2011年4月のビーバー作戦を再現します その3(2011年4月3日)
今回は「2011年4月のビーバー作戦を再現します その1(2011年4月2日前半)」と「2011年4月のビーバー作戦を再現します その2(2011年4月2日後半)」に続いて、2011年4月3日の出来事を東電TV会議の情報を加えて再現していきたいと思います。
今回、やっとタイトルの「ビーバー作戦」の意味がおわかりいただけると思います。
3. 上流の天板を開けて高分子ポリマーなどを注入する作戦
(2) 動物の名前を使った作戦
011年4月3日、午前9時過ぎから作戦会議が開かれます。この部分は一般にも公開(本110-1:リンク先は39MBのZIPファイルをダウンロードします)されています。以前もご紹介しましたが、公開されている動画の一部は東電HPの「テレビ会議録画映像の開示(第2回)(平成23年3月16日~4月11日:155箇所)」にあります。
ここで吉田所長が書画を見せながら作戦名を「ビーバー作戦」と命名します。

(東電HPに公開部分の動画 本110-1 より)
公開部分の動画より
---------------------------
吉田所長「名前をいろいろ考えたんですが、ビーバー作戦、ビーバーが巣を作るということでビーバーにしたいと思います。動物の名前にしているのは全部成功しているので、これから全部動物の名前で行きたいと思います。」
(一部に笑いが起こる)
本店「了解。」
---------------------------
動物の名前を使うとうまくいくので縁起を担ぐと同時に、巣を作って川をせき止めるビーバーになぞらえてユーモアをこめてビーバー作戦とした吉田所長の発案だったのですね。この作戦名はこの日の会議で決まったのでした。
実は、この部分は旧保安院の議事概要の平成23年4月分(11ページ)にも出てきていました。なので、ずっと前からこの情報は公開されていたのですが、私はこの動画を見るまでビーバー作戦という名前は知りませんでした。ご存じない方も多かったのではないでしょうか?毎日新聞にはこのあたりの情報が出ていたようです。
ついでですが、成功している動物の名前を使ったプロジェクトの一つである、キリンと大キリンという放水車も当時は使われていました。それについて、この日の12時頃に大キリンの名称をゾウに変更するという話が入った動画も公開されています(本110-2)。(先ほどの本110-1と同じファイルの中に入っています。)
---------------------------
吉田所長「つまらない話ですが、キリンと大キリンを混同して間違っているので、大キリンはわかりづらいので、今日からゾウにします。」
本店「ちょっと待って下さい。1Fの中でそうなったのはわかりました。本店復旧班。混乱はありませんか。」
吉田所長「大キリンだと大よりもキリンの方が強いので混乱するみたいですね。」
本店「吉田さん、ちょっと待ってください。現場の意見はわかったが、確認したい。」
吉田「じゃ、提案にします。」
本店「半歩下がって提案にしてくれてありがとう。本店さん、現場の意見をできるだけ尊重する形で検討して欲しい。」
---------------------------
この場では結論が出なかったのですが、その日の午後に「大キリン」を「ゾウ」に呼び名変更することは了承されました。
(3) メインは高分子ポリマーからおがくずへ
さて、この朝9時頃の打ち合わせでは、高分子ポリマーか早強(そっきょう)セメントを使うということになっていました。しかし、高分子ポリマーは、海水や塩分を含んでいると膨張が悪いという話があり、早強セメントも数分で固まりますが、効果が出やすいのは壁面に直接塗りつけた場合であり、流れがあるとそのままセメントが流れていってしまうという検討結果が出てきました。
そこで、コンデンサーのチューブリークにもよく使われているというおがくずを水に浸して重くしておいてからこれを一番最初に投入するということを選択肢の第一とする事になりました。
念のため、コンクリートをはつった場所を政府事故調の中間報告書資料V-12で確認しておきましょう。ピットBのさらに山側にある、緑色の海水配管トレンチの枝配管と黄色の電源ケーブルトレンチの合流するところです。

(政府事故調中間報告書資料V-12 より)
この日のTV会議も一部が公開されています(本110-1:リンク先は39MBのZIPファイルをダウンロードします)。それに出てくる書画のスクリーンショットを示しますが、これを見れば電線管を詰まらせようという作戦がわかると思います。一番右のピットがピットAです。

作戦会議は終わり、午前中に邪魔になっている分電盤などを除去したあとで、目標としているダクトの天板を12時7分に壊し始めます。12時22分にはその作業は完了します。ダクトを壊したところ、開口部の空間線量は200mSv/hにはね上がりました。やはり高濃度の汚染水がたまっていたためです。
コンクリートをはつって開けた時の状況を示す写真です(実際にはこの日の夕方撮影)。

(東電HP 写真・動画集 (平成25年2月1日公開(70)) より)
ここに13時47分におがくずを投入し始めます。おがくずを10体(1体が約3kg)、新聞を大きなビニール袋で3袋投入します。また、高分子ポリマーも粒子状のものを80袋入れています。14時30分にはおがくずをさらに10体追加で投入しました。ただ、当初の話とは違い、おがくずは乾いたままで投入されたようです。
その時にはもう免震重要棟のモニターから、リアルタイムでスクリーンから流出している所の映像を見ることができるようになっていました。吉田所長は連絡を受けてすぐに映像を見に行きましたが、特に漏えい量については変化がなさそうということでした。
当初は水位が1mという報告がありましたが、すぐに50cmという修正が入りました。そして、公開されている写真にもあるのですが、5列3段ある電線管のうち2段目までが汚染水で覆われているということが報告されます。おそらくこの下の写真を見せて話をしていたと思われます。
この写真では、光の加減で見にくいですが、一番上の段は水に浸かっていないこと、管路の中を電線管が通っていること、汚染水の下の方にははつって壊したコンクリートの破片が落ちていることなどが見えると思います。

(東電HP 写真・動画集 (平成25年2月1日公開(70)) より)
また、この管路の断面図(下図)を見ると、一番下がO.P.2450ということですので、水位が50cmとすると、O.P.2950となって、この日のトレンチ立て坑の水位O.P.2960とほぼ合います。つまり、トレンチの立て坑からここまでは完全に水がつながっていることが改めて確認できたわけです。

(政府事故調中間報告書資料V-12 より)
しかし、この電線管路は水が流れているような感じがなく、おがくずを大量に入れた結果、おがくずが水面を完全に覆った状態になってしまいました。下の写真は、先ほど示した政府事故調の中間報告書資料V-12では4/3の13:47頃となっていますが、全く同じ写真です。東電HPに2000枚ほど公開された写真にはファイルにタイムスタンプがついていますので、それから判断すると4/3ではなく4/4の10:56頃となります。この写真の正確な時刻には疑問が残ります。

(東電HP 写真・動画集 (平成25年2月1日公開(72)) より)
このような状況を受けて、TV会議においては、この日開けた場所からスクリーンの流出口まで本当につながっているのだろうか?という疑問が提起されます。そして、そのような状況であるならば、コンクリートでふさがなくてもいいのではないか、という議論が出てきます。そこで15時頃から打設すべく準備を始めていたコンクリートを捨てようという話になります。
さらに15時過ぎには、過去に復水器のチューブリークが起こった時の対応をしたことがある担当者の話から、今回のようにただおがくずを投入しても軽いので浮いてしまうが、おがくずをコンクリートミキサー車で水とよく混ぜて水を吸わせてから投入したらおがくずが下に行ってくれるのではないか、という提案が出されました。この提案により、今打設すべく準備していたコンクリートは廃棄し、おがくずを水に混ぜてから投入するという事になりました。
しかし、コンクリート屋さんに、コンクリート打設を3時間待って欲しいということを伝えると、3時間も待つのならいやだから今日はやめさせてくれ、という話になり、明日に延ばしても大きな影響はないことから、この日のコンクリート打設はなくなりました。(あとになって考えてみると、毎日100トン近い高濃度汚染水が海に流出していたのですから、一日でも1時間でも早く対応してもらいたかったところですが、この当時はそこまでのことは考える余裕はなかったのでしょう。)
一方、おがくず投入ですが、すでに乾燥したおがくずが大量に投入されているので、さらにおがくずを加えるよりも今あるおがくずに水を足してよく混ぜた方がいいという提案が出されました。そこで、ミキサー車から2.5トンの水を注入し、バイブレーターを使って混ぜるという作業を行いました。それが下の写真です。

「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(1)」では高分子ポリマーを注入していると書きましたが、これは単に水を入れて、バイブレーターでおがくずと混ぜるという作業をしていたのですね。これもTV会議の記録と照らし合わせて詳細に事実関係をチェックして初めてわかったことです。

しかしながら、これらの作業を行っても流出口の水の勢いは変わることがありませんでした。
さて、本当に4月3日に作業したところから電線管を通じてピット内を経由してスクリーンから水が出ているのかどうかを確認した方がいいのではないか、という議論が出てきたことは書きました。そこで、その確認をするため、色水を流してチェックしようということになりました。16時頃のTV会議の議論では、今日穴を開けたところにバスクリンを入れて、本当にスクリーンの割れ目のところから出てくるかどうかの確認を夜に行おうという話が出ています(後の議論で、夜だと色が観察しにくいから翌朝に実施するということになりました)。
さらに17時過ぎの議論では、スクリーンにつながるバイパスがどこかにあるのでは?という観点から、管路のどこから漏れる可能性があるかを検討したところ、海水配管トレンチは全て岩着あるいは杭基礎であることがわかりました。つまり構造的にはしっかりしているということです。一方で、電源ケーブルトレンチのところはベタ基礎で、構造的に弱いことが判明しました。そのことから、「2007年の柏崎で起きたことと同じような事が起こっていると考えると、電線管については、海に向かって縦方向に、直角方向に結構クラックができている可能性がある」というTV会議での発言があります。
2007年の新潟県中越沖地震の際、柏崎原発でどのような被害があったのか私は詳細には調査していないのですが、おそらく電線管にヒビが入ったような事例があったのでしょう。
そうなると複数箇所で漏れている可能性があり、どこから水がもれているのかわからないため、漏れた箇所を突き止めてそれを全てふさぐのは難しく、出口のところを止めるしかないという考え方になっていきます。そして、水ガラスを用いると、毎分50-60Lの流れがあっても5、6秒で止めることもできるという話が紹介されました。
ピットAはコンクリートを入れてふさいでしまったので、その周り(下部)のどこに水ガラスを入れるのがいいのか、詳細に寸法も含めて考えて議論を始めます。その結果、スクリーン流出口のクラック、あれは縦20cmということになっていますが、4/3の時点ではせいぜい10cmの高さしかなく、むしろ横に広がっている印象があるという議論がありました。
以下は公開部分にある会話です。(本111-1:リンク先は11MBのZIPファイルをダウンロードします)
(本店建設復旧班)「確かに勢いは減っているが、面積が広がっている気がしています。もしかすると、施工中にリフトアップを防ぐための水抜きが昔あって、そこのところがポンと抜けて面積が広がっているのではないか」
という発言があります。厚さ1.5mもあるコンクリートを通って水が漏れたわりには、スクリーンの壁面には上から下までヒビが入っているわけではなく、ある一箇所からだけ漏れているということから考えても、もともと何かの理由で開けてあった穴が地震で陸側(北側)のピットとつながったということなのではないかと私は思います。
この部分、流れている映像は残念ながら確認できないのですが、3分ほどですが重要なやり取りと思いますので、ぜひ動画でご確認下さい。
こうして、翌日のバスクリンを使ったトレーサーの準備を完了し、水ガラスの材料とマシンと人手の手配をして、この日も成果がないままに終わったのでした。
次は翌4月4日の話になります。この日は2号機の汚染水では大きな動きはありませんでしたが、トレーサー実験の結果についてと、汚染水対策全体としては知っておくべき重要な話(低レベル汚染水の放出)がありますので、その二つをまとめたいと思います。
参考:この日の記者会見
保安院 10:20~ 西山さんの記者会見 togetter
東京電力 11:22~ 主に行方不明者の発見について(togetter)
保安院 17:19~ 西山さんの記者会見 togetter
東京電力 23:38~ togetter
目次 へ
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「2011年4月のビーバー作戦を再現します その2(2011年4月2日後半)」へ
(2) 動物の名前を使った作戦
011年4月3日、午前9時過ぎから作戦会議が開かれます。この部分は一般にも公開(本110-1:リンク先は39MBのZIPファイルをダウンロードします)されています。以前もご紹介しましたが、公開されている動画の一部は東電HPの「テレビ会議録画映像の開示(第2回)(平成23年3月16日~4月11日:155箇所)」にあります。
ここで吉田所長が書画を見せながら作戦名を「ビーバー作戦」と命名します。

(東電HPに公開部分の動画 本110-1 より)
公開部分の動画より
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吉田所長「名前をいろいろ考えたんですが、ビーバー作戦、ビーバーが巣を作るということでビーバーにしたいと思います。動物の名前にしているのは全部成功しているので、これから全部動物の名前で行きたいと思います。」
(一部に笑いが起こる)
本店「了解。」
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動物の名前を使うとうまくいくので縁起を担ぐと同時に、巣を作って川をせき止めるビーバーになぞらえてユーモアをこめてビーバー作戦とした吉田所長の発案だったのですね。この作戦名はこの日の会議で決まったのでした。
実は、この部分は旧保安院の議事概要の平成23年4月分(11ページ)にも出てきていました。なので、ずっと前からこの情報は公開されていたのですが、私はこの動画を見るまでビーバー作戦という名前は知りませんでした。ご存じない方も多かったのではないでしょうか?毎日新聞にはこのあたりの情報が出ていたようです。
ついでですが、成功している動物の名前を使ったプロジェクトの一つである、キリンと大キリンという放水車も当時は使われていました。それについて、この日の12時頃に大キリンの名称をゾウに変更するという話が入った動画も公開されています(本110-2)。(先ほどの本110-1と同じファイルの中に入っています。)
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吉田所長「つまらない話ですが、キリンと大キリンを混同して間違っているので、大キリンはわかりづらいので、今日からゾウにします。」
本店「ちょっと待って下さい。1Fの中でそうなったのはわかりました。本店復旧班。混乱はありませんか。」
吉田所長「大キリンだと大よりもキリンの方が強いので混乱するみたいですね。」
本店「吉田さん、ちょっと待ってください。現場の意見はわかったが、確認したい。」
吉田「じゃ、提案にします。」
本店「半歩下がって提案にしてくれてありがとう。本店さん、現場の意見をできるだけ尊重する形で検討して欲しい。」
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この場では結論が出なかったのですが、その日の午後に「大キリン」を「ゾウ」に呼び名変更することは了承されました。
(3) メインは高分子ポリマーからおがくずへ
さて、この朝9時頃の打ち合わせでは、高分子ポリマーか早強(そっきょう)セメントを使うということになっていました。しかし、高分子ポリマーは、海水や塩分を含んでいると膨張が悪いという話があり、早強セメントも数分で固まりますが、効果が出やすいのは壁面に直接塗りつけた場合であり、流れがあるとそのままセメントが流れていってしまうという検討結果が出てきました。
そこで、コンデンサーのチューブリークにもよく使われているというおがくずを水に浸して重くしておいてからこれを一番最初に投入するということを選択肢の第一とする事になりました。
念のため、コンクリートをはつった場所を政府事故調の中間報告書資料V-12で確認しておきましょう。ピットBのさらに山側にある、緑色の海水配管トレンチの枝配管と黄色の電源ケーブルトレンチの合流するところです。

(政府事故調中間報告書資料V-12 より)
この日のTV会議も一部が公開されています(本110-1:リンク先は39MBのZIPファイルをダウンロードします)。それに出てくる書画のスクリーンショットを示しますが、これを見れば電線管を詰まらせようという作戦がわかると思います。一番右のピットがピットAです。

作戦会議は終わり、午前中に邪魔になっている分電盤などを除去したあとで、目標としているダクトの天板を12時7分に壊し始めます。12時22分にはその作業は完了します。ダクトを壊したところ、開口部の空間線量は200mSv/hにはね上がりました。やはり高濃度の汚染水がたまっていたためです。
コンクリートをはつって開けた時の状況を示す写真です(実際にはこの日の夕方撮影)。

(東電HP 写真・動画集 (平成25年2月1日公開(70)) より)
ここに13時47分におがくずを投入し始めます。おがくずを10体(1体が約3kg)、新聞を大きなビニール袋で3袋投入します。また、高分子ポリマーも粒子状のものを80袋入れています。14時30分にはおがくずをさらに10体追加で投入しました。ただ、当初の話とは違い、おがくずは乾いたままで投入されたようです。
その時にはもう免震重要棟のモニターから、リアルタイムでスクリーンから流出している所の映像を見ることができるようになっていました。吉田所長は連絡を受けてすぐに映像を見に行きましたが、特に漏えい量については変化がなさそうということでした。
当初は水位が1mという報告がありましたが、すぐに50cmという修正が入りました。そして、公開されている写真にもあるのですが、5列3段ある電線管のうち2段目までが汚染水で覆われているということが報告されます。おそらくこの下の写真を見せて話をしていたと思われます。
この写真では、光の加減で見にくいですが、一番上の段は水に浸かっていないこと、管路の中を電線管が通っていること、汚染水の下の方にははつって壊したコンクリートの破片が落ちていることなどが見えると思います。

(東電HP 写真・動画集 (平成25年2月1日公開(70)) より)
また、この管路の断面図(下図)を見ると、一番下がO.P.2450ということですので、水位が50cmとすると、O.P.2950となって、この日のトレンチ立て坑の水位O.P.2960とほぼ合います。つまり、トレンチの立て坑からここまでは完全に水がつながっていることが改めて確認できたわけです。

(政府事故調中間報告書資料V-12 より)
しかし、この電線管路は水が流れているような感じがなく、おがくずを大量に入れた結果、おがくずが水面を完全に覆った状態になってしまいました。下の写真は、先ほど示した政府事故調の中間報告書資料V-12では4/3の13:47頃となっていますが、全く同じ写真です。東電HPに2000枚ほど公開された写真にはファイルにタイムスタンプがついていますので、それから判断すると4/3ではなく4/4の10:56頃となります。この写真の正確な時刻には疑問が残ります。

(東電HP 写真・動画集 (平成25年2月1日公開(72)) より)
このような状況を受けて、TV会議においては、この日開けた場所からスクリーンの流出口まで本当につながっているのだろうか?という疑問が提起されます。そして、そのような状況であるならば、コンクリートでふさがなくてもいいのではないか、という議論が出てきます。そこで15時頃から打設すべく準備を始めていたコンクリートを捨てようという話になります。
さらに15時過ぎには、過去に復水器のチューブリークが起こった時の対応をしたことがある担当者の話から、今回のようにただおがくずを投入しても軽いので浮いてしまうが、おがくずをコンクリートミキサー車で水とよく混ぜて水を吸わせてから投入したらおがくずが下に行ってくれるのではないか、という提案が出されました。この提案により、今打設すべく準備していたコンクリートは廃棄し、おがくずを水に混ぜてから投入するという事になりました。
しかし、コンクリート屋さんに、コンクリート打設を3時間待って欲しいということを伝えると、3時間も待つのならいやだから今日はやめさせてくれ、という話になり、明日に延ばしても大きな影響はないことから、この日のコンクリート打設はなくなりました。(あとになって考えてみると、毎日100トン近い高濃度汚染水が海に流出していたのですから、一日でも1時間でも早く対応してもらいたかったところですが、この当時はそこまでのことは考える余裕はなかったのでしょう。)
一方、おがくず投入ですが、すでに乾燥したおがくずが大量に投入されているので、さらにおがくずを加えるよりも今あるおがくずに水を足してよく混ぜた方がいいという提案が出されました。そこで、ミキサー車から2.5トンの水を注入し、バイブレーターを使って混ぜるという作業を行いました。それが下の写真です。

「2号機からの海洋漏洩の真実は?2年前の漏洩事故を再検証(1)」では高分子ポリマーを注入していると書きましたが、これは単に水を入れて、バイブレーターでおがくずと混ぜるという作業をしていたのですね。これもTV会議の記録と照らし合わせて詳細に事実関係をチェックして初めてわかったことです。

しかしながら、これらの作業を行っても流出口の水の勢いは変わることがありませんでした。
さて、本当に4月3日に作業したところから電線管を通じてピット内を経由してスクリーンから水が出ているのかどうかを確認した方がいいのではないか、という議論が出てきたことは書きました。そこで、その確認をするため、色水を流してチェックしようということになりました。16時頃のTV会議の議論では、今日穴を開けたところにバスクリンを入れて、本当にスクリーンの割れ目のところから出てくるかどうかの確認を夜に行おうという話が出ています(後の議論で、夜だと色が観察しにくいから翌朝に実施するということになりました)。
さらに17時過ぎの議論では、スクリーンにつながるバイパスがどこかにあるのでは?という観点から、管路のどこから漏れる可能性があるかを検討したところ、海水配管トレンチは全て岩着あるいは杭基礎であることがわかりました。つまり構造的にはしっかりしているということです。一方で、電源ケーブルトレンチのところはベタ基礎で、構造的に弱いことが判明しました。そのことから、「2007年の柏崎で起きたことと同じような事が起こっていると考えると、電線管については、海に向かって縦方向に、直角方向に結構クラックができている可能性がある」というTV会議での発言があります。
2007年の新潟県中越沖地震の際、柏崎原発でどのような被害があったのか私は詳細には調査していないのですが、おそらく電線管にヒビが入ったような事例があったのでしょう。
そうなると複数箇所で漏れている可能性があり、どこから水がもれているのかわからないため、漏れた箇所を突き止めてそれを全てふさぐのは難しく、出口のところを止めるしかないという考え方になっていきます。そして、水ガラスを用いると、毎分50-60Lの流れがあっても5、6秒で止めることもできるという話が紹介されました。
ピットAはコンクリートを入れてふさいでしまったので、その周り(下部)のどこに水ガラスを入れるのがいいのか、詳細に寸法も含めて考えて議論を始めます。その結果、スクリーン流出口のクラック、あれは縦20cmということになっていますが、4/3の時点ではせいぜい10cmの高さしかなく、むしろ横に広がっている印象があるという議論がありました。
以下は公開部分にある会話です。(本111-1:リンク先は11MBのZIPファイルをダウンロードします)
(本店建設復旧班)「確かに勢いは減っているが、面積が広がっている気がしています。もしかすると、施工中にリフトアップを防ぐための水抜きが昔あって、そこのところがポンと抜けて面積が広がっているのではないか」
という発言があります。厚さ1.5mもあるコンクリートを通って水が漏れたわりには、スクリーンの壁面には上から下までヒビが入っているわけではなく、ある一箇所からだけ漏れているということから考えても、もともと何かの理由で開けてあった穴が地震で陸側(北側)のピットとつながったということなのではないかと私は思います。
この部分、流れている映像は残念ながら確認できないのですが、3分ほどですが重要なやり取りと思いますので、ぜひ動画でご確認下さい。
こうして、翌日のバスクリンを使ったトレーサーの準備を完了し、水ガラスの材料とマシンと人手の手配をして、この日も成果がないままに終わったのでした。
次は翌4月4日の話になります。この日は2号機の汚染水では大きな動きはありませんでしたが、トレーサー実験の結果についてと、汚染水対策全体としては知っておくべき重要な話(低レベル汚染水の放出)がありますので、その二つをまとめたいと思います。
参考:この日の記者会見
保安院 10:20~ 西山さんの記者会見 togetter
東京電力 11:22~ 主に行方不明者の発見について(togetter)
保安院 17:19~ 西山さんの記者会見 togetter
東京電力 23:38~ togetter
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