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港湾内の海水でトリチウムが上昇!(5)実は5,6号機では放水口から放水されていた!

 
今日も6/29の「港湾内の海水でトリチウムが上昇!(4) 新しい地下水観測孔のデータは?」に続いて、7/2に東電HPに発表された最新のデータに基づいた簡単な解説をします。

始めて読む方のために、6/24の港湾内海水のトリチウム上昇についてのシリーズもぜひ参考にして下さい。一連の流れがわかります。

6/24 「港湾内の海水でトリチウムが上昇!汚染水が地下水を通じて海に出ている決定的証拠になるか?
6/26 「港湾内の海水でトリチウムが上昇!(2) 東電の観測態勢の強化について
6/28 「港湾内の海水でトリチウムが上昇!(3) 新観測態勢でのデータ出始める
6/29 「港湾内の海水でトリチウムが上昇!(4) 新しい地下水観測孔のデータは?


本日(7/2)に東京電力HPに発表された「福島第一港湾内、放水口付近、護岸の詳細分析結果」によって、先週測定された全ての海水におけるH-3(トリチウム)のデータが出そろいました。

まずは港湾の図を元にそのH-3のデータを書き込んでみましょう。

7/2-1

一部の地点については、週3回の測定が行われていますが、ここでは6/26前後の測定データの結果を示します。7/1のサンプリングデータについては、H-3の結果がまだ分析中でしたので省略しました。また、6/28測定分については6/30東電HP発表のデータをご覧下さい。

ここでは、港湾内の1-4号取水口付近以外のH-3のデータを見ておきたいと思います。1-4号取水口付近のH-3は、1-4号取水口北で高いですが、それ以外は200~500Bq/L程度の濃度になっています。ところが、その外側を見てみると、物揚場という荷物の積み卸しを行う場所が340Bq/Lと高めなのを除くと、港湾内西側海水で29Bq/L、港湾口で26Bq/Lと10-30Bq/L程度と1/10程度になっています。これは、拡散によって濃度が低下している可能性や、潮汐の影響を受けやすいことなどが考えられます。

一方、左側の「5,6号取水口前」では6.0Bq/Lとさらに低くなっています。しかし、外海であるはずの「5,6号機放水口北側」は8.6Bq/Lと「5,6号取水口前」とほとんど変わらない濃度なのです。外海ですから、当然のことながら潮の流れもあり、拡散も速いはずなのにこの濃度が出ているのは不思議です。実際、同様に外海である「南放水口付近」(図では一番右)は、2.9Bq/L以下と検出限界値未満になっています。

実は、この傾向は今回だけのことではないのです。「5,6号機放水口北側」のデータを過去2年分見てみると、2011年のH-3の測定データはないのですが、2012年からH-3の測定が月1回始まりました。「5,6号機放水口北側」では下のグラフに緑色のグラフで示すように、2回に1回程度はH-3が検出されているのです。H-3の検出限界値が約3Bq/Lですので、検出されなかった時も検出限界ギリギリの3Bq/L近くだった可能性があります。

7/2-2

一方、「南放水口付近」においてはH-3は一度も検出されていません。また別の核種でも、「5,6号機放水口北側」と「南放水口付近」で双方ともに数値が検出されていて比較しやすいSr-90で同様に調べてみると、次のグラフのようになります。

7/2-3

このうち、赤いグラフは「南放水口付近」のSr-90のデータですが、2011年12月と2012年3月にはSrを含む汚染水が南放水口付近にある排水路から海に漏えいしたため、異常に高くなっています。

しかし、その時を除くと、ほとんどの場合は青い「5,6号機放水口北側」の方がSr-90の濃度が数倍高い(対数目盛りであることに注意!)ことがわかります。

この違いはいったい何によるものなのか、私にとってこれはずっと謎でした。コンタンさんの「放射性ストロンチウムは測っていないから危険なのか」というtogetterにまとめられていますが、ほぼ1年前にツイッターで「4つの疑問」を提示しました。

7/2-5

その時は誰も答をくれなかったのですが、6/28の「第13回特定原子力施設監視・評価検討会」のビデオを見ていたら、その謎が解けたような気がしました。

YouTubeの動画で1:40:00頃に規制庁の金城室長が「5,6号では取水口から放水口に流れがあり、今の実施計画上6,500m3/hの流れがある」と説明してくれたのです。

つまり、5,6号の取水口からは海水ポンプが働いていて海水がくみ上げられており、その水は放水口から放水されているということなのです。その流れは6,500m3/hもあるのです。下の図でいうと、赤い矢印のような流れで港湾内の水が5,6号機の復水器を通って放水口から外海に放出されていたのです。

7/2-4

よく考えれば、5,6号機は廃炉になったわけではないので、冷却機能が生きているわけですから、海水による冷却が行われていても不思議ではないのですが、そういうことをはっきりと教えてくれる人がいなかったので、そんな簡単なこともわからなかったのです。おそらく同じ気持ちの人は多かったのではないでしょうか。

ですが、このことを知ってしまえば、コロンブスの卵と同じで上の疑問はほぼ解消です。「5,6号機放水口北側」では、港湾内の水が大量に流れてくるため、希釈されているにせよ、南放水口付近よりも高い放射能が検出されていたのです。


最後に、海水とは異なりますが、本日発表されたデータとして、地下水観測孔の全βの値が発表されていますので、それを掲載しておきます。相変わらず海に近いNo.1-1では全β(すなわちSr-90)が高いです。

全β:地下水観測孔No.1(海から28m)
6/26  1400Bq/L
6/28  1400Bq/L
7/1   1300Bq/L(本日発表データ)

全β:地下水観測孔No.1-1(海から6m)

6/28  3000Bq/L
7/1   4300Bq/L(本日発表データ)


今後もこのブログでは新しい情報をお伝えしていきますのでお楽しみに。

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コメント

セシウム134と137の比について

> 今となっては、Cs134/Cs137比は0.44と0.48では、測定誤差を考えると区別するのが難しくなってきましたね。

仰るとおり、ルーチンの測定では数年後には測定誤差により区別できなくなると思いますが、まだ充分に識別可能です。
なぜ私がCs134/Cs137比にこだわるのか、説明させてください。
Cs134は核分裂で直接出来る核種ではなく、核分裂でできたCs133が中性子を吸収して生じます。従って、原爆では生じず、原子炉に特有の放射能ということになります。原子炉に入れたての新しい燃料ではゼロですが、燃焼度が上がるにつれて増えていきます。原子炉の中には新しい燃料も古いものもあるので、Cs134/Cs137比は燃料ごとに違うのですが、1~3号機は全部の燃料が損傷しているので、各原子炉内の燃料の平均値になっていて、それぞれの固有の値をとると考えられます。なお、Sr89/Sr90比についても同様です。
事故後派遣されたアメリカ政府の調査団は、このような明確な認識・調査目的を持って汚染土壌の分析を行っています。一方、日本では、当局も学者も、このような観点からの調査を行いませんでした。ごく少数の研究者には、この認識がありましたが、学会発表した程度で、本格的な調査には全く結びついていません。また、Cs134のサム・ピークによる分析上の問題について理解していた研究者は少ないのではないでしょうか。日本は全体としてレベルが低いのです。
放射線の測定は、測定時間を長くしてカウント数を稼げば計数誤差を減らせるので、その気になれば分析精度を上げることができます。加えて、Cs134はスペクトルのピークの数が多いので、工夫すれば測定精度をさらに上げられるはずです。問題は、重要性の認識というか、日本の原子力業界・学界の知識レベルの低さだと思います。

Re: 返事

inja さん
お返事ありがとうございました。
> 資料について:
> TSOKDBAさんは経産省のHPをチェックしておられるのですね。私は東電の方を見ていましたが、同じものです。
資料は両方見ていますが、経産省資料の方が話題ごとに分割されていて、特定の資料をツイートなどで提示する場合はわかりやすいので利用することが多いです。

> セシウム134と137の比について:
> 3・11時点の1号機のCs134/Cs137比は0.90ぐらいと推定しています。あれから846日経った今日の値は0.44ぐらいです。2号機は0.48ぐらいです。

解説ありがとうございました。今となっては、Cs134/Cs137比は0.44と0.48では、測定誤差を考えると区別するのが難しくなってきましたね。

TSOKDBA

返事

資料について:
TSOKDBAさんは経産省のHPをチェックしておられるのですね。私は東電の方を見ていましたが、同じものです。

セシウム134と137の比について:
3・11時点の1号機のCs134/Cs137比は0.90ぐらいと推定しています。あれから846日経った今日の値は0.44ぐらいです。2号機は0.48ぐらいです。
放射壊変による減衰の式は、R = 0.5^(t/T) になります(tは経過時間、Tは半減期)。半減期はCs134が2.0652年、Cs137が30.1671年です。分析値をRで割れば3・11時点の値になります。(対数変換した式の方がプロっぽいのですが、ベキの方が分りやすいと思います。今は簡単にベキ計算ができるので、対数にする必要はないです。)
ついでに言うと、3・11時点のCs134/Cs137比は、2号機は1.00、3号機は1.04ぐらいと推定しています。
さらに余談ですが、ガンマ線スペクトロメーターによるCs134の測定にはピーク・サミングの問題があって、サム補正をするか、試料と検出部の距離をとって実質上サム効果をゼロに近くする必要がありますが、日本の分析所の多くはサム補正を行っていないか、補正が不充分です。そのため、10%以上低い値となることがあります。これについて日本で信頼できるのは分析センターだけだと思いますが、東電の分析は(おそらく分析センターの指導もあって)問題ないようです(ただし、東電が分析を外注している化研は補正していないと考えられます)。

Re: トリチウム

inja 様

コメントありがとうございました。
また、47Newsのコメント読みました。東電が特定原子力施設監視・評価検討会か何かでトリチウムは1号機付近がもともと高いので、という話をしていたので内容を確認しようと思っていたところでした。サブドレンのデータはもう忘れていました。
東電説明はこの資料(11ページ)ですね。
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/130531/130531_01e.pdf


なお、47Newsのコメントで、
「1号機サブドレン水のセシウム134と137の比(2011年3月11日時点に換算)は0.88と低く、1号機の特徴を有する(1号機は2・3号機の汚染水に比べ、セシウム134/137比が10%以上低いので識別できる)。」
とありましたが、今だと1号機は大体134/137が幾つくらいでしょうか(計算すればいいのですが、ご存じならば教えてください。)?2号機だと幾つになりますか?

「南放水口付近」に関しては、移動していたのは知っていますが、1kmも南に移動したという認識はありませんでした。教えていただき、ありがとうございました。
今後も何かあれば教えてください。

TSOKDBA


トリチウム

TSOKDBA 様
初めてコメントします。
1号機サブドレンの高濃度トリチウムについて、TSOKDBAさんが昨年の7月に注目されていたことを、さきほど知りました。「トリチウム 1号機サブドレン」で検索していたら、TSOKDBAさんのブログにたどり着きました。東電の大量の資料の中には、とんでもなく重要な情報が混ざっていることがあるのですが、TSOKDBAさんはよくそれを見逃さなかったものだと思います。
私は最近になって、1号機サブドレンの高濃度トリチウムについて気付きました。これに関して47Newsのコメント欄に意見を書き込んでおります。
http://www.47news.jp/47topics/e/200026.php
の下のほうにコメント欄がありますので、よろしければご覧ください。また、「南放水口付近」の観測点が昨年11月に南に1km移動していたことをお気付きでしょうか?
私は最近になって気付き、愕然としております。これについても、同じコメント欄に記述しておりますのでご覧ください。

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twitterは@tsokdbaです。
3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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