地下水バイパス放出に向けた動き?排水基準の発表:漁連はどう対応するか?
今日(2/3)は地下水バイパスについて動きがありました。地下水バイパスで汲み上げた水を放出する際の基準を東京電力が発表し、国(経済産業副大臣)が全漁連会長に対して説明したのです。
簡単にまとめます。
地下水バイパスというのものはどんなものか、ということはこのブログでは何度も説明してきていますので、詳細は昨年1月に書いた「放射能汚染水情報アップデート(4) 地下水バイパスの現状」あるいは昨年6月の「地下水バイパスで汲み上げた地下水はいったいどれだけ汚染されているの?」を読んでいただきたいと思います。
地下水バイパスとは簡単にいうと、福島第一原発の建屋に流れ込んできている地下水を汚染される前に汲み上げるためのものです。汚染される前の地下水ですので、汲み上げて海に放出して、建屋に流入する地下水を減らすことが目的です。毎日400トン建屋に流入するといわれている地下水のうち、最大で1日100トンの地下水を減らすことができるとされています。具体的には、下図に書いてあるようなNo.1からNo.12までの12の揚水井を掘って汲み上げています。

そして、そのうちNo.5~No.12までの揚水井については、週に1回、下のような形で汲み上げた水の放射能のデータが公表されています。

(福島第一原子力発電所構内H4エリアのタンクにおける水漏れに関するサンプリング結果 (揚水井)1/30 )より
昨年から東京電力は地下水バイパスの海への放出について福島県漁連などに説明をして同意寸前までいっていました。しかしながら、昨年4月の地下貯水槽などの汚染水漏れにより振り出しに戻り、昨年7月に判明した海への流出が続いていたという発表、さらにはH4エリアからの最大300トンもの汚染水漏洩事故によって、完全に信用を失ってしまいました。
今回は、昨年9月以降の方針に従い、東電だけでなく国が前面に出て説得に当たっているところがこれまでと違うところです。
まず、1/24に東京電力(リンク先は時事)は「いわき市で開かれた県漁業協同組合連合会の組合長会議で、福島第1原発で汚染される前の地下水を海に放出する計画について、放射性物質濃度などを定めた放出基準を策定する方針を示し」ました。その後、本日(2/3)赤羽経済産業副大臣が全漁連会長に対して(リンク先は産経)、もし今後地下水バイパスを稼働する場合、放射性物質の濃度には現行の法令基準より厳しい基準を適用する方針を示して理解を求めました。
具体的な基準は東京電力の記者会見に出てきましたのでそちらを見てみましょう。

(2/3 東京電力HP 地下水バイパスの排水基準について より)
運用目標としては、Cs-134:1Bq/L未満、Cs-137:1Bq/L未満、全β核種:10Bq/L未満、H-3:1500Bq/L未満(これら全てを満たすこと)としています。これは、放射性物質の排水基準である、いわゆる告示濃度(Cs-134:60Bq/L、Cs-137:90Bq/L、Sr-90:30Bq/L、H-3:60,000Bq/L)に対して、1/60 + 1/90 + 5/30 + 1,500/60,000 = 0.22と20%近くの濃度である基準です。
告示濃度というのは、例えばH-3であれば60,000Bq/Lの水を毎日2L飲んでも1mSv/年に満たないように設定されています。
しかし、運用目標としては上記のような数字を設定していますが、同時に排水許容濃度としてはもっと高い数値を設定しています。これが今回の発表を非常にわかりにくくしているところです。
東京電力の説明では、運用目標としては数値を設定しているが、実際の運用においては運用目標を超えてしまうこともありえるだろうということです。ただ、その場合でも排水許容濃度を下回っていれば排水ができるようにしたいということのようです。
ただ、運用目標を上回ってしまった場合は、運用目標以上が測定された貯留タンク水は浄化等を行い、 運用目標未満(全βの場合は1Bq/L)であることを確認のうえ、排水するということでした。
私も記者会見の内容を全部真剣に聞いたわけではないので若干解釈が間違っているかもしれませんが、この資料を読んでも排水許容濃度を設定した理由がよくわかりませんでした。運用目標があるならばそれ一本でよくて、もしそれを上回ってしまったときに、告示濃度以下で決めた排水許容濃度は下回っているので大丈夫です、という言い訳のために用意した「排水許容濃度」に思えます。実際には告示濃度が法的な濃度なのですから、それ以外の排水許容濃度というのはあまり意味のある数字に思えません。資料を読んでもよくわかるようにまとめられておらず、記者会見でも質問が相次いでいましたし、相変わらず説明が下手だという感想を持ちました。
なお、運用目標は今後漁連などと相談の上決めると記載がありました。
2/4朝追記:読売の記事によると、今回の基準は案であり、その妥当性は今後原子力規制委員会で審議するということでした。なので具体的な数値に関しては今後若干の手直しがあるかもしれないということだと思います。しかし、これから原子力規制委員会が審議するならば、現段階で経産省の副大臣が出てくるのは手順としておかしいと思います。国としてしっかり決めてから全漁連に説明すべきです。
実際問題として、これまでCs-134やCs-137が地下水バイパスから検出された事例はほとんどなかったと思います。といっても、「地下水バイパスで汲み上げた地下水はいったいどれだけ汚染されているの?」で書いたように、NDといっていたが実は微量検出されていた、という例もありました。
全βについては、現状では確か全てNDだったと思います。ただし、気になるのはH-3(トリチウム)です。これについてはNo.12が昨年後半から比較的高く、最高で1000Bq/L検出されている例がすでにあります。
また、何よりも気になるのが、昨年8月に、地下水バイパスの上流にあるH4エリアからのタンクの漏洩により、地下に最大300トンの汚染水(ただしCs-137はほとんど除去されている)が漏洩していることです。また、2012年3月にも上流側で100トン近くの汚染水が地下に漏洩していることが報告されています。これらの影響がいつ出てくるのか、地下水の流速次第だと思いますが、非常に気になるところです。
もしこれらの汚染水の影響が今後出てくると、少なくともH-3に関しては運用目標を超える可能性があり、漁連が今回の提案に対して同意したとしても、運用目標を超える地下水を流すことは難しいと思います。
今回はあくまで新基準とともに全漁連に提案されたということで、これを受けて漁連側がどう対応するかが今後の焦点になっていきます。補償金などを受けることによる政治的な決着を見るのか、今後も対立が続くのか、今後が要注目です。
以上、速報としてまとめました。
地下水バイパスとは簡単にいうと、福島第一原発の建屋に流れ込んできている地下水を汚染される前に汲み上げるためのものです。汚染される前の地下水ですので、汲み上げて海に放出して、建屋に流入する地下水を減らすことが目的です。毎日400トン建屋に流入するといわれている地下水のうち、最大で1日100トンの地下水を減らすことができるとされています。具体的には、下図に書いてあるようなNo.1からNo.12までの12の揚水井を掘って汲み上げています。

そして、そのうちNo.5~No.12までの揚水井については、週に1回、下のような形で汲み上げた水の放射能のデータが公表されています。

(福島第一原子力発電所構内H4エリアのタンクにおける水漏れに関するサンプリング結果 (揚水井)1/30 )より
昨年から東京電力は地下水バイパスの海への放出について福島県漁連などに説明をして同意寸前までいっていました。しかしながら、昨年4月の地下貯水槽などの汚染水漏れにより振り出しに戻り、昨年7月に判明した海への流出が続いていたという発表、さらにはH4エリアからの最大300トンもの汚染水漏洩事故によって、完全に信用を失ってしまいました。
今回は、昨年9月以降の方針に従い、東電だけでなく国が前面に出て説得に当たっているところがこれまでと違うところです。
まず、1/24に東京電力(リンク先は時事)は「いわき市で開かれた県漁業協同組合連合会の組合長会議で、福島第1原発で汚染される前の地下水を海に放出する計画について、放射性物質濃度などを定めた放出基準を策定する方針を示し」ました。その後、本日(2/3)赤羽経済産業副大臣が全漁連会長に対して(リンク先は産経)、もし今後地下水バイパスを稼働する場合、放射性物質の濃度には現行の法令基準より厳しい基準を適用する方針を示して理解を求めました。
具体的な基準は東京電力の記者会見に出てきましたのでそちらを見てみましょう。

(2/3 東京電力HP 地下水バイパスの排水基準について より)
運用目標としては、Cs-134:1Bq/L未満、Cs-137:1Bq/L未満、全β核種:10Bq/L未満、H-3:1500Bq/L未満(これら全てを満たすこと)としています。これは、放射性物質の排水基準である、いわゆる告示濃度(Cs-134:60Bq/L、Cs-137:90Bq/L、Sr-90:30Bq/L、H-3:60,000Bq/L)に対して、1/60 + 1/90 + 5/30 + 1,500/60,000 = 0.22と20%近くの濃度である基準です。
告示濃度というのは、例えばH-3であれば60,000Bq/Lの水を毎日2L飲んでも1mSv/年に満たないように設定されています。
しかし、運用目標としては上記のような数字を設定していますが、同時に排水許容濃度としてはもっと高い数値を設定しています。これが今回の発表を非常にわかりにくくしているところです。
東京電力の説明では、運用目標としては数値を設定しているが、実際の運用においては運用目標を超えてしまうこともありえるだろうということです。ただ、その場合でも排水許容濃度を下回っていれば排水ができるようにしたいということのようです。
ただ、運用目標を上回ってしまった場合は、運用目標以上が測定された貯留タンク水は浄化等を行い、 運用目標未満(全βの場合は1Bq/L)であることを確認のうえ、排水するということでした。
私も記者会見の内容を全部真剣に聞いたわけではないので若干解釈が間違っているかもしれませんが、この資料を読んでも排水許容濃度を設定した理由がよくわかりませんでした。運用目標があるならばそれ一本でよくて、もしそれを上回ってしまったときに、告示濃度以下で決めた排水許容濃度は下回っているので大丈夫です、という言い訳のために用意した「排水許容濃度」に思えます。実際には告示濃度が法的な濃度なのですから、それ以外の排水許容濃度というのはあまり意味のある数字に思えません。資料を読んでもよくわかるようにまとめられておらず、記者会見でも質問が相次いでいましたし、相変わらず説明が下手だという感想を持ちました。
なお、運用目標は今後漁連などと相談の上決めると記載がありました。
2/4朝追記:読売の記事によると、今回の基準は案であり、その妥当性は今後原子力規制委員会で審議するということでした。なので具体的な数値に関しては今後若干の手直しがあるかもしれないということだと思います。しかし、これから原子力規制委員会が審議するならば、現段階で経産省の副大臣が出てくるのは手順としておかしいと思います。国としてしっかり決めてから全漁連に説明すべきです。
実際問題として、これまでCs-134やCs-137が地下水バイパスから検出された事例はほとんどなかったと思います。といっても、「地下水バイパスで汲み上げた地下水はいったいどれだけ汚染されているの?」で書いたように、NDといっていたが実は微量検出されていた、という例もありました。
全βについては、現状では確か全てNDだったと思います。ただし、気になるのはH-3(トリチウム)です。これについてはNo.12が昨年後半から比較的高く、最高で1000Bq/L検出されている例がすでにあります。
また、何よりも気になるのが、昨年8月に、地下水バイパスの上流にあるH4エリアからのタンクの漏洩により、地下に最大300トンの汚染水(ただしCs-137はほとんど除去されている)が漏洩していることです。また、2012年3月にも上流側で100トン近くの汚染水が地下に漏洩していることが報告されています。これらの影響がいつ出てくるのか、地下水の流速次第だと思いますが、非常に気になるところです。
もしこれらの汚染水の影響が今後出てくると、少なくともH-3に関しては運用目標を超える可能性があり、漁連が今回の提案に対して同意したとしても、運用目標を超える地下水を流すことは難しいと思います。
今回はあくまで新基準とともに全漁連に提案されたということで、これを受けて漁連側がどう対応するかが今後の焦点になっていきます。補償金などを受けることによる政治的な決着を見るのか、今後も対立が続くのか、今後が要注目です。
以上、速報としてまとめました。
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