地下貯水槽の汚染水漏れから1ヶ月(3):汚染水対策の本質的な解決策は?前編
「地下貯水槽から約120トンの濃縮塩水が地中へ漏出!」として(1)から(9)まで書いたシリーズの続編を連休中から書いています。
今回は、「地下貯水槽の汚染水漏れから1ヶ月(1):ここまでの情報の整理」でご紹介した中にも出てきた各種の委員会や会議において、注目すべき話題がありましたので、そこの資料をご紹介しながら、汚染水対策についてどうしたらいいのかを考えていきたいと思います。
4/19に行われた第9回特定原子力施設監視・評価検討会において東電が用いた資料(資料2-1地下水流入に対する止水対策について[東京電力])と、4/26に行われた汚染水処理対策委員会の資料(資料3-1 地下水流入抑制のための対応方策)からいくつか見ていきます。
まず、4/19の資料では、これまであまり詳細に明らかにされなかった断面図として、タービン建屋の地下に人工岩盤があるような図が紹介されています。

(4/19 資料2-1地下水流入に対する止水対策についてより)
この次のページ(図は省略)に「現状は建屋周辺のサブドレンが停止中であり、建屋が水をせき止める働きをしているため、山側の水位が高い。」と解説がありますが、原子炉建屋(R/B)の山側(西側)のサブドレンでは地下水水位はO.P.7m~8mで、タービン建屋(T/B)の海側(東側)のサブドレンでは地下水水位はO.P.3m~4mになっています。R/BやT/Bがあるあたりは地表面がO.P.10mになるようにしていますので、R/Bの西側ではかなり高いところまで地下水水位が来ていることがわかります。
このため、いろいろな経路から建屋に水が浸入してきている(日量約400トン)と東電では推定しています。由来は降雨と地下水ですが、壊れた建屋から直接降雨が流れ込むことを除けば地下水由来の水がほとんどです。とはいえ、地下水というのも結局は降雨によって増えるため、「降雨を通じた地下水」と考えておいて良いと思います。

(4/19 資料2-1地下水流入に対する止水対策についてより)
今回は、これまでの事例から、地下水がどのように建屋内に入ってくるのかについて、4つほどの経路が示されました。特に基礎底面からの流入というのはこれまで全く情報がなかったものなので説明の図を引用します。

(4/26 資料3-1 地下水流入抑制のための対応方策より)
これによると、原子炉建屋の地下の側面は地下防水をしてありますが、防水のしていない基礎マット部分のコンクリートの継ぎ目から流入しているということを想定しているようです。実は、東日本大震災の前は浮力対策としてサブドレンが稼働していたため、原子炉建屋付近の地下水位はこの基礎マットよりも低く保たれていたのです。

(4/26 資料3-1 地下水流入抑制のための対応方策より)
それが、東日本大震災によりサブドレンが稼働できなくなってしまい、地下水位が現状のように高くなってしまった(本来あるべき水位に戻った)ため、地下防水の施していない基礎マットのコンクリート部分から流入している可能性を東電は指摘しています。
では、東京電力が考えている止水対策としてはどのようなものがあるのか、一覧にして現在の対応状況について東京電力がまとめた表があります。

(4/19 資料2-1地下水流入に対する止水対策についてより)
これらは基本的にこのブログでも紹介してきたものですので、今回は個別にご紹介することは省略しますが、東電の一連の資料を読んでみて、東電が一番重要だとしているサブドレンについては改めて資料を引用します。

(4/19 資料2-1地下水流入に対する止水対策についてより)
これによると、東日本大震災前には、57基のサブドレンにより毎日850トンもの水を汲み上げて、いたということです。それが地震と津波によってサブドレンが全て止まってしまい、現状のように地下水位が大きく上がってしまったのです。その結果、いろいろなところから地下水が建屋内に流入しているのです。
私は当初、地震でコンクリートにひびが入っていて、そこからジワジワと流入しているのかと思っていたのですが、今回の一連の資料を読むと、すでに流入箇所が特定されて止水対策が行われた場所で1日25トンも流入している場所があり、こういう場所の止水をするだけでも合計で1日100トンは減らすことができるということがわかりました。

(4/19 資料2-1地下水流入に対する止水対策についてより)
しかし、残りの300トンがどこから流れ込んできているのか、その全てを特定するのは建屋の汚染水をほとんど抜いてしまってからでないと難しいでしょう。ここから先は流入ヶ所を特定することができないままでどうやって汚染水処理をしていくのか、ということを考えなくてはいけません。
となると、東京電力がこれまで取ってきた対策が本当によかったのか、ということを見直す必要があります。今回はそのための資料が4/26の汚染水処理対策委員会において示されています。東京電力以外に大成建設、鹿島、清水建設から陸側遮水壁の提案がありました。
大成建設は、資料3-2 粘土系遮水壁による恒久的対策において、スラリーウォール・ECウォールと呼ばれる粘土系の遮水壁を用いて陸側遮水壁を構築し、水位管理を行うことによって地下水の管理ができるという提案をしています。

(資料3-2 粘土系遮水壁による恒久的対策より)
陸側遮水壁の提案は、東電が示しているのとほぼ同じ位置に建設する計画です。(東電は陸側遮水壁案としては大成建設の案を採用したのでしょう。)遮水壁の成分についてはここでは粘土系の素材という紹介のみにとどめますが、資料中には詳細な説明が載っています。

(資料3-2 粘土系遮水壁による恒久的対策より)
私がこの資料を読んでいて東電の資料には見いだせなかったアイデアとして、上の図に示されているリチャージ井戸というものがあります。地下水管理を効率的に行うために設置するもので、揚水井戸で汲み上げるだけでなく、もし建屋内部の水位の方が高くなりそうな場合には逆に地下水の水位を上げるためのリチャージ井戸を設置するというものです。これにより遮水壁内部の厳密な地下水位のコントロールを目指すものです。
鹿島は、資料3-3 凍土遮水壁による地下水流入抑制案において凍土を用いた遮水壁という提案をしています。

(資料3-3 凍土遮水壁による地下水流入抑制案より)
凍土といってもイメージが沸かないのですが、上の図を見ると、冷却剤で土壌を冷却するという方法であることがわかります。また、図の紹介は省略しますが、遮水機能が非常に高い(透水係数=0)ことと、地震時にクラックが入っても直ちに再固結する自己修復性を有すること、完成後電源が喪失しても数か月から1年程度は完全融解しないため遮水性は維持できるという長期的安全性を有していることが紹介されています。

(資料3-3 凍土遮水壁による地下水流入抑制案より)
そして施工上の利点も備えているため、既設配管があるような所にも連続して凍土遮水壁を設置することができ、そのために上の図のような形で小さく遮水壁を作ることが可能だという提案でした。
清水建設は資料3-4 建屋内地下水流入抑制対策工に関する提案において下図のような形での陸側遮水壁の提案をしています。

(資料3-4 建屋内地下水流入抑制対策工に関する提案より)
残念ながら、資料を見る限り清水建設の提案にはあまり独自性が感じられませんでした。いくつかの方法を組み合わせて対策を取っていくことが重要であるという提案で、ある意味当然のことを提案しています。
上の資料を読むと、実は2年ほど前の2011年6月にすでに清水建設が同じ陸側遮水壁の提案をしたと書いてあります。ということは、おそらく2年ほど前にも何社かにプレゼンをしてもらって、その結果陸側遮水壁は見合わせて海側遮水壁のみの実施ということになったのだということがこの資料からわかります。
陸側遮水壁の実施場所一つを取ってみても、3社3様であり、多くの人が知恵を出し合えばいろいろな方法があるのだな、ということがわかります。これ以外にも、以前「福島原発の汚染水をよく知るため、O.P.とサブドレンを理解しましょう」でご紹介した江口工さんは、その著書「地下水放射能汚染と地震」において、建屋の周りに地下トンネルを掘ってそこからセメントを注入していくセメント注入方法を主張しています。この方法はチェルノブイリ原発事故のあとに当時のソ連に呼ばれて提案して受け入れられた方法らしいです。
今回は前編として4月末に行われた委員会や会議で明らかになったアイデア、特に陸側遮水壁の提案について紹介しました。次回の後編はこれらのアイデアも含めて私なりに情報を整理して、どういう方法があり得るのかをまとめたいと思います。
まず、4/19の資料では、これまであまり詳細に明らかにされなかった断面図として、タービン建屋の地下に人工岩盤があるような図が紹介されています。

(4/19 資料2-1地下水流入に対する止水対策についてより)
この次のページ(図は省略)に「現状は建屋周辺のサブドレンが停止中であり、建屋が水をせき止める働きをしているため、山側の水位が高い。」と解説がありますが、原子炉建屋(R/B)の山側(西側)のサブドレンでは地下水水位はO.P.7m~8mで、タービン建屋(T/B)の海側(東側)のサブドレンでは地下水水位はO.P.3m~4mになっています。R/BやT/Bがあるあたりは地表面がO.P.10mになるようにしていますので、R/Bの西側ではかなり高いところまで地下水水位が来ていることがわかります。
このため、いろいろな経路から建屋に水が浸入してきている(日量約400トン)と東電では推定しています。由来は降雨と地下水ですが、壊れた建屋から直接降雨が流れ込むことを除けば地下水由来の水がほとんどです。とはいえ、地下水というのも結局は降雨によって増えるため、「降雨を通じた地下水」と考えておいて良いと思います。

(4/19 資料2-1地下水流入に対する止水対策についてより)
今回は、これまでの事例から、地下水がどのように建屋内に入ってくるのかについて、4つほどの経路が示されました。特に基礎底面からの流入というのはこれまで全く情報がなかったものなので説明の図を引用します。

(4/26 資料3-1 地下水流入抑制のための対応方策より)
これによると、原子炉建屋の地下の側面は地下防水をしてありますが、防水のしていない基礎マット部分のコンクリートの継ぎ目から流入しているということを想定しているようです。実は、東日本大震災の前は浮力対策としてサブドレンが稼働していたため、原子炉建屋付近の地下水位はこの基礎マットよりも低く保たれていたのです。

(4/26 資料3-1 地下水流入抑制のための対応方策より)
それが、東日本大震災によりサブドレンが稼働できなくなってしまい、地下水位が現状のように高くなってしまった(本来あるべき水位に戻った)ため、地下防水の施していない基礎マットのコンクリート部分から流入している可能性を東電は指摘しています。
では、東京電力が考えている止水対策としてはどのようなものがあるのか、一覧にして現在の対応状況について東京電力がまとめた表があります。

(4/19 資料2-1地下水流入に対する止水対策についてより)
これらは基本的にこのブログでも紹介してきたものですので、今回は個別にご紹介することは省略しますが、東電の一連の資料を読んでみて、東電が一番重要だとしているサブドレンについては改めて資料を引用します。

(4/19 資料2-1地下水流入に対する止水対策についてより)
これによると、東日本大震災前には、57基のサブドレンにより毎日850トンもの水を汲み上げて、いたということです。それが地震と津波によってサブドレンが全て止まってしまい、現状のように地下水位が大きく上がってしまったのです。その結果、いろいろなところから地下水が建屋内に流入しているのです。
私は当初、地震でコンクリートにひびが入っていて、そこからジワジワと流入しているのかと思っていたのですが、今回の一連の資料を読むと、すでに流入箇所が特定されて止水対策が行われた場所で1日25トンも流入している場所があり、こういう場所の止水をするだけでも合計で1日100トンは減らすことができるということがわかりました。

(4/19 資料2-1地下水流入に対する止水対策についてより)
しかし、残りの300トンがどこから流れ込んできているのか、その全てを特定するのは建屋の汚染水をほとんど抜いてしまってからでないと難しいでしょう。ここから先は流入ヶ所を特定することができないままでどうやって汚染水処理をしていくのか、ということを考えなくてはいけません。
となると、東京電力がこれまで取ってきた対策が本当によかったのか、ということを見直す必要があります。今回はそのための資料が4/26の汚染水処理対策委員会において示されています。東京電力以外に大成建設、鹿島、清水建設から陸側遮水壁の提案がありました。
大成建設は、資料3-2 粘土系遮水壁による恒久的対策において、スラリーウォール・ECウォールと呼ばれる粘土系の遮水壁を用いて陸側遮水壁を構築し、水位管理を行うことによって地下水の管理ができるという提案をしています。

(資料3-2 粘土系遮水壁による恒久的対策より)
陸側遮水壁の提案は、東電が示しているのとほぼ同じ位置に建設する計画です。(東電は陸側遮水壁案としては大成建設の案を採用したのでしょう。)遮水壁の成分についてはここでは粘土系の素材という紹介のみにとどめますが、資料中には詳細な説明が載っています。

(資料3-2 粘土系遮水壁による恒久的対策より)
私がこの資料を読んでいて東電の資料には見いだせなかったアイデアとして、上の図に示されているリチャージ井戸というものがあります。地下水管理を効率的に行うために設置するもので、揚水井戸で汲み上げるだけでなく、もし建屋内部の水位の方が高くなりそうな場合には逆に地下水の水位を上げるためのリチャージ井戸を設置するというものです。これにより遮水壁内部の厳密な地下水位のコントロールを目指すものです。
鹿島は、資料3-3 凍土遮水壁による地下水流入抑制案において凍土を用いた遮水壁という提案をしています。

(資料3-3 凍土遮水壁による地下水流入抑制案より)
凍土といってもイメージが沸かないのですが、上の図を見ると、冷却剤で土壌を冷却するという方法であることがわかります。また、図の紹介は省略しますが、遮水機能が非常に高い(透水係数=0)ことと、地震時にクラックが入っても直ちに再固結する自己修復性を有すること、完成後電源が喪失しても数か月から1年程度は完全融解しないため遮水性は維持できるという長期的安全性を有していることが紹介されています。

(資料3-3 凍土遮水壁による地下水流入抑制案より)
そして施工上の利点も備えているため、既設配管があるような所にも連続して凍土遮水壁を設置することができ、そのために上の図のような形で小さく遮水壁を作ることが可能だという提案でした。
清水建設は資料3-4 建屋内地下水流入抑制対策工に関する提案において下図のような形での陸側遮水壁の提案をしています。

(資料3-4 建屋内地下水流入抑制対策工に関する提案より)
残念ながら、資料を見る限り清水建設の提案にはあまり独自性が感じられませんでした。いくつかの方法を組み合わせて対策を取っていくことが重要であるという提案で、ある意味当然のことを提案しています。
上の資料を読むと、実は2年ほど前の2011年6月にすでに清水建設が同じ陸側遮水壁の提案をしたと書いてあります。ということは、おそらく2年ほど前にも何社かにプレゼンをしてもらって、その結果陸側遮水壁は見合わせて海側遮水壁のみの実施ということになったのだということがこの資料からわかります。
陸側遮水壁の実施場所一つを取ってみても、3社3様であり、多くの人が知恵を出し合えばいろいろな方法があるのだな、ということがわかります。これ以外にも、以前「福島原発の汚染水をよく知るため、O.P.とサブドレンを理解しましょう」でご紹介した江口工さんは、その著書「地下水放射能汚染と地震」において、建屋の周りに地下トンネルを掘ってそこからセメントを注入していくセメント注入方法を主張しています。この方法はチェルノブイリ原発事故のあとに当時のソ連に呼ばれて提案して受け入れられた方法らしいです。
今回は前編として4月末に行われた委員会や会議で明らかになったアイデア、特に陸側遮水壁の提案について紹介しました。次回の後編はこれらのアイデアも含めて私なりに情報を整理して、どういう方法があり得るのかをまとめたいと思います。
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