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東京電力のSr測定法の誤りの原因判明。信じられない説明資料の作り方!


本日の東京電力の記者会見では、これまで半年ほど海水サンプルなどのSrのデータがなかなか発表されなかった真の原因が明らかとなりました。しかし、私が驚いたのはその説明用資料の信じられない作り方です。

ここでは、東京電力の発表資料の作り方について焦点を当てて今回の発表について簡単にまとめます。


2011年の原発事故以降これまで、東京電力の海水データは、Sr-90のデータが他の項目よりも1ヶ月から2ヶ月近く遅れて発表されてきました。それは、全β核種の測定はすぐに結果が出るのですが、Sr-90の測定には前処理に時間がかかるため仕方がないことでした。

ところが、昨年後半になって、Sr-90のデータの公表がピタッと止まりました。記者会見でもその点を追求していた記者の方がいましたが、なかなかデータが出てきませんでした。

今年の1月15日になって、特定の装置で測定したデータのみがおかしいということが発表されました。そして、昨年9月に導入したβ核種分析装置(ピコβ)を用いて再分析した結果、全β核種の値よりもSr-90の値の方が高いという結果が一部のデータに存在することが示されました。

下の表に示すのは、1/15に発表された、まだ確定していないおかしなデータの一例です。通常はSr-90の値は全βの値の70%~70%程度であることが過去の汚染水のデータからわかっています。原理的に考えて、全β核種というのはSr-90以外にもY-90も含んでいるためにSr-90よりも高い数値にならないとおかしいのですが、このようにSr-90>全β核種という測定結果が下の表のように一部の例で見られました。

0205-1
(1/15 東京電力HP 報道配布資料 より)

そのため、東京電力はSr-90の発表を控えて、その原因分析を行ってきました。本来ならば、規制庁におかしなデータが得られている旨をすぐに伝えて指導を請うのが望ましいのですが、自分たちですぐに解決できると思ったのでしょうか、結局半年近くかかってしまいました。


今日(2/5)の記者会見で発表された資料は、簡単にまとめた概要版「福島第一原子力発電所におけるストロンチウム-90分析の評価について(概要版)」と、詳細にまとめた報告書「福島第一原子力発電所におけるストロンチウム-90分析の評価について(報告書)」の二つです。

私はまず概略を知りたかったので概要版を読みました。しかし、何が書いてあるのかよくわかりませんでした。それで仕方なく、全部で23ページもある報告書の方を読み出しました。いずれは読むつもりだったのでよかったのですが、なかには時間がなかったり、細かい字でいっぱい書いてある報告書の方は目を通さない人も多いことと思います。

東京電力のHPに掲載されている報道配付資料は、あくまで記者会見の時の説明資料であり、口頭での説明があるために記者の人たちはまだ理解できると思いますが、HPの資料で概要版だけを読んだ人は、結局何が問題だったのかよくわからなかった人も多いのではないかと思いました。この資料の作り方はちょっと問題があると感じたので、今回取り上げることにしました。


最初から資料を見ていきましょう。まず、概要版の1.概要と2.要因分析については、何も問題ありません。

「データの逆転は5・6号機のホットラボの低バックグランドガスフロー型計数装置(LBC)でストロンチウム-90分析に偏っていることが判明した」ので、その要因として3つの可能性を検証したということです。


0205-3

その結果が次の3.検証結果です。上であげた要因のうち、Sr(ストロンチウム)標準溶液やY(イットリウム)標準溶液には問題がないことがわかりました。そしてY-90(イットリウム90)の計測効率に問題があることがわかったのです。

0205-2

しかしながら、ここではそれを示すためのまとめの表だけが示されており、これを見て読み解けるだけの能力のある人は良いでしょうが、多くの人にとってはこれだけを見てもどういう問題点があったのか、ということはおそらくわからないと思います。

私は今回動画を見ていませんが、当然のことながら記者会見の場では、この数字の持つ意味を説明しているはずです。つまり、5,6号ホットラボにおいては、Y-90の検出効率を導入時に47.8%と設定し、現在もそのままで設定していました。しかしながら今回の検証により、この5,6号ホットラボの装置においては60.4%程度に設定しないといけなかったのです。検出効率が47.8%ということは、100%÷47.8%=2.1倍の係数をかけて補正します。ところが、60.4%の検出効率であれば、100%÷60.4%=1.66倍にすればいいということで、2.1÷1.66=1.26なので、約26%多めにデータが高めになってしまっていたのです。

このあと、概要版の資料はいきなり4.低いLBC効率を使用していた原因、と間違えた原因分析に飛んでしまうのです。検出効率が低いということは数値が高くなるということがどこにも書いていないので、そこをよく理解している人はいいのですが、初めて概要版を読んだ私は話がよくわからなくなったのです。

0205-4

概要版では、その後は5.過去の分析結果への影響ということで、震災以前はSr-90を検出したのが1件のみ、ということで、それ以外は過去データへの影響がないように書いてありますが、震災後はどうなのか、どうせならそこまで書いて欲しい!と思いますよね。

0205-5

その後は6.今後の対応となり、結局何が問題だったのか、という結論がはっきりと示されていないのです。

0205-6


ところが、「報告書」には下のように黒枠で囲って非常にわかりやすく結論が書いてありました!

0205-7

5,6 号機ホットラボにて実施しているストロンチウム分析については,放射能計算時に用いるイットリウム-90 効率(計測器導入当時に測定し現在まで継続して使用:以下,設定値)が,現状の効率よりも低い値であり,放射能濃度を 3 割程度過大評価していた。

いろいろ検証してみた結果、これが原因で5,6号ホットラボに導入した機器においてはSr-90が全β核種よりも高くなっていたことがわかったということなのです。どうしてこんな重要な結論を、概要版には載せないのでしょうか?

この概要版のスライドの構成であれば、3.と4.の間に上に黒枠で囲った3行を結論として示すべきです。あるいは、3.検証結果の上の方に書いてある数行をなくしてでもこの結論の3行を入れるべきだと思います。この3行は、おそらく新聞記者が一番必要としている表現だと思います。この3行を入れておけば、概要版だけを読んだ人も重要なポイントは逃さずに理解できるはずです。

このように、報告書において強調している重要な結論を、意図的にかあるいは間違ってかわかりませんが、概要版には記載しないというところが、東京電力の広報の問題点であると思います。意図的にわかりにくくしているとは思いたくないので、これを省略してもいいと判断したとすれば、もう少しプレゼンの勉強をして欲しいと思いました。これはリスクコミュニケーションとかそういう以前の問題だと思います。


今回はちょっと普通とは違った角度でまとめてみました。

2/6追記:今年1/24の規制庁の第10回WGの資料にもこの問題は報告されていることを発見しましたのでリンクを貼っておきます。
 
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東京電力のSr測定法の誤りの原因判明。信じられない説明資料の作り方! | 3.11東日本大震災後の日本

コメント

Re: 計数効率60%はあり得ない

> 計数効率60%という数字が出てきたということは、平成15年の標準線源の10年分の減衰分を補正しないで使っていたからである。減衰分を補正したら48%くらいになるので計数効率の原理からいってもおかしくないし、実は何もおかしくなかった(減衰分の補正を忘れていただけ)という理解で良いでしょうか?

はい。そのような疑いが強いと思います。あまりにも数字がぴったりなので。

> あと、報告書の4ページにSr-89の計数効率が約50~60%という数字で採用していますが、これは問題ないのでしょうか?この時(これは平成15年ですが)のY-90の効率が50~70%となっていますが、これもおかしいということでしょうか?

この測定器で計数効率が50%を超えることはあり得ません。東電は機器効率を計数効率と誤認している可能性があります。繰り返しになりますが、デッドタイムにしても、放射線計測に関して、東電は初歩的な知識が無いことがはっきりしました。頼りないです。

Re: 計数効率60%はあり得ない

ひとり事故調さん

機器効率というのと計数効率というのは違うのですね。勉強になりました。

正確に理解できていないのですが、ということは、計数効率60%という数字が出てきたということは、平成15年の標準線源の10年分の減衰分を補正しないで使っていたからである。減衰分を補正したら48%くらいになるので計数効率の原理からいってもおかしくないし、実は何もおかしくなかった(減衰分の補正を忘れていただけ)という理解で良いでしょうか?

あと、報告書の4ページにSr-89の計数効率が約50~60%という数字で採用していますが、これは問題ないのでしょうか?この時(これは平成15年ですが)のY-90の効率が50~70%となっていますが、これもおかしいということでしょうか?


環境管理棟については、今日書いた記事にもあるように、4m盤のサンプルを測定するラボのようですので、そのあたりの対応が違ってちゃんとできていた、というのはあり得ると思います。そもそも、報告書には「効率測定作業は計測器導入時にのみ実施するものであるため不慣れな作業であり,一連の作業プロセスの中で立ち止まるには至らなかった。 」とありましたから、やり方、計算の仕方を知らなかった可能性はありますね。

計数効率60%はあり得ない

昨日のコメントに関して、自分の認識が正しいかどうか、もう少し調べてみました。計数効率というのは、試料のぐるり全方向(4πジオメトリー)に飛び出す放射線のうち、何パーセントが検出されるか、というもの。また、機器効率というのがあって、これは検出器側(2πジオメトリー)に放射されるものについての検出効率のことです。計数効率が40%だとすると、機器効率は80%になります。計数効率が50%を超えることはあり得ません。
昨日は「検出効率」という言葉を使いましたが、正しくは「計数効率」です。東電の報告書では、表では「検出効率」となっていますが、本文では「計数効率」となっています。機器効率ではないので、やはり50%以上の値は変なのです。
千代田テクノルのパンフレットによると、5,6号ホットラボのLBC-4211B(東電のレポートでは”B”が無い)の機器効率は80%、環境管理棟のLBC-4202Bの機器効率は50%となっています。東電は機器効率と計数効率を混同している可能性があります。

> 詳細な点はわからないのですが、同様に表に出ていた環境管理棟の方はH19年12月導入なので、こちらも(6年なので減少率は少ないはずですが)同じように数値が変化していないは何故なのでしょうか?

流石TSOKDBAさん!鋭いご指摘です。
環境管理棟の方は、私も気になっていたのですが、正直、よく分りません。5,6号の方は高線量を扱うホットラボ、環境管理の方は低線量の試料を扱う所で、場所も違うので全く別のラボと考えていいのではないでしょうか。環境管理の方はちゃんとしていたということかな、と思います。
東電には各原発に分析担当の人がいると思うのですが、今回の問題についても関わらないと言うか、変だと思っても干渉しないようにしているのではないでしょうか。事故後の対応をずっと見てきましたが、全社を挙げて行っているようには感じられません。非常に風通しの悪い社風なのかと思います。

> 測定結果がこんなレベルまで信頼できないとなると、やはり東電だけに測定させているのはムリがあると思いました。

同感です。これほど頼りないとは思いませんでした。放射能の分析については、おそらく分析センターが日本の最高峰だと思います。一流の分析技術者の指導が望まれます。また、まだ環境線量の高い5,6号機で分析業務を行うことは、分析者の被爆線量の問題と分析精度の両面から、即刻やめてほしいと思います。福島第二で分析するか、第一の中の線量の低い場所、あるいは近隣で線量の低い所に分析所を作り、充分な遮蔽を行って、信頼できる測定を行ってほしいです。

Re: Sr-90分析の問題は10年前に作った線源の放射壊変による減少を補正していないからかも

ひとり事故調さん

コメントありがとうございました。

面白い説ですよね。詳細な点はわからないのですが、同様に表に出ていた環境管理棟の方はH19年12月導入なので、こちらも(6年なので減少率は少ないはずですが)同じように数値が変化していないは何故なのでしょうか?たまたま数字が合っていただけということはないのか。そこだけ気になりました。

数え落としの話については、あまりにも初歩的すぎて開いた口が塞がらない、という感じですよね。この問題って、全βの測定だけなのでしょうかね?γ核種の測定でも同様の事はないのでしょうか。そちらも気になりました。こんな事があると、東電の測定マニュアルを全部公開して欲しいとまで思ってしまいますよね。
測定結果がこんなレベルまで信頼できないとなると、やはり東電だけに測定させているのはムリがあると思いました。

TSOKDBA

Sr-90分析の問題は10年前に作った線源の放射壊変による減少を補正していないからかも

東電のレポートを読んでも、要領を得ないというか、釈然としません。変だと思ったのは、検出効率60.4%という数字です。放射線は文字通り四方八方放射状に飛び出すので、周りをぐるっと検出器で取り囲まない限り、全部を検出することはできません。普通は検出器の反対側に飛び出す放射線は測定できないはずで、検出効率が50%を超えることは無いと思われます。
平成15年に標準線源を作成したということです。まさかとは思いますが、もしそのまま同じ線源を使っており、しかもSr-90の壊変による減少分を補正していなかったとしたらどうなるのか、計算してみました。Sr-90の半減期は28.8年、10年経つと、(1/2)^(10/28.8) = 0.786になります。一方、東電による平成15年12月と26年1月の検出効率の比は、47.9%/60.4% = 0.793であり、近い数字となります。これでかなり疑いが強くなりました。
もし、古い標準線源を今も使い、放射壊変による減少を考慮せず、それを基準にして試料を測定したとすれば、見かけ上、分析値が大きくなると思います。でも、まだ、そんなバカなことは無いだろうと思っていました。しかし、その次に、今頃になって、ベータ線計数器の不感時間補正(デッドタイム補正)を行っていなかったことが公表されました。驚愕しました。こんな基礎的なことも知らなかったのか。カウンターの数え落とし、不感時間については、おそらくガイガー・カウンターが発明された頃から理解されていたことであり、20世紀の前半には物理学の常識になっていたと思います。放射線計測の初歩の知識です。
知れば知るほど東電の技術力は低い、と思うようになりました。実際に分析業務を行っているのは、東電の子会社のアルバイト的な方々であり、マニュアル通りにルーチンワークを行っていると思います。そのような方々を非難するつもりは全くありません。問題は、東電のエリートに本物のプロの技術者がいないのではないか、ということです。
このように考えてくると、Sr-90の分析についての上記の推測は、的をえているのではないか、と思っております。

プロフィール

TSOKDBA

Author:TSOKDBA
twitterは@tsokdbaです。
3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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