規制委の監視評価検討会(4/18)での規制委とエネ庁のバトルは必見!
4/17の福島民報には「凍土壁6月着工困難か 第一原発 経産省と規制委意見に溝」という記事がありましたので、翌4/18の第20回特定原子力施設監視・評価検討会には期待していましたが、凍土壁をめぐって期待を裏切らない規制委員会とエネ庁の議論が見られました。
少し時間が経ってしまいましたが、時間のある人はぜひ検討会の動画の前半部分の凍土壁に関する議論だけでも見る価値はあると思います。簡単に解説します。
4/18の第20回特定原子力施設監視・評価検討会では、いくつもの議題がありましたが、一番時間をかけて議論した議題は陸側遮水壁の凍土壁についてです。
陸側遮水壁については、今年1月にまとめた「陸側遮水壁(凍土壁)の検討状況-陸側遮水壁タスクフォースより-」を読んでいただければ、昨年の経緯はおわかりになると思いますので、以前の議論を知りたい人はぜひお読みください。
凍土壁については、3月末の第19回特定原子力施設監視・評価検討会において議論されたことを受けて2回目として議論がなされました。第19回での関連する資料はこちらです。
・資料5-1 凍土方式遮水壁の概要について 凍土方式遮水壁の概要について
・資料5-2 凍土方式遮水壁の概要について(参考資料)
そもそも、特定原子力施設の変更認可申請書が提出されたのが2014年3月7日です。しかし、この申請書は実質わずか3枚のもので、これでは申請を受けたとは言えない(更田委員)、ということで、前回の第19回検討会(3/31)で凍土壁について規制委員会は詳しい説明を受けたということでした。
しかしながら、前回の検討会では十分な資料が開示されなかったということで、いくつか注文が付き、それを受けての今回の検討会となったわけです。
1.エネ庁および東電の説明
(今回の検討会の動画はこちら。また、コアジサシさんのまとめのtogetterはこちらです。)
今回はまず、資源エネルギー庁から資料1-1を用いて説明がありました。
資料1-1:
凍土方式遮水壁について(1/2) 30MB
凍土方式遮水壁について(2/2) 24MB
この資料1-1が合計で54MBと大きく、しかも二つに分割されているのは、理由があります。今回のエネ庁の資料は実は(1/2)のわずか9ページなのですが、その後にいくつも参考資料が付いています。
参考1:汚染水処理対策委員会 名簿 1ページ
参考2:陸側遮水壁タスクフォース 委員名簿 1ページ
参考3:福島第一原子力発電所における汚染水問題への対策の概要 1ページ
参考4:廃炉・汚染水問題に関する予防的・重層的な追加対策 1ページ
参考5:「地下水の流入抑制のための対策」概要(要約)2ページ
参考6:東京電力(株)福島第一原発における予防的・重層的な汚染水処理対策(概要) 13ページ
・東京電力(株)福島第一原子力発電所における汚染水問題に関する基本方針(9/3 原子力災害対策本部)7ページ
・東京電力(株)福島第一原子力発電所における予防的・重層的な汚染水処理対策(12/10 汚染水処理対策委員会) 236ページ
・東京電力(株)福島第一原子力発電所における廃炉・汚染水問題に対する追加対策(12/20) 8ページ
・汚染水処理対策委員会における陸側遮水壁に係る検討の経緯 1ページ
従って、(1/2)の後半部分の大半と(2/2)については、検討会でも資料として添付したので見ておいてください、というレベルで全く触れられませんでした。説明がされたのも、最初の9ページの資料と、参考6の東京電力(株)福島第一原発における予防的・重層的な汚染水処理対策(概要)がほとんどでした。
まず、エネ庁から、前回(第19回)の検討会で指摘を受けた事項についてまとめがありました。

上の図で1番目に書いてあった目的に関しては、下の図のようにこれまでの検討経緯を示しながら、これまでの地下水を「近づけない」対策の一つであるため、地下水の流入抑制を目的とするという趣旨の説明がありました。

次に、2番目に書いてあった、「他の委員会での検討結果、議論の内容等を紹介してほしい。また、会議の体制についても紹介してほしい。」という指摘に対して、今回の多くの資料が提出されたという形になっています。なかでも会議の体制については、下の図のように似たような名前の多くの会議体が入り組んでおり、名前を聞いただけではよくわからないような会議体の紹介がありました。

凍土壁の効果・特質については凍結管を容易に交換可能な三重構造にしてあることや、フィージビリティスタディ(FS)として行っている、10m四方の凍結実験の結果が一部示されました。

FSの実験は今年の3/14から凍結を開始し、約1ヶ月で土の温度を-10℃に下げることができたということで、あとに出てきた質問においても、本番においても2-4ヶ月で凍結させることができるということが回答として述べられました。

FSの結果を踏まえて、今年の6月には本番の凍土壁を着工し、今年度中には凍結を開始したいということでした。
続いて、東京電力(と鹿島)から説明がありました。二つの水位管理が絶対に必要で、それを凍土壁を設置した際にしっかり行っていきたいという説明でした。

(4/18 第20回検討会 資料1-2凍土方式遮水壁の設計について より)
具体的には、「建屋内滞留水水位<凍土壁内側の地下水位(建屋周辺)」と、「凍土壁内側の地下水位<凍土壁外の地下水位(海側)」の二つを実施するということが示されました。
建屋内の汚染水の水位を建屋の地下水の外側よりも低く維持するというのは東電がずっと説明してきたとおりです。この水位差は、凍土壁が機能しだして凍土壁内部への地下水流入がほぼなくなり、陸側の建屋外側の水位が低下した場合にも維持していかないといけないわけです。余裕を見て建屋の水位よりも0.5m以上は建屋周辺の水位を高く維持していく必要があります。
また、凍土壁がもし途中で機能しなくなったときのことや、万が一凍土壁内側に建屋内部の汚染水が漏れ出したときのことを考えて、凍土壁内側の水位を凍土壁の外側(海側)よりも水位を低く保っておく必要があります。
これらは、概念的には特に問題がないことであると思います。あとは技術的な問題がないかどうか、ということだと思います。
続いて、今回新たに注水井についての説明がありました。注水井とは、下の図のように、凍土壁内側の水位を上げる必要が出てきたときに水を送りこむための設備で、水を汲み上げるサブドレンとセットで使用することにより、細かい水位のコントロールを可能にするものです。

(4/18 第20回検討会 資料1-2凍土方式遮水壁の設計について より)
今回の10m四方の実証試験(FS)の結果を受けて、当初の予定よりも少ない31本の注水井を掘ることで、目的とする水位のコントロールができる見込みが立ったという説明がありました。また、実証試験のデータから1本の注水井で0.9L/minの速度で注水することが可能であることがわかったということも説明がありました(図は省略します)。

2.規制委及び検討会委員とエネ庁のバトル
これらの説明を受けて、多くの質疑が行われました。規制委員会のYouTube動画でいうと、38:30あたりからです。以下にポイントと思われる発言を要約して抜き出してみました。
まず更田委員からこの検討会では何を議論するのかについて説明がありました。
更田委員:
・この検討会では、凍土壁の安全性について議論する。凍土壁を設けることによって安全上の問題が起きないか、ねらい通りに水位が管理できなかったときにいかなることが起きうるのか、そのような問題が議論されているのか、遮水壁の性能が損なわれたときに制御できない状況が生まれてしまわないか、といった議論を行う。
・どうして凍土壁を選択したのか、ということについては説明を受けたような経緯で別の委員会で決まったことなのでそれの是非については議論しない。
・ただし、この検討会では福島第一原発の安定化、よりリスクを下げるという意味で様々な要求をしてきているので、それなりの人員と予算をつぎ込むこの凍土壁が他の比較において狙った効果が確実に上げられるのかどうか、議論はさせてもらう。
・この凍土壁の終結戦略を考えておく必要がある。建屋のドライアップまでこの凍土壁を維持するのか、どうするのか、また凍土壁の効果についても議論したい。
その後、今回欠席した阿部委員(東北大学教授)からの質問「前回会合後に外部専門家から提出されたご意見」を読み上げ、この意見を含めて関連する質疑を行いました。
角山委員(会津大学学長):
「規制委員会はプロアクティブに対応してきたはずなのにこの遮水壁についてはなぜ何もしてこなかったのか?」と凍土壁に関する議論を早く進めて実施するべきだ、という意見でした。それに対し、更田委員が(上で説明したように)今年の3月に申請があり、規制委員会としては申請なしに進める立場ではない、という説明でした。
更田委員の考え方の説明です。
更田委員:
・もっと早くできないのか、という意見があるのはもっともだと思う。しかし、裏返していうと、何に基づいて進めるべきか、ということでもある。
・監視評価検討会としては、検討を始めた際に最も大きなリスク評価として、海側のトレンチを第一に進めるべき、ということで昨年夏から対応を始めた。あれだってかなり時間がかかったが、やっと今年の夏に向けてトレンチとタービン建屋との縁切りができるように進んできた。
・遮水壁については、抜本策であるが故に、良く検討すべき。特に予算や人員をかなり注ぎこむので、相対的にスピードが遅くなるのは仕方ない。
・申請がないのにやるべき、というのは程度問題。規制側が推進側にあれもやれ、これもやれ、というのはおかしい。
・急ぐからこそ、凍土壁に関して以前の汚染水処理対策委員会で規制庁からすでに技術的要件を示している。
・こういった対策は具体的な技術的なパッケージが示されないと、安全上の議論はできない。そのパッケージを示すのは、実際に行う推進側の現場(この場合は東電や鹿島)であるべき。今回の凍土壁にはパッケージの提示に時間がかかったという理解。
山本委員(名古屋大学教授):
・リスクトリプレットというか、事故などのシナリオを考えて、その頻度がどれくらいで、そういうときにどうなるかという結果をいくつも3点セットで示してもらった方が効率がいいと思うがどうか?
更田委員:
・安全上の懸念をいくつか細かいものをあげてみてカテゴリー分けしていってみたい。水位管理が本当に思うようにできるのか?いったんできたものの、凍土壁の性能が失われたときにまずいことが起きる事はないのか?凍土壁を作ったら原子炉建屋が沈むというようなことはないのか?というようなことが考えられる。
山本委員:
・今の話だと全体像が明示されていない。元々の汚染水処理対策委員会などで議論しているはずなのでそれを提示してもらえればいいのではないか?
更田委員:
・この議論は1回で終わるとは思っていない。東電とエネ庁にはそういういくつものポイントについてまとめてもらう必要がある。
エネ庁新川室長:
・(エネ庁の資料の参考5を使って説明。そのあとで参考6の6ページでリスクマップ化したことを説明。)

(エネ庁の資料 参考6 6ページ より)
更田委員:
・この参考6の6ページでリスクマップ化してあるが、このリスクマップは定量的に示されているが、「えいやっ」と決めた感じがある。「誰かがこう言っている」という表現がいくつもあるが、工学的な根拠をしめされているものではないのではないか?そうであれば、いくつも疑問を抽出してそれらを確認していく必要がある。
ここまでは更田委員の考え方がずっと示されてきました。この中で特に「えいやっ」という表現に関して反論したい人がいたようで、ここから先は東委員の質問をきっかけにしてエネ庁と規制庁のバトルが始まります。
東委員(いわき明星大学教授):
・地盤沈下が一番気になるが、別の土木系の専門的な委員会で議論されているのか?
・遮水壁はあくまで機械であって、腐食等による冷媒の漏れは当然であり、定期的なメンテナンスができる形になっているのか?
・冷凍機(電源装置)の方が先に壊れるのではないか?
森口エネ庁企画官(汚染水処理対策委員会 事務局):
・エネ庁の資料の最後の巻末資料(12/10の汚染水処理対策委員会で示した200ページを超える資料)に細かいことは示してある。
・「えいやっ」で作ったわけではない。地質の超一線級の専門家に集まって地質、地盤についても議論した。
・資料は公開しているし、原子力規制庁も参加した中で緻密な検討をしてきた中での話である。
・凍結管は3重管なので、交換可能。地表の冷凍機は交換可能。
(この森口企画官の答え方が更田委員の気に障ったようで、厳しい突っ込みが入ります。)
更田委員:
・長々とお答えいただきましたが、Yes/NoのQuestionなので、地盤沈下に対する検討はあったのかなかったのか、お答えください。→森口企画官:「ありました」
・その結果を示していただきたいという質問です。超一流の先生方がこう言っていますという答は求めていません。地盤沈下について十分な検討がなされた、ということであれば、次回でもいいので、その検討結果を示してください。→森口企画官:「地盤沈下の心配はないということでここの資料には省略しています。地質構造そのものが答え」
・東先生の質問に答えてください。地盤沈下の可能性について検討したというのであればその検討結果を示してください。→森口企画官:「???」
・理解できないですか?

(規制委員会 公式YouTube より )
(自分はちゃんと答えたはずなのにどうしてこんな質問が来るんだろう?という表情の森口企画官)
(ここで新川室長がフォローに入る)
新川室長:
「次回までに整理してお答えさせていただきます。」
更田委員:
(ここから更田委員がたたみかけていきます。)
・リスクマップが「えいやっ」ときめたのでないのであれば、一つ一つの根拠についてきっちりと根拠を示していただきます。横軸の数字の定義、大小関係、頻度の関係、この一つ一つについて説明する用意がありますね?
森口企画官:
・先ほどお示しした巻末資料がありますので説明は可能かと思います。

(規制委員会 公式YouTube より )
(森口企画官が話をしだした時、新川室長がお前は余計な事をしゃべるな、という感じで後ろを向いて手で合図。1:18:00あたりです。)

(規制委員会 公式YouTube より )
(新川室長は手で静止したつもりなのに答えられてしまい、今度は後ろを振り返って余計な事をいわないかどうか確認しながらにらみつけています。幸い、今回は余計な事はいいませんでした。)
新川室長「はい、お求めがあればお答えさせていただきます。」

(規制委員会 公式YouTube より )
更田委員:
(さらに同じ事をくり返して「えいやっ」でないならば根拠を示せ、とせまります。)
・当然これが根拠としてあげられているもので、これがえいやっと決めたというものでないならば、一つ一つその大小関係について、頻度も含めて影響も含めて説明していただきます。
新川室長:
(もう森口企画官には任せられないと思ったのか、自ら反撃します。)
・本件は凍土壁にかんする議論かと思っておりますが、今説明しているのは、昨年9月に凍土式遮水壁が決定された時の予防的重層的対策として、残っているタンクのリスクなどを議論しているもので、本筋からは若干はずれていると思います。今申し上げたのは、あくまでここまでのリスクの検討はしました、ということを紹介しただけです。
更田委員:
・検討をしましたといっても、それが根拠のあるものなのか、ないものなのか、凍土壁の必要性や性能の材料として示すための材料であり、それがえいやっとザックリと決めたものでないならば、根拠を示してください。
新川室長:
・ご指摘を踏まえて次回までに整理したいと思います。
こんな感じで、更田委員と新川室長の白熱した議論が繰り広げられました。森口企画官はあとで新川室長から「余計な事をいうんじゃない!」とこっぴどく怒られたのではないかと思います。大丈夫だったのでしょうか。あそこで「えいやっと決めたのではない」「緻密な検討に基づく」などといわなければ、あそこまで厳しく詰め寄られることはなかったでしょうから、次回はより多くの資料を提示しないといけなくなり、検討にも時間がかかる可能性が出てきたわけです。
この議論、公式YouTubeでは1時間57分あたりまで続きます。この先は是非見ていただきたいので、詳細は記載しませんが、コアジサシさんのまとめのtogetterをみて、興味のあるやり取りを実際の動画でご覧いただけると雰囲気がよくわかると思います。
なお、更田委員は「えいやっ」と決めることが悪いと言っているのではありません。いろいろデータを積み重ねて議論をしていって、最後は「えいやっ」と決めるしかないだろう、というのが更田委員の持論のようです。ここでは紹介しませんでしたが、1:40前後にそのような議論が出てきました。
今回の議論で浮き彫りになったのは、エネ庁のように推進していきたい側での議論と、安全性を確認し、担保する責任を負っている規制委員会の議論とでは求める水準に違いがあるということです。
特に今回の凍土壁については、「陸側遮水壁(凍土壁)の検討状況-陸側遮水壁タスクフォースより-」でご紹介したように、東電の救済スキームとして決めた枠組み上、在来工法では国の予算をつぎ込むことができず、技術的に確立していなくて課題の多い凍土壁でないと予算が付きませんでした。
となると、当然技術的に未知数の部分が多く、それをどう評価するか、ということになります。推進側(エネ庁主催のタスクフォースや汚染水処理対策委員会)ではいかに在来工法よりも凍土壁がいいか、という比較の議論をメインにして決めてきたわけです。しかしながら、技術的に確立できていない問題であるが故に、安全上の問題については規制委員会が求めるレベルで議論がされて来たのかというとそうではない可能性があります。
ともかく、今回は「えいやっ」と決めたのではないか、という更田委員の問いかけに対して「精緻な検討をしてきた」という回答があったため、だったらその検討結果を示せ、という展開になったものです。次回の検討会が楽しみです。
なお、24日の「中長期ロードマップの進捗状況」に関する会見において、東京電力は小規模な遮水壁の凍結実験(FS)において、遮水効果が確認できたと発表したそうです。
内容としては最初の方で紹介しましたが、4/18のエネ庁の資料(1/2)に示された2枚の資料以上のものはないようです。
この凍土壁をめぐる規制委員会の検討会での議論については、今後もフォローしていきたいと思います。
陸側遮水壁については、今年1月にまとめた「陸側遮水壁(凍土壁)の検討状況-陸側遮水壁タスクフォースより-」を読んでいただければ、昨年の経緯はおわかりになると思いますので、以前の議論を知りたい人はぜひお読みください。
凍土壁については、3月末の第19回特定原子力施設監視・評価検討会において議論されたことを受けて2回目として議論がなされました。第19回での関連する資料はこちらです。
・資料5-1 凍土方式遮水壁の概要について 凍土方式遮水壁の概要について
・資料5-2 凍土方式遮水壁の概要について(参考資料)
そもそも、特定原子力施設の変更認可申請書が提出されたのが2014年3月7日です。しかし、この申請書は実質わずか3枚のもので、これでは申請を受けたとは言えない(更田委員)、ということで、前回の第19回検討会(3/31)で凍土壁について規制委員会は詳しい説明を受けたということでした。
しかしながら、前回の検討会では十分な資料が開示されなかったということで、いくつか注文が付き、それを受けての今回の検討会となったわけです。
1.エネ庁および東電の説明
(今回の検討会の動画はこちら。また、コアジサシさんのまとめのtogetterはこちらです。)
今回はまず、資源エネルギー庁から資料1-1を用いて説明がありました。
資料1-1:
凍土方式遮水壁について(1/2) 30MB
凍土方式遮水壁について(2/2) 24MB
この資料1-1が合計で54MBと大きく、しかも二つに分割されているのは、理由があります。今回のエネ庁の資料は実は(1/2)のわずか9ページなのですが、その後にいくつも参考資料が付いています。
参考1:汚染水処理対策委員会 名簿 1ページ
参考2:陸側遮水壁タスクフォース 委員名簿 1ページ
参考3:福島第一原子力発電所における汚染水問題への対策の概要 1ページ
参考4:廃炉・汚染水問題に関する予防的・重層的な追加対策 1ページ
参考5:「地下水の流入抑制のための対策」概要(要約)2ページ
参考6:東京電力(株)福島第一原発における予防的・重層的な汚染水処理対策(概要) 13ページ
・東京電力(株)福島第一原子力発電所における汚染水問題に関する基本方針(9/3 原子力災害対策本部)7ページ
・東京電力(株)福島第一原子力発電所における予防的・重層的な汚染水処理対策(12/10 汚染水処理対策委員会) 236ページ
・東京電力(株)福島第一原子力発電所における廃炉・汚染水問題に対する追加対策(12/20) 8ページ
・汚染水処理対策委員会における陸側遮水壁に係る検討の経緯 1ページ
従って、(1/2)の後半部分の大半と(2/2)については、検討会でも資料として添付したので見ておいてください、というレベルで全く触れられませんでした。説明がされたのも、最初の9ページの資料と、参考6の東京電力(株)福島第一原発における予防的・重層的な汚染水処理対策(概要)がほとんどでした。
まず、エネ庁から、前回(第19回)の検討会で指摘を受けた事項についてまとめがありました。

上の図で1番目に書いてあった目的に関しては、下の図のようにこれまでの検討経緯を示しながら、これまでの地下水を「近づけない」対策の一つであるため、地下水の流入抑制を目的とするという趣旨の説明がありました。

次に、2番目に書いてあった、「他の委員会での検討結果、議論の内容等を紹介してほしい。また、会議の体制についても紹介してほしい。」という指摘に対して、今回の多くの資料が提出されたという形になっています。なかでも会議の体制については、下の図のように似たような名前の多くの会議体が入り組んでおり、名前を聞いただけではよくわからないような会議体の紹介がありました。

凍土壁の効果・特質については凍結管を容易に交換可能な三重構造にしてあることや、フィージビリティスタディ(FS)として行っている、10m四方の凍結実験の結果が一部示されました。

FSの実験は今年の3/14から凍結を開始し、約1ヶ月で土の温度を-10℃に下げることができたということで、あとに出てきた質問においても、本番においても2-4ヶ月で凍結させることができるということが回答として述べられました。

FSの結果を踏まえて、今年の6月には本番の凍土壁を着工し、今年度中には凍結を開始したいということでした。
続いて、東京電力(と鹿島)から説明がありました。二つの水位管理が絶対に必要で、それを凍土壁を設置した際にしっかり行っていきたいという説明でした。

(4/18 第20回検討会 資料1-2凍土方式遮水壁の設計について より)
具体的には、「建屋内滞留水水位<凍土壁内側の地下水位(建屋周辺)」と、「凍土壁内側の地下水位<凍土壁外の地下水位(海側)」の二つを実施するということが示されました。
建屋内の汚染水の水位を建屋の地下水の外側よりも低く維持するというのは東電がずっと説明してきたとおりです。この水位差は、凍土壁が機能しだして凍土壁内部への地下水流入がほぼなくなり、陸側の建屋外側の水位が低下した場合にも維持していかないといけないわけです。余裕を見て建屋の水位よりも0.5m以上は建屋周辺の水位を高く維持していく必要があります。
また、凍土壁がもし途中で機能しなくなったときのことや、万が一凍土壁内側に建屋内部の汚染水が漏れ出したときのことを考えて、凍土壁内側の水位を凍土壁の外側(海側)よりも水位を低く保っておく必要があります。
これらは、概念的には特に問題がないことであると思います。あとは技術的な問題がないかどうか、ということだと思います。
続いて、今回新たに注水井についての説明がありました。注水井とは、下の図のように、凍土壁内側の水位を上げる必要が出てきたときに水を送りこむための設備で、水を汲み上げるサブドレンとセットで使用することにより、細かい水位のコントロールを可能にするものです。

(4/18 第20回検討会 資料1-2凍土方式遮水壁の設計について より)
今回の10m四方の実証試験(FS)の結果を受けて、当初の予定よりも少ない31本の注水井を掘ることで、目的とする水位のコントロールができる見込みが立ったという説明がありました。また、実証試験のデータから1本の注水井で0.9L/minの速度で注水することが可能であることがわかったということも説明がありました(図は省略します)。

2.規制委及び検討会委員とエネ庁のバトル
これらの説明を受けて、多くの質疑が行われました。規制委員会のYouTube動画でいうと、38:30あたりからです。以下にポイントと思われる発言を要約して抜き出してみました。
まず更田委員からこの検討会では何を議論するのかについて説明がありました。
更田委員:
・この検討会では、凍土壁の安全性について議論する。凍土壁を設けることによって安全上の問題が起きないか、ねらい通りに水位が管理できなかったときにいかなることが起きうるのか、そのような問題が議論されているのか、遮水壁の性能が損なわれたときに制御できない状況が生まれてしまわないか、といった議論を行う。
・どうして凍土壁を選択したのか、ということについては説明を受けたような経緯で別の委員会で決まったことなのでそれの是非については議論しない。
・ただし、この検討会では福島第一原発の安定化、よりリスクを下げるという意味で様々な要求をしてきているので、それなりの人員と予算をつぎ込むこの凍土壁が他の比較において狙った効果が確実に上げられるのかどうか、議論はさせてもらう。
・この凍土壁の終結戦略を考えておく必要がある。建屋のドライアップまでこの凍土壁を維持するのか、どうするのか、また凍土壁の効果についても議論したい。
その後、今回欠席した阿部委員(東北大学教授)からの質問「前回会合後に外部専門家から提出されたご意見」を読み上げ、この意見を含めて関連する質疑を行いました。
角山委員(会津大学学長):
「規制委員会はプロアクティブに対応してきたはずなのにこの遮水壁についてはなぜ何もしてこなかったのか?」と凍土壁に関する議論を早く進めて実施するべきだ、という意見でした。それに対し、更田委員が(上で説明したように)今年の3月に申請があり、規制委員会としては申請なしに進める立場ではない、という説明でした。
更田委員の考え方の説明です。
更田委員:
・もっと早くできないのか、という意見があるのはもっともだと思う。しかし、裏返していうと、何に基づいて進めるべきか、ということでもある。
・監視評価検討会としては、検討を始めた際に最も大きなリスク評価として、海側のトレンチを第一に進めるべき、ということで昨年夏から対応を始めた。あれだってかなり時間がかかったが、やっと今年の夏に向けてトレンチとタービン建屋との縁切りができるように進んできた。
・遮水壁については、抜本策であるが故に、良く検討すべき。特に予算や人員をかなり注ぎこむので、相対的にスピードが遅くなるのは仕方ない。
・申請がないのにやるべき、というのは程度問題。規制側が推進側にあれもやれ、これもやれ、というのはおかしい。
・急ぐからこそ、凍土壁に関して以前の汚染水処理対策委員会で規制庁からすでに技術的要件を示している。
・こういった対策は具体的な技術的なパッケージが示されないと、安全上の議論はできない。そのパッケージを示すのは、実際に行う推進側の現場(この場合は東電や鹿島)であるべき。今回の凍土壁にはパッケージの提示に時間がかかったという理解。
山本委員(名古屋大学教授):
・リスクトリプレットというか、事故などのシナリオを考えて、その頻度がどれくらいで、そういうときにどうなるかという結果をいくつも3点セットで示してもらった方が効率がいいと思うがどうか?
更田委員:
・安全上の懸念をいくつか細かいものをあげてみてカテゴリー分けしていってみたい。水位管理が本当に思うようにできるのか?いったんできたものの、凍土壁の性能が失われたときにまずいことが起きる事はないのか?凍土壁を作ったら原子炉建屋が沈むというようなことはないのか?というようなことが考えられる。
山本委員:
・今の話だと全体像が明示されていない。元々の汚染水処理対策委員会などで議論しているはずなのでそれを提示してもらえればいいのではないか?
更田委員:
・この議論は1回で終わるとは思っていない。東電とエネ庁にはそういういくつものポイントについてまとめてもらう必要がある。
エネ庁新川室長:
・(エネ庁の資料の参考5を使って説明。そのあとで参考6の6ページでリスクマップ化したことを説明。)

(エネ庁の資料 参考6 6ページ より)
更田委員:
・この参考6の6ページでリスクマップ化してあるが、このリスクマップは定量的に示されているが、「えいやっ」と決めた感じがある。「誰かがこう言っている」という表現がいくつもあるが、工学的な根拠をしめされているものではないのではないか?そうであれば、いくつも疑問を抽出してそれらを確認していく必要がある。
ここまでは更田委員の考え方がずっと示されてきました。この中で特に「えいやっ」という表現に関して反論したい人がいたようで、ここから先は東委員の質問をきっかけにしてエネ庁と規制庁のバトルが始まります。
東委員(いわき明星大学教授):
・地盤沈下が一番気になるが、別の土木系の専門的な委員会で議論されているのか?
・遮水壁はあくまで機械であって、腐食等による冷媒の漏れは当然であり、定期的なメンテナンスができる形になっているのか?
・冷凍機(電源装置)の方が先に壊れるのではないか?
森口エネ庁企画官(汚染水処理対策委員会 事務局):
・エネ庁の資料の最後の巻末資料(12/10の汚染水処理対策委員会で示した200ページを超える資料)に細かいことは示してある。
・「えいやっ」で作ったわけではない。地質の超一線級の専門家に集まって地質、地盤についても議論した。
・資料は公開しているし、原子力規制庁も参加した中で緻密な検討をしてきた中での話である。
・凍結管は3重管なので、交換可能。地表の冷凍機は交換可能。
(この森口企画官の答え方が更田委員の気に障ったようで、厳しい突っ込みが入ります。)
更田委員:
・長々とお答えいただきましたが、Yes/NoのQuestionなので、地盤沈下に対する検討はあったのかなかったのか、お答えください。→森口企画官:「ありました」
・その結果を示していただきたいという質問です。超一流の先生方がこう言っていますという答は求めていません。地盤沈下について十分な検討がなされた、ということであれば、次回でもいいので、その検討結果を示してください。→森口企画官:「地盤沈下の心配はないということでここの資料には省略しています。地質構造そのものが答え」
・東先生の質問に答えてください。地盤沈下の可能性について検討したというのであればその検討結果を示してください。→森口企画官:「???」
・理解できないですか?

(規制委員会 公式YouTube より )
(自分はちゃんと答えたはずなのにどうしてこんな質問が来るんだろう?という表情の森口企画官)
(ここで新川室長がフォローに入る)
新川室長:
「次回までに整理してお答えさせていただきます。」
更田委員:
(ここから更田委員がたたみかけていきます。)
・リスクマップが「えいやっ」ときめたのでないのであれば、一つ一つの根拠についてきっちりと根拠を示していただきます。横軸の数字の定義、大小関係、頻度の関係、この一つ一つについて説明する用意がありますね?
森口企画官:
・先ほどお示しした巻末資料がありますので説明は可能かと思います。

(規制委員会 公式YouTube より )
(森口企画官が話をしだした時、新川室長がお前は余計な事をしゃべるな、という感じで後ろを向いて手で合図。1:18:00あたりです。)

(規制委員会 公式YouTube より )
(新川室長は手で静止したつもりなのに答えられてしまい、今度は後ろを振り返って余計な事をいわないかどうか確認しながらにらみつけています。幸い、今回は余計な事はいいませんでした。)
新川室長「はい、お求めがあればお答えさせていただきます。」

(規制委員会 公式YouTube より )
更田委員:
(さらに同じ事をくり返して「えいやっ」でないならば根拠を示せ、とせまります。)
・当然これが根拠としてあげられているもので、これがえいやっと決めたというものでないならば、一つ一つその大小関係について、頻度も含めて影響も含めて説明していただきます。
新川室長:
(もう森口企画官には任せられないと思ったのか、自ら反撃します。)
・本件は凍土壁にかんする議論かと思っておりますが、今説明しているのは、昨年9月に凍土式遮水壁が決定された時の予防的重層的対策として、残っているタンクのリスクなどを議論しているもので、本筋からは若干はずれていると思います。今申し上げたのは、あくまでここまでのリスクの検討はしました、ということを紹介しただけです。
更田委員:
・検討をしましたといっても、それが根拠のあるものなのか、ないものなのか、凍土壁の必要性や性能の材料として示すための材料であり、それがえいやっとザックリと決めたものでないならば、根拠を示してください。
新川室長:
・ご指摘を踏まえて次回までに整理したいと思います。
こんな感じで、更田委員と新川室長の白熱した議論が繰り広げられました。森口企画官はあとで新川室長から「余計な事をいうんじゃない!」とこっぴどく怒られたのではないかと思います。大丈夫だったのでしょうか。あそこで「えいやっと決めたのではない」「緻密な検討に基づく」などといわなければ、あそこまで厳しく詰め寄られることはなかったでしょうから、次回はより多くの資料を提示しないといけなくなり、検討にも時間がかかる可能性が出てきたわけです。
この議論、公式YouTubeでは1時間57分あたりまで続きます。この先は是非見ていただきたいので、詳細は記載しませんが、コアジサシさんのまとめのtogetterをみて、興味のあるやり取りを実際の動画でご覧いただけると雰囲気がよくわかると思います。
なお、更田委員は「えいやっ」と決めることが悪いと言っているのではありません。いろいろデータを積み重ねて議論をしていって、最後は「えいやっ」と決めるしかないだろう、というのが更田委員の持論のようです。ここでは紹介しませんでしたが、1:40前後にそのような議論が出てきました。
今回の議論で浮き彫りになったのは、エネ庁のように推進していきたい側での議論と、安全性を確認し、担保する責任を負っている規制委員会の議論とでは求める水準に違いがあるということです。
特に今回の凍土壁については、「陸側遮水壁(凍土壁)の検討状況-陸側遮水壁タスクフォースより-」でご紹介したように、東電の救済スキームとして決めた枠組み上、在来工法では国の予算をつぎ込むことができず、技術的に確立していなくて課題の多い凍土壁でないと予算が付きませんでした。
となると、当然技術的に未知数の部分が多く、それをどう評価するか、ということになります。推進側(エネ庁主催のタスクフォースや汚染水処理対策委員会)ではいかに在来工法よりも凍土壁がいいか、という比較の議論をメインにして決めてきたわけです。しかしながら、技術的に確立できていない問題であるが故に、安全上の問題については規制委員会が求めるレベルで議論がされて来たのかというとそうではない可能性があります。
ともかく、今回は「えいやっ」と決めたのではないか、という更田委員の問いかけに対して「精緻な検討をしてきた」という回答があったため、だったらその検討結果を示せ、という展開になったものです。次回の検討会が楽しみです。
なお、24日の「中長期ロードマップの進捗状況」に関する会見において、東京電力は小規模な遮水壁の凍結実験(FS)において、遮水効果が確認できたと発表したそうです。
内容としては最初の方で紹介しましたが、4/18のエネ庁の資料(1/2)に示された2枚の資料以上のものはないようです。
この凍土壁をめぐる規制委員会の検討会での議論については、今後もフォローしていきたいと思います。
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