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ALPSでも処理できない汚染水のトリチウムはどう処理するのか?-第一回トリチウム水タスクフォースより-

 
前回の「高性能多核種除去設備(ALPS)の開発計画 -第1回タスクフォースより-」では、高性能ALPSの開発計画についてご紹介しました。しかし、今では多くの人が知っていると思いますが、ALPSでもトリチウム(H-3)は除去できません。

このトリチウムの扱いについてどうするのか、第11回汚染水処理対策委員会が設置したトリチウム水タスクフォースの第一回会合が2013年12/25に開催されました。今回はまだ顔合わせといった性格が強いですが、今年度末までに一定の方向性を出すということなので、このタスクフォースについてもチェックしておきたいと思います。


1.トリチウム水タスクフォースの設置

2013年12/10に開催された第11回汚染水処理対策委員会において、トリチウム水タスクフォースの設置が決定されました。

このタスクフォースにおいては、「①分離・貯蔵技術の成立性、②貯蔵や放出のリスク、③海外での規制等について、専門的に検討し、複数の選択肢について総合評価を行う(関係者間の意見調整や選択肢の一本化を行うものではない)」ことが設置目的とされています。また、「議論・資料は原則公開する。年内に検討を開始し、年度内を目途にとりまとめる。また海外の専門家も招聘し意見聴取を行う」ということがうたわれています。(トリチウム水タスクフォースの設置について より)

そして12/25に第1回タスクフォースが開催されました。タスクフォースの規約によると、この会議は
・開催日程については、事前に周知を図るものとする。
・タスクフォースは、原則として、公開で開催する。
・会議配布資料は、経済産業省ホームページに公開することを原則とする。ただし、主査の判断により資料の一部を非公開とすることができる。
・会議における議事概要については、会議後速やかに作成し、経済産業省ホームページに公開するものとする。
・会議における議事録については、会議後速やかに作成し、あらかじめ委員に確認の上、経済産業省ホームページに公開するものとする。(議事概要とは別に議事録も作成するようです。)

ということで、基本的には公開するということがうたわれています。企業秘密を多く含むという理由で非公開で行われる高性能ALPSのタスクフォースとは異なります。

2. トリチウム水の処理法

最初に書きましたが、福島第一原発の汚染水処理において、サリーはセシウム除去がメインですし、62核種を除去できるということになっているALPS(多核種除去設備)でもトリチウムは除去できません。汚染水処理委員会では、2013年9月に技術研究組合国際廃炉研究開発機構(IRID)という技術研究組合を通じて国内外から汚染水処理の技術について募集しました。トリチウム処理を含む提案が780件寄せられましたが、11月に行われた専門家レビュー会議において、すぐに使える提案はないという結論に至りました。

専門家レビュー会議でのコメントを引用します。

『・トリチウムの分離技術については、国際的な経験では、EUのOSPAR委員会や欧米諸国で総合的な評価を行った中で、技術的な観点からはトリチウムを分離できる技術は存在するが、産業規模で実用可能な技術は無いと結論付けられており、結果として環境への管理された放出が最善の選択とされている。

・今回寄せられた数多くの技術提案について、これまでの知見・経験から最も有望とされている方式であるCECE法の分離性能を大幅に向上させる革新的な提案は無いと見られる。

・これらの技術について、福島第一への適用に向けた検討をおこなう際には、開発に要すると見込まれる時間、規模、コストを精査するとともに、分離のリスクを勘案することが必要である。

・今回の技術提案でも、数多くの提案が寄せられたが、短期間で福島第一原発に適用できると示されたものは無かった。

・一方で、研究段階にある様々な技術の動向について、今後も情報収集を行っていくことが重要である。』
(添付資料1 分野別の主な技術提案の総括 [技術分野2: 汚染水処理] より)

この専門家レビューによると、現在の技術では、トリチウムを分離する技術としては化学交換電解セル複合法(CECE法)と呼ばれる方法の他にいくつか存在するものの、産業規模で実用に用いることができる技術は存在せず、結果として環境への管理された放出が最善の選択とされているということです。

実際、かなり前の1979年の話ですが、アメリカのスリーマイル島の事故の際も、最終的にはトリチウム水を大気蒸散させるという方法を取っています。


3. 第1回タスクフォース

12/25の第1回タスクフォースは、これまでの汚染水処理対策委員会でのこれまでの議論やIAEAのレビューミッションの提言等を受けてトリチウム水の取扱いが課題であることを確認し、検討すべき選択肢や評価項目について議論したということです。汚染水処理対策委員会での議論の結果は今回は省略します。IAEAのレビューについてはニュースにもなりましたのでご紹介します。

IAEAの専門家調査団が11/25~12/4に来日し、福島第一原子力発電所の廃炉計画についてのレビューをしています。暫定サマリーレポートの中でトリチウム水問題についてのコメントもありました。

『助言5:IAEA調査団は、東京電力福島第一原発の汚染水管理に関して、持続可能な解決策を見つけることが必要であると確信する。そのためには、海洋への管理された放出の再開を含め、全てのオプションを検討することが必要である。東京電力には、意思決定で必要となる科学的根拠を得るために、トリチウム及び他の残存核種を海洋へ放出することによって生じる、住民及び環境に対する潜在的な被ばく影響を評価することを助言する。
最終的な意思決定のためには、東京電力、原子力規制委員会、中央政府、福島県、地元等を含む全ての関係者の関与が必要であることは明らかである。

(IAEA 暫定サマリーレポート より)

このIAEAの助言は、トリチウムを含む水の海洋への放出も含めてあらゆるオプションを検討すべき、もっと簡単にいうと海洋放出することができるかどうか、科学的な根拠および関係者への同意をとれるかどうか検討すべき、というものでした。原発を通常運転している時には、福島第一原発では実績として年間2兆ベクレル程度のトリチウムを放出していました(「平成23年度原子力施設における放射性廃棄物の管理状況及び放射線業務従事者の線量管理状況について」 参考資料4より)。

なお、ここに記載してある「管理された放出」という言葉は、現在の福島第一原発から漏れ続けていると考えられている「管理されていない放出」とは異なるものです。現在は、東電が2013年8/2に発表したように、2011年5月から2013年7月まで、2年間で約20兆ベクレル、年間にして約10兆ベクレル放出されてきたと推定されていますが、これは管理されてない放出であり、「管理された放出」とは異なるものです。

その他のこの日の資料は、あまり参考になるわかりやすい資料がすくなかったので、一つだけ紹介したいと思います。

トリチウムの物性等について」(資料4-1)という資料があり、トリチウムの基本的な性質や存在量についての説明があります。

12/30-1

トリチウムは、通常の水素とは異なり、元素としての原子番号を決める陽子は1つなのですが、陽子とほぼ同じ質量の中性子が2個あって水素の約3倍の重さです。β線を出して中性子が陽子に変わるためにヘリウム(He-3)になります。
自然界にも量的にはかなり少ないのですが存在します。現在は天然水中に約1Bq/L程度の濃度ということです。


また、主にアメリカのスリーマイル島事故(1979年)の時にトリチウムをどう処理したのかということに関する資料が「海外におけるトリチウムの取扱いについての評価事例」(資料4-2)にあるのですが、こちらはこれだけでは経緯や結論がよくわからない資料なので省略します。

この日の議事概要が公開されていますのでそれを載せますが、かなりいろんな意見が委員の方々からあったことがわかります。これらの意見を受けて次回からの議論がなされることと思います。

『●スリーマイル島の場合、どのような議論を行い、トリチウム水を大気蒸散させるという結論に至ったのか、経緯を調べて報告してもらいたい。
●想定しない事象の洗い出しや、トリチウム水を貯蔵するリスク等を評価・分析できる体制の構築が必要ではないか。
●トリチウム水を環境に放出した際の環境動態をシミュレーションする専門家の知見が必要ではないか。
●分離技術について、概要等が分かる資料を提出してもらいたい。
●「科学」だけの議論ではなく、県民の不安や被災者の立場を考慮した議論が必要ではないか。
●事故は「受け入れざるを得ない汚染」であるが、トリチウム水を環境放出するのであれば、新たな汚染となる。この点を勘案して議論を進めるべき。
●科学的知見だけではなく、風評被害に伴うコストについても考慮して議論すべき。
●分離技術を検討するためには、プラントや設備に詳しい産業界からの有識者の話を聞くことが必要ではないか。
●時間軸も考えて検討を行うべき。どのような方法を、いつ選択できるのか、いつ終えられるのか、という観点が必要ではないか。
●地下貯蔵を議論するためには、地質や土木の専門家が必要ではないか。
●そもそもトリチウムの法令基準がどのような考え方に基づいて作られたのか、を整理する必要があるのではないか。
●今回のトリチウム分離については、これまで原子力関連で培われてきた技術(閉ループにて、少量の水を取り扱う分離技術)と考え方が大きく異なる。
●トリチウムの危険性については、誤解も多い。インターネットやテレビの指摘にも対応することが重要。法令基準の意味などを一般の人に分かりやすく、その理由等も説明する必要があるのではないか。
●事務局が作成した評価項目等に加えて、TMI やサバンナリバーでの評価項目等も併せて考えるべき。
●分離等の技術開発、実証試験は是非やっていってほしい。
●今までの知見だけでなく、今後、検証していくべき技術についても見据えて、慎重かつ十分な議論を進めるべき。是非、技術開発を進めてほしい。国民、県民の方々に分かりやすい資料を作成してほしい。
●スリーマイル島の場合も、実際に蒸発処理を行うまでに約10年かかっている。水の量も質も異なるため、当時検討された技術や手法が、福島には適用できないこともあることを念頭におきつつ、当時の議論をこの場で共有しても良いのではないか。』

これらの意見を公開の場で具体的に検討していくことによって、トリチウム処理はどういうことが可能で、放出されたトリチウムはどれだけの環境への影響があり、スリーマイル島の時との違いから考えて今回はどう対応すべきか、などについてはっきりしていくことと思います。

個人的には現時点では、原発の通常運転時の海洋へのトリチウム排出を認めるならば、福島第一原発でALPS処理することによってほとんどトリチウムだけになったような水については、水質を確認の上で海洋に放出するのはやむを得ないのではないかと思いますが、このタスクフォースでの議論を受けて勉強していこうと考えています。

上の委員のコメントにもあったように、科学的観点以外の議論が実は結構重要な気がします。以前知り合いと議論したことがあるのですが、もし海洋に放出することが問題ない(これまでもやってきている)というのであれば、福島の海に流さないといけないということはないので、お金はかかりますが、タンクに貯めたALPS処理水をタンカーにでも入れて輸送して、他の海に放出するというのも一つの選択肢としてあると思います。福島県の漁業の風評被害は少なくとも防げると思います。

 
 
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3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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