護岸付近にある地下水観測孔の「深さの違い」で解けてくる謎
2/24に行われた第11回汚染水WGでは、非常に重要な情報がいつもの通りさらりと公開されました。汚染水WGの場でもその追加された情報については一切の説明がなかったため、WGのメンバーでその情報の持つ意味についてわかった人は皆無だったでしょう。
私もこの資料は一通り目を通していたのですが、8ページの重要な情報は見落としてしまいました。
しかしながら、最近よくこのブログにコメントをくださる「ひとり事故調」さんがその情報を見逃さず、護岸付近の不思議なデータを読み解くヒントをくれました。「2011年4月のビーバー作戦を再現します その10(トレンチのどこから漏れたのかを推論)」のコメントのやり取りを読んでいただきたいのですが、今回はそのコメントで提示された説について私なりに確認して検証してみたいと思います。いくつかの話がありますのでわけて考えていきたいと思います。1回目の今回は掘削深度についてです(2回目をいつにするかは今後考えます)。
本当はタイトルを「2011年4月のビーバー作戦を再現します 特別編」としようと思ったのですが、そのタイトルだと何についての話かわかりにくいのでタイトルは変更しています。しかし、私の位置づけとしては「2011年4月のビーバー作戦を再現します その10(トレンチのどこから漏れたのかを推論)」の続きです。
今回は2011年4月の話はちょっとお休みさせていただきます(事故からちょうど3年の3.11に間に合わせたかったのに!)。
1. 地下水観測孔のデータの謎
まずは、東京電力のHPにある「福島第一原子力発電所周辺の放射性物質の分析結果」というページで「採取地点別放射性物質の分析結果」の図の中の「4.地下水(1~4号護岸)」というボタンを押してみましょう。そうすると下記のようなpdfファイルが表示されます。

(3/1の4.福島第一原子力発電所周辺における地下水分析結果(1~4号機護岸) より)
この図は毎日更新されているようで、その時点の最新の情報が2ページにわたって網羅されています。1ページ目が上に掲載されたNo.1エリアと呼ばれる1-2号機間の一番汚染のひどいところです。No.1エリアは地下水観測孔が多いため、1ページ使わないと表示できないのです。2ページ目にはそれ以外の護岸エリアのデータがまとめて示されています。
このようなまとめの図は2ヶ月くらい前に始まりました。それまでは、汚染水WGではまとめたデータが示されることはありましたが、東京電力のHPでは基本的には測定データが表の形で示されるだけでした。そういう意味では東京電力の情報公開は少しずつ進んでいるとも言えます。
さて、この上の図に表示されているデータはCs-134、Cs-137、H-3(トリチウム)、全βの4種類です。これ以外にもSr-90のデータが一部のサンプルについては出てくるのですが、このまとめの図には表示されません。Cs-134とCs-137はほぼ一定の比になりますのでCs-137のデータだけ注目していればいいため、実質的には3種類のデータがあると考えておいて良いと思います。
しかし、これらのデータをよく見ていただければわかるのですが、私が「2011年4月のビーバー作戦を再現します その10(トレンチのどこから漏れたのかを推論)」でいくつか例を示したように、Cs-137が高いポイントと、H-3が高いポイントと、全βが高いポイントはバラバラなのです。つまり簡単にいうと、全βが高いがH-3は低い観測孔と、H-3は高いが全βが低い観測孔があり、その理由が何故なのか、汚染源が違うのか、東京電力も原子力規制委員会の汚染水WGでも、これまで誰も納得の行く説明を提示できていなかったのです。
ところが、冒頭にも述べましたが、2/24の汚染水WGで示された資料の中の1枚の図にひっそりと付け加えられていた重要な情報によって、多くの疑問を解くカギが示されたのです。ただし、このカギだけでは正解と思われる説にたどり着くのは難しく、ひとり事故調さんの考察が必要でした。このあとで順を追って詳しくその話を示していきます。
せっかくなので、この機会に地下水観測孔がいつからどのように観測されるようになったのかを振り返ってみます。このようなレビューができるのはおそらくこのブログだけだと思います。
2. 地下水観測孔拡大の経緯
2013年6月19日、東京電力は1ヶ月前の5月に測定したNo.1~No.3の測定結果を発表しました(1ヶ月もかかったことが問題とされました)。しかしこの地下水観測孔No.1、No.2、No.3の測定はその時が初めてではありませんでした。
実はこれらは、2012年12月に一度だけ調査(資料の61枚目)がされています。ただし、翌2013年1月31日に示されたその時の結果では、Cs-134とCs-137がND(0.8Bq/L未満)というデータだけが発表されています。

(2013年1/31 福島第一原子力発電所1~4号機の廃炉措置等に向けた取り組みの進捗状況(7.3MB)104枚目 より)
しかしながら、この時すでにNo.1でH-3が29,000Bq/Lと高かったということは当時は公開されませんでした。しかし、その時発表されなかった情報も2013年6/19に発表されたデータと一緒に発表されました。

(2013年6/19 福島第一原子力発電所におけるタービン建屋東側の地下水調査結果について より)
これを見ると、2012年12/8のNo.1では、確かにCs-137はND(ただしよく見ると「γ核種の測定について高いBGを使用しているため真値より低い値となっている。」という注意書きがありました。)ですが、H-3は29,000Bq/Lと、2013年になってからよりは少ないものの、それなりの値が検出されています。しかし東京電力は当時このデータを発表しませんでした。
2013年4月に地下貯水槽が問題となり、マスメディアが汚染水に注目するようになって、東京電力は「港湾内海水中放射性物質濃度低減に関する専門家による検討会」を設置しました。これは東京電力が独自に設置したもので、2013年4/26の第2回事務局会議の資料(73~77枚目)に設置の理由が載っています。第1回(4/26)および第2回(5/27)の会議の概要は5/30の第3回事務局会議の資料(93~107枚目)に載っています。
そして、この専門家の会議で2012年12月にサンプリングして以来測定していない地下水を測定するべき、との提案があり、それに従って東京電力が5/24にサンプリングした結果が6/19に発表されたのです。その結果、No.1でH-3が500,000Bq/L、Sr-90が1000Bq/Lと告示濃度を上回る濃度になっていることがわかったため、この事実を公表するとともに、No.1の回りに下図のように地下水観測孔を増やすことを決めました。

(2013年6/19 福島第一原子力発電所におけるタービン建屋東側の地下水調査結果について<続報> より)
このあとの6/27の第5回事務局会議の資料(100~112ページ)には、公表が遅れた理由や、No.1エリア以外のNo.2エリアやNo.3エリアの追加予定が示されています。
参考までに、2013年7/25の第6回事務局会議の資料(113~120ページ)には、第3回(7/1)と第4回(7/23)の専門家会議の結果も出ていますので興味のある方はご覧下さい。ちなみに、第4回の専門家会議は東京電力が地下水が海へ流出していることを認めた7/22の翌日です。
この専門家会議(メンバーは上記リンクに載っています)は、それまで東京電力が測定しようとしなかった地下水のデータを取らせることにより、結果的にこれがその後の汚染水の海への流出を認めることにつながりましたから、一定の意義はあったものと思います。
3. 舞台は汚染水対策検討WGへ
そして、2013年7月になってからは追加で掘ったNo.1-1やNo.1-2のデータが出てきます。7月以降は毎週金曜日(リンクは7/5)になるとまとめのデータが発表されるようになったのですが、7/19にはNo.1-3とNo.1-4を含めて追加で掘った観測孔全ての一回目のデータが発表されました。

(2013年7/19 タービン建屋東側における地下水および海水中の放射性物質濃度の状況について より)
そして7/22に東京電力は「海側地下水および海水中放射性物質濃度上昇問題の現状と対策」という資料を記者会見で発表し、地下水が海に流れ続けていたことを認めました。その後は、規制庁の特定原子力施設監視・評価検討会の中に汚染水対策検討ワーキンググループが設置されて、記者会見ではできないような専門家からのいろいろな要請、指示が始まっていくのです。
第1回のWGにおいては、地下水観測孔をさらに拡大するボーリング計画が示されました。

(8/2第1回WG資料2 海側地下水及び海水中放射性物質濃度上昇問題の現状と対策[東京電力] より)
この時点ですでにNo.1エリア(観測孔No.1のあった1号機と2号機のスクリーンの間のこと)でNo.1-5までが掘られていて、No.1-15までが計画に入っていました。7/22に地下水が海に通じていることが公表されましたが、それを証明する決定的な証拠となったのが、地下水の水位変動が潮位変動と一致しているというデータでしたので、いくつかの観測孔は水位も同時に計測することになっていました。
この時までに地下水観測孔の深さについて示されていたデータは、6/19の資料に示された地下16mの深さまで掘るというものだけでした。
その後の8/12の第2回WGでは、計画段階ですが、どの地下水観測孔をどの深さで掘るのか、という資料が示されました。

(8/12 第2回WG資料1 海側地下水及び海水中放射性物質濃度上昇問題の現状と対策[東京電力]13ページ より)
これを見ると、ほとんどの観測孔が16mの深さまで掘る予定でしたが、今も存在するNo.1-8だけは5mという計画になっています。すでに水ガラス遮水壁をつくるために薬液を注入する工事は始まっていましたが、今から考えるとここだけが計画段階で5mだったのは不思議な気がします。
ところが、この掘削深度に関する情報は8/21の第3回WG以降の資料からは消えてしまうのです。表のフォーマットが変更されているためもあるのですが、その際に出す情報の見直しが行われ、掘削深度のデータはその後はこの表の中では出てきていません。
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少し話がそれますが、実は東京電力はこのような情報の出し方をよく行います。1回目の発表では細かくデータを発表するのに、2回目以降ではその項目が消えてしまうのです。先ほど表で示した2013年6/19のNo.1のデータでは一番下に塩素濃度のデータがあったのですが、それ以降ではトレンチの調査以外では出てきませんでした。塩素濃度は、地下水が海とつながっている事を示す重要なデータであるため、出さないようにしようという判断が行われたものと思われます。ひょっとすると、測定したのに公表しないと隠蔽と思われるため、測定する事もやめたのかもしれません(少なくとも記者会見では塩素濃度は測定していないといっています)。
観測孔の掘削深度という重要なデータも、第3回WG以降これまで示されてこなかったということは、(これがキーになるということを知りつつ)いったん公開した情報をそれ以降公開しないという判断を東京電力がしたということを示しています。ということは、おそらく最初の公表時にはどの情報までを公開するか、ということにはあまりチェックが行き届かず、公開したあとの反響などを踏まえて、どこかの部署(あるいは上層部)から非公開にするように、という指示が出ているのだと思います。
つまり、広報部も含めて、東京電力では記者会見などで発表する情報をしっかりとチェックする体制が整っていないということもこういうことから読み取れるのです。チェックがしっかりと行き届いている組織ならば、その組織にとって都合の悪い情報は絶対に出さないように最初からチェックする事ができますから。そういう意味では、東京電力の脇の甘さに助けられて出てきている情報があるかもしれません。
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さて、もとに戻ります。この汚染水WGにおいて、安原委員が地下水観測孔からのサンプリングについて質問し、観測孔全体から採水していることを東京電力から引き出します。そして、このエリアでは表層の埋戻土層と、その下の中粒砂岩層があることから、深さを変えてボーリングを行い、深いところと浅いところとどちらが汚染されているのかを確認すべきだ、という指摘をほぼ毎回してきました。
それに対して東京電力は毎回、「ご意見はわかりました。ご指導いただいたことを踏まえて検討させていただきます。」という趣旨の回答をするだけで、実際には何も行いませんでした。しかし、「汚染水処理の現状レビュー(9/30の第7回汚染水対策検討WGより)」に示したように、9/30の第7回WGにおいて1号機の北側にあるNo.0-1については、安原委員の度重なる指摘であることを更田委員から指摘され、この観測孔については深さを変えて掘ってみることを約束させられました。
「また、この件に関して、安原委員から、No.0-1については現状では上から下までの全ての地下水を測定しているため、深さを変えて浅いところの水が汚染されているのか深いところの水が汚染されているのかを確認すべきだと指摘しました。それを受けて、これがもう安原委員の3-4回目の指摘ということで更田委員からも指摘され、東京電力もさすがにNo.0-1に関しては深さを変えてボーリングをします、と答えさせられました。」
(「汚染水処理の現状レビュー(9/30の第7回汚染水対策検討WGより)」より)
それを受けて開かれた10/15の第8回WGにおいては、No.0-1について、深さを変えて掘った穴を2つ用意し、埋戻土層と中粒砂岩層からサンプリングすることを東京電力が表明しました。

(10/15 第8回WG資料1 護岸付近の地下水から告示濃度限を超える放射性物質検出等に関する対応について [東京電力 ] より)
そして、上の図に書いてあるNo.0-1-1とNo.0-3-1は浅い埋戻土層から、No.0-1-2とNo.0-3-2は深い中粒砂岩層から採水するように深さを変えて掘ることが下図のように示されました。

(10/15 第8回WG資料1 護岸付近の地下水から告示濃度限を超える放射性物質検出等に関する対応について [東京電力 ] より)
さらに、比較のためにこれまでの掘削方法と採水方法がどうであったのか、ということを示したのが下の右側の図です。No.0-1ではこれまでとは違う採水方法(孔内の複数箇所で採水器で採水する)を取ることがここで明らかにされています。

(10/15 第8回WG資料1 護岸付近の地下水から告示濃度限を超える放射性物質検出等に関する対応について [東京電力 ] より)
このようにして深さを変えることにより、No.0-1-1とNo.0-1-2を比較すると、明らかにNo.0-1-2の深い中粒砂岩層の方がH-3の濃度が高いことがわかってきたのです(詳細は「福島原発 汚染水関係データ 12/16 (護岸地下水の深さを変えたH-3のデータ)」を参照してください)。
さて、ここで一つ上の図をよく見ておいて欲しいのですが、実はこの図はその後の汚染水WGでも出てきています。今年1/24の第10回WGでも上の二つの図をまとめた形で示されています。ただし、あくまで1号機の北側のエリアに関する情報しか載せていませんでした。

(1/24 第10回WG資料5 護岸付近の地下水からの告示濃度限度を超える放射性物質の検出等に関する対応 について[東京電力] より)
そして今回2/24の第11回WGで示された資料がこれです。これまでの資料を読んできた人にとっては、「あ、また例の資料ね。」と読み飛ばすような図です。ところが、ここにはこれまでになかった重要な情報が載っていたのでした。

(2/24第11回WG資料4 護岸付近の地下水から告示濃度限を超える放射性物質検出等に関する対応について【東京電力】 より)
私も前回と同じ資料だと思っていました。該当する地下水観測孔の数が増えたな、という意識はあったのですが、5mの深さの観測孔はNo.0-1-2とNo.0-3-2だけだと思っていたので、そこにこれほど多くの観測孔が追加されているとは思いもしませんでした。
冒頭に書いた「2011年4月のビーバー作戦を再現します その10(トレンチのどこから漏れたのかを推論)」におけるひとり事故調さんのコメントは、実はこのページにはこれまでになかった地下水観測孔の重要な情報が載っているということを教えてくれたのでした。
やっとここで最初に書いた話とつながりました。ではここから先はなぜこの掘削深度の情報が重要なのかを示していきます。
4. 都合が悪い(高水位)データが出る観測孔では観測しない東電
「2011年4月のビーバー作戦を再現します その10(トレンチのどこから漏れたのかを推論)」で書いた事と重複するのですが、No.1の水位は10/15の台風以来一つだけ高くなってしまっています。潮汐に連動して水位変動があり、水位もO.P.2.5m前後は維持しています。

(11/1 東京電力HP 報道配付資料 より(10ページ))
東京電力は水位計が壊れているのではないかと考えて11月に水位計を取り替えるということもしましたがこの現象は変わりませんでした。また、No.1は海からは距離があるのですが、明らかに潮位による変動が見られます。

(東京電力HP 2013年11/22 報道配布資料より(16ページ))
「ということは、何か重要な意味を持ったデータになっている可能性があります。」と、前回は書いたのですが、この時の前提は、「全てのNo.1エリアの地下水観測孔は16mの深さである」ということでした。しかしながら、2/24に公表された地下水観測孔の深さと、上のグラフに載っている観測孔をよく比べてみましょう。
深さ16m:No.1
深さ 5m:No.1-8、No.1-9、No.1-11、No.1-16、(No.1-17:この時は未設置)
情報がなかったためにみんなが信じていた事とは全く違い、じつは11月時点で水位測定データを発表していた地下水観測孔は、No.1以外は全て深さ5mしかなかったのです。となると、次の謎のうち、水質データに関する謎は簡単に解けてしまいます。
「なぜ、No.1の4m北側に掘ったNo.1とNo.1-17では水位も異なるし、水質データも全く異なるのか?」

(12/16 東京電力HP 報道配付資料 より)
東京電力はNo.1の水位計が信用できないとして、代替の観測孔としてNo.1の北側4mにNo.1-17を掘りました。上図を見ていただければわかるように、No.1とNo.1-17はほとんど同じ場所にあります。ところが、水位は下のグラフに示すように、No.1(赤線)はO.P.2-2.5mですし、No.1-17(緑線)はO.P.1.5m前後で全く異なります。

(12/16 東京電力HP 報道配付資料 より)
一方、水質データを見ると、Cs-137はどちらもNDでしたが、12/12のデータ(12/18発表)でH-3はNo.1が230,000Bq/Lに対してNo.1-17が16,000Bq/L、全βもNo.1が500Bq/Lに対してNo.1-17が65Bq/Lと10倍前後No.1の方が高い値になっています。Co-60やSb-125もNo.1はNDなのに対してNo.1-17は微量ながら検出されていて、明らかに二つの地下水は由来の異なる汚染水で構成されていることが示唆されていました。
この問題は当時は大きな謎でした。しかし、上記のように、観測孔の深さが違うとなれば、No.0-1(1号機の北側)付近のように深いところの方が放射性物質を多く含む地下水が流れていると考えることは容易です。
東京電力は、当然のことながら観測孔の深さの違いは知っていたはずです。しかしながら、その情報を2/24まで出さずに、No.1が一つだけ水位が高い理由はわからないと言い続け、挙げ句の果てに水位計が壊れているといってNo.1の水位観測は12/18の発表からやめてしまいました。その結果として、1/24の第10回WGにおいては、これまでずっと東電が発表したかったような形で「ウェルポイントによる地下水くみ上げにより、地盤改良天端レベル(O.P.+2.20m)以下で推移」と説明することができたのです。

(1/24 第10回汚染水WG 資料5(28ページ)より)
いかがでしょうか。こうやってみてくると、明らかに東京電力は自分の出したい形のデータがあり、それに合わないデータは機器の故障ということにして除くということを平然とやってくるということがよくわかります。
No.1-2の水位も潮汐による変動がありましたが、地盤改良を行うために事前に取り外して(リンク先1ページ)しまい、さっさと除外してしまいました。こうやってみてくると、東京電力は潮汐による水位変動がある観測孔は理由をつけて水位を測定しないようにしているとも思えるのです。
以前、2号機の原子炉の温度計が異常に高くなったことがあり、温度計の故障ということでその温度計の計測結果は発表されなくなったことがありました。あれは本当に故障だと思いますが、このような事実を見てくると、ひょっとしたらあの原子炉の温度計も故障ではなかったのかも?という穿った見方をすることもできてしまいます。東京電力の情報の出し方は、不信感を増すだけであり、信頼できる情報の出し方をしていないことが今回の2/24の掘削深度の情報一つでわかってしまいました。
5. なぜNo.1だけ水位が高いのか?
これまでなんの説明もせずに埋戻土層とか中粒砂岩層といった表現をしてきましたが、ここで少し説明しておきます。護岸付近はO.P.4mなので4m盤などとも呼ばれていますが、このエリアは原発建設時にO.P.-4m付近まで一度掘り返して、その後で埋め戻しています。それが下の図で一番上にある埋戻土層で、中粒砂岩層よりも透水係数は高いだろうという東電のコメントがある透水層です。その下はO.P.-11m程度まではもともとあった中粒砂岩層で、ここも比較的水を良く通す透水層です。

(2/24第11回WG資料4 護岸付近の地下水から告示濃度限を超える放射性物質検出等に関する対応について【東京電力】 より)
そのさらに下には水を通しにくい泥岩層があり、ここが難透水層と呼ばれています。そして、そのさらに下にも複数の透水層があることがわかっているのですが、泥岩層の下には互層と呼ばれる層があって、そこはまた水を通しやすい透水層になっています。

(2013年8/23 第5回汚染水処理対策委員会資料3 福島第一原子力発電所周辺の地質・地下水および解析 より )
観測孔の掘削深度の情報によって、No.1やNo.1-2といった当初の観測孔は深い部分の中粒砂岩層の地下水のデータを観測しており、最近水位を観測しているNo.1-16やNo.1-17はその上にある埋戻土層の地下水のデータを観測していることがわかりました。しかし、どちらも透水層なので、この二つの地層の間で水の流れが違う事をどう説明するのか、さらには中粒砂岩層のNo.1がなぜ水位が高いのか、これに関しては掘削深度の情報がわかってもすぐにはわかりませんでした。
私は当初、「2011年4月のビーバー作戦を再現します その10(トレンチのどこから漏れたのかを推論)」に書いたように、No.1付近は実は下部透水層が浅いところにあって、No.1は下部透水層までボーリングしてしまったのではないか?と思っていました。No.1-17が浅いということを知らなければ、そうでも考えないと水質の違いを説明できなかったからです。
しかし、今回掘削深度の違いを知った上で、No.1の水位だけがなぜ高いのか、それに関してひとり事故調さんの説ではそれも説明できそうな気がします。いただいたコメントを引用します。
「埋土と砂岩層で水頭差が生じていることになるので、両者が水理的には繋がっておらず、間に水を通さない層があることになります。地盤改良と称してエリアの周囲で凝固剤を注入しています。一方、エリアの中央ではウェルポイントで埋土部分の地下水を汲み上げているので、薬剤が埋土の底の部分を内側に向かって流れて、そのような不透水層が出来てきたと思われます。
このように考えると、No.1の水位と、その近くに掘られたNo.1-17(5m孔)の水位が違っていても何の不思議もありません。ウェルポイントの水の汲み上げが砂岩層の地下水には影響しない(しなくなった)ということだと思います。」
(コメントより)
つまりこれはどういうことかというと、東京電力が水ガラスの遮水壁を作るために薬液注入を2013年7月から8月に行いました。それとほぼ並行してウエルポイントで地下水を汲み上げ始めました。このため、注入した薬液も埋戻土層の下部に沿ってウエルポイント付近に流れていき、それが埋戻土層と中粒砂岩層の間の不透水層を形成したのではないか?ということなのです。

(2013年9/12 第6回WG資料4(18ページ)に一部加筆)
確かに、No.1-3、No.1-4、No.1-5などは8月下旬から9月上旬にかけて相次いで水位がおかしな挙動をするようになり、薬液がにじみ出てくるといった現象が見られていました。そして、そのおかしな水位は薬液注入工事をしている時に起こるということも判明していました。

(2013年8/30 第5回WG資料1(9ページ) より )
従って、8/15以降に稼働したウエルポイントで地下水を引いたために、薬液が埋戻土層の下部を流れていって不透水層を形成したというのはデータとしても合致します。ウエルポイントは資料によると深さが約5m(O.P.-1m)ですので、先ほどの掘削深度を示した資料にあった埋戻土層の深さ(O.P.-4m)と大きくずれてはいません。ウエルポイントの深さを中心に薬液が引っ張られていき、埋戻土層と中粒砂岩層の境目付近に不透水層が形成されたというのはありうる話だと思います。

(2013年8/21 第3回WG資料2(36ページ) より)
ひとり事故調さんの説では、埋戻土層と中粒砂岩層の間に不透水層ができれば、その上下では水の行き来がなくなるということになります。そうすると、上部の埋戻土層はウエルポイントで強力に引いているので水位が下がるが、その下の中粒砂岩層は本来の水位を示しているということになり、中粒砂岩層のNo.1だけが水位が高いことも説明ができるのです。
私はこの説明はあたっているのではないかと考えていますが、念のためにこれまでの汚染水WGの資料を持ち出して、ウエルポイントから引いた移送量とそれぞれの水位を時系列を追ってみておきましょう。グラフのオンパレードで申し訳ありませんが、こんなリンク集を作ることも今後まずないと思うので、この際にまとめておきます。
6. 汚染水WGの資料を用いてNo.1の水位変動を検証
先ほどはウエルポイントの資料も提示しましたが、この下のグラフに集水ピットという言葉が出てくるので、念のために集水ピットの概念図もつけておきます。

(2013年8/21 第3回WG資料2(35ページ) より)
まず東京電力は6月19日にNo.1の地下水観測孔から500,000Bq/LのH-3が観測されたことを公表した際に、海への漏洩防止のための地盤改良として水ガラスの遮水壁を護岸の海沿いに設置する事を発表しています。そして7月からその工事を開始しました。この水ガラスの遮水壁は2列設置したので、完成したのは8月下旬でした。

(2013年6/27 第5回事務局会議資料【資料3】個別の計画毎の進捗状況(102枚目)より )
それよりも少し遅れて、8月9日から集水ピット、ならびに8月15日からウエルポイントにより地下水を汲み上げ、それをタービン建屋やトレンチに戻すという作業を開始しました。

(2013年8/21 第3回WG資料2(32ページ) より)
上のグラフで、棒グラフの移送量(=汲み上げ量)と、各観測孔の水位とを見比べれば一目瞭然ですが、ウエルポイントが稼働してからは移送量も増えて、水位が一気に下がっています。
しかし、それよりも前に、水ガラスの遮水壁の設置によって特にNo.1エリアの地下水の水位が7月から8月にかけての1ヶ月間で1m以上上昇していたことは記憶しておくべきだと思います。下のグラフではピンクのラインがNo.1ですが、水ガラスの遮水壁設置前はO.P.約2mでした。もともとは震災後にサブドレンが止まってからはそれが標準的な地下水位だったのでしょう。それが、梅雨の降雨の影響もあるのですが、水ガラスの1列目が完了した7月下旬にはせき止められてO.P.3mを超えてしまっています。そのため、上がってしまった水位を下げる必要が出てきたのです。

(2013年8/12 第2回WG資料1(17ページ) より)
ウエルポイントの利用によって東京電力が目指していたのは、水ガラス遮水壁の上端であるO.P.2.2m以下に各観測孔の水位を下げることです。そうすれば水ガラスの遮水壁が意味を持ってくることになります。そのため、このあと示しますが汚染水WGの資料でもO.P.2.2mよりも下にあるかどうかということが大きなポイントとして提示されています。

(2013年8/30 第5回WG資料1(8ページ) より)
2013年8/30の第5回WGの資料では、ウエルポイントの効果がはっきりとわかるようになっています。いくつか水位がおかしな挙動を示しているポイントがありますが、これは薬液混入によるものということで下のグラフからは除外されています。

(2013年8/30 第5回WG資料1(11ページ) より)
しかし、この時に重要な指摘が二つコメントとして出されました。まず一つは本当に水ガラスの遮水壁が機能しているならばNo.1-9の水位が低下したことを確認することということです。

(2013年9/12 第6回WG資料4(30ページ) より)
ついで、No.1やNo.1-2の水位が潮位と連動しているので完全に地盤改良によって海への流出を止めたとはいえないのではないか、という指摘です。

(2013年9/12 第6回WG資料4(31ページ) より)
約2週間後の9月12日に開催された第6回の汚染水WGでは、これらに対しての東電の見解が上のように述べられています。しかし、私の考えでは、東京電力は「水位変化を注視して潮位の影響が小さくなっていくことを確認」したのではなく、このような都合の悪いデータが出る観測孔は理由をつけて水位測定をしないようにしていったというのが正解ではないかと思います。
また、東京電力はこの日、No.1-4に引き続きNo.1-3とNo.1-5の水位がおかしな挙動を示すようになったことを報告しています。(ちなみに、2013年9/20の資料には、No.1-2の水位計は地盤改良に伴って事前に取り外したと記載があります。)

(2013年9/12 第6回WG資料4(21ページ) より)
それらを除外すると、見かけ上はO.P.2.2mよりも水位が低くなっています。

(2013年9/12 第6回WG資料4(23ページ) より)
それから、この第6回の資料には観測孔の計画でNo.1-16についてはまだ出てきていないのですが、次の第7回(9/30)の時にはすでにNo.1-16は完成しています。第6回でNo.1-3の水位観測をやめてもよいという確認をして、わずか半月で観測孔を完成させ、深さ5mの観測孔を運用開始したのです。おそらく安原さんから何度ももらっていたコメントを参考にしていたことは明らかです。安原さんのコメントに対応してNo.0-1で深さを変えて観測孔を掘るという計画が示されたのは第8回(10/15)の汚染水WGですが、それ以前から東電は自分たちが出したいデータを出せるように埋戻土層までの浅い観測孔をいくつも作っていたのです。
それからさらに半月後の9/30に第7回汚染水WGが開催されました。その時には、秋の台風第1弾として、9/15頃の大雨の影響でNo.1-9の水位(こげ茶色)が9/16、9/17にはO.P.2mを超えているのがわかると思います。一方で、ウエルポイントで大量に吸引しているためと思いますが、9/16には移送量が192m3(=192トン)とそれまでの最高となり、深さ5mのNo.1-8だけでなく、深さ16mのNo.1(赤線)やNo.1-2(ピンク)もO.P.1.5mと下がっていることがわかります。ということは、この時点においては、まだウエルポイントによる吸引効果がNo.1やNo.1-2に対しても有効であることがわかるのです
ただし、この9月の台風以降、No.1の水位が少し他のポイントよりも高くなっていることは注目しておく必要があります。。

(2013年9/30 第7回WG資料2(24ページ) より)
さらに2週間後に行われた第8回汚染水WGにおいては、10月上旬の大雨の影響がわかります。ただ、この時点でもまだウエルポイントで大量に引くとNo.1の水位も下がるという傾向は続いています。

(2013年10/15 第8回WG資料1(29ページ) より)
10/15のあとに台風26号が来て、No.1の水位がおかしくなるのですが、その後汚染水WG自体が3ヶ月ほど開催されなかった(10/24の第9回は台風接近に伴う堰からの水漏れの事しか議論しませんでした。)ため、その後の今年の1/24の第10回ではすでにNo.1のデータが消された状態になっていました。

(2014年1/24 第10回WG資料5(28ページ) より)
しかしながら、規制庁の面談資料(安全規制管理官(BWR担当)付(沸騰水型軽水炉に関するもの))には、幻に終わった11/12の第10回汚染水WG用の資料ドラフトが掲載されています。

(2013年11/8 規制庁面談資料 汚染水対策検討ワーキンググループ(第10回会合)の資料について(資料2 14ページ) より)
この資料はドラフトなので正式版ではありませんが、11/5頃までの移送量と水位はこれで十分にわかります。これを見ると、10/16の台風26号によって、大量の雨が降って水位が上がり、ウエルポイントからも1日300m3近く汲み上げを行いました。この時に何かが起こり、それ以降はNo.1の水位はO.P.2.5mを超えるようになりました。

(2013年12/13 規制庁面談資料 東京電力福島第一原子力発電所における護岸エリアの対策工事の進捗に係る面談(資料1 12ページ) より)
さらに、12/13の面談資料には、11月から12月の移送量と水位の関係が示されています。この一ヶ月はほとんど動きがありませんでしたので、特にコメントすることはありません。No.1の水位はずっとO.P.2.5m前後を維持しています。

(2013年12/13 規制庁面談資料 東京電力福島第一原子力発電所における護岸エリアの対策工事の進捗に係る面談(資料1 13ページ) より)
ところが、この日の面談資料では、上のような理由でNo.1の水位は測定しないと規制庁に報告し、了解を取っているのです。そして、12/16の報告を最後にNo.1の水位は12/18以降は過去のデータも含めて消されてしまったのです。
確かに、10/16の台風以来水位が急上昇したのはこれまで見てきたとおりです。しかし、その原因として、「推定される原因としては、台風時にウェルポイントで最大300m3/日程度の大量の排水を行ったことから、観測孔自体が損傷し、観測孔に水みちが形成された可能性」と書いてあります。
ウエルポイントで急激に排水を行ったため、付近にあるNo.1の観測孔に影響を及ぼした可能性はありますが、観測孔に水みちが形成されるとどうして水位が急上昇するのでしょうか?周りの水位はNo.1よりも低いので、仮に水みちができたとしても水位計の絶対値がずれていない限りNo.1の水位が低くなることはあっても高くなるというのは理屈に合っていないように思います。
あるいは、私が以前考えたように、下部透水層に対して水みちができてしまい、そのために被圧地下水の水位を示すようになって水位が高くなったというならばわからないこともないですが、東京電力の主張はおそらくそうではないと思います。
また、仮に水みちが形成されて水位がおかしくなっていたとしても、No.1の地下水で潮位との連動があることは消しようがない事実です。12/13の面談資料には「水位振幅も大きくなった」とありますが、10/15以降はより潮位変動との連動性が強くなっただけで、決しておかしな動きをしているわけではありません。台風による大雨で何が起こったのかは不明ですが、水ガラスの遮水壁が一部こわれたとか、南北に走る電線管路などで海とつながるルートが新たにつながって潮位との連動性が増したということだと思います。
このあたりについてはぜひ読んだ方からのご意見もいただきたいと思います。
以上のように汚染水WGの資料を時系列を追って全て見てくると、東京電力に取って都合の悪いデータが出るような観測孔ではなぜか計器が故障したりして水位測定がされなくなっていったことがわかります。もちろん本当の故障も多いのですが、中にはどうしてこのデータを除外するのだろうか?と疑いたくなるような理由の付け方で除外されているものもあります。
汚染水WGは10月末から2ヶ月間開催されませんでしたが、まるでNo.1の水位測定をやめて、これ以上余計な突っ込みをされなくてもいいようになってから1月に開催した、ともとれるような見事なタイミングでした。
一方でひとり事故調さんの説が正しいかどうかですが、No.1の水位が他の観測孔の水位よりも高くなったのは9月中旬の台風以降です。ただし、10月上旬まではウエルポイントで大量に汲み上げるとNo.1の水位も低下しており、この時点では不透水層は完成していません。10/15の台風のあとには他の観測孔とは明らかに違った挙動を示すようになり、ウエルポイントで汲み上げてもNo.1の水位は変動しなくなっています。この台風によって薬液の不透水層のバリアが完成したのかどうかはわかりません。しかし、No.1で潮位の変動があることは疑いのない事実であり、10月中旬以降その連動性がより発揮してきている以上、東電がいうようにNo.1の観測孔が壊れたというよりは、ひとり事故調さんのいうようにこの観測孔が本来の水位を示していると考えるのが妥当だと私は考えています。
7. まとめ
かなり長々と書いてきましたが、最後にまとめをしておきましょう。
1.2/24に開示された地下水観測孔の掘削深度により、No.1とそこからわずか4m北側に掘られたNo.1-17の放射性物質の濃度の違いは説明できるようになった。
2.H-3が高いポイントと全βが高いポイントがあることも、掘削深度の違いで説明が出来る事がわかった。
(この違いについては次回この話をするときに取り上げる予定です。)
3.No.1の水位変動が潮汐と連動していることは、中粒砂岩層が(経路は不明だが)海とつながっている事を示している。掘削深度の浅い5mの観測孔では、ウエルポイントで強制的に引いていることもあり、潮汐とリンクした水位変動はほとんど見られない。
4.これらの事象を説明するには、注入した薬液が埋戻土層の下部にたまって難透水層を形成し、下の中粒砂岩層と水を分離している説が有力である。
これまでに開示されている情報のかなりの部分を今回は並べてみました。そのことによって、読んでいただいた方から私が気がつかなかった視点をご指摘いただけるとありがたいと思います。
コメントや情報などがあればぜひお願いします。
元の記事の「2011年4月のビーバー作戦を再現します その10(トレンチのどこから漏れたのかを推論)」にはコメントがいろいろとついていますのでぜひコメントも含めてお読みください。
まずは、東京電力のHPにある「福島第一原子力発電所周辺の放射性物質の分析結果」というページで「採取地点別放射性物質の分析結果」の図の中の「4.地下水(1~4号護岸)」というボタンを押してみましょう。そうすると下記のようなpdfファイルが表示されます。

(3/1の4.福島第一原子力発電所周辺における地下水分析結果(1~4号機護岸) より)
この図は毎日更新されているようで、その時点の最新の情報が2ページにわたって網羅されています。1ページ目が上に掲載されたNo.1エリアと呼ばれる1-2号機間の一番汚染のひどいところです。No.1エリアは地下水観測孔が多いため、1ページ使わないと表示できないのです。2ページ目にはそれ以外の護岸エリアのデータがまとめて示されています。
このようなまとめの図は2ヶ月くらい前に始まりました。それまでは、汚染水WGではまとめたデータが示されることはありましたが、東京電力のHPでは基本的には測定データが表の形で示されるだけでした。そういう意味では東京電力の情報公開は少しずつ進んでいるとも言えます。
さて、この上の図に表示されているデータはCs-134、Cs-137、H-3(トリチウム)、全βの4種類です。これ以外にもSr-90のデータが一部のサンプルについては出てくるのですが、このまとめの図には表示されません。Cs-134とCs-137はほぼ一定の比になりますのでCs-137のデータだけ注目していればいいため、実質的には3種類のデータがあると考えておいて良いと思います。
しかし、これらのデータをよく見ていただければわかるのですが、私が「2011年4月のビーバー作戦を再現します その10(トレンチのどこから漏れたのかを推論)」でいくつか例を示したように、Cs-137が高いポイントと、H-3が高いポイントと、全βが高いポイントはバラバラなのです。つまり簡単にいうと、全βが高いがH-3は低い観測孔と、H-3は高いが全βが低い観測孔があり、その理由が何故なのか、汚染源が違うのか、東京電力も原子力規制委員会の汚染水WGでも、これまで誰も納得の行く説明を提示できていなかったのです。
ところが、冒頭にも述べましたが、2/24の汚染水WGで示された資料の中の1枚の図にひっそりと付け加えられていた重要な情報によって、多くの疑問を解くカギが示されたのです。ただし、このカギだけでは正解と思われる説にたどり着くのは難しく、ひとり事故調さんの考察が必要でした。このあとで順を追って詳しくその話を示していきます。
せっかくなので、この機会に地下水観測孔がいつからどのように観測されるようになったのかを振り返ってみます。このようなレビューができるのはおそらくこのブログだけだと思います。
2. 地下水観測孔拡大の経緯
2013年6月19日、東京電力は1ヶ月前の5月に測定したNo.1~No.3の測定結果を発表しました(1ヶ月もかかったことが問題とされました)。しかしこの地下水観測孔No.1、No.2、No.3の測定はその時が初めてではありませんでした。
実はこれらは、2012年12月に一度だけ調査(資料の61枚目)がされています。ただし、翌2013年1月31日に示されたその時の結果では、Cs-134とCs-137がND(0.8Bq/L未満)というデータだけが発表されています。

(2013年1/31 福島第一原子力発電所1~4号機の廃炉措置等に向けた取り組みの進捗状況(7.3MB)104枚目 より)
しかしながら、この時すでにNo.1でH-3が29,000Bq/Lと高かったということは当時は公開されませんでした。しかし、その時発表されなかった情報も2013年6/19に発表されたデータと一緒に発表されました。

(2013年6/19 福島第一原子力発電所におけるタービン建屋東側の地下水調査結果について より)
これを見ると、2012年12/8のNo.1では、確かにCs-137はND(ただしよく見ると「γ核種の測定について高いBGを使用しているため真値より低い値となっている。」という注意書きがありました。)ですが、H-3は29,000Bq/Lと、2013年になってからよりは少ないものの、それなりの値が検出されています。しかし東京電力は当時このデータを発表しませんでした。
2013年4月に地下貯水槽が問題となり、マスメディアが汚染水に注目するようになって、東京電力は「港湾内海水中放射性物質濃度低減に関する専門家による検討会」を設置しました。これは東京電力が独自に設置したもので、2013年4/26の第2回事務局会議の資料(73~77枚目)に設置の理由が載っています。第1回(4/26)および第2回(5/27)の会議の概要は5/30の第3回事務局会議の資料(93~107枚目)に載っています。
そして、この専門家の会議で2012年12月にサンプリングして以来測定していない地下水を測定するべき、との提案があり、それに従って東京電力が5/24にサンプリングした結果が6/19に発表されたのです。その結果、No.1でH-3が500,000Bq/L、Sr-90が1000Bq/Lと告示濃度を上回る濃度になっていることがわかったため、この事実を公表するとともに、No.1の回りに下図のように地下水観測孔を増やすことを決めました。

(2013年6/19 福島第一原子力発電所におけるタービン建屋東側の地下水調査結果について<続報> より)
このあとの6/27の第5回事務局会議の資料(100~112ページ)には、公表が遅れた理由や、No.1エリア以外のNo.2エリアやNo.3エリアの追加予定が示されています。
参考までに、2013年7/25の第6回事務局会議の資料(113~120ページ)には、第3回(7/1)と第4回(7/23)の専門家会議の結果も出ていますので興味のある方はご覧下さい。ちなみに、第4回の専門家会議は東京電力が地下水が海へ流出していることを認めた7/22の翌日です。
この専門家会議(メンバーは上記リンクに載っています)は、それまで東京電力が測定しようとしなかった地下水のデータを取らせることにより、結果的にこれがその後の汚染水の海への流出を認めることにつながりましたから、一定の意義はあったものと思います。
3. 舞台は汚染水対策検討WGへ
そして、2013年7月になってからは追加で掘ったNo.1-1やNo.1-2のデータが出てきます。7月以降は毎週金曜日(リンクは7/5)になるとまとめのデータが発表されるようになったのですが、7/19にはNo.1-3とNo.1-4を含めて追加で掘った観測孔全ての一回目のデータが発表されました。

(2013年7/19 タービン建屋東側における地下水および海水中の放射性物質濃度の状況について より)
そして7/22に東京電力は「海側地下水および海水中放射性物質濃度上昇問題の現状と対策」という資料を記者会見で発表し、地下水が海に流れ続けていたことを認めました。その後は、規制庁の特定原子力施設監視・評価検討会の中に汚染水対策検討ワーキンググループが設置されて、記者会見ではできないような専門家からのいろいろな要請、指示が始まっていくのです。
第1回のWGにおいては、地下水観測孔をさらに拡大するボーリング計画が示されました。

(8/2第1回WG資料2 海側地下水及び海水中放射性物質濃度上昇問題の現状と対策[東京電力] より)
この時点ですでにNo.1エリア(観測孔No.1のあった1号機と2号機のスクリーンの間のこと)でNo.1-5までが掘られていて、No.1-15までが計画に入っていました。7/22に地下水が海に通じていることが公表されましたが、それを証明する決定的な証拠となったのが、地下水の水位変動が潮位変動と一致しているというデータでしたので、いくつかの観測孔は水位も同時に計測することになっていました。
この時までに地下水観測孔の深さについて示されていたデータは、6/19の資料に示された地下16mの深さまで掘るというものだけでした。
その後の8/12の第2回WGでは、計画段階ですが、どの地下水観測孔をどの深さで掘るのか、という資料が示されました。

(8/12 第2回WG資料1 海側地下水及び海水中放射性物質濃度上昇問題の現状と対策[東京電力]13ページ より)
これを見ると、ほとんどの観測孔が16mの深さまで掘る予定でしたが、今も存在するNo.1-8だけは5mという計画になっています。すでに水ガラス遮水壁をつくるために薬液を注入する工事は始まっていましたが、今から考えるとここだけが計画段階で5mだったのは不思議な気がします。
ところが、この掘削深度に関する情報は8/21の第3回WG以降の資料からは消えてしまうのです。表のフォーマットが変更されているためもあるのですが、その際に出す情報の見直しが行われ、掘削深度のデータはその後はこの表の中では出てきていません。
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少し話がそれますが、実は東京電力はこのような情報の出し方をよく行います。1回目の発表では細かくデータを発表するのに、2回目以降ではその項目が消えてしまうのです。先ほど表で示した2013年6/19のNo.1のデータでは一番下に塩素濃度のデータがあったのですが、それ以降ではトレンチの調査以外では出てきませんでした。塩素濃度は、地下水が海とつながっている事を示す重要なデータであるため、出さないようにしようという判断が行われたものと思われます。ひょっとすると、測定したのに公表しないと隠蔽と思われるため、測定する事もやめたのかもしれません(少なくとも記者会見では塩素濃度は測定していないといっています)。
観測孔の掘削深度という重要なデータも、第3回WG以降これまで示されてこなかったということは、(これがキーになるということを知りつつ)いったん公開した情報をそれ以降公開しないという判断を東京電力がしたということを示しています。ということは、おそらく最初の公表時にはどの情報までを公開するか、ということにはあまりチェックが行き届かず、公開したあとの反響などを踏まえて、どこかの部署(あるいは上層部)から非公開にするように、という指示が出ているのだと思います。
つまり、広報部も含めて、東京電力では記者会見などで発表する情報をしっかりとチェックする体制が整っていないということもこういうことから読み取れるのです。チェックがしっかりと行き届いている組織ならば、その組織にとって都合の悪い情報は絶対に出さないように最初からチェックする事ができますから。そういう意味では、東京電力の脇の甘さに助けられて出てきている情報があるかもしれません。
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さて、もとに戻ります。この汚染水WGにおいて、安原委員が地下水観測孔からのサンプリングについて質問し、観測孔全体から採水していることを東京電力から引き出します。そして、このエリアでは表層の埋戻土層と、その下の中粒砂岩層があることから、深さを変えてボーリングを行い、深いところと浅いところとどちらが汚染されているのかを確認すべきだ、という指摘をほぼ毎回してきました。
それに対して東京電力は毎回、「ご意見はわかりました。ご指導いただいたことを踏まえて検討させていただきます。」という趣旨の回答をするだけで、実際には何も行いませんでした。しかし、「汚染水処理の現状レビュー(9/30の第7回汚染水対策検討WGより)」に示したように、9/30の第7回WGにおいて1号機の北側にあるNo.0-1については、安原委員の度重なる指摘であることを更田委員から指摘され、この観測孔については深さを変えて掘ってみることを約束させられました。
「また、この件に関して、安原委員から、No.0-1については現状では上から下までの全ての地下水を測定しているため、深さを変えて浅いところの水が汚染されているのか深いところの水が汚染されているのかを確認すべきだと指摘しました。それを受けて、これがもう安原委員の3-4回目の指摘ということで更田委員からも指摘され、東京電力もさすがにNo.0-1に関しては深さを変えてボーリングをします、と答えさせられました。」
(「汚染水処理の現状レビュー(9/30の第7回汚染水対策検討WGより)」より)
それを受けて開かれた10/15の第8回WGにおいては、No.0-1について、深さを変えて掘った穴を2つ用意し、埋戻土層と中粒砂岩層からサンプリングすることを東京電力が表明しました。

(10/15 第8回WG資料1 護岸付近の地下水から告示濃度限を超える放射性物質検出等に関する対応について [東京電力 ] より)
そして、上の図に書いてあるNo.0-1-1とNo.0-3-1は浅い埋戻土層から、No.0-1-2とNo.0-3-2は深い中粒砂岩層から採水するように深さを変えて掘ることが下図のように示されました。

(10/15 第8回WG資料1 護岸付近の地下水から告示濃度限を超える放射性物質検出等に関する対応について [東京電力 ] より)
さらに、比較のためにこれまでの掘削方法と採水方法がどうであったのか、ということを示したのが下の右側の図です。No.0-1ではこれまでとは違う採水方法(孔内の複数箇所で採水器で採水する)を取ることがここで明らかにされています。

(10/15 第8回WG資料1 護岸付近の地下水から告示濃度限を超える放射性物質検出等に関する対応について [東京電力 ] より)
このようにして深さを変えることにより、No.0-1-1とNo.0-1-2を比較すると、明らかにNo.0-1-2の深い中粒砂岩層の方がH-3の濃度が高いことがわかってきたのです(詳細は「福島原発 汚染水関係データ 12/16 (護岸地下水の深さを変えたH-3のデータ)」を参照してください)。
さて、ここで一つ上の図をよく見ておいて欲しいのですが、実はこの図はその後の汚染水WGでも出てきています。今年1/24の第10回WGでも上の二つの図をまとめた形で示されています。ただし、あくまで1号機の北側のエリアに関する情報しか載せていませんでした。

(1/24 第10回WG資料5 護岸付近の地下水からの告示濃度限度を超える放射性物質の検出等に関する対応 について[東京電力] より)
そして今回2/24の第11回WGで示された資料がこれです。これまでの資料を読んできた人にとっては、「あ、また例の資料ね。」と読み飛ばすような図です。ところが、ここにはこれまでになかった重要な情報が載っていたのでした。

(2/24第11回WG資料4 護岸付近の地下水から告示濃度限を超える放射性物質検出等に関する対応について【東京電力】 より)
私も前回と同じ資料だと思っていました。該当する地下水観測孔の数が増えたな、という意識はあったのですが、5mの深さの観測孔はNo.0-1-2とNo.0-3-2だけだと思っていたので、そこにこれほど多くの観測孔が追加されているとは思いもしませんでした。
冒頭に書いた「2011年4月のビーバー作戦を再現します その10(トレンチのどこから漏れたのかを推論)」におけるひとり事故調さんのコメントは、実はこのページにはこれまでになかった地下水観測孔の重要な情報が載っているということを教えてくれたのでした。
やっとここで最初に書いた話とつながりました。ではここから先はなぜこの掘削深度の情報が重要なのかを示していきます。
4. 都合が悪い(高水位)データが出る観測孔では観測しない東電
「2011年4月のビーバー作戦を再現します その10(トレンチのどこから漏れたのかを推論)」で書いた事と重複するのですが、No.1の水位は10/15の台風以来一つだけ高くなってしまっています。潮汐に連動して水位変動があり、水位もO.P.2.5m前後は維持しています。

(11/1 東京電力HP 報道配付資料 より(10ページ))
東京電力は水位計が壊れているのではないかと考えて11月に水位計を取り替えるということもしましたがこの現象は変わりませんでした。また、No.1は海からは距離があるのですが、明らかに潮位による変動が見られます。

(東京電力HP 2013年11/22 報道配布資料より(16ページ))
「ということは、何か重要な意味を持ったデータになっている可能性があります。」と、前回は書いたのですが、この時の前提は、「全てのNo.1エリアの地下水観測孔は16mの深さである」ということでした。しかしながら、2/24に公表された地下水観測孔の深さと、上のグラフに載っている観測孔をよく比べてみましょう。
深さ16m:No.1
深さ 5m:No.1-8、No.1-9、No.1-11、No.1-16、(No.1-17:この時は未設置)
情報がなかったためにみんなが信じていた事とは全く違い、じつは11月時点で水位測定データを発表していた地下水観測孔は、No.1以外は全て深さ5mしかなかったのです。となると、次の謎のうち、水質データに関する謎は簡単に解けてしまいます。
「なぜ、No.1の4m北側に掘ったNo.1とNo.1-17では水位も異なるし、水質データも全く異なるのか?」

(12/16 東京電力HP 報道配付資料 より)
東京電力はNo.1の水位計が信用できないとして、代替の観測孔としてNo.1の北側4mにNo.1-17を掘りました。上図を見ていただければわかるように、No.1とNo.1-17はほとんど同じ場所にあります。ところが、水位は下のグラフに示すように、No.1(赤線)はO.P.2-2.5mですし、No.1-17(緑線)はO.P.1.5m前後で全く異なります。

(12/16 東京電力HP 報道配付資料 より)
一方、水質データを見ると、Cs-137はどちらもNDでしたが、12/12のデータ(12/18発表)でH-3はNo.1が230,000Bq/Lに対してNo.1-17が16,000Bq/L、全βもNo.1が500Bq/Lに対してNo.1-17が65Bq/Lと10倍前後No.1の方が高い値になっています。Co-60やSb-125もNo.1はNDなのに対してNo.1-17は微量ながら検出されていて、明らかに二つの地下水は由来の異なる汚染水で構成されていることが示唆されていました。
この問題は当時は大きな謎でした。しかし、上記のように、観測孔の深さが違うとなれば、No.0-1(1号機の北側)付近のように深いところの方が放射性物質を多く含む地下水が流れていると考えることは容易です。
東京電力は、当然のことながら観測孔の深さの違いは知っていたはずです。しかしながら、その情報を2/24まで出さずに、No.1が一つだけ水位が高い理由はわからないと言い続け、挙げ句の果てに水位計が壊れているといってNo.1の水位観測は12/18の発表からやめてしまいました。その結果として、1/24の第10回WGにおいては、これまでずっと東電が発表したかったような形で「ウェルポイントによる地下水くみ上げにより、地盤改良天端レベル(O.P.+2.20m)以下で推移」と説明することができたのです。

(1/24 第10回汚染水WG 資料5(28ページ)より)
いかがでしょうか。こうやってみてくると、明らかに東京電力は自分の出したい形のデータがあり、それに合わないデータは機器の故障ということにして除くということを平然とやってくるということがよくわかります。
No.1-2の水位も潮汐による変動がありましたが、地盤改良を行うために事前に取り外して(リンク先1ページ)しまい、さっさと除外してしまいました。こうやってみてくると、東京電力は潮汐による水位変動がある観測孔は理由をつけて水位を測定しないようにしているとも思えるのです。
以前、2号機の原子炉の温度計が異常に高くなったことがあり、温度計の故障ということでその温度計の計測結果は発表されなくなったことがありました。あれは本当に故障だと思いますが、このような事実を見てくると、ひょっとしたらあの原子炉の温度計も故障ではなかったのかも?という穿った見方をすることもできてしまいます。東京電力の情報の出し方は、不信感を増すだけであり、信頼できる情報の出し方をしていないことが今回の2/24の掘削深度の情報一つでわかってしまいました。
5. なぜNo.1だけ水位が高いのか?
これまでなんの説明もせずに埋戻土層とか中粒砂岩層といった表現をしてきましたが、ここで少し説明しておきます。護岸付近はO.P.4mなので4m盤などとも呼ばれていますが、このエリアは原発建設時にO.P.-4m付近まで一度掘り返して、その後で埋め戻しています。それが下の図で一番上にある埋戻土層で、中粒砂岩層よりも透水係数は高いだろうという東電のコメントがある透水層です。その下はO.P.-11m程度まではもともとあった中粒砂岩層で、ここも比較的水を良く通す透水層です。

(2/24第11回WG資料4 護岸付近の地下水から告示濃度限を超える放射性物質検出等に関する対応について【東京電力】 より)
そのさらに下には水を通しにくい泥岩層があり、ここが難透水層と呼ばれています。そして、そのさらに下にも複数の透水層があることがわかっているのですが、泥岩層の下には互層と呼ばれる層があって、そこはまた水を通しやすい透水層になっています。

(2013年8/23 第5回汚染水処理対策委員会資料3 福島第一原子力発電所周辺の地質・地下水および解析 より )
観測孔の掘削深度の情報によって、No.1やNo.1-2といった当初の観測孔は深い部分の中粒砂岩層の地下水のデータを観測しており、最近水位を観測しているNo.1-16やNo.1-17はその上にある埋戻土層の地下水のデータを観測していることがわかりました。しかし、どちらも透水層なので、この二つの地層の間で水の流れが違う事をどう説明するのか、さらには中粒砂岩層のNo.1がなぜ水位が高いのか、これに関しては掘削深度の情報がわかってもすぐにはわかりませんでした。
私は当初、「2011年4月のビーバー作戦を再現します その10(トレンチのどこから漏れたのかを推論)」に書いたように、No.1付近は実は下部透水層が浅いところにあって、No.1は下部透水層までボーリングしてしまったのではないか?と思っていました。No.1-17が浅いということを知らなければ、そうでも考えないと水質の違いを説明できなかったからです。
しかし、今回掘削深度の違いを知った上で、No.1の水位だけがなぜ高いのか、それに関してひとり事故調さんの説ではそれも説明できそうな気がします。いただいたコメントを引用します。
「埋土と砂岩層で水頭差が生じていることになるので、両者が水理的には繋がっておらず、間に水を通さない層があることになります。地盤改良と称してエリアの周囲で凝固剤を注入しています。一方、エリアの中央ではウェルポイントで埋土部分の地下水を汲み上げているので、薬剤が埋土の底の部分を内側に向かって流れて、そのような不透水層が出来てきたと思われます。
このように考えると、No.1の水位と、その近くに掘られたNo.1-17(5m孔)の水位が違っていても何の不思議もありません。ウェルポイントの水の汲み上げが砂岩層の地下水には影響しない(しなくなった)ということだと思います。」
(コメントより)
つまりこれはどういうことかというと、東京電力が水ガラスの遮水壁を作るために薬液注入を2013年7月から8月に行いました。それとほぼ並行してウエルポイントで地下水を汲み上げ始めました。このため、注入した薬液も埋戻土層の下部に沿ってウエルポイント付近に流れていき、それが埋戻土層と中粒砂岩層の間の不透水層を形成したのではないか?ということなのです。

(2013年9/12 第6回WG資料4(18ページ)に一部加筆)
確かに、No.1-3、No.1-4、No.1-5などは8月下旬から9月上旬にかけて相次いで水位がおかしな挙動をするようになり、薬液がにじみ出てくるといった現象が見られていました。そして、そのおかしな水位は薬液注入工事をしている時に起こるということも判明していました。

(2013年8/30 第5回WG資料1(9ページ) より )
従って、8/15以降に稼働したウエルポイントで地下水を引いたために、薬液が埋戻土層の下部を流れていって不透水層を形成したというのはデータとしても合致します。ウエルポイントは資料によると深さが約5m(O.P.-1m)ですので、先ほどの掘削深度を示した資料にあった埋戻土層の深さ(O.P.-4m)と大きくずれてはいません。ウエルポイントの深さを中心に薬液が引っ張られていき、埋戻土層と中粒砂岩層の境目付近に不透水層が形成されたというのはありうる話だと思います。

(2013年8/21 第3回WG資料2(36ページ) より)
ひとり事故調さんの説では、埋戻土層と中粒砂岩層の間に不透水層ができれば、その上下では水の行き来がなくなるということになります。そうすると、上部の埋戻土層はウエルポイントで強力に引いているので水位が下がるが、その下の中粒砂岩層は本来の水位を示しているということになり、中粒砂岩層のNo.1だけが水位が高いことも説明ができるのです。
私はこの説明はあたっているのではないかと考えていますが、念のためにこれまでの汚染水WGの資料を持ち出して、ウエルポイントから引いた移送量とそれぞれの水位を時系列を追ってみておきましょう。グラフのオンパレードで申し訳ありませんが、こんなリンク集を作ることも今後まずないと思うので、この際にまとめておきます。
6. 汚染水WGの資料を用いてNo.1の水位変動を検証
先ほどはウエルポイントの資料も提示しましたが、この下のグラフに集水ピットという言葉が出てくるので、念のために集水ピットの概念図もつけておきます。

(2013年8/21 第3回WG資料2(35ページ) より)
まず東京電力は6月19日にNo.1の地下水観測孔から500,000Bq/LのH-3が観測されたことを公表した際に、海への漏洩防止のための地盤改良として水ガラスの遮水壁を護岸の海沿いに設置する事を発表しています。そして7月からその工事を開始しました。この水ガラスの遮水壁は2列設置したので、完成したのは8月下旬でした。

(2013年6/27 第5回事務局会議資料【資料3】個別の計画毎の進捗状況(102枚目)より )
それよりも少し遅れて、8月9日から集水ピット、ならびに8月15日からウエルポイントにより地下水を汲み上げ、それをタービン建屋やトレンチに戻すという作業を開始しました。

(2013年8/21 第3回WG資料2(32ページ) より)
上のグラフで、棒グラフの移送量(=汲み上げ量)と、各観測孔の水位とを見比べれば一目瞭然ですが、ウエルポイントが稼働してからは移送量も増えて、水位が一気に下がっています。
しかし、それよりも前に、水ガラスの遮水壁の設置によって特にNo.1エリアの地下水の水位が7月から8月にかけての1ヶ月間で1m以上上昇していたことは記憶しておくべきだと思います。下のグラフではピンクのラインがNo.1ですが、水ガラスの遮水壁設置前はO.P.約2mでした。もともとは震災後にサブドレンが止まってからはそれが標準的な地下水位だったのでしょう。それが、梅雨の降雨の影響もあるのですが、水ガラスの1列目が完了した7月下旬にはせき止められてO.P.3mを超えてしまっています。そのため、上がってしまった水位を下げる必要が出てきたのです。

(2013年8/12 第2回WG資料1(17ページ) より)
ウエルポイントの利用によって東京電力が目指していたのは、水ガラス遮水壁の上端であるO.P.2.2m以下に各観測孔の水位を下げることです。そうすれば水ガラスの遮水壁が意味を持ってくることになります。そのため、このあと示しますが汚染水WGの資料でもO.P.2.2mよりも下にあるかどうかということが大きなポイントとして提示されています。

(2013年8/30 第5回WG資料1(8ページ) より)
2013年8/30の第5回WGの資料では、ウエルポイントの効果がはっきりとわかるようになっています。いくつか水位がおかしな挙動を示しているポイントがありますが、これは薬液混入によるものということで下のグラフからは除外されています。

(2013年8/30 第5回WG資料1(11ページ) より)
しかし、この時に重要な指摘が二つコメントとして出されました。まず一つは本当に水ガラスの遮水壁が機能しているならばNo.1-9の水位が低下したことを確認することということです。

(2013年9/12 第6回WG資料4(30ページ) より)
ついで、No.1やNo.1-2の水位が潮位と連動しているので完全に地盤改良によって海への流出を止めたとはいえないのではないか、という指摘です。

(2013年9/12 第6回WG資料4(31ページ) より)
約2週間後の9月12日に開催された第6回の汚染水WGでは、これらに対しての東電の見解が上のように述べられています。しかし、私の考えでは、東京電力は「水位変化を注視して潮位の影響が小さくなっていくことを確認」したのではなく、このような都合の悪いデータが出る観測孔は理由をつけて水位測定をしないようにしていったというのが正解ではないかと思います。
また、東京電力はこの日、No.1-4に引き続きNo.1-3とNo.1-5の水位がおかしな挙動を示すようになったことを報告しています。(ちなみに、2013年9/20の資料には、No.1-2の水位計は地盤改良に伴って事前に取り外したと記載があります。)

(2013年9/12 第6回WG資料4(21ページ) より)
それらを除外すると、見かけ上はO.P.2.2mよりも水位が低くなっています。

(2013年9/12 第6回WG資料4(23ページ) より)
それから、この第6回の資料には観測孔の計画でNo.1-16についてはまだ出てきていないのですが、次の第7回(9/30)の時にはすでにNo.1-16は完成しています。第6回でNo.1-3の水位観測をやめてもよいという確認をして、わずか半月で観測孔を完成させ、深さ5mの観測孔を運用開始したのです。おそらく安原さんから何度ももらっていたコメントを参考にしていたことは明らかです。安原さんのコメントに対応してNo.0-1で深さを変えて観測孔を掘るという計画が示されたのは第8回(10/15)の汚染水WGですが、それ以前から東電は自分たちが出したいデータを出せるように埋戻土層までの浅い観測孔をいくつも作っていたのです。
それからさらに半月後の9/30に第7回汚染水WGが開催されました。その時には、秋の台風第1弾として、9/15頃の大雨の影響でNo.1-9の水位(こげ茶色)が9/16、9/17にはO.P.2mを超えているのがわかると思います。一方で、ウエルポイントで大量に吸引しているためと思いますが、9/16には移送量が192m3(=192トン)とそれまでの最高となり、深さ5mのNo.1-8だけでなく、深さ16mのNo.1(赤線)やNo.1-2(ピンク)もO.P.1.5mと下がっていることがわかります。ということは、この時点においては、まだウエルポイントによる吸引効果がNo.1やNo.1-2に対しても有効であることがわかるのです
ただし、この9月の台風以降、No.1の水位が少し他のポイントよりも高くなっていることは注目しておく必要があります。。

(2013年9/30 第7回WG資料2(24ページ) より)
さらに2週間後に行われた第8回汚染水WGにおいては、10月上旬の大雨の影響がわかります。ただ、この時点でもまだウエルポイントで大量に引くとNo.1の水位も下がるという傾向は続いています。

(2013年10/15 第8回WG資料1(29ページ) より)
10/15のあとに台風26号が来て、No.1の水位がおかしくなるのですが、その後汚染水WG自体が3ヶ月ほど開催されなかった(10/24の第9回は台風接近に伴う堰からの水漏れの事しか議論しませんでした。)ため、その後の今年の1/24の第10回ではすでにNo.1のデータが消された状態になっていました。

(2014年1/24 第10回WG資料5(28ページ) より)
しかしながら、規制庁の面談資料(安全規制管理官(BWR担当)付(沸騰水型軽水炉に関するもの))には、幻に終わった11/12の第10回汚染水WG用の資料ドラフトが掲載されています。

(2013年11/8 規制庁面談資料 汚染水対策検討ワーキンググループ(第10回会合)の資料について(資料2 14ページ) より)
この資料はドラフトなので正式版ではありませんが、11/5頃までの移送量と水位はこれで十分にわかります。これを見ると、10/16の台風26号によって、大量の雨が降って水位が上がり、ウエルポイントからも1日300m3近く汲み上げを行いました。この時に何かが起こり、それ以降はNo.1の水位はO.P.2.5mを超えるようになりました。

(2013年12/13 規制庁面談資料 東京電力福島第一原子力発電所における護岸エリアの対策工事の進捗に係る面談(資料1 12ページ) より)
さらに、12/13の面談資料には、11月から12月の移送量と水位の関係が示されています。この一ヶ月はほとんど動きがありませんでしたので、特にコメントすることはありません。No.1の水位はずっとO.P.2.5m前後を維持しています。

(2013年12/13 規制庁面談資料 東京電力福島第一原子力発電所における護岸エリアの対策工事の進捗に係る面談(資料1 13ページ) より)
ところが、この日の面談資料では、上のような理由でNo.1の水位は測定しないと規制庁に報告し、了解を取っているのです。そして、12/16の報告を最後にNo.1の水位は12/18以降は過去のデータも含めて消されてしまったのです。
確かに、10/16の台風以来水位が急上昇したのはこれまで見てきたとおりです。しかし、その原因として、「推定される原因としては、台風時にウェルポイントで最大300m3/日程度の大量の排水を行ったことから、観測孔自体が損傷し、観測孔に水みちが形成された可能性」と書いてあります。
ウエルポイントで急激に排水を行ったため、付近にあるNo.1の観測孔に影響を及ぼした可能性はありますが、観測孔に水みちが形成されるとどうして水位が急上昇するのでしょうか?周りの水位はNo.1よりも低いので、仮に水みちができたとしても水位計の絶対値がずれていない限りNo.1の水位が低くなることはあっても高くなるというのは理屈に合っていないように思います。
あるいは、私が以前考えたように、下部透水層に対して水みちができてしまい、そのために被圧地下水の水位を示すようになって水位が高くなったというならばわからないこともないですが、東京電力の主張はおそらくそうではないと思います。
また、仮に水みちが形成されて水位がおかしくなっていたとしても、No.1の地下水で潮位との連動があることは消しようがない事実です。12/13の面談資料には「水位振幅も大きくなった」とありますが、10/15以降はより潮位変動との連動性が強くなっただけで、決しておかしな動きをしているわけではありません。台風による大雨で何が起こったのかは不明ですが、水ガラスの遮水壁が一部こわれたとか、南北に走る電線管路などで海とつながるルートが新たにつながって潮位との連動性が増したということだと思います。
このあたりについてはぜひ読んだ方からのご意見もいただきたいと思います。
以上のように汚染水WGの資料を時系列を追って全て見てくると、東京電力に取って都合の悪いデータが出るような観測孔ではなぜか計器が故障したりして水位測定がされなくなっていったことがわかります。もちろん本当の故障も多いのですが、中にはどうしてこのデータを除外するのだろうか?と疑いたくなるような理由の付け方で除外されているものもあります。
汚染水WGは10月末から2ヶ月間開催されませんでしたが、まるでNo.1の水位測定をやめて、これ以上余計な突っ込みをされなくてもいいようになってから1月に開催した、ともとれるような見事なタイミングでした。
一方でひとり事故調さんの説が正しいかどうかですが、No.1の水位が他の観測孔の水位よりも高くなったのは9月中旬の台風以降です。ただし、10月上旬まではウエルポイントで大量に汲み上げるとNo.1の水位も低下しており、この時点では不透水層は完成していません。10/15の台風のあとには他の観測孔とは明らかに違った挙動を示すようになり、ウエルポイントで汲み上げてもNo.1の水位は変動しなくなっています。この台風によって薬液の不透水層のバリアが完成したのかどうかはわかりません。しかし、No.1で潮位の変動があることは疑いのない事実であり、10月中旬以降その連動性がより発揮してきている以上、東電がいうようにNo.1の観測孔が壊れたというよりは、ひとり事故調さんのいうようにこの観測孔が本来の水位を示していると考えるのが妥当だと私は考えています。
7. まとめ
かなり長々と書いてきましたが、最後にまとめをしておきましょう。
1.2/24に開示された地下水観測孔の掘削深度により、No.1とそこからわずか4m北側に掘られたNo.1-17の放射性物質の濃度の違いは説明できるようになった。
2.H-3が高いポイントと全βが高いポイントがあることも、掘削深度の違いで説明が出来る事がわかった。
(この違いについては次回この話をするときに取り上げる予定です。)
3.No.1の水位変動が潮汐と連動していることは、中粒砂岩層が(経路は不明だが)海とつながっている事を示している。掘削深度の浅い5mの観測孔では、ウエルポイントで強制的に引いていることもあり、潮汐とリンクした水位変動はほとんど見られない。
4.これらの事象を説明するには、注入した薬液が埋戻土層の下部にたまって難透水層を形成し、下の中粒砂岩層と水を分離している説が有力である。
これまでに開示されている情報のかなりの部分を今回は並べてみました。そのことによって、読んでいただいた方から私が気がつかなかった視点をご指摘いただけるとありがたいと思います。
コメントや情報などがあればぜひお願いします。
元の記事の「2011年4月のビーバー作戦を再現します その10(トレンチのどこから漏れたのかを推論)」にはコメントがいろいろとついていますのでぜひコメントも含めてお読みください。
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