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地下水バイパスを運用開始して1ヶ月、その現状と情報公開について

 
5/24に「5/21に地下水バイパスの地下水を海に放出開始。その影響と情報公開について」を書きました。その後もほぼ毎週地下水バイパスで汲み上げた水の放出は続いています。

運用開始一月で昨日(6/27)は中長期ロードマップにおいて地下水バイパスの説明がありましたので、その関連の話をまとめたいと思います。

ちなみに、昨年以降、これまで書いた地下水バイパス関連の記事はこちらです。重複する部分もありますが、流れを理解していただけると思います。特に2013年1月の記事は「地下水バイパスとは何?」という疑問に答えるものになっています。

2013年1月 「放射能汚染水情報アップデート(4) 地下水バイパスの現状
2013年6月 「地下水バイパスで汲み上げた地下水はいったいどれだけ汚染されているの?
2/3 「地下水バイパス放出に向けた動き?排水基準の発表:漁連はどう対応するか?
4/8 「地下水バイパスで汲み上げた地下水は5月にも海へ放出へ
4/13 「地下水バイパスの実施にあたっての運用目標とその問題点
4/17 「地下水バイパス:いきなりNo.12は運用目標値超え これを受けて東電の方針は?
5/20 「地下水バイパスの地下水は明日(5月21日)初めて海に放出へ
5/24 「5/21に地下水バイパスの地下水を海に放出開始。その影響と情報公開について


1. 運用開始後のこれまでの実績

まず、昨日(6/27)の中長期ロードマップにおいて報告されたまとめを含めてこれまでの実績をまとめてみましょう。

5/21に一回目の放出が行われてから、ほぼ毎週1回のペースで放出が行われています。一時貯留タンクは9つあって3グループに分けて運用しているため、貯留→分析→排水のサイクルをくり返して、Gr3→Gr2→Gr1の順に放出していく予定になっています。
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(東電HP 地下水バイパスの取り組み より)

5/21の一回目の放出はタンク一つ分だけだったために561トンと少なかったのですが、その後は3つ分のタンクから放出するようになり、現在では約2000トンを毎回放出しています。これまでの7回で合計8,635トンを排出しました。

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東電資料よりまとめ 図をクリックで拡大)

もともと、地下水バイパスは建屋に入る水の量を少なくするために作られたものですから、その水は上流(山側)から流れてくる地下水であり、汚染されていないはずでした。しかしながら、地下水バイパスよりも山側にあるタンクエリアにおいて、2011年12月、2012年3月、そして2013年8月(H4エリア)などの多くの汚染水漏れがあったため、それらが地下水に混ざって地下水が汚染されることが心配されています。

実際のデータとしても、トリチウム(H-3)が特にNo.12の揚水井において高くなっています。逆にいうと、それ以外の揚水井では特に問題はありません。

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(6/25 地下水バイパス揚水井のくみ上げにおける一時貯留タンクに対する評価結果について(その2) より)

運用目標値として、H-3については告示濃度の60,000Bq/Lではなく、1,500Bq/Lという数値を東電が設定したのですが、運用開始前の4/15のサンプリングでいきなりNo.12の揚水井で1,600Bq/Lと運用目標値を超えてしまいました。それについては4/17の「地下水バイパス:いきなりNo.12は運用目標値超え これを受けて東電の方針は?」ですでに解説しました。東電はこれを受けて一時的にNo.12の汲み上げをストップしましたが、その後暫くNo.12の揚水井のH-3が1500Bq/Lを下回ったため、4/24からまた汲み上げを再開しました。

しかし、この状況を見て福島県は4/25に国と東京電力に緊急申し入れを行いました。その回答が5/20の福島県の第20回廃炉安全監視協議会で示され、福島県もこの回答を了承したため、5/21から運用開始となったわけです。

そして再び運用開始後すぐに5/26のサンプリングでNo.12のH-3が1,700Bq/Lと運用目標値を超えてしまいました。

運用開始時に示して福島県などに了承された東京電力の考えとしては、一つ一つの揚水井の値に対して運用目標値を設定しているのではなく、12本の揚水井から集めてきた一時貯留タンクの値を測定し、その結果に対して運用目標値以下であることを確認するので問題がない、という考え方です。ただし、すでに5/20の「地下水バイパスの地下水は明日(5月21日)初めて海に放出へ」で詳細を書いたのでそちらを読んでいただきたいのですが、福島県からの緊急申し入れに対する回答として、個別の揚水井が運用目標値を超えた場合の対応が明記されています。

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(5/20 地下水バイパスのために汲み上げた地下水が運用目標等以上となった場合の対応方針 より)

そして、6/25の会見や昨日の中長期ロードマップの会見においても言及がありましたが、「東電として現在はこの対応方針通りに対応しており、一時的にNo.12からの汲み上げをストップし、影響を評価した結果、全体としては特に問題がないと判断したため、6/12からNo.12からの汲み上げを再開している。もし今後No.12のH-3が一度1500Bq/Lを下回り、再度1500Bq/Lを超えたらまたその時に一度汲み上げを停止するが、現段階においてはH-3が2000Bq/L程度で安定していると考えられるので特にNo.12からの汲み上げを停止することはない」、というのが東電の考え方です。

確かに、この対応方針に則って東電は対応をしています。先ほども一部を示しましたが、No.12のH-3はずっと1500Bq/Lを超えたままで推移していますので、東京電力としては定期的に下のような資料を公表し、No.12のH-3が一時貯留タンクの水全体に与える影響を評価しています。

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(6/25 地下水バイパス揚水井のくみ上げにおける一時貯留タンクに対する評価結果について(その2) より)

ここでは、各揚水井のH-3濃度の推移から考えて今後どれだけ増える可能性があるか、という数値と、実際に汲み上げている量をかけ算すると、シミュレーションとして一時貯留タンク全体としてどれくらいの数値になるかを計算しています。No.12は汲み上げ量にして12本の揚水井の約1/7量(0.14)ですので、全体としては200~300Bq/Lになるという計算になります。実際に排出したH-3は、一回目の時が230Bq/Lと一番高く、それ以後は200Bq/L前後に落ち着いていますので、現状では1500Bq/Lになることは当面ないということがわかります。

ただし、実際にNo.12の揚水井のH-3が毎週発表されて、その値が徐々に上がってきているため、5/20に設けた対応方針では不十分だと多くの人が感じるでしょう。現状では、すでにNo.12のH-3が1,500Bq/Lを超えてしまったため、東電が傾向監視の結果、全体には影響がないといいきってしまったらそれに歯止めをかけることができないわけです。

現在の汲み上げ量の比率で行けば、No.1~No.11がこのままでNo.12が10,000Bq/Lになった場合に初めてギリギリ1500Bq/Lという計算になります。つまりこのままでは、東電が傾向監視の結果として全体に影響がないと言い切ってしまったら、No.12のH-3が10,000Bq/LになるまではNo.12の汲み上げは続く可能性があるということです。

明らかにNo.12一つの揚水井だけが高いとわかっているのですから、客観的な基準によってNo.12の汲み上げを止めることができるような基準の明示を福島県が再度要求して東電に新たな対応方針を出させた方がいいと思います。


2. 地下水バイパス周辺の地下水位

6/27の中長期ロードマップにおいては、各揚水井の水位変化と、揚水井の近くに3本設けられている観測孔の水位についても初めて発表されました。念のため、各揚水井と観測孔の場所を示しておきます。図中で黄色く囲ったものはサブドレンの番号です。

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(6/2 第3回廃炉安全監視協議会資料 地下水バイパス運用開始について 4ページより 一部加筆)

揚水井の水位と観測孔の水位を同じグラフに並べて記載したものが二つの図として発表されました。

No.1~No.8の揚水井の水位(左軸)と観測孔AとBの水位(右軸)
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(6/27 【資料3-2】滞留水処理 40ページより)

No.9~No.12の揚水井の水位(左軸)と観測孔Cの水位(右軸)
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(6/27 【資料3-2】滞留水処理 41ページより)

同時に発表された資料(下図)に記載があるのですが、「揚水井周辺の地下水位を急激に低下させないように、揚水井の水位を慎重に段階的に低下させている。段階毎の水位の低下量は約3mとしている。なお、揚水井No.12は比較的高いトリチウムが検出されたことから1mずつ低下させている。」ということです。

確かに、上のグラフは線がたくさん書いてあってわかりにくいのですが、揚水井の水位を毎回3m下げるような運用をしていることがわかります。運用を開始した頃は各揚水井の水位はバラバラでしたが、6/17にはNo.1~8はすでにO.P.9m前後、No.9~11はO.P.10mとなっており、No.12を除いては同じ水位に揃っています。これまではバラバラだった水位を揃える意味もあったのだと思いますが、今後は同じ水位になるように運用していくのではないかと思われます。

また、早い時点でO.P.9m程度になっているNo.1~No.4の水位をさらに下げる運用をしていないということは、もうあまり揚水井の水位を下げる余地は残っていないようです。というのも、原子炉建屋付近の地下水位は現状ではO.P.7~8mですので、あまり下げてしまって地下水の水位がさがりすぎてしまうと、建屋の汚染水より水位が低くなるリスクも出てくるからです。「揚水井周辺の地下水位を急激に低下させないように、揚水井の水位を慎重に段階的に低下させている」というのはおそらくそういう意味です。

つまり、やや山側に位置するNo.9~12は別として、今後はNo.1~8については今後はこれ以上急激に水位を下げるような形で大量に汲み上げることはできない可能性があります。ということは、揚水井に流れ込んでくる地下水をそのまま汲み上げるだけという運用になるということです。そうなると、汲み上げ量は降水量と関係が深くなるように思います。

たとえば、No.11の6/13から6/15頃のグラフを見ていただければわかるように、その直近の大雨の影響でNo.11は水位が急激に上がっています。従って、大雨が降れば大量に汲み上げることも可能です、というか、大雨の時には大量に汲み上げた方が建屋に余計な地下水を流入させないという本来の趣旨に合っています。

ただ、今回提示されたグラフを見ると、梅雨が終わって雨があまり降らなくなったときに各揚水井でどれくらいの量を汲み上げると周辺の地下水位がどう下がるのかは、今後夏場にかけて定期的にチェックが必要と思いました。その意味で、今回提示してくれた各揚水井の水位情報は今後も定期的に公開して欲しいと思います。

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3. 地下水バイパスの効果

ここまでいろいろと書いてきたのですが、実は私が文章で書いてきたことをわかりやすく図で説明した資料が規制庁の面談記録の中にあったことを発見しました。この図を見ると、揚水井で一生懸命汲み上げても、10m盤にある観測孔ではあまり大きな変化がすぐにあるわけではなく、建屋付近のサブドレン水位が変化するほど水位を下げるのはかなり大変だということがわかります。

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(4/28 規制庁面談記録 地下水バイパスの今後の運転計画について 9ページより)

同じ資料の中には、下記のように運転開始初期にはNo.1~No.8はO.P.9mまで、No.9~No.12まではO.P.10mで運用するという記載がありますので、その通りに行っていることがわかります。

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(4/28 規制庁面談記録 地下水バイパスの今後の運転計画について 18ページより)

さらには、各観測孔の2012年10月からの水位データが降水量とともに示されており、どうしてこういう重要でわかりやすく記載した資料を規制庁の面談記録だけで開示して、記者会見などでは出さないのか!と怒りすら覚えるほどでした。

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(4/28 規制庁面談記録 地下水バイパスの今後の運転計画について 17ページより)

先ほどから示している4/28の規制庁面談資料と、5/8の規制庁面談資料をみると、地下水バイパスの各揚水井の下端はO.P.5~10mであり、揚水井の最下端に水位がさがるようにコントロールしたとしても、建屋付近のサブドレンの地下水水位は建屋の汚染水水位(約3m)を下回ることはなく、1号機原子炉建屋では現在のサブドレン水位が8.1mなのがせいぜい6.8mに下がる程度だということです。

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(5/8の規制庁面談資料 1ページより)

つまり、地下水バイパスだけではサブドレンの水位が大きく低下するということはあり得ないのです。ということは建屋に流入する地下水の量を大きく低下させることはできないというのも理解できますし、そう簡単に効果が出てくるとは思えません。実際、始める前の計画としても最大限に稼働させるまで2-3ヶ月はかけるようなグラフが書いてあります。

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(4/28 規制庁面談記録 地下水バイパスの今後の運転計画について 8ページより)

6/27の中長期ロードマップの会見においては、地下水バイパスの効果、つまり建屋内に流入する地下水を本当に減らすことができるのかどうか、ということについては、「もう少し時間を要する」ということで、現段階では効果を確認できていないということでした。しかしこれは無理もないことと思います。5/8の規制庁とのやり取りにおいても、平均値として約50トンを減らすことができるが、その効果が出るのは稼働3-4ヶ月後としていますので、8月以降でしょうか。

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(5/8の規制庁面談資料 4ページより)

東京電力には、今後はこの規制庁の面談記録で示したようなデータを一般への説明にも使用して、わかりやすい説明をしていくことを求めたいと思います。福島第一原発事故の処理としては比較的課題が少ないはずの地下水バイパスですので、情報を適切に開示していくことが関係者の理解を得るために重要であると思います。

今後もこのブログでは地下水バイパスについては定期的にフォローしていく予定ですので、ぜひ時々見に来て下さい。


 
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3.11では、停電・断水のため、一晩避難所で過ごし、震災後の情報収集をきっかけにブログを始めました。
これまで約4年間、原発事故関係のニュースを中心に独自の視点で発信してきました。その中でわかったことは情報の受け手も出し手も意識改革が必要だということです。従って、このブログの大きなテーマは情報の扱い方です。原発事故は一つのツールに過ぎません。

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