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地下水バイパスで汲み上げた地下水はいったいどれだけ汚染されているの?

 
東京電力が汚染水対策としてはじめた地下水バイパス、これが稼働すると毎日400トンも建屋地下に流入している地下水を100トン近く減らすことができるということになっています。

汲み上げた地下水は汚染されていないはずなので、いったん貯留タンクに貯めて放射能濃度を測定後、地元の了解を得たあとに海に放出する計画でした。ところがその地元の了解がなかなか取れません。これは、東電の原発事故後の地元に対する姿勢に問題があったため、地元との信頼関係がなくなってしまったからでしょう。

そこに6月になって急に出てきたのが、地下水の放射性セシウム濃度がこれまで発表されていた検出限界値未満ではなく実はCs-137で0.39Bq/Lあったという情報でした。この発表を受けてさらに地元の信頼は低下したと思います。

ですが、この検出された0.39Bq/Lという数値もどうやら測定時のサンプルへの汚染だったようです。その再修正が昨日から東京電力のHPに出ているのですが、これがまたわかりにくい情報の出し方しかしていないのです。

どういう情報を出して欲しいのか、どういう説明をすべきなのか、私の考えるところを書きます。



1.地下水バイパスの概要

地下水バイパスについては、このブログでも「放射能汚染水情報アップデート(4) 地下水バイパスの現状」で解説しましたので最初からは説明しません。

上に書いたように、毎日平均で400トンもタービン建屋や原子炉建屋の地下に流入しているとされる地下水の量を減らすため、地下水を上流の山側で汲み上げてしまい、地下水位を下げて、流入する地下水を毎日100トンほど減らすことを目標としています。

そのため、建屋の西側(下の図で言うと下側、山側)にA、B、Cの3系統でそれぞれ4本ずつ、合計12本の揚水井を掘って、地下水を汲み上げています。そして、汲み上げた水は下の図のまん中下側にある一時貯留タンクと呼ばれる場所に貯められます。

6/13-1
6/13 汚染水対策ならびに地下水バイパスについて(PDF 1.68MB)より

貯めた水は放射能を測定して、周辺の河川と同等以下の放射能濃度(Cs-137が1Bq/L以下)しかないことを確認した上で、地元に了解を取り、海へ放出するという計画でした。

なんで3系統あるかというと、下の図に記載されているように貯留→測定→放水というサイクルをくり返していくつもりだったからです。そのためには最低3系統が必要なのです。

6/13-2
(2012年9/24 政府・東電中長期対策会議第10回運営会議資料より)

でも、この計画図を見た時に、私は思いました。「もしこの計画で、1回でも放射能が高めに検出されて、放水できなかったらどうなるんだろうか?その時のために予備のタンクは用意してあるんだろうか?」

先ほどの地下水バイパス概要図によると、一時貯留タンクは全部で9つあるようです。なので、A、B、Cそれぞれに3つずつ割り当てているのでしょうか?そうだとしたらそれはリスク管理上は非常に危険です。そう思っていたら、3系統も動かす前にいきなり放水ができないという事態になってしまいました。

そもそも、地下水バイパスの一日の揚水量はフル稼働したら約1000トンだということです。この一時貯留タンク一つの容量はどれだけなのでしょうか?そういうデータがすぐにわかるようには公開されていません。こういう所の説明が不十分なところが東京電力の情報公開における問題点の一つです。

2.一時貯留タンクの放射性セシウム濃度

これまでの地下水の放射能を測定した結果は、基本的に目標としているCs-137が1Bq/L以下というのは維持されてきています。5/31の東京電力の「汚染水対策ならびに地下水バイパスについて」という資料では、一時貯留タンクのCs-137は検出限界値未満という情報でした。

6/13-4
5/31「汚染水対策ならびに地下水バイパスについて」より

ところが、地元漁協への説明会を5月末に開いたところ、当初得られると思っていた賛成が得られずに再度説明の機会を設けるということになりました。それと相前後して原子力規制委員会からこのような放射性物質の濃度が低いサンプルの測定方法について注意を受けて、その再確認を行ったところ、一時貯留タンクのCs-137の測定方法に問題がある可能性が高いことがわかりました。

それについての説明が6/3に東電HPに掲載された「福島第一原子力発電所におけるガンマ線放出核種分析の評価について(PDF 25.3KB)」です。

私は当初、このタイトルを読んで意味がわからずスルーしてしまいました。ニュースを見て慌てて確認したぐらいです。一番問題だったのは、福島第一原発でのこれまでの測定方法には問題があり、バックグラウンドの少ない福島第二原発で測定をし直すこととしたのですが、一時貯留タンク(Gr-A-1)に貯めてある地下水のCs-137を再測定したら、これまで検出限界値未満(ND)とされてきたデータが実はCs-137で0.39Bq/Lあったということが判明したという報告でした。

6/13-5
福島第一原子力発電所におけるガンマ線放出核種分析の評価について(PDF 25.3KB)」より

これが、ニュースにおいては、東電の放射能能測定方法に問題があり、今までNDと言っていたのに実は数値が検出された、というニュアンスで報道されてしまいました。Cs-137が0.39Bq/Lなので当初の目的としている濃度(1Bq/L)以下ではあるのですが、これまで検出限界値未満と発表していただけに「東電はこれまでウソを言っていたのではないか?」という疑念を産んでしまったのです。これはリスクコミュニケーションとしては最悪の事態です。

なお、この資料にあった、バックグラウンドが高い場合にはどういう測定をしないといけないか?という説明資料はわかりやすい資料でよかったと思います。

6/13-6
福島第一原子力発電所におけるガンマ線放出核種分析の評価について(PDF 25.3KB)」より

ですが、それ以外の説明はタイトルの付け方に始まり、必要な情報が全て掲載されているわけではなく、わかりにくいものでした。まだ読んでいない方は一度読んでみてください。

特に問題だと思う点を挙げます。

・文字が多すぎてパワーポイントを用いている意味がない。これならばWordの資料で文章で記載すべき。もっとわかりやすくポイントを説明し、あとは補足資料として後ろにつけるべき。
・揚水井と一時貯留タンクの関係について説明がないため、初めて読む人にはわからない。
・一時貯留タンクのGr-A-1の中にたまっている地下水の量が記載されていない。また、タンクの総容量も不明。

その後、6/7の「汚染水対策ならびに地下水バイパスについて」では、6/3のデータも掲載されました。

ただ、コンタンさんとのやり取りから、第三者機関の測定値も揚水井と同じ程度に低いため、このデータも何かの測定ミスではないか?という推論を6/8の段階で私はしていました。

そして6/12に「地下水バイパス一時貯留タンク測定結果および評価について」という資料が掲載されています。

ここでは、実は6/3に発表した0.39Bq/Lというのは、測定したサンプルにどこかでコンタミネーション(汚染)があり、高い放射能が出てしまった可能性が高いという発表でした。

でも、この発表資料においても、非常にわかりにくく、一度読んだだけでは頭に入ってこないような書き方をしています。

6/13-7
6/12 「地下水バイパス一時貯留タンク測定結果および評価について」より

例えばこの表において、過去の測定データと今回新たに発表する測定データが混在しています。このような場合、測定日という列を一番右に作り、いつのデータなのかを明示する方がわかりやすいです。このような表の作り方ではNo.1とNo.2が、今回再測定したデータなのか、前回発表済のデータなのかの区別がわかりません。

また、「揚水井」と「一時貯留タンク」の関係についての簡単な説明の図がないため、記者会見でももし初めて聞いた人がいたらこの資料だけではその関係を理解できません。この二つは重要なキーワードですので、その違いと意味を明確に説明する簡単な図は毎回つける必要があります。

それから、Gr-A-1とありますが、いったい一時貯留タンクにはどういう名前がついているのか、Gr-A-1からGr-A-3までなのか、それぞれのタンク容量はいくらなのか、今回測定したGr-A-1の貯留量はどれだけなのか、といった情報が全くありません。汚染水とタンク容量が問題となり、水の出納管理が大事だという話になっているにもかかわらずこういう基本的で重要な情報が載っていないのは問題だと思います。

特に、地元の了解が得られない現在の状況では、地下水バイパスで汲み上げた地下水もしばらくは貯めておかないといけないわけです。どれくらいのペースで地下水バイパスの水を汲み上げているのかわかりませんが、なかなか地元の了解がえられないと、いずれはこの地下水を貯めておくためのタンクを増設しないといけない、という話にもなりかねません。なんせ地下水バイパスは、揚水量は1000トンでやっと地下水を100トン減らせるというものなので、汲み上げた地下水はどんどん海に放水するという前提がない限り、地下水を貯めていくとしたら非常に効率の悪いものなのです。

そういう意味でも、一時貯留タンクの容量についてはすでに公表されているかもしれませんが、こういう資料には必ず掲載すべきと思います。

記者会見の資料ですので、会見では言葉では説明しているかもしれませんし、記者の質問にはあるかもしれませんが、そういう情報のほとんどは記事にはなりません。せっかく「報道配付資料」としてHPに掲載しているのですから、記者だけでなく国民全体に対して広報するつもりで資料を作成し、必要な情報を掲載していって欲しいと思います。


3.まとめと東電にお願いしたいこと

これまでのデータを見る限り、地下水バイパスで汲み上げた地下水は東電の目標としているCs-137で1Bq/Lを十分に下回っています。しかし、今月の一連の発表で、東電は情報の出し方で失敗し、元々少なかった信頼をさらに失うという結果に陥ってしまいました。

そもそも東電の測定では信用できないという人たちが存在するのですから、データの発表は第三者機関の測定結果が揃ってから発表という形でもよかったと思います。それなしに6/3に中途半端に発表したために、「NDと言っていたのはウソだったのか!」と誤解した人も多かったと思います。

数値が検出されるとそれだけでダメだという人もいるという事を考慮して、どういう感度で測定をするのがいいのか、あるいは第三者機関だけに測定させるというやり方もあると思います。もっとも、第三者機関というのも実はくせ者で、東電の関係する会社であったとしても(実際、測定したのは関連会社だったか以前から東電と取引のある会社のようです)、東京電力以外の会社であれば第三者機関だ、というわけのわからない説明を東電はしているようですので、そのあたりの認識にも問題があります。

こうやって信頼を失ってしまった以上、これまで以上に情報をしっかりと公開する必要があります。そのためにお願いしたいことは以下のことです。

・一時貯留タンクの数とそれぞれのタンク容量をまとめ、地下水バイパスの資料に添付して公表する。
・今回測定した一時貯留タンクGr-A-1の貯留量を公表する。
・9つあると思われる一時貯留タンクは、地下水バイパスがフル稼働したら何日でいっぱいになるのか、その目安も公表する。
・3系列の揚水井のそれぞれの揚水量を(予定でもいいので)公表する。
・揚水井と一時貯留タンクの関係は毎回わかりやすく図にして説明をつける。

私も最近は東電の発表するデータを全て細かくチェックしているわけではありませんので、すでに発表されている内容かもしれません。ただ、こういう地下水バイパスの資料を出すならば、そこに添付の情報としてこういう基本的な情報はつけて欲しいと思います。また、もしまだ未公表ならばまとめて公表して欲しいと思います。


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3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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