福島第一原発の護岸エリア地下水 その後の動き(1)
今年の2月に「2011年4月のビーバー作戦を再現します その10(トレンチのどこから漏れたのかを推論)」において、護岸エリアの地下水の情報についてはかなり細かくレビューしました。その後は汚染水の情報をあまり細かくチェックしていなかったのですが、今回久し振りに公表されたデータをまとめてチェックしました。
今日はその中でトピックスと思われる事を簡単にご紹介します。
前回「福島第一原発の汚染水情報まとめ(4)&リンク集」において汚染水の最新情報はどこで収集できるか、ということをまとめ直しました。このまとめは6/15に作成したものですが、そのあと先週6/16にすぐ第10回廃炉・汚染水対策現地調整会議が行われましたので、その情報をアップデートしてあります。今後も適宜新しい情報を追加していく予定ですのでぜひご活用下さい。
その廃炉・汚染水対策現地調整会議において提示された情報には結構面白い情報がありました。原発事故から3年経って初めてでてきた放水路の情報などもあるのですが、それは次回以降にまわすこととして、今回はこれまでずっと追いかけてきた汚染水の情報からトピックスと思われる情報をお伝えします。
1.海側遮水壁の進捗と海水サンプリングポイントの変更
これはどちらかと言えば、トピックスというよりも私のブログでご紹介するのを忘れていた話になります。
昨年の4月から工事が始まった海側遮水壁ですが、さらに進捗してほとんど完成という段階まで来ました。既設の護岸と海側遮水壁の間は、埋め立てる工事が進んでいます。そのため、これまでは2号スクリーンのシルトフェンス内側と外側、それから1,2号取水口間といった感じで設けられてきた、海側遮水壁の内側に位置する海水のサンプリングポイントがいくつか廃止されることになりました。

(4/11 第13回汚染水対策検討WG 資料1 19ページより)
特に、「1-4号取水口北側」のポイントは、2011年からずっと続いてきたポイントで、2013年にトリチウムの海水への汚染が明らかになる契機となった重要なポイントなのですが、海側遮水壁の内側になってしまい、もう海水のサンプリングポイントとしては意味がなくなってしまいました。
そこで、段階を追って少しずつサンプリングポイントを廃止し、その代わりに新しいサンプリングポイントを新設することになりました。6/16の廃炉・汚染水対策現地調整会議の時点では下の図のようになっています。

(6/16 第10回廃炉・汚染水対策現地調整会議 資料1-1 29ページより)
現時点では、遮水壁を完全に閉じてしまうと、地下水がどこに流れ出してどういう影響があるのかまだわかっていないため、遮水壁の鋼管矢板も9本だけ残して水の出る道を開けてあります。

(6/16 第10回廃炉・汚染水対策現地調整会議 資料1-1 18ページより)
そのため、1-4号取水路開渠部分のサンプリングポイントは、下図のように、昨年夏に設置された「1-4号取水口北(東波除堤北側)」の他、「1号機取水口(遮水壁前)」、「2号機取水口(遮水壁前)」、「1~4号機取水口内南側(遮水壁前)」と、遮水壁を閉じたらなくなってしまう「3,4号機取水口間」「4号機スクリーン(シルトフェンス内側)」になっています。

(東電HP 福島第一港湾内、放水口付近、護岸の詳細分析結果 より)
海側遮水壁が完成したら現在は開けている部分も完全に鋼管矢板を打って閉じてしまいます。そうすると、山側から流れてくる地下水がどんどんたまってくるはずなのですが、その地下水は地下水ドレンで汲み上げる予定になっています。しかしながら、もし遮水壁が不完全なものであれば、汚染された地下水が海へ流出する可能性は変わらずあることになります。
これまで福島原発事故後に東電の作ったもので予定通りにうまくいったものは、ALPSやタンクをはじめとしてほとんどないため、遮水壁についてもうまくいかない可能性を考えておく必要があると思います。今後も海水データを含めて汚染された地下水が海に流出していないか、チェックし続けることが必要と私は思います。
2. 護岸地下水 最新の情報について
すでにこのブログでは何度も紹介してきていますが、タービン建屋東側の護岸エリアには多くの地下水観測孔が掘られており、2013年から観測が続けられています。

(6/16 第10回廃炉・汚染水対策現地調整会議 資料1-1 24ページより)
この中でも一番注目すべきは、やはり2011年4月に高濃度汚染水が漏洩した2号スクリーン付近のいわゆるNo.1エリアです。観測孔もこの1,2号機間にはのべ17ヶ所も掘られています。現在も観測が続けられている観測孔のデータを東電がまとめたグラフが下のグラフですが、あまりにも多くの情報が入っていて、よくわからないですよね。でも、このグラフを見て私は一つのデータに注目しました。

(6/16 第10回廃炉・汚染水対策現地調整会議 資料1-1 26ページより)
それはNo.1-17という、もともとNo.1という最初に掘られた観測孔のすぐそばに掘られた観測孔の全β核種のデータです。実は今では水位観測には用いられなくなったNo.1が深さ16mまで掘られていたのに対して、No.1-17は深さが5mと非常に浅いところの水を汲み上げて測定しているのです。これについては今年3月に書いた「護岸付近にある地下水観測孔の「深さの違い」で解けてくる謎」をぜひお読みいただければと思います。
さて、このNo.1-17は、もともと全β核種は100Bq/L未満の数値が続いていました。しかしながら、今年の3月になぜか急上昇して1000Bq/L程度までになりました。この1ヶ月でさらに上昇し、6/12のサンプリングで63,000Bq/Lの最高値を記録しました。下のグラフでいうと青い線です。その後若干下がっていますが、今年の2月から考えると1000倍以上に上昇しているというのは異常です。

全βで一番高い値を示しているのはNo.1-16と呼ばれる観測孔で、ここは1,000,000Bq/L以上の高い数値をずっと示しています。最高値は今年の2/3に記録した3,100,000Bq/Lですが、その後は上のグラフのようにやや下がって落ち着いています。

観測孔の場所を考えると、地下水の流れは西側(山側)から東側(海側)に向かっているため(上の図は海側(東側)が上になります)、No.1-16で高い数値が記録されたらいずれは東側のNo.1-17で高くなってもおかしくありません。全βは主にSr-90なので、H-3と比較すると移動速度は遅いのですが、この数ヶ月のNo.1-17の上昇具合を見ていると、おそらくは今後も数ヶ月かけてNo.1-17の全βの濃度は上昇していき、場合によっては1,000,000Bq/L近くにまで達する可能性があると私はにらんでいます。
もう一つ気になるのが、No.1-16よりももっと西側(山側)にあるNo.1-14の全βのデータです。このNo.1-14は、No.1-16やNo.1-17とは異なり、16mの深さ(6/23追記:正確にはコメントにあるように19mですが、観測孔が3m高い所にあるのでO.P.-12mという意味では同じです)まで掘られた観測孔なのですが、2013年の11月以来半年以上かけてジワジワと上昇を続けています。その結果、2013年11/18には全β核種が28Bq/Lだったのが、2014年6/9には4,800Bq/Lと100倍以上にまで上昇しています。
このNo.1-17とNo.1-14に関しては、別の意味で注目しています。No.1-17は、これまでずっと高い値を示していたNo.1-16の全βがついに移動してきたのかどうかわかりますので、地下水中の全β、特にSr-90の移動速度を推測することができるツールになる可能性があります。
一方、No.1-14については、ここが上昇するということは、明らかに2011年4月の漏洩とは異なる漏洩がどこかで起こっている可能性を示します。それが2号の海水配管トレンチであればまだいいのですが、タービン建屋からの漏洩であるとすると非常に問題です。従って、No.1-14で全βが今後どういう挙動を示すのか、今後も注目し続けていく必要があると感じました。
他のデータでもいくつか気になるデータがありましたが、今日は時間の関係でここまでとしたいと思います。
来週になるかどうかわかりませんが、今後も護岸地下水の情報はフォローしていく予定なので、今回は「その後の動き(1)」としました。今後も是非定期的にご覧になっていただきたいと思います。
その廃炉・汚染水対策現地調整会議において提示された情報には結構面白い情報がありました。原発事故から3年経って初めてでてきた放水路の情報などもあるのですが、それは次回以降にまわすこととして、今回はこれまでずっと追いかけてきた汚染水の情報からトピックスと思われる情報をお伝えします。
1.海側遮水壁の進捗と海水サンプリングポイントの変更
これはどちらかと言えば、トピックスというよりも私のブログでご紹介するのを忘れていた話になります。
昨年の4月から工事が始まった海側遮水壁ですが、さらに進捗してほとんど完成という段階まで来ました。既設の護岸と海側遮水壁の間は、埋め立てる工事が進んでいます。そのため、これまでは2号スクリーンのシルトフェンス内側と外側、それから1,2号取水口間といった感じで設けられてきた、海側遮水壁の内側に位置する海水のサンプリングポイントがいくつか廃止されることになりました。

(4/11 第13回汚染水対策検討WG 資料1 19ページより)
特に、「1-4号取水口北側」のポイントは、2011年からずっと続いてきたポイントで、2013年にトリチウムの海水への汚染が明らかになる契機となった重要なポイントなのですが、海側遮水壁の内側になってしまい、もう海水のサンプリングポイントとしては意味がなくなってしまいました。
そこで、段階を追って少しずつサンプリングポイントを廃止し、その代わりに新しいサンプリングポイントを新設することになりました。6/16の廃炉・汚染水対策現地調整会議の時点では下の図のようになっています。

(6/16 第10回廃炉・汚染水対策現地調整会議 資料1-1 29ページより)
現時点では、遮水壁を完全に閉じてしまうと、地下水がどこに流れ出してどういう影響があるのかまだわかっていないため、遮水壁の鋼管矢板も9本だけ残して水の出る道を開けてあります。

(6/16 第10回廃炉・汚染水対策現地調整会議 資料1-1 18ページより)
そのため、1-4号取水路開渠部分のサンプリングポイントは、下図のように、昨年夏に設置された「1-4号取水口北(東波除堤北側)」の他、「1号機取水口(遮水壁前)」、「2号機取水口(遮水壁前)」、「1~4号機取水口内南側(遮水壁前)」と、遮水壁を閉じたらなくなってしまう「3,4号機取水口間」「4号機スクリーン(シルトフェンス内側)」になっています。

(東電HP 福島第一港湾内、放水口付近、護岸の詳細分析結果 より)
海側遮水壁が完成したら現在は開けている部分も完全に鋼管矢板を打って閉じてしまいます。そうすると、山側から流れてくる地下水がどんどんたまってくるはずなのですが、その地下水は地下水ドレンで汲み上げる予定になっています。しかしながら、もし遮水壁が不完全なものであれば、汚染された地下水が海へ流出する可能性は変わらずあることになります。
これまで福島原発事故後に東電の作ったもので予定通りにうまくいったものは、ALPSやタンクをはじめとしてほとんどないため、遮水壁についてもうまくいかない可能性を考えておく必要があると思います。今後も海水データを含めて汚染された地下水が海に流出していないか、チェックし続けることが必要と私は思います。
2. 護岸地下水 最新の情報について
すでにこのブログでは何度も紹介してきていますが、タービン建屋東側の護岸エリアには多くの地下水観測孔が掘られており、2013年から観測が続けられています。

(6/16 第10回廃炉・汚染水対策現地調整会議 資料1-1 24ページより)
この中でも一番注目すべきは、やはり2011年4月に高濃度汚染水が漏洩した2号スクリーン付近のいわゆるNo.1エリアです。観測孔もこの1,2号機間にはのべ17ヶ所も掘られています。現在も観測が続けられている観測孔のデータを東電がまとめたグラフが下のグラフですが、あまりにも多くの情報が入っていて、よくわからないですよね。でも、このグラフを見て私は一つのデータに注目しました。

(6/16 第10回廃炉・汚染水対策現地調整会議 資料1-1 26ページより)
それはNo.1-17という、もともとNo.1という最初に掘られた観測孔のすぐそばに掘られた観測孔の全β核種のデータです。実は今では水位観測には用いられなくなったNo.1が深さ16mまで掘られていたのに対して、No.1-17は深さが5mと非常に浅いところの水を汲み上げて測定しているのです。これについては今年3月に書いた「護岸付近にある地下水観測孔の「深さの違い」で解けてくる謎」をぜひお読みいただければと思います。
さて、このNo.1-17は、もともと全β核種は100Bq/L未満の数値が続いていました。しかしながら、今年の3月になぜか急上昇して1000Bq/L程度までになりました。この1ヶ月でさらに上昇し、6/12のサンプリングで63,000Bq/Lの最高値を記録しました。下のグラフでいうと青い線です。その後若干下がっていますが、今年の2月から考えると1000倍以上に上昇しているというのは異常です。

全βで一番高い値を示しているのはNo.1-16と呼ばれる観測孔で、ここは1,000,000Bq/L以上の高い数値をずっと示しています。最高値は今年の2/3に記録した3,100,000Bq/Lですが、その後は上のグラフのようにやや下がって落ち着いています。

観測孔の場所を考えると、地下水の流れは西側(山側)から東側(海側)に向かっているため(上の図は海側(東側)が上になります)、No.1-16で高い数値が記録されたらいずれは東側のNo.1-17で高くなってもおかしくありません。全βは主にSr-90なので、H-3と比較すると移動速度は遅いのですが、この数ヶ月のNo.1-17の上昇具合を見ていると、おそらくは今後も数ヶ月かけてNo.1-17の全βの濃度は上昇していき、場合によっては1,000,000Bq/L近くにまで達する可能性があると私はにらんでいます。
もう一つ気になるのが、No.1-16よりももっと西側(山側)にあるNo.1-14の全βのデータです。このNo.1-14は、No.1-16やNo.1-17とは異なり、16mの深さ(6/23追記:正確にはコメントにあるように19mですが、観測孔が3m高い所にあるのでO.P.-12mという意味では同じです)まで掘られた観測孔なのですが、2013年の11月以来半年以上かけてジワジワと上昇を続けています。その結果、2013年11/18には全β核種が28Bq/Lだったのが、2014年6/9には4,800Bq/Lと100倍以上にまで上昇しています。
このNo.1-17とNo.1-14に関しては、別の意味で注目しています。No.1-17は、これまでずっと高い値を示していたNo.1-16の全βがついに移動してきたのかどうかわかりますので、地下水中の全β、特にSr-90の移動速度を推測することができるツールになる可能性があります。
一方、No.1-14については、ここが上昇するということは、明らかに2011年4月の漏洩とは異なる漏洩がどこかで起こっている可能性を示します。それが2号の海水配管トレンチであればまだいいのですが、タービン建屋からの漏洩であるとすると非常に問題です。従って、No.1-14で全βが今後どういう挙動を示すのか、今後も注目し続けていく必要があると感じました。
他のデータでもいくつか気になるデータがありましたが、今日は時間の関係でここまでとしたいと思います。
来週になるかどうかわかりませんが、今後も護岸地下水の情報はフォローしていく予定なので、今回は「その後の動き(1)」としました。今後も是非定期的にご覧になっていただきたいと思います。
- 関連記事
-
- 福島第一原発の地下水:下部透水層でもトリチウムの汚染を確認! (2014/06/26)
- 福島第一原発の護岸エリア地下水 その後の動き(1) (2014/06/22)
- 福島第一原発の汚染水情報まとめ(4)&リンク集 (2014/06/15)


↑日本ブログ村ランキングに参加しました。よかったらクリックお願いします。