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25年産米の放射性セシウム:南相馬市旧太田村の基準値超えの真の理由は?

 
7/14、朝日の記事に昨年8月の福島第一原発3号機での撤去作業と旧太田村のお米の汚染の関連を示唆する話が出て、14日は一日その話題で持ちきりでした。そこで、あらためて昨年の南相馬市旧太田村のお米の基準値超えについて考えてみたいと思います。

3月上旬に農水省のHPに「放射性セシウム濃度の高い米が発生する要因とその対策について ~要因解析調査と試験栽培等の結果の取りまとめ~(概要第2版)」という資料が公開されました。これは、昨年(2013年)春に出た「~要因解析調査と試験栽培等の結果のとりまとめ~(概要)」をアップデートしたものです。

その中で、一部ですが25年度米の放射性物質検査の結果や基準値超えの要因解析について触れられています。今回はそれについて少し解説し、今週の新しい情報も踏まえて真相がどうだったのかを考えてみたいと思います。

(8/25追記:農水省のHPに詳細な資料が公表されました。)
福島県南相馬市の25年産米の基準値超過の発生要因調査について
今回初めて公表された資料もあるようなので、内容を確認して必要があれば続編を書く予定です。
(追記ここまで)
1.農水省のHPに発表されたデータ

このブログにおいては、昨年も「25年度版:「ふくしまの恵み安全対策協議会」HPで公開されている最新情報」において福島県の米の放射能検査(全量全袋検査)についてフォローしてきました。そこで、毎日のツイートによって、「ふくしまの恵み安全対策協議会」のHPで毎朝更新される情報を集計してお知らせしてきました。福島県の平成25年度米は、7/15現在で10,977,999検体が測定されており、基準値の100Bq//kgを超えたものは28検体です。これは、24年度米の71検体よりもさらに低下しており、中でも24年度から継続して作付を行っている地域では旧福島市の1検体のみです。

0324-1米
放射性セシウム濃度の高い米が発生する要因とその対策について ~要因解析調査と試験栽培等の結果の取りまとめ~(概要第2版)」より

25年度米のなかで基準値を超えた28検体のうち27検体は新たに作付を開始した地区から出たということになります。具体的にはどこだったのか、それはデータを見てみましょう。

まず、作付制限区域での試験栽培の結果です。これは、作付制限区域ですので、あくまで試験的な栽培を行うだけで、ここで収穫された米は出荷しないということが前提になっています。南相馬市、葛尾村、飯舘村の作付制限区域から全部で17のほ場を選択して、深耕などの除染のほか、カリ肥料の施用など吸収抑制対策を実施し、試験栽培を行ったところ、葛尾村と飯舘村では全て100Bq/kg以下でしたが、南相馬市のほ場では9ヶ所中5ヶ所で基準値の100Bq/kgを超えるセシウムが検出されました。

0324-2米

一方、作付再開準備区域において、カリ肥料の施用など吸収抑制対策を行い実証栽培を実施し、全袋検査(総検査点数11,541点)を行ったところ、9,306点(81%)が25 Bq/kg未満でしたが、27点が基準値を超えてしまいました。他の川俣町、飯舘村、楢葉町では実証栽培を行ったほ場の数が少ないというのもあるのですが、これらは全て南相馬市でした。この27点が先ほど述べた25年度米の基準値超えの27検体に相当するわけです。こちらは、基準値を超えないものについては出荷が可能です。

25年度版:「ふくしまの恵み安全対策協議会」HPで公開されている最新情報」においては、スクリーニング検査のあとで行われるGe詳細検査の結果を全部チェックしていたため、基準値超えのあったのがどこの米で何Bq/kgだったのかを全て拾い上げることができます。下記で検体数は詳細検査を行った検体数です。

10/8発表 南相馬市(旧太田村) 45検体 120Bq/kgが2検体(規制値超え)
10/18発表 南相馬市(旧太田村) 100検体 160Bq/kg、110Bq/kgの2検体(規制値超え)
10/30発表 南相馬市(旧太田村)259検体 150、110、110、110、150、110、120、110Bq/kgの8検体(規制値超え)
11/11発表 福島市(旧福島市)8検体 1検体が110Bq/kg(規制値超え)
12/20発表 南相馬市(旧太田村)198検体 110、140、160、110、110、110、110、110、110、130、110、120、110、110、180Bq/kgの15検体(規制値超え)

0324-3米

基準値を超える玄米(110~180 Bq/kg)が検出されたほ場は、特定の地域に集中していたということです。南相馬市の中でも、旧太田村と呼ばれる地域に集中していました。

そこで、カリ肥料の施用など吸収抑制対策を行ったにもかかわらず特定の地域で基準値超えになった原因を農水省と福島県が中心になって調査を行いました。

0324-4米

その結果、旧太田村の8つのほ場から土壌を採取し、吸収抑制対策として用いられた塩化カリとゼオライトの量を調べて、作付後の交換性カリ(mg/100g)を調べてみると、吸収抑制対策として目標としている水準(25mg/100g)を上回っていたことがわかりました。従って、単純にカリウムの量が足りなかったということがいえないことはわかりました。

しかし、一方で交換性放射性セシウムの比率が8.3~17.3%と比較的高いことがわかりました。これは、平成24年度の中通りの平均値5.9%に比べると高い値でした。また、粘土含量が14.0~17.6%と放射性セシウムの固定力が比較的弱い可能性があることも確認できました。


そこで、25年度産米の基準値超えの原因が土壌に由来するものかどうかを確認するため、旧太田村の基準値超過ほ場とその周辺ほ場、さらには(比較として)中通りの試験ほ場の土壌を用い、栽培容器内でイネ幼苗を11日間栽培し、幼苗中の放射性セシウム(Cs-137のみ)を測定するという実験を行いました。

すると、下のグラフに示すように、基準値超過ほ場の土壌では、同地域の対照ほ場の土壌に比べて放射性セシウムがより多く吸収されたことから、基準値超過に土壌の性質が影響したと考えられました

しかしながら、中通りのほ場の土壌に比べると、玄米の放射性セシウム濃度は同程度である一方、幼苗中の放射性セシウム濃度は半分程度となっており、当該地域の基準値超過には、土壌以外の要素も影響している可能性が示唆されました。

0324-5米


この最後の実験は意味深なデータです。この実験では、稲の幼苗を生育させて、土壌から稲体へのセシウムの吸収を調べています。一方で、棒グラフの下に書いてある数字は同じほ場からとれた25年度産の玄米中の放射性セシウムです。

棒グラフではCs-137のみを測定していて、下の表では玄米中のCs-134+Cs-137のデータを記載してありますので、例えば超過ほ場では、110Bq/kgといってもCs-137だけでは約80Bq/kgということになります。原発事故後2年半以上が経過しており、Cs-134の半減期を超えていますので、Cs-134:Cs-137は約1:2になっています。

そうすると、全く同じ実験でのデータではないということを注意する必要がありますが、Cs-137のみで考えると玄米/稲体比が超過ほ場およびその周辺ほ場では、対象ほ場や中通りの試験ほ場と比べて異常に高いのがよくわかると思います。

稲体  玄米 玄米/稲体
超過ほ場 87 80 92%
超過ほ場周辺 71 60 85%
対象ほ場 33 16 48%
中通り試験ほ場 180 80 44%


稲体と玄米を比較すると、玄米は稲体の1/2~1/3であることがこれまで報告されていますから、このデータは、旧太田村の基準値超えの要因が、土壌によるものの他、土壌以外の別の要因もある可能性を示唆しています。


2. 新たにわかった情報

もう一つの原因がどこにあるのか気になっていたのですが、その答を示す資料が昨晩(7/15)明らかにされました。おしどりマコさんが書いているブロマガの記事の中にその資料があったのです。
南相馬の玄米に放射性物質が直接付着:その1「関係者の苦悩」
(なお、この記事は南相馬の玄米に放射性物質が直接付着:その2「3号機の汚染ダスト」南相馬の玄米に放射性物質が直接付着:その3「球状セシウム粒子(仮称:セシウムボールCs ball)」もありますのでぜひ読んでみて下さい。興味深いです。)

それによると、2月14日に開催された南相馬市の説明会において、農水省と福島県が旧太田村の基準値超過の原因を発表していたというのです。

これを読むと、「放射性セシウム濃度の高い米が発生する要因とその対策について ~要因解析調査と試験栽培等の結果の取りまとめ~(概要第2版)」に掲載されている情報よりも遙かに多くの情報が載っていることがわかります。

上に記載した情報と重複するところは省略して、ポイントと思われる部分を紹介します。

まず、基準値超えが出たほ場がどこにあるのかがわかる図です。この情報は今まで明らかにされていませんでした。赤いマークが基準値超えをしたほ場を示しています。旧太田村は東西に幅広いのですが、太田川に沿ったあたりが該当する地域だということがだいたいわかります。ちなみに、一番南にある赤いマークは試験栽培で基準値超えをしたほ場で、最初に5つのほ場があるとご紹介した場所になります。14日の朝日の記事にも図が載っていましたが、この図の情報を元にSPEEDIのデータを合わせて作ったことがわかります。

0324-6米

その他の情報の中で一番興味を引き、また信じがたいのが、一番最後のデータです。調査結果の概要として、今回は省略しますが、用水の影響も調査して結果もあるのですが、用水の放射性セシウム濃度への影響は確認されていないとしています。となると、先ほどの玄米/稲体の不思議な比率の高さは何だろうか?という疑問がわいてきます。

それに対する答を示唆する情報が次に用意されていました。

下の図では、米粒をイメージングプレートという放射線を検出する装置を用いて調べたところ、右側の平成24年度米ではほとんど何も見られなかったのに対し、左側の旧太田村の平成25年度の玄米では、感光にかなりの濃淡があり、一部の米粒が高い濃度の放射性物質を含んでいることを示していました。

さらに、稲穂を同様にイメージングプレートで感光させたところ、これは旧太田村よりも南側にある小高区の試験ほ場(作付制限区域)ですが、稲穂に放射性物質が固まって付着している例が見られたということです。朝日の記事でも出てきたこの写真は、可視画像と重ねたものであるとコメントがついています。

0324-7米

旧太田村では、収穫後の交差汚染防止対策が実施されていたということと、基準値超えの玄米を水洗いしても放射性セシウム濃度が下がらなかったことから、交差汚染とは考えられないというコメントも付いています。

このような事から、先ほどの玄米/稲体比の高さと合わせて考えると、放射性物質が稲体に直接付着した直接汚染ということが一番可能性が高いと考えられるのです。

ということは、一つの可能性として、どこからか放射性物質が飛んできて、それが稲穂に付着し、そこから玄米に移行した。その放射性物質の付着の仕方は一様ではないため、同じ田んぼの中でも付着した稲と付着していない稲があり、多くの玄米はそれほど高いCs濃度ではないのに、一部の放射性物質が付着した玄米が混ざっていることによって、全体として110Bq/kg~180Bq/kgの玄米として検出されたということが考えられます。

ですから、7/14の朝日などの報道にあったように、昨年8月の瓦礫撤去の作業で放射性物質が舞い上がって飛んできたということが十分に説明できるならば、旧太田村の27検体の基準値超えのうち、110Bq/kgとか120Bq/kgの20検体については、このせいで基準値超えになった可能性もあると考えられます。ただ、そこまで断定するにはもう少し細かい検証が必要です。

しかし、さきほどのおしどりマコさんの記事を読んでいくと、農水省の関係者がいろいろな要因を検討した結果、福島第一原発から飛んできたと考えるのが一番可能性が高いという推論をしていったということがわかります。細かく引用しませんのでぜひ読んでみ下さい。

まとめると、現時点の情報ではこのような事が考えられます。

1.旧太田村の基準値超え27検体がでた圃場は限られており、カリウム対策などはなされていたものの、交換性放射性セシウムの率がやや高いという要因があった。そのためにおそらくセシウムが高めにでる土壌であった。一方で用水についてはあまり影響していない可能性が高い。

2.この基準値超えをした圃場の土壌を用いて行ったポット試験のデータを精査すると、幼苗のセシウム取り込みと実際に玄米にでてきたセシウムの比率を考えると土壌からの吸い上げだけでは説明できない汚染が半分くらいある。

3.事故後2年以上経って直接汚染というのは通常ならば考えにくいが、たまたま2013年8月には福島第一原発の3号機で瓦礫撤去作業を行っており、作業員が身体被曝するなどのトラブルが起こっていた。イメージングプレートのデータを合わせて考えると、この時の作業によってその日の風下にあたる旧太田村の稲に放射性セシウムが付着し、それが玄米に取り込まれた可能性が一つの説明としてあり得る。

この仮説についてはまだ検証が必要ですが、現時点ではその圃場の土壌の性質プラス1Fの瓦礫撤去作業で飛んできた放射性物質で基準値超えをしてしまったというのが一番あり得る話ではないかと私は考えています。おそらく農水省としてもその裏を取るための作業をいろいろとしていたために公表が遅れたのだと思います。

取り急ぎ現段階でわかっている情報をまとめました。

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コメント

Re: No title

naoさん

お返事遅くなりました。
コメントいただいたとき、私は旧太田村と小高区の違いをわかるように記載しただろうか?と一瞬あせりました。
作付制限区域の情報は全量全袋検査の集計には入ってこないというのも、実はこの情報で初めてわかりました。

その後の話はnaoさんのまとめてくれたこちらを見た方がわかりやすいですね。

http://togetter.com/li/693612

No title

いつも詳細な検証解説有難うございます。
地元説明会の配布資料の稲穂の写真を朝日の記事と見比べると、朝日が出した写真は同じ南相馬市でも全袋検査で基準値越えの米が取れた作付再開準備区域の旧太田村ではなく、福島第一原発の20 km圏内の作付制限区域内にある小高区内の試験ほ場でとれた米の稲穂の写真と一致することがわかりますね。朝日の記事が写真につけた説明は「南相馬市で昨秋収穫された稲穂」となっており、深く考えない人が読めば「これが全袋検査で基準値越えした旧太田村の米の写真か」と思ってしまうでしょう。紙数が限られているとはいえ、誤解を誘う説明で腹立たしい。

No title

仮に、瓦礫撤去による、飛散セシウムだと仮定しても、
局所的すぎませんか?

本件を、「瓦礫撤去」のみに限定するのは、いささか乱暴の様に感じます。

テロを含めた検証が必要だと感じます。

プロフィール

TSOKDBA

Author:TSOKDBA
twitterは@tsokdbaです。
3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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