地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(1)
4/5(正確には4/6)の深夜1時半から、東京電力は臨時の記者会見を開きました。地下貯水槽に貯蔵している約13000トンの濃縮塩水のうち、約120トンが地中に漏れ出した可能性が高いという報告でした。(togetterのまとめはこちら)
記者会見はその後4/6の午前10時からも開かれました。どちらも2時間以上に及ぶ長い記者会見でした。記者会見の模様は東電HPの「映像アーカイブ」で見ることができます。
経緯とこれまでの情報を整理します。
1.地下貯水槽とは
多くの人にはまず「地下貯水槽」とは何か、という話から始めないといけないと思います。詳細は今年の1月に書いた「放射能汚染水情報アップデート ALPSの稼働をめぐる部分最適の是非(1)」を是非読んでいただきたいと思います。
2011年3月、原子炉を冷却するために原子炉への注水をはじめましたが、その水は原子炉から、あるいはそこに行き着くまでの経路から放射能汚染水となって原子炉建屋やタービン建屋の地下にたまっていきました。その水がトレンチを介して海へ漏えいしたのが2011年4/2に見つかった、最低でも520トンに及ぶ2号機海水スクリーンからの高濃度放射能汚染水の漏洩事故です。福島の漁業に今も多大な影響を与えている海洋汚染のほとんどはこの時の漏えいによるものと考えられます。
2011年6月に汚染水循環処理システムが稼働した当初は、2011年中には汚染水の量はほとんどなくすことができるという見込みでしたが、実はその後も汚染水の量は増え続けてきました。これは東電も当初予想していなかった、毎日400トンほどの地下水が流れ込んでくることによるものです。その後2年近く汚染水循環処理システムを稼働させてセシウムのかなりの部分は除去できたのですが(詳細は「放射能汚染水循環処理システムの現状はどうなっているのか?」参照)、ストロンチウムを初めとするベータ核種はほとんど除去できていません。
そこで、ストロンチウムを初めとした多くの核種を除去するという目的で開発したのが多核種除去設備(ALPS)です。この装置を用いると、トリチウム以外の多くの核種は検出限界値未満にまで濃度を下げられるという実験室レベルでの結果が出ています(詳細は「9月に導入予定の多核種除去設備とはどんなもので何が出来るのか?」参照)。そのため、現在のセシウムのみを除去した「濃縮塩水」よりは、多くの核種を検出限界値未満にしたALPS処理後の水として保管する方がリスクは低いと考えられます。
東電の見込みでは、昨年9月に実際に汚染水を使ってALPSの性能試験を行う「ホット試験」を開始するつもりだったのですが、ちょうど保安院が原子力規制庁に切り替わった時期に重なり、原子力規制庁からALPSで放射性物質を吸着させた「HIC」と呼ばれる容器の耐久性に問題があると指摘され、結局ホット試験を開始できたのは今年の3/30でした。(詳細は「放射能汚染水情報アップデート ALPSの稼働をめぐる部分最適の是非(2)」参照)
その結果、ALPS処理後の水を保管するために設置した「地下貯水槽」(下の図のように地面を掘ってシートを何重にも重ねて作ったものです)にストロンチウムなどを多く含む「濃縮塩水」を貯蔵せざるを得ない状況になってしまいました。今年の1月から地下貯水槽に濃縮塩水を貯蔵しはじめています。

(原子力規制委員会のHPより)
今回の漏洩事故は、その地下貯水槽にたまっていた濃縮塩水の一部が漏れだしたということなのです。
2.地下貯水槽の詳細と事故の経緯
なぜ貯水タンクではなく地下貯水槽なのか?東京新聞によると『地下貯水池は、上空に送電線があってクレーンが使えず、通常のタンクは無理な場所でも、掘って遮水シートを施工すれば完成。用地不足を大幅に改善する非常に有効な手段となるはずだった。』ということで、クレーンを使ってタンクを増設する作業のできないエリアを有効に使うための方策だったようです。
地下貯水槽は現在7つが建築されています。その中でNo.2の地下貯水槽が今回漏洩事故をおこしたものです。No.2の地下貯水槽はNo.1、No.3と隣接しています。

(東電HP:「地下貯水槽概要」より引用)
実際には、下の表のようにすでにNo.2とNo.3には濃縮塩水がほぼ満タンに入っています。No.4は5/6号機の低レベル滞留水が入っています。こちらは放射性物質の濃度がかなり低いものです。あとでNo.2から別の貯水槽に移送する話が出てきますが、No.2の濃縮塩水を移送するとしたら、現在空いていて容量が多い貯水槽はNo.1かNo.6しかありません。

(東電HP:「福島第一原子力発電所地下貯水槽スペック」より引用)
この地下貯水槽は下の図のようにベントナイトシートの上にHDPE(高密度ポリエチレン)でできた遮水シートを二重に重ねています。底面にはその上にさらに保護コンクリートの層があるようです。法面(「のりめん」と読むそうです)、すなわち斜面の部分には砕石を積み上げているそうです。

(東電HP:「地下貯水槽概要」より引用)
ベントナイト層の外側には集水パイプがあり、もし漏えいが生じたら、集水パイプの先に接続しているドレーン孔の吸い出し口から水をサンプリングして毎週1回モニタリングしていたということです。下の時系列にあるように、No.2は2/1から濃縮塩水を入れだして、3/2に約95%までたまったので、それ以降は毎週1回塩素イオン濃度でモニタリングしていたという記載があります。なお、このドレーン孔は、北東側と南西側の2箇所にしかないようです。

(東電HP:「地下貯水槽概要」より引用)
なぜ塩素イオン濃度でモニタリングするかというと、ここに入れているのは濃縮塩水なので、通常よりも塩素イオン濃度が高いのです。この汚染水には海水がかなり含まれていますから、漏えいがあればこれでチェックできるだろうと考えたのでしょう。ただし、これだけでは不安なため、簡単に測定できる全ベータ核種の濃度も多くの場合は測定していました。
3/27には検出限界値未満だった全ベータ核種が、4/3の9:30に検出されましたが、東京電力は指標にしていた塩素イオン濃度がほとんど変わっていなかったため、この日は何も発表をしませんでした。ただし、全ベータ核種で検出されたため、翌日の4/4も全ベータ核種の測定をしました。その結果、南西側のドレーン孔からは全ベータ核種が検出されませんでしたが北東側のドレーン孔からは再び全ベータ核種が検出されました。

(東電HP:「地下貯水槽概要」より引用)
ここで東京電力はおかしいと気づき、4/5にはドレーン孔ではなくベントナイト層の内側に設置してある「漏えい検知孔」で測定をします。やはり南東側では検出されるものの低い濃度でしたが、北東側ではドレーン孔の100倍の濃度である5838Bq/cm3=5.8×10(6)Bq/Lと高く、しかも塩素濃度も通常の10ppm近くではなく300ppmと非常に高い値を示していました。
このことから東京電力は地下貯水槽から汚染水が漏れていると判断し、公表に至ったものです。4/5以降の時系列についてはここに詳細に掲載されています。

(東電HP「福島第一原子力発電所地下貯水槽からの水漏れに関する時系列(通報連絡、一斉メール実績)(PDF 91.5KB)」より)
しかし、ねずみによる停電など最近の一連の事故における公表・報告と同様、今回も公表がおそいという批判が出ています。木野龍逸さんがBLOGOSに書いた「放射性汚染水が大量に漏洩−−−多数の記者から公表が遅いという指摘」をお読み下さい。
そして、この漏えいはどこから起こっているのかがわからないため、地下貯水槽No.2のマンホールにポンプを投入し、No.1のマンホールへ移送No.2からNo.1へと移送を開始しました。深夜1時半の記者会見においては約2週間かかるということでしたが、10時の会見時には、さらに仮設ポンプを3台追加して、5.3日で移送が完了するということでした。
さらにその後のプレスリリースでは、「福島第一原子力発電所地下貯水槽No.2からの水漏れについて(続報7)【報道関係各位一斉メール】」にあるように本設ポンプはNo.1ではなくNo.6に移送し、仮設ポンプはNo.1へという形に変更したようです。

(東電HP:「地下貯水槽概要(平成25年4月6日18時時点)」より)
これによって、移送にかかる日数を約3.1日と減らすことができるそうです。それでも、この間にさらに47トンの濃縮塩水が漏れ出すという試算を東京電力が発表したという報道がありました。

(東電HP:「地下貯水槽概要(平成25年4月6日18時時点)」より)
東電の発表では、今回の漏洩事故で漏れ出した放射性物質の量は、漏れ出した量を最大の約120トンとし、北東側の漏えい検知孔の全ベータ核種の濃度が約5.8×10(3)Bq/cm3=5.8×10(6)Bq/L=5.8×10(9)Bq/トン=58億Bq/トンなのでかけ算で58億×120=7100億Bqという計算になっています。ちなみに、セシウムなどのガンマ核種は約1.8億Bqということです。
この東電の発表については書きたいことはいろいろとあるのですが、長くなったのと、これまでのデータについて詳細な検討をしてから書きたいのでひとまずはここで終わりにします。この続きは明日書きたいと思いますので、そちらもぜひよろしくお願いいたします。
多くの人にはまず「地下貯水槽」とは何か、という話から始めないといけないと思います。詳細は今年の1月に書いた「放射能汚染水情報アップデート ALPSの稼働をめぐる部分最適の是非(1)」を是非読んでいただきたいと思います。
2011年3月、原子炉を冷却するために原子炉への注水をはじめましたが、その水は原子炉から、あるいはそこに行き着くまでの経路から放射能汚染水となって原子炉建屋やタービン建屋の地下にたまっていきました。その水がトレンチを介して海へ漏えいしたのが2011年4/2に見つかった、最低でも520トンに及ぶ2号機海水スクリーンからの高濃度放射能汚染水の漏洩事故です。福島の漁業に今も多大な影響を与えている海洋汚染のほとんどはこの時の漏えいによるものと考えられます。
2011年6月に汚染水循環処理システムが稼働した当初は、2011年中には汚染水の量はほとんどなくすことができるという見込みでしたが、実はその後も汚染水の量は増え続けてきました。これは東電も当初予想していなかった、毎日400トンほどの地下水が流れ込んでくることによるものです。その後2年近く汚染水循環処理システムを稼働させてセシウムのかなりの部分は除去できたのですが(詳細は「放射能汚染水循環処理システムの現状はどうなっているのか?」参照)、ストロンチウムを初めとするベータ核種はほとんど除去できていません。
そこで、ストロンチウムを初めとした多くの核種を除去するという目的で開発したのが多核種除去設備(ALPS)です。この装置を用いると、トリチウム以外の多くの核種は検出限界値未満にまで濃度を下げられるという実験室レベルでの結果が出ています(詳細は「9月に導入予定の多核種除去設備とはどんなもので何が出来るのか?」参照)。そのため、現在のセシウムのみを除去した「濃縮塩水」よりは、多くの核種を検出限界値未満にしたALPS処理後の水として保管する方がリスクは低いと考えられます。
東電の見込みでは、昨年9月に実際に汚染水を使ってALPSの性能試験を行う「ホット試験」を開始するつもりだったのですが、ちょうど保安院が原子力規制庁に切り替わった時期に重なり、原子力規制庁からALPSで放射性物質を吸着させた「HIC」と呼ばれる容器の耐久性に問題があると指摘され、結局ホット試験を開始できたのは今年の3/30でした。(詳細は「放射能汚染水情報アップデート ALPSの稼働をめぐる部分最適の是非(2)」参照)
その結果、ALPS処理後の水を保管するために設置した「地下貯水槽」(下の図のように地面を掘ってシートを何重にも重ねて作ったものです)にストロンチウムなどを多く含む「濃縮塩水」を貯蔵せざるを得ない状況になってしまいました。今年の1月から地下貯水槽に濃縮塩水を貯蔵しはじめています。

(原子力規制委員会のHPより)
今回の漏洩事故は、その地下貯水槽にたまっていた濃縮塩水の一部が漏れだしたということなのです。
2.地下貯水槽の詳細と事故の経緯
なぜ貯水タンクではなく地下貯水槽なのか?東京新聞によると『地下貯水池は、上空に送電線があってクレーンが使えず、通常のタンクは無理な場所でも、掘って遮水シートを施工すれば完成。用地不足を大幅に改善する非常に有効な手段となるはずだった。』ということで、クレーンを使ってタンクを増設する作業のできないエリアを有効に使うための方策だったようです。
地下貯水槽は現在7つが建築されています。その中でNo.2の地下貯水槽が今回漏洩事故をおこしたものです。No.2の地下貯水槽はNo.1、No.3と隣接しています。

(東電HP:「地下貯水槽概要」より引用)
実際には、下の表のようにすでにNo.2とNo.3には濃縮塩水がほぼ満タンに入っています。No.4は5/6号機の低レベル滞留水が入っています。こちらは放射性物質の濃度がかなり低いものです。あとでNo.2から別の貯水槽に移送する話が出てきますが、No.2の濃縮塩水を移送するとしたら、現在空いていて容量が多い貯水槽はNo.1かNo.6しかありません。

(東電HP:「福島第一原子力発電所地下貯水槽スペック」より引用)
この地下貯水槽は下の図のようにベントナイトシートの上にHDPE(高密度ポリエチレン)でできた遮水シートを二重に重ねています。底面にはその上にさらに保護コンクリートの層があるようです。法面(「のりめん」と読むそうです)、すなわち斜面の部分には砕石を積み上げているそうです。

(東電HP:「地下貯水槽概要」より引用)
ベントナイト層の外側には集水パイプがあり、もし漏えいが生じたら、集水パイプの先に接続しているドレーン孔の吸い出し口から水をサンプリングして毎週1回モニタリングしていたということです。下の時系列にあるように、No.2は2/1から濃縮塩水を入れだして、3/2に約95%までたまったので、それ以降は毎週1回塩素イオン濃度でモニタリングしていたという記載があります。なお、このドレーン孔は、北東側と南西側の2箇所にしかないようです。

(東電HP:「地下貯水槽概要」より引用)
なぜ塩素イオン濃度でモニタリングするかというと、ここに入れているのは濃縮塩水なので、通常よりも塩素イオン濃度が高いのです。この汚染水には海水がかなり含まれていますから、漏えいがあればこれでチェックできるだろうと考えたのでしょう。ただし、これだけでは不安なため、簡単に測定できる全ベータ核種の濃度も多くの場合は測定していました。
3/27には検出限界値未満だった全ベータ核種が、4/3の9:30に検出されましたが、東京電力は指標にしていた塩素イオン濃度がほとんど変わっていなかったため、この日は何も発表をしませんでした。ただし、全ベータ核種で検出されたため、翌日の4/4も全ベータ核種の測定をしました。その結果、南西側のドレーン孔からは全ベータ核種が検出されませんでしたが北東側のドレーン孔からは再び全ベータ核種が検出されました。

(東電HP:「地下貯水槽概要」より引用)
ここで東京電力はおかしいと気づき、4/5にはドレーン孔ではなくベントナイト層の内側に設置してある「漏えい検知孔」で測定をします。やはり南東側では検出されるものの低い濃度でしたが、北東側ではドレーン孔の100倍の濃度である5838Bq/cm3=5.8×10(6)Bq/Lと高く、しかも塩素濃度も通常の10ppm近くではなく300ppmと非常に高い値を示していました。
このことから東京電力は地下貯水槽から汚染水が漏れていると判断し、公表に至ったものです。4/5以降の時系列についてはここに詳細に掲載されています。

(東電HP「福島第一原子力発電所地下貯水槽からの水漏れに関する時系列(通報連絡、一斉メール実績)(PDF 91.5KB)」より)
しかし、ねずみによる停電など最近の一連の事故における公表・報告と同様、今回も公表がおそいという批判が出ています。木野龍逸さんがBLOGOSに書いた「放射性汚染水が大量に漏洩−−−多数の記者から公表が遅いという指摘」をお読み下さい。
そして、この漏えいはどこから起こっているのかがわからないため、地下貯水槽No.2のマンホールにポンプを投入し、No.1のマンホールへ移送No.2からNo.1へと移送を開始しました。深夜1時半の記者会見においては約2週間かかるということでしたが、10時の会見時には、さらに仮設ポンプを3台追加して、5.3日で移送が完了するということでした。
さらにその後のプレスリリースでは、「福島第一原子力発電所地下貯水槽No.2からの水漏れについて(続報7)【報道関係各位一斉メール】」にあるように本設ポンプはNo.1ではなくNo.6に移送し、仮設ポンプはNo.1へという形に変更したようです。

(東電HP:「地下貯水槽概要(平成25年4月6日18時時点)」より)
これによって、移送にかかる日数を約3.1日と減らすことができるそうです。それでも、この間にさらに47トンの濃縮塩水が漏れ出すという試算を東京電力が発表したという報道がありました。

(東電HP:「地下貯水槽概要(平成25年4月6日18時時点)」より)
東電の発表では、今回の漏洩事故で漏れ出した放射性物質の量は、漏れ出した量を最大の約120トンとし、北東側の漏えい検知孔の全ベータ核種の濃度が約5.8×10(3)Bq/cm3=5.8×10(6)Bq/L=5.8×10(9)Bq/トン=58億Bq/トンなのでかけ算で58億×120=7100億Bqという計算になっています。ちなみに、セシウムなどのガンマ核種は約1.8億Bqということです。
この東電の発表については書きたいことはいろいろとあるのですが、長くなったのと、これまでのデータについて詳細な検討をしてから書きたいのでひとまずはここで終わりにします。この続きは明日書きたいと思いますので、そちらもぜひよろしくお願いいたします。
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