核種ですが、Ag-110m(半減期は約250日)が数値として検出されるほど高く出てくるというのはちょっと意外でした。

なお、Sr-90は核燃料施設海域でしか測定していないため、その魚介類のCs-137は最大でも11Bq/kgしかなく、これではSr-90/Cs-137比(土壌で0.003、河川水で約0.02)から考えるとSr-90が過去5年間とあまり変わりがない結果になっても仕方ないと思います。しかも検出されたのは1検体だけでしたので、あまり参考になりません。

一方、Cs-137については、最高でも140Bq/kgしか検出されていません。Cs-134と合計しても250Bq/kgです。厚労省から報告されている多くの測定結果から比較すると最高値は低いのですが、これはあくまで定点観測ですので、例年と同じ場所で漁獲して測定しているため仕方ないと思います。上の表にあるように、過去5年間と比べて最大値で600倍近くになっているということは確認できますので、Cs-137についての影響は、別途まとめたいと思います。

そこで今回は、昨年度の結果の特徴であるAg-110mについてまとめます。

Ag-110mとは

Ag-110mって何?という方も多いでしょうから、まずはその説明から。このブログでは、110mAg(110mは本来元素記号の左上に書く)と表記するべきところをAg-110mと記載しています。Cs-137も本来は137Csと書くべきです。では、110mって何?この「m」は、という答はこちらの「文部科学省による放射線量等分布マップ(テルル129m、銀110mの土壌濃度マップ)の作成について」にありました。

『テルル129m や銀110m など、原子番号と質量数が同じ複数の放射性核種がある場合に、エネルギー準位が高い放射性核種について、準安定状態(metastable:メタステーブル)であることを示す「m」を付けて区別する。』

メタステーブル(metastable)の「m」だったのですね。銀には、Ag-110m以外に質量数が110の放射性核種があるのです。それを区別するためのAg-110mだったのですね。なお、銀にはAg-110m以外にも半減期が418年のAg-108mという放射性核種も存在します。

Ag-110mの基本的な情報については、「食品中の放射性銀について教えて下さい」というサイトに非常に良くまとまっています。読んだことのない方はぜひこちらを一読することをお勧めします。この解説になぜAg-110ではなくAg-110mと表記するかを解説してくれていたら言うことなしだったのですが。

Ag-110mは、文科省の土壌調査でも陸上の調査が行われており、Cs-137の分布と似ているのですが若干異なった分布をする事が示されています。
『この理由としては、銀の沸点は2,164℃であり、放射性セシウムやテルル129m と比べて高いことから、銀110m は、今回の事故では気体ではなく、粒子状物質として環境に放出されたことから、銀110m が放射性セシウムとは異なる挙動となった可能性が考えられる。』
8/19-3

なお、土壌中では、Ag-110m/Cs-137=0.00048=4.8×10^-3で計算すればよいということが厚労省のある資料「食品摂取による内部ひばく線量における放射性セシウムの寄与率の考え方」には記載してあります(8ページ目)。

陸上の動物からでも、ジョロウグモがAg-110mを濃縮するという報告が東大名誉教授の森さんのブログに「新発見:飯舘村のジョロウグモは放射性銀を1000倍に濃縮していた!」昨年載っています。

海産物中のAg-110mについての知見

海の生物に対するAg-110mの影響はどうなのでしょうか?

ATOMICAには、「水産生物への微量元素の特異的濃縮 (09-01-03-06)」としてイカのAg-110mについて梅津武司さんの論文からの図を引用しています。

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(出典:梅津武司 イカ肝臓で測る海の放射能 放射線科学35、369-374(1992)より)

この論文の抄録には、イカの肝臓は海水中のAgを数百万倍にも濃縮する機能があると書いてあります。チェルノブイリ原発事故の後には、イカの肝臓中のAg-110mが最大で10Bq/kg程度になっていたことがこのグラフからわかりますし、1960年代の核実験の時代にはその一桁上の100Bq/kgにまでなっていたことが調査によりわかっているそうです。

では、現在はどうなっているのでしょうか?最初に話題になったのは昨年8月、北海道の「泊発電所周辺地域における放射性物質の検出について(大気中浮遊じん、降下物、農畜産物(いちご)及び海産物(ほたて))」において、ホタテからAg-110mが0.33Bq/kg検出されたという発表だったと思います。

8/19-5

これを受けて厚労省は8/12に「食品中の放射性銀の管理に関する考え方について」という資料を出しました。

ここにおいて、Ag-110mの経口での実効線量係数が成人で2.8×10^-3(μSv/Bq)であり、400Bq/kgのAg-110mを含む水産物の加工品を毎日食べたとしても年間で40μSvにしかならないため、Ag-110mに対する規制値を設ける必要はなく、Cs-137をチェックしておくことで全体としてカバーできるという趣旨の事が記載されています。

ただし、今後のモニタリングによって、今回の試算を覆すようなデータが出てきた場合には再度放射線物質対策部会において検討する必要があると記載されています。

なぜイカやタコではAg-110mが濃縮されるのか、それはイカやタコといった頭足類の肝臓(中腸腺)にヘモシアニンというタンパク質があり、銀(Ag)と特異的に結合するからだということが研究の結果わかっています。『ヘモシアニンは、軟体動物などでの血液色素で、ヒトでのヘモグロビンにあたります。ヘモシアニンの銅が銀に置換されるため軟体動物などでは濃度が高くなると考えられています。』(「食品中の放射性銀について教えて下さい」より)

そこで、IAEAの英文テクニカルレポート No. 422を調べてみました。

確かに軟体動物(イカ、タコ類の頭足類を除く)では、銀(Ag)の濃縮係数は魚介類で60000倍にもなることが報告されています。ただし、この資料においては、イカ・タコといった頭足綱は内臓を食べないため、その部分を除いた形でのデータしかのっていないようで、Agに関する情報はありませんでした。一つだけ注目するとすると、イカやタコはCsの濃縮係数が他の魚よりも数倍低いということです。

この表からは、一般的な魚でも10000倍程度の濃縮係数があるため、軟体動物で特に高いという事の説明はできないと思いました。

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昨年計測されたAg-110m

これまで前振りがかなり長くなってしまいましたが、それではやっと今回の資料からデータを抜き出してまとめてみましょう。実際のデータは「資料2_平成23年度海洋放射能総合評価事業海洋放射能調査結果(案)7/7 (PDF:1154KB)」に掲載されています。

実は、これ以外のAg-110mのデータはあまり報告がありません。なぜかというと、厚労省の方針では、半減期が1年以上の放射性核種を規制対象としているため、約250日のAg-110mは対象とはならないのです。

かといって、Ag-110mの測定が難しいかというとそんなことはありません。スペクトルをちゃんと見ることが出来ればCs-137・Cs-134を測定する際にピークが見えるはずなのです。ただし、機械の設定によってはAg-110mしか見えていなくてもCs-137と判断したりする事があるようです。このあたりについては「再び脚光を浴びる放射性銀(Ag110m)」のtogetterをご覧下さい。かなり技術的な話になるため、ここでは省略します。ただ、おそらく自治体ではデータは持っており、報告されれば厚労省としてもHPにそのまま備考欄で掲載しているようです。

では、その貴重なAg-110mの報告をまとめてみましょう。

その前に、確認しておくべき重要な点が一つあります。厚労省が「食品中の放射性物質の試験法について」において「試料は可食部を用いる。」と指定しています。海洋環境放射能総合評価事業においても、魚介類は基本的に肉部のみの測定となっており、内臓は測定されていません。内臓をもし測定していたらもっと違ったデータが出ているかもしれません。先ほどのATOMICAでは、肝臓を測定してかなり高い値が出ていました。

海洋環境放射能総合評価事業では、1検体ずつのデータではなく、下の表にあるようにかなりの数の検体数の平均値を記載しています。イカタコが各海域で合わせてのべ16海域あり、そのうちAg-110mが検出されたのが8海域です。これらについて、Ag-110m/Cs-137比率を計算すると、イカで1.4、タコで0.32でした。(なお、データは漁獲日に補正されていますので、現在では半減期の250日を考慮すると半分程度にはなっていることに注意が必要です。)つまり、イカやタコではCs-137とほぼ同じくらいのAg-110mが検出されると考えてよいということです

一方、それ以外の魚介類で見ると、Ag-110mが検出されたのはアイナメ、カレイなど各海域ののべ10種あり、Ag-110m/Cs-137比率を計算すると0.013となりました。Ag-110m/Cs-137比率で比較するとイカやタコはやはり他の魚介類よりもAg-110mが高めに出ていることがデータとしてもわかります。

本当は、海域ごとの比較などをしていく必要があるのですが、デー多数が少ないため、大ざっぱな傾向をつかむためにこのような比較をしてみました。

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それ以外には、私が知っている情報としては、北海道の原子力安全対策課のHPに何回かあわび、イカ、タコのAg-110mが検出されているのと、厚労省の薬事・食品衛生分科会及び薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会放射性物質対策部会合同会議(2/24)に数検体のデータがあるだけです。

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2/24の厚労省の食品衛生審議会で報告されたデータは、福島県の海域で採取されたイカなどを調べているため、Cs-137の濃度が表中の他の魚介類のデータよりも高く、そのためかAg-110mの絶対値も高くなっています。海洋環境放射能総合評価事業でも福島海域でイカをたくさん集めてくれたら良かったのですが、この調査では、各海域の代表的な魚種を数10匹集めてその平均値を出していますので、1匹だけのデータよりも信頼性はあると思います。食品衛生審議会のデータでもAg-110m/Cs-137比率は2.2および6.6と1を超えており、海洋環境放射能総合評価事業の1.4と同じレベルです。

今回のAg-110mのデータからわかることは、イカではAg-110mはCs-137よりも高くなっていた(現在は半減期を2回過ぎてしまいましたのでCs-137以下になっている可能性があります)ということです。ですが、肝臓などの内臓を食べるのでなければ、Cs-137とほぼ同レベルですから、Cs-137が不検出だったイカならばAg-110mも気にするレベルではないということが言えると思います。

ただし、内臓を食べる場合は、測定されているデータがありませんので、今回ご紹介した過去のATOMICAを参考に考えるしかありません。「食品中の放射性銀について教えて下さい」でもチェルノブイリ原発事故の時から計算すると200-300Bq/kgになる事はありうると書いてあります(質問21)。ただ、Ag-110mの実効線量線量換算係数は、Cs-137と比較して1/20程度(1/5という説もある)ということなので、Cs-137の1/10とするとCs-137の20-30Bq/kgに相当する程度ということになります。

今回は、海洋環境放射能総合評価事業の魚介類の結果から、特にAg-110mに注目して取り上げてみました。

なお、上のExcelデータはここに載せてあります。
http://tsokdba.web.fc2.com/data/Ag-110m.xlsx


終わりに

今回の記事を書くに当たり、naoさん(@parasite2006)のtogetterのまとめが資料の収集を含めて非常に参考になりました。御礼申し上げます。

あちこちで脚光を浴びる放射性銀(Ag110m)」昨年11/29
再び脚光を浴びる放射性銀(Ag110m)」6/25
続・再び脚光を浴びる放射性銀:イカタコから放射性セシウムが出ないのに放射性銀が出るのはなぜか?」6/27

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これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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