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汚染水タンクから最大300トンの漏えい!(5) 地下水バイパスもピンチ!

 
昨日(8/31)から新しい情報がいくつか追加されましたので速報でお伝えします。

一つは地下水バイパスのデータ、それから排水路のデータ、そして詳細は不明なものの、H5エリアでの新たなタンクからの漏えいと対応についてです。メインは地下水バイパスについてです。


1.広がってきた地下水バイパスの汚染

地下水バイパスについては、マスコミでも報道されていますので多くの方がご存じと思いますが、今年の1月に書いた「放射能汚染水情報アップデート(4) 地下水バイパスの現状」をご覧いただければ基本的な情報は理解していただけると思います。

これまで東電は「汚染水の海への安易な放出は行わない。海洋への放出は、関係省庁の了解なくしては行わない」と言ってきているため、地下水バイパスで汲み上げた地下水についてもその放射能を測定し、そのデータを元に地元の漁協と何度も協議してきました。組合長レベルでは一時期了解が得られかけた時期もあったのですが、なかなか一般の漁師にまでその理解を浸透させることができませんでした。

そうこうしているうちに一連の汚染水の海への漏えいがあり、信用を失ったところに今回のタンクからの最大300トンの漏洩事故です。特に今回のタンクからの漏洩事故は、下の図面を見ればわかるように、地下水バイパスのための揚水井、特にNo.10からNo.12の上流に位置するため、その影響が懸念されていました。

9/1-1
8/23 H4エリアの漏えいに係わる汚染土壌調査・地下水モニタリング計画について より

一方で、今回の漏洩事故については、海へ漏れ出した量がどれだけあるか不明であり、どちらかというと、地下に漏えいした量の方が多いのではないか、と予想されています。8/27の第4回汚染水WGでも地下水にどれくらい影響があるかどうかを確認するために新たにボーリングするよりも、今ある地下水バイパスそのものからサンプリングして汚染の有無をチェックするべきだ、という指摘がなされていました。

その指摘を受けて新たにサンプリングした結果が8/30(No.7-No.10)及び8/31(No.11-No.12)に公表されました。一番気になる全βに関してはどれもND(検出限界値未満)でした。一方で、H-3(トリチウム)が上がっていました。

実は、今回の漏えいで一番問題にされている核種はトリチウムではありません。全βの中に半分ほど含まれるSr-90です。H4エリアのタンクに入れられているRO濃縮水は、セシウム除去装置を通しているためセシウムはかなり除去されています。そのため、検出しやすいγ核種は少なくなっているのですが、β核種であるSrやH-3はほとんど全く除去されていません。今回の漏えいしたタンクでも、8/26に発表された、当該タンクNo.5の核種のデータによると、Cs-137が92,000Bq/L、全βが2.0E+08Bq/L=200,000,000Bq/L(2億ベクレル/L)でした。これまでの経験からSr-90はこの50-60%という事が言えますから、Sr-90は約1億ベクレル/Lです。

残念ながら、この時の資料ではトリチウムは測定されていません。ただ、これまでの同様のRO濃縮水のデータ(例えば昨年1月のデータ)から考えて、No.5のタンク中のH-3はおよそ3,000,000Bq/L=300万ベクレル/L程度と考えられます。RO濃縮水中の全βの濃度も時期によって違うのですが、このタンクは2012年前半に満水になったはずなので、2012年1月のデータをここでは示しています。

それから、ついでにH-3の測定について補足しておきます。以前規制庁の検討会で東電が説明していたのですが、H-3のエネルギーは弱いので、通常の全βの測定の際には測定できないため、H-3を測定する時には別の方法でH-3のみを測定していると言うことでした。つまり、東電が出してくる全βのデータにはH-3は含まれていないということです。これは私も以前疑問に思っていたので、ここでみなさんに情報を共有します。

この後の議論では主にH-3(トリチウム)のデータを用います。過去の地下貯水槽からの漏えいの議論においてわかったように、地下水の流速よりもSrの流速はかなり遅いそうです。それは、分配係数といって、土壌にくっついたり離れたりするため、単純に地下水の流速=Srの流速と考えるのは問題があるということでした。また、セシウムは土壌に吸着しやすいため、地下水として流れることは少ないと考えてもいいようです。

一方、H-3は水分子として存在するため、地下水の流速=H-3の流速になります。従って、汚染水が地下水に流れ込んだ場合は、まずはH-3が最初に検出される可能性が高いということなのです。


今回発表されたH-3の結果を示す前に、これまでに公表されている情報を特にH-3に焦点を当てて先ほどの図に示してみます。5/30の汚染水処理対策委員会に資料3「参考資料集」としてまとめられた中にこのような表があります。

9/1-4
5/30 汚染水処理対策委員会 資料集 の資料より

全βは全てNDなのですが、この中からトリチウムのデータのみを先ほどの図にプロットすると、今年の2月から3月の地下水バイパスのトリチウムのデータが一目でわかります。

9/1-2
5/30 汚染水処理対策委員会 資料集 の資料に一部加筆

一番南(図でいうと右側)の揚水井であるNo.12だけが450Bq/Lと高いものの、それ以外は100Bq/L未満であることがわかります。No.12については、昨年H4エリアで何回か起きた漏えい事故(例えば昨年3月に120トン漏れた事故:「3/28 Sr入り汚染水による海洋汚染その3 本日の最新情報」参照)の影響かもしれません。

これに対して、今回発表されたH-3のデータ(8月29~30日採取)を書き込んでみます。No.7~No.12までしか今回は発表されていません。

9/1-3

100Bq/L以下のもの(No.8とNo.9)はあまり気にしないとして、No.10が76→290Bq/Lに、No.11が57→300Bq/Lに、No.12が450→900Bq/Lにそれぞれ大きく上昇していることがわかります。また、No.7も30→470Bq/Lに上昇しています。

前回のデータが半年前のデータなので、いつから上昇したのかについては不明です。この半年間に、地下貯水槽からの漏洩事故もありました。結局あの時の漏洩量は当初は120トンと言われていたのが、下方修正されてベントナイトシートの外側に出たのは10~20L(5/17 検討会資料7-1 19ページより)ということになりました。従って、地下貯水槽からの漏えいというのはあまり考慮しなくて良いかもしれません。

ではこのトリチウムの上昇は、今回の漏えいがそのまま反映されているのか?これについてはその可能性も高いとは思いますが、地下水の流速がどれくらいなのかによって、そうとも言いきれない部分もあります。

4月の地下貯水槽からの漏えいの際に議論になったのは、地下水の流速がどれくらいか、ということです。この時に、4/19の第9回特定原子力施設監視・評価検討会において、JAEAの専門家がシミュレーション(資料1-4)を行ってくれています。SrとH-3についてシミュレーションしているのですが、おそらく距離や一日の流出量のパラメーターを変えれば今回のタンクからの漏洩事故にもそのまま使えると思います。

ここでは、このシミュレーションにも用いられている地下水の流速として1日10cm(東電の資料)と3倍速い30cmの両方があることに注目します。JAEAのシミュレーションでも早くて1日30cmです。作業員の作業線量から考えて7月中旬から漏れていたかもしれないという情報(8/27 第4回WG 資料3 14ページ)に基づき7月中旬からとして8月末まで約50日。0.3m×50日=15mです。一方で、揚水井No.11やNo.12までの距離は下の図から100m程度です(H4エリアの1000トンタンクが直径12mですからそれを元に大ざっぱな計算をしました)。1日30cmという流速ではちょっと説明できませんね。

9/1-5
8/30 第5回汚染水対策検討WG資料2 21ページより 

私はむしろ今回のH-3の上昇は、昨年の3月の120トンの漏洩事故(詳細は「3/28 Sr入り汚染水による海洋汚染その3 本日の最新情報」参照)の影響も可能性として考慮する必要があると考えています。昨年7月に東京電力がまとめた報告書によると、昨年3/26に漏えいしたのは120トン。この時海に流れたのは約80Lで、20トンを回収し、100トンが地中に流出したとされています。

当時の一番の課題は海への直接の流出で、それが120トンのうちわずか80Lで済んだためによかったということだったのですが、実は100トンは地下に流出したと東電が報告書に記載しているのです。

9/1-6
2012年3/28 濃縮水貯槽タンクエリアにおける水漏れ事象を受けた海水追加サンプリング箇所 より

この2012年3月の漏えい箇所は、先ほどのH4エリアの地図にあてはめると、No.5タンクの60mほど西(図でいうと下)です。1000トンタンクが直径12mということなので、タンク5個分ほど西に行った地点です。

No.11やNo.12までの距離を約100m+約60m=約160mとします。とすると、昨年3月末から今年8月末まで約500日として、地下水の移動速度を1日0.3mとすると0.3m×500=150mで、距離的にはほぼピッタリです。地下水バイパスにおける今回のH-3の上昇は今回のH4エリアからの漏えいの可能性もありますが、地下水の流速が1日30cm程度とするならば、昨年3/26の漏洩事故の影響という可能性も考慮しておかないといけないのです。

今回の同じ資料には参考になる情報が他にも載っています。25ページには、この辺りの地下水水位の実測に基づく地下水分布平面図が載っています。これを見ると、地下水や西から東というよりもやや北東に流れている事がわかります(青い線が地下水の等高線)。今回のデータで地下水バイパスNo.7のH-3が上昇しているのもH4エリアからの漏えいが北東に流れているということで説明できると良いと思います。そうでないと、別の汚染源があるということになります。

9/1-7
8/30 第5回汚染水対策検討WG資料2 25ページより

同じ資料の22ページには、調査孔bと調査孔cの全βとH-3のデータが掲載されています。どちらも今年の4月から毎週1回測定をしています。値がでているのは調査孔b(たまに調査孔cも検出)のH-3だけで、100Bq/L程度です。先ほどの北東に流れるという話があれば、調査孔bのデータも変わってきても良いと思うのですが、8月中旬までは変化がありません。

9/1-8
8/30 第5回汚染水対策検討WG資料2 22ページより

23ページには、今の調査孔bやcの位置、地下水バイパスの揚水井の位置に加えて、新たに掘る予定の調査孔の位置が記載されています。

9/1-9
8/30 第5回汚染水対策検討WG資料2 23ページより

これらのデータが出てくるのを待って今回のH4エリアタンクからの漏えいがどこまで広がっているのかを判断するしかないと思います。ただ、半年前と比較して明らかにC系統とB系統の一部のH-3は大きく上がってきており、地下水バイパスをどこまで利用できるか(汲み上げた水を海に放出できるか)、という議論が今後出てくることは間違いありません。

H-3の規制値は60,000Bq/Lですので、現段階では十分に規制値以下です。原発が運転中は膨大な量のトリチウムを海に放出していました(リンク先38ページ)ので、規制値以下でこれまでと同程度まではいいとするならば、海に放出することも可能でしょう。しかし、このような状況になってしまってそれが認められるかどうかについては難しいような気もします。少なくとも東電だけでは無理でしょう。規制委員会あるいは政府がどう判断するか、ということになると思います。

2.海に通じるルートへの漏えいのその後

この週末にいくつか排水路のデータが発表されました。

9/1 福島第一原子力発電所構内H4エリアのタンクにおける水漏れに関するサンプリング結果
(比較すべきデータ:8/23のほぼ同じ地点のデータ(B-2やB-3の位置解説図つき)

8/31 福島第一原子力発電所構内H4エリアのタンクにおける水漏れに関するサンプリング結果(ふれあい交差点近傍 など)

しかし、「ふれあい交差点近傍」とか聞いたこともない地点の名前が解説もなしに出てくるため、それについては今回はここに掲載しませんでした。前回と比較できるデータについては図に書き込みました。また、8/27の第4回WG(資料3 62ページ)において、この排水路に何ヶ所か土嚢を積んだということでしたので、その情報も書き込みました。

9/1-11

9/2追記:データが訂正されたので図も書き直しました。
訂正版:福島第一原子力発電所構内H4エリアのタンクにおける水漏れに関するサンプリング結果
9/2-2
9/2追記ここまで

8/27に土嚢を積んでせき止めたということであれば、今回の8/31の測定でB-2やB-3の濃度が上昇し理由は説明できると思います。おそらく、8/19以前に雨の時にあふれて排水路に流出した汚染水はとっくに海に流出してしまい、今はタンクの真下から地下に流れ込んだ汚染水が、少しずつ排水路に設けられているドレインから排水路に流出してきたのでしょう。一方で、C排水路との合流点(C-1)の濃度があまり変化がないのは、地下からC排水路側に流れた分が排水路に設けられたドレインからC排水路に流出しているのだと思います。だとすれば、今後もしばらくの間はB-2やB-3は濃度が上昇し、C-1は今後も同じような濃度が続くと思います。

記者会見で「ふれあい交差点近傍」などの情報を開示してもらえれば、もう少し今回追加された地点のデータを含めて見ることができるのですが、現段階ではここまでにしておきます。

9/2追記:
ふれあい交差点近傍などの情報が発表されましたので、その図を含めて情報をプロットしました。

9/2-3
9/2 福島第一原子力発電所構内H4エリアのタンクにおける水漏れに関するサンプリング結果 に追記
9/2追記ここまで


3.新たなタンクからの漏えい

こちらについてはまだ「福島第一原子力発電所構内H4エリアのタンクにおける水漏れについて(続報20)」という記者向けのメール配信をHPで公開したものしかありません。
これを書き終わった後に「福島第一原子力発電所構内H4エリアのタンクにおける水漏れについて(続報21)」が追加されたことに気がつきました。


「H5エリアIVグループNo.5タンクとH5エリアIVグループNo.6タンクの連結配管部からの滴下について、連結配管の保温材及び吸着マットを外して状況を確認したところ、各タンクと連結配管を接続している隔離弁(2弁)のうち、No.5タンク側の隔離弁と連結配管を繋いでいるフランジ部より約90秒に1滴の滴下があることを昨日(8月31日)午後11時10分頃に確認しました。

 その後、当該フランジ部に吸着マットを巻き付け、ビニール養生を施すとともに、当該フランジ部の床面にドレン受けを設置しております。

 なお、当該連結配管の隔離弁(2弁)については、No.5側およびNo.6側のどちらも閉められていたことを確認しています。」

今回はH4ではなく、やや南西にあるH5エリアのタンクです(下図参照)。そこで、二つのタンクをつないでいる隔離弁の付近から90秒に1滴漏えいがあることを8/31の夜に発見したということです。

9/1-10

※9/1 22時一部誤記修正
その前の「福島第一原子力発電所構内H4エリアのタンクにおける水漏れについて(続報18)」において、H5エリアではなく(8/22に100mSv/hが観測された)H3エリアで1800mSv/hという70μm線量当量率が確認されたというリリースがありました。こちらでは漏えいは観察されませんでした。これに関しては当初1800mSv/hとあったためにいろいろな報道がされましたが、東電側が「平成25年8月31日福島第一原子力発電所構内タンク群で確認した高線量(最大1800mSv/h)について」というお知らせを出しました。

「人が一度に受けた場合に死亡するとされている線量約7000mSvと比較して「約4時間浴び続けると死亡する」、あるいは、作業員の年間被ばく線量限度である50mSvという基準値と比較して、「年間被ばく上限に1分あまりで達する線量」などの報道がありますが、これらの基準値は、放射線による全身への影響を表す実効線量の積算ですから、今回測定された1800mSv/hという値と単純に比較することは適当でないと考えています。」

そのため、修正された報道が多いです。


9/2追記:この後もH6エリアで高線量が見つかったりと次々に新しい情報が出てくるのですが、もう少し整理されてきてからまとめたいと思います。


これについては、月曜日の記者会見で詳しい情報が出てくると思いますが、初期に発見できたということでとりあえずはよかったということになります。しかし一方で、今後も同様の漏えいが発生する可能性が極めて高いということを示してくれた小さな漏えい事故ですので、これをいかにして今後の対策に活かしていくか、ということが求められます。
 
 
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3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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