「地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(6)」
4/6の第一報
「地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(1)」
4/7午前の記者会見までの情報をまとめた
「地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(2)」
4/7夕方の記者会見をまとめた
「地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(3)」
タンク容量の余力についてまとめた
「地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(4)」
4/9のNo.1からの漏えいに関する会見をまとめた
「地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(5)」
につづいての第6報です。今回は、地下貯水槽に主に含まれていたストロンチウムについてまとめてみたいと思います。
10. ストロンチウム(Sr)は濃縮塩水中にどれくらいあるのか
これまでこのシリーズでは、全β核種の濃度という表現だけを用いて、その中にどれくらいストロンチウム(Sr)が入っているのかについては言及してきませんでした。東電が発表していないのと、これから測定したとしたら結果が出るのに1ヶ月くらいはかかるためです。
そのため正確なSrの濃度はわかりませんが、これまでに発表されてきたデータからある程度の予想はできます。このブログではこれまでもあまりSrについてまとめてこなかったのですが、コンタンさんのブログにまとめてあるデータもお借りしながら整理してみたいと思います。
そもそも福島第一原発にはどれだけのSrがあったのでしょうか?これについては「福島第一原発事故で海洋に流出した放射性セシウム量は全体のわずか2%? (東京電力の5/24のデータを加えたアップデート版)」を読んでいただきたいと思います。そこでも引用したある論文の表を再掲します。

(西原ら 日本原子力学会和文誌Vol.11,No.1, p.13-19 (2012)より)
これによると、2011年3月11日現在で、1号機から3号機までの合計でSr-90で520ペタベクレル=520PBqあったことがわかります。1PBq=1000兆Bq=1×10(15)Bqですから、52京ベクレルです。Sr-89はその約10倍の6000PBqありましたが、Sr-89の半減期は約50日と短いので、2年以上経った現在では1/10000以下になっており、もう考慮する必要はありません。従って、以下はSr-90についてのみ考えます。
同じ論文から別の表も再度引用します。

(西原ら 日本原子力学会和文誌Vol.11,No.1, p.13-19 (2012)より)
この表によると、2011年5月の段階で燃料棒中にあった放射性核種のうち、Sr-90については約1.6%が汚染水となって溶け出したということです。そうすると、520PBq×0.016=8.32PBqで、2011年5月の段階で8000兆Bqが汚染水として溶け出していたことになります。Cs-137の約1/10ですね。
2011年5月末で、建屋の中にあった水は大ざっぱに12万トンといわれています。8.32PBqを12万トンで割ると、その濃度は8.32PBq÷120,000=6.9×10(10)Bq/トン=6.9×10(7)Bq/L=6.9×10(4)Bq/cm3ということになります。
実際、2011年4月13日のSr-90の濃度は2号機のタービン建屋地下の濃度として、1.4×10(5)Bq/cm3と発表されています。4月ならばさらに汚染水の量は少なかったと考えられるので、ほぼ計算は合います。

東電HP 2011年5/22発表 タービン建屋溜まり水分析結果(JAEA)より
その後、汚染水循環処理システムが開始されて、セシウム(Cs)の除去は順調に進んでいきました。(「放射能汚染水循環処理システムの現状はどうなっているのか?」参照)ところがSrについてはほとんどが除去されていなかったのです。
2011年11月8日の「水処理設備の放射能濃度測定結果」には、ちょうど今の地下貯水槽にあるのと同じ処理工程にある(淡水化装置のあとの濃縮塩水)汚染水でSr-90の濃度が公開されています。そこでは7.6×10(4)Bq/cm3となっていて、4/13の1.4×10(5)Bq/cm3からあまり濃度が下がっていないことがわかります。
ちなみに、この時の汚染水の量は、建屋地下にある汚染水も含めて約17万トンですから、総量で約1.5倍になっています。水の量が増えた分1.5倍に希釈されたと考えると、1.4×10(5)÷1.5=9.3×10(4)Bq/cm3になりますので、汚染水の量が増えた分希釈されただけ、と考えてもいいかもしれません。
2012年1/16に東京電力が発表した、2011年12月の蒸発濃縮装置からの汚染水漏れの時のデータでは、1.1×10(5)Bq/cm3になっています。
さらに、今年の1/31に発表された1号機原子炉格納容器中のSr-90を見ると、7.1×10(4)Bq/cm3となっています。
簡単に測定できるCs-137とは異なり、測定に手間がかかるSr-90の報告はほとんどないのですが、いくつかのポイントとなる汚染水中のSr-90の濃度は、処理の過程やその時の汚染水の量が異なるために単純には比較できないものの、どれもほぼ7~14×10(4)Bq/cm3の幅に入っていることがわかります。
つまり、この2年間、汚染水中のSr-90の濃度は大きな変化がなく、大ざっぱに見積もって7×10(4)Bq/cm3=70,000Bq/cm3=70,000,000Bq/Lであると考えていいということになります。ただしこの見積もりは2-3倍の誤差を含んでいます。(汚染水の液量が2年間で12万トンから約34万トンと3倍になっているのに濃度が変わらないとすると、燃料棒のデブリから徐々にSrが水中に溶け出し続けているということなのかもしれませんが、Sr-90のデータが少なすぎて検証できません。)
とすると、No.2の地下貯水槽から漏えいした可能性がある120トンの濃縮塩水(地下貯水槽に入っている汚染水)中には、7×10(4)Bq/cm3×120トン=7×10(10)Bq/トン×120トン=8.4×10(12)Bq=8.4兆ベクレルという計算が成り立ちます。2-3倍の計算誤差はあるでしょうから、漏えいした120トン中にSr-90は10兆ベクレル程度というイメージでいいのではないのでしょうか。最初に原子炉の中にあったSrの1/1000が今回漏えいした計算ですね。
11.今日(4/10)の動き
今日(4/10)は東電の社長が福島に入って記者会見がありました。その際の資料がHPに掲載されています。さすがに社長が会見で説明する資料だけあって、いつもよりわかりやすくまとまった資料になっています。

社長会見配付資料 より
No.1とNo.2の地下貯水槽に入っている汚染水7100トンは、H2タンクとろ過水タンクにGWをメドに移送を完了する。その後No.3とNo.6の合計16500トンを5月後半にG6エリアにあるタンクに移送する。という計画です。そして、今後は地下貯水槽に汚染水は貯蔵せず、地上の鋼製タンクの設置を前倒ししてそちらに入れていくという計画になっています。
その結果、下のグラフのように、現在はほぼ5000トン程度の余裕しかない空きタンクの余力は、この計画通りに行けば7月末には2万トン程度の余力が出来る事になります。

社長会見配付資料 より
さらに、今も漏れている可能性がある地下貯水槽については、下図のように漏えい検知孔からポンプで汚染水を吸い上げてまた元の地下貯水槽に戻すという応急の対策を取ります。

社長会見配付資料 より
さらに、地下貯水槽周辺の汚染状況の把握のためと、海側への汚染拡大の継続的な監視のために周辺のモニタリング地点を新たに増やすことになりました。

社長会見配付資料 より
今後、発表されるモニタリングのデータが増えて大変になりますが、しばらくは注目していきたいと思います。特に周辺のモニタリングデータは、本当に地下水に影響がないのかどうかを示す重要なデータになると思います。
最新情報のチェックは今後もしていきますし、今回の件でまだ書きたいことはあるので、おそらく明日以降に「地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(7)」も書くと思います。そちらもよろしくお願いします。
これまでこのシリーズでは、全β核種の濃度という表現だけを用いて、その中にどれくらいストロンチウム(Sr)が入っているのかについては言及してきませんでした。東電が発表していないのと、これから測定したとしたら結果が出るのに1ヶ月くらいはかかるためです。
そのため正確なSrの濃度はわかりませんが、これまでに発表されてきたデータからある程度の予想はできます。このブログではこれまでもあまりSrについてまとめてこなかったのですが、コンタンさんのブログにまとめてあるデータもお借りしながら整理してみたいと思います。
そもそも福島第一原発にはどれだけのSrがあったのでしょうか?これについては「福島第一原発事故で海洋に流出した放射性セシウム量は全体のわずか2%? (東京電力の5/24のデータを加えたアップデート版)」を読んでいただきたいと思います。そこでも引用したある論文の表を再掲します。

(西原ら 日本原子力学会和文誌Vol.11,No.1, p.13-19 (2012)より)
これによると、2011年3月11日現在で、1号機から3号機までの合計でSr-90で520ペタベクレル=520PBqあったことがわかります。1PBq=1000兆Bq=1×10(15)Bqですから、52京ベクレルです。Sr-89はその約10倍の6000PBqありましたが、Sr-89の半減期は約50日と短いので、2年以上経った現在では1/10000以下になっており、もう考慮する必要はありません。従って、以下はSr-90についてのみ考えます。
同じ論文から別の表も再度引用します。

(西原ら 日本原子力学会和文誌Vol.11,No.1, p.13-19 (2012)より)
この表によると、2011年5月の段階で燃料棒中にあった放射性核種のうち、Sr-90については約1.6%が汚染水となって溶け出したということです。そうすると、520PBq×0.016=8.32PBqで、2011年5月の段階で8000兆Bqが汚染水として溶け出していたことになります。Cs-137の約1/10ですね。
2011年5月末で、建屋の中にあった水は大ざっぱに12万トンといわれています。8.32PBqを12万トンで割ると、その濃度は8.32PBq÷120,000=6.9×10(10)Bq/トン=6.9×10(7)Bq/L=6.9×10(4)Bq/cm3ということになります。
実際、2011年4月13日のSr-90の濃度は2号機のタービン建屋地下の濃度として、1.4×10(5)Bq/cm3と発表されています。4月ならばさらに汚染水の量は少なかったと考えられるので、ほぼ計算は合います。

東電HP 2011年5/22発表 タービン建屋溜まり水分析結果(JAEA)より
その後、汚染水循環処理システムが開始されて、セシウム(Cs)の除去は順調に進んでいきました。(「放射能汚染水循環処理システムの現状はどうなっているのか?」参照)ところがSrについてはほとんどが除去されていなかったのです。
2011年11月8日の「水処理設備の放射能濃度測定結果」には、ちょうど今の地下貯水槽にあるのと同じ処理工程にある(淡水化装置のあとの濃縮塩水)汚染水でSr-90の濃度が公開されています。そこでは7.6×10(4)Bq/cm3となっていて、4/13の1.4×10(5)Bq/cm3からあまり濃度が下がっていないことがわかります。
ちなみに、この時の汚染水の量は、建屋地下にある汚染水も含めて約17万トンですから、総量で約1.5倍になっています。水の量が増えた分1.5倍に希釈されたと考えると、1.4×10(5)÷1.5=9.3×10(4)Bq/cm3になりますので、汚染水の量が増えた分希釈されただけ、と考えてもいいかもしれません。
2012年1/16に東京電力が発表した、2011年12月の蒸発濃縮装置からの汚染水漏れの時のデータでは、1.1×10(5)Bq/cm3になっています。
さらに、今年の1/31に発表された1号機原子炉格納容器中のSr-90を見ると、7.1×10(4)Bq/cm3となっています。
簡単に測定できるCs-137とは異なり、測定に手間がかかるSr-90の報告はほとんどないのですが、いくつかのポイントとなる汚染水中のSr-90の濃度は、処理の過程やその時の汚染水の量が異なるために単純には比較できないものの、どれもほぼ7~14×10(4)Bq/cm3の幅に入っていることがわかります。
つまり、この2年間、汚染水中のSr-90の濃度は大きな変化がなく、大ざっぱに見積もって7×10(4)Bq/cm3=70,000Bq/cm3=70,000,000Bq/Lであると考えていいということになります。ただしこの見積もりは2-3倍の誤差を含んでいます。(汚染水の液量が2年間で12万トンから約34万トンと3倍になっているのに濃度が変わらないとすると、燃料棒のデブリから徐々にSrが水中に溶け出し続けているということなのかもしれませんが、Sr-90のデータが少なすぎて検証できません。)
とすると、No.2の地下貯水槽から漏えいした可能性がある120トンの濃縮塩水(地下貯水槽に入っている汚染水)中には、7×10(4)Bq/cm3×120トン=7×10(10)Bq/トン×120トン=8.4×10(12)Bq=8.4兆ベクレルという計算が成り立ちます。2-3倍の計算誤差はあるでしょうから、漏えいした120トン中にSr-90は10兆ベクレル程度というイメージでいいのではないのでしょうか。最初に原子炉の中にあったSrの1/1000が今回漏えいした計算ですね。
11.今日(4/10)の動き
今日(4/10)は東電の社長が福島に入って記者会見がありました。その際の資料がHPに掲載されています。さすがに社長が会見で説明する資料だけあって、いつもよりわかりやすくまとまった資料になっています。

社長会見配付資料 より
No.1とNo.2の地下貯水槽に入っている汚染水7100トンは、H2タンクとろ過水タンクにGWをメドに移送を完了する。その後No.3とNo.6の合計16500トンを5月後半にG6エリアにあるタンクに移送する。という計画です。そして、今後は地下貯水槽に汚染水は貯蔵せず、地上の鋼製タンクの設置を前倒ししてそちらに入れていくという計画になっています。
その結果、下のグラフのように、現在はほぼ5000トン程度の余裕しかない空きタンクの余力は、この計画通りに行けば7月末には2万トン程度の余力が出来る事になります。

社長会見配付資料 より
さらに、今も漏れている可能性がある地下貯水槽については、下図のように漏えい検知孔からポンプで汚染水を吸い上げてまた元の地下貯水槽に戻すという応急の対策を取ります。

社長会見配付資料 より
さらに、地下貯水槽周辺の汚染状況の把握のためと、海側への汚染拡大の継続的な監視のために周辺のモニタリング地点を新たに増やすことになりました。

社長会見配付資料 より
今後、発表されるモニタリングのデータが増えて大変になりますが、しばらくは注目していきたいと思います。特に周辺のモニタリングデータは、本当に地下水に影響がないのかどうかを示す重要なデータになると思います。
最新情報のチェックは今後もしていきますし、今回の件でまだ書きたいことはあるので、おそらく明日以降に「地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(7)」も書くと思います。そちらもよろしくお願いします。
- 関連記事
-
- 地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(7) (2013/04/11)
- 「地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(6)」 (2013/04/10)
- 地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!(5) (2013/04/09)


↑日本ブログ村ランキングに参加しました。よかったらクリックお願いします。