陸側遮水壁(凍土壁)の検討状況-陸側遮水壁タスクフォースより-
昨年末よりこのブログでは、「高性能多核種除去設備(ALPS)の開発計画 -第1回タスクフォースより-」で高性能ALPSに関する動き、「ALPSでも処理できない汚染水のトリチウムはどう処理するのか?-第一回トリチウム水タスクフォースより-」でトリチウム水の処理の問題について取り上げてきました。
今回は、経産省の汚染水対策のHPで汚染水処理対策委員会の下部組織として作られた陸側遮水壁タスクフォースで検討されている凍土壁について取り上げます。
1.陸側遮水壁が凍土壁になった経緯
福島第一原発で2013年に一番クローズアップされたのは汚染水問題です。2013年4月に発覚した、地下貯水槽からの汚染水漏れ、これがマスコミにも大きくクローズアップされ、汚染水問題が事故から2年経過してもまだ全く解決していないことを世間に知らしめました。
それをきっかけにして、汚染水問題の根本原因である地下水の流入をいかにして食い止めるか、これについて対応するため、経産省・資源エネルギー庁が「汚染水処理対策委員会」を設置することを2013年4月に決定しました。
その委員会の設置案の中には、中長期的な対応として検討すべき課題の中に「陸側遮水壁の再検証」という文言がすでに入っていました。

(4/26 「汚染水処理対策委員会」について(案) より)
その理由は、後にまとめられた汚染水処理対策委員会報告書の概要にも記載がありますが、東電が取り組んでいる地下水バイパスとサブドレンだけでは不十分な可能性があるため、重層的な対策が必要であり、そのためにはやはり陸側遮水壁を再検討する必要があるということなのです。

(7/1 資料3 地下水の流入抑制のための対策(概要)(汚染水処理対策委員会報告書(5/30)概要) より)
そのため、汚染水処理対策委員会は2013年4/26の第1回の時にすでに陸側遮水壁の検討を行い始めました。その当時は、粘土系遮水壁を提案した大成建設、凍土壁を提案した鹿島、建屋内地下水流入抑制対策工に関する提案をした清水建設のゼネコン3社による提案が行われています。
続く5/16の第2回汚染水処理対策委員会では、大成建設、鹿島、清水建設に安藤・間を加えた4社から提案がありました。
この当時の汚染水処理対策委員会は、5月末を目標に一応の方針を出すということで動いていました。その方針を6月の中長期ロードマップに反映させるという計画だったからです。そこで、5/30に行われた第3回汚染水処理対策委員会では報告書をまとめて陸側遮水壁として凍土壁を提案することになりました。
これに対して東京電力は、海側遮水壁の建設を優先し、陸側遮水壁については後に検討するということを2011年10月に発表していました。そのため、当初は陸側遮水壁に対して腰が重かったのですが、エネ庁の委員会から提案されたために今回は受けざるを得ないということで取り組むこととなりました。
ただ、この話は後に新たな展開を示します。2013年9月に明らかにされたことですが、実は民主党政権時代の2011年6月、当時首相補佐官だった馬淵澄夫さんが陸側遮水壁について責任者となって東電と一緒に検討をしていたことが明らかになりました。そして、陸側遮水壁の建設がほぼ決定にも関わらず、その建設に約1000億円かかる(リンク先の資料参照)ことが試算の結果明らかとなりました。本来はこの話を6月14日に記者発表する予定でしたが、株主総会を控えた東電としては新たに1000億円の債務が発生するようなことは記者発表して欲しくないと海江田経産大臣(当時)に連絡があり、海江田大臣がそれを了承したということなのです。このあたりの話は、2013年9月18日の民主党の会合及び9月27日の経済産業委員会の廣瀬社長を参考人に呼んでの議事録にも出ています。
陸側遮水壁が凍土壁になった理由については、現在の東電救済スキームによる仕組みの問題がからんでいるようです。馬淵さんのブログにありますが、今回は国家プロジェクトとして経費を投入することになりました。凍土壁は「技術的難易度が高い」ために国が研究開発としてお金を出して取り組むことができるのですが、2011年に馬淵さん達が検討していた粘土壁では在来工法であり、これは国費を投入することが「原子力損害賠償支援機構法」の関係で難しいらしいのです。
東電としては在来工法で自分でお金を出すよりも、国がお金を出してくれるならばそちらでやりたいと考えるのはある意味当然ですので、2年前に自費で対応するときは見送ったが、今回は国がお金を出してくれるのでやることになったというのはありうる話です。
2. 凍土壁とは
ここで、凍土壁というものについて若干の補足をしておく必要があると思います。凍土壁とは、トンネル工事などで周辺に地下水が流出している場合に地下水を遮断するのに使われる工法です。
日本でこの技術が一番優れているのはおそらく株式会社精研のようです。この会社は地盤凍結工法として自社開発し、東京湾アクアラインでの適用に代表される450件の凍結工事を施工してきた実績のある会社です。アクアラインでの施工の様子はこちらの資料にいくつか写真がありますので興味のある方はどうぞ。
ただ、実際には精研ではなく、鹿島がやることになりました。これは、鹿島の子会社でケミカルグラウトという会社があるため、おそらくそこの技術を用いて鹿島が凍土壁を行うということなのだと思います。
凍土壁には透水性がなく完全な止水壁になるとか、施工に大きな重機がいらないとか、単に凍結させただけなので終了した後は融解すれば余計な廃棄物は出ないといったメリットがあるのですが、維持費が高い(凍結を維持させるのに電気代がかかる)とか、10年以上もの長期間にわたって凍土壁を維持させたといった実績はないといったデメリットもあります。遮水壁としての凍土壁には、まだ技術的に確立していないという評価もあるようです。
民主党の馬淵議員が検討していたのは、凍土壁ではなく粘土壁でした。粘土壁は技術的にも確立しており、安全策をいくならば粘土壁だということのようです。しかしながら、東電救済策のスキームの問題で、冒険的な技術で技術開発が必要であれば研究開発という名目で国費を用いることができるということになり、凍土壁を用いることになったようです。
3.陸側遮水壁タスクフォースの誕生
汚染水処理対策委員会は第3回以降は3ヶ月近く開催されなかったのですが、その間に6/28に事務局が陸側遮水壁のタスクフォース設置を決めました。
このタスクフォースは、企業秘密を多く含むために非公開で行われ、資料についても企業秘密含む部分を除いて公開されます。資料と議事概要は公開されています。この方式は、後に設置された高性能ALPSタスクフォースと同じやり方です。経産省・エネ庁主体の会議は、原子力規制委員会系の会議と異なり、公開の方針が異なっています。
2013年7/1に開催された第1回のタスクフォースでは、これまでの汚染水処理対策委員会で決まったことのレビューと、東京電力から陸側遮水壁を実施するにあたり検討すべき課題が提示されてそれに対する議論が行われました。この時の議論の内容はこの議事概要にあります。


(7/1 資料5 陸側遮水壁(凍土方式)による1~4号機建屋内への地下水流入量低減方策の検討について より)
続いて8/8に行われた第2回タスクフォースにおいては、いきなり凍土壁を全長1.4kmにもわたって作るのではなく、まず福島第一原子力発電所の現地の地層で小さな凍土壁を作成して、本当にできるのか、課題は何かなどを抽出するためのフィージビリティスタディを行うことになりました。
ただし、この日のタスクフォースはなぜか16時開始のはずが16時40分開始で、議事概要によるとわずか25分で終わっています。何かの理由で開始が遅れたものと思われますが、議事概要にもあるように、ほとんど実質的な議論ができていません。もともと1時間しか設定されていなかったというところも不思議です。
この日の鹿島の企画提案書(資料3)を見ると、このフィージビリティスタディによって、4つのことを検証しようとしていることがわかります。
まず、下図に示されているように、(1) 現地における凍土方式遮水壁の成立性(長期間供用前提)、(2) 埋設物存在箇所の施工技術の成立性、(3) 高地下水流速下での施工技術の成立性、(4) 閉合区域内の地下水位コントロール技術の成立性の4つを検証することを目的としています。そのうち(2)と(3)はモックアップ試験ということですので、現地ではなく別の場所で行います。

(8/8 資料3 企画提案書 より)
そして、(1) 現地における凍土方式遮水壁の成立性の確認のため、実証試験ヤードとして、本番で作る予定の凍土遮水壁(下図の青い線)よりも西側(図でいうと下側)にある黄色く塗りつぶしたエリアに10m×10m程度の遮水壁を作成する計画です。

(8/8 資料3 企画提案書 より)
スケジュールとしては、2013年度中にこれらの試験を終わらせる計画になっています。

(8/8 資料3 企画提案書 より)
第2回はほとんど時間がなかったため、多くの議論は8/20に行われた第3回タスクフォースで行われました。この日は、前回も用いられた鹿島の事業計画案を元に議論がなされました。その結果は議事概要に記載してあります。
そしてその後は11月になるまで第4回タスクフォースは開催されないのですが、実はこの間に事業者の募集がありました。この陸側遮水壁の建設は国のプロジェクトとして行うため、2013年9/11に「平成25年度「汚染水処理対策事業」に係る補助事業者の募集を開始します」として陸側遮水壁と高性能ALPSの事業者を公募していたのです。
このあたりの話は「高性能多核種除去設備(ALPS)の開発計画 -第1回タスクフォースより-」でも書きましたが、今年度の事業費約136億円の補助事業として募集がなされました。そして、10/9に「汚染水処理対策事業(凍土方式遮水壁大規模実証事業)の補助事業者が決定しました」として採択先が鹿島建設株式会社と東京電力株式会社に決定したことが公表されています。この公募に対しては1件しか応募がなかったということです。
公募の結果、公式に国家プロジェクトとして実施できるようになったこの事業が正式に動き出しました。今年度は基本的にフィージビリティスタディの実施と来年度以降の計画作りになるわけです。
ちなみに、来年度(正式には今年度の補正予算)は、高性能ALPSと合わせて479億円を投資することが閣議決定されています。そのうち264億円を遮水壁に、215億円を高性能ALPSに投じる予定です(日経より)。

(経済産業省 平成26年度資源・エネルギー関係予算案の概要 より)
4. 正式に動き出した実証事業
そして公募による補助事業者が決定した後に11/15に行われた第4回タスクフォースでは、実証試験の現状報告と、2014年度以降に実施する本番の陸側遮水壁に関する検討事項が議論されました。
まずは2014年度以降に構築する陸側遮水壁です。すでに多くの報道があるように、陸側遮水壁は1号機から4号機までの建屋を囲う形で全長約1500mにも及ぶ大きなものです(なお、第2回のタスクフォースの「資料4 福島第一原発の地下埋設物について」には詳細な図面があります)。これだけの凍土壁はこれまで前例がありません。だからこそ、技術開発が必要になるのです。

(11/15 凍土遮水壁の目的・設計方針 より)
陸側遮水壁による地下水管理の目的を再度確認しておきましょう。下記に記載してありますが、(1)まず建屋周辺の地下水位が建屋の汚染水水位よりも高く維持することが必要です。(2)つぎに、仮に建屋から汚染水漏えいが起きても、陸側遮水壁の中で漏えいが留まり、海に流出させないことが必要です。(3)そして、遮水壁の内外で水位や水質に変化がないか(水みちができていないか)を確認しておくことです。

(11/15 凍土遮水壁の目的・設計方針 より)
陸側遮水壁を構築して地下水の流入を止めた後でも「地下水位>建屋内滞留水の水位」という大原則を守るためには、遮水壁内部の地下水位を維持しないといけません。そのためにはリチャージウエルという水位を上げるための井戸を掘って水位コントロールを行う必要があります。ただ、これが本当にうまくいくかどうかは、この後で紹介する今年度の実証事業で確認する予定になっています。

(11/15 凍土遮水壁の目的・設計方針 より)
なお、陸側遮水壁はこれだけで機能できるものではありません。第3回の汚染水処理対策委員会で出された報告書にもあったように、地下水バイパス、サブドレン、海側遮水壁及びフェーシングによる雨水浸透抑制策などと組み合わせて初めて意味があるものです。
これらの対策と合わせて実施しながら、予想通りに行かない場合には補助的な工法を実施し、再度シミュレーションを行う予定になっています。また、この遮水壁は最低でも建屋内の止水処理が完了する予定の平成32年度末、つまり7年後の2021年までは機能させることが必須であり、その後も基本的にはメンテナンスを行い維持することを目的としています。

(11/15 凍土遮水壁の目的・設計方針 より)
つづいて、鹿島による実証試験の現状報告です。
第2回及び第3回で議論された実証試験には4つの目的があることは書きました。それぞれについて、どのような状況であるか紹介がありました。
(1) まずは現地での小規模遮水壁構築実証試験です。福島第一原発の敷地内に10m×10mで深さが30mの小型の凍土壁を構築します。

(11/15 資料4 実証試験の現状報告 より)
これにより、地盤がどのように凍結するか(凍結特性)、凍土遮水壁の透水性がどの程度あるのか、底部難透水層から上部にどれくらい水がわき上がってくるのか(湧水量)、地盤の泥岩が凍結した際にどれくらい膨張するのか(凍結膨張特性)、上部透水層の中粒砂岩層に水を加えた場合どれくらい水位が変動するのか(リチャージ特性)、凍土の表面が水みちになる可能性がどれくらいあるのか(融解特性)といった項目をテストする予定になっています。
詳細については第3回の資料(下図)をご覧下さい。

(8/20 資料1 フィージビリティ・スタディ事業の計画 より)
これらのデータから、福島第一原発の地盤で凍土壁がうまくいくようにするにはどうしたらいいのか、というデータを取ることが一番重要な目的です。
11月時点でのスケジュールは下図のようになっています。2013年末には一通り凍土壁構築の作業が終わっているはずです。次回のタスクフォースにおいては、おそらくこの実証試験の結果が出てくるものと思います。

(11/15 資料4 実証試験の現状報告 より)
(2) 2番目は、トレンチ削孔実証試験です。これはモックアップとありますので、1Fではなく別の場所で行うことになります。トレンチや配管などの構造物があるところについても凍土壁をすき間なく構築できるのかという課題に対するテストです。
下図のように、模擬トレンチを作成し、その模擬トレンチを貫通して下部に凍土壁を構築できるように3重の管を用いた方法を取るという計画です。

3重管の詳細については、第3回の資料(下図)をご覧下さい。

(8/20 資料1 フィージビリティ・スタディ事業の計画 より)
(3) つづいて3番目は、高地下水流速下実証試験です。地下水の流速が速かったとした場合でもこのような凍土壁ができるのかどうか、モックアップの試験として1日10cmの流速と2mの流速とで凍土壁の構築状況を確認するという試験です。より低温(-30℃ではなく-40℃)にしたら流速が速くても対応できるかどうかをみるようです。

(2)と(3)のスケジュールは下図のようになっています。(2)は2013年中にほぼ終了しているようです。(3)は現在実施中ですね。

(4) 4番目が現地でのリチャージ試験です。福島第一原発において、リチャージウエルといって水位を上げるために掘った井戸がどれくらい有効かどうかを確かめるものです。
リチャージウエルは何のためにつくるかというと、凍土壁を作ることによって山側からの地下水が建屋に流入することは防げますが、建屋付近の地下水位が建屋内汚染水の水位よりも下がってしまうと、建屋から汚染水が外に流出してしまいます。それを防ぐために、建屋近辺の水位を監視し、必要に応じて水を入れて地下水位を上げるリチャージウエルは必須なのです。

(4)のスケジュールは下図のようになっています。現在はリチャージウエルを完成させて、データを取っている頃と思います。

その他、検討事項の進捗状況などはここでは省略します。議事概要はこちらかどうぞ。
以上、陸側遮水壁のタスクフォースで凍土壁の構築についてどのような事が議論されてきたかをまとめました。詳細については、それぞれのリンクから資料をお読みになって確認いただければと思います。
今後もこのタスクフォースの状況についてはチェックしていきたいと思います。
福島第一原発で2013年に一番クローズアップされたのは汚染水問題です。2013年4月に発覚した、地下貯水槽からの汚染水漏れ、これがマスコミにも大きくクローズアップされ、汚染水問題が事故から2年経過してもまだ全く解決していないことを世間に知らしめました。
それをきっかけにして、汚染水問題の根本原因である地下水の流入をいかにして食い止めるか、これについて対応するため、経産省・資源エネルギー庁が「汚染水処理対策委員会」を設置することを2013年4月に決定しました。
その委員会の設置案の中には、中長期的な対応として検討すべき課題の中に「陸側遮水壁の再検証」という文言がすでに入っていました。

(4/26 「汚染水処理対策委員会」について(案) より)
その理由は、後にまとめられた汚染水処理対策委員会報告書の概要にも記載がありますが、東電が取り組んでいる地下水バイパスとサブドレンだけでは不十分な可能性があるため、重層的な対策が必要であり、そのためにはやはり陸側遮水壁を再検討する必要があるということなのです。

(7/1 資料3 地下水の流入抑制のための対策(概要)(汚染水処理対策委員会報告書(5/30)概要) より)
そのため、汚染水処理対策委員会は2013年4/26の第1回の時にすでに陸側遮水壁の検討を行い始めました。その当時は、粘土系遮水壁を提案した大成建設、凍土壁を提案した鹿島、建屋内地下水流入抑制対策工に関する提案をした清水建設のゼネコン3社による提案が行われています。
続く5/16の第2回汚染水処理対策委員会では、大成建設、鹿島、清水建設に安藤・間を加えた4社から提案がありました。
この当時の汚染水処理対策委員会は、5月末を目標に一応の方針を出すということで動いていました。その方針を6月の中長期ロードマップに反映させるという計画だったからです。そこで、5/30に行われた第3回汚染水処理対策委員会では報告書をまとめて陸側遮水壁として凍土壁を提案することになりました。
これに対して東京電力は、海側遮水壁の建設を優先し、陸側遮水壁については後に検討するということを2011年10月に発表していました。そのため、当初は陸側遮水壁に対して腰が重かったのですが、エネ庁の委員会から提案されたために今回は受けざるを得ないということで取り組むこととなりました。
ただ、この話は後に新たな展開を示します。2013年9月に明らかにされたことですが、実は民主党政権時代の2011年6月、当時首相補佐官だった馬淵澄夫さんが陸側遮水壁について責任者となって東電と一緒に検討をしていたことが明らかになりました。そして、陸側遮水壁の建設がほぼ決定にも関わらず、その建設に約1000億円かかる(リンク先の資料参照)ことが試算の結果明らかとなりました。本来はこの話を6月14日に記者発表する予定でしたが、株主総会を控えた東電としては新たに1000億円の債務が発生するようなことは記者発表して欲しくないと海江田経産大臣(当時)に連絡があり、海江田大臣がそれを了承したということなのです。このあたりの話は、2013年9月18日の民主党の会合及び9月27日の経済産業委員会の廣瀬社長を参考人に呼んでの議事録にも出ています。
陸側遮水壁が凍土壁になった理由については、現在の東電救済スキームによる仕組みの問題がからんでいるようです。馬淵さんのブログにありますが、今回は国家プロジェクトとして経費を投入することになりました。凍土壁は「技術的難易度が高い」ために国が研究開発としてお金を出して取り組むことができるのですが、2011年に馬淵さん達が検討していた粘土壁では在来工法であり、これは国費を投入することが「原子力損害賠償支援機構法」の関係で難しいらしいのです。
東電としては在来工法で自分でお金を出すよりも、国がお金を出してくれるならばそちらでやりたいと考えるのはある意味当然ですので、2年前に自費で対応するときは見送ったが、今回は国がお金を出してくれるのでやることになったというのはありうる話です。
2. 凍土壁とは
ここで、凍土壁というものについて若干の補足をしておく必要があると思います。凍土壁とは、トンネル工事などで周辺に地下水が流出している場合に地下水を遮断するのに使われる工法です。
日本でこの技術が一番優れているのはおそらく株式会社精研のようです。この会社は地盤凍結工法として自社開発し、東京湾アクアラインでの適用に代表される450件の凍結工事を施工してきた実績のある会社です。アクアラインでの施工の様子はこちらの資料にいくつか写真がありますので興味のある方はどうぞ。
ただ、実際には精研ではなく、鹿島がやることになりました。これは、鹿島の子会社でケミカルグラウトという会社があるため、おそらくそこの技術を用いて鹿島が凍土壁を行うということなのだと思います。
凍土壁には透水性がなく完全な止水壁になるとか、施工に大きな重機がいらないとか、単に凍結させただけなので終了した後は融解すれば余計な廃棄物は出ないといったメリットがあるのですが、維持費が高い(凍結を維持させるのに電気代がかかる)とか、10年以上もの長期間にわたって凍土壁を維持させたといった実績はないといったデメリットもあります。遮水壁としての凍土壁には、まだ技術的に確立していないという評価もあるようです。
民主党の馬淵議員が検討していたのは、凍土壁ではなく粘土壁でした。粘土壁は技術的にも確立しており、安全策をいくならば粘土壁だということのようです。しかしながら、東電救済策のスキームの問題で、冒険的な技術で技術開発が必要であれば研究開発という名目で国費を用いることができるということになり、凍土壁を用いることになったようです。
3.陸側遮水壁タスクフォースの誕生
汚染水処理対策委員会は第3回以降は3ヶ月近く開催されなかったのですが、その間に6/28に事務局が陸側遮水壁のタスクフォース設置を決めました。
このタスクフォースは、企業秘密を多く含むために非公開で行われ、資料についても企業秘密含む部分を除いて公開されます。資料と議事概要は公開されています。この方式は、後に設置された高性能ALPSタスクフォースと同じやり方です。経産省・エネ庁主体の会議は、原子力規制委員会系の会議と異なり、公開の方針が異なっています。
2013年7/1に開催された第1回のタスクフォースでは、これまでの汚染水処理対策委員会で決まったことのレビューと、東京電力から陸側遮水壁を実施するにあたり検討すべき課題が提示されてそれに対する議論が行われました。この時の議論の内容はこの議事概要にあります。


(7/1 資料5 陸側遮水壁(凍土方式)による1~4号機建屋内への地下水流入量低減方策の検討について より)
続いて8/8に行われた第2回タスクフォースにおいては、いきなり凍土壁を全長1.4kmにもわたって作るのではなく、まず福島第一原子力発電所の現地の地層で小さな凍土壁を作成して、本当にできるのか、課題は何かなどを抽出するためのフィージビリティスタディを行うことになりました。
ただし、この日のタスクフォースはなぜか16時開始のはずが16時40分開始で、議事概要によるとわずか25分で終わっています。何かの理由で開始が遅れたものと思われますが、議事概要にもあるように、ほとんど実質的な議論ができていません。もともと1時間しか設定されていなかったというところも不思議です。
この日の鹿島の企画提案書(資料3)を見ると、このフィージビリティスタディによって、4つのことを検証しようとしていることがわかります。
まず、下図に示されているように、(1) 現地における凍土方式遮水壁の成立性(長期間供用前提)、(2) 埋設物存在箇所の施工技術の成立性、(3) 高地下水流速下での施工技術の成立性、(4) 閉合区域内の地下水位コントロール技術の成立性の4つを検証することを目的としています。そのうち(2)と(3)はモックアップ試験ということですので、現地ではなく別の場所で行います。

(8/8 資料3 企画提案書 より)
そして、(1) 現地における凍土方式遮水壁の成立性の確認のため、実証試験ヤードとして、本番で作る予定の凍土遮水壁(下図の青い線)よりも西側(図でいうと下側)にある黄色く塗りつぶしたエリアに10m×10m程度の遮水壁を作成する計画です。

(8/8 資料3 企画提案書 より)
スケジュールとしては、2013年度中にこれらの試験を終わらせる計画になっています。

(8/8 資料3 企画提案書 より)
第2回はほとんど時間がなかったため、多くの議論は8/20に行われた第3回タスクフォースで行われました。この日は、前回も用いられた鹿島の事業計画案を元に議論がなされました。その結果は議事概要に記載してあります。
そしてその後は11月になるまで第4回タスクフォースは開催されないのですが、実はこの間に事業者の募集がありました。この陸側遮水壁の建設は国のプロジェクトとして行うため、2013年9/11に「平成25年度「汚染水処理対策事業」に係る補助事業者の募集を開始します」として陸側遮水壁と高性能ALPSの事業者を公募していたのです。
このあたりの話は「高性能多核種除去設備(ALPS)の開発計画 -第1回タスクフォースより-」でも書きましたが、今年度の事業費約136億円の補助事業として募集がなされました。そして、10/9に「汚染水処理対策事業(凍土方式遮水壁大規模実証事業)の補助事業者が決定しました」として採択先が鹿島建設株式会社と東京電力株式会社に決定したことが公表されています。この公募に対しては1件しか応募がなかったということです。
公募の結果、公式に国家プロジェクトとして実施できるようになったこの事業が正式に動き出しました。今年度は基本的にフィージビリティスタディの実施と来年度以降の計画作りになるわけです。
ちなみに、来年度(正式には今年度の補正予算)は、高性能ALPSと合わせて479億円を投資することが閣議決定されています。そのうち264億円を遮水壁に、215億円を高性能ALPSに投じる予定です(日経より)。

(経済産業省 平成26年度資源・エネルギー関係予算案の概要 より)
4. 正式に動き出した実証事業
そして公募による補助事業者が決定した後に11/15に行われた第4回タスクフォースでは、実証試験の現状報告と、2014年度以降に実施する本番の陸側遮水壁に関する検討事項が議論されました。
まずは2014年度以降に構築する陸側遮水壁です。すでに多くの報道があるように、陸側遮水壁は1号機から4号機までの建屋を囲う形で全長約1500mにも及ぶ大きなものです(なお、第2回のタスクフォースの「資料4 福島第一原発の地下埋設物について」には詳細な図面があります)。これだけの凍土壁はこれまで前例がありません。だからこそ、技術開発が必要になるのです。

(11/15 凍土遮水壁の目的・設計方針 より)
陸側遮水壁による地下水管理の目的を再度確認しておきましょう。下記に記載してありますが、(1)まず建屋周辺の地下水位が建屋の汚染水水位よりも高く維持することが必要です。(2)つぎに、仮に建屋から汚染水漏えいが起きても、陸側遮水壁の中で漏えいが留まり、海に流出させないことが必要です。(3)そして、遮水壁の内外で水位や水質に変化がないか(水みちができていないか)を確認しておくことです。

(11/15 凍土遮水壁の目的・設計方針 より)
陸側遮水壁を構築して地下水の流入を止めた後でも「地下水位>建屋内滞留水の水位」という大原則を守るためには、遮水壁内部の地下水位を維持しないといけません。そのためにはリチャージウエルという水位を上げるための井戸を掘って水位コントロールを行う必要があります。ただ、これが本当にうまくいくかどうかは、この後で紹介する今年度の実証事業で確認する予定になっています。

(11/15 凍土遮水壁の目的・設計方針 より)
なお、陸側遮水壁はこれだけで機能できるものではありません。第3回の汚染水処理対策委員会で出された報告書にもあったように、地下水バイパス、サブドレン、海側遮水壁及びフェーシングによる雨水浸透抑制策などと組み合わせて初めて意味があるものです。
これらの対策と合わせて実施しながら、予想通りに行かない場合には補助的な工法を実施し、再度シミュレーションを行う予定になっています。また、この遮水壁は最低でも建屋内の止水処理が完了する予定の平成32年度末、つまり7年後の2021年までは機能させることが必須であり、その後も基本的にはメンテナンスを行い維持することを目的としています。

(11/15 凍土遮水壁の目的・設計方針 より)
つづいて、鹿島による実証試験の現状報告です。
第2回及び第3回で議論された実証試験には4つの目的があることは書きました。それぞれについて、どのような状況であるか紹介がありました。
(1) まずは現地での小規模遮水壁構築実証試験です。福島第一原発の敷地内に10m×10mで深さが30mの小型の凍土壁を構築します。

(11/15 資料4 実証試験の現状報告 より)
これにより、地盤がどのように凍結するか(凍結特性)、凍土遮水壁の透水性がどの程度あるのか、底部難透水層から上部にどれくらい水がわき上がってくるのか(湧水量)、地盤の泥岩が凍結した際にどれくらい膨張するのか(凍結膨張特性)、上部透水層の中粒砂岩層に水を加えた場合どれくらい水位が変動するのか(リチャージ特性)、凍土の表面が水みちになる可能性がどれくらいあるのか(融解特性)といった項目をテストする予定になっています。
詳細については第3回の資料(下図)をご覧下さい。

(8/20 資料1 フィージビリティ・スタディ事業の計画 より)
これらのデータから、福島第一原発の地盤で凍土壁がうまくいくようにするにはどうしたらいいのか、というデータを取ることが一番重要な目的です。
11月時点でのスケジュールは下図のようになっています。2013年末には一通り凍土壁構築の作業が終わっているはずです。次回のタスクフォースにおいては、おそらくこの実証試験の結果が出てくるものと思います。

(11/15 資料4 実証試験の現状報告 より)
(2) 2番目は、トレンチ削孔実証試験です。これはモックアップとありますので、1Fではなく別の場所で行うことになります。トレンチや配管などの構造物があるところについても凍土壁をすき間なく構築できるのかという課題に対するテストです。
下図のように、模擬トレンチを作成し、その模擬トレンチを貫通して下部に凍土壁を構築できるように3重の管を用いた方法を取るという計画です。

3重管の詳細については、第3回の資料(下図)をご覧下さい。

(8/20 資料1 フィージビリティ・スタディ事業の計画 より)
(3) つづいて3番目は、高地下水流速下実証試験です。地下水の流速が速かったとした場合でもこのような凍土壁ができるのかどうか、モックアップの試験として1日10cmの流速と2mの流速とで凍土壁の構築状況を確認するという試験です。より低温(-30℃ではなく-40℃)にしたら流速が速くても対応できるかどうかをみるようです。

(2)と(3)のスケジュールは下図のようになっています。(2)は2013年中にほぼ終了しているようです。(3)は現在実施中ですね。

(4) 4番目が現地でのリチャージ試験です。福島第一原発において、リチャージウエルといって水位を上げるために掘った井戸がどれくらい有効かどうかを確かめるものです。
リチャージウエルは何のためにつくるかというと、凍土壁を作ることによって山側からの地下水が建屋に流入することは防げますが、建屋付近の地下水位が建屋内汚染水の水位よりも下がってしまうと、建屋から汚染水が外に流出してしまいます。それを防ぐために、建屋近辺の水位を監視し、必要に応じて水を入れて地下水位を上げるリチャージウエルは必須なのです。

(4)のスケジュールは下図のようになっています。現在はリチャージウエルを完成させて、データを取っている頃と思います。

その他、検討事項の進捗状況などはここでは省略します。議事概要はこちらかどうぞ。
以上、陸側遮水壁のタスクフォースで凍土壁の構築についてどのような事が議論されてきたかをまとめました。詳細については、それぞれのリンクから資料をお読みになって確認いただければと思います。
今後もこのタスクフォースの状況についてはチェックしていきたいと思います。
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