地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(2)
4/6に発表された、地下貯水槽からの漏洩事故に関する情報で、昨日(4/6)の「地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(1)」の続きです。
前回は地下貯水槽がどういうものか、今回の漏洩事故はどうやって起きたかについてご紹介しました。時間の関係で書き切れなかったことをここでは書いていきます。また、昨日の夜以降に新たに発表されたデータもありますので、それも補足します。
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前回は地下貯水槽がどういうものか、今回の漏洩事故はどうやって起きたかについてご紹介しました。時間の関係で書き切れなかったことをここでは書いていきます。また、昨日の夜以降に新たに発表されたデータもありますので、それも補足します。
3. 東京電力が発表した7100億ベクレルは正しいのか?
昨日4/6の東電HPに掲載された資料(「地下貯水槽概要(平成25年4月6日18時時点)」)には非常におかしい点がありました。復習してみます。
漏れ出したのは推定で約120トン。これは、水位の低下が95.0%から94.3%と約4cmあったことから下図のように計算して出したようなので、これは問題ないと思います。

問題は漏れ出した放射性核種の濃度です。東電はなぜかベントナイト層の内側に設置した「漏えい検出孔」で検出された全ベータ核種の濃度として、5,835Bq/cm3=5.8×10(6)Bq/L=5.8×10(9)Bq/トンという数値を元にして、この濃度の濃縮塩水が120トン漏えいしたから、5.8×10(9)Bq/トン×120トン=7.1×10(11)Bq=7100億ベクレルという計算をしています。記者会見でも誰もそのことに疑問を持たなかったようです。
でも、本当にそれでいいのでしょうか?そもそも、このNo.2に貯められている濃縮塩水の全ベータ核種の濃度はどれくらいなのでしょうか?その値と東電が計算に用いた5.8×10(6)Bq/Lというのは一致しているのでしょうか?
私も6日の昼間は記者会見を途中から見ながら、全体像がつかめずにイライラしていました。普通ならばそういう情報をパワポの資料に載せるものです。しかしなぜかこの東電の発表資料にはそういう計算の元になる重要な基本的な数値が載っていないのです。記者会見もあとで見てみましたが、そのような発表はなかったように思います。
濃縮塩水の全ベータ核種の濃度を概算することはできます。「東京電力が発表してきた福島第一原発の汚染水情報のまとめ(3)」などにまとめてありますが、濃縮塩水中の核種の濃度は大ざっぱには推測できます。
そのためには、復習になりますが汚染水循環処理システムについて確認しておきましょう。

(原子力規制委員会のHPより)
1号機から4号機までのタービン建屋地下にたまった放射能汚染水はプロセス主建屋という放射性廃棄物処理建屋に送られます。そこでセシウム吸着装置または第二セシウム吸着装置(SARRY)を通してセシウムをほとんど除去します。その処理水はSPTと呼ばれるタンクに蓄えられたあと、淡水化装置(逆浸透膜:RO)に通されます。これは、初期の原子炉への注水が海水だったため、塩素を除くために行われるものです。逆浸透膜で淡水化された水は再び原子炉への注水に使用されますが、塩分が濃縮された濃縮塩水は濃縮塩水受タンク(上の図の緑色の部分)に蓄えられます。この水はさらに蒸発濃縮装置を通して淡水と濃縮廃液に分離されます。
多核種除去設備(ALPS)が稼働したら、この循環の中で①、②、③からALPSへ水が送られて62種の放射性核種を除去し、トリチウムを除くメジャーな核種をほとんど除去した処理水として保管する予定です。
今回の地下貯水槽というのは、上の図でいう緑色の濃縮塩水受タンクに該当します。つまり、淡水化装置(逆浸透膜装置)を通した水ということです。この水にどれだけの放射性核種が含まれているかは、東電が毎月発表しています。その一覧は「東京電力が発表してきた福島第一原発の汚染水情報のまとめ(3)」にあるので参考にして下さい。
最新のデータ(3/6発表)を例にすると、下の表で⑧の淡水化装置濃縮水を見ればいいことになります。

(東電HP 水処理設備の放射能濃度測定結果(3/6)より)
すると、上の表から以下のデータが読み取れます(表はBq/LではなくBq/cm3なので注意。ここでは単位をBq/Lに変換して示します)。今年の2/19に採水したデータです。
Cs-134: 5.8×10(3)= 5,800Bq/L
Cs-137: 1.3×10(4)= 13,000Bq/L
H-3 : 1.2×10(6)= 1,200,000Bq/L
全β : 2.9×10(8)=290,000,000Bq/L
今年の2/19のデータで2.9×10(8)Bq/L、一月前の1/15で2.7×10(8)Bq/Lです。12/18には4.3×10(7)Bq/Lなので、「東京電力が発表してきた福島第一原発の汚染水情報のまとめ(3)」で過去のデータを1年分ほど確認しましたが月によって増減がかなりあることがわかります。
No.2の地下貯水槽に貯水をはじめたのが今年の2/1で95%までたまったのが3/2だったという「地下貯水槽概要」の発表(「時系列」参照)からすると、No.2に入っている濃縮塩水の全β核種は少なく見ても2.7×10(8)Bq/Lで、全βは高い時の濃縮塩水が入っているようです。
ということは、東電が発表した全ベータの濃度として、5,835Bq/cm3=5.8×10(6)Bq/Lという数値がありましたが、これはもともと地下貯水槽に入っていた全βの濃度ではないということになります。全βの濃度は2.7×10(8)Bq/Lとすると、東電発表の約50倍になります。
であれば、120トンが正しいとすると、β核種がベントナイト層などに吸着しない限り、2.7×10(8)Bq/L×120トン=2.7×10(11)Bq/トン×120トン=3.24×10(13)Bq、つまり32兆ベクレルということになります。2.9×10(8)Bq/Lを使えば34.8兆ベクレルです。東電の発表した7100億ベクレルというのはどう見ても少ないことになります。
この事はすでに東工大の牧野先生(http://togetter.com/li/483694参照)やコンタンさん(http://togetter.com/li/483744参照)が指摘していることですが、私もその通りだと思います。
おそらく東京電力はそういうことはわかった上で、あくまで漏えい検知孔ではこの濃度だったという数値を使って説明、反論してくるでしょう。しかし、漏えい検知孔はあくまで北東側と南西側の2点で集めているだけです。主に漏えいしている地点がそこから離れていれば当然のことながら低いデータが出るでしょう。
これは東京電力がよく使うテクニックの一つです。あるデータを公表して、それを元に全体を推論させるような情報の出し方をするのですが、全体像を把握するのに必要な情報を敢えて出さないのです。今回の漏えい検知孔のデータも正しいものでしょうが、その濃度が全てを反映しているとは限りません。しかし、それしか情報を出さなければなんとなくそれで多くの人、特に記者会見にいる記者達は納得してしまいます。東京電力にしてみれば、記者達が納得して自分たちの説明通りに記事を書いてくれればそれでいいのです。
ですが、もしNo.2の地下貯水槽に入っている13000トンの濃縮塩水の全ベータ核種の濃度(例えば2.7×10(8)Bq/L)を同時に発表していたらどうでしょうか?120トンという体積から、漏えいした量はもっと多いのではないか?という疑問が記者会見でもすぐに指摘されるはずです。それをさせないためにこの一番重要な情報は敢えて発表しないのです。
今回も、例えば朝日新聞は「漏れた汚染水は120トン 福島第一、地下水に混入か」という記事を書いて、その中で東京電力が発表していない『 ためられていたのは、原子炉で溶けた燃料を冷やしてセシウム吸着装置で処理した後のストロンチウムなどが含まれた高濃度の汚染水。1立方センチメートルあたり約29万ベクレル。約1万3千トンがたまりほぼ満水だった。』という情報を書いています。これは上で示した2.9×10(5)Bq/cm3=2.9×10(8)Bq/Lという3/6発表のデータだと思います。
この記事が非常に惜しいと思うのは、ここまで情報を調べたのならば、どうして体積をかけ算して、「あれ?なんか発表した7100億ベクレルというのは少ないぞ?」と気づかなかったのか?ということです。単位の換算さえできれば誰でも計算できる非常に簡単なかけ算です。これも、もれた全量は7100億ベクレルとインプットされていて、そこに疑問を持たなかったために、せっかく2.9×10(8)Bq/Lを調べたのにそれを用いて検算しようとしなかったのです。
(ここまでは4/7午前10時の記者会見の前に書いたものです。そのつもりでお読み下さい。4/7の10時からの記者会見では、全βの濃度は2.9×10(8)と発表されました。また、記者会見の後半では上記の疑問点についても突っ込まれましたが東電は後日調査して回答すると逃げました。)
4. No.3の地下貯水槽からも漏えいしている?
昨日「地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(1)」を書いたあとに新しい動きがありました。
福島第一原子力発電所地下貯水槽No.2からの水漏れについて(続報10)【報道関係各位一斉メール】
これは4/6の夜10時から11時頃?にプレスリリースに出たものです。資料はこちらにあります。

全βの濃度が110Bq/Lと4/3時点(59Bq/L)の2倍に上がってきていることがわかりました。この事によって、No.2の隣のNo.3の地下貯水槽からも漏れ出してきている可能性が出てきました。ただし、この時点ではドレーン孔、つまりベントナイト層の外側のデータだけですので、隣のNo.2からの影響なのかどうかわかりませんでした。そこでベントナイト層の内側にある漏えい検知孔を測定することにしました。
福島第一原子力発電所地下貯水槽からの水漏れについて(続報12)【報道関係各位一斉メール】
4/7の朝になって新しい情報が出てきました。No.3の漏えい検知孔のデータが出てきたのです。No.3の北東側ではほとんど検出されませんでしたが、南西側で検出されました。北東側、南西側という記述ではわかりにくいと思いますので図を示します。No.2とNo.3の位置関係を含めて理解しておいてください。

(東電資料に加筆)
ベントナイト層の内側である漏えい検知孔でも検出されたということがわかりましたので、これはNo.3からも漏れ出しているということがほぼ間違いないという状況になってきました。
4/7の午前10時から記者会見が開かれました。そこで新たな情報がわかってきました。
「地下貯水槽スペック(4月7日午前9時時点)」

No.2からNo.1やNo.6へ移送されている事が示されています。
「地下貯水槽概要(平成25年4月7日10時時点)」
ここで、はじめて地下貯水槽に入っている全βの濃度について発表がありました。また、漏えい検知孔とドレーン孔の位置関係についても説明の図がありました。

私が先ほど推論していたように、全βの濃度は3/6に発表されていた濃度と同じで、2.9×10(8)Bq/Lであること、および塩素濃度が1500ppmであるということが判明しました。でも、この情報は初めから出そうと思っていれば出せたはずです。不親切ですね。
さて、No.3南西側の漏えい検知孔でのデータとして、4/6 22:20のデータと4/7 3:45のデータが発表されました。上の表でいう4/6と4/7のデータに当たります。濃度としてはNo.2の濃度と同じレベル(1000Bq/cm3=1,000,000Bq/L)です。ですから、No.3でも南西側では漏えいが起こっているということです。ただし、外側のドレーン孔の濃度で比較すると、No.3はNo.2よりも100倍以上薄い濃度でしか検出されていません。その点からはNo.3の漏えい量はNo.2よりはかなり少ない可能性があります。
また、次の図に示すように水位の変化を見ると、No.3の水位変化はほとんどなく、No.2の水位変化は3月後半から始まっていたことがわかります。ちなみに、記者会見の情報では、No.3には1/8から入れ始めて2/8にほぼ満水になった。それに対してNo.2は2/1に入れ始めて3/2にほぼ満水になったということです。

東電HP「地下貯水槽概要(平成25年4月7日10時時点)」より
この水位変化から、東電としては緊急に対応すべきものはNo.2であり、No.3については水位変化がほとんどないことからもう少し調査してから対応したいという判断をしています。つまり、No.2からNo.1とNo.6への移送はそのまま続行し、No.3についてはどこかに移送するということは現時点では行わないということです。
No.2に続いてNo.3からも漏れ出したということで、地下貯水槽自体への信頼性に疑問が生じてきました。そのため、移送先のNo.1やNo.6も本当に大丈夫なのか?という当然の疑問が出てきます。しかし、地下貯水槽を用いないで他のタンクなどに移送することはできないのか?という質問に対して、「ない袖は振れない」という回答がありました。
今回の新情報としてはこれくらいです。
5. 現時点での課題・疑問点
現時点では、漏えいした原因及び正確な状況がわかっていません。東電自身が記者会見で述べていたのですが、いくつか辻褄が合わない点があります。
(1)漏えい検知孔でサンプリングするのが難しい。すなわち水位が低い。
大量に漏れ出しているならば井戸と同じ原理で漏えい検知孔の水位と貯水槽の水位は最終的に同じになり、簡単にサンプリングできるはずだが、漏えい検知孔の水位がかなり低いということをどう説明できるのか?という問題が残っています。
(2)No.2で本当に120トンが漏れ出したのか?
ポリエチレンやベントナイト層の間に敷き詰めている長繊維不織布が厚さ6.5mmで3層あるため厚さにして2cmになります。60m×50m×2cm=60トンぐらいがこの不織布にトラップされている可能性もあるのではないか、という議論が読売新聞の記者との間でありました。
また、ベントナイト層の外側のドレーン孔には集水パイプから水が集まってくるはずなので、120トンも漏れだせばもっと濃度が高くても不思議ではない。しかしどうしてこんなに低いのか?というところの説明ができていません。これは、ドレーン孔には地下水も流入してくると東電自身が説明していたので、地下水で希釈されているのだと思いますが、量的な問題を説明できるのかは不明です。
他にも、いくつも課題があります。
・今回の事故に伴って濃縮塩水を入れるタンクの余力がかなりなくなりました。現実問題として地下貯水槽以外に移送することはできない、という記者会見でのコメントがあったことからもわかると思います。今後汚染水のタンク容量問題にどう対応していくのか、ということは重要な事ですので、次回にでもまとめたいと思います。
・今回なぜこのような事が起きたか、というと、ALPSの運用開始が遅れた事が大きな原因の一つです。これについては「放射能汚染水情報アップデート ALPSの稼働をめぐる部分最適の是非(1)」と「放射能汚染水情報アップデート ALPSの稼働をめぐる部分最適の是非(2)」に書いたのですが、これについても私なりの意見を書きたいと思います。
これらについては、今後の最新情報も含めて今夜か明日かはわかりませんが、「地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(3)」に記載したいと思います。
今回は、4/7の記者会見終了時までの最新情報ということでここまでの情報をお伝えしたいと思います。
昨日4/6の東電HPに掲載された資料(「地下貯水槽概要(平成25年4月6日18時時点)」)には非常におかしい点がありました。復習してみます。
漏れ出したのは推定で約120トン。これは、水位の低下が95.0%から94.3%と約4cmあったことから下図のように計算して出したようなので、これは問題ないと思います。

問題は漏れ出した放射性核種の濃度です。東電はなぜかベントナイト層の内側に設置した「漏えい検出孔」で検出された全ベータ核種の濃度として、5,835Bq/cm3=5.8×10(6)Bq/L=5.8×10(9)Bq/トンという数値を元にして、この濃度の濃縮塩水が120トン漏えいしたから、5.8×10(9)Bq/トン×120トン=7.1×10(11)Bq=7100億ベクレルという計算をしています。記者会見でも誰もそのことに疑問を持たなかったようです。
でも、本当にそれでいいのでしょうか?そもそも、このNo.2に貯められている濃縮塩水の全ベータ核種の濃度はどれくらいなのでしょうか?その値と東電が計算に用いた5.8×10(6)Bq/Lというのは一致しているのでしょうか?
私も6日の昼間は記者会見を途中から見ながら、全体像がつかめずにイライラしていました。普通ならばそういう情報をパワポの資料に載せるものです。しかしなぜかこの東電の発表資料にはそういう計算の元になる重要な基本的な数値が載っていないのです。記者会見もあとで見てみましたが、そのような発表はなかったように思います。
濃縮塩水の全ベータ核種の濃度を概算することはできます。「東京電力が発表してきた福島第一原発の汚染水情報のまとめ(3)」などにまとめてありますが、濃縮塩水中の核種の濃度は大ざっぱには推測できます。
そのためには、復習になりますが汚染水循環処理システムについて確認しておきましょう。

(原子力規制委員会のHPより)
1号機から4号機までのタービン建屋地下にたまった放射能汚染水はプロセス主建屋という放射性廃棄物処理建屋に送られます。そこでセシウム吸着装置または第二セシウム吸着装置(SARRY)を通してセシウムをほとんど除去します。その処理水はSPTと呼ばれるタンクに蓄えられたあと、淡水化装置(逆浸透膜:RO)に通されます。これは、初期の原子炉への注水が海水だったため、塩素を除くために行われるものです。逆浸透膜で淡水化された水は再び原子炉への注水に使用されますが、塩分が濃縮された濃縮塩水は濃縮塩水受タンク(上の図の緑色の部分)に蓄えられます。この水はさらに蒸発濃縮装置を通して淡水と濃縮廃液に分離されます。
多核種除去設備(ALPS)が稼働したら、この循環の中で①、②、③からALPSへ水が送られて62種の放射性核種を除去し、トリチウムを除くメジャーな核種をほとんど除去した処理水として保管する予定です。
今回の地下貯水槽というのは、上の図でいう緑色の濃縮塩水受タンクに該当します。つまり、淡水化装置(逆浸透膜装置)を通した水ということです。この水にどれだけの放射性核種が含まれているかは、東電が毎月発表しています。その一覧は「東京電力が発表してきた福島第一原発の汚染水情報のまとめ(3)」にあるので参考にして下さい。
最新のデータ(3/6発表)を例にすると、下の表で⑧の淡水化装置濃縮水を見ればいいことになります。

(東電HP 水処理設備の放射能濃度測定結果(3/6)より)
すると、上の表から以下のデータが読み取れます(表はBq/LではなくBq/cm3なので注意。ここでは単位をBq/Lに変換して示します)。今年の2/19に採水したデータです。
Cs-134: 5.8×10(3)= 5,800Bq/L
Cs-137: 1.3×10(4)= 13,000Bq/L
H-3 : 1.2×10(6)= 1,200,000Bq/L
全β : 2.9×10(8)=290,000,000Bq/L
今年の2/19のデータで2.9×10(8)Bq/L、一月前の1/15で2.7×10(8)Bq/Lです。12/18には4.3×10(7)Bq/Lなので、「東京電力が発表してきた福島第一原発の汚染水情報のまとめ(3)」で過去のデータを1年分ほど確認しましたが月によって増減がかなりあることがわかります。
No.2の地下貯水槽に貯水をはじめたのが今年の2/1で95%までたまったのが3/2だったという「地下貯水槽概要」の発表(「時系列」参照)からすると、No.2に入っている濃縮塩水の全β核種は少なく見ても2.7×10(8)Bq/Lで、全βは高い時の濃縮塩水が入っているようです。
ということは、東電が発表した全ベータの濃度として、5,835Bq/cm3=5.8×10(6)Bq/Lという数値がありましたが、これはもともと地下貯水槽に入っていた全βの濃度ではないということになります。全βの濃度は2.7×10(8)Bq/Lとすると、東電発表の約50倍になります。
であれば、120トンが正しいとすると、β核種がベントナイト層などに吸着しない限り、2.7×10(8)Bq/L×120トン=2.7×10(11)Bq/トン×120トン=3.24×10(13)Bq、つまり32兆ベクレルということになります。2.9×10(8)Bq/Lを使えば34.8兆ベクレルです。東電の発表した7100億ベクレルというのはどう見ても少ないことになります。
この事はすでに東工大の牧野先生(http://togetter.com/li/483694参照)やコンタンさん(http://togetter.com/li/483744参照)が指摘していることですが、私もその通りだと思います。
おそらく東京電力はそういうことはわかった上で、あくまで漏えい検知孔ではこの濃度だったという数値を使って説明、反論してくるでしょう。しかし、漏えい検知孔はあくまで北東側と南西側の2点で集めているだけです。主に漏えいしている地点がそこから離れていれば当然のことながら低いデータが出るでしょう。
これは東京電力がよく使うテクニックの一つです。あるデータを公表して、それを元に全体を推論させるような情報の出し方をするのですが、全体像を把握するのに必要な情報を敢えて出さないのです。今回の漏えい検知孔のデータも正しいものでしょうが、その濃度が全てを反映しているとは限りません。しかし、それしか情報を出さなければなんとなくそれで多くの人、特に記者会見にいる記者達は納得してしまいます。東京電力にしてみれば、記者達が納得して自分たちの説明通りに記事を書いてくれればそれでいいのです。
ですが、もしNo.2の地下貯水槽に入っている13000トンの濃縮塩水の全ベータ核種の濃度(例えば2.7×10(8)Bq/L)を同時に発表していたらどうでしょうか?120トンという体積から、漏えいした量はもっと多いのではないか?という疑問が記者会見でもすぐに指摘されるはずです。それをさせないためにこの一番重要な情報は敢えて発表しないのです。
今回も、例えば朝日新聞は「漏れた汚染水は120トン 福島第一、地下水に混入か」という記事を書いて、その中で東京電力が発表していない『 ためられていたのは、原子炉で溶けた燃料を冷やしてセシウム吸着装置で処理した後のストロンチウムなどが含まれた高濃度の汚染水。1立方センチメートルあたり約29万ベクレル。約1万3千トンがたまりほぼ満水だった。』という情報を書いています。これは上で示した2.9×10(5)Bq/cm3=2.9×10(8)Bq/Lという3/6発表のデータだと思います。
この記事が非常に惜しいと思うのは、ここまで情報を調べたのならば、どうして体積をかけ算して、「あれ?なんか発表した7100億ベクレルというのは少ないぞ?」と気づかなかったのか?ということです。単位の換算さえできれば誰でも計算できる非常に簡単なかけ算です。これも、もれた全量は7100億ベクレルとインプットされていて、そこに疑問を持たなかったために、せっかく2.9×10(8)Bq/Lを調べたのにそれを用いて検算しようとしなかったのです。
(ここまでは4/7午前10時の記者会見の前に書いたものです。そのつもりでお読み下さい。4/7の10時からの記者会見では、全βの濃度は2.9×10(8)と発表されました。また、記者会見の後半では上記の疑問点についても突っ込まれましたが東電は後日調査して回答すると逃げました。)
4. No.3の地下貯水槽からも漏えいしている?
昨日「地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(1)」を書いたあとに新しい動きがありました。
福島第一原子力発電所地下貯水槽No.2からの水漏れについて(続報10)【報道関係各位一斉メール】
これは4/6の夜10時から11時頃?にプレスリリースに出たものです。資料はこちらにあります。

全βの濃度が110Bq/Lと4/3時点(59Bq/L)の2倍に上がってきていることがわかりました。この事によって、No.2の隣のNo.3の地下貯水槽からも漏れ出してきている可能性が出てきました。ただし、この時点ではドレーン孔、つまりベントナイト層の外側のデータだけですので、隣のNo.2からの影響なのかどうかわかりませんでした。そこでベントナイト層の内側にある漏えい検知孔を測定することにしました。
福島第一原子力発電所地下貯水槽からの水漏れについて(続報12)【報道関係各位一斉メール】
4/7の朝になって新しい情報が出てきました。No.3の漏えい検知孔のデータが出てきたのです。No.3の北東側ではほとんど検出されませんでしたが、南西側で検出されました。北東側、南西側という記述ではわかりにくいと思いますので図を示します。No.2とNo.3の位置関係を含めて理解しておいてください。

(東電資料に加筆)
ベントナイト層の内側である漏えい検知孔でも検出されたということがわかりましたので、これはNo.3からも漏れ出しているということがほぼ間違いないという状況になってきました。
4/7の午前10時から記者会見が開かれました。そこで新たな情報がわかってきました。
「地下貯水槽スペック(4月7日午前9時時点)」

No.2からNo.1やNo.6へ移送されている事が示されています。
「地下貯水槽概要(平成25年4月7日10時時点)」
ここで、はじめて地下貯水槽に入っている全βの濃度について発表がありました。また、漏えい検知孔とドレーン孔の位置関係についても説明の図がありました。

私が先ほど推論していたように、全βの濃度は3/6に発表されていた濃度と同じで、2.9×10(8)Bq/Lであること、および塩素濃度が1500ppmであるということが判明しました。でも、この情報は初めから出そうと思っていれば出せたはずです。不親切ですね。
さて、No.3南西側の漏えい検知孔でのデータとして、4/6 22:20のデータと4/7 3:45のデータが発表されました。上の表でいう4/6と4/7のデータに当たります。濃度としてはNo.2の濃度と同じレベル(1000Bq/cm3=1,000,000Bq/L)です。ですから、No.3でも南西側では漏えいが起こっているということです。ただし、外側のドレーン孔の濃度で比較すると、No.3はNo.2よりも100倍以上薄い濃度でしか検出されていません。その点からはNo.3の漏えい量はNo.2よりはかなり少ない可能性があります。
また、次の図に示すように水位の変化を見ると、No.3の水位変化はほとんどなく、No.2の水位変化は3月後半から始まっていたことがわかります。ちなみに、記者会見の情報では、No.3には1/8から入れ始めて2/8にほぼ満水になった。それに対してNo.2は2/1に入れ始めて3/2にほぼ満水になったということです。

東電HP「地下貯水槽概要(平成25年4月7日10時時点)」より
この水位変化から、東電としては緊急に対応すべきものはNo.2であり、No.3については水位変化がほとんどないことからもう少し調査してから対応したいという判断をしています。つまり、No.2からNo.1とNo.6への移送はそのまま続行し、No.3についてはどこかに移送するということは現時点では行わないということです。
No.2に続いてNo.3からも漏れ出したということで、地下貯水槽自体への信頼性に疑問が生じてきました。そのため、移送先のNo.1やNo.6も本当に大丈夫なのか?という当然の疑問が出てきます。しかし、地下貯水槽を用いないで他のタンクなどに移送することはできないのか?という質問に対して、「ない袖は振れない」という回答がありました。
今回の新情報としてはこれくらいです。
5. 現時点での課題・疑問点
現時点では、漏えいした原因及び正確な状況がわかっていません。東電自身が記者会見で述べていたのですが、いくつか辻褄が合わない点があります。
(1)漏えい検知孔でサンプリングするのが難しい。すなわち水位が低い。
大量に漏れ出しているならば井戸と同じ原理で漏えい検知孔の水位と貯水槽の水位は最終的に同じになり、簡単にサンプリングできるはずだが、漏えい検知孔の水位がかなり低いということをどう説明できるのか?という問題が残っています。
(2)No.2で本当に120トンが漏れ出したのか?
ポリエチレンやベントナイト層の間に敷き詰めている長繊維不織布が厚さ6.5mmで3層あるため厚さにして2cmになります。60m×50m×2cm=60トンぐらいがこの不織布にトラップされている可能性もあるのではないか、という議論が読売新聞の記者との間でありました。
また、ベントナイト層の外側のドレーン孔には集水パイプから水が集まってくるはずなので、120トンも漏れだせばもっと濃度が高くても不思議ではない。しかしどうしてこんなに低いのか?というところの説明ができていません。これは、ドレーン孔には地下水も流入してくると東電自身が説明していたので、地下水で希釈されているのだと思いますが、量的な問題を説明できるのかは不明です。
他にも、いくつも課題があります。
・今回の事故に伴って濃縮塩水を入れるタンクの余力がかなりなくなりました。現実問題として地下貯水槽以外に移送することはできない、という記者会見でのコメントがあったことからもわかると思います。今後汚染水のタンク容量問題にどう対応していくのか、ということは重要な事ですので、次回にでもまとめたいと思います。
・今回なぜこのような事が起きたか、というと、ALPSの運用開始が遅れた事が大きな原因の一つです。これについては「放射能汚染水情報アップデート ALPSの稼働をめぐる部分最適の是非(1)」と「放射能汚染水情報アップデート ALPSの稼働をめぐる部分最適の是非(2)」に書いたのですが、これについても私なりの意見を書きたいと思います。
これらについては、今後の最新情報も含めて今夜か明日かはわかりませんが、「地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(3)」に記載したいと思います。
今回は、4/7の記者会見終了時までの最新情報ということでここまでの情報をお伝えしたいと思います。
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