2011年4月のビーバー作戦を再現します その1(2011年4月2日前半)
「再開予告」でお伝えしたように、東京電力がHPで公開しているTV会議の映像と、メディア限定で公開しているTV会議の映像を元に、2011年4月に2号機からの高濃度汚染水の漏洩事故でいったい何が起こったのか、再構成していきたいと思います。メディア限定公開の部分は、再開予告にも書いたようにおしどりマコさんが主宰するLCMプレスからTV会議を視聴して書き起こしたものをいただき、利用させていただきました。
今回は第1回ということで、2011年4月2日について(前半)です。なお、タイトルのビーバー作戦については、なぜそういう名前がついたのかは4月3日の部分を読めばおわかりいただけると思います。
今回は、4月2日のTV会議の中でこの漏洩事故がどのように情報共有されていって、どのような議論・対策が取られていったのか、そしてプレスリリースと14時45分からの記者会見がどのような形で発表されたのかまでをまとめたいと思います。
1.2011年4月2日 外部への公表の第一報まで
2011年4月2日、午後2時45分の記者会見(リンクはニコ生:ログインが必要)で重大な海洋への漏洩事故が発表されました。東京電力のHPにもそれは今も残っています。
それを読むと、4月2日の9時30分頃に初めてスクリーンへの漏洩が確認されたことになっています。
「本日午前9時30分頃、2号機の取水口付近にある電源ケーブルを納めているピット内に1000ミリシーベルト/時を超える水が貯まっていること、およびピット側面のコンクリート部分に長さ約20センチメートルの亀裂があり、当該部分よりピット内の水が海に流出していることを発見いたしました。その後、午後0時20分頃、再度、同状況を現場にて確認いたしました。」
(東京電力のプレスリリース文より)
「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(1)」にスクリーンとは何?といった話から細かく書いていますので、ここでは詳細にそれをくり返すことはしません。わからない方はぜひ「再検証(1)」読んでいただければと思います。
ただ、位置関係については再度確認しておく必要があると思います。漏えいが起こったのは、2号機のスクリーン(原子炉の二次冷却水として使われる海水の取水口にあってゴミやクラゲなどを除くための設備)近くにあるピット(コンクリートの縦坑)です。下の図に「4/2漏水確認場所」と書いてあるところです。

(東電福島原発事故調査・検証委員会 中間報告書資料V-8より)
ピットとスクリーンの間には下の断面図のように約1.5mの厚さでコンクリートの護岸があるのですが、ピットにたまった高濃度汚染水が、そのコンクリートにできた亀裂を通じて、海に流れ出ていたのを作業員が発見したのです。この下の写真、見覚えある人も多いと思います。

(政府事故調中間報告書資料V-10 より)

(東京電力HP 写真・動画集より)
(1) TV会議ではじめてわかった情報
では、TV会議ではいつどのような議論がなされていたのか、見ていきましょう。なお、肩書きは当時のものです。
2011年4月2日の午前11時頃、吉田所長が「本店さん。緊急で報告事項があります、」と切り出しました。この冒頭部分は東京電力のHPにも公開されています(映像一覧の107-1(注:リンクを押すと62MBのファイルをダウンロードします))。時間のある方はぜひ実際の動画(約10分)を見ていただくと、より臨場感を持って読むことが出来ると思います。
一般に公開されている動画はわずか10分ほどですが、東電本店と1F(福島第一原発の事を1Fと呼びます)とのコミュニケーションの取り方がどういう形でおこなわれているのか、また東電本店にも技術的なことがわかる人間が多くいることがわかります。
そして、一体どこからどのようなルートで漏洩したと考えられるのか、対策としてはどのような事が考えられるのか、午前11時の時点で大枠がすでに議論されていました。この時点ではどのようなルートで漏えいしたのかは不明でした。吉田所長は、この漏洩を止めるのにはピットを板とかコンクリートで止めてしまうことと、止めるとあふれる可能性があるので、その水をどこかのタンクか建屋の地下に送りこむくらいしかないだろうけど、おそらくこの高濃度汚染水はタービン建屋から出てきているから、そうやってピット部分を止めてしまったら、今度は大元がいずれ溢れる可能性があり、そちらの方が大変だ、という考えを表明しています。
3月の原子炉建屋の水素爆発などの失敗はあったものの、やっと原子炉が落ち着きを見せ始めて来た4月初めの時点では、吉田所長の頭の中には、水の処理をどうしたらいいのか、ということが一番の大きな問題という認識があったことが伺えます。そうでないと、このような本質をついた発言は出てきません。実際、当時の報道(リンク先は朝日)ですでに汚染水の玉突きという表現が使われています。
しかしおそらくこの時点では、このあと止水するのに4日間もかかるとは誰も考えていなかっただろうと思います。
この下に示したのは、公開されている動画から抜き出した画面ショットです。わかりにくいですが、最初はこのような手書きの書画で情報共有をしていました。上の図は断面図(ピット付近で南北方向に切ったもの)、下の図は断面図(東西方向)です。

断面図に関しては、それを書き直した資料が東電HPに掲載されていますのでそれを示します。なお、この資料はこのあとの12時20分の観察結果も含めての情報となっています。

(東京電力HP(2011年4月2日)より)
もう一つの断面図(東西方向)に関しては、このあと説明することも考えて、少しわかりやすい立体的な図を政府事故調の中間報告書資料V-9から引用して、それに加筆したものを下に示します。

当初からここにある二つのピットに名前がついていたのではないのですが、後にピットにコンクリートを入れて埋めてしまう時に初めてピットA、ピットBという名前がつきました。海側にあってスクリーンに漏れ出しているピットがピットA、山側(西側)のピットがピットBです。今後はその名称で呼んでいきます。
4/2の11時の時点(及びそのあと1時間ほどのTV会議)で確認された事実を記載しておきます。
・前日(4/1)の昼間の見回りで、ピットAが500mSv/h、ピットBが400mSv/hの空間線量を観測していました。(このような事実は当時は公表されていません)
・一方、4/1夜の保安の見回りでは、そのような線量は観測されませんでした。しかし、それはよく確認すると、ピットの線量を測定したのではなく、バースクリーン付近を測定していたことがわかりました。また、バースクリーン付近を測定して特に線量に関する報告がありませんでしたので、4/1には海水はあまり高線量ではなかったということがわかります。(ちなみに、4/2の13時頃に判明した情報ですが、4/2の11時の測定では、バースクリーン上の通路で、床より1mで12mSv/h、10cmで20mSv/hという報告があります。(このような事実は当時は公表されていません)
・公開されている動画(107-1)に「干潮だから」という吉田所長の言葉が出てきます。そして、なぜ前日夜の保安の見回りでは線量が低かったのかについて、
1F担当者:「今のお話だと干潮と満潮の関係で、干潮の時は流れができて、汚い水が流れていくんだけど、満潮になると海側の方の水が中に入ってきて線量が低い状態になっていると、そういう息継ぎ状態が起きているように思います。」
という会話がなされています(このような事実は当時は公表されていません)。つまり、満潮時には海水が流出口にまで達しているのではないか?ということなのです。そのため、干潮、満潮の時刻と潮位が報告されています。これについてはあと(次回以降)で述べたいと思います。
・本店の保安担当からは、ピットAの中の水と、海の水をサンプリングして欲しいという要望が出されました。これは実際にサンプリングされて、測定した結果が数日後に公開されています。
ここで、TV会議の書きおこしから一部を引用して、実際の会話のやり取りを示します。
これは、動画(107-1)の公開部分が終了してから数分後の武黒フェローと吉田所長の会話です。この会話の直前に、なぜ4/1には線量が下がったのか?満潮で潮位が上がると線量が下がるのではないか、という議論がされています。
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2011年4月2日 11時18分頃~
(武黒フェロー)これ、いずれにせよ、潮位によって出たりでなかったりするという微妙なバランスのものではあるが、これをとにかく何らかの形で手近で使える仮設のものに入れるというのはピットに入れるっていうのしか今方法ないと思うんですが、4号のタービンにいれちゃうと全体が非常に将来回せなくなる恐れがあるので、4号のタービンには集中RWの排水を急ぎたいと思います。そして2号の全体の水位を下げるということをやっていかないと最終的な解にならない、つまり途中で止められればいいけどその解が今あるかないかわからないので、まずは2号から集中RWに送る工程を最大限早めるということで、一方、その今出ているやつを最小化するための努力をするとこの線で臨むというふうにしたいと思いますが。
(吉田所長)わかりました。そうするととりあえず今、準備できているんでT/Bの下の海水を、ごめん、集中RWの下の海水をタービンに送る地下に送る操作を始めましょうか?
(武黒フェロー)可能ならそうしましょう。そのルートが間違えていないかという確認さえしてもらっていれば後は時間の問題でこれをどうやって早めるかっていうのはさらに検討して対応するという事にしてなるべく早く、空でなくてもある程度のところまでいけるようにしちゃうということをやると。
それから、この今ある水はタービンの元々入っているトレンチの方にその近くに開口があっていけるならばそこに送り返しちゃうということを含めて考えると。
(吉田所長)わかりました。
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いかがでしょうか。こんな感じで、武黒フェローが議論をまとめつつ、4号機のタービン建屋にこの高濃度汚染水を入れてしまうと、直近はいいかもしれないが将来的に困る可能性が高いので、集中RW(集中廃棄物処理建屋)に移送する方がいいのではないか、という提案をしています。また、止水をしてあふれそうになった汚染水は2号機のトレンチに送り返すことも検討するべきではないか、という提案もしています。
このように、武黒フェローは、社内の議論ではリーダーとして議論を引っ張って行っている様子がはっきりとうかがえるのです。このような情報は一般に公開されていないTV会議の映像にしかありません。私はLCMプレスからもらった書きおこしを読んで武黒フェローの印象が非常に変わったため、この思いはぜひ共有すべきと思い、書き起こしの一部をここに公開させていただきました。
第一報の報告があった11時頃から12時頃までの1時間の間に、書画を用いていったいこのピットにどこから汚染水が流れ出したのか、という議論が何回もなされています。当初は情報があまりなかったのですが、少しずつ情報が整理されていきます。
まず、下の図でいう海水配管トレンチと電源ケーブルトレンチの違いを共通の認識として持ちます。そして、その数日前に汚染水がたまっていることが発見された、トレンチの立て坑というのがどこにあるのか、ということを確認します。下の図でいう立て坑Bというのが3/28に汚染水が発見された(リンクは朝日)2号機の立て坑になることが確認されました。つまり、そこまではタービン建屋から汚染水がつながってきていることはわかっているわけです。

中間報告書資料V-9 より
しかし、今回のピットAは、海水配管トレンチから直接つながるものではなく、タービン建屋から出ている電源ケーブルトレンチにつながっていることがわかりました。ところが電源ケーブルトレンチは、タービン建屋の接続部が図面上はO.P.5m台と、O.P.4mを超えています。従って、タービン建屋の水位がこの時点でO.P.2960(詳細は昨年書いた「昨年3/27のトレンチなどの水位検証により判明した衝撃の事実!」参照)であったことから考えて、この上の図で黄色く塗られている電源ケーブルトレンチを通って汚染水が流出したということは考えにくい、というのがこの時点での推論でした。
このときにはまだ、後にコンクリートをはつることになる海水配管トレンチと電源ケーブル管路の接続部については情報がわかっていませんでした。
そして、12時27分頃には、本店広報部がプレス文案を読み上げます。情報を整理して第一報を広報し、記者会見を開く準備をしています。しかしこの文案をめぐってこのあとご紹介しますが、1Fの吉田所長がそんな情報はどこから入手した、と抗議をして情報の再確認と修正作業が行われたのでした。
・11時の第一報を受けて、土木担当者と保安担当者、さらには保安院の担当者(保安検査官)も12時20分頃に一緒に現場に行って確認しています。その人たちが12時35分頃に免震重要棟に帰ってきました。この時には水位は20cm程度ということになっています。
また、そのときの保安検査官は、(4/3のTV会議に出てくる話ですが)ピットAの中で水が流れているのをみた、渦を巻いていたと証言していますし、そのほかの2名も水が流れているのを見たと言っています。ですから、この時点でピットAからスクリーンへ水が流出していたというのは恐らく間違いないと吉田所長は判断しています。(このような事実は当時は公表されていません)
・恐らくこの保安検査官というのが、保安院が公開しているピットAの北壁面(スクリーン操作室電線管路を含む)を写してくれた人だと思います。
当初のプレス文案では、スクリーンにできた亀裂が立て20cm、幅3cmとなっていて、これに吉田所長がかみつきます。「幅3cmという情報はいったいどこから聞いたんだ!」と激しく抗議します。そして、最初に9時30分に見に行った人を呼んでその時の状況を話させます。この部分は公開されている12時38分頃からの107-2に公開(注:リンクを押すと62MBのファイルをダウンロードします)されています。※この107-2では、これからまさに書画を用いて説明するという非常に重要なところに菅首相がJ-Villageに来て割り込んで演説をします。
・当日(4/2)の9時30分に見に行った人の証言によると、ピットAに水が上から150cm程度の水位で存在したということでした。ラダー(階段)があって、上から3段目の少し上まで水がたまっていたそうです。ピットAの高さは約2mなので、上から約150cmというのが正しければピットAの水位は約50cmという計算になります。(このようなやりとりは当然ですが当時は公表されていません)
結局、幅3cmというのは間違いということになり、プレス文からは幅の表現は削除されました。このような議論においても、武黒フェローがうまく話をまとめています。
・9時30分の時点では水位が50cmで、12時20分には20cmということで、30cm程度下がったという情報を元にしばらくは話が進んでいきます。つまり、タービン建屋=トレンチの水位O.P.2960よりも50cm程度低いということになるので、完全にトレンチとつながっているわけではないだろうという認識です。
そして、この男の人がピットAを指さしている有名な写真が登場します。

(東京電力HP 写真・動画集 より)
さらに、ピット付近の図を用いて状況の説明が行われています。こんな図だったというメモをいただいたので、私の方で書き直しました。

ピットAの東側(海側)に幅50cm程度陥没があって、地表から20cm程度陥没していること。護岸のコンクリートにヒビが入っている状況であること。ピット自体も損傷していて、ヒビが何ヶ所も入っているような状態であること。このようなことがTV会議で説明されました。また、ピットAとピットBの水たまりも水深20cm程度であるという報告がされています。
このような状況の中で、プレス文が確定されて、冒頭にご紹介した文章がプレスリリースされました。正確な時間はわかりませんが、13:36頃に最後の打ち合わせをしていますので、それ以降であることは確かだと思います。それを受けて、14:45からの記者会見が行われたという次第です。
もう一つだけ、4月2日の昼間に行われていた議論で表には出てこなかった重要な情報をご紹介しておきます。電源ケーブル管路というものがどういうものか、という議論になり、電源ケーブル管路がタービン建屋からどう通ってどこにつながっていくものか、説明がされているのです。私が書きおこしを読んで理解した説明を、2013年現在で発表されている図を用いて説明します。

上の図にあるように、(1)タービン建屋から電源ケーブル管路を通って来た電源ケーブルは、(2)途中で北方向(図では右が北)に分岐します。この分岐は、今年の8月2日の汚染水WGでの資料2(19ページ)ではB2と呼ばれていた場所で、確かに電源ケーブル管路が分岐していることが今ではわかっています。

(第1回汚染水対策検討WG 資料2 20ページより)
北に向かった電源ケーブルは、取水電源室(これは1号機スクリーン近くにある建屋です)に行って、(3)そこからまた戻って来ます。そして(4)今度は海(東)へと向かって行き、スクリーンに電源を供給するという形になっているのです。
私は、(上の図には載っていますが)ピットAから北に伸びるスクリーン操作室電線管路というものがあったので、スクリーン操作室から電源を供給する仕組みと思っていたのですが、スクリーン操作室へつながる管路というのはスクリーンに電源を供給するのに必須ではなく、1号機寄りにある取水電源室から電源をとっていたということがこの説明で理解できました。ただ、このエリアでは長い間にいろいろな建造物が作られて運用も変更されたようですので、このような管路は他にもまだ存在する可能性はあると思います。これに関しては、東電自身も把握していない可能性が高いですし、仮にわかっても表に出てこないでしょう。
(2) TV会議において否定された情報
実は、TV会議の情報を追っていくと、時間経過とともに否定される情報もかなりあります。また、その途中経過のみが公表されている事例もあります。一番顕著な例がピットAの水位です。

上の図は4/2に公表された断面図のイメージですが、下から20cmという記者会見での発表があり、それはその後も修正されていません。私は、その報告に従ってピットAとピットBをつなぐ管路の有無も写真から判断してきましたが、非公開のTV会議において、20cmという水位は4月2日の夕方には否定されて、約1mの水位であるという結論になっています。
TV会議で示されたという書画を書き写した図もいただいたのですが、私が自分で理解した範囲で書き直しました。このような図を用いて4/2の夕方に議論がされたようです。ピットAを海側から見た立体図のイメージになっています。奥側(山側=西側)にピットBからつながる5列3段のケーブル管路があるという事になっています。汚染水の水位はほぼその管路が全て隠れるくらいまで、つまり1m位まであるという状態だということなのです。そして、ピットは瓦礫でかなり埋まっているようです。

確かにこれを見てから下の公開されている写真を見ると、見えている水位よりもさらに1mくらい下までピットの構造があってもおかしくないとわかりました。ピットのサイズは1.2m×1.9m(上のメモには1.8mとありますがその後の発表では1.9mです)で深さ2mなので、長い方(南北)の長さ(1.9m)とピットの深さ(2m)はほぼ同じ長さでないといけません。下の写真で水位が20cmならば、水面までの深さが1.8mあるということなのですが、長さの比が合わないように思えます。

(東京電力HP 写真・動画集より)
以前からもっとこのあたりについても確認すればよかったのですが、あくまで公表されている水位の情報(20cm)は正しいという前提で写真を見ていましたので、思い込みが強かったようで気づきませんでした。反省しないといけません。
となると、この水面の下にケーブル管路が隠れていても不思議ではありません。私は「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(3) 電源ケーブルはどこから?」において水位20cmという情報に基づいてピットAとピットBをつなぐケーブル管路はないと考えてきましたが、今回のTV会議の情報をあわせて考えると、やはりケーブル管路はあると判断せざるを得ません。この点は大きく仮説を修正したいと思います。
実はこの水位の情報は重要で、これが変わるとトレンチの水位とピットAの水位の関係も変わってきます。ピットAの底部の高さは下の図にあるようにO.P.2200なので、ピットAに貯まっていた水の深さが20cmだとするとO.P.2400ということになります。とすると、トレンチの水位(O.P.2960)よりもかなり低いため、直接つながっていないか、途中でリークがあるという推論を私はしてきました。
ところが、公表されている水位は20cmでしたが内部の議論での結論は約1m前後であるということになっています。ピットAの水位が約1m前後(O.P.3000を超えるくらい)とすると、その前提がひっくり返ってしまいました。となると、トレンチからピットAまでは水がつながっていると考えるのが妥当です。
またこの写真から、ケーブル管路が全く見えないのはおかしいとしてピットAとピットBをつなぐ管路はないという推論を私はしてきました。ですが、水位がO.P.3000程度まであるならば、ケーブル管路は見えなくてもおかしくはありません。

(政府事故調中間報告書資料V-10 より)
実際、2013年9月30日に東京電力が汚染水対策WGで示した資料(21ページ)では、ピットAとピットBをつなぐ管路を掘り起こした写真というものが存在しています。ピットAの水位が20cmという情報は間違いで約1mであり、ピットBからの管路が存在するのは間違いないという前提で今後の検証を進めていくことにします。

(第7回汚染水対策WG資料2 21ページより)
さて、4/2のTV会議に戻ります。
このあとどうなっていくか、ということですが、ピットにコンクリートを打設するということで話は進んでいきます。ピットAを先に入れるかピットBを先に入れるか、ということで議論が二転三転するのですが、結局は先にピットBにいれることとなり、午後4時過ぎにピットBに3m3、ピットAに2m3入れました。このあたりの話は次回に書きたいと思います。
このような細かい経緯は政府事故調の報告書にも記載されていない、TV会議の書き起こしをみて初めてわかってきた話なのです。
こんな感じで何回かにわたって、福島の海を汚染した2011年4月の高濃度汚染水漏洩事故の状況を再現していきたいと思います。結局いくつかの謎は残ってしまうのですが、次回以降もぜひお読みいただければと思います。
目次 へ
「2011年4月のビーバー作戦を再現します その2(2011年4月2日後半)」へ
1.2011年4月2日 外部への公表の第一報まで
2011年4月2日、午後2時45分の記者会見(リンクはニコ生:ログインが必要)で重大な海洋への漏洩事故が発表されました。東京電力のHPにもそれは今も残っています。
それを読むと、4月2日の9時30分頃に初めてスクリーンへの漏洩が確認されたことになっています。
「本日午前9時30分頃、2号機の取水口付近にある電源ケーブルを納めているピット内に1000ミリシーベルト/時を超える水が貯まっていること、およびピット側面のコンクリート部分に長さ約20センチメートルの亀裂があり、当該部分よりピット内の水が海に流出していることを発見いたしました。その後、午後0時20分頃、再度、同状況を現場にて確認いたしました。」
(東京電力のプレスリリース文より)
「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(1)」にスクリーンとは何?といった話から細かく書いていますので、ここでは詳細にそれをくり返すことはしません。わからない方はぜひ「再検証(1)」読んでいただければと思います。
ただ、位置関係については再度確認しておく必要があると思います。漏えいが起こったのは、2号機のスクリーン(原子炉の二次冷却水として使われる海水の取水口にあってゴミやクラゲなどを除くための設備)近くにあるピット(コンクリートの縦坑)です。下の図に「4/2漏水確認場所」と書いてあるところです。

(東電福島原発事故調査・検証委員会 中間報告書資料V-8より)
ピットとスクリーンの間には下の断面図のように約1.5mの厚さでコンクリートの護岸があるのですが、ピットにたまった高濃度汚染水が、そのコンクリートにできた亀裂を通じて、海に流れ出ていたのを作業員が発見したのです。この下の写真、見覚えある人も多いと思います。

(政府事故調中間報告書資料V-10 より)

(東京電力HP 写真・動画集より)
(1) TV会議ではじめてわかった情報
では、TV会議ではいつどのような議論がなされていたのか、見ていきましょう。なお、肩書きは当時のものです。
2011年4月2日の午前11時頃、吉田所長が「本店さん。緊急で報告事項があります、」と切り出しました。この冒頭部分は東京電力のHPにも公開されています(映像一覧の107-1(注:リンクを押すと62MBのファイルをダウンロードします))。時間のある方はぜひ実際の動画(約10分)を見ていただくと、より臨場感を持って読むことが出来ると思います。
一般に公開されている動画はわずか10分ほどですが、東電本店と1F(福島第一原発の事を1Fと呼びます)とのコミュニケーションの取り方がどういう形でおこなわれているのか、また東電本店にも技術的なことがわかる人間が多くいることがわかります。
そして、一体どこからどのようなルートで漏洩したと考えられるのか、対策としてはどのような事が考えられるのか、午前11時の時点で大枠がすでに議論されていました。この時点ではどのようなルートで漏えいしたのかは不明でした。吉田所長は、この漏洩を止めるのにはピットを板とかコンクリートで止めてしまうことと、止めるとあふれる可能性があるので、その水をどこかのタンクか建屋の地下に送りこむくらいしかないだろうけど、おそらくこの高濃度汚染水はタービン建屋から出てきているから、そうやってピット部分を止めてしまったら、今度は大元がいずれ溢れる可能性があり、そちらの方が大変だ、という考えを表明しています。
3月の原子炉建屋の水素爆発などの失敗はあったものの、やっと原子炉が落ち着きを見せ始めて来た4月初めの時点では、吉田所長の頭の中には、水の処理をどうしたらいいのか、ということが一番の大きな問題という認識があったことが伺えます。そうでないと、このような本質をついた発言は出てきません。実際、当時の報道(リンク先は朝日)ですでに汚染水の玉突きという表現が使われています。
しかしおそらくこの時点では、このあと止水するのに4日間もかかるとは誰も考えていなかっただろうと思います。
この下に示したのは、公開されている動画から抜き出した画面ショットです。わかりにくいですが、最初はこのような手書きの書画で情報共有をしていました。上の図は断面図(ピット付近で南北方向に切ったもの)、下の図は断面図(東西方向)です。

断面図に関しては、それを書き直した資料が東電HPに掲載されていますのでそれを示します。なお、この資料はこのあとの12時20分の観察結果も含めての情報となっています。

(東京電力HP(2011年4月2日)より)
もう一つの断面図(東西方向)に関しては、このあと説明することも考えて、少しわかりやすい立体的な図を政府事故調の中間報告書資料V-9から引用して、それに加筆したものを下に示します。

当初からここにある二つのピットに名前がついていたのではないのですが、後にピットにコンクリートを入れて埋めてしまう時に初めてピットA、ピットBという名前がつきました。海側にあってスクリーンに漏れ出しているピットがピットA、山側(西側)のピットがピットBです。今後はその名称で呼んでいきます。
4/2の11時の時点(及びそのあと1時間ほどのTV会議)で確認された事実を記載しておきます。
・前日(4/1)の昼間の見回りで、ピットAが500mSv/h、ピットBが400mSv/hの空間線量を観測していました。(このような事実は当時は公表されていません)
・一方、4/1夜の保安の見回りでは、そのような線量は観測されませんでした。しかし、それはよく確認すると、ピットの線量を測定したのではなく、バースクリーン付近を測定していたことがわかりました。また、バースクリーン付近を測定して特に線量に関する報告がありませんでしたので、4/1には海水はあまり高線量ではなかったということがわかります。(ちなみに、4/2の13時頃に判明した情報ですが、4/2の11時の測定では、バースクリーン上の通路で、床より1mで12mSv/h、10cmで20mSv/hという報告があります。(このような事実は当時は公表されていません)
・公開されている動画(107-1)に「干潮だから」という吉田所長の言葉が出てきます。そして、なぜ前日夜の保安の見回りでは線量が低かったのかについて、
1F担当者:「今のお話だと干潮と満潮の関係で、干潮の時は流れができて、汚い水が流れていくんだけど、満潮になると海側の方の水が中に入ってきて線量が低い状態になっていると、そういう息継ぎ状態が起きているように思います。」
という会話がなされています(このような事実は当時は公表されていません)。つまり、満潮時には海水が流出口にまで達しているのではないか?ということなのです。そのため、干潮、満潮の時刻と潮位が報告されています。これについてはあと(次回以降)で述べたいと思います。
・本店の保安担当からは、ピットAの中の水と、海の水をサンプリングして欲しいという要望が出されました。これは実際にサンプリングされて、測定した結果が数日後に公開されています。
ここで、TV会議の書きおこしから一部を引用して、実際の会話のやり取りを示します。
これは、動画(107-1)の公開部分が終了してから数分後の武黒フェローと吉田所長の会話です。この会話の直前に、なぜ4/1には線量が下がったのか?満潮で潮位が上がると線量が下がるのではないか、という議論がされています。
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2011年4月2日 11時18分頃~
(武黒フェロー)これ、いずれにせよ、潮位によって出たりでなかったりするという微妙なバランスのものではあるが、これをとにかく何らかの形で手近で使える仮設のものに入れるというのはピットに入れるっていうのしか今方法ないと思うんですが、4号のタービンにいれちゃうと全体が非常に将来回せなくなる恐れがあるので、4号のタービンには集中RWの排水を急ぎたいと思います。そして2号の全体の水位を下げるということをやっていかないと最終的な解にならない、つまり途中で止められればいいけどその解が今あるかないかわからないので、まずは2号から集中RWに送る工程を最大限早めるということで、一方、その今出ているやつを最小化するための努力をするとこの線で臨むというふうにしたいと思いますが。
(吉田所長)わかりました。そうするととりあえず今、準備できているんでT/Bの下の海水を、ごめん、集中RWの下の海水をタービンに送る地下に送る操作を始めましょうか?
(武黒フェロー)可能ならそうしましょう。そのルートが間違えていないかという確認さえしてもらっていれば後は時間の問題でこれをどうやって早めるかっていうのはさらに検討して対応するという事にしてなるべく早く、空でなくてもある程度のところまでいけるようにしちゃうということをやると。
それから、この今ある水はタービンの元々入っているトレンチの方にその近くに開口があっていけるならばそこに送り返しちゃうということを含めて考えると。
(吉田所長)わかりました。
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いかがでしょうか。こんな感じで、武黒フェローが議論をまとめつつ、4号機のタービン建屋にこの高濃度汚染水を入れてしまうと、直近はいいかもしれないが将来的に困る可能性が高いので、集中RW(集中廃棄物処理建屋)に移送する方がいいのではないか、という提案をしています。また、止水をしてあふれそうになった汚染水は2号機のトレンチに送り返すことも検討するべきではないか、という提案もしています。
このように、武黒フェローは、社内の議論ではリーダーとして議論を引っ張って行っている様子がはっきりとうかがえるのです。このような情報は一般に公開されていないTV会議の映像にしかありません。私はLCMプレスからもらった書きおこしを読んで武黒フェローの印象が非常に変わったため、この思いはぜひ共有すべきと思い、書き起こしの一部をここに公開させていただきました。
第一報の報告があった11時頃から12時頃までの1時間の間に、書画を用いていったいこのピットにどこから汚染水が流れ出したのか、という議論が何回もなされています。当初は情報があまりなかったのですが、少しずつ情報が整理されていきます。
まず、下の図でいう海水配管トレンチと電源ケーブルトレンチの違いを共通の認識として持ちます。そして、その数日前に汚染水がたまっていることが発見された、トレンチの立て坑というのがどこにあるのか、ということを確認します。下の図でいう立て坑Bというのが3/28に汚染水が発見された(リンクは朝日)2号機の立て坑になることが確認されました。つまり、そこまではタービン建屋から汚染水がつながってきていることはわかっているわけです。

中間報告書資料V-9 より
しかし、今回のピットAは、海水配管トレンチから直接つながるものではなく、タービン建屋から出ている電源ケーブルトレンチにつながっていることがわかりました。ところが電源ケーブルトレンチは、タービン建屋の接続部が図面上はO.P.5m台と、O.P.4mを超えています。従って、タービン建屋の水位がこの時点でO.P.2960(詳細は昨年書いた「昨年3/27のトレンチなどの水位検証により判明した衝撃の事実!」参照)であったことから考えて、この上の図で黄色く塗られている電源ケーブルトレンチを通って汚染水が流出したということは考えにくい、というのがこの時点での推論でした。
このときにはまだ、後にコンクリートをはつることになる海水配管トレンチと電源ケーブル管路の接続部については情報がわかっていませんでした。
そして、12時27分頃には、本店広報部がプレス文案を読み上げます。情報を整理して第一報を広報し、記者会見を開く準備をしています。しかしこの文案をめぐってこのあとご紹介しますが、1Fの吉田所長がそんな情報はどこから入手した、と抗議をして情報の再確認と修正作業が行われたのでした。
・11時の第一報を受けて、土木担当者と保安担当者、さらには保安院の担当者(保安検査官)も12時20分頃に一緒に現場に行って確認しています。その人たちが12時35分頃に免震重要棟に帰ってきました。この時には水位は20cm程度ということになっています。
また、そのときの保安検査官は、(4/3のTV会議に出てくる話ですが)ピットAの中で水が流れているのをみた、渦を巻いていたと証言していますし、そのほかの2名も水が流れているのを見たと言っています。ですから、この時点でピットAからスクリーンへ水が流出していたというのは恐らく間違いないと吉田所長は判断しています。(このような事実は当時は公表されていません)
・恐らくこの保安検査官というのが、保安院が公開しているピットAの北壁面(スクリーン操作室電線管路を含む)を写してくれた人だと思います。
当初のプレス文案では、スクリーンにできた亀裂が立て20cm、幅3cmとなっていて、これに吉田所長がかみつきます。「幅3cmという情報はいったいどこから聞いたんだ!」と激しく抗議します。そして、最初に9時30分に見に行った人を呼んでその時の状況を話させます。この部分は公開されている12時38分頃からの107-2に公開(注:リンクを押すと62MBのファイルをダウンロードします)されています。※この107-2では、これからまさに書画を用いて説明するという非常に重要なところに菅首相がJ-Villageに来て割り込んで演説をします。
・当日(4/2)の9時30分に見に行った人の証言によると、ピットAに水が上から150cm程度の水位で存在したということでした。ラダー(階段)があって、上から3段目の少し上まで水がたまっていたそうです。ピットAの高さは約2mなので、上から約150cmというのが正しければピットAの水位は約50cmという計算になります。(このようなやりとりは当然ですが当時は公表されていません)
結局、幅3cmというのは間違いということになり、プレス文からは幅の表現は削除されました。このような議論においても、武黒フェローがうまく話をまとめています。
・9時30分の時点では水位が50cmで、12時20分には20cmということで、30cm程度下がったという情報を元にしばらくは話が進んでいきます。つまり、タービン建屋=トレンチの水位O.P.2960よりも50cm程度低いということになるので、完全にトレンチとつながっているわけではないだろうという認識です。
そして、この男の人がピットAを指さしている有名な写真が登場します。

(東京電力HP 写真・動画集 より)
さらに、ピット付近の図を用いて状況の説明が行われています。こんな図だったというメモをいただいたので、私の方で書き直しました。

ピットAの東側(海側)に幅50cm程度陥没があって、地表から20cm程度陥没していること。護岸のコンクリートにヒビが入っている状況であること。ピット自体も損傷していて、ヒビが何ヶ所も入っているような状態であること。このようなことがTV会議で説明されました。また、ピットAとピットBの水たまりも水深20cm程度であるという報告がされています。
このような状況の中で、プレス文が確定されて、冒頭にご紹介した文章がプレスリリースされました。正確な時間はわかりませんが、13:36頃に最後の打ち合わせをしていますので、それ以降であることは確かだと思います。それを受けて、14:45からの記者会見が行われたという次第です。
もう一つだけ、4月2日の昼間に行われていた議論で表には出てこなかった重要な情報をご紹介しておきます。電源ケーブル管路というものがどういうものか、という議論になり、電源ケーブル管路がタービン建屋からどう通ってどこにつながっていくものか、説明がされているのです。私が書きおこしを読んで理解した説明を、2013年現在で発表されている図を用いて説明します。

上の図にあるように、(1)タービン建屋から電源ケーブル管路を通って来た電源ケーブルは、(2)途中で北方向(図では右が北)に分岐します。この分岐は、今年の8月2日の汚染水WGでの資料2(19ページ)ではB2と呼ばれていた場所で、確かに電源ケーブル管路が分岐していることが今ではわかっています。

(第1回汚染水対策検討WG 資料2 20ページより)
北に向かった電源ケーブルは、取水電源室(これは1号機スクリーン近くにある建屋です)に行って、(3)そこからまた戻って来ます。そして(4)今度は海(東)へと向かって行き、スクリーンに電源を供給するという形になっているのです。
私は、(上の図には載っていますが)ピットAから北に伸びるスクリーン操作室電線管路というものがあったので、スクリーン操作室から電源を供給する仕組みと思っていたのですが、スクリーン操作室へつながる管路というのはスクリーンに電源を供給するのに必須ではなく、1号機寄りにある取水電源室から電源をとっていたということがこの説明で理解できました。ただ、このエリアでは長い間にいろいろな建造物が作られて運用も変更されたようですので、このような管路は他にもまだ存在する可能性はあると思います。これに関しては、東電自身も把握していない可能性が高いですし、仮にわかっても表に出てこないでしょう。
(2) TV会議において否定された情報
実は、TV会議の情報を追っていくと、時間経過とともに否定される情報もかなりあります。また、その途中経過のみが公表されている事例もあります。一番顕著な例がピットAの水位です。

上の図は4/2に公表された断面図のイメージですが、下から20cmという記者会見での発表があり、それはその後も修正されていません。私は、その報告に従ってピットAとピットBをつなぐ管路の有無も写真から判断してきましたが、非公開のTV会議において、20cmという水位は4月2日の夕方には否定されて、約1mの水位であるという結論になっています。
TV会議で示されたという書画を書き写した図もいただいたのですが、私が自分で理解した範囲で書き直しました。このような図を用いて4/2の夕方に議論がされたようです。ピットAを海側から見た立体図のイメージになっています。奥側(山側=西側)にピットBからつながる5列3段のケーブル管路があるという事になっています。汚染水の水位はほぼその管路が全て隠れるくらいまで、つまり1m位まであるという状態だということなのです。そして、ピットは瓦礫でかなり埋まっているようです。

確かにこれを見てから下の公開されている写真を見ると、見えている水位よりもさらに1mくらい下までピットの構造があってもおかしくないとわかりました。ピットのサイズは1.2m×1.9m(上のメモには1.8mとありますがその後の発表では1.9mです)で深さ2mなので、長い方(南北)の長さ(1.9m)とピットの深さ(2m)はほぼ同じ長さでないといけません。下の写真で水位が20cmならば、水面までの深さが1.8mあるということなのですが、長さの比が合わないように思えます。

(東京電力HP 写真・動画集より)
以前からもっとこのあたりについても確認すればよかったのですが、あくまで公表されている水位の情報(20cm)は正しいという前提で写真を見ていましたので、思い込みが強かったようで気づきませんでした。反省しないといけません。
となると、この水面の下にケーブル管路が隠れていても不思議ではありません。私は「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(3) 電源ケーブルはどこから?」において水位20cmという情報に基づいてピットAとピットBをつなぐケーブル管路はないと考えてきましたが、今回のTV会議の情報をあわせて考えると、やはりケーブル管路はあると判断せざるを得ません。この点は大きく仮説を修正したいと思います。
実はこの水位の情報は重要で、これが変わるとトレンチの水位とピットAの水位の関係も変わってきます。ピットAの底部の高さは下の図にあるようにO.P.2200なので、ピットAに貯まっていた水の深さが20cmだとするとO.P.2400ということになります。とすると、トレンチの水位(O.P.2960)よりもかなり低いため、直接つながっていないか、途中でリークがあるという推論を私はしてきました。
ところが、公表されている水位は20cmでしたが内部の議論での結論は約1m前後であるということになっています。ピットAの水位が約1m前後(O.P.3000を超えるくらい)とすると、その前提がひっくり返ってしまいました。となると、トレンチからピットAまでは水がつながっていると考えるのが妥当です。
またこの写真から、ケーブル管路が全く見えないのはおかしいとしてピットAとピットBをつなぐ管路はないという推論を私はしてきました。ですが、水位がO.P.3000程度まであるならば、ケーブル管路は見えなくてもおかしくはありません。

(政府事故調中間報告書資料V-10 より)
実際、2013年9月30日に東京電力が汚染水対策WGで示した資料(21ページ)では、ピットAとピットBをつなぐ管路を掘り起こした写真というものが存在しています。ピットAの水位が20cmという情報は間違いで約1mであり、ピットBからの管路が存在するのは間違いないという前提で今後の検証を進めていくことにします。

(第7回汚染水対策WG資料2 21ページより)
さて、4/2のTV会議に戻ります。
このあとどうなっていくか、ということですが、ピットにコンクリートを打設するということで話は進んでいきます。ピットAを先に入れるかピットBを先に入れるか、ということで議論が二転三転するのですが、結局は先にピットBにいれることとなり、午後4時過ぎにピットBに3m3、ピットAに2m3入れました。このあたりの話は次回に書きたいと思います。
このような細かい経緯は政府事故調の報告書にも記載されていない、TV会議の書き起こしをみて初めてわかってきた話なのです。
こんな感じで何回かにわたって、福島の海を汚染した2011年4月の高濃度汚染水漏洩事故の状況を再現していきたいと思います。結局いくつかの謎は残ってしまうのですが、次回以降もぜひお読みいただければと思います。
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