1/31の東電記者会見による港湾内のSrやCsの最新情報の解説
1/31、東京電力は記者会見を開いて「福島第一原子力発電所1~4号機の廃炉措置等に向けた取り組みの進捗状況(2013年1月)」について説明をしました。
私も最近は東京電力の記者会見を見ていなかったのですが、実は今年から定例の記者会見は月水金の週3回に減らされたそうです。何かニュースがあれば臨時で記者会見を行うことに変わったそうです。
1/31に記者会見を行うことは、1/25(金)の定例の記者会見終了時に発表(リンク先1:26:15前後)されたものですが、毎月行われてきた政府・東京電力中長期対策会議の運営会議と研究開発推進本部会議は政府の都合(効率的に運営するため開催方法を見直すというような説明でした)で1月分の会議が中止になった事によるものです。そのため、通常は経産省のHPに同じ内容が報告されるのですが、会合を開かなかったため、東京電力のHPにしか掲載されない可能性があります。
1.港湾内海水のSr濃度のデータ
今回の記者会見で示された情報は、毎回の運営会議で報告される内容とほぼ同じです。資料は全部で149ページもありますが、そのうち1/3程度(56ページ)はALPS(多核種除去設備)の説明に割かれています。実際の説明のほとんどはALPSの説明に割かれて、それ以外はほとんど説明を割愛されてしまいました。
実はALPSの稼働について東京電力と原子力規制庁が長い間意見を戦わせています(詳細は「放射能汚染水情報アップデート ALPSの稼働をめぐる部分最適の是非(1)」参照)。原子力規制委員会の特定原子力施設監視・評価検討会でも取り上げられており、1/24の第2回特定原子力施設監視・評価検討会においてALPSの設置に向けた議論が行われています。ですが、時間切れということで2/1に続きを行う事になっていました。2/1の第3回の会議資料はここにあります。第2回、第3回の会議の模様はYouTubeでも見ることができます。
ALPSの稼働に関しての話は2/21頃には規制庁が結論を出すという話もありましたので、いずれ別にまとめたいと思います。そのため、今回のまとめからは省略させていただきます。
ここでは主に1/31の記者会見で配布された資料のまん中あたりに14ページにわたって記載されている「港湾内の海水中放射性物質濃度の状況について(90ページ目)」について簡単にまとめたいと思います。前回「放射能汚染水情報アップデート(5) 254,000Bq/kgのムラソイがいる港湾内の現状」で記載した内容について、いくつかアップデートがありましたので、解説したいと思います。
12月25日 政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第13回会合)
港湾内海水中の放射性物質濃度低減 調査結果及び今後の対応について(PDF形式:235KB)
において、言葉によるまとめしかなかった部分について、今回データが示されました。特にこれまでほとんど開示されてこなかったSrのデータが今回開示されています。

(東京電力HP 記者会見配付資料 福島第一原子力発電所1~4号機の廃炉措置等に向けた取り組みの進捗状況(2013年1月)(PDF 5.99MB)より引用)
①の1-4号北側と⑭の1-4号南放水口、⑮の5,6号放水口北側については、これまでも定期的にSrのデータが公開されてきたものです。しかし、それ以外の情報、特に2号機と3号機のシルトフェンスの内側と外側のデータが合わせて公開されたのは初めてです。
(Srの過去のデータの詳細についてはコンタンさんのブログを参照のこと。)
それぞれの採水地点がわかる図も掲載されていましたのでそれも下に示します。

とはいっても、表で示されても普通の人にはよくわからないでしょうから、Sr-90のデータを抜き出して図に示します。

(東京電力HP 記者会見配付資料 福島第一原子力発電所1~4号機の廃炉措置等に向けた取り組みの進捗状況(2013年1月)(PDF 5.99MB)より一部改変して引用)
実は私はこの数値を見ながら考え込んでしまいました。なぜって?シルトフェンスの内側と外側の関係が整合性がとれないのです。この一連のデータは、どれかの測定値がおかしなものであるか、あるいは全てのデータが正しいとすればそれは何か意味のあるデータだからです。
私がなぜ考え込んでしまったのかわかりにくいという方のために、同じ表からCs-137の濃度(Bq/L)を図に書き込んだものを示します。こちらは非常にすっきりと理解できるものです。

(東京電力HP 記者会見配付資料 福島第一原子力発電所1~4号機の廃炉措置等に向けた取り組みの進捗状況(2013年1月)(PDF 5.99MB)より一部改変して引用)
どうでしょうか?Cs-137の濃度はシルトフェンスの内側が外側よりも高く、シルトフェンスの外側では、1号機から4号機へと開渠の奥へ行くに従ってCs-137の濃度が高くなっています。2号機と3号機のシルトフェンスの内側では、それぞれ2011年の4月と5月に海洋への漏洩事故が発覚しました。ですから特に2号機と3号機のシルトフェンスの内側で高めというのは納得できる話です。
このCs-137のデータを頭に入れた上で再度先ほどのSr-90のデータを見てみましょう。シルトフェンスの内側と外側を比較してSr-90のデータを測定してくれたのは実は今回が初めてのようです。測定されたのは2号機と3号機のスクリーンだけですが、海洋への汚染水漏れを起こしたのはこの二つだけですので、Srのデータは測定に手間がかかることを考えると仕方ないと思います。

まず何点か事実を指摘します。
1.今回発表された港湾内のSr-89とSr-90のデータは、目的が告示濃度に対して高いかどうかを見るための集計表であり、3ヶ月平均値というタイトルにもかかわらず、①の1-4号北側以外は12月のみの測定データである。①の1-4号北側は10月と12月の平均値である。なぜ11月を除外したかについては「11月は分離処理が適切でなかった可能性があるため除外。」というコメントがついている。
2.1-4号北側のデータ(10月と12月の平均)は、58.7Bq/Lと昨年5月取水のデータ 280Bq/L(9/4発表)よりも下がっている。ただし、このSr-90のデータは2011年後半から1年近く100-200Bq/Lを示しており、あまり大きく変動していない。
3.2号機のシルトフェンス内側は外側よりも高く、同じ2号機のCs-137の内側と外側の比率を考えてもそれほど不思議ではない。
4.3号機のシルトフェンス内側は外側よりも低い。これは、同じ3号機のCs-137の内側と外側の比率を考えても逆転しており、どうしてこのような比率になるのか説明ができない。
この後は私の考察になります。
1.Srのデータ全般について
今回、①の1-4号北側でなぜ11月を除外したかについては「11月は分離処理が適切でなかった可能性があるため除外。」というコメントがついています。Sr-90の測定は、複雑な処理をして他元素と分離してからでないと行えないのです。そのため時間がかかります。このコメントを見ると、非常に高い値が出たため、これをそのまま信頼して算入するのはおかしいと判断したのでしょう。
実は私は、Srのデータは結構デコボコが多いと感じています。そもそも測定データが少ないので詳細な解析もできないのですが、Csのように信頼度の高い測定データというようには思えません。それは測定がいい加減というのではなく、おそらくSrの測定では非常に複雑な処理を行うため、定量性のあるデータを安定して出すのは技術的にかなり難しいのだと思います。ですから、同じサンプルを10等分して10回別の日に処理して測定した時、その10回の測定データがどれくらいばらつくかということをもし調べたら、Csのデータとは違ってかなりバラツキが大きいという印象を持っています。Csのデータならば、月に1回の測定で、前月よりも2倍高くなれば何か理由があったのだろうか?と考えますが、Srのデータの場合、2-3倍のフレはしょっちゅうあるため、測定誤差かもしれないと感じるのです。
ですが、今回の①の11月のデータは、10月と12月の平均値58.7Bq/Lよりもかなり飛び抜けて大きかったのだと思います。きっと1000Bq/Lを超えたのでしょう。「11月は分離処理が適切でなかった可能性があるため除外」というコメントの存在は、Srのデータ解釈時に注意する必要があることを示しています。
2.1-4号取水口内北側のデータの矛盾について
1-4号北側のデータについては、過去のデータと比較することができます。コンタンさんが東電発表データをまとめてくれているので、その表に一部最近のデータと今回のデータを追加してグラフにしてみました。今回発表のデータの採水日は便宜的に11/1としてあります。

(2012年6月際水分のSr-90/Sr-89比はグラフを描くために便宜的に1000としてあります。)

何本も線があってわかりにくいかもしれません。まずはSr-90(▲)に注目して下さい。2011年6月以降、Sr-90のデータは最低で40Bq/L、最高で280Bq/Lと、100Bq/Lを挟んで上下3倍以内に収まっています。
次にCs-137(◆)です。こちらは、2011年7月以降に徐々に低下しているのがわかると思います。これは、港湾内に設置した海水循環浄化装置や、被覆工事の成果とも言えますが、毎日2回の潮の満ち引きを考えるならば、毎日少しずつ希釈されていくのはむしろ当たり前で、2年近くも低下していかない方が別の理由があると考えた方がいいと思います。
このようにCs-137(◆)は徐々に低下し、Sr-90(▲)はほとんど変化がないため、初めはCs-137>Sr-90でしたが、二つの折れ線は2011年10月に逆転し、昨年になってからはSr-90>Cs-137になっています。この理由については今回はこれ以上言及しません。
次にSr-89とSr-90の関係に注目します。Sr-89は半減期がわずか51日、一方のSr-90は半減期が約29年ですので、Sr-90/Sr-89比は2ヶ月で約2倍になっていくことが予想されます。実際、Sr-90/Sr-89比をグラフに赤い棒グラフで書き入れてみました(縦軸は右側:対数)が、下記のように2012年5月まではほぼ予想された比率になっていることがわかります。対数表示だと直線的に上昇しているのがよくわかります。
2011年5月:0.21→2011年7月:0.41→2011年9月:1.0→2011年11月:2.36→2012年1月:5.0→2012年3月:10.64→2012年5月:22.39
このペースで行けば、2012年11月にはSr-90/Sr-89比は160程度になっているはずです。Sr-89が6.4Bq/Lならば大ざっぱに言ってSr-90は1000Bq/Lです。この比率でなければ、Sr-90/Sr-89比がもっと低いとすれば、それは別の組成の汚染水由来である(新たな核分裂が起こっている?)ということになってしまいます。今回発表されたデータは10月の測定と12月の測定の平均値でしょうから、10月と12月ではSr-90/Sr-89比は2倍程度異なっていてもいいのですが、どちらも100を超えるくらいの比率になっていないとおかしいのです。
こうやって考えてくると、11月のデータが「11月は分離処理が適切でなかった可能性があるため除外。」とされましたが、実は除外された11月のデータが正しいもので、しかしそれを算入すると高い数値になってしまうため除外したという可能性もあります。Sr-90のデータはフレが大きいため、どこまで細かく見ていいのかわからないと書きましたが、2012年2月から5月にかけて少しずつ上昇していますから、今はもっと高くなっている可能性だってあるのです。
どうしてこんなうがった見方をするかというと、東電が情報公開をしっかりとしないからです。2011年は、東京電力は①の1-4号取水口北のデータを毎月発表してきました。採水日からほぼ一月遅れでの発表でした。それはSrの測定には時間がかかるため問題ありません。
しかし、2012年3月のデータ発表が2012年4月4日だったのに、2012年4月のデータ発表は4ヶ月経った8/8でした。2012年5月のデータ発表は9/4でした。そして、その後10/3と10/5にSr以外の核種データを公表した際もSrのデータは測定中となって公表されず、6/11のデータが11/27になってやっと公表されただけです。
なぜでしょうか?Srのデータを公表できない理由が何かあるのではないでしょうか?公表できるならば、毎月測定を行っているはずですから、7月以降のSr測定データを早く全て開示して余計な疑問を払拭させて欲しいと思います。このSrのデータだけは2012年から日本分析センターではなく株式会社化研が行っているというところにも何か問題があるのでしょうか?もしそうならば技術力のない会社へ測定を委託するのはやめるべきです。
ちなみに、同様に毎月測定されている1-4号南放水口と、5,6号放水口北側30mのSrのデータは、多少遅れてはいますが、毎月分のデータを確実に公開している(9/7、10/29、12/12)ことを付け加えておきます(こちらは日本分析センター測定)。
3.2号機、3号機シルトフェンスの内側/外側のデータについて
まず、先ほど1-4号取水口北のデータで、Sr-90/Sr-89比が2011年11月に予想される160前後に比べてかなり低いということを述べましたので、シルトフェンス内側、外側のデータでも確認してみましょう。

1-4号取水口北以外は全て2012月12月のデータですから、Sr-90/Sr-89比は200を超えていてもおかしくないはずなのですが、どれも60以下です。合わないですね。しかし、よく見ると、2号機ではシルトフェンスの内側/外側を問わずSr-90/Sr-89比は約60、3号機では同じく約20となっています。これは何を意味するのでしょうか?「検出限界値未満の場合は検出限界値により評価」との記載がありますが、Sr-89の検出限界値は、これまでの発表を見ると約0.4Bq/Lですので、最低でも3.7Bq/Lという数値は検出限界値を代入したものではないと思われます。
1-4号取水口北のデータは、主に2011年4月の2号機の漏洩事故の影響を受けていると思われます。だとすると、先ほど示したように2012年12月にはSr-90/Sr-89比は約200近くになっていないとおかしいのです。ですが10前後です。これは取水路南側でも同じ比ですので、意味がある事なのかもしれません。
また、Sr-90のデータがが正しいとすると、Sr-90/Sr-89比から考えるとSr-89は検出限界値未満でもおかしくないのですが、少なくとも10Bq/L以上のデータについては検出された数値をそのまま記載していると思われますので、測定したSr-90/Sr-89比が2号機スクリーンでは約60、3号機スクリーンでは約20ということです。
普通に考えれば、Sr-90/Sr-89比が異なるということは、核分裂が起こった時期が異なるということを示している可能性があります。Sr-90/Sr-89比が10前後、20前後、60前後と3種類存在することは、2011年3月以降も継続的に核分裂がおこったということになるのでしょうか?
こうなってくるともうわけがわからないのですが、私が知らないだけで他にも可能性があるかもしれませんので、ここでは疑問の提起にとどめてそれ以上の言及はしないでおきます。どなたかわかる方がいたら教えてください。
それから、3号機スクリーンでシルトフェンス内側の方が外側よりも低いという現象については、これはやはり説明がつきません。シルトフェンスの内側のSr-90が600Bq/Lといったように外側(458.3Bq/L)よりも高ければ理解できるのですが、これも謎の一つです。
今回Srのデータが公表されたことは非常に喜ばしいことなのですが、逆に謎を深めることになってしまいました。新たにわかった謎を簡単にまとめます。
(1)今回発表された2012年12月採水分のSr-90/Sr-89比がこれまでのデータと矛盾する。Sr-89とSr-90の半減期の違いからSr-90/Sr-89比は200近くになっているはずなのに10前後である。
(2)2号機スクリーン、3号機スクリーンはSr-90/Sr-89比がそれぞれ1-4号取水口北とも異なるため、これらは由来が異なる汚染水を分析している可能性がある。
(3)3号スクリーンのシルトフェンス内側のデータは、Cs-137の内/外比を考慮しても矛盾する。今後の更なるデータ蓄積によってこの理由を確認する必要がある。
「今後の対応」において、「Srについては、採取頻度を月2回以上としてモニタリングを強化し、測定データを蓄積して変動傾向を把握」ということですので、月に2回採取して測定した結果を速やかに公表して欲しいと思います。
2.スクリーンポンプ室内のCs-137濃度
次に、スクリーンポンプ室内の海水中Cs-137濃度についてです。これは、前回の12/25の運営会議資料では言葉でしか説明がなく、わかりにくい表現でしたが、今回はデータが示されました。これにより、前回の疑問が払拭された形になりました。

前回「放射能汚染水情報アップデート(5) 254,000Bq/kgのムラソイがいる港湾内の現状」で私が気にしたのは、下記の点でした。

港湾内海水中の放射性物質濃度低減 調査結果及び今後の対応について(PDF形式:235KB)より
『11/30と12/6に各ポンプ室で4点ずつ採取し、2号機の2点についてはこれまでのシルトフェンス内側の範囲(30~250Bq/L)を超えていたということを意味しています。どれくらい超えていたのかは記載がないのでわかりませんが、データを示すことができないということは、何か公表したくないデータがあった可能性もあります。
12/11に再度2号機ポンプ室内の他の5点で採取した結果は、2号機のこれまでのシルトフェンス内側の範囲(60~170Bq/L)を超えていなかったと書いてあります。「他の5点」ということは、当初問題となった2点で再度採取をしていないということを意味します。』
ですが、今回のデータを同じように図に示してみます。

前回の「放射能汚染水情報アップデート(5) 254,000Bq/kgのムラソイがいる港湾内の現状」では、12/25に公表された資料が単に言葉での記載だったため、「何か公表したくないデータがあるのではないか?」などと書いてしまいました。このデータを見る限りポンプ室の奥の方が濃度が高く、海に近くなるほど濃度が低くなっていますので、特に問題はなさそうです。他の1号機から4号機までのCs-137のデータも、特に疑問を抱かせるものではありません。お詫びして訂正したいと思います。
3.地下水のCs-137濃度
地下水に関して今回新たに判明したことは、以下のデータです。12/25にも言葉での説明がありましたが、掘削した場所がはっきりしたということと、Cs-137の濃度がわかったということだけです。

前回私がわからないので疑問として残した「地下15m」というのがいったいどこまでの深さなのかについてははっきりとした事は今回もわかりませんでした。

(2011年8/31 東電HPのプレスリリースより)
私が何を疑問に思っているかを再度記載しておきます。福島第一原発の地下には上の図のように水を通しやすい透水層が二つあるのです。この図は東電自身が遮水壁の発表の際に使ったものですから間違いないものだと思います。一番上の透水層の下に水を通しにくい難透水層があり、その下に透水層があって、さらにその下は難透水層が存在します。
遮水壁は、スクリーンのあたりはO.P.+4mであることを考えるとO.P.-18~-19mまで打ち込むものです。今回の掘削は、「透水層底部の地下15m」という表現から考えて、二つ目の透水層の地下水を汲み上げたものと思います。ちょうど上の図でいう地下水ドレンと同じくらいの深さにまで掘削したのではないでしょうか?
もしそうだとすれば、そこには恐らく検出限界値の0.8Bq/L以下のCs-137しか存在しなかったのでしょう。でも、その上の透水層はどうなのでしょうか?ここには間違いなく、2011年3月末に大量の高濃度汚染水が流れ出しているはずなのです。こちらを測定したらどうなるのか?そこを知りたいところです。今回の情報ではそこがあいまいな表現になっているため、残念ながら疑問を払拭できるまでには至りませんでした。
今後、政府・東京電力中長期対策会議がどのような形で運営されるのかが気になるところですが、ぜひとも東京電力にはこのような情報を公開し続けて欲しいと思います。
今回の記者会見で示された情報は、毎回の運営会議で報告される内容とほぼ同じです。資料は全部で149ページもありますが、そのうち1/3程度(56ページ)はALPS(多核種除去設備)の説明に割かれています。実際の説明のほとんどはALPSの説明に割かれて、それ以外はほとんど説明を割愛されてしまいました。
実はALPSの稼働について東京電力と原子力規制庁が長い間意見を戦わせています(詳細は「放射能汚染水情報アップデート ALPSの稼働をめぐる部分最適の是非(1)」参照)。原子力規制委員会の特定原子力施設監視・評価検討会でも取り上げられており、1/24の第2回特定原子力施設監視・評価検討会においてALPSの設置に向けた議論が行われています。ですが、時間切れということで2/1に続きを行う事になっていました。2/1の第3回の会議資料はここにあります。第2回、第3回の会議の模様はYouTubeでも見ることができます。
ALPSの稼働に関しての話は2/21頃には規制庁が結論を出すという話もありましたので、いずれ別にまとめたいと思います。そのため、今回のまとめからは省略させていただきます。
ここでは主に1/31の記者会見で配布された資料のまん中あたりに14ページにわたって記載されている「港湾内の海水中放射性物質濃度の状況について(90ページ目)」について簡単にまとめたいと思います。前回「放射能汚染水情報アップデート(5) 254,000Bq/kgのムラソイがいる港湾内の現状」で記載した内容について、いくつかアップデートがありましたので、解説したいと思います。
12月25日 政府・東京電力中長期対策会議運営会議(第13回会合)
港湾内海水中の放射性物質濃度低減 調査結果及び今後の対応について(PDF形式:235KB)
において、言葉によるまとめしかなかった部分について、今回データが示されました。特にこれまでほとんど開示されてこなかったSrのデータが今回開示されています。

(東京電力HP 記者会見配付資料 福島第一原子力発電所1~4号機の廃炉措置等に向けた取り組みの進捗状況(2013年1月)(PDF 5.99MB)より引用)
①の1-4号北側と⑭の1-4号南放水口、⑮の5,6号放水口北側については、これまでも定期的にSrのデータが公開されてきたものです。しかし、それ以外の情報、特に2号機と3号機のシルトフェンスの内側と外側のデータが合わせて公開されたのは初めてです。
(Srの過去のデータの詳細についてはコンタンさんのブログを参照のこと。)
それぞれの採水地点がわかる図も掲載されていましたのでそれも下に示します。

とはいっても、表で示されても普通の人にはよくわからないでしょうから、Sr-90のデータを抜き出して図に示します。

(東京電力HP 記者会見配付資料 福島第一原子力発電所1~4号機の廃炉措置等に向けた取り組みの進捗状況(2013年1月)(PDF 5.99MB)より一部改変して引用)
実は私はこの数値を見ながら考え込んでしまいました。なぜって?シルトフェンスの内側と外側の関係が整合性がとれないのです。この一連のデータは、どれかの測定値がおかしなものであるか、あるいは全てのデータが正しいとすればそれは何か意味のあるデータだからです。
私がなぜ考え込んでしまったのかわかりにくいという方のために、同じ表からCs-137の濃度(Bq/L)を図に書き込んだものを示します。こちらは非常にすっきりと理解できるものです。

(東京電力HP 記者会見配付資料 福島第一原子力発電所1~4号機の廃炉措置等に向けた取り組みの進捗状況(2013年1月)(PDF 5.99MB)より一部改変して引用)
どうでしょうか?Cs-137の濃度はシルトフェンスの内側が外側よりも高く、シルトフェンスの外側では、1号機から4号機へと開渠の奥へ行くに従ってCs-137の濃度が高くなっています。2号機と3号機のシルトフェンスの内側では、それぞれ2011年の4月と5月に海洋への漏洩事故が発覚しました。ですから特に2号機と3号機のシルトフェンスの内側で高めというのは納得できる話です。
このCs-137のデータを頭に入れた上で再度先ほどのSr-90のデータを見てみましょう。シルトフェンスの内側と外側を比較してSr-90のデータを測定してくれたのは実は今回が初めてのようです。測定されたのは2号機と3号機のスクリーンだけですが、海洋への汚染水漏れを起こしたのはこの二つだけですので、Srのデータは測定に手間がかかることを考えると仕方ないと思います。

まず何点か事実を指摘します。
1.今回発表された港湾内のSr-89とSr-90のデータは、目的が告示濃度に対して高いかどうかを見るための集計表であり、3ヶ月平均値というタイトルにもかかわらず、①の1-4号北側以外は12月のみの測定データである。①の1-4号北側は10月と12月の平均値である。なぜ11月を除外したかについては「11月は分離処理が適切でなかった可能性があるため除外。」というコメントがついている。
2.1-4号北側のデータ(10月と12月の平均)は、58.7Bq/Lと昨年5月取水のデータ 280Bq/L(9/4発表)よりも下がっている。ただし、このSr-90のデータは2011年後半から1年近く100-200Bq/Lを示しており、あまり大きく変動していない。
3.2号機のシルトフェンス内側は外側よりも高く、同じ2号機のCs-137の内側と外側の比率を考えてもそれほど不思議ではない。
4.3号機のシルトフェンス内側は外側よりも低い。これは、同じ3号機のCs-137の内側と外側の比率を考えても逆転しており、どうしてこのような比率になるのか説明ができない。
この後は私の考察になります。
1.Srのデータ全般について
今回、①の1-4号北側でなぜ11月を除外したかについては「11月は分離処理が適切でなかった可能性があるため除外。」というコメントがついています。Sr-90の測定は、複雑な処理をして他元素と分離してからでないと行えないのです。そのため時間がかかります。このコメントを見ると、非常に高い値が出たため、これをそのまま信頼して算入するのはおかしいと判断したのでしょう。
実は私は、Srのデータは結構デコボコが多いと感じています。そもそも測定データが少ないので詳細な解析もできないのですが、Csのように信頼度の高い測定データというようには思えません。それは測定がいい加減というのではなく、おそらくSrの測定では非常に複雑な処理を行うため、定量性のあるデータを安定して出すのは技術的にかなり難しいのだと思います。ですから、同じサンプルを10等分して10回別の日に処理して測定した時、その10回の測定データがどれくらいばらつくかということをもし調べたら、Csのデータとは違ってかなりバラツキが大きいという印象を持っています。Csのデータならば、月に1回の測定で、前月よりも2倍高くなれば何か理由があったのだろうか?と考えますが、Srのデータの場合、2-3倍のフレはしょっちゅうあるため、測定誤差かもしれないと感じるのです。
ですが、今回の①の11月のデータは、10月と12月の平均値58.7Bq/Lよりもかなり飛び抜けて大きかったのだと思います。きっと1000Bq/Lを超えたのでしょう。「11月は分離処理が適切でなかった可能性があるため除外」というコメントの存在は、Srのデータ解釈時に注意する必要があることを示しています。
2.1-4号取水口内北側のデータの矛盾について
1-4号北側のデータについては、過去のデータと比較することができます。コンタンさんが東電発表データをまとめてくれているので、その表に一部最近のデータと今回のデータを追加してグラフにしてみました。今回発表のデータの採水日は便宜的に11/1としてあります。

(2012年6月際水分のSr-90/Sr-89比はグラフを描くために便宜的に1000としてあります。)

何本も線があってわかりにくいかもしれません。まずはSr-90(▲)に注目して下さい。2011年6月以降、Sr-90のデータは最低で40Bq/L、最高で280Bq/Lと、100Bq/Lを挟んで上下3倍以内に収まっています。
次にCs-137(◆)です。こちらは、2011年7月以降に徐々に低下しているのがわかると思います。これは、港湾内に設置した海水循環浄化装置や、被覆工事の成果とも言えますが、毎日2回の潮の満ち引きを考えるならば、毎日少しずつ希釈されていくのはむしろ当たり前で、2年近くも低下していかない方が別の理由があると考えた方がいいと思います。
このようにCs-137(◆)は徐々に低下し、Sr-90(▲)はほとんど変化がないため、初めはCs-137>Sr-90でしたが、二つの折れ線は2011年10月に逆転し、昨年になってからはSr-90>Cs-137になっています。この理由については今回はこれ以上言及しません。
次にSr-89とSr-90の関係に注目します。Sr-89は半減期がわずか51日、一方のSr-90は半減期が約29年ですので、Sr-90/Sr-89比は2ヶ月で約2倍になっていくことが予想されます。実際、Sr-90/Sr-89比をグラフに赤い棒グラフで書き入れてみました(縦軸は右側:対数)が、下記のように2012年5月まではほぼ予想された比率になっていることがわかります。対数表示だと直線的に上昇しているのがよくわかります。
2011年5月:0.21→2011年7月:0.41→2011年9月:1.0→2011年11月:2.36→2012年1月:5.0→2012年3月:10.64→2012年5月:22.39
このペースで行けば、2012年11月にはSr-90/Sr-89比は160程度になっているはずです。Sr-89が6.4Bq/Lならば大ざっぱに言ってSr-90は1000Bq/Lです。この比率でなければ、Sr-90/Sr-89比がもっと低いとすれば、それは別の組成の汚染水由来である(新たな核分裂が起こっている?)ということになってしまいます。今回発表されたデータは10月の測定と12月の測定の平均値でしょうから、10月と12月ではSr-90/Sr-89比は2倍程度異なっていてもいいのですが、どちらも100を超えるくらいの比率になっていないとおかしいのです。
こうやって考えてくると、11月のデータが「11月は分離処理が適切でなかった可能性があるため除外。」とされましたが、実は除外された11月のデータが正しいもので、しかしそれを算入すると高い数値になってしまうため除外したという可能性もあります。Sr-90のデータはフレが大きいため、どこまで細かく見ていいのかわからないと書きましたが、2012年2月から5月にかけて少しずつ上昇していますから、今はもっと高くなっている可能性だってあるのです。
どうしてこんなうがった見方をするかというと、東電が情報公開をしっかりとしないからです。2011年は、東京電力は①の1-4号取水口北のデータを毎月発表してきました。採水日からほぼ一月遅れでの発表でした。それはSrの測定には時間がかかるため問題ありません。
しかし、2012年3月のデータ発表が2012年4月4日だったのに、2012年4月のデータ発表は4ヶ月経った8/8でした。2012年5月のデータ発表は9/4でした。そして、その後10/3と10/5にSr以外の核種データを公表した際もSrのデータは測定中となって公表されず、6/11のデータが11/27になってやっと公表されただけです。
なぜでしょうか?Srのデータを公表できない理由が何かあるのではないでしょうか?公表できるならば、毎月測定を行っているはずですから、7月以降のSr測定データを早く全て開示して余計な疑問を払拭させて欲しいと思います。このSrのデータだけは2012年から日本分析センターではなく株式会社化研が行っているというところにも何か問題があるのでしょうか?もしそうならば技術力のない会社へ測定を委託するのはやめるべきです。
ちなみに、同様に毎月測定されている1-4号南放水口と、5,6号放水口北側30mのSrのデータは、多少遅れてはいますが、毎月分のデータを確実に公開している(9/7、10/29、12/12)ことを付け加えておきます(こちらは日本分析センター測定)。
3.2号機、3号機シルトフェンスの内側/外側のデータについて
まず、先ほど1-4号取水口北のデータで、Sr-90/Sr-89比が2011年11月に予想される160前後に比べてかなり低いということを述べましたので、シルトフェンス内側、外側のデータでも確認してみましょう。

1-4号取水口北以外は全て2012月12月のデータですから、Sr-90/Sr-89比は200を超えていてもおかしくないはずなのですが、どれも60以下です。合わないですね。しかし、よく見ると、2号機ではシルトフェンスの内側/外側を問わずSr-90/Sr-89比は約60、3号機では同じく約20となっています。これは何を意味するのでしょうか?「検出限界値未満の場合は検出限界値により評価」との記載がありますが、Sr-89の検出限界値は、これまでの発表を見ると約0.4Bq/Lですので、最低でも3.7Bq/Lという数値は検出限界値を代入したものではないと思われます。
1-4号取水口北のデータは、主に2011年4月の2号機の漏洩事故の影響を受けていると思われます。だとすると、先ほど示したように2012年12月にはSr-90/Sr-89比は約200近くになっていないとおかしいのです。ですが10前後です。これは取水路南側でも同じ比ですので、意味がある事なのかもしれません。
また、Sr-90のデータがが正しいとすると、Sr-90/Sr-89比から考えるとSr-89は検出限界値未満でもおかしくないのですが、少なくとも10Bq/L以上のデータについては検出された数値をそのまま記載していると思われますので、測定したSr-90/Sr-89比が2号機スクリーンでは約60、3号機スクリーンでは約20ということです。
普通に考えれば、Sr-90/Sr-89比が異なるということは、核分裂が起こった時期が異なるということを示している可能性があります。Sr-90/Sr-89比が10前後、20前後、60前後と3種類存在することは、2011年3月以降も継続的に核分裂がおこったということになるのでしょうか?
こうなってくるともうわけがわからないのですが、私が知らないだけで他にも可能性があるかもしれませんので、ここでは疑問の提起にとどめてそれ以上の言及はしないでおきます。どなたかわかる方がいたら教えてください。
それから、3号機スクリーンでシルトフェンス内側の方が外側よりも低いという現象については、これはやはり説明がつきません。シルトフェンスの内側のSr-90が600Bq/Lといったように外側(458.3Bq/L)よりも高ければ理解できるのですが、これも謎の一つです。
今回Srのデータが公表されたことは非常に喜ばしいことなのですが、逆に謎を深めることになってしまいました。新たにわかった謎を簡単にまとめます。
(1)今回発表された2012年12月採水分のSr-90/Sr-89比がこれまでのデータと矛盾する。Sr-89とSr-90の半減期の違いからSr-90/Sr-89比は200近くになっているはずなのに10前後である。
(2)2号機スクリーン、3号機スクリーンはSr-90/Sr-89比がそれぞれ1-4号取水口北とも異なるため、これらは由来が異なる汚染水を分析している可能性がある。
(3)3号スクリーンのシルトフェンス内側のデータは、Cs-137の内/外比を考慮しても矛盾する。今後の更なるデータ蓄積によってこの理由を確認する必要がある。
「今後の対応」において、「Srについては、採取頻度を月2回以上としてモニタリングを強化し、測定データを蓄積して変動傾向を把握」ということですので、月に2回採取して測定した結果を速やかに公表して欲しいと思います。
2.スクリーンポンプ室内のCs-137濃度
次に、スクリーンポンプ室内の海水中Cs-137濃度についてです。これは、前回の12/25の運営会議資料では言葉でしか説明がなく、わかりにくい表現でしたが、今回はデータが示されました。これにより、前回の疑問が払拭された形になりました。

前回「放射能汚染水情報アップデート(5) 254,000Bq/kgのムラソイがいる港湾内の現状」で私が気にしたのは、下記の点でした。

港湾内海水中の放射性物質濃度低減 調査結果及び今後の対応について(PDF形式:235KB)より
『11/30と12/6に各ポンプ室で4点ずつ採取し、2号機の2点についてはこれまでのシルトフェンス内側の範囲(30~250Bq/L)を超えていたということを意味しています。どれくらい超えていたのかは記載がないのでわかりませんが、データを示すことができないということは、何か公表したくないデータがあった可能性もあります。
12/11に再度2号機ポンプ室内の他の5点で採取した結果は、2号機のこれまでのシルトフェンス内側の範囲(60~170Bq/L)を超えていなかったと書いてあります。「他の5点」ということは、当初問題となった2点で再度採取をしていないということを意味します。』
ですが、今回のデータを同じように図に示してみます。

前回の「放射能汚染水情報アップデート(5) 254,000Bq/kgのムラソイがいる港湾内の現状」では、12/25に公表された資料が単に言葉での記載だったため、「何か公表したくないデータがあるのではないか?」などと書いてしまいました。このデータを見る限りポンプ室の奥の方が濃度が高く、海に近くなるほど濃度が低くなっていますので、特に問題はなさそうです。他の1号機から4号機までのCs-137のデータも、特に疑問を抱かせるものではありません。お詫びして訂正したいと思います。
3.地下水のCs-137濃度
地下水に関して今回新たに判明したことは、以下のデータです。12/25にも言葉での説明がありましたが、掘削した場所がはっきりしたということと、Cs-137の濃度がわかったということだけです。

前回私がわからないので疑問として残した「地下15m」というのがいったいどこまでの深さなのかについてははっきりとした事は今回もわかりませんでした。

(2011年8/31 東電HPのプレスリリースより)
私が何を疑問に思っているかを再度記載しておきます。福島第一原発の地下には上の図のように水を通しやすい透水層が二つあるのです。この図は東電自身が遮水壁の発表の際に使ったものですから間違いないものだと思います。一番上の透水層の下に水を通しにくい難透水層があり、その下に透水層があって、さらにその下は難透水層が存在します。
遮水壁は、スクリーンのあたりはO.P.+4mであることを考えるとO.P.-18~-19mまで打ち込むものです。今回の掘削は、「透水層底部の地下15m」という表現から考えて、二つ目の透水層の地下水を汲み上げたものと思います。ちょうど上の図でいう地下水ドレンと同じくらいの深さにまで掘削したのではないでしょうか?
もしそうだとすれば、そこには恐らく検出限界値の0.8Bq/L以下のCs-137しか存在しなかったのでしょう。でも、その上の透水層はどうなのでしょうか?ここには間違いなく、2011年3月末に大量の高濃度汚染水が流れ出しているはずなのです。こちらを測定したらどうなるのか?そこを知りたいところです。今回の情報ではそこがあいまいな表現になっているため、残念ながら疑問を払拭できるまでには至りませんでした。
今後、政府・東京電力中長期対策会議がどのような形で運営されるのかが気になるところですが、ぜひとも東京電力にはこのような情報を公開し続けて欲しいと思います。
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