福島第一原発の地下水:下部透水層も汚染されている?
福島第一原子力発電所の汚染水は、地下水に漏れ出して海に流出していることがわかっています。しかし、これまでの東京電力の説明ではいわゆる上部透水層を流れる地下水だけが汚染されていて、下部透水層については汚染されていないという話でした。
ところが今回(12/20の発表と12/27の発表)、3号機と4号機付近で下部透水層の地下水を測定したところ、Cs-137や全βが観測されました。
そのため、東京電力としても汚染はありませんでした、はいおしまい、とはできなくなり、詳細な測定をせざるを得ない状況になってきています。
今回はこの下部透水層の地下水の話を書こうと思います。
福島第一原発の地下の地層には、水を通しやすい透水層と水を通しにくい難透水層があります。この地層は1層だけではなく、下の模式図のように2層以上あることが知られています。

(東電HP2011/8/31 海側遮水壁の基本設計 より)
第11回汚染水対策委員会の資料には、もう少し専門的な用語を用いた同様の図があります。

(第11回汚染水対策委員会 資料1-2(100MB注意) より)
黄色の中粒砂岩層(I層)というのが一番上の透水層にあたり、地下水が流れているところです。その下の黄緑の泥質部(II層)というのが一つ目の難透水層です。その下にある濃い緑色の互層(III層)というのが2番目の透水層でここも地下水が流れているところです。そのさらに下にはまた互層(IV層)があります。ただし、互層の地下水は、被圧地下水といって、圧力がかかっています。
被圧地下水ということばはわかりにくいと思いますので、東京電力が2013年8月に出した資料に比較的わかりやすい説明がありましたからそれを引用します。

(2013/8/23 福島第一原子力発電所周辺 の地質・地下水および解析 より)
また、同じ資料にはこのような記載もあります。

「4m盤、10m盤において、互層部の被圧された地下水位が、中粒砂岩層の自由水面を有する地下水位より高いことから、この2つの層に連絡があった場合、圧力の高い互層部(下層)から低い中粒砂岩層(上層)へ流れると考えられる。」
4m盤とは、護岸近くの高さのところをいい、タービン建屋などの近く(H25J4やH25J7の地点を含む)は10m盤です。そこでは、互層の被圧地下水の方が(圧力がかかっている分)地下水位が高いことが、何地点かのボーリングのデータからわかっています。ですから、もしこの2層で連絡があれば、水は下層の互層部から上層の中粒砂岩層に流れる可能性があると考えられる、と書いてあります。
これまでの東京電力の説明では、中粒砂岩層の透水層は建屋やトレンチなどから流れ出た汚染水で汚れているが、互層(下部透水層)の地下水は汚染されていない、という説明でした。実際、2013年11月に発表された途中経過では、3号機タービン建屋の海側のH25J4という地点のデータだけでしたが、ほとんどがNDでした。

(2013/11/20 タービン建屋東側(海側)下部透水層の水質調査結果[途中経過] より)
この時は4号機側に掘られたH25J7という地点のデータがまだ出てきていませんでした。
ところが今回12/20に発表されたのは、H25J7のデータが発表されたのですが、Cs-137が数Bq/L検出されていました。

(2013/12/20 タービン建屋東側(海側)下部透水層(3/4号機間海側)の水質調査結果 より)
東電も当初は水が濁っていたためと考えて、ポンプによる採水(12/3)をやめて、採水器による採水(12/10)を行いました。しかしながら、1回目に検出されたH-3(780Bq/L)が検出されなくなった代わりに今度は全βが89Bq/Lも検出されました。
そのため、いくつか考えられる要因について、これから1ヶ月ほどかけて検討し、見解を出すというスタンスになりました。

(2013/12/20 タービン建屋東側(海側)下部透水層(3/4号機間海側)の水質調査結果 より)
そして本日(12/27)は、さらに追加のデータが発表されました。

(2013/12/27 タービン建屋東側(海側)下部透水層の水質調査状況について より)
12/18に採水したデータを見ると、12/10のデータとほぼ同じレベルのデータです。ということは、採水時の混入という可能性はほぼ否定され、少なくともこの地点(H25J7)では地下水中にCs-137も全βも含まれているということが確認できたわけです。ただ、同時に取ったこの地点の上部透水層のデータと比較してみると、ほぼ同じような値ですので、何らかの形でこの下部透水層(互層)と上部透水層(中粒砂岩層)との間で水が行き来している可能性もあります。もちろん、観測孔の掘削時に混入した可能性もないわけではありませんが、先ほどの被圧地下水の方が地下水位が高いという説明からすると、むしろ下から水が吹き上がってくるはずで、上から下に流れるという説明は難しいような気がします。今回のデータを見ても下部透水層のデータの方が高い値ですので、下から上という流れの方が理解できます。
今後も定期的に採水して測定を続けることによって、どういう理由で下部透水層のH25J7で放射性物質が検出されたのか、だんだんとはっきりしていくと思います。
また、今回は11月に発表されたH25J4でのSr-90のデータも発表されました。検出限界値0.15Bq/L(12/27の記者会見より)で今回は0.29Bq/LのSr-90が検出されています。Sr-90があるということは全βも0.5Bq/Lとか1Bq/Lあってもおかしくないのですが、全βの検出感度は12Bq/Lと高いため、11月の測定では検出されませんでした。これは検出限界から考えても仕方ないでしょう。H25J7の今回のデータから類推すると、Cs-137は全βの1/10以下であってもおかしくないため、検出できなくても不思議ではないかもしれません。もちろん、H25J4とH25J7の水の由来が同じである保証は全くないので、何とも言えません。
今年の前半に護岸地下水が汚染されていることがわかったのも、専門家の指摘を受けて地下水の調査を行ったら予想外に汚染されていたことがきっかけでした。今回もこれをきっかけに少なくとも1ヶ月は継続的に調査するということですから、この調査の中で新たな情報が得られて、下部透水層の汚染状況についてもっと多くの情報が得られるようになるかもしれません。
なお、3号機4号機以外についてですが、12/27の記者会見ではTV朝日の松井記者が2号機付近の4m盤での調査も行わないのか、すでに東電が発表した予定には入っていたはずなのに予定がどんどん先送りされているがどうなっているのか、という質問がありました。これに対して、2号機付近は1月中に掘る予定だという回答がありました。
今後もしばらくはデータが出てくると思いますので、下部透水層の情報には引き続き注目していきたいと思います。

(東電HP2011/8/31 海側遮水壁の基本設計 より)
第11回汚染水対策委員会の資料には、もう少し専門的な用語を用いた同様の図があります。

(第11回汚染水対策委員会 資料1-2(100MB注意) より)
黄色の中粒砂岩層(I層)というのが一番上の透水層にあたり、地下水が流れているところです。その下の黄緑の泥質部(II層)というのが一つ目の難透水層です。その下にある濃い緑色の互層(III層)というのが2番目の透水層でここも地下水が流れているところです。そのさらに下にはまた互層(IV層)があります。ただし、互層の地下水は、被圧地下水といって、圧力がかかっています。
被圧地下水ということばはわかりにくいと思いますので、東京電力が2013年8月に出した資料に比較的わかりやすい説明がありましたからそれを引用します。

(2013/8/23 福島第一原子力発電所周辺 の地質・地下水および解析 より)
また、同じ資料にはこのような記載もあります。

「4m盤、10m盤において、互層部の被圧された地下水位が、中粒砂岩層の自由水面を有する地下水位より高いことから、この2つの層に連絡があった場合、圧力の高い互層部(下層)から低い中粒砂岩層(上層)へ流れると考えられる。」
4m盤とは、護岸近くの高さのところをいい、タービン建屋などの近く(H25J4やH25J7の地点を含む)は10m盤です。そこでは、互層の被圧地下水の方が(圧力がかかっている分)地下水位が高いことが、何地点かのボーリングのデータからわかっています。ですから、もしこの2層で連絡があれば、水は下層の互層部から上層の中粒砂岩層に流れる可能性があると考えられる、と書いてあります。
これまでの東京電力の説明では、中粒砂岩層の透水層は建屋やトレンチなどから流れ出た汚染水で汚れているが、互層(下部透水層)の地下水は汚染されていない、という説明でした。実際、2013年11月に発表された途中経過では、3号機タービン建屋の海側のH25J4という地点のデータだけでしたが、ほとんどがNDでした。

(2013/11/20 タービン建屋東側(海側)下部透水層の水質調査結果[途中経過] より)
この時は4号機側に掘られたH25J7という地点のデータがまだ出てきていませんでした。
ところが今回12/20に発表されたのは、H25J7のデータが発表されたのですが、Cs-137が数Bq/L検出されていました。

(2013/12/20 タービン建屋東側(海側)下部透水層(3/4号機間海側)の水質調査結果 より)
東電も当初は水が濁っていたためと考えて、ポンプによる採水(12/3)をやめて、採水器による採水(12/10)を行いました。しかしながら、1回目に検出されたH-3(780Bq/L)が検出されなくなった代わりに今度は全βが89Bq/Lも検出されました。
そのため、いくつか考えられる要因について、これから1ヶ月ほどかけて検討し、見解を出すというスタンスになりました。

(2013/12/20 タービン建屋東側(海側)下部透水層(3/4号機間海側)の水質調査結果 より)
そして本日(12/27)は、さらに追加のデータが発表されました。

(2013/12/27 タービン建屋東側(海側)下部透水層の水質調査状況について より)
12/18に採水したデータを見ると、12/10のデータとほぼ同じレベルのデータです。ということは、採水時の混入という可能性はほぼ否定され、少なくともこの地点(H25J7)では地下水中にCs-137も全βも含まれているということが確認できたわけです。ただ、同時に取ったこの地点の上部透水層のデータと比較してみると、ほぼ同じような値ですので、何らかの形でこの下部透水層(互層)と上部透水層(中粒砂岩層)との間で水が行き来している可能性もあります。もちろん、観測孔の掘削時に混入した可能性もないわけではありませんが、先ほどの被圧地下水の方が地下水位が高いという説明からすると、むしろ下から水が吹き上がってくるはずで、上から下に流れるという説明は難しいような気がします。今回のデータを見ても下部透水層のデータの方が高い値ですので、下から上という流れの方が理解できます。
今後も定期的に採水して測定を続けることによって、どういう理由で下部透水層のH25J7で放射性物質が検出されたのか、だんだんとはっきりしていくと思います。
また、今回は11月に発表されたH25J4でのSr-90のデータも発表されました。検出限界値0.15Bq/L(12/27の記者会見より)で今回は0.29Bq/LのSr-90が検出されています。Sr-90があるということは全βも0.5Bq/Lとか1Bq/Lあってもおかしくないのですが、全βの検出感度は12Bq/Lと高いため、11月の測定では検出されませんでした。これは検出限界から考えても仕方ないでしょう。H25J7の今回のデータから類推すると、Cs-137は全βの1/10以下であってもおかしくないため、検出できなくても不思議ではないかもしれません。もちろん、H25J4とH25J7の水の由来が同じである保証は全くないので、何とも言えません。
今年の前半に護岸地下水が汚染されていることがわかったのも、専門家の指摘を受けて地下水の調査を行ったら予想外に汚染されていたことがきっかけでした。今回もこれをきっかけに少なくとも1ヶ月は継続的に調査するということですから、この調査の中で新たな情報が得られて、下部透水層の汚染状況についてもっと多くの情報が得られるようになるかもしれません。
なお、3号機4号機以外についてですが、12/27の記者会見ではTV朝日の松井記者が2号機付近の4m盤での調査も行わないのか、すでに東電が発表した予定には入っていたはずなのに予定がどんどん先送りされているがどうなっているのか、という質問がありました。これに対して、2号機付近は1月中に掘る予定だという回答がありました。
今後もしばらくはデータが出てくると思いますので、下部透水層の情報には引き続き注目していきたいと思います。
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