港湾内の海水でトリチウムが上昇!(8)原子力規制委員会の判断と東電の対応
7/10、第14回原子力規制委員会が開催されました。その中の議題の一つが福島第一原発の港湾近くの地下水についてです。資料は「東京電力福島第一原子力発電所の護岸、港湾内、放水口付近の地下水/海水中の放射性物質濃度の検出と護岸近傍止水対策工事の進捗について」です。
今日は原子力規制委員会の判断と、それに対する東電の反応を簡単にまとめます。
※7/14追記:コメント欄のやり取りも非常に有益なので是非お読みください。
1.今日の動き
本日午前10時30分から、第14回原子力規制委員会が開催されました。その資料はこちらにまとめられています。今回は原発再稼働に関する申請の話も大きな議題なのですが、タイムリーな話題として福島第一原発の港湾近くの地下水についても取り上げられました。
「東京電力福島第一原子力発電所の護岸、港湾内、放水口付近の地下水/海水中の放射性物質濃度の検出と護岸近傍止水対策工事の進捗について」という資料において、これまでのデータをレビューしたあと、規制委員会としての見解が述べられています(正確に言うとこの資料は事務局案ですが、委員会でも特に反論もなく認められました)。
まず、東京電力の説明に対する疑問点を述べています。
『4.東京電力の説明に対する疑問点(案)
東京電力による地下水汚染の原因説明や海洋への影響説明に対しては、観測結果に照らして、以下の疑問点がある。
(1) 2号機電源ケーブル管路から見て近くにある地下水観測孔No.1-2 よりも遠くにあるNo.1 及びNo.1-1 でトリチウムが高い濃度で検出されている。このため、当該箇所周辺に残存していると推定している汚染水のみを汚染源とするには疑問がある。
(2) No.2 及びNo.3 など他の地下水観測孔でも、低濃度ではあるがセシウムが検出されている。また、No.2 の観測孔では、全β核種が1,700Bq/L検出されている。これを2号機電源ケーブル管路周辺に残存している汚染水の拡散によって説明できるのか疑問である。
(3) 海水中の全β核種については、1~4号機取水口全体で高い傾向を示している。トリチウムについては、物揚場前(図2:⑩)でも高い値が検出されている。これらのことから、汚染された地下水が海に到達していることが強く疑われる。さらに、1-4号取水口北(図2:①)の海水中の全β核種及びトリチウム濃度は、他の1~4号取水口周辺と比べて高い濃度を示している。1-4号機取水口北は工事が完了(5月末)している海側遮水壁の内側に位置する。このため、海水による希釈が小さく、1~4号機取水口の他のサンプリング地点と比較して全β、トリチウムともに高い値になっていると考えられる。』
(「東京電力福島第一原子力発電所の護岸、港湾内、放水口付近の地下水/海水中の放射性物質濃度の検出と護岸近傍止水対策工事の進捗について」より)
そして、原子力規制委員会としての対応案を示しています。
『5.原子力規制庁の対応について(案)
・上記のとおり、高濃度の汚染水の地中への漏えいが生じ、海洋への拡散が起こっていることが強く疑われる。このため、海洋への影響を遮断する薬液注入による地盤改良対策はその早期完了が必要。また、現在実施中の海側遮水壁の工事(平成26年度中完成予定)についても早期完了を促す。さらに、汚染源の可能性がある海側トレンチ(取水電源トレンチ含む)内の汚染水の濃度低減・抜き取り作業の早期実施を促していく。
・地下水/海水のモニタリングデータについては、引き続き注視し、必要に応じて追加モニタリングを指示する。』
(「東京電力福島第一原子力発電所の護岸、港湾内、放水口付近の地下水/海水中の放射性物質濃度の検出と護岸近傍止水対策工事の進捗について」より)
これを受けて、規制委員会での議論が行われました(リンク先は動画)。結論として、汚染水が地下水を通じて海に漏れ出ていることが強く疑われるとし、現在行われている特定原子力施設監視・評価検討会の下にワーキングチームを作るということが決まりました。
その後の規制委員会のあとに午後2時から開かれた記者会見でも、原子力規制委員会の田中委員長の会見(リンク先は動画)で、「海洋の汚染は、大なり小なり続いていると思う。事故時に1番汚染したが、その後もずっとこの2年間も続いていると思う。さらに大量の汚染の可能性は、トレンチに高濃度の汚染水がたまっているので、これはできるだけ早く措置しないといけないということはすでに1F検討会でも指摘されているが、すぐにはできない。」(19分頃)
また、「実態として、海水の放射能濃度が上がっているということは、海の汚染が続いているということは誰も否定できないんだと思います。だから、それに対してできるだけ早く対策を取るんだというのが更田委員なり、中村委員のご指摘だったと思うし、私はそれについては全く異存はありません。」(53分頃)と規制委員会としては汚染水が海洋に漏れ続けているという見解を示しました。
ただ、東電が海洋汚染について否定していることについては、原子力規制委員会委員長としては特にコメントせず、明言を避けました。
本日の規制委員会及び記者会見については、togetterにまとめられています。
一方、東電は本日夕方の記者会見でも、規制委員会のコメントを受けても東京電力としては海洋への漏えいははっきりと認めませんでした。今まで通りに「データを蓄積しないと判断できない」、というコメントをくり返していました。
ただ、Webニュースで検索すると、NHKニュースでは東電のコメントとして『東京電力は「規制委員会の指摘に対し今後、真摯に対応したい」と話しています。』としています。

(NHKオンラインより:(Web魚拓はこちら))
さらに、会見の途中で追加して配付された資料で、地下水観測孔No.1-2で7/8、7/9に急に高くなったセシウムの濃度について残っていた資料のろ過を行い、残渣に主な放射能があるというデータを示しました。

はっきりとは言いませんでしたが、残渣=土に放射能があり、地下水はそれほど汚染されていないと主張したいようなデータの示し方でした。これに対する報道はこちら。
2.私のコメント
これまでのデータからすれば、汚染水が2011年4月と5月以降も海に漏えいしているのは状況証拠としてはほぼ間違いがないのですが、これまではそれをなかなか認めようとしない東電に引導を渡すことができませんでした。特に、記者会見に出ている記者達ではその力がなく、東電にノラリクラリと逃げられてきましたのが実情です。
今回、原子力規制委員会が海洋に漏れ続けていると認めたことは今までよりも踏み込んだ発言をしたと思います。これが旧保安院だったら現段階までここまで言えたかどうか。おそらく言えなかったと思います。
今年の初め、ALPSの稼働をなかなか認めなかった頃(「放射能汚染水情報アップデート ALPSの稼働をめぐる部分最適の是非(2)」参照)は原子力規制委員会は大丈夫だろうか、という思いもありました。
しかし、最近の「特定原子力施設監視・評価検討会」での追求ぶりとか、原子力規制委員会でのコメントなどを見ていると、やはり専門家の集団なので、記者会見に出てくる記者達とは指摘するレベルも違うし、何よりも規制側なので東電側もいわれたらすぐに資料を出します。
こういう姿を見ていると、やはり旧保安院を解体して独立した原子力規制委員会を作って正解だったな、と私は感じました。
一方、最近の東電の態度を見ていると、2011年5月に認めるまで東京電力がメルトダウンをなかなか認めなかったように、どうしても汚染水が地下水を通じて海に漏れ出しているということを認めたくないようです。いかにして認めることを引き延ばすか、という方法を一生懸命模索しているように思えます。
これは東京電力としてはある意味当然のことで、今も海洋への漏えいがあると認めてしまうと、なかなか漁協などに認めてもらえない地下水バイパスがさらに認めてもらえなくなる可能性が高くなるからだと思います。他にも海洋漏えいが今もあると認めてしまうことでさらに賠償などの問題が出てくるということで、ここはなんとしても認められない問題なのでしょう。もちろん、大量に税金を投入されていながらそういう態度をいつまでもとり続けることがいいかどうかというのは別問題です。
急に地盤強化対策をやりだしたのも、地盤強化を行って今も漏れているであろう地下水を何とかして止めて、その後で海には漏れていないよね、と示したいのだと思います。
記者会見の動画を見ても、記者達がイライラしているのをノラリクラリと交わしているのが見ていてじれったいほどです。彼らがどう感じているのか、毎日のように記者会見に出ている木野龍逸さんの7/9のブログをご紹介しておきます。
こうやって考えると、もし原子力規制委員会がなく、追求するのが記者会見の記者だけだったら、地下貯水槽に始まる一連の事故に関連して汚染水の問題が世間的にクローズアップされ、汚染水処理対策委員会がせっちされ、港湾部の地下水に関してもここまでのいろいろな情報が開示されることはなかったでしょう。
やや中途半端ですが、ここまでで本日のまとめを終わりにしたいと思います。実は、記者会見などのビデオを見るのにかなり時間を取られたため、規制庁の見解に対するコメントを書く時間がありませんでした。明日以降にチャンスがあればまた書きたいと思います。
今後もこの問題は追い続けますので、ぜひまたこのブログを見に来て下さい。よろしくお願いします。
本日午前10時30分から、第14回原子力規制委員会が開催されました。その資料はこちらにまとめられています。今回は原発再稼働に関する申請の話も大きな議題なのですが、タイムリーな話題として福島第一原発の港湾近くの地下水についても取り上げられました。
「東京電力福島第一原子力発電所の護岸、港湾内、放水口付近の地下水/海水中の放射性物質濃度の検出と護岸近傍止水対策工事の進捗について」という資料において、これまでのデータをレビューしたあと、規制委員会としての見解が述べられています(正確に言うとこの資料は事務局案ですが、委員会でも特に反論もなく認められました)。
まず、東京電力の説明に対する疑問点を述べています。
『4.東京電力の説明に対する疑問点(案)
東京電力による地下水汚染の原因説明や海洋への影響説明に対しては、観測結果に照らして、以下の疑問点がある。
(1) 2号機電源ケーブル管路から見て近くにある地下水観測孔No.1-2 よりも遠くにあるNo.1 及びNo.1-1 でトリチウムが高い濃度で検出されている。このため、当該箇所周辺に残存していると推定している汚染水のみを汚染源とするには疑問がある。
(2) No.2 及びNo.3 など他の地下水観測孔でも、低濃度ではあるがセシウムが検出されている。また、No.2 の観測孔では、全β核種が1,700Bq/L検出されている。これを2号機電源ケーブル管路周辺に残存している汚染水の拡散によって説明できるのか疑問である。
(3) 海水中の全β核種については、1~4号機取水口全体で高い傾向を示している。トリチウムについては、物揚場前(図2:⑩)でも高い値が検出されている。これらのことから、汚染された地下水が海に到達していることが強く疑われる。さらに、1-4号取水口北(図2:①)の海水中の全β核種及びトリチウム濃度は、他の1~4号取水口周辺と比べて高い濃度を示している。1-4号機取水口北は工事が完了(5月末)している海側遮水壁の内側に位置する。このため、海水による希釈が小さく、1~4号機取水口の他のサンプリング地点と比較して全β、トリチウムともに高い値になっていると考えられる。』
(「東京電力福島第一原子力発電所の護岸、港湾内、放水口付近の地下水/海水中の放射性物質濃度の検出と護岸近傍止水対策工事の進捗について」より)
そして、原子力規制委員会としての対応案を示しています。
『5.原子力規制庁の対応について(案)
・上記のとおり、高濃度の汚染水の地中への漏えいが生じ、海洋への拡散が起こっていることが強く疑われる。このため、海洋への影響を遮断する薬液注入による地盤改良対策はその早期完了が必要。また、現在実施中の海側遮水壁の工事(平成26年度中完成予定)についても早期完了を促す。さらに、汚染源の可能性がある海側トレンチ(取水電源トレンチ含む)内の汚染水の濃度低減・抜き取り作業の早期実施を促していく。
・地下水/海水のモニタリングデータについては、引き続き注視し、必要に応じて追加モニタリングを指示する。』
(「東京電力福島第一原子力発電所の護岸、港湾内、放水口付近の地下水/海水中の放射性物質濃度の検出と護岸近傍止水対策工事の進捗について」より)
これを受けて、規制委員会での議論が行われました(リンク先は動画)。結論として、汚染水が地下水を通じて海に漏れ出ていることが強く疑われるとし、現在行われている特定原子力施設監視・評価検討会の下にワーキングチームを作るということが決まりました。
その後の規制委員会のあとに午後2時から開かれた記者会見でも、原子力規制委員会の田中委員長の会見(リンク先は動画)で、「海洋の汚染は、大なり小なり続いていると思う。事故時に1番汚染したが、その後もずっとこの2年間も続いていると思う。さらに大量の汚染の可能性は、トレンチに高濃度の汚染水がたまっているので、これはできるだけ早く措置しないといけないということはすでに1F検討会でも指摘されているが、すぐにはできない。」(19分頃)
また、「実態として、海水の放射能濃度が上がっているということは、海の汚染が続いているということは誰も否定できないんだと思います。だから、それに対してできるだけ早く対策を取るんだというのが更田委員なり、中村委員のご指摘だったと思うし、私はそれについては全く異存はありません。」(53分頃)と規制委員会としては汚染水が海洋に漏れ続けているという見解を示しました。
ただ、東電が海洋汚染について否定していることについては、原子力規制委員会委員長としては特にコメントせず、明言を避けました。
本日の規制委員会及び記者会見については、togetterにまとめられています。
一方、東電は本日夕方の記者会見でも、規制委員会のコメントを受けても東京電力としては海洋への漏えいははっきりと認めませんでした。今まで通りに「データを蓄積しないと判断できない」、というコメントをくり返していました。
ただ、Webニュースで検索すると、NHKニュースでは東電のコメントとして『東京電力は「規制委員会の指摘に対し今後、真摯に対応したい」と話しています。』としています。

(NHKオンラインより:(Web魚拓はこちら))
さらに、会見の途中で追加して配付された資料で、地下水観測孔No.1-2で7/8、7/9に急に高くなったセシウムの濃度について残っていた資料のろ過を行い、残渣に主な放射能があるというデータを示しました。

はっきりとは言いませんでしたが、残渣=土に放射能があり、地下水はそれほど汚染されていないと主張したいようなデータの示し方でした。これに対する報道はこちら。
2.私のコメント
これまでのデータからすれば、汚染水が2011年4月と5月以降も海に漏えいしているのは状況証拠としてはほぼ間違いがないのですが、これまではそれをなかなか認めようとしない東電に引導を渡すことができませんでした。特に、記者会見に出ている記者達ではその力がなく、東電にノラリクラリと逃げられてきましたのが実情です。
今回、原子力規制委員会が海洋に漏れ続けていると認めたことは今までよりも踏み込んだ発言をしたと思います。これが旧保安院だったら現段階までここまで言えたかどうか。おそらく言えなかったと思います。
今年の初め、ALPSの稼働をなかなか認めなかった頃(「放射能汚染水情報アップデート ALPSの稼働をめぐる部分最適の是非(2)」参照)は原子力規制委員会は大丈夫だろうか、という思いもありました。
しかし、最近の「特定原子力施設監視・評価検討会」での追求ぶりとか、原子力規制委員会でのコメントなどを見ていると、やはり専門家の集団なので、記者会見に出てくる記者達とは指摘するレベルも違うし、何よりも規制側なので東電側もいわれたらすぐに資料を出します。
こういう姿を見ていると、やはり旧保安院を解体して独立した原子力規制委員会を作って正解だったな、と私は感じました。
一方、最近の東電の態度を見ていると、2011年5月に認めるまで東京電力がメルトダウンをなかなか認めなかったように、どうしても汚染水が地下水を通じて海に漏れ出しているということを認めたくないようです。いかにして認めることを引き延ばすか、という方法を一生懸命模索しているように思えます。
これは東京電力としてはある意味当然のことで、今も海洋への漏えいがあると認めてしまうと、なかなか漁協などに認めてもらえない地下水バイパスがさらに認めてもらえなくなる可能性が高くなるからだと思います。他にも海洋漏えいが今もあると認めてしまうことでさらに賠償などの問題が出てくるということで、ここはなんとしても認められない問題なのでしょう。もちろん、大量に税金を投入されていながらそういう態度をいつまでもとり続けることがいいかどうかというのは別問題です。
急に地盤強化対策をやりだしたのも、地盤強化を行って今も漏れているであろう地下水を何とかして止めて、その後で海には漏れていないよね、と示したいのだと思います。
記者会見の動画を見ても、記者達がイライラしているのをノラリクラリと交わしているのが見ていてじれったいほどです。彼らがどう感じているのか、毎日のように記者会見に出ている木野龍逸さんの7/9のブログをご紹介しておきます。
こうやって考えると、もし原子力規制委員会がなく、追求するのが記者会見の記者だけだったら、地下貯水槽に始まる一連の事故に関連して汚染水の問題が世間的にクローズアップされ、汚染水処理対策委員会がせっちされ、港湾部の地下水に関してもここまでのいろいろな情報が開示されることはなかったでしょう。
やや中途半端ですが、ここまでで本日のまとめを終わりにしたいと思います。実は、記者会見などのビデオを見るのにかなり時間を取られたため、規制庁の見解に対するコメントを書く時間がありませんでした。明日以降にチャンスがあればまた書きたいと思います。
今後もこの問題は追い続けますので、ぜひまたこのブログを見に来て下さい。よろしくお願いします。
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