2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(5) トレンチの謎3
先週書いた「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(4)トレンチの謎2 追加データ」のあとで、さらに多くの情報が出てきました。やはりこれらをしっかりと確認しておかないと先に進むわけにはいきません。
というわけで、今週も先週同様、新しく出てきた情報の解析して、2年前にどうなっていたのかを再検証していきます。これまでの再検証はこちら。
7/7 「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(1)」
7/15「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(2) トレンチの謎」
7/21 「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(3) 電源ケーブルはどこから?」
7/28 「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(4) トレンチの謎2 追加データ」
15.2号機トレンチからの漏えいを示す貴重な測定データ
8/1に東電HPに公開された「福島第一2,3号機海側トレンチ滞留水分析結果」は、非常に興味深いものでした。特に2号機立て坑Cのデータは、2号機トレンチの現状について示してくれる有力な情報になると思います。
まずは2号トレンチの図をお見せします。8/2の「第1回特定原子力施設監視・評価検討会汚染水対策検討ワーキンググループ」の資料からです。

緑色の配管が、2号機タービン建屋から出てきている海水配管トレンチです。2011年3月27日には、タービン建屋からこの海水配管トレンチを伝って放射能汚染水が立て坑Bまで来ていることが発見されたのです。そしてその水は4/2にはこの先のスクリーンのピットから海へ流出していきました。
ただし、残念ながらこの図は立体的でわかりやすいのですが、スクリーンポンプ室で隠れてしまい、海水配管トレンチの全体がわかりません。そこで、非常にラフなイメージ図ですが、海水配管トレンチと4つの立て坑の関係がわかるような図を作ってみました。ただし、山側(西側)から見ているような図です。タービン建屋は省略しています。また、後から示しますが、色は赤が濃いほど汚染水のCs-137の濃度が濃いというイメージです。

上の図では細かいトレンチとの接続は省略してあります。ここではCs-137の濃度に注目します。2011年3月末から4月始めにかけて、2号機タービン建屋の汚染水は3/27にCs-137が2.8E+06Bq/cm3(これは2.8×10の6乗という意味です)、3/30に2号機トレンチのCs-137が2.0E+06Bq/cm3、4/2にスクリーンピットから海に流出した汚染水が1.8+0E6Bq/cm3です。
タービン建屋からトレンチに出てきた汚染水は、2011年4月にはCs-137で2.0E+06Bq/cm3程度ということがわかります。
さて、すでに東京電力が報告しているように、2011年4月の海洋漏洩事故の後、東電はこの立て坑をふさごうとしました。残念ながら、トレンチとタービン建屋の間は現在も汚染水がつながっており、その接続を切るのは技術的に難しいためにまだ実現できていません。しかし、立て坑Bに関しては、砕石を投入して、その上にモルタルやコンクリートを流し込んで止水処理を行いました。

(7/22 「海側地下水および海水中放射性物質濃度上昇問題の現状と対策」に一部改変)
これにより、立て坑Bはその下部で立て坑Aや立て坑C、さらにはタービン建屋とは切り離された形になります。一方、それ以外の立て坑は、原理的にはタービン建屋とつながったままの状態です。
もし、この下の図に記載してある海水配管トレンチに一切ヒビなど入っておらず、その後も漏れがないとすると、現在もこのトレンチにたまっている汚染水は2011年4月当時の状態に近いCs-137濃度を保っているはずです。つまり、1~2E+06Bq/cm3の濃度であるはずです。
それを頭に入れた上でまずはB1-1のデータを見てみましょう。これについてはすでに「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(4) トレンチの謎2 追加データ」でご紹介していますので細かくは説明しません。
Cs-137の1.6E+06Bq/cm3は、2年前のトレンチの2.0E+06Bq/cm3とあまり変わっておらず、B1-1近傍及びそれにつながる立て坑Bからの漏えいはほとんどないということがわかります。

それでは、他の部分はどうなのでしょうか。今回新しく出てきた情報を確認してみましょう。下の図にデータを書き込んでみました。また、Cs-137の濃度に合わせて色を薄くしてあります。
下の図をちょっとみたらわかると思いますが、上の図のこうあるべき、という図とは全く異なり、かなりCs-137濃度が薄くなっていることがわかると思います。これはどういうことかというと、この立て坑A-立て坑C-立て坑Dをつなぐトレンチのどこかでヒビが入っており、そこから汚染水が2年間の間に少しずつ漏れ出していったということを示しているのです。

トレンチのどこかで漏えいがあればその分トレンチの水位がさがるはずですが、タービン建屋とトレンチはつながっているため、タービン建屋の汚染水が補充されます。2号機タービン建屋の汚染水は、Cs-137に関しては2年間の汚染水循環処理システム稼働によって今では3.6E+04Bq/cm3(2013年5/22)のレベルにまで下がってきています。つまり2年前の1/50近くにまで低下しているのです。
そう考えると、5/30の立て坑AのCs-137濃度が3.7E+04Bq/cm3とタービン建屋の汚染水とほとんど全く同じ濃度だったということも納得できます。残念ながら、この5/30の時のトレンチ立て坑Aは深さ何mなのかの情報がないのですが、その採水した深さまでは間違いなくタービン建屋からの汚染水が移動しており、つまりその分の量の汚染水が外に漏れ出したということを示しています。
次に立て坑Cのデータを見てみましょう。立て坑Cでは深さを変えて3点で汚染水を取っています。

8/2 ワーキンググループの資料に同日東電HPの福島第一2,3号機海側トレンチ滞留水分析結果の情報を追加
深さ1mと7mとはほぼ同じ質の汚染水、13mはそれよりも濃い汚染水です。深さ13mではCs-137が6.5E+05Bq/cm3と、2011年4月時点の1/3に低下しています。その上の方の汚染水がCs-137が2.4E+05Bq/cm3とさらに1/3程度であること、塩分濃度が深さ13mでは7500ppmとB1-1(2年前の状態をほぼ維持している)の8000ppmとほとんど変わらないことから、当時の汚染水が残ってはいるものの、立て坑Cの上部から別の薄くなった汚染水が来ており、それによってCs-137が希釈されていると考えることができます。
この図では省略したのですが、この立て坑Cは上部で別のトレンチと接続しており、2年の間に接続している上部のトレンチから汚染水や地下水が混入してきていると考えられます。(タービン建屋からの汚染水は下部からしか来ません。)ただし、深さ1mのデータと13mのデータを比較すると、1mのデータは塩素濃度は1/10なのに、Cs-137は1/3ですから、単なる地下水ではありません。塩分濃度が薄まりつつCs-137には汚染された何かが上部から混入してきています。
これは、「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(4) トレンチの謎2 追加データ」でご紹介したB-2のデータが、2011年4月のデータをちょうど100倍程度希釈すると塩素濃度もCs-137濃度も説明がつくのでこれは地下水などで希釈されたと考えたのとは違う現象が起こっているのだと思います。
残念ながら、立て坑Cにある汚染水の水位や詳細なサイズが公表されていないので立て坑Bの情報を参考にするしかないのですが、このトレンチの一番深いところでO.P.-12500程度ですので、仮に汚染水がタービン建屋と同等のO.P.3000前後まであるとすると、立て坑Cの深さは約15.5m。するとこの下にさらに2.5m程度の汚染水があることになります。さらに深いところはB1-1と同様に1E+06Bq/cm3を超えるCs-137が存在するかもしれません。

ただ、間違いなく言えることは、本来ならばこの立て坑CにもCs-137が2.0E+06Bq/cm3程度の高濃度の汚染水がありました。それが2年の間にいつの間にか立て坑Cの体積に相当する量の汚染水がトレンチのどこかから漏れ出し、その代わりに立て坑Cにつながる上部のトレンチから汚染水或いは地下水、雨水が入ってきたのでしょう。
立て坑Cが立て坑Bの情報と同程度の大きさだとすると、少なくとも、6m×6m程度の広さでそれに高さ10~12m分の汚染水が漏れ出したということが可能です。大ざっぱな計算で、少なくとも約360m3もの汚染水が2号機の海水配管トレンチから地下に流出した可能性が高いということです。2.0E+06Bq/cm3としたら約720兆ベクレルものCs-137が地下水に流出したことになります。これは、2011年4月に海に流出したと東電が認めた520トンの高濃度汚染水に匹敵する量で、あの時はCs-137で940兆ベクレルですから、ほぼ同等ですね。
おわかりでしょうか。今回のデータは、2011年4月には立て坑Cに存在したはずの高濃度汚染水が概算で360トン程度は行方不明になっていることを明確に示しており、漏えい地点は不明ではあるが、間違いなくトレンチから高濃度汚染水が流れ出たということを示しているのです。同じ2号機海水配管トレンチのそうでない事例としてB1-1のように2年前の濃度が維持されているケースがありますから、それと比較する事によって漏えいしていることはおわかりいただけると思います。
16.3号機トレンチの状況は?
続いて3号機の立て坑Bのデータです。これまで3号機のトレンチについてはこのブログでもあまり取り上げてきませんでした。なので今回は最初から確認していきます。
まず3号機のタービン建屋およびトレンチには、2011年当初にどれだけの汚染水があったのか確認していきましょう。多くの人が、3号機も2号機と同様に2011年には1E+06Bq/cm3レベルの汚染水がトレンチにたまっていたと考えていると思いますが、それは大きな誤りです。そのことをこの後示していきます。
トレンチのデータは「東京電力が発表してきた福島第一原発の汚染水情報のまとめ(3)」にも記載していますが、
2011年4月20日 トレンチ内溜まり水の核種分析結果(PDF 55.0KB)より
1号機トレンチ(3/29) Cs-134:7.0E-01 Cs-137:7.9E-01 Bq/cm3
2号機トレンチ(3/30) Cs-134:2.0E+06 Cs-137:2.0E+06 Bq/cm3
3号機トレンチ(3/30) Cs-134:2.0E+01 Cs-137:2.1E+01 Bq/cm3
5号機トレンチ(3/30) Cs-134:1.0E+00 Cs-137:1.1E+00 Bq/cm3
6号機トレンチ(3/30) Cs-134:5.7E-01 Cs-137:5.8E-01 Bq/cm3
この当時、4号機はトレンチ付近に立ち入れなかったので測定されていません。ですが、3号機トレンチのデータを見て欲しいのですが、2011年3/30にはCs-137はわずか2.1E+01Bq/cm3、つまり21Bq/cm3=21,000Bq/Lしかなかったのです。これは、2号機トレンチとは全く状況が違うことを示しています。
そして、詳細は昨年の「サイフォンの原理を理解すれば放射能汚染水の管理は理解できる!」において「3.高濃度汚染水の玉突き移送と「低レベル」汚染水の海洋放出」に記載したので概略だけにしますが、2011年4月2日に2号機スクリーンから海洋漏えいがわかった頃、実はもう一つの大問題がありました。
6号機地下の浸水がひどく、このままでは6号機の維持もできなくなるということでタービン建屋から排水しようとしましたがその水が規制値を超えていたために海に捨てられませんでした。結局は4/4に放水することになるのですが、その頃から2号機、3号機のタービン建屋にたまっている高濃度汚染水をどこに移送するかということで移送できるタンクがなく、集中廃棄物処理施設に移送することになりました。
そして、集中廃棄物処理施設にたまっていた水を4号機のタービン建屋地下に移送したところ、予想外なことが起きました。
集中廃棄物処理施設の一つの主プロセス建屋を空にして貯蔵スペースを作るため、2011年4/2に主プロセス建屋の地下から4号機タービン建屋地下に低レベル汚染水を移送し始めたところ、4号機のタービン建屋地下の水位だけでなく、3号機のタービン建屋地下、また3号機のトレンチの水位が上昇し始めたのです。これは、3号機と4号機の建屋間が地下でつながっていること、そして3号機タービン建屋地下と3号機トレンチとがつながっていることを示していました。

政府事故調中間報告書資料V-17より
そして、これまではほとんど汚染されていなかった3号機トレンチもこの2011年4/3からタービン建屋の汚染水があふれ出してきて、汚染されていくのです。しかしながら、3号機トレンチの汚染水の情報についてはこの後は後で述べる2011年5月11日の1回だけしかわかりません。
4/3~4/4の4号機からの押し出し事件があってから、タービン建屋内の汚染水がどうなったかについては、2011年4/25に報告されています。
4/25 福島第一 3・4号機タービン建屋地下階溜まり水の測定結果について 単位はBq/cm3
3号機 T/B BFL溜まり水(電気品室)(4/22) Cs-134:2.7E+05 Cs-137:2.8E+05
3号機 T/B BFL溜まり水(大物搬入口側)(4/22) Cs-134:1.5E+06 Cs-137:1.6E+06
4号機 T/B BFL溜まり水(4/21) Cs-134:7.8E+03 Cs-137:8.1E+03
3号機 T/B BFL溜まり水(電気品室)(3/26) Cs-134:5.5E+04 Cs-137:5.6E+04
3号機 T/B BFL溜まり水(大物搬入口側)(3/26) Cs-134:1.8E+05 Cs-137:1.8E+05
4号機 T/B BFL溜まり水(3/24) Cs-134:3.1E+01 Cs-137:3.2E+01
電気品室というのはたまり水マップに寄ればメインの部屋ではないので大物搬入口側で考えれば良いのですが、3号機タービン建屋の汚染水濃度は、3/26のCs-137:1.8E+05Bq/cm3から一ヶ月後の4/22にはCs-137:1.6E+06Bq/cm3と10倍に上昇しています。これが何によるものかはわかりませんが、4/3以降はそれなりに汚染された水がタービン建屋からあふれ出していったことは間違いありません。
ただ、すでに3/27時点では3号機トレンチにはO.P.2700付近まで水がたまっていました(「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(2) トレンチの謎」に当時の記者会見の情報を記載)から、5000トン近くほとんど汚染されていない水があり、タービン建屋から出ていった汚染水はその水で希釈されていったということになります。
その後の情報としてわかっているのは、2011年5/11の3号機からの漏洩事故です。その時の資料が2011年5/21のプレスリリースにまとめられています。その資料によると、Cs-137が3.9E+04Bq/cm3ということです。ということは、2011年5月には3号機トレンチ全体がほぼこの濃度(Cs-137が3.9E+04Bq/cm3)であった可能性が高いということです。

東電HP 2011年5/21 第3号機取水口付近からの放射性物質を含む水の流出状況 より
その後、旧保安院の指示もあり、3号機立て坑Cを上部だけ閉塞したり、トレンチの先のピットを埋めたりしたので、基本的には3号機トレンチはほぼこの濃度に近いと考えるのが妥当だと思います。
前置がかなり長くなりましたが、このような基礎知識を持った上で今回の3号機立て坑Bのデータを見ていきましょう。立て坑Bの位置は下の図で確認しておいてください。図では右側にあります。

東電HP7/26 福島第一原子力発電所 海側トレンチ調査の考え方について より
では、今回8/2に発表されたデータです。

東電HP8/2 福島第一2,3号機海側トレンチ滞留水分析結果 より(クリックで拡大)
こちらも深さを1m、7m、13mと変えていますが、どれもほぼ同じです。Cs-137の濃度としては、どれもほぼ2.4E+04Bq/cm3と、2011年5月の3.9E+04Bq/cm3の半分弱です。
このデータで注目すべきは、塩分濃度が17000ppmと非常に高いことです。2011年3月のタービン建屋にたまった水の分析をJAEAが行っていますが、塩分濃度は3号機で10700ppm、高い2号機でも18000ppmです。今回のトレンチ立て坑Bはそう考えるとかなり高いです。(ちなみに、海水は塩分濃度が3.5%=35000ppmといわれています。)
2011年にトレンチの水の塩分濃度が発表されていないのでわからないのですが、3号機タービン建屋の塩分濃度から考えると、東京新聞が8/2に書いているように海水がどこかから混ざった可能性もあります。ただし、7/18に東電が規制庁に出した資料にもあるように、この立て坑Bは海から65m程度ありますので、本当にこの付近まで海水が入ってこられるのかどうかについては疑問があります。

なお、現在わかっている3号機のタービン建屋の最新の情報は、6/21に公表されたCs-137で3.1E+04Bq/cm3というデータです。これでは2年前のトレンチ濃度とほとんど変わりないため、2号機のような議論はできません。
従って、3号機立て坑Bの調査結果だけからはあまり確かなことは言えません。もう少し他の地点の調査が進んでデータが蓄積してきたら、2号機トレンチのように漏えいしているかどうかということについても判断できると思います。現時点では、漏えいしている可能性はありますが、最大でも半分程度であり、元々の濃度が低いため、放射能の量としては2号機ほどの問題にはならないと思います。
2011年5/11の漏洩事故は、I-131などもあわせて20兆ベクレル(2E+13Bq)であり、先ほどの2号機トレンチ立て坑Cからこの2年間に漏れ出した可能性がある720兆ベクレルよりも遙かに少ないのです。仮に3号機にあるといわれている5000トン(Cs-137:2.4E+04Bq/cm3として)が全て漏れ出したとしても、120兆ベクレルですから、2号機のトレンチの重要性がいかに高いかおわかりいただけると思います。
もちろん、3号機トレンチからも漏れ出したら困るのですが、優先順位はずっと後になります。
今回は、3号機トレンチ立て坑Bの調査結果が出てきたので、3号機のトレンチについての情報もまとめてみました。毎週新しい情報が追加されるため、なかなか全体をまとめるところまで行きそうにありません。
次週は「2年前の漏洩事故を再検証(6)」の予定です。お楽しみに。
8/1に東電HPに公開された「福島第一2,3号機海側トレンチ滞留水分析結果」は、非常に興味深いものでした。特に2号機立て坑Cのデータは、2号機トレンチの現状について示してくれる有力な情報になると思います。
まずは2号トレンチの図をお見せします。8/2の「第1回特定原子力施設監視・評価検討会汚染水対策検討ワーキンググループ」の資料からです。

緑色の配管が、2号機タービン建屋から出てきている海水配管トレンチです。2011年3月27日には、タービン建屋からこの海水配管トレンチを伝って放射能汚染水が立て坑Bまで来ていることが発見されたのです。そしてその水は4/2にはこの先のスクリーンのピットから海へ流出していきました。
ただし、残念ながらこの図は立体的でわかりやすいのですが、スクリーンポンプ室で隠れてしまい、海水配管トレンチの全体がわかりません。そこで、非常にラフなイメージ図ですが、海水配管トレンチと4つの立て坑の関係がわかるような図を作ってみました。ただし、山側(西側)から見ているような図です。タービン建屋は省略しています。また、後から示しますが、色は赤が濃いほど汚染水のCs-137の濃度が濃いというイメージです。

上の図では細かいトレンチとの接続は省略してあります。ここではCs-137の濃度に注目します。2011年3月末から4月始めにかけて、2号機タービン建屋の汚染水は3/27にCs-137が2.8E+06Bq/cm3(これは2.8×10の6乗という意味です)、3/30に2号機トレンチのCs-137が2.0E+06Bq/cm3、4/2にスクリーンピットから海に流出した汚染水が1.8+0E6Bq/cm3です。
タービン建屋からトレンチに出てきた汚染水は、2011年4月にはCs-137で2.0E+06Bq/cm3程度ということがわかります。
さて、すでに東京電力が報告しているように、2011年4月の海洋漏洩事故の後、東電はこの立て坑をふさごうとしました。残念ながら、トレンチとタービン建屋の間は現在も汚染水がつながっており、その接続を切るのは技術的に難しいためにまだ実現できていません。しかし、立て坑Bに関しては、砕石を投入して、その上にモルタルやコンクリートを流し込んで止水処理を行いました。

(7/22 「海側地下水および海水中放射性物質濃度上昇問題の現状と対策」に一部改変)
これにより、立て坑Bはその下部で立て坑Aや立て坑C、さらにはタービン建屋とは切り離された形になります。一方、それ以外の立て坑は、原理的にはタービン建屋とつながったままの状態です。
もし、この下の図に記載してある海水配管トレンチに一切ヒビなど入っておらず、その後も漏れがないとすると、現在もこのトレンチにたまっている汚染水は2011年4月当時の状態に近いCs-137濃度を保っているはずです。つまり、1~2E+06Bq/cm3の濃度であるはずです。
それを頭に入れた上でまずはB1-1のデータを見てみましょう。これについてはすでに「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(4) トレンチの謎2 追加データ」でご紹介していますので細かくは説明しません。
Cs-137の1.6E+06Bq/cm3は、2年前のトレンチの2.0E+06Bq/cm3とあまり変わっておらず、B1-1近傍及びそれにつながる立て坑Bからの漏えいはほとんどないということがわかります。

それでは、他の部分はどうなのでしょうか。今回新しく出てきた情報を確認してみましょう。下の図にデータを書き込んでみました。また、Cs-137の濃度に合わせて色を薄くしてあります。
下の図をちょっとみたらわかると思いますが、上の図のこうあるべき、という図とは全く異なり、かなりCs-137濃度が薄くなっていることがわかると思います。これはどういうことかというと、この立て坑A-立て坑C-立て坑Dをつなぐトレンチのどこかでヒビが入っており、そこから汚染水が2年間の間に少しずつ漏れ出していったということを示しているのです。

トレンチのどこかで漏えいがあればその分トレンチの水位がさがるはずですが、タービン建屋とトレンチはつながっているため、タービン建屋の汚染水が補充されます。2号機タービン建屋の汚染水は、Cs-137に関しては2年間の汚染水循環処理システム稼働によって今では3.6E+04Bq/cm3(2013年5/22)のレベルにまで下がってきています。つまり2年前の1/50近くにまで低下しているのです。
そう考えると、5/30の立て坑AのCs-137濃度が3.7E+04Bq/cm3とタービン建屋の汚染水とほとんど全く同じ濃度だったということも納得できます。残念ながら、この5/30の時のトレンチ立て坑Aは深さ何mなのかの情報がないのですが、その採水した深さまでは間違いなくタービン建屋からの汚染水が移動しており、つまりその分の量の汚染水が外に漏れ出したということを示しています。
次に立て坑Cのデータを見てみましょう。立て坑Cでは深さを変えて3点で汚染水を取っています。

8/2 ワーキンググループの資料に同日東電HPの福島第一2,3号機海側トレンチ滞留水分析結果の情報を追加
深さ1mと7mとはほぼ同じ質の汚染水、13mはそれよりも濃い汚染水です。深さ13mではCs-137が6.5E+05Bq/cm3と、2011年4月時点の1/3に低下しています。その上の方の汚染水がCs-137が2.4E+05Bq/cm3とさらに1/3程度であること、塩分濃度が深さ13mでは7500ppmとB1-1(2年前の状態をほぼ維持している)の8000ppmとほとんど変わらないことから、当時の汚染水が残ってはいるものの、立て坑Cの上部から別の薄くなった汚染水が来ており、それによってCs-137が希釈されていると考えることができます。
この図では省略したのですが、この立て坑Cは上部で別のトレンチと接続しており、2年の間に接続している上部のトレンチから汚染水や地下水が混入してきていると考えられます。(タービン建屋からの汚染水は下部からしか来ません。)ただし、深さ1mのデータと13mのデータを比較すると、1mのデータは塩素濃度は1/10なのに、Cs-137は1/3ですから、単なる地下水ではありません。塩分濃度が薄まりつつCs-137には汚染された何かが上部から混入してきています。
これは、「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(4) トレンチの謎2 追加データ」でご紹介したB-2のデータが、2011年4月のデータをちょうど100倍程度希釈すると塩素濃度もCs-137濃度も説明がつくのでこれは地下水などで希釈されたと考えたのとは違う現象が起こっているのだと思います。
残念ながら、立て坑Cにある汚染水の水位や詳細なサイズが公表されていないので立て坑Bの情報を参考にするしかないのですが、このトレンチの一番深いところでO.P.-12500程度ですので、仮に汚染水がタービン建屋と同等のO.P.3000前後まであるとすると、立て坑Cの深さは約15.5m。するとこの下にさらに2.5m程度の汚染水があることになります。さらに深いところはB1-1と同様に1E+06Bq/cm3を超えるCs-137が存在するかもしれません。

ただ、間違いなく言えることは、本来ならばこの立て坑CにもCs-137が2.0E+06Bq/cm3程度の高濃度の汚染水がありました。それが2年の間にいつの間にか立て坑Cの体積に相当する量の汚染水がトレンチのどこかから漏れ出し、その代わりに立て坑Cにつながる上部のトレンチから汚染水或いは地下水、雨水が入ってきたのでしょう。
立て坑Cが立て坑Bの情報と同程度の大きさだとすると、少なくとも、6m×6m程度の広さでそれに高さ10~12m分の汚染水が漏れ出したということが可能です。大ざっぱな計算で、少なくとも約360m3もの汚染水が2号機の海水配管トレンチから地下に流出した可能性が高いということです。2.0E+06Bq/cm3としたら約720兆ベクレルものCs-137が地下水に流出したことになります。これは、2011年4月に海に流出したと東電が認めた520トンの高濃度汚染水に匹敵する量で、あの時はCs-137で940兆ベクレルですから、ほぼ同等ですね。
おわかりでしょうか。今回のデータは、2011年4月には立て坑Cに存在したはずの高濃度汚染水が概算で360トン程度は行方不明になっていることを明確に示しており、漏えい地点は不明ではあるが、間違いなくトレンチから高濃度汚染水が流れ出たということを示しているのです。同じ2号機海水配管トレンチのそうでない事例としてB1-1のように2年前の濃度が維持されているケースがありますから、それと比較する事によって漏えいしていることはおわかりいただけると思います。
16.3号機トレンチの状況は?
続いて3号機の立て坑Bのデータです。これまで3号機のトレンチについてはこのブログでもあまり取り上げてきませんでした。なので今回は最初から確認していきます。
まず3号機のタービン建屋およびトレンチには、2011年当初にどれだけの汚染水があったのか確認していきましょう。多くの人が、3号機も2号機と同様に2011年には1E+06Bq/cm3レベルの汚染水がトレンチにたまっていたと考えていると思いますが、それは大きな誤りです。そのことをこの後示していきます。
トレンチのデータは「東京電力が発表してきた福島第一原発の汚染水情報のまとめ(3)」にも記載していますが、
2011年4月20日 トレンチ内溜まり水の核種分析結果(PDF 55.0KB)より
1号機トレンチ(3/29) Cs-134:7.0E-01 Cs-137:7.9E-01 Bq/cm3
2号機トレンチ(3/30) Cs-134:2.0E+06 Cs-137:2.0E+06 Bq/cm3
3号機トレンチ(3/30) Cs-134:2.0E+01 Cs-137:2.1E+01 Bq/cm3
5号機トレンチ(3/30) Cs-134:1.0E+00 Cs-137:1.1E+00 Bq/cm3
6号機トレンチ(3/30) Cs-134:5.7E-01 Cs-137:5.8E-01 Bq/cm3
この当時、4号機はトレンチ付近に立ち入れなかったので測定されていません。ですが、3号機トレンチのデータを見て欲しいのですが、2011年3/30にはCs-137はわずか2.1E+01Bq/cm3、つまり21Bq/cm3=21,000Bq/Lしかなかったのです。これは、2号機トレンチとは全く状況が違うことを示しています。
そして、詳細は昨年の「サイフォンの原理を理解すれば放射能汚染水の管理は理解できる!」において「3.高濃度汚染水の玉突き移送と「低レベル」汚染水の海洋放出」に記載したので概略だけにしますが、2011年4月2日に2号機スクリーンから海洋漏えいがわかった頃、実はもう一つの大問題がありました。
6号機地下の浸水がひどく、このままでは6号機の維持もできなくなるということでタービン建屋から排水しようとしましたがその水が規制値を超えていたために海に捨てられませんでした。結局は4/4に放水することになるのですが、その頃から2号機、3号機のタービン建屋にたまっている高濃度汚染水をどこに移送するかということで移送できるタンクがなく、集中廃棄物処理施設に移送することになりました。
そして、集中廃棄物処理施設にたまっていた水を4号機のタービン建屋地下に移送したところ、予想外なことが起きました。
集中廃棄物処理施設の一つの主プロセス建屋を空にして貯蔵スペースを作るため、2011年4/2に主プロセス建屋の地下から4号機タービン建屋地下に低レベル汚染水を移送し始めたところ、4号機のタービン建屋地下の水位だけでなく、3号機のタービン建屋地下、また3号機のトレンチの水位が上昇し始めたのです。これは、3号機と4号機の建屋間が地下でつながっていること、そして3号機タービン建屋地下と3号機トレンチとがつながっていることを示していました。

政府事故調中間報告書資料V-17より
そして、これまではほとんど汚染されていなかった3号機トレンチもこの2011年4/3からタービン建屋の汚染水があふれ出してきて、汚染されていくのです。しかしながら、3号機トレンチの汚染水の情報についてはこの後は後で述べる2011年5月11日の1回だけしかわかりません。
4/3~4/4の4号機からの押し出し事件があってから、タービン建屋内の汚染水がどうなったかについては、2011年4/25に報告されています。
4/25 福島第一 3・4号機タービン建屋地下階溜まり水の測定結果について 単位はBq/cm3
3号機 T/B BFL溜まり水(電気品室)(4/22) Cs-134:2.7E+05 Cs-137:2.8E+05
3号機 T/B BFL溜まり水(大物搬入口側)(4/22) Cs-134:1.5E+06 Cs-137:1.6E+06
4号機 T/B BFL溜まり水(4/21) Cs-134:7.8E+03 Cs-137:8.1E+03
3号機 T/B BFL溜まり水(電気品室)(3/26) Cs-134:5.5E+04 Cs-137:5.6E+04
3号機 T/B BFL溜まり水(大物搬入口側)(3/26) Cs-134:1.8E+05 Cs-137:1.8E+05
4号機 T/B BFL溜まり水(3/24) Cs-134:3.1E+01 Cs-137:3.2E+01
電気品室というのはたまり水マップに寄ればメインの部屋ではないので大物搬入口側で考えれば良いのですが、3号機タービン建屋の汚染水濃度は、3/26のCs-137:1.8E+05Bq/cm3から一ヶ月後の4/22にはCs-137:1.6E+06Bq/cm3と10倍に上昇しています。これが何によるものかはわかりませんが、4/3以降はそれなりに汚染された水がタービン建屋からあふれ出していったことは間違いありません。
ただ、すでに3/27時点では3号機トレンチにはO.P.2700付近まで水がたまっていました(「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(2) トレンチの謎」に当時の記者会見の情報を記載)から、5000トン近くほとんど汚染されていない水があり、タービン建屋から出ていった汚染水はその水で希釈されていったということになります。
その後の情報としてわかっているのは、2011年5/11の3号機からの漏洩事故です。その時の資料が2011年5/21のプレスリリースにまとめられています。その資料によると、Cs-137が3.9E+04Bq/cm3ということです。ということは、2011年5月には3号機トレンチ全体がほぼこの濃度(Cs-137が3.9E+04Bq/cm3)であった可能性が高いということです。

東電HP 2011年5/21 第3号機取水口付近からの放射性物質を含む水の流出状況 より
その後、旧保安院の指示もあり、3号機立て坑Cを上部だけ閉塞したり、トレンチの先のピットを埋めたりしたので、基本的には3号機トレンチはほぼこの濃度に近いと考えるのが妥当だと思います。
前置がかなり長くなりましたが、このような基礎知識を持った上で今回の3号機立て坑Bのデータを見ていきましょう。立て坑Bの位置は下の図で確認しておいてください。図では右側にあります。

東電HP7/26 福島第一原子力発電所 海側トレンチ調査の考え方について より
では、今回8/2に発表されたデータです。

東電HP8/2 福島第一2,3号機海側トレンチ滞留水分析結果 より(クリックで拡大)
こちらも深さを1m、7m、13mと変えていますが、どれもほぼ同じです。Cs-137の濃度としては、どれもほぼ2.4E+04Bq/cm3と、2011年5月の3.9E+04Bq/cm3の半分弱です。
このデータで注目すべきは、塩分濃度が17000ppmと非常に高いことです。2011年3月のタービン建屋にたまった水の分析をJAEAが行っていますが、塩分濃度は3号機で10700ppm、高い2号機でも18000ppmです。今回のトレンチ立て坑Bはそう考えるとかなり高いです。(ちなみに、海水は塩分濃度が3.5%=35000ppmといわれています。)
2011年にトレンチの水の塩分濃度が発表されていないのでわからないのですが、3号機タービン建屋の塩分濃度から考えると、東京新聞が8/2に書いているように海水がどこかから混ざった可能性もあります。ただし、7/18に東電が規制庁に出した資料にもあるように、この立て坑Bは海から65m程度ありますので、本当にこの付近まで海水が入ってこられるのかどうかについては疑問があります。

なお、現在わかっている3号機のタービン建屋の最新の情報は、6/21に公表されたCs-137で3.1E+04Bq/cm3というデータです。これでは2年前のトレンチ濃度とほとんど変わりないため、2号機のような議論はできません。
従って、3号機立て坑Bの調査結果だけからはあまり確かなことは言えません。もう少し他の地点の調査が進んでデータが蓄積してきたら、2号機トレンチのように漏えいしているかどうかということについても判断できると思います。現時点では、漏えいしている可能性はありますが、最大でも半分程度であり、元々の濃度が低いため、放射能の量としては2号機ほどの問題にはならないと思います。
2011年5/11の漏洩事故は、I-131などもあわせて20兆ベクレル(2E+13Bq)であり、先ほどの2号機トレンチ立て坑Cからこの2年間に漏れ出した可能性がある720兆ベクレルよりも遙かに少ないのです。仮に3号機にあるといわれている5000トン(Cs-137:2.4E+04Bq/cm3として)が全て漏れ出したとしても、120兆ベクレルですから、2号機のトレンチの重要性がいかに高いかおわかりいただけると思います。
もちろん、3号機トレンチからも漏れ出したら困るのですが、優先順位はずっと後になります。
今回は、3号機トレンチ立て坑Bの調査結果が出てきたので、3号機のトレンチについての情報もまとめてみました。毎週新しい情報が追加されるため、なかなか全体をまとめるところまで行きそうにありません。
次週は「2年前の漏洩事故を再検証(6)」の予定です。お楽しみに。
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- 2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証 目次 (2013/08/17)
- 2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(5) トレンチの謎3 (2013/08/04)
- 2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(4) トレンチの謎2 追加データ (2013/07/28)


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