陸側の凍土遮水壁は6月2日に着工へ!第22回監視評価検討会はあっさりと決着
これまで、凍土壁の建設をめぐる原子力規制委員会の特定原子力施設監視評価検討会のやりとりについて、「規制委の監視評価検討会(4/18)での規制委とエネ庁のバトルは必見!」と「5/2 第21回監視評価検討会のトピックス紹介(凍土壁をめぐる議論)」でご紹介してきました。
前2回の議論を見る限り、もう一回くらいはガンガンやりあうのかな?と思っていましたが、5/26に開催された第22回特定原子力施設監視評価検討会では、あっさりと6月からの着工を認める結果となりました。
今回の議論はかなり専門的な話で細かい点はフォローしきれないのですが、概略を解説します。
1. 検討会の議論の流れ
今回の第22回特定原子力施設監視評価検討会は、前回の第21回が5/2に開催されてから3週間以上経ってから開催されました。5/2の第21回の検討会では、最後に更田委員が「次回は遠くない時期に開催したい」と言っていたのですが、その時受けた印象からするとやや時間が空いたかな、と思います。東電とエネ庁は6月には着工したいと言っていましたので、5月中に2回は開催するというイメージだと思っていましたが、私の予想は外れました。
今回は、議論の内容を地盤沈下の議論に限って行うということで、それ以外の議論については6月以降に行うという形に規制庁が整理をしたようです。5/22に規制庁が東電に渡した資料としては、地盤沈下量の評価を出すように求めています。
そして、今回の議論を地盤沈下に限定するため、今回は特別に地盤工学関係の専門家を呼びました。
京大嘉門名誉教授(環境地盤工学)、埼玉大学桑野教授(地盤工学)、東京大学徳永教授(地下水学、地質工学)、千葉大学中井教授(地盤地震工学)の4名と、原子力規制委員会の島崎委員がいつものメンバーに加わった形の議論になっています。そして、当然のことながらこれらの4名の先生が質疑の中心になっていきます。
東京電力の説明は、前半は資料2-1「凍土方式遮水壁造成による地盤影響評価」を中心にして行われました(公式YouTube0:09:00頃から1:01:30頃まで)。後半は資料1の「凍土方式遮水壁造成前後の地下水流動予測について」について説明が行われました(公式YouTube2:00:00頃から2:08:15頃まで)。
今回の地盤沈下量に対する議論は専門的な議論が多く、申し訳ないのですが、うまく説明できる自信がないために詳細は割愛させていただきます。興味のある方はぜひリンクを貼った資料と、上で紹介した公式Youtubeをご覧下さい。結論として、最大でも14~16mmの沈下しかないであろうという東京電力の説明があり、それに対して専門家の委員も含めて了承したということです。
下記には説明資料の中で私が興味を持った部分について紹介しておきます。
今回、東京電力は、規制庁の指摘に応じて、原発建設前からの地盤の状態について整理してくれました。本来はこの資料は応力を説明するための資料なのですが、その部分は省略して、地層と地下水が原発建設や地震でどうなったのかを見ていただきたいと思います。
下の図で肌色の部分は泥岩層(難透水層)で、緑色の部分が砂岩層や互層(透水層)です。原発建設前から今後の凍土壁で、どの地層まで深く掘っていったのかということをみていって欲しいと思います。
発電所建設前

発電所建設前(切土後)

上の図で、原子炉建屋は岩盤の上に直接建設することになっていましたので、泥岩層まで掘り下げてそこに建設したことがよくわかります。
運転時(震災前:サブドレン稼働)

上の図では、サブドレンを稼働して毎日約850トンもの水を汲み上げていましたので、それによって建屋付近の地下水水位が原子炉建屋の底面付近にまで下がっていたことがよくわかると思います。
震災後(現状:サブドレン稼働せず)

上の図では、サブドレンが停止したことにより、地下水位が震災前とは異なって大きく上昇していることが青い点線と実線の比較でよくわかります。一方で、建屋の中にたまっているのがいわゆる汚染水です。
凍土壁造成後(予定)

上の図で見逃していけないのは、今回の凍土壁では、どこまで凍結管を掘るのかがポイントとなっているということです。海側遮水壁の場合、上部の中粒砂岩層、泥岩層の下にある互層部(下部透水層)のさらに下の泥岩層にまでボーリングを行いました。ところが、陸側遮水壁(凍土壁)では、さらにその下にある二つの透水層、すなわち細粒砂岩層と粗粒砂岩層の下にまでボーリングして凍結させると言うことがポイントです。
これは、この日の議論にもありましたが、互層部までしか入れないということも検討したそうなのですが、そこまでで上手に止めるということを実施するのが施工上難しいことと、互層部までしか掘らなかった場合にその下の砂岩層との圧力の関係などを考慮すると一番下まで掘って流れを止めてしまった方がよい、という結論になったそうです。実際に今回の資料2-1(78ページ以降)にも、互層下部までしか根入れしなかった場合の沈下量の試算も出ています。
それ以外に、会議の場で出てきた何人かの専門家の意見をご紹介しておきます。
会津大 角山特別顧問:
全体の議論と流れが違うので発言を控えていたが言っておきたい。
福島県民の意識としては、水攻めに合っているのに小田原評定をやっているような気がする。時間をもっと大事にして欲しい。今回、土木の専門家に見ていただいて、沈下について問題ないと確認できたので良いと思うが、福島県民会議で懸念を持たれている点はそうではない。ALPSでもこの検討会についてかなり議論したが、初期故障が起こって問題が出てきている。この経験を踏まえると、凍土壁についてもデザインレビューに関わるような議論にまで踏み込んでおかないと、実際に稼働してみたらALPSと同じような問題が起こるかもしれない。だから、早く福島県民を安心させられるような議論をして欲しい。
京大 嘉門名誉教授:
凍土壁にはもともと反対である。日本の地盤改良技術は世界に冠たるものであるので、少なくとも配管の少ない山側は粘土壁などの確立された技術で壁を作るべきである。凍結工法を行っているのは日本で2社しかない。海側は凍土壁でもよい。組み合わせて施行したらいいのではないか。
いわき明星大学 東教授:
我々は地盤沈下の専門家ではなかったので、今回専門家の意見を聞けて、沈下については大丈夫だろうという印象を個人的には持てた。期待することは、福島県民にわかりやすく簡単に安全であると言うことを説明して欲しい。計算上では20倍以上の安全率があるので、モニタリングをしておけば、何かあった場合でも止めることができるとわかってよかった。
最終的に、議論の最後に更田委員が「いくつもの論点がまだ残っているので今後もこの検討会で議論はしていくが、遮水壁を設けることによる副作用として規制委員会が最も懸念していた地盤沈下ということについては本日の議論で程度についてほぼ確認ができた。従って、東京電力が凍土壁を一部着工したいということであればそれについて、規制委員会として着手を妨げるものではない。ただし、着工については事前に規制委員会に説明をして欲しい。」という発言をしました。つまり、計画全体の認可はまだできないが、6月からの着工については容認するということです。
そして、5/30に東京電力は「凍土遮水壁の着工について」という資料をHPにアナウンスし、6/2から工事を開始することを発表しました。

(5/30 東京電力HP 「凍土遮水壁の着工について」 より)
まずは山側から行っていくということです。
2. 一連の検討会での議論を振り返って
5/26の議論は、それまでの2回の検討会での議論と比べると、論点が絞られていたためもあると思うのですが、日程の設定からして6月の着工を容認するために開催されたことがなんとなく読めてきます。いわゆる出来レースの印象が強いです。
ただ、今回の検討会を終わって振り返ってみると、更田委員が今回も変更申請書について言及していたのですが、東京電力が提出した申請書がわずか3枚しかなかったということが大きく影響しているように思います。わずか3枚の変更認可申請書をどうやって審議するのか、という意識が原子力規制委員会にはあり、ふざけるな、という思いもあったのでしょう。それが、もっとしっかりと情報を出せ、ということで、過去2回の徹底的な議論になったのではないでしょうか。
ですから、原子力規制委員会の基本的なスタンスとして安全側に立って議論を行うということはまず第一にあるのですが、東京電力が変更認可申請書をわずか3枚しかないペラペラの紙で提出せずに、最初から今回までの検討会で議論してきたような内容を丁寧に説明する資料を提出していれば、すんなりと進んでいたような気がします。
ただ、規制委員会としても、東京電力になめられた、という思いだけで6月の着工を止めるほどのものではないと判断したため、6月の着工だけは認めよう、という姿勢に転換したものと思います。着工したとしても、凍土壁は冷凍を開始しない限りただの凍結管を地中に掘っているだけですので、来年春に予定されている凍結開始まではもし何かの不備が判明すれば実施を止めることができます。その議論は6月以降に行えばいい、ということだと思います。
6月の着工が予定通りに行われることが決まったということで、凍土壁問題は一段落というところですが、ALPSのように、検討会であまり細かく議論されなかった部分でトラブルが起こることも十分に予想されますので、今後もウオッチを続けていきたいと思います。
今回の第22回特定原子力施設監視評価検討会は、前回の第21回が5/2に開催されてから3週間以上経ってから開催されました。5/2の第21回の検討会では、最後に更田委員が「次回は遠くない時期に開催したい」と言っていたのですが、その時受けた印象からするとやや時間が空いたかな、と思います。東電とエネ庁は6月には着工したいと言っていましたので、5月中に2回は開催するというイメージだと思っていましたが、私の予想は外れました。
今回は、議論の内容を地盤沈下の議論に限って行うということで、それ以外の議論については6月以降に行うという形に規制庁が整理をしたようです。5/22に規制庁が東電に渡した資料としては、地盤沈下量の評価を出すように求めています。
そして、今回の議論を地盤沈下に限定するため、今回は特別に地盤工学関係の専門家を呼びました。
京大嘉門名誉教授(環境地盤工学)、埼玉大学桑野教授(地盤工学)、東京大学徳永教授(地下水学、地質工学)、千葉大学中井教授(地盤地震工学)の4名と、原子力規制委員会の島崎委員がいつものメンバーに加わった形の議論になっています。そして、当然のことながらこれらの4名の先生が質疑の中心になっていきます。
東京電力の説明は、前半は資料2-1「凍土方式遮水壁造成による地盤影響評価」を中心にして行われました(公式YouTube0:09:00頃から1:01:30頃まで)。後半は資料1の「凍土方式遮水壁造成前後の地下水流動予測について」について説明が行われました(公式YouTube2:00:00頃から2:08:15頃まで)。
今回の地盤沈下量に対する議論は専門的な議論が多く、申し訳ないのですが、うまく説明できる自信がないために詳細は割愛させていただきます。興味のある方はぜひリンクを貼った資料と、上で紹介した公式Youtubeをご覧下さい。結論として、最大でも14~16mmの沈下しかないであろうという東京電力の説明があり、それに対して専門家の委員も含めて了承したということです。
下記には説明資料の中で私が興味を持った部分について紹介しておきます。
今回、東京電力は、規制庁の指摘に応じて、原発建設前からの地盤の状態について整理してくれました。本来はこの資料は応力を説明するための資料なのですが、その部分は省略して、地層と地下水が原発建設や地震でどうなったのかを見ていただきたいと思います。
下の図で肌色の部分は泥岩層(難透水層)で、緑色の部分が砂岩層や互層(透水層)です。原発建設前から今後の凍土壁で、どの地層まで深く掘っていったのかということをみていって欲しいと思います。
発電所建設前

発電所建設前(切土後)

上の図で、原子炉建屋は岩盤の上に直接建設することになっていましたので、泥岩層まで掘り下げてそこに建設したことがよくわかります。
運転時(震災前:サブドレン稼働)

上の図では、サブドレンを稼働して毎日約850トンもの水を汲み上げていましたので、それによって建屋付近の地下水水位が原子炉建屋の底面付近にまで下がっていたことがよくわかると思います。
震災後(現状:サブドレン稼働せず)

上の図では、サブドレンが停止したことにより、地下水位が震災前とは異なって大きく上昇していることが青い点線と実線の比較でよくわかります。一方で、建屋の中にたまっているのがいわゆる汚染水です。
凍土壁造成後(予定)

上の図で見逃していけないのは、今回の凍土壁では、どこまで凍結管を掘るのかがポイントとなっているということです。海側遮水壁の場合、上部の中粒砂岩層、泥岩層の下にある互層部(下部透水層)のさらに下の泥岩層にまでボーリングを行いました。ところが、陸側遮水壁(凍土壁)では、さらにその下にある二つの透水層、すなわち細粒砂岩層と粗粒砂岩層の下にまでボーリングして凍結させると言うことがポイントです。
これは、この日の議論にもありましたが、互層部までしか入れないということも検討したそうなのですが、そこまでで上手に止めるということを実施するのが施工上難しいことと、互層部までしか掘らなかった場合にその下の砂岩層との圧力の関係などを考慮すると一番下まで掘って流れを止めてしまった方がよい、という結論になったそうです。実際に今回の資料2-1(78ページ以降)にも、互層下部までしか根入れしなかった場合の沈下量の試算も出ています。
それ以外に、会議の場で出てきた何人かの専門家の意見をご紹介しておきます。
会津大 角山特別顧問:
全体の議論と流れが違うので発言を控えていたが言っておきたい。
福島県民の意識としては、水攻めに合っているのに小田原評定をやっているような気がする。時間をもっと大事にして欲しい。今回、土木の専門家に見ていただいて、沈下について問題ないと確認できたので良いと思うが、福島県民会議で懸念を持たれている点はそうではない。ALPSでもこの検討会についてかなり議論したが、初期故障が起こって問題が出てきている。この経験を踏まえると、凍土壁についてもデザインレビューに関わるような議論にまで踏み込んでおかないと、実際に稼働してみたらALPSと同じような問題が起こるかもしれない。だから、早く福島県民を安心させられるような議論をして欲しい。
京大 嘉門名誉教授:
凍土壁にはもともと反対である。日本の地盤改良技術は世界に冠たるものであるので、少なくとも配管の少ない山側は粘土壁などの確立された技術で壁を作るべきである。凍結工法を行っているのは日本で2社しかない。海側は凍土壁でもよい。組み合わせて施行したらいいのではないか。
いわき明星大学 東教授:
我々は地盤沈下の専門家ではなかったので、今回専門家の意見を聞けて、沈下については大丈夫だろうという印象を個人的には持てた。期待することは、福島県民にわかりやすく簡単に安全であると言うことを説明して欲しい。計算上では20倍以上の安全率があるので、モニタリングをしておけば、何かあった場合でも止めることができるとわかってよかった。
最終的に、議論の最後に更田委員が「いくつもの論点がまだ残っているので今後もこの検討会で議論はしていくが、遮水壁を設けることによる副作用として規制委員会が最も懸念していた地盤沈下ということについては本日の議論で程度についてほぼ確認ができた。従って、東京電力が凍土壁を一部着工したいということであればそれについて、規制委員会として着手を妨げるものではない。ただし、着工については事前に規制委員会に説明をして欲しい。」という発言をしました。つまり、計画全体の認可はまだできないが、6月からの着工については容認するということです。
そして、5/30に東京電力は「凍土遮水壁の着工について」という資料をHPにアナウンスし、6/2から工事を開始することを発表しました。

(5/30 東京電力HP 「凍土遮水壁の着工について」 より)
まずは山側から行っていくということです。
2. 一連の検討会での議論を振り返って
5/26の議論は、それまでの2回の検討会での議論と比べると、論点が絞られていたためもあると思うのですが、日程の設定からして6月の着工を容認するために開催されたことがなんとなく読めてきます。いわゆる出来レースの印象が強いです。
ただ、今回の検討会を終わって振り返ってみると、更田委員が今回も変更申請書について言及していたのですが、東京電力が提出した申請書がわずか3枚しかなかったということが大きく影響しているように思います。わずか3枚の変更認可申請書をどうやって審議するのか、という意識が原子力規制委員会にはあり、ふざけるな、という思いもあったのでしょう。それが、もっとしっかりと情報を出せ、ということで、過去2回の徹底的な議論になったのではないでしょうか。
ですから、原子力規制委員会の基本的なスタンスとして安全側に立って議論を行うということはまず第一にあるのですが、東京電力が変更認可申請書をわずか3枚しかないペラペラの紙で提出せずに、最初から今回までの検討会で議論してきたような内容を丁寧に説明する資料を提出していれば、すんなりと進んでいたような気がします。
ただ、規制委員会としても、東京電力になめられた、という思いだけで6月の着工を止めるほどのものではないと判断したため、6月の着工だけは認めよう、という姿勢に転換したものと思います。着工したとしても、凍土壁は冷凍を開始しない限りただの凍結管を地中に掘っているだけですので、来年春に予定されている凍結開始まではもし何かの不備が判明すれば実施を止めることができます。その議論は6月以降に行えばいい、ということだと思います。
6月の着工が予定通りに行われることが決まったということで、凍土壁問題は一段落というところですが、ALPSのように、検討会であまり細かく議論されなかった部分でトラブルが起こることも十分に予想されますので、今後もウオッチを続けていきたいと思います。
- 関連記事
-
- 6/6の第23回監視評価検討会 凍土壁をめぐる議論はもうヤマを超えたか? (2014/06/08)
- 陸側の凍土遮水壁は6月2日に着工へ!第22回監視評価検討会はあっさりと決着 (2014/06/01)
- 地下水バイパスの地下水は明日(5月21日)初めて海に放出へ (2014/05/20)


↑日本ブログ村ランキングに参加しました。よかったらクリックお願いします。