放射能汚染水情報アップデート ALPSの稼働をめぐる部分最適の是非(2)
「放射能汚染水情報アップデート ALPSの稼働をめぐる部分最適の是非(1)」の続きです。
ここからは、なぜ多核種除去設備(ALPS:Advanced Liquid Processing System)の稼働が遅れているのか、その理由について詳細にみていきたいと思います。
4.ALPSの運用に向けた試験の現況
「9月に導入予定の多核種除去設備とはどんなもので何が出来るのか?」においてALPSの基本的な事項は全て記載したので詳細はくり返しませんが、昨年6月以降の新しい情報をいくつか追加します。
ALPSにはA、B、Cの3系統あり、それぞれに前処理設備と吸着塔があります。そして、どちらにおいても吸着させた放射性物質を大量に含む廃棄物が出ます。それを収納するのが高性能容器(HIC:High Integrity Container)なのです。HICの耐久性が現在一番の問題となっているのです。

2012年6/25 政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第7回会合)資料より
用途としてはスラッジ(汚泥)用のHICと吸着材用のHICに分かれますが、HICの材質はどれもポリエチレンで同じです。年間約500個のHICが出てくる予想です。アメリカのBarnwell処分場での使用実績(1998年~2008年)もあり、今回初めて用いるものではありません。

2012年6/25 政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第7回会合)資料より
昨年9/24の政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第10回)では、ALPSの試験状況が報告されています。まず核種の除去性能ですが、試験装置を用いた実験では、対象としている62核種の全て(トリチウムは含まず)について告示濃度という法規制濃度以下を満たし、さらに検出限界値未満になっていることを確認しました。


昨年9/24 政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第10回)資料より
次に、設置したALPSで放射性物質を含まない試験用の水を用いてコールド試験を行い、漏洩などシステムの問題点を確認しました。

昨年9/24 政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第10回)資料より
その結果、35の細かい問題点が出てきました。試験結果を保安院に報告したところ、7項目の指摘事項が出たため、東電としてはこれらに対応した上でホット試験、すなわち実際に放射性物質を含む放射能汚染水を用いてテストを行う予定でした。

昨年9/24 政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第10回)資料より
しかし、このホット試験を行うための条件である7項目の保安院の指摘事項のうち、5番目の「漏えいを早期検知し、必要な対応ができるよう万全の体制を敷くこと。HICは漏えいするものとして適切に監視すること」ということの対応が引っかかってしまいました。ちょうど保安院が原子力規制庁に切り替わったこともあり、書類の提出先は原子力規制庁に変わりました。
詳細を知りたい方は最後のリンク集を読んでいただくとして、概略を述べると以下のようになります。
HICは、クレーンを用いて持ち上げて移送作業を行います。その作業の際に、万が一HICが落下したらどうするのか、そしてそもそも落下しても容器が壊れないようにするべきではないか?という注文が原子力規制庁から出て、その対応のために何回も落下試験を行っています。
例えば、4.5mからの落下では不十分であるから6mの高さから落下試験を行うように、とか、まっすぐ落ちるとは限らないので、斜めに落としてみた時どうなるか調べろといった注文です。そうやって行った試験で内容物がもれた場合があり、新たな補強をして対応しています。
最新の状況としては、昨年12/17に東電のHPに発表されていますが、HICの追加落下試験で内容物のモレがあったために対応策を考案するという状況です。


(昨年12/17 東電HPより)
従って、今後も東電と原子力規制庁のやり取りが続くものと思われます。昨年12/25に出された下記の資料を見ても、ホット試験がまだ始まっていないので、このホット試験を4ヶ月間行い、その後にホット試験で見つかった課題への対応を終えて初めて実運用が開始できるという状態です。補強体の改造後の試験を1月に行い、2月中にホット試験を開始できたとしても、実運用開始は5月以降になると思われます。

第13回政府・東京電力中長期対策会議運営会議【資料3】個別の計画毎の検討・実施状況より
5.部分最適と全体最適
今回の東電と保安院および原子力規制庁のやりとりを見ていて、何か違うと思ったのは私だけではなかったようです。昨年12/23の福島民報には会津大学長 角山茂章さんのコメントが載っていましたが、まさにその通りと思います。
『ALPSはトリチウム以外の全ての放射性核種を検出限界以下まで除去できる。発電所全体の安全管理が容易になり、地震や津波が今後起きても対応しやすい。東電は10月からの運転を期待していたようだ。しかし、最終的に出る高い放射能を含んだ残りかすをコンパクトに保管するポリエチレン容器に関わる安全性について、原子力規制委員会が各種の試験や付帯設備の追加を要求しており、いまだに動いていない。
・・・(中略)・・・
現在のプラント全体の状況を見ると、ALPSの運転は重要度の高い対策の一つだ。部分的に最善を尽くすあまり、プラント全体の最善がおろそかになってはいけない。原子力安全委員会から原子力規制委員会に制度が変わり、国民は規制の質の変化を期待している。現場全体を総合的に見た、戦略的でタイムリーな規制を期待する。』
(昨年12/23の福島民報より引用)
原子力規制庁の担当者の言っていることは決して間違っていません。HICのポリエチレン容器の安全性が高められるならば、その対応策は取った方がいいに決まっています。しかしこれはあくまで「部分最適」です。
そもそも保安院のコメントとして「漏えいを早期検知し、必要な対応ができるよう万全の体制を敷くこと。HICは漏えいするものとして適切に監視すること」と言っていたはずです。ところがいつの間にか、「HICは漏洩するものとして」が「いかなる条件で落下してもHICが破損しないこと及びHICの内容物が漏えいしないことを解析で確認する必要があること」(11/21の原子力規制庁のコメント)にすり替わっています。
さらにこの時のコメントでは、「HICによる移送方法が不可能な場合は、HICを使用しない移送方法を検討する必要があることを改めて伝えるとともに、東京電力(株)社内でも多核種除去設備における安全性について、経営層も含め、再度検討するよう指摘した。」(11/21の原子力規制庁のコメント)となっており、担当部署だけではなく経営トップレベルも含めた判断をするように求めています。
「HICは漏洩するものとして適切に監視すること」と言った原子力保安院のコメントは正しいと思います。どんなに漏れないように対策を取っても、想定外の事態は起こりうるものです。そうではなく、例え漏れたとしても確実に外部に漏洩しないような手立てをとることが重要です。これでいろいろと注文をつけて対応し、規制庁が最終的にGoを出しても、絶対にHICからの漏洩事故が起こらないという保証はないのです。現在の原子力規制庁の求めていることは、福島原発事故から何も学んでいないと思います。
HICの耐久性ですでに2ヶ月近くやり取りをしているのです。この間にも毎日400トンの水が建屋地下に流入してきています。これらは全て(2ヶ月分で400×60=24,000トン)放射能汚染水の増加となり、濃縮塩水用タンクを増設しないといけなくなるのです。さらに、年明けにはもう地下貯水槽を濃縮塩水用タンクとして流用せざるを得ない状況にまで追い込まれているのです。ここでさらに細かい安全性を追求することが福島原発事故の収拾及び廃炉作業にとって本当に「全体最適」なことかどうか、原子力規制庁あるいは原子力規制委員会は全体を見た上での総合的な判断をするべきと私は思います。
全体最適を考えた上での判断とはどういうものか、ぜひ皆さんにも考えていただきたいと思います。
6.リンク集
最後に、保安院のころからのALPSに関する一連の情報へのリンクを載せておきます。なお、このリンク集の作成にあたり、コンタンさんの「多核種除去設備(ALPS)はいつから運用できるのか?」にはお世話になりました。御礼申し上げます。
なお、
【規制庁】は原子力規制庁の「原子力規制委員会 被規制者等との面談」
【意見聴取会】は保安院の「東京電力福島第一原子力発電所における中期的な安全確保及び信頼性向上に係る意見聴取会」
【運営会議】は「政府・東京電力中長期対策会議運営会議」
【東電】は東京電力HP
を示します。
【運営会議】2012年1/23 多核種除去設備の設置について(PDF形式:551KB)
ALPSの構想が初めて明らかになった。
【運営会議】2/27 汚染水処理設備の信頼性向上工事について(PDF形式:167KB)
汚染水循環処理システムのSARRYの追加工事
【運営会議】2/27 多核種除去設備について(PDF形式:315KB)
ALPSの多核種除去の性能についてのデータ
【運営会議】3/28 多核種除去設備について(PDF形式:209KB)
ALPSの多核種除去の性能についてのデータの追加(Srも告示濃度以下、ただし検出された)
【運営会議】6/25 多核種除去設備(ALPS)確証試験、設置工事の状況及び廃棄物の性状について(PDF形式:506KB)
ALPSの工事開始状況、HICについて初めて言及
【運営会議】7/30 多核種除去設備(ALPS)確証試験及び設備設計の状況(PDF形式:465KB)
ALPS設置工事の状況および確証試験のデータ(まだSrは告示濃度以下だが検出)
【意見聴取会】8/9 第一回意見聴取会 多核種除去設備の設置等に係る施設運営計画(その1)(その3)の変更について(PDF形式(1.52mb))
ALPS設置に伴う「施設運営計画(その3)」をどう変更するかということの説明
【意見聴取会】8/15 第二回意見聴取会 第1回意見聴取会「多核種除去設備・地下貯水槽・地下水バイパス等」の変更に対する委員等からのコメントへの回答(PDF形式(698kb))
第一回意見聴取会で出た委員や保安院の質問とそれに対する回答
【運営会議】8/27 多核種除去設備(ALPS)確証試験の状況(PDF形式:425KB)
【運営会議】8/27 滞留水処理水発生量のシミュレーション及び貯留タンク増設について(PDF形式:818KB)
【運営会議】8/27 タンク増設計画について(PDF形式:443KB)
ALPS確証試験の結果や工事の進捗、タンク増設計画について
【意見聴取会】9/5 第三回意見聴取会 第2回意見聴取会「多核種除去設備・地下貯水槽・地下水バイパス等」に対する委員等からのコメントへの回答(PDF形式(2.0mb))
第2回意見聴取会で出た質問に対する回答
【意見聴取会】9/5 第三回意見聴取会 多核種除去設備に係る論点整理について(案)(PDF形式(122kb))
保安院の7つのコメント
その他にも意見聴取会の資料はありますので興味のある方は3回分の資料をご覧になって下さい。
9/17 原子力規制庁発足
【運営会議】9/24 多核種除去設備(ALPS)の進捗状況(PDF形式:210KB)
ALPS確証試験の結果(Srも検出限界値未満)や、コールド試験の概要
【規制庁】9/27 多核種除去設備(ALPS)の進捗状況
議事要旨 資料
コールド試験で発見された不適合の具体的な対応策がないため、再度説明を要求
【規制庁】10/2 多核種除去設備(ALPS)のホット試験(実廃液を用いた試験)実施に向けた検討状況について
議事要旨 資料
HICからの漏えいに対する監視、対策、HIC の構造強度の確認状況等について、具体的な内容が含まれていないので補足資料を要求
【規制庁】10/12 多核種除去設備(ALPS)のホット試験(実廃液を用いた試験)実施に向けた検討状況について
議事要旨 資料
ホット試験の具体的な試験計画を要求
【規制庁】10/16 多核種除去設備(ALPS)のホット試験(実廃液を用いた試験)実施に向けた検討状況について
議事要旨 資料
ホット試験における詳細なプロセスフローを要求。設備エリア内で漏えいが発生した場合、緊急停止させる場合の確認位置と停止方法を要求、など。
【規制庁】10/17 多核種除去設備(ALPS)のホット試験(実廃液を用いた試験)実施に向けた検討状況について
議事要旨 資料
A系列でまずホット試験を行い、B、C系列はA系列の試験終了後に評価する。
【規制庁】10/19「中期的安全確保の考え方」に基づく施設運営計画に係る報告書(その1)
【規制庁】10/19「中期的安全確保の考え方」に基づく施設運営計画に係る報告書(その2)
【規制庁】10/19「中期的安全確保の考え方」に基づく施設運営計画に係る報告書(その3)
(その3)の5.を抜き出したファイルがこれ。5. 放射性液体廃棄物処理施設及び関連施設
多核種除去設備(ALPS)に関する全体的なことが記載されている。
【運営会議】10/22 多核種除去設備(ALPS)のホット試験開始に向けた対応(PDF形式:626KB)
ホット試験に向けた準備状況の説明
【規制庁】10/22 福島第一原子力発電所第1~4号機に対する「中期的安全確保の考え方」に基づく施設運営計画に係る報告書」の変更ならびに補正における汚染水を用いた通水試験(ホット試験)の実施について
議事要旨
「施設運営計画にかかる報告書(その3)」変更に伴う9つのコメント。10/20の落下試験結果について文書での提出を求める。
【規制庁】10/24 福島第一原子力発電所第1~4号機に対する「中期的安全確保の考え方」に基づく施設運営計画に係る報告書(その3)(改訂)の補正内容についてのコメント回答
議事要旨 資料
10/22の9つのコメントに対する東電からの回答。10/20の落下試験結果について文書での提出を求める。
【規制庁】10/30 ホット試験における高性能容器(HIC)落下時の評価について(検討状況報告)
議事要旨 資料
3mと4.5mでの落下試験の検討状況報告と質疑
【規制庁】11/1 ホット試験における高性能容器(HIC)落下時の評価について(検討状況報告)
議事要旨 資料
落下試験時の検討結果と運用方法の説明。HICの温度評価の評価条件を要求。
【規制庁】11/5 ホット試験における高性能容器(HIC)落下時の評価について(検討状況報告)
議事要旨 資料
HICの温度評価の評価条件の説明を受けた。
【規制庁】11/12 多核種除去設備に関するコメント回答
議事要旨 資料
11/9に規制庁が出したコメントに対する回答。6mと3mで鋼板に対して落下試験を行い、漏洩が発生。さらに多くの要求をする。
【規制庁】11/19 多核種除去設備に関するコメント回答
議事要旨 資料
HICが傾いて落下した場合の試験や、複数回の試験を要求。
【規制庁】11/21 多核種除去設備に関するコメント回答
議事要旨 資料
11/19の要求を再度要求し、経営層の関与も求めた。
【規制庁】11/28 福島第一原子力発電所に係る滞留水処理チームミーティングについて
議事要旨 資料
他の議題と共にALPSの進捗状況についても説明、質疑
【運営会議】12/3 多核種除去設備ホット試験開始に向けた対応(PDF形式:438KB)
HICの落下試験の進捗報告
【規制庁】12/4 高性能容器(HIC)の落下に関する健全性評価の検討状況について
議事要旨 資料
HICが斜めに落ちた場合の落下試験などを要求
【東電】 12/17 多核種除去設備 HIC落下試験実施状況について
斜めに落としたり角棒上へ落としたら漏洩が発生
【東電】 12/25 【資料3】個別の計画毎の検討・実施状況(他の話題と一緒のファイル)
※第13回運営会議は経産省HPへの掲載がまにあわないため、東電HPの資料で代用
追加落下試験で斜めに落としたり角棒上仁尾とした場合の対応策を追加
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「9月に導入予定の多核種除去設備とはどんなもので何が出来るのか?」においてALPSの基本的な事項は全て記載したので詳細はくり返しませんが、昨年6月以降の新しい情報をいくつか追加します。
ALPSにはA、B、Cの3系統あり、それぞれに前処理設備と吸着塔があります。そして、どちらにおいても吸着させた放射性物質を大量に含む廃棄物が出ます。それを収納するのが高性能容器(HIC:High Integrity Container)なのです。HICの耐久性が現在一番の問題となっているのです。

2012年6/25 政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第7回会合)資料より
用途としてはスラッジ(汚泥)用のHICと吸着材用のHICに分かれますが、HICの材質はどれもポリエチレンで同じです。年間約500個のHICが出てくる予想です。アメリカのBarnwell処分場での使用実績(1998年~2008年)もあり、今回初めて用いるものではありません。

2012年6/25 政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第7回会合)資料より
昨年9/24の政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第10回)では、ALPSの試験状況が報告されています。まず核種の除去性能ですが、試験装置を用いた実験では、対象としている62核種の全て(トリチウムは含まず)について告示濃度という法規制濃度以下を満たし、さらに検出限界値未満になっていることを確認しました。


昨年9/24 政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第10回)資料より
次に、設置したALPSで放射性物質を含まない試験用の水を用いてコールド試験を行い、漏洩などシステムの問題点を確認しました。

昨年9/24 政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第10回)資料より
その結果、35の細かい問題点が出てきました。試験結果を保安院に報告したところ、7項目の指摘事項が出たため、東電としてはこれらに対応した上でホット試験、すなわち実際に放射性物質を含む放射能汚染水を用いてテストを行う予定でした。

昨年9/24 政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第10回)資料より
しかし、このホット試験を行うための条件である7項目の保安院の指摘事項のうち、5番目の「漏えいを早期検知し、必要な対応ができるよう万全の体制を敷くこと。HICは漏えいするものとして適切に監視すること」ということの対応が引っかかってしまいました。ちょうど保安院が原子力規制庁に切り替わったこともあり、書類の提出先は原子力規制庁に変わりました。
詳細を知りたい方は最後のリンク集を読んでいただくとして、概略を述べると以下のようになります。
HICは、クレーンを用いて持ち上げて移送作業を行います。その作業の際に、万が一HICが落下したらどうするのか、そしてそもそも落下しても容器が壊れないようにするべきではないか?という注文が原子力規制庁から出て、その対応のために何回も落下試験を行っています。
例えば、4.5mからの落下では不十分であるから6mの高さから落下試験を行うように、とか、まっすぐ落ちるとは限らないので、斜めに落としてみた時どうなるか調べろといった注文です。そうやって行った試験で内容物がもれた場合があり、新たな補強をして対応しています。
最新の状況としては、昨年12/17に東電のHPに発表されていますが、HICの追加落下試験で内容物のモレがあったために対応策を考案するという状況です。


(昨年12/17 東電HPより)
従って、今後も東電と原子力規制庁のやり取りが続くものと思われます。昨年12/25に出された下記の資料を見ても、ホット試験がまだ始まっていないので、このホット試験を4ヶ月間行い、その後にホット試験で見つかった課題への対応を終えて初めて実運用が開始できるという状態です。補強体の改造後の試験を1月に行い、2月中にホット試験を開始できたとしても、実運用開始は5月以降になると思われます。

第13回政府・東京電力中長期対策会議運営会議【資料3】個別の計画毎の検討・実施状況より
5.部分最適と全体最適
今回の東電と保安院および原子力規制庁のやりとりを見ていて、何か違うと思ったのは私だけではなかったようです。昨年12/23の福島民報には会津大学長 角山茂章さんのコメントが載っていましたが、まさにその通りと思います。
『ALPSはトリチウム以外の全ての放射性核種を検出限界以下まで除去できる。発電所全体の安全管理が容易になり、地震や津波が今後起きても対応しやすい。東電は10月からの運転を期待していたようだ。しかし、最終的に出る高い放射能を含んだ残りかすをコンパクトに保管するポリエチレン容器に関わる安全性について、原子力規制委員会が各種の試験や付帯設備の追加を要求しており、いまだに動いていない。
・・・(中略)・・・
現在のプラント全体の状況を見ると、ALPSの運転は重要度の高い対策の一つだ。部分的に最善を尽くすあまり、プラント全体の最善がおろそかになってはいけない。原子力安全委員会から原子力規制委員会に制度が変わり、国民は規制の質の変化を期待している。現場全体を総合的に見た、戦略的でタイムリーな規制を期待する。』
(昨年12/23の福島民報より引用)
原子力規制庁の担当者の言っていることは決して間違っていません。HICのポリエチレン容器の安全性が高められるならば、その対応策は取った方がいいに決まっています。しかしこれはあくまで「部分最適」です。
そもそも保安院のコメントとして「漏えいを早期検知し、必要な対応ができるよう万全の体制を敷くこと。HICは漏えいするものとして適切に監視すること」と言っていたはずです。ところがいつの間にか、「HICは漏洩するものとして」が「いかなる条件で落下してもHICが破損しないこと及びHICの内容物が漏えいしないことを解析で確認する必要があること」(11/21の原子力規制庁のコメント)にすり替わっています。
さらにこの時のコメントでは、「HICによる移送方法が不可能な場合は、HICを使用しない移送方法を検討する必要があることを改めて伝えるとともに、東京電力(株)社内でも多核種除去設備における安全性について、経営層も含め、再度検討するよう指摘した。」(11/21の原子力規制庁のコメント)となっており、担当部署だけではなく経営トップレベルも含めた判断をするように求めています。
「HICは漏洩するものとして適切に監視すること」と言った原子力保安院のコメントは正しいと思います。どんなに漏れないように対策を取っても、想定外の事態は起こりうるものです。そうではなく、例え漏れたとしても確実に外部に漏洩しないような手立てをとることが重要です。これでいろいろと注文をつけて対応し、規制庁が最終的にGoを出しても、絶対にHICからの漏洩事故が起こらないという保証はないのです。現在の原子力規制庁の求めていることは、福島原発事故から何も学んでいないと思います。
HICの耐久性ですでに2ヶ月近くやり取りをしているのです。この間にも毎日400トンの水が建屋地下に流入してきています。これらは全て(2ヶ月分で400×60=24,000トン)放射能汚染水の増加となり、濃縮塩水用タンクを増設しないといけなくなるのです。さらに、年明けにはもう地下貯水槽を濃縮塩水用タンクとして流用せざるを得ない状況にまで追い込まれているのです。ここでさらに細かい安全性を追求することが福島原発事故の収拾及び廃炉作業にとって本当に「全体最適」なことかどうか、原子力規制庁あるいは原子力規制委員会は全体を見た上での総合的な判断をするべきと私は思います。
全体最適を考えた上での判断とはどういうものか、ぜひ皆さんにも考えていただきたいと思います。
6.リンク集
最後に、保安院のころからのALPSに関する一連の情報へのリンクを載せておきます。なお、このリンク集の作成にあたり、コンタンさんの「多核種除去設備(ALPS)はいつから運用できるのか?」にはお世話になりました。御礼申し上げます。
なお、
【規制庁】は原子力規制庁の「原子力規制委員会 被規制者等との面談」
【意見聴取会】は保安院の「東京電力福島第一原子力発電所における中期的な安全確保及び信頼性向上に係る意見聴取会」
【運営会議】は「政府・東京電力中長期対策会議運営会議」
【東電】は東京電力HP
を示します。
【運営会議】2012年1/23 多核種除去設備の設置について(PDF形式:551KB)
ALPSの構想が初めて明らかになった。
【運営会議】2/27 汚染水処理設備の信頼性向上工事について(PDF形式:167KB)
汚染水循環処理システムのSARRYの追加工事
【運営会議】2/27 多核種除去設備について(PDF形式:315KB)
ALPSの多核種除去の性能についてのデータ
【運営会議】3/28 多核種除去設備について(PDF形式:209KB)
ALPSの多核種除去の性能についてのデータの追加(Srも告示濃度以下、ただし検出された)
【運営会議】6/25 多核種除去設備(ALPS)確証試験、設置工事の状況及び廃棄物の性状について(PDF形式:506KB)
ALPSの工事開始状況、HICについて初めて言及
【運営会議】7/30 多核種除去設備(ALPS)確証試験及び設備設計の状況(PDF形式:465KB)
ALPS設置工事の状況および確証試験のデータ(まだSrは告示濃度以下だが検出)
【意見聴取会】8/9 第一回意見聴取会 多核種除去設備の設置等に係る施設運営計画(その1)(その3)の変更について(PDF形式(1.52mb))
ALPS設置に伴う「施設運営計画(その3)」をどう変更するかということの説明
【意見聴取会】8/15 第二回意見聴取会 第1回意見聴取会「多核種除去設備・地下貯水槽・地下水バイパス等」の変更に対する委員等からのコメントへの回答(PDF形式(698kb))
第一回意見聴取会で出た委員や保安院の質問とそれに対する回答
【運営会議】8/27 多核種除去設備(ALPS)確証試験の状況(PDF形式:425KB)
【運営会議】8/27 滞留水処理水発生量のシミュレーション及び貯留タンク増設について(PDF形式:818KB)
【運営会議】8/27 タンク増設計画について(PDF形式:443KB)
ALPS確証試験の結果や工事の進捗、タンク増設計画について
【意見聴取会】9/5 第三回意見聴取会 第2回意見聴取会「多核種除去設備・地下貯水槽・地下水バイパス等」に対する委員等からのコメントへの回答(PDF形式(2.0mb))
第2回意見聴取会で出た質問に対する回答
【意見聴取会】9/5 第三回意見聴取会 多核種除去設備に係る論点整理について(案)(PDF形式(122kb))
保安院の7つのコメント
その他にも意見聴取会の資料はありますので興味のある方は3回分の資料をご覧になって下さい。
9/17 原子力規制庁発足
【運営会議】9/24 多核種除去設備(ALPS)の進捗状況(PDF形式:210KB)
ALPS確証試験の結果(Srも検出限界値未満)や、コールド試験の概要
【規制庁】9/27 多核種除去設備(ALPS)の進捗状況
議事要旨 資料
コールド試験で発見された不適合の具体的な対応策がないため、再度説明を要求
【規制庁】10/2 多核種除去設備(ALPS)のホット試験(実廃液を用いた試験)実施に向けた検討状況について
議事要旨 資料
HICからの漏えいに対する監視、対策、HIC の構造強度の確認状況等について、具体的な内容が含まれていないので補足資料を要求
【規制庁】10/12 多核種除去設備(ALPS)のホット試験(実廃液を用いた試験)実施に向けた検討状況について
議事要旨 資料
ホット試験の具体的な試験計画を要求
【規制庁】10/16 多核種除去設備(ALPS)のホット試験(実廃液を用いた試験)実施に向けた検討状況について
議事要旨 資料
ホット試験における詳細なプロセスフローを要求。設備エリア内で漏えいが発生した場合、緊急停止させる場合の確認位置と停止方法を要求、など。
【規制庁】10/17 多核種除去設備(ALPS)のホット試験(実廃液を用いた試験)実施に向けた検討状況について
議事要旨 資料
A系列でまずホット試験を行い、B、C系列はA系列の試験終了後に評価する。
【規制庁】10/19「中期的安全確保の考え方」に基づく施設運営計画に係る報告書(その1)
【規制庁】10/19「中期的安全確保の考え方」に基づく施設運営計画に係る報告書(その2)
【規制庁】10/19「中期的安全確保の考え方」に基づく施設運営計画に係る報告書(その3)
(その3)の5.を抜き出したファイルがこれ。5. 放射性液体廃棄物処理施設及び関連施設
多核種除去設備(ALPS)に関する全体的なことが記載されている。
【運営会議】10/22 多核種除去設備(ALPS)のホット試験開始に向けた対応(PDF形式:626KB)
ホット試験に向けた準備状況の説明
【規制庁】10/22 福島第一原子力発電所第1~4号機に対する「中期的安全確保の考え方」に基づく施設運営計画に係る報告書」の変更ならびに補正における汚染水を用いた通水試験(ホット試験)の実施について
議事要旨
「施設運営計画にかかる報告書(その3)」変更に伴う9つのコメント。10/20の落下試験結果について文書での提出を求める。
【規制庁】10/24 福島第一原子力発電所第1~4号機に対する「中期的安全確保の考え方」に基づく施設運営計画に係る報告書(その3)(改訂)の補正内容についてのコメント回答
議事要旨 資料
10/22の9つのコメントに対する東電からの回答。10/20の落下試験結果について文書での提出を求める。
【規制庁】10/30 ホット試験における高性能容器(HIC)落下時の評価について(検討状況報告)
議事要旨 資料
3mと4.5mでの落下試験の検討状況報告と質疑
【規制庁】11/1 ホット試験における高性能容器(HIC)落下時の評価について(検討状況報告)
議事要旨 資料
落下試験時の検討結果と運用方法の説明。HICの温度評価の評価条件を要求。
【規制庁】11/5 ホット試験における高性能容器(HIC)落下時の評価について(検討状況報告)
議事要旨 資料
HICの温度評価の評価条件の説明を受けた。
【規制庁】11/12 多核種除去設備に関するコメント回答
議事要旨 資料
11/9に規制庁が出したコメントに対する回答。6mと3mで鋼板に対して落下試験を行い、漏洩が発生。さらに多くの要求をする。
【規制庁】11/19 多核種除去設備に関するコメント回答
議事要旨 資料
HICが傾いて落下した場合の試験や、複数回の試験を要求。
【規制庁】11/21 多核種除去設備に関するコメント回答
議事要旨 資料
11/19の要求を再度要求し、経営層の関与も求めた。
【規制庁】11/28 福島第一原子力発電所に係る滞留水処理チームミーティングについて
議事要旨 資料
他の議題と共にALPSの進捗状況についても説明、質疑
【運営会議】12/3 多核種除去設備ホット試験開始に向けた対応(PDF形式:438KB)
HICの落下試験の進捗報告
【規制庁】12/4 高性能容器(HIC)の落下に関する健全性評価の検討状況について
議事要旨 資料
HICが斜めに落ちた場合の落下試験などを要求
【東電】 12/17 多核種除去設備 HIC落下試験実施状況について
斜めに落としたり角棒上へ落としたら漏洩が発生
【東電】 12/25 【資料3】個別の計画毎の検討・実施状況(他の話題と一緒のファイル)
※第13回運営会議は経産省HPへの掲載がまにあわないため、東電HPの資料で代用
追加落下試験で斜めに落としたり角棒上仁尾とした場合の対応策を追加
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