福島県のお米の放射能検査方法と公表方法の解説
今年のお米の検査も始まりました。「24年度版 お米の放射線検査情報一覧」で週に2-3回更新していますが、福島県の情報は皆さん興味があると思うので、わけて記載しようと思います。
ですが、福島県のHP(水田畑作課)に記載されていることは非常にわかりにくく、全量全袋検査を行うということ以外には正確なことは理解しにくいというのが実際です。
そこで、少し情報を整理してみました。早期出荷米の検査も終わったのでこれからは一般米の検査が始まります。是非一度これを読んでから検査データを見てもらいたいと思います。
1.昨年度の実績の復習
まず最初に、昨年度の福島県のコメからどれだけの放射性セシウムが検出されたのかを復習しておきましょう。

500Bq/kgを超えるセシウムが検出された米のニュースが大々的に報道されたためにその印象が強いと思いますが、実際のデータを冷静に見れば、10月までの本調査(サンプリング調査)では1724検体のうち約80%がND、現在の基準値の100Bq/kg以下のものは1711検体で約99%でした。500Bq/kgを超えたものはありませんでした。この結果をもって福島県知事は安全宣言を出しました。
しかしながら、その後福島市旧小国村などで500Bq/kgを超えるセシウムが検出されたため、サンプリング調査に対する不安が高まり、本調査や予備調査でNDだった地域以外全ての23240戸を対象として緊急調査が行われました(詳細は「福島県は米の緊急調査結果のとりまとめ(2/3)を発表!」参照)。その結果でも、97.5%は新基準値の100Bq/kg以下でした。100Bq/kgを超えたものはわずか2.5%だけでした。
福島県のコメは、昨年度もほとんど(97%以上)が今年の基準値の100Bq/kg以下に収まっていたのです。これが昨年度の実績です。
2.「事前出荷制限区域」って何?
福島県のHPでは、福島県を「事前出荷制限区域」と「その他の区域」に分けていると説明しています。
『「事前出荷制限区域」では、米の収穫後は、生産された全量を把握し、全量全袋検査を実施して出荷をします。
「その他の区域」では、国が定めた方法に基づきモニタリング検査を実施し、その後に全量全袋検査を実施します。』
でも、結局はどちらの場合でも全量全袋検査を行うのです。福島県のお米の信頼を取り戻すためにはそれが必要、ということで福島県が選択したことです。
どちらにおいても全量全袋検査を行うならば、事前出荷制限区域とその他の区域にわける意味がないじゃない?というのが素朴な疑問としてあるかもしれないのですが、これは今年の3月に農水省との間で取り決めたことに基づくものなのです。
事前出荷制限区域とは、3月に書いた「農水省の「24年産稲の作付制限区域の設定等について」の発表について」においてまとめてありますが、3/9に農水省が発表した「事前出荷制限の下、管理計画に基づき米の全量管理と全袋調査を行うことにより、作付を行うことができる区域」という区域になります。
つまりお米を作付けする前から出荷制限がかかっているという区域ということです。出荷制限がかかっているのですが、米の全量管理と全袋調査を行うことを条件に作付けができるのです。
念のため、誤解のないように記載しておきますが、原則的に昨年500Bq/kgを超える放射性セシウムが検出された地域(福島市旧小国村や伊達市旧小国村など)は、今年は作付け制限がかかっています。(作付け制限区域の概要は先ほどの農水省のHPがわかりやすいです。)
昨年の暫定規制値にはかからないが、今年の新規制値にはひっかかる100Bq/kg~500Bq/kgの放射性セシウムが検出された米を作った地域について、どう扱うかを今年の2月ごろに散々もめた挙げ句、このような対応となったのです。農水省としては100Bq/kgを超えるセシウムが検出されたところは原則作付け制限する、ただし条件付きで作付けを認めるという形で、ぜひとも作付けをしたいという福島県側の意向も取り入れてこのような形に落ち着いたものです。
そして、この方針に基づいて福島県が「事前出荷制限区域において産出された平成24年産米に関する福島県管理計画」を定めました。また、4/5には事前出荷制限指示が原子力災害対策本部長の野田総理から福島県知事に出されています。
この地域は、福島県では具体的にはこのような地域が対象です。


そして、7/26に福島県知事が原子力対策災害本部長(=首相)にこの事前出荷制限の条件付き解除を申請し、同日一部解除指示が出されました。
下記は解除の申請文です。

下記は出荷制限の一部解除指示の該当部分です。
(前略:途中から)

このような手続きを経て、原子力災害特別措置法に基づいた事前出荷制限は、福島県が定めた管理計画に従って管理し、全量全袋検査を行ったものに限って7/26に解除されたのです。
3.福島県での米の放射性物質検査方法
かなり長い説明でしたが、上の説明を読んだあとでこの福島県の「24年産米の放射性物質検査(PDF)」を読んでいただくと、左側の列の流れと右側の列の流れの違いがわかるかもしれません。

事前出荷制限区域では、福島県が決めた管理計画に全量全袋検査が入っていますので、それに従っての検査を行っていきます。一方、それ以外の地域では、やはり国からの求めで一部を抽出したモニタリングが要求されています。この地域については、他県と同じような考え方になります。つまり「モニタリング検査」は、今年の福島県では、作付け制限のされていない地域の中で、先ほど一覧表を出した事前出荷制限区域以外でのみ行うのです。その検査によって、100Bq/kg以下であれば出荷自粛は解除されますが、その後に福島県が独自に設けた全量全袋検査を行います。
事前出荷制限区域以外で、モニタリング検査をどのように行うか、水田畑作課の資料がありますので見てみましょう。

事前出荷制限区域以外でも、重点検査区域とそれ以外でサンプリングの個数が違うようです。ですが、注目すべきはこのサンプリングにおいても全量検査機を用いるということです。その結果、スクリーニングレベル(スクリーニングレベルについては「お米の放射能の測定装置でスクリーニングレベルって何?」参照のこと)を超える数値が出た場合にはゲルマニウム検出器を用いますが、それ以外ではゲルマニウム検出器を用いません。
モニタリング検査で問題がなければ、出荷自粛解除となり、その後に福島県が独自で行う全量全袋検査になります。しかし、当然のことながらここでも最初は全袋検査機を用います。これまでの結果の公表方法を見ても、全袋検査機での結果は、測定下限値未満(<25Bq/kg)という表示しかされません。例えば島津製作所の機器であれば11Bq/kg以下というデータを出せているのですが、「ふくしまの恵み安全対策協議会」のHPで公開される時には一律に25Bq/kg以下ということで表示されるようです。
何を言いたいかというと、今年の福島県のコメの放射性セシウムについては、ゲルマニウム検出器で測定したもの以外は全て全袋検査機の結果となり、ND(25Bq/kg未満)がいったい20Bq/kgなのか、5Bq/kgなのかがわからないということなのです。
「24年度版 お米の放射線検査情報一覧」で他県の情報を見てもらえればわかると思いますが、今年は各県ともに検出感度を上げて、5Bq/kgの放射性セシウムがあれば検出しています。昨年は合計40Bq/kg未満は検出できない県が多かったことを思うと、感度が上がっているのです。
なぜ福島県では、国で定められたモニタリング検査もゲルマニウム検出器を使わずに全量全袋機を用いるのかについて、福島県は農家あての資料で次のように説明しています。
「モニタリングでも全袋検査機器を使って行い、モニタリング期間の短縮に努めますので、モニタリングにも御協力をお願いいたします。」

出荷できるコメは早く新米として市場に出したいため、測定に時間のかかるゲルマニウム検出器を使わずに今年導入した全袋検査機を用いて行うことにしたようです。もちろん、全袋検査機でも国の定める検査基準は満たしています。
福島県は、全袋検査を行うという選択をしたので仕方ない部分はあると思いますが、ゲルマニウム検出器を用いて測定している他県のデータとは異なり全袋検査機でのデータしかないという事は頭に入れておく必要があります。
4.福島県の早期出荷米の放射性物質検査と結果
実は、上記の説明を読んだ上で9月上旬までの結果の発表を見るとさらに混乱すると思います。9/10までは早場米(早期出荷米)の検査が行われていたからです。
先ほどの水田畑作課の資料には、早期出荷米についての説明もありました。これを読むと、早期出荷米では先ほど説明したモニタリング検査は行わず、いきなり全量全袋検査を行うようです。

下の一般米の説明と比較すると、一般米では「スクリーニング検査」と書いてあるので一部の袋を検査しているが上の早期出荷米は「全量全袋検査」と書いてあるのでモニタリング検査を全量全袋検査で代用しているということがわかると思います。

実際、8/25に二本松市の14袋で始まった福島県の早期出荷米の検査は全袋検査機を用いた全量全袋検査でした。そして、早期出荷米の検査は9/13までに全て終了しました。事前出荷制限区域以外の6990袋の検査結果は、全て測定下限値未満(<25Bq/kg)でした。下の表は、HPのデータを転記して、一部別のデータを付け加えたものです。

(黄色く塗った検査日は、複数ある検査日の最終日を示します。)
5.福島県の放射性物質検査結果の公表方法
(注:以下の記述は9/15時点での情報に基づいたものです。)
上の表を見て、あれ、なんで二本松市(と本宮市)は欄外なの?と思った方がいるでしょう。実は二本松市は事前出荷制限区域なので、8/25の14袋も含めて全量全袋検査の対象なのです。従って、9/13に発表された事前出荷制限区域以外の早期出荷米の6990袋には二本松市は入っていないのです。
福島県のHPではわかりにくいのですが、事前出荷制限区域にも早期出荷米を作っているところはあります。しかし、この区域ではもともと全量全袋検査なので、事前出荷制限区域以外の早期出荷米検査の情報には集計されてこないのです。
二本松市と本宮市のデータは、福島県のHPの事前出荷制限区域の集計結果に入っています。ここでは100Bq/kg以下かどうかと最大値の情報しか載っていないため、詳細なデータは「ふくしまの恵み安全対策協議会」HPをみるようにリンクが貼られています。
9/15段階では全て測定下限値未満(<25Bq/kg)なので問題ないのですが、今後もし数値が検出される検体がたくさん出てくると、「ふくしまの恵み安全対策協議会」のHP(以下「恵み」HPと略)を見ないと詳細はわからないような形になっています。
しかし、「恵み」HPの集計は、9/15段階で9/7のデータまでしかありません。9/15段階で発表されている4300検体について、上の表の欄外に内訳を記載しました。すると、下記のことがわかりました。
・「恵み」HPに掲載されているデータは、全量全袋検査の結果である。
・事前出荷制限区域以外のデータの他に、事前出荷制限区域以外のデータも含まれている。しかし、更新が遅いためか、県のHPのデータと合わない部分もある。
・9/7までのデータにしても、事前出荷制限区域以外のデータが全て発表されているわけではない。喜多方市は9/7までに1437検体の検査が終了しているが、熱塩村の51検体しか載っていない。
・会津坂下町は、2112検体のはずなのに、2131検体の結果が載っている。これは、出荷用以外の自家消費米などの結果も入っている可能性がある。
このように、県のHPと「恵み」HPのデータは微妙に合わないのですが、よく調べるとこれは問題ではないか、と思われる事もわかってきました。
私たち消費者は、全量全袋検査の結果が全て「恵み」HPに載って公開されていると考えています。しかし、実はそうではないようなのです。
福島県のHPに「米の全量全袋検査への協力のお願い」という農家向けの資料が掲載されています。

ここに記載されているように、「恵み」HPで公開されない場合が二つあるのです。
一つは、農家が検査結果の公開に賛同しない場合。
「検査結果の公開に賛同されない方は、次の手続きをお願いします。手続きをされた方の検査結果の数値は、公表しません。」
もう一つは基準値(100Bq/kg)を超えた場合。
「卸売業者等が県産米の安全性を確認できるようにするため、米袋の識別番号と検査結果を公開します。(基準値を超えた米袋は流通しないので、公開の対象外です。)」
2番目は特に信じられなかったのですが、「恵み」のHPを見ると、確かに100Bq/kg以上という欄がありませんので、恐らく検査結果も「恵み」のHPでは公表されないのでしょう。ただし、基準値を超えたものについてはゲルマニウム検出器で測定されますので、その結果は県のHPに公表されるはずです。

全量全袋検査を行うならば、その検査結果を全て一つのデータベース上で公開するのが常識だと思います。農家が公開したくないといったから公開しないということであれば、極端なことを言うと、測定下限値未満の結果以外の米は、一切公開されない可能性があります。そうすると、全袋検査を行った結果、25Bq/kg未満のものが何%あり、25-50Bq/kgのものが何%あったのか、というような、消費者が知りたい情報は正しく公開されない可能性があるのです。
これでは、福島県のコメの安全性について消費者の信頼が得られるとは思いません。今からでも遅くありません。福島県(またはふくしまの恵み安全対策協議会)は公表の方針を改めるべきだと思います。
なお、私の理解が間違っている可能性もありますので、正確な情報をご存じの方は教えてください。福島県とふくしまの恵み安全対策協議会のHPからはどんなに丹念に読んでも、このような情報しか読み取れませんでした。
福島県のHPは、米の放射能検査についての情報をわかりやすく公開していません。これだけ複雑な事をやろうとしているのにそれを整理してわかりやすく情報発信ができなければ、必ず一般市民は混乱します。もっと丁寧な情報公開を求めたいと思います。
6.まとめ
長くなりました。今までの情報を再度まとめてみましょう。
(1)検査の状況と発表方法
早期出荷米の検査:9/13に終了した早期出荷米の検査は事前出荷制限区域および事前出荷制限区域以外の両方で行われました。
事前出荷制限区域:二本松市と本宮市では、全量全袋検査の一環として全袋検査機で測定、結果は「恵み」HPと集計結果が県HPに発表されました。
事前出荷制限区域以外:モニタリング検査を全量全袋検査として行いました。6990袋が検査され、全て測定下限値未満(<25Bq/kg)でした。結果の多くは「恵み」HPと集計結果が県HPに発表されました。
問題点:「恵み」HPの情報更新が9/7で止まっており(9/15現在)、県のHPの情報と合致していません。また、「恵み」HPには情報がどこまで公開されるのかが不透明です。
一般米の検査::一般米の検査はまだ始まったばかりです。
事前出荷制限区域:これまでと同様、全量全袋検査を行っていき、結果は「恵み」HPと集計結果が県HPに発表される予定です。
事前出荷制限区域以外:まずはモニタリング検査を一部のサンプルについて行います。その検査は全袋検査機で行います。9/11には会津坂下町の旧若宮村と高寺村、三島町の旧宮下村でモニタリング検査が終了しました。これらの地区については今後全量全袋検査を行っていきます。

(2)今年の福島県の放射能検査で懸念される点
今年の福島県では、昨年の失敗を踏まえて、サンプリング検査ではなく全量全袋検査を行うことを選択しました。福島県のコメが安全であることをアピールするためにはこの選択しかなかったと思います。一方で、この全量全袋検査を行うことにより、測定の精度は犠牲になりました。ゲルマニウム検出器を用いた検査は、全袋検査機でのスクリーニングによってスクリーニングレベルを超えたもののみに対して行われます。これは仕方がないことだと思います。
しかしながら、今の福島県のHPの情報公開を見ていると、全量全袋検査の個々の結果は「ふくしまの恵み安全対策協議会」HPで公開されることになっています。一方、このHPでの情報公開に関する県HPの説明を読んでいる限り、全量全袋検査の全ての測定結果が集計されて公表されるわけではない(一部の結果は非公表)可能性が懸念されます。
一つには、このHPの仕様を見ても100Bq/kgを超えた場合の欄が存在せず、そのような場合の結果が公開されない可能性が高いことです。100Bq/kgを超えた場合は出荷されないので公開の対象外だと県のHPには書いてありますが、「ふくしまの恵み安全対策協議会」HPは、米袋1つ1つのデータの検索機能以外に、福島県の1200万袋の全データの放射能濃度分布を集計する機能も持っているはずです。県のHPでは最大値しか発表されないようですから放射能濃度分布はわかりません。
ということは、仮に100Bq/kgを超える米があったとしてもデータとしてしっかりと集計し、公表することが福島県と「ふくしまの恵み安全対策協議会」HPに求められていると思います。それをしなければ必ず「都合の悪いデータを隠蔽している」という批判が起き、福島県のコメに対する信頼は一気になくなるでしょう。
せっかく総額で何億ものお金をかけて高い全袋検査機を導入しても、データの公開の方法を間違えれば、福島県のコメに対する信頼は得られません。「農家が公開したくないと希望をした場合は公開しない」という方針も同じです。福島県のコメに対する信頼を勝ち取るためには、測定結果は全て公開するのが大前提であり、農家に公開の有無の希望を聞くというのは私には理解できません。今年測定する予定の約1200万袋のデータは全て公開されるようにして欲しいと思います。
どういう理由でこのような方針になったのかがわかりませんが、これが私の誤解でないとするならば、今からでも撤回して、全袋のデータを公開するようにして欲しいと思います。それが消費者の多くが望んでいることだと思います。
まず最初に、昨年度の福島県のコメからどれだけの放射性セシウムが検出されたのかを復習しておきましょう。

500Bq/kgを超えるセシウムが検出された米のニュースが大々的に報道されたためにその印象が強いと思いますが、実際のデータを冷静に見れば、10月までの本調査(サンプリング調査)では1724検体のうち約80%がND、現在の基準値の100Bq/kg以下のものは1711検体で約99%でした。500Bq/kgを超えたものはありませんでした。この結果をもって福島県知事は安全宣言を出しました。
しかしながら、その後福島市旧小国村などで500Bq/kgを超えるセシウムが検出されたため、サンプリング調査に対する不安が高まり、本調査や予備調査でNDだった地域以外全ての23240戸を対象として緊急調査が行われました(詳細は「福島県は米の緊急調査結果のとりまとめ(2/3)を発表!」参照)。その結果でも、97.5%は新基準値の100Bq/kg以下でした。100Bq/kgを超えたものはわずか2.5%だけでした。
福島県のコメは、昨年度もほとんど(97%以上)が今年の基準値の100Bq/kg以下に収まっていたのです。これが昨年度の実績です。
2.「事前出荷制限区域」って何?
福島県のHPでは、福島県を「事前出荷制限区域」と「その他の区域」に分けていると説明しています。
『「事前出荷制限区域」では、米の収穫後は、生産された全量を把握し、全量全袋検査を実施して出荷をします。
「その他の区域」では、国が定めた方法に基づきモニタリング検査を実施し、その後に全量全袋検査を実施します。』
でも、結局はどちらの場合でも全量全袋検査を行うのです。福島県のお米の信頼を取り戻すためにはそれが必要、ということで福島県が選択したことです。
どちらにおいても全量全袋検査を行うならば、事前出荷制限区域とその他の区域にわける意味がないじゃない?というのが素朴な疑問としてあるかもしれないのですが、これは今年の3月に農水省との間で取り決めたことに基づくものなのです。
事前出荷制限区域とは、3月に書いた「農水省の「24年産稲の作付制限区域の設定等について」の発表について」においてまとめてありますが、3/9に農水省が発表した「事前出荷制限の下、管理計画に基づき米の全量管理と全袋調査を行うことにより、作付を行うことができる区域」という区域になります。
つまりお米を作付けする前から出荷制限がかかっているという区域ということです。出荷制限がかかっているのですが、米の全量管理と全袋調査を行うことを条件に作付けができるのです。
念のため、誤解のないように記載しておきますが、原則的に昨年500Bq/kgを超える放射性セシウムが検出された地域(福島市旧小国村や伊達市旧小国村など)は、今年は作付け制限がかかっています。(作付け制限区域の概要は先ほどの農水省のHPがわかりやすいです。)
昨年の暫定規制値にはかからないが、今年の新規制値にはひっかかる100Bq/kg~500Bq/kgの放射性セシウムが検出された米を作った地域について、どう扱うかを今年の2月ごろに散々もめた挙げ句、このような対応となったのです。農水省としては100Bq/kgを超えるセシウムが検出されたところは原則作付け制限する、ただし条件付きで作付けを認めるという形で、ぜひとも作付けをしたいという福島県側の意向も取り入れてこのような形に落ち着いたものです。
そして、この方針に基づいて福島県が「事前出荷制限区域において産出された平成24年産米に関する福島県管理計画」を定めました。また、4/5には事前出荷制限指示が原子力災害対策本部長の野田総理から福島県知事に出されています。
この地域は、福島県では具体的にはこのような地域が対象です。


そして、7/26に福島県知事が原子力対策災害本部長(=首相)にこの事前出荷制限の条件付き解除を申請し、同日一部解除指示が出されました。
下記は解除の申請文です。

下記は出荷制限の一部解除指示の該当部分です。
(前略:途中から)

このような手続きを経て、原子力災害特別措置法に基づいた事前出荷制限は、福島県が定めた管理計画に従って管理し、全量全袋検査を行ったものに限って7/26に解除されたのです。
3.福島県での米の放射性物質検査方法
かなり長い説明でしたが、上の説明を読んだあとでこの福島県の「24年産米の放射性物質検査(PDF)」を読んでいただくと、左側の列の流れと右側の列の流れの違いがわかるかもしれません。

事前出荷制限区域では、福島県が決めた管理計画に全量全袋検査が入っていますので、それに従っての検査を行っていきます。一方、それ以外の地域では、やはり国からの求めで一部を抽出したモニタリングが要求されています。この地域については、他県と同じような考え方になります。つまり「モニタリング検査」は、今年の福島県では、作付け制限のされていない地域の中で、先ほど一覧表を出した事前出荷制限区域以外でのみ行うのです。その検査によって、100Bq/kg以下であれば出荷自粛は解除されますが、その後に福島県が独自に設けた全量全袋検査を行います。
事前出荷制限区域以外で、モニタリング検査をどのように行うか、水田畑作課の資料がありますので見てみましょう。

事前出荷制限区域以外でも、重点検査区域とそれ以外でサンプリングの個数が違うようです。ですが、注目すべきはこのサンプリングにおいても全量検査機を用いるということです。その結果、スクリーニングレベル(スクリーニングレベルについては「お米の放射能の測定装置でスクリーニングレベルって何?」参照のこと)を超える数値が出た場合にはゲルマニウム検出器を用いますが、それ以外ではゲルマニウム検出器を用いません。
モニタリング検査で問題がなければ、出荷自粛解除となり、その後に福島県が独自で行う全量全袋検査になります。しかし、当然のことながらここでも最初は全袋検査機を用います。これまでの結果の公表方法を見ても、全袋検査機での結果は、測定下限値未満(<25Bq/kg)という表示しかされません。例えば島津製作所の機器であれば11Bq/kg以下というデータを出せているのですが、「ふくしまの恵み安全対策協議会」のHPで公開される時には一律に25Bq/kg以下ということで表示されるようです。
何を言いたいかというと、今年の福島県のコメの放射性セシウムについては、ゲルマニウム検出器で測定したもの以外は全て全袋検査機の結果となり、ND(25Bq/kg未満)がいったい20Bq/kgなのか、5Bq/kgなのかがわからないということなのです。
「24年度版 お米の放射線検査情報一覧」で他県の情報を見てもらえればわかると思いますが、今年は各県ともに検出感度を上げて、5Bq/kgの放射性セシウムがあれば検出しています。昨年は合計40Bq/kg未満は検出できない県が多かったことを思うと、感度が上がっているのです。
なぜ福島県では、国で定められたモニタリング検査もゲルマニウム検出器を使わずに全量全袋機を用いるのかについて、福島県は農家あての資料で次のように説明しています。
「モニタリングでも全袋検査機器を使って行い、モニタリング期間の短縮に努めますので、モニタリングにも御協力をお願いいたします。」

出荷できるコメは早く新米として市場に出したいため、測定に時間のかかるゲルマニウム検出器を使わずに今年導入した全袋検査機を用いて行うことにしたようです。もちろん、全袋検査機でも国の定める検査基準は満たしています。
福島県は、全袋検査を行うという選択をしたので仕方ない部分はあると思いますが、ゲルマニウム検出器を用いて測定している他県のデータとは異なり全袋検査機でのデータしかないという事は頭に入れておく必要があります。
4.福島県の早期出荷米の放射性物質検査と結果
実は、上記の説明を読んだ上で9月上旬までの結果の発表を見るとさらに混乱すると思います。9/10までは早場米(早期出荷米)の検査が行われていたからです。
先ほどの水田畑作課の資料には、早期出荷米についての説明もありました。これを読むと、早期出荷米では先ほど説明したモニタリング検査は行わず、いきなり全量全袋検査を行うようです。

下の一般米の説明と比較すると、一般米では「スクリーニング検査」と書いてあるので一部の袋を検査しているが上の早期出荷米は「全量全袋検査」と書いてあるのでモニタリング検査を全量全袋検査で代用しているということがわかると思います。

実際、8/25に二本松市の14袋で始まった福島県の早期出荷米の検査は全袋検査機を用いた全量全袋検査でした。そして、早期出荷米の検査は9/13までに全て終了しました。事前出荷制限区域以外の6990袋の検査結果は、全て測定下限値未満(<25Bq/kg)でした。下の表は、HPのデータを転記して、一部別のデータを付け加えたものです。

(黄色く塗った検査日は、複数ある検査日の最終日を示します。)
5.福島県の放射性物質検査結果の公表方法
(注:以下の記述は9/15時点での情報に基づいたものです。)
上の表を見て、あれ、なんで二本松市(と本宮市)は欄外なの?と思った方がいるでしょう。実は二本松市は事前出荷制限区域なので、8/25の14袋も含めて全量全袋検査の対象なのです。従って、9/13に発表された事前出荷制限区域以外の早期出荷米の6990袋には二本松市は入っていないのです。
福島県のHPではわかりにくいのですが、事前出荷制限区域にも早期出荷米を作っているところはあります。しかし、この区域ではもともと全量全袋検査なので、事前出荷制限区域以外の早期出荷米検査の情報には集計されてこないのです。
二本松市と本宮市のデータは、福島県のHPの事前出荷制限区域の集計結果に入っています。ここでは100Bq/kg以下かどうかと最大値の情報しか載っていないため、詳細なデータは「ふくしまの恵み安全対策協議会」HPをみるようにリンクが貼られています。
9/15段階では全て測定下限値未満(<25Bq/kg)なので問題ないのですが、今後もし数値が検出される検体がたくさん出てくると、「ふくしまの恵み安全対策協議会」のHP(以下「恵み」HPと略)を見ないと詳細はわからないような形になっています。
しかし、「恵み」HPの集計は、9/15段階で9/7のデータまでしかありません。9/15段階で発表されている4300検体について、上の表の欄外に内訳を記載しました。すると、下記のことがわかりました。
・「恵み」HPに掲載されているデータは、全量全袋検査の結果である。
・事前出荷制限区域以外のデータの他に、事前出荷制限区域以外のデータも含まれている。しかし、更新が遅いためか、県のHPのデータと合わない部分もある。
・9/7までのデータにしても、事前出荷制限区域以外のデータが全て発表されているわけではない。喜多方市は9/7までに1437検体の検査が終了しているが、熱塩村の51検体しか載っていない。
・会津坂下町は、2112検体のはずなのに、2131検体の結果が載っている。これは、出荷用以外の自家消費米などの結果も入っている可能性がある。
このように、県のHPと「恵み」HPのデータは微妙に合わないのですが、よく調べるとこれは問題ではないか、と思われる事もわかってきました。
私たち消費者は、全量全袋検査の結果が全て「恵み」HPに載って公開されていると考えています。しかし、実はそうではないようなのです。
福島県のHPに「米の全量全袋検査への協力のお願い」という農家向けの資料が掲載されています。

ここに記載されているように、「恵み」HPで公開されない場合が二つあるのです。
一つは、農家が検査結果の公開に賛同しない場合。
「検査結果の公開に賛同されない方は、次の手続きをお願いします。手続きをされた方の検査結果の数値は、公表しません。」
もう一つは基準値(100Bq/kg)を超えた場合。
「卸売業者等が県産米の安全性を確認できるようにするため、米袋の識別番号と検査結果を公開します。(基準値を超えた米袋は流通しないので、公開の対象外です。)」
2番目は特に信じられなかったのですが、「恵み」のHPを見ると、確かに100Bq/kg以上という欄がありませんので、恐らく検査結果も「恵み」のHPでは公表されないのでしょう。ただし、基準値を超えたものについてはゲルマニウム検出器で測定されますので、その結果は県のHPに公表されるはずです。

全量全袋検査を行うならば、その検査結果を全て一つのデータベース上で公開するのが常識だと思います。農家が公開したくないといったから公開しないということであれば、極端なことを言うと、測定下限値未満の結果以外の米は、一切公開されない可能性があります。そうすると、全袋検査を行った結果、25Bq/kg未満のものが何%あり、25-50Bq/kgのものが何%あったのか、というような、消費者が知りたい情報は正しく公開されない可能性があるのです。
これでは、福島県のコメの安全性について消費者の信頼が得られるとは思いません。今からでも遅くありません。福島県(またはふくしまの恵み安全対策協議会)は公表の方針を改めるべきだと思います。
なお、私の理解が間違っている可能性もありますので、正確な情報をご存じの方は教えてください。福島県とふくしまの恵み安全対策協議会のHPからはどんなに丹念に読んでも、このような情報しか読み取れませんでした。
福島県のHPは、米の放射能検査についての情報をわかりやすく公開していません。これだけ複雑な事をやろうとしているのにそれを整理してわかりやすく情報発信ができなければ、必ず一般市民は混乱します。もっと丁寧な情報公開を求めたいと思います。
6.まとめ
長くなりました。今までの情報を再度まとめてみましょう。
(1)検査の状況と発表方法
早期出荷米の検査:9/13に終了した早期出荷米の検査は事前出荷制限区域および事前出荷制限区域以外の両方で行われました。
事前出荷制限区域:二本松市と本宮市では、全量全袋検査の一環として全袋検査機で測定、結果は「恵み」HPと集計結果が県HPに発表されました。
事前出荷制限区域以外:モニタリング検査を全量全袋検査として行いました。6990袋が検査され、全て測定下限値未満(<25Bq/kg)でした。結果の多くは「恵み」HPと集計結果が県HPに発表されました。
問題点:「恵み」HPの情報更新が9/7で止まっており(9/15現在)、県のHPの情報と合致していません。また、「恵み」HPには情報がどこまで公開されるのかが不透明です。
一般米の検査::一般米の検査はまだ始まったばかりです。
事前出荷制限区域:これまでと同様、全量全袋検査を行っていき、結果は「恵み」HPと集計結果が県HPに発表される予定です。
事前出荷制限区域以外:まずはモニタリング検査を一部のサンプルについて行います。その検査は全袋検査機で行います。9/11には会津坂下町の旧若宮村と高寺村、三島町の旧宮下村でモニタリング検査が終了しました。これらの地区については今後全量全袋検査を行っていきます。

(2)今年の福島県の放射能検査で懸念される点
今年の福島県では、昨年の失敗を踏まえて、サンプリング検査ではなく全量全袋検査を行うことを選択しました。福島県のコメが安全であることをアピールするためにはこの選択しかなかったと思います。一方で、この全量全袋検査を行うことにより、測定の精度は犠牲になりました。ゲルマニウム検出器を用いた検査は、全袋検査機でのスクリーニングによってスクリーニングレベルを超えたもののみに対して行われます。これは仕方がないことだと思います。
しかしながら、今の福島県のHPの情報公開を見ていると、全量全袋検査の個々の結果は「ふくしまの恵み安全対策協議会」HPで公開されることになっています。一方、このHPでの情報公開に関する県HPの説明を読んでいる限り、全量全袋検査の全ての測定結果が集計されて公表されるわけではない(一部の結果は非公表)可能性が懸念されます。
一つには、このHPの仕様を見ても100Bq/kgを超えた場合の欄が存在せず、そのような場合の結果が公開されない可能性が高いことです。100Bq/kgを超えた場合は出荷されないので公開の対象外だと県のHPには書いてありますが、「ふくしまの恵み安全対策協議会」HPは、米袋1つ1つのデータの検索機能以外に、福島県の1200万袋の全データの放射能濃度分布を集計する機能も持っているはずです。県のHPでは最大値しか発表されないようですから放射能濃度分布はわかりません。
ということは、仮に100Bq/kgを超える米があったとしてもデータとしてしっかりと集計し、公表することが福島県と「ふくしまの恵み安全対策協議会」HPに求められていると思います。それをしなければ必ず「都合の悪いデータを隠蔽している」という批判が起き、福島県のコメに対する信頼は一気になくなるでしょう。
せっかく総額で何億ものお金をかけて高い全袋検査機を導入しても、データの公開の方法を間違えれば、福島県のコメに対する信頼は得られません。「農家が公開したくないと希望をした場合は公開しない」という方針も同じです。福島県のコメに対する信頼を勝ち取るためには、測定結果は全て公開するのが大前提であり、農家に公開の有無の希望を聞くというのは私には理解できません。今年測定する予定の約1200万袋のデータは全て公開されるようにして欲しいと思います。
どういう理由でこのような方針になったのかがわかりませんが、これが私の誤解でないとするならば、今からでも撤回して、全袋のデータを公開するようにして欲しいと思います。それが消費者の多くが望んでいることだと思います。
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