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福島県と農水省が1/24にまとめた米の放射能についてのまとめ(1)

 
1/24、福島県農業振興課・農林地再生対策室のHPに「放射性セシウム濃度の高い米が発生する要因とその対策について」という資料が掲載されました。

今回の資料は、昨年行われた各種調査の結果をまとめたものです。非常に広範囲にわたる研究の結果がまとめられています。掲載されているデータは非常にクリアな結果を示すもので、これまでも言われていた土壌中の交換性カリウム濃度の重要性を裏付けるものでした。

報告は、

1.24年産米の放射性物質検査の結果
2.作付制限・自粛区域での試験栽培の結果
3.玄米中の放射性セシウム濃度に影響する要因
4.24年産で基準を超過した米が生産された要因の解析
5.総括

と分かれています。解説がそれぞれのページにあり、読めばわかるように書いてあるのですが、私なりの補足も加えて、これから2回にわたって解説しようと思います。

1.24年産の米の放射性物質検査の結果

これについてはこのブログでは「「ふくしまの恵み安全対策協議会」HPで公開されている最新情報」で昨年9月以降ずっと毎日情報を更新してきましたので、ご存じの方も多いでしょう。

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(福島県HP「放射性セシウム濃度の高い米が発生する要因とその対策について」より:このあとも図は全て同じサイトより引用)

昨年末までで全量全袋検査は1000万検体に達しました。その中で基準値(100Bq/kg)超えはわずか71袋でした。

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上のグラフは昨年の緊急調査との比較です。緊急調査については以前「福島県は米の緊急調査結果のとりまとめ(2/3)を発表!」にまとめたので詳細はそちらを見ていただきたいのですが、2011年のサンプリング検査でNDでなかった地域全ての農家23240戸から1袋(以上)をGe検出器で確定検査を行いました。2万検体以上あったため、2ヶ月近く要しました。

今回このグラフを見る時に一つだけ注意していただきたいのは、2011年の緊急調査はGe検出器による確定検査であるのに対し、昨年の結果は全袋検査機によるスクリーニング検査とGe検出器による確定検査が混ざっているものであるということです。100Bq/kgを超える結果についてはGe検出器の結果だと思いますが、50Bq/kg以下の2,989,264検体というのは間違いなく全袋検査機によるスクリーニング検査の結果です。Ge検出器では短い期間で300万検体も検査できませんので。

その違いを理解した上で見ていただければ、単純に比較できない部分があるものの、2011年よりも2012年の方が50Bq/kgを超えるセシウムを含む米は少ないということがわかると思います。

上の二つのグラフは、昨年の福島県のカリウム施肥などの指導( 「農作物の放射性セシウム対策に係る除染及び技術対策指針」 第1版など)の結果であると考えられます。


2.作付制限・自粛区域での試験栽培の結果

「24年産の米の作付制限・自粛区域内における400カ所のほ場でカリ施肥などの吸収抑制対策を実施し試験栽培を行った結果、生産された玄米の放射性物質濃度を分析できた396カ所のうち395カ所のほ場において、基準値以下の米を生産できることが実証された。」というまとめが書いてあります。

作付制限区域ということは、2011年に500Bq/kg以上の放射性セシウムを検出した米がとれた地域も含んでいるわけです。おそらくこれらの試験作付は市場に出さないことが前提でしょうから、全袋検査機による全量全袋検査のスクリーニング対象になったのかどうか、また全てGe検出器で確定検査を行ったのかそのあたりがはっきりしませんが、Ge検出器で測定したのではないかと思います。

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福島市で1検体120Bq/kgと基準値超えが出ていますが、上の図の解説によると2011年の1/10以下だったと書いてあります。ということは、2011年に1200Bq/kgを超えたのは福島市旧小国村の1件だけですから、旧小国村のことだとわかります。詳しい情報を知りたい方は1年前に書いた「1/15 福島県と農水省の規制値越えの中間検討会(12/25)資料その2」をお読み下さい。昨年のブログでまとめた表を再掲しておきます。

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(2011年福島市大波地区(旧小国村)の調査結果)


2011年には500Bq/kgを超えていた地域であっても、今年度はほとんどが100Bq/kgに押さえることができたという結果が示されています。

3.玄米中の放射性セシウム濃度に影響する要因

この要因解析が今回の一番目玉の部分なのですが、かなり長いので今回は
(1) 土壌の影響 までを紹介するにとどめます。次回に

(2) 水田に流入する水の影響
(3) 乾燥・調製等のプロセスでの交差汚染・混入と
4.24年産で基準を超過した米が生産された要因の解析
5.総括

についてまとめる予定です。

(1) 土壌の影響 
これも
ア 土壌中の放射性セシウム濃度
イ 土壌中の交換性カリ含量
ウ 土壌の放射性セシウムの吸着・固定力
エ 作土の厚さ

と、いくつかのパートに分かれていますが、順を追って説明します。

ア 土壌中の放射性セシウム濃度

今回、イの交換性カリ含量のデータを合わせて考えて、土壌中の放射性セシウム濃度と玄米の放射性セシウム濃度には相関がない、と結論したことが一つの大きな成果だと思います。

相関があるならば、土壌中の放射性セシウム濃度と玄米の放射性セシウム濃度をプロットしたら、原点を通る直線に乗ってくるはずなのですが、全くそういう結果は得られていませんし、下図に示すようにどう考えても説明できない例が幾つもあることがわかったのです。

実はこのような傾向は2011年の作付結果の解析でもすでに指摘されていました。そのあたりについては先ほど紹介した「1/15 福島県と農水省の規制値越えの中間検討会(12/25)資料その2」をお読み下さい。

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福島原発事故の前には、放射性セシウムの水田での移行係数のデータはほとんどなく、畑での移行係数しか情報がありませんでした。そのため、2011年の米の作付をする際に農水省は過去の移行係数のデータの最高値に何倍かして0.1という数字を導き出したのです。当時の暫定基準値が放射性セシウムで500Bq/kgでしたから、土壌中の放射性セシウム濃度が5000Bq/kgならば移行係数の0.1をかけて500Bq/kgになるだろうという計算をしました。

そして福島県内の土壌の放射性セシウム濃度をサンプリングして測定した結果、当時の警戒区域と計画的避難区域及び緊急時避難準備区域以外で5000Bq/kgを超えている場所がなかったため、それ以外の地区での作付を認めたのです。

しかしながら、ほとんどの地区で500Bq/kg以下になったものの、知事が安全宣言を出した後に500Bq/kgを超えるセシウムが検出されてしまい、その後も暫定基準値超えの米が続出したため、緊急調査を行う羽目になってしまいました。

昨年は、土壌中の放射性セシウム濃度だけでは説明できない事を考慮し、2011年の調査でカリウム濃度との関連が示唆されたため、カリウム施肥を対策として盛り込んで作付に臨みました。その結果が次の交換性カリ含量についての解析です。


イ 土壌中の交換性カリ含量

土壌中のカリウムは、セシウムと化学的に似た性質を有しており、作物が吸収する際に競合してセシウム吸収を抑える働きがあるというのは以前から言われていたことです。そこで、2012年の作付では土壌中の交換性カリ含量25 mg K2O/100gを目標としてカリを施用したそうです。下のグラフは、2011年に500Bq/kgを超えた地域で試験作付を行った結果です。

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このグラフに示されているように、土壌中の交換性カリウム濃度がK2Oにして25 mg K2O/100g以上であれば玄米中にはセシウムはほとんど検出されず、10mg/100g土壌以下であれば基準値超えのセシウムも多く検出されるということがわかりました。また、この傾向は土質によらずグライ土、灰色低地土、多湿黒ボク土で全て同じ傾向が見られました。

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この交換性カリウム濃度の重要性を補足する上の結果が稲わらを土壌に還元するかどうかによる違いです。稲わらには多くのカリウムが含まれているため、稲わらを土壌に還元すれば土壌中のカリウム量が維持されるはずです。福島県農業総合センターでの実験では、過去20年間に稲わらを還元していた田んぼと全て持ち出していた田んぼで比較すると、稲わらを還元していた田んぼの土壌では交換性カリウム濃度が20mg K2O/100gと、稲わらを持ち出していた田んぼの約2倍になっていました。


イ 土壌中の交換性カリ含量(その2:施用方法等との関係)

次に土壌中の交換性カリ含量を増やすための施策としてカリ肥料をどうやってまくか、という技術的な話です。

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上のグラフは、稲全体に放射性セシウム量の推移を調べたものです。その結果、放射性セシウムは生育の前半に多く吸収され、その後茎葉から玄米に転流していくことがわかったということです。であれば、吸収抑制対策としてのカリの効果は、生育前半に発揮させることが重要になります。

そこで、カリ肥料でも土壌中で溶けやすく速効性の塩化カリとゆっくりと溶け出すケイ酸カリを用いてポット実験で効果を比較しました。その結果は下に示すとおりで、塩化カリの方が玄米中の放射性セシウム低減効果が大きいことがわかりました。また同じ塩化カリを使った場合に、その施用量に応じて玄米中の放射性セシウム濃度が下がっていることがはっきりとわかると思います。

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つぎに、塩化カリをいつ施用するか、ということを同じポット実験で時期を変えて行いました。その結果、基肥として最初から施肥した時が一番玄米中の放射性セシウム濃度低減効果が高いことがわかりました。

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これらの実験結果から

『カリ肥料の施用による吸収抑制対策としては、稲による放射性セシウムの吸収は生育前半に多いため、
① ケイ酸カリより速効性の塩化カリを利用すること
② カリ肥料の施肥時期も基肥を基本とし、さらにカリ肥料を追肥する場合は分げつ期の早期に行うこと
が必要である』

と結論しています。

なお、先ほどの稲全体の放射性セシウム量の推移を見ると、昨年12月に「12/8 第五回放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会より-米のセシウム汚染の話-」で書いたのですが、8月の時点の茎葉の放射性セシウム量を測定すれば玄米中の放射性セシウム量がほぼ推定できる、という根本先生の話と合致するな、ということを思い出しました。生育の前半に稲全体に取り込まれてしまったら、その後は玄米に移行してしまうため、前半に放射性セシウムの取り込みを押さえることが重要だということです。

イ 土壌中の交換性カリ含量(その3:保肥力の弱い土壌での留意点)

昨年カリウムを施肥したらそれで今年も大丈夫なのかどうか、ということを調べたのが下のグラフです。保肥力の弱い土壌では、いくら大量にカリウム施肥を行っても、作付終了時にはまたカリウム濃度が下がってしまうことがわかりました。つまり、そのような土壌では毎年カリウム施肥を行っていかないと意味がないということになります。

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イ 土壌中の交換性カリ含量(その4:ゼオライト等の施用との関係)

土壌中の交換性カリ含量の話の最後はゼオライトについてです。ゼオライトにはセシウムの吸着効果があると言われていますが、今回の調査結果からは、ゼオライトによる玄米中の放射性セシウム濃度低減効果は、セシウム吸着効果というよりは土壌中の交換性カリ濃度を上げることによるものと考えられました。

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二つのグラフのうち、上のグラフではゼオライトを10%(10t/10a)加えれば放射性セシウムの吸着効果があることを示していますが、1%(1t/10a)ではほとんど吸着効果がないことを確認しています。

次に下のグラフにおいては、ゼオライトを0.5%(500kg/10a)または1%(1t/10a)加えてみた結果、塩化カリと同様に土壌中の交換性カリウム濃度を上げて玄米中の放射性セシウム濃度を下げることができました。この濃度では放射性セシウムの吸着効果がないことは確認されています。

ということは、ゼオライトのこの濃度における玄米中の放射性セシウム低減効果は、ゼオライト中に含まれるカリウムによって土壌中の交換性カリウム濃度を上げて、その結果として玄米中の放射性セシウム濃度に影響したものと考えることができるわけです。

そこで、ここでは

『ゼオライト、バーミキュライトの施用により玄米の放射性セシウム濃度の低減効果は認められるが、放射性セシウムの吸着効果より、むしろゼオライト等に含まれるカリウムの効果で説明できると考えられた。

このため、吸収抑制対策は、カリ肥料による土壌中のカリ含量の確保を基本とし、ゼオライト等については、カリ肥料だけでは効果が不十分な土壌であって、砂質土等で保肥力が問題となる場合に、保肥力の向上等を目的として投入することが適切である。』

と結論しています。


ウ 土壌の放射性セシウムの吸着・固定力

土壌中の粘土鉱物はセシウムを吸着する能力があることは知られています。この中でも雲母由来の粘土鉱物では粘土鉱物の構造上、一度吸着したら固定してしまう能力があります(下図の右側)。バーミキュライトやイライトがそれに該当します。一方、モンモリロナイト、カオリナイトなどは雲母鉱物ではないので、構造上セシウムを吸着はできても固定することはできません。

植物は、吸着されただけのセシウムならば吸収することができますが、固定されると吸収することはできません。

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原発事故から2年近くが経過し、土壌中への放射性セシウムの固定が徐々に進んでいるものと思われます。それぞれの土壌の組成から、土壌中の放射性セシウムの固定がどれくらい進んでいるのかを示すための指標としてRIP(Radiocaesium Interception Potential)というものを考案し、どれくらいこの指標が役立つのかを今後評価していくようです。

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ここでは、
『粘土含量が多い土壌であっても、放射性セシウムの固定力が弱い粘土鉱物の場合は、作物は土壌中の放射性セシウムを吸収しやすくなる。現在、土壌の固定力を評価する取組も行われており、こうした固定力が弱い土壌では吸収抑制対策の徹底が重要である。』

とまとめられています。

エ 作土の厚さ

土壌に関しての調査結果の最後は作土の厚さについてです。土壌中の放射性セシウムの縦方向への分布を見ると、あまり深くまでは浸透していないことがわかります。一方、これまでの調査で、あまり耕運を深くしてこなかった地域では根の張りが浅く、放射性セシウムを吸い上げやすかったのではないか、ということが指摘されてきています。

そこで、深耕を行うことにより根張りを深くして放射性セシウムを吸収しにくくするということも対策の一つとしてあげています。

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ここまででもかなり長くなってしまいました。まだ21ページの資料の半分くらいしか来ていませんので、残りは後半に回したいと思います。次回もぜひお読み下さい。


 
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3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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